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第20章 ハンティングエンジェル オンステージ!
第489話:猛将キョウコウとの再会
しおりを挟む「老婆心ついでに――ひとつ訊いてもよろしいですか?」
廊下を歩きながらツバサは話を続けた。
人差し指を立てて問い掛けると、グッチマンは「おやおや」とちょっと演技が入った声を上げる。往年の名俳優さんを思い出したのかも知れない。
「窓際部署の名刑事みたいな質問だね。いいですよ」
私で答えられることなら、とグッチマンは鷹揚に応じてくれた
許しも出たのでツバサは遠慮なく尋ねてみる。
「どうしてキョウコウ……殿の部下になったのですか?」
一度は強敵として戦い、ずっと呼び捨てにしてきたので敬称を忘れやすい。慌てずに言い足すとグッチマンは小さく頷いた。
「ふむ、別に無理強いされたとかではないんだけどね」
ツバサの疑問をそのように読んだのか、前もって念を押してきた。
強要されたわけではないのは一目でわかる。キョウコウ様という呼び方に含まれる敬意は、気の良い上司への親しみが込められていた。
先を歩くグッチマンは今日までの経緯を語り出す。
「ツバサ君も知っての通り、多くのプレイヤーはあの日この真なる世界へ転移させられた。過大能力や技能のおかげで生きていくには困らなかったが、現実のことを考えれば取り留めない不安に悩まされたよ……」
実情を知らなかったからね、とグッチマンは無知を恥じるように言った。
その点はツバサたちの歩んできた道程と大差ない。
VRMMORPGは異世界転移するためのシステムであり、プレイヤーたちを短期間で神族や魔族までに強化するためのトレーニングシステムを兼ねる。
その目的は蕃神に立ち向かう戦力とするため。
別次元からの侵略者である――蕃神。
蕃神による絶え間ない略奪戦争を仕掛けられた真なる世界は疲弊の一途を辿り、主戦力である神族や魔族はおろか、多種族も滅亡の危機に瀕していた。
地球は真なる世界が新たに芽吹かせた世界のひとつ。
そこに誕生した霊長類である人類は、真なる世界の神族や魔族の因子を受け継いだ末裔であり、受肉という檻に閉じ込められた内には神族や魔族と変わらないアストラル体という霊的な本性を秘めていた。
人類のアストラル体を鍛え、蕃神に対抗するための兵力とする。
それがVRMMORPGの役目だった。
VRMMORPGの正体、真なる世界の内情、灰色の御子の目論見。
これらの事実は異世界転移に関わったゲームマスターたちから聞き出すか、当事者である灰色の御子の誰かから教えてもらうしかない。
ツバサたち内在異性具現化者にはGMが付き添っていた。
おかげで比較的早めに情報を得ることができたが、GMと接点がなく灰色の御子に知り合いがいないグッチマンたちは時間が掛かったようだ。
「まさかゲームで遊んでたら兵隊にされているとは夢にも思わないよ」
「どうも切羽詰まっていたようですからね」
ぼやくグッチマンにツバサも似たような笑顔を浮かべた。それでも灰色の御子が苦労したのは想像できるのでやんわり擁護する。
神族と魔族と多種族の間に生まれた混血児――灰色の御子。
彼らの多くは真なる世界の危機的状況を救うべく、人類を戦力として連れ帰るため地球へと渡った。およそ500年前のことだという。
VRMMORPGは世界的協定機関が製作したもの。
その世界的協定機関を設立したのは他でもない、灰色の御子たちだ。
ツバサは自分なりの擁護で深掘りしてみる。
「蕃神によって真なる世界が落ちれば、縁のある世界も悉く貪られるでしょう。つまり地球も例外じゃありません。遅かれ早かれ……」
「わかっている、別に責めたわけじゃないさ」
野暮な愚痴だよ、とグッチマンは口の端に自嘲を浮かべた。
「おまけに後々ダオンくんから聞かされたけど、地球にはドデカい小惑星が激突するんだって? だとすれば戦力として必要なプレイヤーのみならず、地球に残された多くの人たちも真なる世界へ転移させてくれたのは……」
「人類に対する温情ある手配――そう受け取るべきかも知れませんね」
ガチャリ、と重い鎧を鳴らしてドラムスが振り返る。
「プレイヤーの精神面を鑑みたのかも知れないな……地球に残された家族や縁者が見捨てられたと知れば、俺たちがどんな行動を起こすかわからない」
ドラムスの考え方も一理ある。
ツバサのように家族を大切にするプレイヤーにしてみれば、「人間は足手まといなので滅びる地球もろとも置き去りにしました。これからは真なる世界の一員として頑張ってください」とか言われたらブチ切れ必至である。
蕃神に奪われる前に真なる世界を滅ぼしかねない。
家族を大切に想うプレイヤーはツバサに限らないはずだ。転移後の灰色の御子たちの出方次第では内紛となった可能性も否めない。
それこそ――人類による反乱が起きるだろう。
蕃神の侵略戦争以前に、真なる世界の内ゲバで崩壊する恐れもある。
ドラムスの推察は的を射ているかも知れない。
「あと人口の補充とかじゃないの? ほら、神族魔族だけじゃなくて地元の人たちもいっぱいやられちゃったんでしょ? だから人間で賄う感じ?」
言い方悪いかな? とモドは発言を案じていた。
地元の人たち。現地種族とも原住民とも違う、親しみにあふれた言い方にツバサは思わず微笑んでしまった。
これもまた一理あるかも知れない話だ。
不老不死ゆえ繁殖率が低い神族や魔族は絶対数が少ない。
そのため真なる世界の人口を支えているのは、エルフやドワーフにオークを始めとした幻想や伝承で語られてきたファンタジーな種族である。
妖精や妖怪に亜人と呼ばれる人々だ。
ケットシー、ハルピュイア、セルキー、ラミア、コボルト、ノーム、スプリガン、妖怪各種……ハトホル太母国に暮らす種族だけでもこの数だ。
牛のナンディン族や猪のヴァラハ族、追加の種族も増え続けている。
五神同盟すべてに暮らす種族数は50を超えていた。
こうした数多く種族も侵略戦争により人口を減らしている。
「……それを人類で埋め合わせるか」
地球産の霊長類とはいえ、神族や魔族が真なる世界の因子を異世界で繁栄させられないかと試験的に作られて成功した実験体。
元を正せば真なる世界産なのだから、この世界にも適応できるはずだ。
パチリ、とグッチマンは指を鳴らした。
「……とまあ、キョウコウ様やダオンくんからの受け売りなんだけども、そういう深刻な話を聞く前から、私たちの方向性は決まっていてね」
過去を振り返る時間を終えた眼鏡忍者は打ち明ける。
――どうして猛将の部下になったのか?
