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第18章 終わる世界と始まる想世
第447話:滅びの龍蛇を仕留める条件
しおりを挟むマーナの過大能力──【視界を貪る邪視の女王】。
マーナが全身に隠している無数の魔眼。
それは龍宝石に似て非なる能力を秘めており、マーナが視界に収めた“気”にまつわるものを取り込む性質を持っていた。
視線に入るもの手当たり次第に“気”を吸い上げることもできる。様々な魔法攻撃を見ることで眼球に吸い取み無効化、そのままストックして任意で解き放つなんて真似もお茶の子さいさいだ。
撮影機器のように動画や静止画を克明に記録することもできる。
場の記憶を“気”で焼き付けるのだ。
魔眼は目に映るものすべてから“気”を簒奪する。
その吸収力はマーナの意志で加減できた。
本気になれば、衰弱死させるレベルで精気吸収も可能。
吸い集めた“気”は全身の魔眼へ分配して貯められるので、隙あらば貯金感覚で“気”を貯蓄することもできるのだ。
その貯蓄機能に高等技能を掛け合わせた新必殺技。
――超強化練球。
いやいや、必殺技じゃないし。そもそも攻撃技じゃないから。
正しくは味方の全能力を引き上げる強化魔法だ。
以前は何の捻りもなく“魔眼”と名付け、強化する対象に第三の眼として額に埋め込んでいたが、修行を重ねて純粋な強化魔法に洗練させた。
これもツバサ君の指導のおかげである。
彼が得意とする活力付与、この高等技能をアレンジさせてもらった。
付与するものを活力ではなく能力の増大に振り替えていた。
「力こそ能力ってね……誰が言い出したんだこの台詞」
呟いておきながら、あまりに脳筋なワードにマーナは訝しんだ。
(※初出は新ビッ○リマンというアニメ。劇中のパワータイプなキャラの口癖。よくよく考えると力=パワーは当たり前な迷台詞なのだが、響きの良さとインパクト、そして声優さんの快演もあっていつしか世に浸透していた)
このボールひとつでLV100アップの強化を一時間持続。ブーストを掛けたければ、持続時間は減るが短時間の超強化もできる。
使い方次第では勝算の確率をグンと跳ね上げられる代物だ。
ちなみにLV999へ超強化練球を使った場合。
LVはカンストしているので、全パラメーターが4~9%上昇する。
(※パラメーターの個人差によりランダムとなります)
今、マーナの眼前に浮かぶ光球は3つ。
2つは子分であるホネツギーとドロマンに与え、もう1つは言わずもがなマーナの使う分だ。マーナ自身にも強化を掛けておく必要がある。
これから披露する秘策のためにも欠かせない。
「ホネツギー! ドロマン! 何があってもぬかるんじゃないよ!」
マーナはガチの本気で子分コンビに発破を掛けた。
今日だけは敗北も失敗も逃走も許されない。
勝たねば自分たちの生きる世界さえ失いかねないのだ。いくら小悪党でも戦わなければいけない局面に立たされれば肝も据わる。
常識外れに強い守護神や破壊神にケンカを売るわけではない。
あの2人とタイマン張るよりマシ!
そう思い込んで頑張るしかない、と自分に言い聞かせる今日この頃だ。
それに――三流悪党でも野望のひとつやふたつは持っている。
「アタシたちは……この世界で成り上がって王となる!」
真なる世界全土を統べるのはひたすら面倒臭いので、蛙の王様くらいの領地を手に入れて、そこの王様となって悠々自適に暮らす。
これがマーナたちの新しい人生設計だ。
建国するからには、王様として国民を守る責任が生じる。
いずれ蕃神の“王”とも矛を交えるだろう。
あの怪物どもと渡り合える地力をつける必要もあった。
「……謂わば、これからアタシたちが王様になるための前哨戦! 国民になってくれる信奉者を募集するためにも無様さらすんじゃないよ!」
マーナの檄に子分たちも気を引き締める。
「「――ウイィィッサーッッッ!!」」
自己流の敬礼はいつにも増して気合い十分だった。
――この戦争は中継されている。
マーナと情報官の過大能力によるコラボレーションの成果だ。
いくつもの見るだけの魔眼をマーナが各地に派遣し、それで撮影した映像をアキちゃんに転送して生放送で配信してもらう。
各国の地下に設けられた国民のための避難シェルター。
シェルター内の各所に設置された大型モニター。
そこではバッドデッドエンズの悪漢たちと戦う、四神同盟の戦士たちの雄姿をハイクオリティなビジョンで皆さんにお届けしていた。
戦況をリアルタイムで報せつつ、万が一にもどこかの国が敵に落とされた場合はすぐさま脱出できるよう危機感を伝えるためのものだ。また国を治める神族たちの活躍を可視化することで、国民を安心させる役目もあった。
(※なお形勢不利で不安を煽る可能性はまったく考慮されていない模様)
ここまではキレイな建前である。
戦争の中継をツバサ君に進言したのはマーナたち三悪トリオ。
その本当の目的は、戦争で大活躍するところを各国の皆さんに見せて、いずれ国を建てる時は移民となってもらう魂胆なのだ。
そのため三悪トリオは出撃したくてウズウズしていた。
しかし、なかなか出番が回ってこない。
三人とも本来のLVがまだ修行途中の950台なので、いざという時の緊急事態にしか出張れない約束だから仕方なかった。
「だけどマーナ様のおかげでボクちゃんたちもLV999の仲間入り!」
「一時間こっきりとはいえ、自身の最高へ到達できるのはありがたいダス!」
ホネツギーとドロマンは艦の操縦をするまま身構えた。
「つーわけで……おまえたち受け取りな!」
マーナは両手に超強化練球を手に取ると、コメディアンが相方の顔面にパイを叩き付けるように「そぉい!!」と掛け声も勇ましく頭へ叩き付けた。
その後、自分はアメ玉を口へ放り込むように飲み込んだ。
練り上げられた“気”の光球が浸透する。
三人の全身から闘気が噴き上がり、一気にレベルアップしていく。
「はぁぁぁぁん! ビンビン来ちゃう! 僕ちゃんの生身と骨身のセンシティブな境界線にビリビリ耐えられないくらいの衝撃がクルゥゥゥン!」
ホネツギーが気色悪い声を上げて身悶える。
だらしなく顔を蕩かせて空を仰いでいるが、操縦桿から手を離すことなく戦艦のコントロールも失わないのだから大したものだ。
そんなホネツギーに変化が現れた。
右半分は生身のイケメンだが、左半分は骨だけのスケルトン。
そんな骨と肉の境界線でもある身体の正中線。そこが性感帯だと打ち明けていたが、そこから骨だけの方へジワジワと肉が戻ってきたのだ。