「私たちはあくまでも芸能人――王の器じゃないってことさ」
柄でもないし性にも合わない、とのことだ。
異世界転移しても幸いなことに四人組のままだったので、右も左もわからないが生きていくための行動を開始。現実へ戻るための方法を探そうとした。
その過程で難民化した現地種族と遭遇する。
ここまでは五神同盟の人々が辿った流れとほぼ同じである。
早い段階で「これはゲームではなく異世界という現実だ」と弁えたグッチマンたちは、会話の通じる現地種族に対等な人間として接した。
見捨てるわけにも行かず、彼らの隠れ里を拠点に生活を始めた。
その頃を思い出すグッチマンは目元を曇らせる。
「LV999の神族となった私たちと、文明さえ忘れた地元の人々には大きな差があったせいか、彼らはナチュラルに敬ってきてね……」
ちょっと閉口したよ、と心苦しさを吐露した。
かつて神族や魔族を崇めたように現地種族はプレイヤーも崇める。
どうも旅経つ前に灰色の御子たちが「地球という場所から新たな神族や魔族となる者を連れて戻ってくる」と喧伝したのが手伝っているらしい。
おかげでプレイヤーを次世代の神族や魔族と見做す現地種族も少なくない。
これはツバサたちも経験してきたことだった。
最初は上位種族となったツバサたちと現地種族の間にある圧倒的な力の差を感じたため、いずれは距離を置こうと考えていた。
しかし、蕃神の侵略が終わらない今はその考えを改めている。
地球に帰れる当てはない。当ては最初から外されていた。
ツバサたちは真なる世界で生きていくしかない。
ならば現地種族とともに生きる道を選ぶ。彼らを守り育み鍛えながら、いつの日か蕃神を追い払い、平和な真なる世界を共に取り戻すと志した。
結果、五人の内在異性具現化者は王となった。
体格、生態、寿命、思想、容姿――。
すべてが異なるいくつもの現地種族をまとめるため絶大な神威を露わにし、神王として君臨することで多種族連合国家の意思統一を図ったのだ。
そこはエンテイ帝国も似たり寄ったりだろう。
圧倒的な暴力で現地種族に奴隷制を強いた穂村組や、その義理と人情の厚さから現地種族を保護していた日之出工務店は対照的とも言える。
グッチマンたちも同じ道を歩んでいたようだが……。
「確かに私たちには彼らを守る力は持っていたし、衣食住を自分たちで揃えられるだけの技術を教えることもできた」
けどねぇ、とグッチマンは腕を組んで困り顔になる。
「王様になるとか国王になるってのは……どうにもピンと来なくてね」
グッチマンたちは真なる世界での活動を始めた。
この世界で生きるため、現実世界に帰るため、物資と情報を求めて遠出する度に流浪する現地種族の集団と出会い、見捨てられず連れ帰る日々。
いつしか拠点は村のような難民キャンプになっていた。
ヨーフォークも遠い目で回想する。
「地元の人々は私たちに取り敢えずリーダー的なものになってほしいとお願いしてくるんだけど、グッチさんの言う通り性に合わなくてねぇ……」
こうした考え方は日之出工務店の社長と相通じる。
日之出工務店 社長 “大棟梁” ヒデヨシ・ライジングサン。
持ち前の温情あふれた正義感から各地の現地種族を助けていた彼だが、「おれは大工の棟梁がいいとこで王様になる器じゃない」と自重していた。
グッチマンたちの現実での仕事はゲーム実況者。
人を楽しませる芸能人が天職という自覚があるためか、やはり王に収まる器ではないと自己分析して判断したらしい。
それでも――現地種族を導くための指導者は必要だ。
自分たちが王となるべきではないと自粛しながらも、グッチマンたちは王となるべき人物の到来をなんとはなしに待ち侘びたという。
そんな折――エンテイ帝国が接触してきた。
時期的には還らずの都を巡る戦争から一ヶ月後くらいだという。
当時まだ三神同盟だったツバサたちと激闘を繰り広げたキョウコウだが、還らずの都が思い通りにならないと知って計画変更を余儀なくされていた。
――還らずの都から英霊の大軍を召喚する。
これにより蕃神を追い払おうという計画は頓挫してしまったのだ。
しかし、超巨大蕃神“祭司長”の登場により事態は一変。
キョウコウを「力がすべて」という偏重思想に駆り立てた原因でもある超巨大蕃神を、ツバサとミロが二人掛かりとはいえ撃退した。これにより彼は理性を見失うほど鬱屈させてきた積年の想いを晴らすことができたらしい。
改心したキョウコウは人生設計まで改めた。
信頼の置ける部下たちとともに、難民をまとめて新興国を立ち上げ、いずれ訪れるであろう蕃神の襲来に備える強固な国造りを始めていた。
「……エンテイ帝国が建国して間もない頃に私たちは出会ったんだ」
――帝国で庇護するべく難民の捜索。
そのために遠出の偵察をしていたダオンとイケヤに発見され、簡単な挨拶を済ませてから数日後にキョウコウ本人が訪れたという。
キョウコウは丁重な態度でグッチマンたちを勧誘してきた。
『この世界の民のために労を厭わぬ者ならば、共に歩むことも叶おう……部下になれなどと無理強いはせぬ。ただ、仲間になってくれれば有り難い……』
そのうえでダオンから還らずの都での顛末も聞かされた。
真なる世界のためとはいえ悪行の数々を働き、許嫁のククリをも嘆かせ、目標を成し遂げることもできず、ツバサ率いる三神同盟に打ち破れたこと。
ありのままにすべてを打ち明けたという。
『……愚かな敗残の王でも良ければ、共に手を取ってくれぬか?』
グッチマンたちの目には懇願として映ったそうだ。
キョウコウは代替案も出してきた。
『蕃神の脅威に触れて我を見失った儂に与するのが嫌なら爆乳小僧……ツバサたちの元に走っても構わぬ……彼らに手を貸してやってくれ』
それが真なる世界のためになるならば――。
キョウコウはグッチマンたちに切々と訴えたという。
ダオンも「念のために」とツバサたちに関する情報を持てる限り開示し、建国したばかりのエンテイ帝国と比較する前提で交渉してきたそうだ。
この時、グッチマンたちはツバサとミロの生存を確信したらしい。
『……どちらの陣営に行こうとも構わない』
グッチマンと愉快な仲間たちの四人がどこかの陣営に属せば、それだけで戦力が強化される。延いては真なる世界のための力となる。
この世界を守りたい――それがキョウコウの根幹にある信念。
真なる世界のためになるならば是非は問わない。
超巨大蕃神に対抗するために還らずの都を求めていた頃と大して変わらないように思えるが、交渉相手の気持ちを配慮するところは大違いだ。
ここからでも心を改めた様子が窺える。
「あんな熱心に説得されると……無下にできないよねぇ」
グッチマンが絆された表情で瞼を閉じて懐かしむと、まったく瓜二つの表情を浮かべた仲間の三人も同意していた。
真摯かつ実直な告白が効果的に働いたらしい。
グッチマンと愉快な仲間たちはエンテイ帝国への加入を決意した。
勿論、難民キャンプの現地種族も同意の上でだ。
「キョウコウ様は『仲間に加わってくれるだけで十分だ……無理に臣下の礼を取る必要はない』と言ってくれたんだけど……」
「幹部待遇ともなれば、主従関係を結んだ方が体裁はいいからな」
戦士らしい見た目のドラムスがいうと説得力がある。
「ま、ゲーム実況者からすれば事務所と契約を交わすみたいな感じ? だからついついキョウコウ様のこと社長って呼んじゃうんだよね」
大道芸人みたいなモドの言葉もわかる気がする。
「それで帝国にお仕えするなら騎士で統一しようかとなったわけです」
最後に騎士の外見をしたヨーフォークがまとめてくれた。
「なるほど、それで四騎士と……」
パワードスーツめいたお揃いの鎧を身に付けていたことに納得する。動画のグッチマンたちは、もう少しラフな装備だったはずだ。
そのため最初はなかなかピンと来なかった。
ツバサたちへのサプライズとして、多少は変装したのもあるのだろう。
斯くして――グッチマンたちは帝国の四騎士になった次第である。
「ねえねえ、どうして五神同盟に来てくれなかったの?」
ツバサたちの話を聞いていたミロは、眉を8の字にして残念さを露骨に表しながらながらグッチマンに取り縋る。所作がもう子供のそれだ。
グッチマンの腕をグイグイ引っ張ってワガママみたいに言う。
「ダオンくんからウチのことも聞いてたんでしょ? だったらアタシたちが頑張ってるのもわかったんだから同盟入りしてくれても良かったのに……」
もしかするとグッチマンたちが仲間になったかも知れない。
そんな可能性があったことを聞いてしまったミロは、チャンスに恵まれなかったことを知って悔しくて堪らないのだろう。気持ちはわからなくもない。
ごめんね、とグッチマンは申し訳なさそうに謝った。
「そこはね――全部聞いたからだよ」
グッチマンはエンテイ帝国を選んだ理由を明かす。
「ツバサ君たちの五神同盟……あの頃は四神同盟になったばかりだっけ? は着実に発展していると聞いたからね。そこに『入ーれーてー♪』と仲間に入れてもらうのは絶対に楽しいと思ったけれど……ちょっと物足りなさを感じてね」
「……物足りなさ?」
小首を傾げるミロに、グッチマンは照れながら顔を綻ばせる。
「一からやり直そうとしているキョウコウさんとエンテイ帝国の方が、やり甲斐があると思ったんだ。ゲームを最初からプレイするみたいにさ」
建国シミュレーションに例えているのだろうか?
確かに五カ国を発展させている五神同盟と比べたら、グッチマンたちが出会った頃のエンテイ帝国は国家の態すら保っていなかったはずだ。
王や家臣は敗戦から逃げてきたばかり。
国民も当て所なく彷徨う流民を掻き集めた、国どころか村とも呼べないボロボロの寄り合い所帯。グッチマンたちの難民キャンプの方がよほど集落として機能していたのではないかと思われる。
――敗北のマイナスから始まる国家建設。
ゲームのタイトルを名付けるとしたらこんな感じかも知れない。
「負け戦こそ漢の花よ、って言った伝説の傾奇者もいたからね。勝ち馬に乗る楽よりも、難易度高めのハードモードに挑んでみたくなったわけさ」
「ゲーム実況者の性、うんにゃゲーマーの性かな」
グッチマンの意見へ相乗りするように、彼の肩へ馴れ馴れしく肘を乗せたモドが得意気に続けた。賛成したのが一目で読み取れる。
「おれたちは王の器ではないし……誰かの下へ付くのは、それほど苦にならないからな。むしろ事務所みたいに管理してくれると助かる」
「そうそう、ブラック企業勤めはゴメンだけれど、あんな紳士的にスカウトしてくれるキョウコウ様なら上司として申し分ないと思いましたからね」
ドラムスやヨーフォークも同意見のようだ。
人柄に問題がなければが上役にこだわらないという。
「後は……まあ、そうだね。現実に置いてきた家族のこととかさ」
グッチマンはしんみりした声で言った。
彼を始めとしてビッグフォースペシャルの面々は、結婚していると動画内の話題で明かしていた。グッチマンはお子さんもいるはずだ。
取り留めない不安に後押しされて、現実へ帰る方法を探す日々。
その衝動を起こすのは家族への想いに他ならなかった。
眼鏡の奥、再会を望む眼差しが前を見据える。
「家族が真なる世界へ飛ばされた時、確実に助けるためにも帝国や五神同盟のような場所があるに越したことはない……その安全地帯を広げるための手助けができるなら、私たちは協力を惜しまないよ」
グッチマンは笑顔で二の腕に力こぶを盛り上げた。
「そのための能力も持て余し気味だしね。使わなきゃ損でしょう?」
「……ええ、そうですね」
ツバサも涙で潤みそうな満面の笑みで賛同した。
家族に誰よりも思い入れのあるツバサは、これまで以上にグッチマンへ共感を寄せることができた。そして、共に歩んでいけることを嬉しく思う。
ミロではないがグッチマンたちの五神同盟入りがなかったが寂しくもあり、彼らがエンテイ帝国へ籍を置いたことに心強さを覚えていた。
彼らなら道を誤ることはあるまい。
もしもキョウコウがまた力を頼みに暴走するようなことがあっても、騎士として仕えるグッチマンが制御装置になることが期待できた。
いやまあ……キョウコウと一緒に暴走する可能性もあるのか。
たった今、やらかしたばかりである。
先ほどのバトルも親善試合と言い張れば聞こえはいいが、キョウコウの許しを得たとはいえ、友好条約の調印式の前に「バトルで遊ぼうぜー♪」と国交を結ぶべき連合国家へ無礼千万な暴挙をしでかしたのだから大問題だ。
その悪ノリにツバサも相乗りした。
これでお互いに無礼という形で相殺できたものの、折衝役を務めた執事ダオンは面目丸潰れだし、饗応役の宰相エメスも顔に泥を塗られたも同然だ。
ここらへんは芸能人ゆえの悪癖と諦めるしかないだろう。
ノリとウケを重視し――外聞や面子にこだわらない。
それが良いことに働く場合もあるだろうが、ともすれば大惨事を巻き起こす原因となりかねない。世の中、冗談が通じない者もたくさんいるのだ。
彼らと付き合う際には注意しておこう。
「いつの日か真なる世界に平和が訪れたとしたら――」
グッチマンは遠い目で展望を語る。
「晴れてゲーム実況者として返り咲こうかな、とか思ってるわけさ」
「そういう経緯があったんですね……得心できました」
ありがとうございます、とツバサが礼を述べれば「いやいや!」とグッチマンは照れ臭そうに手を振り、仲間たちも同じリアクションをしていた。
顔芸を決めた戯けた表情で小刻みに立てた掌を震わせる。
息ピッタリなので吹き出しかけてしまった。
「アハハハハハハハハハハハッ! スゲーッ、完全一致じゃん!」
「芸能人って肩書きも伊達じゃないのぉ!」
ミロやダインには大ウケで爆笑してるのだから本物だ。