あっという間にホネツギーは生身を取り戻す。
LV999の彼は完全体、二枚目半なハンサムを取り戻していた。
「むぅ……今度の強化はズシンとした感触があるダスな」
ドロマンも計器類の調整する手を休めず、パワーアップを実感する。
作業を邪魔しない程度に痙攣する筋肉は増大していき、彼のアーミーファンションにミチミチギチギチと軋んだ悲鳴を上げさせている。
そんなドロマンにも変化が現れていた。
ドロマンは顔の右半分が泥のように溶け、眼球が剥き出しになっている。
他にも体の右側があちこち泥状になっているのだが、それが元通りになって精悍な面立ちを取り戻していた。また、泥で造られた軽装鎧も身にまとう。
よくよく見れば、ホネツギーの衣装も豪華にバージョンアップしていた。
これらがLV999に昇格した証なのだろう。
勿論、マーナにも変身パワーアップが起きる。
ロングヘアな金髪がボリュームアップし、魔族なのに神々しい輝きを帯びるようになった。両眼に宿る魔眼も金色に塗り変わっていく。
両腕に現れていた魔眼は一斉に瞼を閉じる。
代わりなのか、額には強大な力を宿した第三の目が開いた。
両手の甲にも魔眼を意識したデザインの“気”を帯びた紋様が刻まれる。
身にまとう悪の女幹部らしいコスチューム。
黒を基調としたハイレグのレオタードやロンググローブにブーツカバー、それらにも金色の縁取りとラインが走り、格調高い雰囲気になっていた。
振り返ったホネツギーとドロマンが感嘆の声を上げる。
「あらやだ、マーナ様だけクオリティ違くない? 予算に差があるわよぉん」
「うむ、なんとなくリーダー特権って特別感があるダスな」
お黙り! とマーナは子分たちの意見を封じた。
「あたしがボスなんだから当たり前だろ! 費用対効果が違うの!」
「えー!? まあ、僕ちゃんたちも見栄えは良くなったのは確かだし……」
「あんまり贅沢いって強化分を減らされても堪らんダスな」
仕方ない、と凡骨な子分たちは不承不承に納得する。
しかし、それでも物申したそうな視線を、肩越しにマーナへと向けてくる。魔眼の持ち主は他者の目線を読み取るくらい朝飯前なのだ。
寂しげな目は――マーナの胸に注がれていた。
「「……おっぱいのサイズには予算を回してもらえなかったか」」
「こぉの……スカポンタンども!」
スリムでスレンダーな体型を弄ってくるデリカシーのない子分どもに、マーナは手加減無用の鉄拳を何度も落としてやった。
こいつらは事あるごとにマーナの胸を引き合いに出す。
四神同盟に参入してからは、最大級のビッグバストを抱えているツバサ君がいるので比較対象にされるのでちょっと辛い。
マーナも遠慮なく体罰でお仕置きするのでチャラである
「Bカップあれば十分だって常日頃から口酸っぱくなるまで言い聞かせてるだろ! あたしの胸のことなんざ後回しでいいからさっさと準備しな!」
「ウイッサー! ではでは……ポチッとな♡」
ホネツギーが操縦桿の脇にあるボタンを押す。
するとマーナの足下の床が変形し、肘掛けにも似た台が競り上がってくる。手を伸ばすと、ちょうどいい位置に龍宝石が当たるように設計されていた。
この龍宝石は戦艦のメイン動力炉に繋がっている。
「今日この日のために、アタシが掻き集めてきた大量の“気”……それを費やすことで艦の出力を何百……いやさ、何千、何万倍と引き上げる!」
単に出力を上げるだけでは意味がない。
魔眼に貯め込んだ“気”を開放すれば、このシロナガスクジラ型戦艦では使い切れないエネルギー量となる。レッドゾーンを越えてエンジンが焼き切れるまでぶん回し、休みなく光学兵器を撃ちまくったとしても艦体が保つまい。
それほどの“気”を扱えるようになった。
この事実は誇らしいマーナだが、扱いきれなければ無用の長物である。
しかし三悪もバカじゃない。小賢しいことは得意なのだ。
細工は流々仕上げをご覧じろ――と口上を述べたい気分である。
「ホネツギー! ドロマン! やあっておしまい!」
「「――ウイッサー!」」
いつもの敬礼で返事をする二人、彼らも過大能力を発動させていく。
五体を取り戻したホネツギーが意気を上げる。
「まずは僕ちゃんから! 自分史上最大最強目指すわよぉ~ん!」
ホネツギーの過大能力──【我は骨なり骨こそすべての礎とならん】。
あらゆる骨を支配下に置き、操るも喚び出すも自由自在とする能力。
レベルアップしたことにより、ホネツギーの想像力を加味した未知の巨大生物の骨であろうと、既存の骨を組み合わせることで召喚可能となった。
規格外の骨格が何もないところから現れる。
それはマーナたち三悪トリオが乗り込む艦を取り巻いた。
骨格は付属パーツよろしく戦艦にドッキングしていき、艦体そのものを拡張させていく。しかし、あくまでも骨なので超巨大スケルトンのようだ。
外見は――いくつもの長い首を掲げる多頭龍。
翼竜を思わせる大きな翼を広げ、飛行能力もアピールしていた。
戦艦を核として作られた多頭龍は巨大獣をも上回る巨体を形作るのだが、所詮は骨組みだけのスカスカ状態。威圧感を放つには少々物足りない。
そこを埋め合わせるのがドロマンの仕事だった。
「仕上げはオラに任せるダス!」
ドロマンの過大能力──【狂乱の泥濘より生命は生ずる】。
変幻自在の魔力を帯びた泥で、様々な質感を完全再現する能力。
ホネツギーが組み上げた多頭龍の骨に泥を這わせる。
まず戦艦の操作系統と接続する配線類、動物に例えるなら神経を繋げていく。次に駆動系やエネルギーを通わせる配管、これらは筋肉や血液に相当する。
それらが完了すると外装、つまり皮膚の形成に取り掛かった。
これまでも生命体を模倣するように例えたが、機械的に構築されているので外皮というより装甲だ。固い鱗を重ね合わせて分厚い甲殻とする。
完成するのは――多頭龍をモデルにした巨大戦艦。
このサイズ感ならば、機動要塞と呼んでも差し支えないはずだ。
そこらで暴れている巨大獣の数倍はデカい。
マーナが「あんなバケモノに負けんじゃないよ!」とホネツギーとドロマンの尻を引っ叩いて、できるだけ大きく設計させたおかげだ。
――東洋の龍を模したメカドラゴンの首は8本。
モデルにした神話の怪物には翼がなかったはずだが、機動力重視で飛行船艦にしたので、揚力安定のためにメカニカルな飛行翼が付いていた。
変型を見守っていたクロウが声を漏らす。
「ほう、これは……もしかしなくても八岐大蛇ですか?」
正解――日本神話でも最大級の怪物だ。
奇稲田姫の姉妹を七人まで食い殺し、出雲の地を荒らした伝説の大蛇神。最終的には天津神にして国津神の祖となる素戔嗚尊に退治された。