談笑しながら長い廊下をどれくらい歩いただろうか、廊下の脇に休憩スペースみたいなロビーが設けられていた。そこに身内の気配を感じられる。
すると、執事長が足早に駆け寄ってきた。
肥満体とは思えない素早さ、滑るように優雅な競歩じみた歩法である。
「ツバサ様、ミロ様、ダイン様、お疲れ様でございました」
謝罪の念を含んだお辞儀でダオンに労をねぎらわれた。
ツバサとしては久し振りに新しい挑戦者と戦えて、しかも極上の強者だったので大満足なのだが、ダオンは「礼儀に欠ける!」と不満げな様子だ。
ツバサは両手で制して宥めてやる。
「いや、久々に楽しめたよ。感謝を言わせてもらいたいくらいさ」
「そのように仰っていただけると助かります……」
ダオンは胸を撫で下ろすように返すが、客人に不逞を働いたという罪悪感は拭えないようだ。それが身内の仕業ならば尚更というものだろう。
その苛立ちは当然、張本人たちに向けられる。
「わたしが不在の隙に……随分と横暴な真似をしてくれましたね」
ツバサたちへ詫びを兼ねた一礼を済ませたダオンは背を曲げたままで、廊下の脇に逸れた四騎士をギロリと睨め上げた。
グッチマンを筆頭に四騎士はたじろいでいた。
ドラムスとモドとヨーフォークはグッチマンの背中に押し合いへし合いで隠れ、リーダーに全責任を擦り付けようとしていた。
グッチマンはしどろもどろながら代表らしく弁解する。
「いや、あのですね、当初予定していた調印式後の細やかな宴の前の余興ですとインパクトに欠けると思い立ちまして、急遽アドリブで変更を……」
「この場で糾弾するつもりはありません」
間もなくエンテイ帝国と五神同盟の調印式である。
大事な催し事の前に失態を犯した幹部の説教をするほど暇ではない、とダオンの顔にはしっかり書いてあった。
代わりに制裁めいた一言を四騎士へと申し渡す。
「ただし――後ほど反省文と報告書を百枚ほど提出していただきます」
んな殺生な!? とモドが反論する。
「キョウコウ様のOKもらったんだから大目に見てよダオンくん!」
「いいえ、甘やかしません。やらかしたキョウコウ様にも反省文と報告書を千枚ほど認めていただきます。提出期限はそれぞれ三日とします」
「「「「王様だろうと容赦なし!?」」」」
国王が反省文を書かされるなど前代未聞の珍事だろう。
グッチマンたちは声を揃えて驚いているが、ツバサたちも「嘘でしょ?」と目を丸くするほど唖然とした。この執事長、なかなか手厳しい。
「ほへぇ~……ダオンくん、厳しいんだね」
おっかなびっくり感心するミロにダオンは答えてくれる。
眦を決して固い覚悟を決めた声でだ。
「これまで良いわ良いわをしてきたツケが還らずの都の為体でしたからね。これからは主君であろうとビシバシ厳しくしていく所存にございます」
「良いわ良いわで……どうゆうことぜよ?」
ダオンの口振りに引っ掛かるものを覚えたのか、長男ダインが機械の腕を組んで不思議そうに首を曲げた。これも執事長は詳らかにしてくれた。
ため息を零してから懺悔するように話し始める。
「還らずの都を手に入れるまではキョウコウ様の『大丈夫、すべて儂に任せておけ』というお言葉を信じて付き添いましたが……蓋を開けてみれば下調べもろくにせず準備不足な点が多々見受けられましたし、やることなすこと強引な力任せ。おまけにいずれ真なる世界の住人として人口密度を上げてもらうための転移者や現地の人々を、更なる力を得るためと称して取り込む日々……」
「愚痴りたいこと山ほどあったんだね」
よしよし、とミロはダオンの背中を撫でていた。
アホの子の優しさに慰められた執事長は思わず涙ぐんでいる。
「唯々諾々と命令に従ってたわけじゃなかったんだな」
ダオンの意外な胸中を窺い知れた。
律儀かつ几帳面なダオンからすれば、キョウコウの力業でゴーイングマイウェイな行動は看過できないものばかりだったのが見て取れる。
同時にある違和感のピースを埋めることもできた。
「だから表立って行動せずにいたのか?」
還らずの都争奪戦時――ダオンが前線に立つことはなかった。
実力的には11人いる猛将の幹部集団、キョウコウ六歌仙とキョウコウ五人衆の中でも上位三名に入るはずだが、まったく戦闘に参加していない。
後方支援などの雑務に専念していたのだ。
もしもダオンが前線で暴れていたら、あの戦争はもっと膠着しただろう。ツバサにそんな予感させるほどの力をダオンは秘めている。
韜晦する実力者とは時限爆弾みたいなものだ。
(※韜晦=自分の才能や能力を隠すこと)
最悪の機会を狙うように、絶妙のタイミングで炸裂させてくる。
だからツバサはダオンも警戒していたのだが、戦争が終わるまで目立った活躍をすることはなく、戦争後も報復などの行為に出ることもなかった。
そこに疑念を抱いていたが、今の愚痴でなんとなく理解した。
「身重のネルネ様の警護を任されたのもありますが……出しゃばらないよう裏方に徹しようと心掛けていたところはございます」
サラッとネタバレされたが、この場は敢えてスルーしておこう。
「口では言えない不服申し立てってところかな」
あの頃のダオンはキョウコウを信用するあまり口答えできない様子だったので、「それは違うのでは?」と面と向かって言えない忠言を、率先して働かないという態度で示していたようだった。
もっとも、脳筋猛将はその皮肉を解してくれなかったわけだが。
「ええ、学びましたとも、理解しましたとも……」
ダオンは眉尻を下げたなんとも言い難い笑みを浮かべると、指先で額を押さえながらフルフルと左右に頭を振った。
「キョウコウ様にはちゃんと言わないとダメ。いけないことはいけません、やり過ぎならばやり過ぎです……とハッキリご注進しないといけないと学習いたしました。これからは主君であろうと厳格に対処させていただきます」
キョウコウへの忠誠心は変わらない。
身命を賭するまでの忠誠を誓うからこそ、主君には正道を歩んでもらいたいはずだ。そのためならば説教めいた意見も辞さない。
ダオンは執事として心構えを改めていた。
「勿論――同僚や部下の管理もしっかりさせていただきます」
再びギロリと眼光が瞬いた。
この場での叱責は免れたと安心していたグッチマンと愉快な仲間たちは、執事長からの継続ダメージがありそうな視線に身を引き締めていた。
ダオンは廊下の先を指差す。
「あなたたちはすぐに謁見の間へ向かいなさい。キョウコウ様並びにエメス様たちも皆様のお迎えの準備を終えてお待ちかねです……わかりますね?」
「「「「は、はいはいただいまぁ~ッ!」」」」
グッチマンたちはドタバタと足音を立てて現場に急行する。
「廊下は走らない! 学校も宮殿も同じですよ!」
ダオンが叱りつけると、ドタバタという走り方は変わらないものの消音の技能で足音を消していた。これは躾的に許されるのだろうか?
まったく……と鼻息を吹いたダオンはツバサへ向き直る。
「ウチの悪戯好きな者たちのお遊びに付き合わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。この埋め合わせは何なりとしますので、どうかご容赦を……」
「ん? 今なんでもって……痛った!?」
くだらない揚げ足を取ろうとしたミロの脳天に拳骨を落とす。
チラリと廊下の横に設けられたスペースを横目にすれば、ソファで寛ぐ軍師レオナルドが無言で小さくガッツポーズをしていた。
あいつにしてみれば「言質が取れた」と言いたいのだろう。
気にするな、とツバサは大らかな態度を示す。
「さっきから言ってる通り、久し振りの腕の立つ相手と渡り合えたし、グッチマンさんたちのサプライズも楽しかったよ。それで十分さ」
「お心遣い感謝いたします、ツバサ様……では」
暫しこちらでお寛ぎを――ダオンから休憩スペースを勧められた。
長い廊下の脇に設けられたちょっとした空間。
高級そうなホテルやタワマンの一階に設けられた、テーブルやソファが並べられたロビーのような空間を思い出させる。一息つくにはちょうどいい。
軍師を始め、飛行母艦の居残り組がそこにいた。
一足先にダオンに案内されて、こちらのロビーで寛ぎながら待っていたらしい。大人勢は紅茶を嗜み、子供組はお菓子にジュースを振る舞われていた。
親善試合とはいえ――本腰を入れて拳を交わした。
少なからず戦塵を浴びたツバサたち三人は身繕いを整える。
それからダオンの煎れてくれた紅茶を一杯だけいただいて一休みすると、早々に休憩スペースを後にして謁見の間へと向かう。
いいかげんキョウコウたちもお待ちかねのはずだ。
廊下の突き当たりには、見上げるほど大きい観音開きの扉。
ダオンが扉を左右に大きく開くと、「どうぞ」と小さく呟いてツバサたちに入室を促してきた。ツバサたちは序列を決めて並ぶと扉を潜り抜ける。
最初にツバサ、ミロ、クロウ、ヒデヨシ。
それぞれ五神同盟に属する八陣営の代表ということで最前列に立つ。
(※ミロはツバサと同格として扱われる)
次いでレオナルド、マルミ、マヤム、ライヤ、レイジ。
こちらは各陣営の代表代理なので一列後ろに下げられていた。この並びを発案したのはマルミとレオナルド、自ら一歩退いた形を取ったわけだ。
我々は副官に過ぎません――そう意思表示したとも言える。
更に次いでダイン、フミカ、マリナ、ジャジャ。
この四人は飛行母艦の航行のため駆り出されたメンバーでありツバサの家族。あくまでも付き添いなので調印式に立ち会う必要はないのだが、先ほどの寛ぎスペースに待たせておくのもなんだから同行させてもらった。
ダインとフミカはツバサとミロにもしもがあった場合、ハトホル太母国を継承する後釜なので問題はないはずだ。
五神同盟の使節団は謁見の間へと踏み入る。
そこはまさに――王に拝謁するための場だった。
エンテイ帝国を名乗るので、皇帝陛下と言い直すべきかも知れない。
顔面が水平になるまで見上げないと全貌がわからない。それほど高い天井を持った楕円形のドームめいた大広間だ。
採光のための窓は古式ゆかしい大教会の如くステンドグラスに彩られ、宗教画のような装飾が施されていた。エンテイ帝国の幹部には芸術家としての職能を持った者がいるので彼らの作品だろう。
広間の左右には荘厳なパイプオルガンまで設置されている。
LV999に届かずともエンテイ帝国に与したプレイヤーらしき奏者が二人、厳かな雰囲気を作り出す音楽を静かに奏でていた。
謁見の間を二つに割る赤い絨毯――いわゆるレッドカーペット。
神妙な面持ちでツバサ一行は歩を進める。
重厚なのに一歩踏み出す度に足が埋もれそうなほど柔軟なレッドカーペットは、大きな橋と勘違いするほど幅広い。
赤絨毯の左右には帝国の幹部が居並んでいた。
一番手前に四騎士――グッチマンと愉快な仲間たちだ。
向かって右手にはグッチマンとドラムス、左手にモドとヨーフォーク。四人とも騎士らしく帯剣をして兜を小脇に抱えていた。
ツバサたちが通り過ぎるのに合わせて礼をしてくれる。
ダオンの言っていた準備とは、これを差しているのだろう。新入りとはいえ幹部と相応に扱われる実力者たちに礼儀を通させたのだ。
続いて、左右に並ぶのはキョウコウが重用する幹部たち。
右手に整列するのはキョウコウ六歌仙。
エンテイ帝国 仮面師 ニャル・ウーイェン。
エンテイ帝国 神絵師 ミラ・セッシュウ。
エンテイ帝国 執事長 ダオン・ダオシー。
無貌の仮面で顔を隠して全身を仮面で飾る大男と、花魁風のファッションを決めた鉄火肌な美女。そして案内役を務めた肥満体の執事も列に加わる。
猛将キョウコウの部下でも最古参メンバーだ。
宰相エメスや愛妾ネルネも含め、全員が灰色の御子の血を引いていると判明している。能力のみならず記憶の一部を受け継いでいた。
特にエメスはその傾向が強いという。
彼の先祖は真なる世界にいた頃からキョウコウと竹馬の友であり、その記憶を引き継いでいるため、子孫ながら親友扱いの厚遇を受けているそうだ。
左手に並ぶのはキョウコウ五人衆。
エンテイ帝国 輝光子 イケヤ・セイヤソイヤ。
エンテイ帝国 拳闘士 ブライ・ナックル。
エンテイ帝国 従率姫 マリラ・ブラッディローズ。
彼らはキョウコウ六歌仙とは異なり、VRMMORPG時代にその活躍を見初められて猛将に勧誘されるか、彼のカリスマに惹かれたメンバーだ。
ホスト崩れのイケメン、喧嘩上等な無頼漢、サドのオーラ満開な女王様。
以前は雇われた破落戸傭兵といった風情があったメンバーも、国家運営に携わることとなり気構えを正したのか、見てくれも整えられていた。
幹部に見合うだけの風格を漂わせている。
イケヤとブライはダオンとともに破壊神戦争の援軍として駆けつけてくれて、しばらくはハトホル太母国に滞在していたので知らぬ仲ではない。
この六人もツバサたちが通り過ぎると頭を下げてくれた。
やがてレッドカーペットの終わりが見えてくる。
その先に待ち受けるのは玉座。
天井に届かんばかりの背もたれに、巨人が肘を乗せても揺るがなそうな肘掛け。常に巨大な全身甲冑を身に帯びる猛将に相応しい豪胆な玉座だ。
その傍らには美貌の僧侶が控えている。
エンテイ帝国 宰相 エメス・サイギョウ。
キョウコウの親友にして右腕とも言うべき存在であり、この宮殿を始めとしたエンテイ帝国の城塞を造り上げた工作者でもある。職能的には錬金術師であり、ゴーレムやホムンクルスの製作も得意とするらしい。
拙僧が作りし物には命が宿ります――エメスの決め台詞だ。
実際、過大能力や技能で本当に生命を宿すことができるらしい。巨大な城を天を衝くほどの巨人へと変形させ、ダインの操縦する全長1㎞の巨大ロボとガチンコバトルを繰り広げたのは語り草になっていた。