その威光を再現させた機動兵器である。
『『『超弩級万能戦艦――フライング・ヤマタノオロチ号!!!』』』
動力源はマーナ、全体構造はホネツギー、駆動系や外装はドロマン。
これらを役割分担して個々に全力を尽くす。
3つの力を1つに統合し、LV999以上の力を発揮させるのだ。
「三人揃えば文殊の知恵って昔の人も言ったそうじゃないか! これが三悪トリオの最高潮! 本当に最後まで隠していたとっておきの切り札さね!」
以前――ツバサ君たちと一悶着あった時のこと。
(※第283話~288話参照)
マーナたちは無謀にもツバサ君たちに喧嘩を売ってしまった。
あの頃はお互いの力量に絶望的な差があることも読み切れないほど、未熟で愚か者だったと恥じ入るばかりだ。
当たり前だけど、鎧袖一触で相手にもならない。
ツバサ君のお子さんたちにボロ負けした為体である。
奥の手のひとつ、瞬間的にLV200アップする魔眼をホネツギーとドロマンに与えることで立ち向かったが、まるで歯が立たずに惨敗してしまう。
あの時、マーナは最後の切り札を使おうとした。
『こうなったら…………もうひとつの奥の手を使うよ!』
『どんだけあんのよ奥の手!?』
(※第288参照)
ミロちゃんにツッコまれた奥の手の正体こそが――これである。
三悪トリオで行う三位一体の合体技。
あの時よりも基礎LVを上げて全員LV950台と成り上がり、超強化練球で一時的とはLV999になった今、その威力は当時の比ではない。
当社比で数千%は強くなっているはずだ。
ツバサ君やバンダユウの叔父貴に「強くなれ!」とせっつかれたのもあるけれど、これらの地力をマーナたちは自前でちゃんと培ってきた。
決して――貰い物ではない。
積み重ねてきた自負が奮い立たせてくれる。
「……蕃神からテコ入れで舞い戻ってきた、悪役負け犬お嬢さま軍団なんぞちょちょいのちょいってもんだよ。そうだよね、おまえたち?」
ひよってる奴いねえよな? 的なノリで子分たちを煽ってみる。
返ってくる声に怯えは微塵もなかった。
「勿論よぉマーナ様! 僕ちゃんたちの真価を見せてあげないとねぇん!」
「ここで臆するようなら“三悪”を名乗る者として恥ダス!」
そうだ――伊達や酔狂でリスペクトしているのではない。
やられてもやられても何ともなかったように起ち上がり、何度でも幾度でも最強メカを造って、正義の味方へ挑んでいく三人組の悪役。
通称“三悪”に憧れたからこそ、マーナたちはトリオを組んだ。
物心ついた頃からの幼馴染み。趣味嗜好も似ていれば、見ていた動画配信サービスも同じ。三人一緒に古いアニメ熱狂したのも同時期である。
幼少期から三悪トリオを組んできた筋金入りだ。
この三人なら何とかなる! という根拠のない自信がマーナにはあった。
そうなる未来を望む希望的観測かも知れないが――。
「よぉし、そんじゃあ行こうか……一世一代の大勝負だッ!」
「「――ウイッサー!!」」
敬礼の返事を合図にしたかの如く、ヤマタノオロチ号は両翼を大きく広げて空を駆け上る。巨体に見合わない最高戦速を叩き出していた。
撃破するべき目標は白亜の艦船だ。
バッドデッドエンズ九番隊――ヤルダバオート。
完璧令嬢ネリエルの乗艦で、艦名は“グノーシス”というらしい。
彼女とその仲間たち同様、蕃神の手に落ちて生物兵器のような異形の戦艦に変貌を遂げたらしい。艦の形をしたおぞましい魔物としか思えない。
接近するマーナたちの戦艦を、ネリエルは舳先から見下ろしていた。
「あらあら、前菜の冥府神さんを頂こうと思いましたら……」
――食前酒が出てきましたわ。
ネリエルは羽扇子で嘲る口元を隠し、上品な言葉で詰ってくる。
「あっさり一口で呑めそうですけど……粗野で雑味の多そうな味ですわね」
売り言葉を投げられたら買うまでだ。マーナも怒鳴り返す。
「誰が粗雑な味わいだって! この金髪ドリル女!」
「そーよそーよ! マーナ様よりおっぱい大きいからって威張らないで!」
「デカいだけならオラたちの総大将のが遙かにデカいダス!」
総大将=他でもないツバサ君だ。
こんな時でもマーナ弄りのギャグは忘れない。
そんな子分どもに敬意を表して、ヒールブーツで踏んづけておいた。マーナの座る寝椅子は操縦席の一段上にあるからできる芸当だ。
ホネツギーもドロマンも踏まれると意外と喜ぶし……マゾなの?
迫り来るヤマタノオロチ号にネリエルも両眼を眇める。
見下ろすというより見下す目付きだ。悪役令嬢らしく天空の高みから、そこまで這い上がろうとするマーナたちを下に見ているのだろう。
そして、殺意を腹に括った眼でもあった。
「雑味の多い食前酒などと侮りましたが……その奇妙な強化術、なかなか我々の舌を楽しませてくれそうですわね。いいでしょう」
お相手して差し上げますわ! とネリエルは上から目線で決定した。
「グノーシス左十二点回頭取舵! 下方60度へ修正!」
ピシャリと羽扇子を畳んで指揮棒とする。
ネリエルの号令通り、白亜の艦船は左へ180度旋回した。
舳先からの命令でも艦橋の騎士団に伝わるらしい。蕃神と化した白艦は船首を回して、こちらと相対するよう正面を向いた。
乗艦グノーシスと戦艦ヤマタノオロチ号――艦同士が対峙する。
「機関最大出力! 両舷微速前進!」
ネリエルは艦長らしい指示を続けていた。
動力炉をこれからの戦闘に備えてフルパワーに出力を上げるものの、速力は間合いを計るために抑え気味のようだ。
掛かった――マーナは内心ガッツポーズで喜んだ。
一時的にLV999となっても絶対無敵になったわけではない。
元気爆発で熱血最強でも勝てない相手はいるものだ。
マーナたちより格上の強者はごまんといる。
特にツバサ君やバンダユウの叔父貴には、この強化状態でも勝てないと思い知らされていた。三対一で練習試合に挑んでも双方にボロ負けしている。
おかげで勘違いの思い上がりを是正できた。
だからこそ、真剣勝負の殺し合いでは慎重に立ち回らざるを得ない。
こちらの戦力はLV999が3人。
対する蕃神に降った完璧令嬢ネリエル率いるヤルダバオート隊は、未熟とはいえど自力でLV999に至った者が全部で10人。
最初から数で負けている。あっちとこっちじゃ3倍差だ。
おまけに蕃神から得体の知れない力を貰っているのは見え見えなので、以前より性質の悪いパワーアップを遂げていた。魔眼の力を鍛え直したマーナの分析能力はネリエルたちの強さを正確に推し量ることができた。
団体戦や個人戦に持ち込まれたら分が悪い。ならばどうするか?
答えがこれ――艦隊戦を吹っ掛けるだ。
どちらも隊を組むほど艦がないので一対一の艦戦である。
ヤルダバオート隊が四神同盟を襲撃した際、彼女たちは乗艦グノーシスに乗ったまま砲戦を仕掛け、守護妖精族の艦隊と交戦した。
ここらへんの戦闘記録も情報官のおかげで確認済みだった。
完璧令嬢と騎士団の旗艦でもある白亜の艦船。
兵装や性能によっぽど自信があるのか、大型の機動兵器で挑みかかればそのまま応戦してくると踏んでいた。得意な武器を持っている時に喧嘩を挑まれたら、よくよく考えもせず自然に使ってしまうようなものだ。
艦戦ならば三悪トリオは過大能力による相乗効果を見込める。
一方、あちらは完璧令嬢の過大能力ばかり悪目立ちしていて、お付きである9人の騎士団はほとんど活躍していない。
騎士としての戦闘能力こそ高いが、過大能力は支援向きらしい。
だから艦橋での操船作業に従事しているのだ。
そういう意味では乗艦グノーシスの性能を底上げしているのかも知れないが、数の暴力でボコボコにされるよりはひとつにまとまっている方がいい。
――マーナはそこに勝機を見出した。
「全力砲戦用意! 目標、正面、多頭ドラゴン型飛行戦艦!」
ネリエルは羽扇子を高々と頭上に掲げる。
これに応えるべく、艦橋から騎士たちの返事がスピーカー越しに聞こえる。
『YES、お嬢様――主砲エネルギーチャージ充填開始致します』
『YES、お嬢様――主砲用意完了次第、撃ち方開始致します』
脈動する触手を束ねたような船首。
肉食昆虫が顎を開くのにも似た動作で、船首が左右へと開いていく。艦の奥から粘液を滴らせて飛び出してくるのは、やたら有機的な砲塔らしきものだ。
肉々しく脈打つ大砲の出現にホネツギーは呻く。
「あらやだぁ、ヤゴが口を伸ばしたみたいでえげつない造形ねぇん」
「トンボの幼虫ダスな。あのビジュアルに似た衝撃があるダス」
ドロマンも頷いて同意した。
トンボの幼体であるヤゴは独特な口を持っている。
下唇が折り畳み式になっており、想像以上に長く伸ばすことができるのだ。射出速度も素早く、遠くにいる獲物も瞬時に仕留める。
虫嫌いにはショッキングなビジュアルだ。
一方、マーナは違うものを連想して眉を蹙める。
「……あたしはミル貝がグニョーンと伸びるとこ思い出した」
ミル貝は貝殻からはみ出すほど太く長い水管を伸ばすことで知られているが、これが何かの拍子にとんでもなく伸びることがある。
ちょっと卑猥なので、男性器に例える下ネタも少なくない。
なのでマーナはミル貝が苦手だった。食べれば美味しいんだけど……。
とにかく――生々しいのだ。
大砲の形をした生物としか思えない。それも親しみを覚える外観ではなく、悪夢の中でしか遭遇しないようなグロテスクな造形をしている。
前はちゃんと機械的な装置だったはずだ。
「蕃神に侵されると人間でも機械でもああなっちまうんだ……」
戦慄するマーナは知らず固唾を飲んでいた。
あれは忌まわしい警告、その好例として捉えるべきだろう。
蕃神に堕落させられた典型である。
完璧令嬢も一見すると人間だが、細部に注目するとあちこち歪なのだ。
「……そもそも蠢く触手ヘアってどこのホラー映画よ」
「クトゥルフ系なら全然ありそうですけどねぇ……お断りですけど」
「うむ、SAN値直葬ってやつダスな」
全身眼だらけとか、半分だけ骨とか、半分だけ泥とか、魔族としてのペナルティを負う三悪トリオだが、あれはわざとやっている演出だった。
悪役らしい箔を求めての見栄えに過ぎない。
身も心も別次元の怪物に汚染されるのはお断りである。
強い力には憧れるけど、やっぱり見た目にもこだわりたい。それにマーナは本物の強さを持った美しいものを目の当たりにしてしまった。
目指すならば――あの強さを手に入れたい。
それも自力の努力でだ。余所様から貰った力に魅力は感じなかった。
「……ああなるのはゴメンだね」
興味なさげにマーナがそっぽを向けば、ホネツギーとドロマンも両眼を閉じてウンウンと感慨深げに頷いた。
無駄口を叩いているようだが、三人とも仕事の手は休めていない。
ネリエルたちが主砲の発射準備を進めているように、マーナたちも砲戦を仕掛けてくるヤルダバオート隊を迎え撃つべく砲撃準備を整えていた。
先に準備完了したのは完璧令嬢たちだった。
――完全劫滅砲。
直撃すれば大陸に深さ一㎞の大穴を開けるという破壊力。
……既に中央大陸の4分の1を海没させる戦いを繰り広げている守護神や破壊神と比べたら見劣りするが、十二分な脅威である。
あの2人のせいで戦闘力に激しいインフレが起きているのだ。
おかげで相手の実力を読み誤りそうになる。
蕃神から未知のパワーを与えられたのは、ネリエルたちに限った話ではない。この完全劫滅砲も別次元由来の力に染まっているはずだ。
舳先に立つネリエルが、羽扇子をマーナたちの戦艦へ差し向ける。
「超・完全劫滅砲――発射なさい!」
「「「超と来たか!?」」」
生物兵器と化した砲塔から、破滅をもたらす波動が解き放たれる。
劫滅の名が示す通り、ネリエルたちが不完全と断じたものを悉く滅ぼす破壊の粋を凝らしたエネルギー波だ。まともに浴びれば一溜まりもない。
これにマーナたちは真っ向から張り合うつもりだ。
「やってやろうじゃないか! ホネツギー砲門! ドロマン動力炉!」
マーナの指示に子分たちは即答する。
「龍口砲門……計八門準備完了! いつでも行けちゃいますよぉん!」
「動力炉とマーナ様の過大能力……同調率120%! こちらもOKダス!」
「よし! 第一龍口砲……発射ぁッ!」
八岐大蛇を模した戦艦は、その船首に8本の龍を踊らせている。
これらはすべて口内に砲塔を備えており、フライング・ヤマタノオロチ号の主砲でもあるのだ。第一の龍が顎を開き、喉の奥から熱線を発射する。
ツバサ君が使う「怪獣王の熱線」を参考にした砲撃だ。
戦艦の動力炉をマーナが過大能力で賦活させた“気”で焚き付け、ツバサ君から許可をもらって魔眼に覚えさせた「怪獣王の熱線」を再現させた。