長男ダインに負けず劣らずの巨大ロボマニアとのことだ。
僧形なので墨染め衣を着込み、異様に鼻が高い人形めいた相貌。
黒い着物を着た宰相というと、蘊蓄たれの友人から“黒衣の宰相”のあだ名で恐れられた名軍師がいたなんて話を聞いた覚えがある。
(※太原雪斎あるいは太原崇孚。元は僧侶で今川義元の教育係。その成長とともに今川家家臣となり、やがて軍師となる。本来ならば家督を継ぐことなく出家させられるはずだった今川義元を今川家当主にまでのし上げたのは彼の手腕)
いずれエメスも黒衣の宰相と呼ばれるかも知れない。
彼が軍師として盛り立てるのは玉座に座る主人を置いて他にいない。
そのエンテイ帝国の玉座に腰掛けるのは――。
「…………え?」
ミロが唖然とした声を漏らすのが聞こえた。
五神同盟使節団から狼狽して息を呑む者が現れ、明らかに困惑の空気を醸し出す者まで出てくる。ツバサでさえ少なからず眼を剥いてしまった。
玉座に座る者を目の当たりにすれば致し方あるまい。
エンテイ帝国 愛妾 ネルネ・スプリングヘル。
猛将キョウコウの細君だ。エンテイ帝国が国家となってキョウコウが皇帝である以上、彼女の肩書きも皇妃や皇后と改めるべきかも知れない。
とても成人したとは思えない幼気な外見。
かつてキョウコウの許嫁だった巫女ククリと瓜二つの容貌をしているが、ネルネの方がやや大人びている。とはいっても、やはり二十歳を超えているとは思えないほど若々しい。小中学生くらいの美少女にしか見えなかった。
起伏の少ない肢体にまとうのはドレスのように派手なベビードール。
その上からまとうのは豪華絢爛で分厚い褞袍みたいな上掛け。
寝るのが仕事、と断言できるほど彼女はよく眠る。
ネルネの過大能力──【夢見るままに待ちいたる牢獄】。
眠れば眠るほど、夢を見れば夢を見るほど、彼女の過大能力である亜空間は拡張されていく。そこにエンテイ帝国の人材や物資を格納できるので、誰も彼女の眠りを妨げるようなことはしない。
そんな彼女にしてみれば褞袍は布団代わりだ。
いつも熟睡しているか、起きていても微睡んでいるネルネ。
だが今日は珍しく目覚めており、巨人用の玉座にあぐらを掻いてちょこんと座っていた。太股に肘を突いて手で顔を支えた、やや前屈みな姿勢をしていた。
大きな瞳は細く研ぎ澄ませ、口元には薄い笑みを湛える。
年不相応とも言える老獪な笑みだ。
表情や態度が女の子らしくないのも然る事ながら、その身にまとう覇気も尋常な強さではない。何より、彼女の放つ気配は猛将キョウコウのものだった。
――キョウコウがネルネに化けている?
真っ先に疑ったのはそれだ。キョウコウならば容易だろう。
キョウコウは万物を取り込む過大能力の持ち主。
取り込んだものを自由自在に加工して、我が身に還元できる。その能力を応用すれば実体を持った分身を作るなど造作もなく、外見さえも変幻自在である。
かつて還らずの都争奪戦でも使っていた。
自分とネルネの分身を作り出してツバサたちと戦わせ、その隙を突いて本人は還らずの都へ潜入しようとしたり、ククリの血液情報を解析して彼女の分身を作り出すことで、還らずの都を我が物にしようと企んだのだ。
分身――あるいは本体を過大能力でネルネに変化させてるのか?
この姿でツバサたちを出迎える意味がわからなかった。
女神化して地母神化して女体化したツバサを揶揄する些細な嫌がらせにしかならなそうだが、そんなくだらない真似を今更するとも思えない。
何より――彼女は間違いなくネルネ当人だ。
即座に分析系技能を走らせた者ならば一目瞭然である。
しかし、何故か彼女はキョウコウの猛々しい気配をまとっており、その野趣あふれる佇まいは猛将の雰囲気を発散させていた。
当惑を隠せず、時間経過とともに狼狽する五神同盟使節団。
するとネルネから老けた笑みが薄れていく。
「ふむ……四騎士のサプライズとやらに習ってみて、ウケというものを狙ってみたつもりだったが……やり過ぎたか?」
人気女性声優みたいな美声が男臭い口調でぼやいた。
ここまで来てようやく勘付くことができたツバサは一歩前に出る。
「なるほど――本体は母胎の中か」
核心に迫る一言を述べると、玉座のネルネは嬉しそうに顔を綻ばせた。その小さな手が膨らみすら目立たない薄いお腹を撫でている。
「察しがいいな爆乳小僧、子を想う地母神ゆえの勘が働いたか?」
「まあ、そんなところだな」
誰が爆乳小僧だ、と荒立てない声でツッコミを入れておく。
「ど、どういうことツバサさん?」
「申し訳ありませんツバサ君、私もよくわからないのですが……?」
ミロがお母さんの太股に抱きつきながら質問してくるのはいつものことだが、隣に並んでいたクロウも困惑のあまり囁き声で尋ねてくる。
頭蓋骨の眼窩に灯る炎が“?”を描くほどだ。
ツバサは目配せで「俺の口からバラしてもいいか?」と玉座のネルネ(?)に問い掛けると、承認するように小さな顎を前へと傾いだ。
頷き返したツバサは洞察力を働かせた推察を説明してみる。
「彼女、ネルネさんは妊娠している。勿論、キョウコウ……さんの子だ」
えええええーーーッ!? と驚愕が大広間に響いた。
ミロの声が一番大きかったが、ダインやマリナにジャジャの驚く声も混じっていた。GM勢もザワザワとどよめいている。キョウコウとの接点が薄い穂村組のレイジや水聖国家のライヤはちょっと反応が薄い。
分析のエキスパートなフミカはほぼ把握している模様。
空気を読んで黙っていた。出来た次女である。
歓声を上げて率直に「おめでとさん!」と拍手を送るのは、日之出工務店のヒデヨシくらいなもの。良くも悪くもストレートな漢なのだ。
リアクションが落ち着くのを見計らい、ツバサは説明を続ける。
「母胎の子はキョウコウ……さんの血を受け継いでいる」
それが影響したのかも知れない。
還らずの都争奪戦の後、キョウコウは次元の裂け目を塞ぐために力を使い果たしたはずだが、その意識の残滓が子供へ宿る血に引き寄せられたらしい。
あるいは、血の中に僅かながら意識が潜在していた可能性もある。
とにかく、キョウコウの意識は子供の血に寄り添っていた。
胎児ゆえまだ意識のない子供に取り憑いているも同然であり、胎盤を通じて母胎であるネルネの意識へ介入しているようだ。
彼女はいつも寝ているから割り込むのは簡単だろう。
一見するとキョウコウがネルネに憑依して乗っ取ったようだが、胎児はともかくネルネに抵抗した様子が見られないので同意の上のはずだ。
大らかな彼女のこと、「いいよー♪」と承諾したのが想像できる。
「しかも――母胎の子は女の子だ」
「まさかの異世界転生からの異世界転性!?」