現状、これがマーナの模倣できる最上級の攻撃手段だ。
超完全劫滅砲と怪獣王の熱線が激突する。
インパクトの瞬間に閃光と震動波を放射拡散させる爆発こそ起きたものの、そこから先は互いの砲撃による競り合いとなった。
しかし、一秒と保たずにヤマタノオロチ号の砲撃が押し負ける。
これが本物の「怪獣王の熱線」なら、ツバサ君が気合いを入れれば張り合うこともできるはずだが、残念ながらそこまで実力が三悪トリオにはない。
だがマーナたちは慌てない。これも想定済みだった。
「何のために首を8本も用意したと思ってんだい! 龍口砲! 続いて第二門、第三門、第四門、第一門に続いて目標に発射ぁぁッ!」
「「――ウイウイサッサーッッ!」」
第二の龍から第四の龍までは、第一の龍に続いて熱線砲を吐き出す。
押し負けていたところを盛り返し、白亜の艦船が撃ってくる超完全劫滅砲を押し返すほどの威力を発揮する。しかし敵も然る者、こちらの攻撃力が上がったと見るや否や、砲撃の出力をグンと上げてきた。
拮抗する砲撃は、やがて相殺の大爆発を巻き起こす。
まともに爆風を浴びた二隻は、姿勢制御をしつつ次の砲撃に備える。
ただし、既にマーナたちは反撃へと転じていた。
ヤマタノオロチ号の首一本では、マーナたちの実力不足や出力の限界などの問題により、ツバサ君の「怪獣王の熱線」を完全再現はできない。
そこで――数を揃えた。
マーナは両手に掴んだ龍宝石に力を注ぎ込む。
「一門で勝てなきゃ二門、三門と増やせばいい。そいつらを撃ち尽くしても、残り八門までの砲塔ですぐに追い打ちを掛けられる。たとえ追い打ちを防がれても、その頃には最初に撃った一門にエネルギーの再装填が終わってる……」
「つまり、連続で攻撃できるってわけなのよぉん!」
「別に格好良さげだからとヤマタノオロチを選んだわけじゃないダスな」
相殺の爆発はネリエルたちの視界を妨げる煙幕。
絶好のチャンスを見逃す手はない。
「第五から第八龍口砲! 発射ぁぁぁッ!」
この隙にマーナたちは第五から第八までの龍に顎を開かせると、先ほどと同威力の「怪獣王の熱線」4倍掛けの熱線砲を発射させた。
これは防げないはず! とマーナは勝算の算盤を弾いている。
彼女の過大能力についても調べは付いていた。
ネリエルの過大能力――【完全世界を育む全能なる繭糸】。
完璧令嬢が手繰る金色に輝く繭糸。
これに包まれたものは何であれ、完璧となって生まれ変わる。
壊れたものは直し、疲弊や疲労はなかったことにし、不完全なものは望むべき姿と能力で再誕させるという。なんでも完全にしてしまう能力だ。
この過大能力で完全なる世界を創造する。
それがネリエル率いるヤルダバオート隊の悲願らしい。
能力の質としてみれば最上級に食い込むのだろうが、その代償なのか彼女自身の消耗が激しいため、連続して使うことができない欠点があった。
それも蕃神からの力添えにより解消されていた。
おかげで連続使用も可能である。
発射直後で熱暴走して砲撃の再装填も間に合わない完全劫滅砲を、即座に使えるようにする。ネリエルの過大能力で完全に直してしまうのだ。
この使い方でイシュタル女王国を攻め立ててきた。
(※第374話参照)
主砲の連射――前代未聞の離れ業をやってみせてくれたものだ。
「だけど……完全にする所用時間はあったよね!」
過大能力の繭糸で乗艦グノーシスを包み込み、力を失った主砲を完全に戻すための力を与えるまでの時間。それらの行程は完了までに数秒を要する。
その数秒間――ネリエルたちは無防備になる。
この数秒に反撃を叩き込む作戦だった。
ヤマタノオロチ号から発射された熱線砲が白亜の艦船に命中する。
その直前――再び超完全劫滅砲が火を噴いた。
完全を取り戻すには早すぎる。
それでも乗艦グノーシスの噴いた砲火は、ヤマタノオロチ号の吐いた4倍掛けの熱線砲と真正面からぶつかり合い、艦への直撃を防いでいた。
「「「な、なんでぇーッ!? まだ数秒経ってないのにーッ!?」」」
三人同時に驚愕の声を上げ、また相殺の爆発が巻き起こった。
驚きながらもマーナたちが艦体制御に手間取っていると、ドロマンが受け持つレーダーに感あり。危機管理能力を刺激する警告音が鳴り響く。
「間髪入れずに……三回目の砲撃ダスと!?」
またしても超完全劫滅砲が撃ち出されていた。
咄嗟に防御スクリーンを展開、ヤマタノオロチ号の防備を固める。
五重に張った防御スクリーンは撃ち破られ、戦艦に少なくない量のエネルギー波を被弾する。片翼がもがれ、装甲をかなり剥ぎ取られた。
「なんでさ!? 蕃神の後押しがあったとしても……ッ!?」
この連射はおかしい。マーナは納得いかなかった。
「何やら以前のわたくしたちを参考にしていたようですが……」
残念でしたわね、とネリエルは片手に持つ小箱を揺する。
あれは蕃神から力を供給される小道具だ。
――トラペゾヘドロン・ボックス。
情報官や博覧強記娘が調査した資料には、クトゥルフ神話に関連付くような名称が記されていた。やはり蕃神はクトゥルフ関係と縁が深いらしい。
見た目はお洒落な化粧箱みたいなもの。
その中心には、平行な辺のない四角形を寄せ集めたような偏四角多面体の宝石が入っており、そこから無尽蔵の“気”が湧いてくるという。
ただの“気”ではない――別次元からの瘴気だ。
それこそ蕃神たちのパワーに他ならない。
あの小箱から別次元由来のエネルギーを引き出し、ネリエルにチャージする時間もいくらか掛かるはず。それも含めて数秒の隙があるはずだった。
しかし――小箱から力を感じられない。
もっと別のところに異常な“気”に発生源があった。
強大でありながら汚濁に塗れた、瘴気の源ともいうべき力の渦だ。
「まさか、完璧令嬢……そこまで堕ちたのか!?」
マーナは嫌悪感も露わに罵った。
大急ぎで分析能力を走らせていると、勝ち誇ったネリエルが羽扇子を広げてニヤつく唇を隠しながら、楽しそうに種明かししてくる。
「やはり、この“トラペゾヘドロン・ボックス”も調査済みでしたか……蕃神様から下賜された、無限の活力を沸き立たせる神秘の小箱……」
その小箱をネリエルは放り捨てた。
「肝心の中身なら――こちらに御座いますわ」
グパァ! と粘着質な音を立ててネリエルの胸元が開く。
ドレスの胸元がオープンになって巨乳がお披露目になる! そんな期待してホネツギーとドロマンは歓声を上げて釘付けになっていた。
だが、すぐに幻滅することになる。
開かれた胸元――その正体は無数の触手がほどけただけ。
イソギンチャクが触手を震わせるように、大胆に開かれたネリエルの胸元には拳くらいはある鈍色の宝石が未知のスペクトル光を発していた。
「触手なのは金髪ドリルだけじゃなかったのかい……」
そう毒突くのがマーナには精一杯だった。
どうやら触手を撚り合わせて、人間の姿に擬態させているらしい。道理で触手では形作れない細部が歪んでいるわけだ。
ネリエルは胸元に輝く魔性の宝石をウットリした仕種で撫でる。
「今やわたくしも蕃神の“王”に連なる者……この真なる世界という狭苦しい世界に囚われない、膨大な力を我が物とできますのよ」
貴族令嬢が着飾るドーム状に張った緞帳のようなスカート。
その一部もほどけて触手が顔を覗かせると、乗艦グノーシスへ連結するかのように甲板の奥底へ差し込まれていく。呼応するように白亜の艦船からも白い触手が伸びてくると、縋るようにネリエルの細い身体に巻きついた。
トラペゾヘドロン・ボックスに収められていた宝石。
偏四角多面体の結晶から、凄まじい瘴気が滾々と湧き上がる。
白亜の艦船はその恩恵に与ることで燃料は枯渇せず、完璧令嬢の過大能力によって常にパーフェクトな状態を維持できるらしい。
付け入る隙がどこにもない。いつでも完全無欠な状態なのだ。
「思い知りなさい――完璧なる者の力を!」
ネリエルの叫びを合図にして、超完全劫滅砲が砲火を放つ。
連射どころではない――これは速射だ。
間髪入れず間断なく、主砲の破壊力も損なわず、速射砲の如き砲撃。
反撃は間に合わず、防御する暇もない。
マーナたちはヤマタノオロチ号ごと砲撃でタコ殴りにされてしまった。
「「「こ、こんなんアリかあああぁぁぁぁーーーッ!?」」」
断末魔のような絶叫で情けなく喚いてしまう。
主砲による速射砲を食らい続けたヤマタノオロチ号は、無惨にも両翼をもぎ取られ、龍の首を三本もへし折られ、ついには艦体に大穴を開けられる。
マーナたちのいる操縦席も大惨事だ。
あちこちから噴火みたいな爆発が巻き起こり、それをおもいっきり浴びたマーナたちは軽い脳震盪を起こしてしまい、意識が飛んでしまった。
ズタボロの戦艦は黒煙を上げて姿勢を崩す。
空を航行する能力を失い、乗組員も気を失って操船もままならない。
後は重力に引っ張られるまま落下していくだけだった。
「あら、逃がしませんことよ……両舷最大戦速!」
あの戦艦を捕らえなさい! とネリエルは指示を飛ばした。
その理由を完璧令嬢は独りごちる。
「雑魚とはいえ奇妙な強化術を使い、一瞬とはいえわたくしたちと渡り合った実力ですからね……食前酒として賞味しておく価値はありますわ」
些細な力でも取り込んで我が物とする。
倒したマーナたちを捕食し、その力を奪うつもりなのだ。そんなところまで蕃神を見習わなくてもいいものを……本当に堕ちてしまったらしい。
そこへすかさず横槍を入れる者がいた。
「――させません!」
裂帛の怒声で割り込んできたのは冥府神クロウだった。
還らずの都に襲い来るう混沌の泥。それを浄化するため専念しなければいけないにも関わらず、マーナたちを助けるために力を割いてくれたのだ。
クロウの強化変身モードである東岳大帝。
全長150mはある燃える衣をまとった鋼鉄の巨人。獄門鍵という鍵みたいな剣を振り回すと、地獄の溶岩が燃える斬撃となって打ち出される。
それはマーナたちを追うネリエルの行く手を遮った。
ネリエルが振り返れば、合わせるように乗艦グノーシスも回頭する。
「あら、後回しにしていた前菜さんが痺れを切らしたようですわね……よろしいですのよ? わたくし、食前酒と前菜を合わせていただいても……」
「その不愉快な例えはもう結構です!」
来なさい! と東岳大帝と化したクロウは手招きする。
自分に注意を逸らすことで、マーナたちを逃がすつもりなのだ。彼は元教師だというから、若者を見殺しにできない性分と聞いている。
マーナたちに代わり、完璧令嬢と本腰を入れて戦うつもりなのだ。
不利を承知で挑むに違いない。生徒を想う教師の鑑である。
「…………情けないねぇ」
朦朧とする意識でも歯軋りするマーナは拳を握り締めた。
混沌の泥に苦戦するクロウを助けるために颯爽と登場し、蕃神となった完璧令嬢たちは三悪トリオで引き受け、打ち倒すことで武功とする。
そんな戦果を求めて期待して出撃したというのに……。
「助けるはずの人に救われるなんて……不甲斐なさ過ぎるだろ、あたしら!」
大声を張り上げて意識を取り戻す。
こんなんじゃダメだ――マーナは弱い己を叱咤する。
確かに“三悪”には憧れてきたけれど、身も心も三流に堕ちたくはない。決して堕ちてはいけない、とマーナは自分に言い聞かせてきた。
あの日――本物を垣間見たあの日、マーナは心に誓ったのだ。
自分たちを歯牙に掛けることなく大敗させた最強の女神。
――ツバサ・ハトホル。
たった一人で悪漢の徒党と渡り合った最強の極道。
――バンダユウ・モモチ。
本物の強さを持った彼らを目の当たりにして、「絶対に敵わない」と愚痴りながらも、心はいつも彼らの背中を追っていることに気付いた。
四神同盟と和解して合流、普通に人付き合いする時間を送ってきた。
そんな日々の中、次第に尊敬の念を抱くようになっていた。
真の強者が持つ強さに憧れたのだ。
マーナたちもなりたい――本当の強き者に!