TSキャラ増えたーッ!? とミロは諸手を挙げて奇声を叫ぶ。
喜んでいるのか驚いているのかパニックになってるのか聞き分けられない声からは、アホの子でもこの状況を飲み込めないことが窺えた。
そこは謎を解き明かすツバサも弁明させてもらう。
「いや、転生で転性なのかは俺もわからなくてな……どうなんだろう?」
再びアイコンタクトでキョウコウに尋ねてみる。
子供を通じてネルネの身体を借りたキョウコウは頬杖を突いたまま即答せず、ちょっと話をはぐらかせてきた。
「ふむ……意外だな」
「意外? なんか変なこと言ったかな?」
ツバサが眉を左右非対称に曲げて訝しむと、ネルネ(INキョウコウ)は老練さを漂わせたまま、無邪気な乙女のように相好を崩した。
「ツバサには指を差されて笑われる……と思っていたのだがな」
「……ああ、同じ境遇になったからか?」
少ない口数から相手の意を酌み取る。
もしもキョウコウが自分の子供、つまりネルネの娘として転生かつ転性をしたとすれば、意図せず女性に生まれ変わる展開だ。不本意ながら内在異性具現化者として女性に性転換してしまったツバサのお仲間となる。
これまで「爆乳小僧」と茶化してきたにも関わらずだ。
そこを指摘されて笑われると思っていたらしい。
よくレオナルドがヘマをすると「ザマァw」と指を差して爆笑することがあるので否定はできないが、ツバサは目を閉じながら俯き加減になった。
そして、小さく鼻で笑う。
「生憎、いつまでも餓鬼ではいられませんからね」
そういうのは卒業しました、とツバサは敬語でキョウコウに答えた。
この返答を聞いたキョウコウは同じように鼻で笑う。
「フッ……そう急いで大人になるな。餓鬼は餓鬼らしく、みっともなくはしゃいで騒いで遊び倒して巫山戯るといい……それを許されるのが若いだけの餓鬼の権利であり、そんな餓鬼を説教するのが大人の愉悦なのだからな……」
悟るには千年早い、とキョウコウから窘められた。
顔を上げたツバサは目を開くと自嘲するように肩をすくめ、お手上げのポーズでこれ見よがしの嘆息をついた。
「大人の振りをしてるだけです、まだまだ悪餓鬼ですよ」
己の未熟さはツバサ自身が痛感している。
餓鬼なのに大人になろうとするけど、大人らしく振る舞うのが精一杯。かといって餓鬼に戻れるほどの幼稚さもどこかに落としてきてしまった。
中途半端なのは精神年齢ばかりではない。
性認識の部分でもどっちつかずに右往左往しているのだ。
女神となったのに男心が捨てきれず、男に戻りたいと熱望しながらも女神の肉体と能力に依存するかのように、ズルズルと現状を維持している。
いや、女神の権能は進化の一途を辿っていた。
子供でも大人でもなく、男でも女でもなく、ただ女神として此処にある。
本当の自分もまだ此処にいるのか――時に不安へ駆られる。
「俺は……いつまで経っても半端者です」
寂しげに内心を一言にまとめて吐露すると、悪餓鬼を意識した作り笑いを浮かべながらわざとらしく軽口を叩いてみる。
「それに……大人になれない悪餓鬼だからこそ、国交を結ぶ大事の前に吹っ掛けられた親善試合になんて乗るんですよ。あれ、いい大人なら噴飯物です」
「フハハハハ……違いない」
ネルネの姿で痛快な笑い声を上げるキョウコウ。
天井を見上げるように顔を上げて、大口を開いての高笑いである。
「……耳が痛いです」
原因のグッチマンたちは苦笑し、両耳を塞ぐジェスチャーで反省していた。
笑う猛将は喉を鳴らしたままツバサと目線を合わせる。
「先の問いだが……儂も当初はネルネの胎内に宿る娘として、新たに転生かつ転性するものだと思うていた。だから、そこなミロ嬢の読みは正しい」
よっしゃ! とミロは正解と言われてガッツポーズをする。
「だが……ネルネに駄目出しをされてな」
「え? 眠り姫ちゃんからダメ出し? なんで?」
ミロが問い掛けると、キョウコウはネルネの声音を再現する。
『――赤ちゃんには赤ちゃんの意志があるんだよ!』
ネルネの小さな手でお腹を労るように撫でる。
「我が娘の心、精神、意識……延いては娘の未来まで儂が塗り潰すなど言語道断、もしも儂が娘の肉体を乗っ取るような真似をするなら離縁し、是が非でも胎内から追い出す……とネルネにこっぴどく叱られてしまってな」
「あーうん、言われてみりゃその通りだわ」
眠り姫ちゃんが正しい、とミロは訳知り顔でウンウン頷いた。
「正論ですね……娘を想う母の気持ちも尤もです」
クロウも腕組みをするとミロへ習うように頭蓋骨を頷かせていた。
「フッ、部下ともども耳の痛い話だな……」
ネルネの身体を借りたキョウコウは四騎士を真似たつもりか、両手を耳で塞ぐと苦笑いで口角を上げたまま反省の意を述べ始めた。
今度はクロウと視線(眼窩の辺り?)を合わせる。
「骨の若造……いや、クロウ殿よ。其方の申す通りだ。子を思う母の気持ちは凄まじい……そんなことにも気付けぬほど我が心は力に毒されていたようだ。いや……執事にもしこたま灸を据えられたばかりだったな……」
執事と聞いてツバサはピンと来る。
そういえば改心したキョウコウは五神同盟への合流と加盟を強く望み、六神同盟になることを切望していたはずだ。
それを差し止めたのが執事長ダオンである。
一枚岩として団結力が強すぎる五神同盟が暴走したり共倒れにならぬよう、第三者機関的な立ち位置から見守りましょうと進言したという。
……なんとなくだが見当は付いていた。
ダオンはブレーキを掛けたのだ。
恐らくキョウコウが「合流する!」と言い出した時、ハイテンション状態だったのだろう。ツバサとミロが超巨大蕃神“祭司長”を撃退したことに感激し、積年の想いを晴らしてくれた恩人と心酔していたとのこと。
勢いのまま同盟に加盟すれば、見事に一枚岩への仲間入りである。
これを危惧した執事長は主人を言いくるめたのだ。
掛け値なし「グッジョブ!」と賞賛すべき一手だろう。
結束力が強いことはいいことだと思う。
だがしかし、ひとつ間違えれば一蓮托生となる滅びの道だ。
死ぬも生きるもみんな一緒。赤信号をみんなで渡ってみれば、まとめてダンプカーで轢殺されるようなものである。
五神同盟は無自覚だった結束力の盲点を思い知ることができた。
エンテイ帝国は破壊神戦争での援軍を機に五神同盟と誼を結ぶことができ、敢えて同盟加入をしないことで特権的な立場を得ることができた。
一見地味だが、実に重要なWin=Winだ。
それを話術ひとつで成し遂げたのだから、大した執事である。
ツバサはこっそり振り向くと親指を立ててダオンにサムズアップを送れば、執事は目立たない程度の会釈で応えてくれた。
「嫁に叱られ、部下に説かれ……まったく至らぬ王よな、ふぅぅ……」
寝息みたいなネルネのため息が聞こえる。