三悪の「何度やられても起ち上がる不屈の精神」を見習ってきたのだから、なけなしの向上心を刺激されたのも仕方ないことだ。
だから、今日という晴れ舞台のために努力してきたというのに……。
「こんな終わり方で退場……できるかっての!」
悔し涙を滴らせてマーナが起き上がると同時に、それまで自由落下していたはずのヤマタノオロチ号が重力に逆らう浮遊感に包まれた。
艦体が航行能力を取り戻し、もう一度舞い上がろうとしているのだ。
「マーナちゃ……様の言う通りよねぇん!」
一緒に気絶したはずのホネツギーも目を覚ましていた。
操縦桿を握って倒れかけていた上半身を引き起こすと、骨を操る過大能力をまた発動させて、大破しかけた艦体の構造を組み直そうとする。
いや、立て直すどころではない。
拡張工事のように艦体の骨組みを刷新、更には巨大化までさせていた。
「まったく同感ダスだ……マーナ、様の言葉が正しいダス……」
計器の制御盤に突っ伏していたドロマンも起き上がる。
こちらもホネツギーと連携するように泥を操る過大能力を使って、損壊した箇所を修復するように埋め合わせていく。補強も兼ねているようだ。
これも補強を通り越している。
ホネツギーが再構造した骨格に合わせて、艦体をより大きく強固に建造し直しているのだ。八岐大蛇モチーフに変更はないが、サイズは桁違いだ。
そして完成する――フライング・ヤマタノオロチ号Ⅱ。
「ただ単純に何倍もデッカくなっただけじゃないわよぉん!」
「装甲強度、駆動系、出力系……すべて段違いに強くしているダス!」
自信満々なホネツギーとドロマンだが、マーナは訝しむ。
「アンタたち、そんな力を何処から……ッ!?」
魔眼で分析能力を掛けるまでもなく理解させられる。
――超強化練球。
無理をしなければ1時間はLV100上昇の強化を与えてくれる光球。それに働きかけることで、更なる強化を引き出しているのだ。
強化は倍増するが、それだけ持続時間は削られることになる。
「せっかくの晴れ舞台……見せ場が減っちゃうのに……」
切ない声でマーナが訴えると、子分たちは頼もしい笑顔で振り返る。
「一時間の晴れ舞台より一瞬の見せ場に懸けるだけよぉん♪」
「どの道、ここで負けたら晴れ舞台も見せ場もないダスからな……」
完璧令嬢に勝てば大金星、戦果はそれで十分。
『『本物になりたいんだろ? なら、最後まで付き合うさ』』
ホネツギーとドロマンの眼が、マーナの魔眼より雄弁に語っていた。
実は――2人の方が年上で兄貴分なのだ。
幼馴染みの三人組、ドロマンが最年長でホネツギーがひとつ下、マーナは更に下の最年少である。本来ならば2人の妹分に当たる。
それがどうしてボスなのかと言えば……。
『オラたちよりも、目端の利くマーナがボスをやるべきダス』
ドロマンは力仕事、ホネツギーは頭脳担当。
『そして、マーナがまとめ役……これが最高の役割分担ダス』
『“三悪”は女ボスが定番だしねぇん。それにカワイイ女の子がリーダーの方がバエるじゃなぁい? やっぱりマーナちゃんで決まりよぉん♪』
……こんな感じで決められたのだ。
以来、ドロマンもホネツギーもマーナを盛り立ててくれた。
だけどこういった要所では、兄貴分として的確なアドバイスをしてくれる。子分らしい口調で進言するのも忘れない。
感極まったマーナは、顔をクシャクシャにして泣きそうになる。
「泥にぃ……骨にぃ……ッッッ!」
思わず、昔の2人の呼び名を漏らしてしまった。
マーナは頭をブンブンと左右に振って涙を吹き飛ばすと、両手でピシャリと顔を打って気合いを入れ直した。勝ち気に笑って勢いを取り戻す。
「よぉし! 行こう三悪トリオ! 泣いても笑っても次が最後だよ!」
短気決戦だ! とマーナは決意表明を叫んだ。
「「――ウイッサー!! マーナ様!!」」
ホネツギーとドロマンは、いつもの敬礼と掛け声で応えてくれた。
蕃神となった完璧令嬢は無限のスタミナを手に入れた。
別次元から供給される瘴気を糧として、大技であるはずの超完全劫滅砲を速射砲みたいに連発してくる。
長期戦に持ち込んだら押し切られるのがオチだ。
だから――最高の一撃で再起不能に陥れる。
一撃必殺で仕留める、最低でも継戦能力がなくなるまで追い込む。
完璧令嬢ネリエルと9人騎士団。
彼らヤルダバオート隊ごと白亜の艦船を黙らせるにはこれしかない。
そのための秘策はネリエルの魔眼に宿っていた。
まだ未熟な自分の手には余ると封じていた……本物のとっておきだ。
「あらあら、食前酒が戻ってきましたわね」
息を吹き返したヤマタノオロチ号Ⅱが急浮上してくるのを認め、クロウへ襲いかかろうとしていたネリエルは艦の舵を切り替えた。
触手みたいな舌を伸ばして、不似合いに可憐な唇を舐めている。
「おや? 前より野趣あふれる香りになって……」
これは飲み応えがありそうですわね、と完璧令嬢はほくそ笑んだ。
張り合うようにマーナも操縦席から吠える。
「おうさ! とっておきの一杯、ご馳走してやるよ!」
撃沈されかけた先代より数倍は大きいヤマタノオロチ号Ⅱは、乗艦グノーシスと同じ高さまで上昇すると、八本の首をまとめるように揃えた。
もう一門ずつ砲撃するなんてセコい真似はお終いだ。
「八門同時にぶっぱなす主砲とする!」
「無駄ですわよ! 砲撃の数を増やそうとわたくしどもに勝てませんわ!」
あなたたち三流ではね! とネリエルも砲撃を敢行。
白亜の艦船グノーシスが吠え、超完全劫滅砲を放つ。
間違いなくこれまでで最大級の威力だ。
負けじとヤマタノオロチ号Ⅱも、八本の首から熱線砲を撃ち出す。
それをひとつに集束させて大熱線砲とする。
「まだまだぁ! ただのブレスだと思ったら大間違いだよ!」
マーナは動力炉と繋がっている龍宝石を掴むと、特別な魔眼から「覚えたはいいけど満足に使えずにいた力」を解放。砲撃へ付与するよう働きかける。
力は2つ――どちらも本物から見て覚えたものだ。
ひとつはツバサ君の必殺技“滅日の紅炎”。
触れたものを燃やし尽くすまで消えない終焉の炎だ。
もうひとつはバンダユウの過大能力【詐欺師の騙りは世界に蔓延る】。
嘘を真に、そして幻覚を現実にする能力だ。
どちらも高難易度すぎて、LV950程度のマーナでは模倣するどころか猿真似さえできなかった。だが、LV999になっている今なら……。
「ここで超強化練球を使えば……再現できるはずッ!」
不完全な滅日の紅炎だが、叔父貴の過大能力で本物に化けさせる。
本物に憧れた偽物が――いつか本物を凌駕する。
そんな気迫を、マーナは龍宝石を通して動力炉に叩き込んだ。
するとヤマタノオロチ号Ⅱの主砲から噴き出す大熱戦砲が紅に染まり、乗艦グノーシスの放つ超完全劫滅砲を押し返すまでに威力を底上げした。
――激突する2つの破壊光線。
その鬩ぎ合いは大空を焼き尽くし、次元や空間も焦がすほどだ。
しかし、両者譲ることなく拮抗している。
これにネリエルは眼を剥いて驚いた。
眼球に渦巻き模様のいくつもの黒目が蠢いて気持ち悪い。
「そんな馬鹿な……蕃神となったわたくしが遅れを取るなど……ッ!」
有り得ませんわ! とネリエルはムキになって否定する。
「ならば更なる力で屈服させるのみですわ!」
白亜の艦船から解き放たれる主砲、その火力が圧倒的に増大した。
ようやく反転攻勢に出られると思いきや、またしても力負けしそうだった。悔しいけど、これ以上の力はもう振り絞れそうにない。