嫁の肉体を借りたキョウコウは膝に手を突いて立ち上がる。
そして――猛将の気迫が渦を巻いた。
「それでも……此奴らは儂を信じて……付いてきてくれる」
物理的な存在感さえ伴う強烈な気配は、謁見の間に粘り着くような強風を巻き起こしたかと思えば、ツバサたちの前で本当に具現化していく。
ネルネの周囲に無数の金属片が現れる。
次から次へと湧いて出てくる金属片はパーツで、拍子を取るような金属音を立てながら徐々に組み上げられ、人型を形作ろうとしていた。
一部の隙間もなく装甲で覆われた全身甲冑。
様式こそ西洋風だが、デザインは和風を貫いていた。
兜には仰々しい獣を模した前立てが飾られ、雄々しい鍬形がそそり立ち、頬の左右に反り返る吹き返しも大きい。連獅子のような飾り毛まで靡いている。
兜の奥の眼差しが開眼して鋭い眼光を解き放つ。
「力に脅え力に溺れ力に酔い……道を違えて敗残した王だのに……再起すると信じて追随してくれる忠臣らに……正しく報いねばならぬ……」
全長2mを優に超える――巨躯の鎧武者。
「この国の……新たな王としてな……」
在りし日のキョウコウが寸分違わぬ威容とともに蘇った。
この体格ならば巨大な玉座にも似合うだろう。
ようやく謁見の間が在るべき姿を取り戻した感じだ。
ここでミロが邪推するように言う。
「えーっと、つまり……お堅そうなキョウコウのオッチャンのくせして、グッチマンさんたちのサプライズを真似するみたいに、眠り姫ちゃんの姿で待っててアタシら驚かそうとか企んじゃってたわけ?」
「まあ……そうなるな」
キョウコウは割とフランクに返してきた。ミロのセリフを聞いたツバサはジト眼な半眼になると、「遅すぎる!」と言いたげに見つめる。
「……おまえ、理解するのに時間掛かりすぎだろ」
さすがアホの子、情報を咀嚼するまでの手間が段違いである。
しかしミロはちゃらんぽらんだが否定的に手を振った。
「いやいや、念のためちゃんと確認取っとかないといけないじゃん? アタシってばアホだから変な勘違いして、そのまま鵜呑みにしたら大変じゃん?」
わかるようなわからないような理屈だった。
柄にもない悪戯をしてきたキョウコウへ当て付けかも知れない。わざわざ羅列して言い聞かせたようなものである。
今後は空気を読む腹芸も覚えさせる必要がありそうだ。
ところで――ネルネは寝落ちしていた。
玉座の中心で立ち上がったネルネだが、出現したキョウコウが玉座にゆったりと腰掛けている。その膝の上で眠り姫はグースカピーと眠りこけていた。キョウコウ本体が顕現したため、憑依による支配が解除されたらしい。
膝に乗る猫を撫でるように、キョウコウはネルネの寝相を直していた。
「先ほどの話だが……転生と転性はなしだ」
「えええええーッ!? って、そっか。眠り姫ちゃんに怒られたもんね」
裏切られたみたいな悲鳴を上げかけたミロだったが、少し前の会話を思い出してすぐに納得した。切り替えの判断は速い。
「いずれ……儂は娘に宿る自らの血から離れよう」
だが、まだその時ではないらしい。
「ネルネが無事に出産するまでは、妻子の安全を守るため……こうして憑依するかの如く二人に寄り添うと約束したのだ……」
娘が生まれた暁には離れるつもりだという。
過大能力を使えば立派な肉体を再生できるのだから問題あるまい。
「うん? ところで……肉体の構成も違うな?」
復活したキョウコウの五体にも分析系技能を走らせていたツバサは、彼を形作っている組成が以前とは異なっている点に気付いた。
かつてキョウコウは絶対的な力を求めた。
いつか真なる世界を脅かすであろう超巨大蕃神“祭司長”の脅威を目の当たりにしたため、それに対抗するための比類無き力を欲したのだ。
そのために――ありとあらゆるものを喰らった。
彼の過大能力は自身の内なる異空間に喰らったものを取り込み、我が身我が力我が魂へと変換するもの。喰らえば喰らうだけ強くなれる。
ゆえに森羅万象をその身に取り込もうとした。
――数多の生命もお構いなし。
真なる世界のモンスター、地球の野生生物、別次元の蕃神……。
これくらいなら罪悪感を引き摺らずに済むかも知れないが、守るべき真なる世界の住人や地球の人類まで貪っては本末転倒である。
力を渇望するあまり、キョウコウは我を見失っていたのだ。
還らずの都争奪戦に突入する前のこと。
更なる力を求めたキョウコウは難民化していた現地種族を集めては喰らい、地球から転移してきたプレイヤーまで餌食にした。
これらの件もあって、当時の三神同盟から反感を買ったわけである。
しかし、今のキョウコウから他者の気配を感じない。
神族、魔族、多くの種族、そして人間……。
以前は取り込まれた人々の気配がキョウコウの内側に何万人も蟠っていたはずだが、それが綺麗さっぱり消えている。彼の肉体を構成するのは強力なモンスターを始めとした人々に由来しないものだった。
「ああ……今の儂の中に人間に類する種族はおらぬ……」
指摘されたキョウコウは思い出したかのように答える。
「そのことで其方たちの不興を買ったからな……できるだけ吐き出した」
ちゃんと賦活させてな、と猛将は事もなげに言った。
どういうことだ!? と予想外の返答に度肝を抜かれたツバサが声を上げる前に、ダオンが精神念話でタネ明かしをしてくれた。
『過大能力で取り込んだ人々を生前の意識と能力のまま、体外へ排出することで復活させたのです。彼らには謝罪と賠償をした後、望むならばエンテイ帝国の国民として留まってもらっております』
キョウコウの為出かした所業について行けず、喰われたことに恐怖や反感を抱く者には、賠償に色を付けて好きに旅立たせたという。
これは――かなり徹底した改善策である。
本気で悔い改めたと率先して行動で示したようなものだ。
「さて……少々雑談が過ぎたな」
もう少し踏み込んだ話を訊こうとしたが、キョウコウはこちらの質問を遮るように玉座から立ち上がる。眠るネルネは小脇に抱えていた。
具足を鳴らしてこちらへと踏み出してくる。
一歩、また一歩と足場を確かめるように慎重な足取りだ。
やがてツバサたちと程良い距離まで歩み寄る。
そして、ネルネを抱いた腕とは反対側の片腕を広げるように翳した。
「よくぞ参られた――五神同盟の方々よ」
片手ながら客人を歓待する気持ちは伝わってきた。
居並ぶ五神同盟の者たちを一人一人丹念に見つめながら続ける。
「エンテイ帝国初代皇帝、キョウコウ・エンテイ……諸君を歓迎しよう。積もる話は山ほどあるが、まずは堅苦しい調印式を済ませてしまおうか」
――歓談を楽しむのはそれからだ。
猛将はその時を待ちかねるように嗄れた声を弾ませていた。
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