超強化練球は減退し、マーナたちのLV999も風前の灯火だった。
徐々に競り負け、超完全劫滅砲が近付いてくる。
あれを浴びせかけられたら、今度こそマーナたちは一巻の終わりだ。
「くそぉぉ……ここまでなのか! あたしたちはッ!?」
マーナは両手の龍宝石を握り潰さんばかりに掴み、両眼を閉じて号泣する。額にある第三の眼からは蛇口が壊れたように涙が流れ落ちていた。
ホネツギーも気張り、ドロマンも踏ん張っている。
彼らの努力も無駄にしたくはない。リーダーとして切に願った。
もうすぐ強化が終わる。気力体力も底が突きかけていた。
駄目か……とマーナが諦めかけた時のことだ。
『力が欲しいか…………ッス?』
悪魔の囁きみたいな、それにしては語尾に締まりのない声が聞こえてきたと思えば、急に操縦席の照明が明るくなった。
暗くなっていた計器類も輝きを取り戻している。
砲撃に大半のエネルギーを費やして、他は省エネでやりくりしていたから光源が落ちるのは仕方ない。その落ちていた光度が戻ってきてるのだ。
計器類担当のドロマンがありがたい異常を感知する。
「外部より未知のエネルギー注入を確認! 動力炉が蘇ったダス!」
次いでホネツギーも気前のいい異変に気付く。
「動力炉だけじゃない……僕ちゃんたちにも逆流してるわよぉん!?」
「力が……“気”が……流れ込んでくる?」
マーナも素晴らしい活力付与を感じていた。練習でツバサ君に掛けてもらったものと同等、あるいはそれ以上の勢いで活力が送られてきている。
もう超強化練球を減らさなくてもいい。
LV999を維持したまま、もっと強い力を引き出せそうだった。
『どーもー、還らずの都からのお裾分けッス♪』
力の出所を逆探知する前に、送り主から顔を見せてくれた。ヤマタノオロチ号Ⅱの操縦席、そこのメインモニターに通信が送られてくる。
現れたのは――銀髪のだらしない女神だった。
「……あ、アキちゃん!?」
イシュタル女王国所属、情報官のアキちゃんである。
この戦争では四神同盟が使う情報ネットワークの構築を担当しており、すぐそこにある還らずの都の地下で灰色の巫女と一緒にお仕事中のはずだ。
彼女は不意の活力付与について説明を始める。
『その情報処理の片手間に、クロウ先生が混沌の泥から抽出した“気”を片付けたりもしてたんスよ。いやー、これが思った以上にいっぱいあったもんで……マーナちゃんたちも入り用だったみたいなんで送ってみたんスけど……』
もっと欲しいッスか? とアキは流し目で尋ねてくる。
「「「ちょうだい! 貰えるだけ全部!」」」
三悪トリオは声を揃えて懇願し、アキは親指と人差し指で○を作った。
OKのジェスチャーサインである。
『三流とバカにされた者同士、ちったあ良いとこ見せるッスよ』
アキが通信を切った瞬間、情報網をバイパスにして莫大な“気”がマーナたちに流れてきた。超強化練球をいくつも作れそうなエネルギー量である。
三悪トリオの総身があふれる“気”で輝き出す。
操縦席も黄金色の光沢を帯び、フライング・ヤマタノオロチ号Ⅱからも金色の闘気を立ち上り、8本の首から放つ大熱線砲を膨張させた。
吐き出す熱線は真紅に彩られている。
滅日の紅炎――本家に勝るとも劣らない威力を発揮していた。
紅に染まる大熱線砲は、超完全劫滅砲を押し返す。
「「「行っけえええええええぇぇぇぇーーーッ!!!」」」
三悪トリオ渾身の雄叫びが轟いた。
真紅の炎は一気に空間ごと撓ませ、一息にすべて跳ね返していく。
いや、押し返すに留まらない。打ち破るように飲み込むように、そして蹴散らすようにして突き進むと、ネリエルの眼前にまで迫っていた。
遮るものを焼き尽くす究極の猛炎――それが爆流となって突き進む。
あまりの急展開に完璧令嬢でも対応できない。
「なんですって!? そんなっ、さっきまでジリ貧だった雑魚が……ッ!?」
彼女の悲鳴は紅炎がもたらす爆発に掻き消された。
白亜の艦船グノーシスは紅炎に包まれ、見事なまでに大炎上する。
艦その物も極太の触手が群れることで形成されていたのか、火に炙られた生イカのゲソみたいに暴れ出す、得も言われぬ悪臭を漂わせていた。
紅炎が舞う甲板では、炎に巻かれた完璧令嬢も踊り狂っている。
「あああああッ!? 焼け、るぅぅぅ! 完璧なわたくしたちが……ッ!」
どうして!? と悲鳴を上げながら炎を消そうとする。
だが、どんな消化剤や魔法を以てしても、この紅炎が消えることはない。
「きぃ、消えない!? なんですの、この真っ赤な炎は!?」
「消えるわけあるか! その炎は特別製なのさ!」
燃え移った対象が灰になるまで消えない。
マーナは持ち前の親切心から、ネリエルに絶望を教えてやる。
「終焉の炎で蕃神の力ごと、身も心も骨の髄まで焼き尽くされて、真なる世界に還ってくるがいい! それがアンタたちなりの罪滅ぼしってもんさ!」
「くぅぅぅぅ……ッ! 三流雑魚が言いたい放題にぃ……!」
覚えてらっしゃい! とネリエルは捨て台詞を吐いて踵を返した。
燃え盛る乗艦グノーシスは180度方向転換すると、紅炎の尾を引きながら目にも止まらぬ速さで飛び去り、ある場所へ一目散に逃げ込んでいく。
彼女たちが現れた――次元の裂け目へだ。
追跡を警戒したのか、ご丁寧に裂け目まで閉じていく徹底ぶりだった。
その後、特に反応はない。
別の蕃神が攻め込んでくる気配もないので、決着は付いたようだ。
「仕留め損ねたけれど……追っ払えたみたいだねぇ」
はぁぁぁ! と力強い溜息をついてマーナは寝椅子に倒れ込んだ。
ドロマンも制御盤へめり込むように倒れ伏し、ホネツギーは操縦桿から手を離すと座席にもたれかかって空を仰いでいた。
全員、死ぬほど深呼吸を繰り返している。疲れ果てているのだ。
超強化練球の効果も切れてマーナたちはLV950台へと下がり、その姿も魔族のペナルティを負ったダーティなものに戻る。
それでも――三悪トリオは疲れた顔に満面の笑みを浮かべていた。
「か、勝った……アタシたちは勝ったんだッッッ!!」
「「――ウィィィィィッサァァァーーーッ!!」」
三人で張り上げた狂喜の歓声。
それは戦艦の装甲を突き抜けて、辺り一帯に木霊したほどだった。
~~~~~~~~~~~~
これは――後ほど判明するお話。
クロウは完璧令嬢ネリエルの一団を、戦争時に介入してきて動揺や混乱を引き起こすための攪乱役と読んでいたが、実情は少々違っていた。
彼女たちの本来の役目は先遣隊なのだ。
使い捨てても問題ない、という酷い見立ては大体合っていたが……。
まずはネリエルたちが戦争に乗じて真なる世界へ潜入する。
超巨大蕃神“祭司長”も手を焼いた還らずの都を落として、真なる世界を護ろうとする強者を何人か倒せば、それが契機となる予定だったらしい。
蕃神の大軍勢で真なる世界へ攻め込む――侵略の契機だ。
ネリエルたちが入ってきた次元の裂け目。
あの向こう側には、今か今かと突入を待ち侘びる蕃神の“王”と眷族が犇めいており、ネリエルが事を成すのを待ち構えていたわけである。
末席とはいえ、ネリエルは蕃神の“王”となる力を得た。
元々独力でLV999に登り詰めた個人のポテンシャルもあったが、数世紀前より地球に送り込んでいた諜報員が「使える人材ですよー」と勧めてきたのもあり、トラペゾヘドロン・ボックスと融合させることで昇格を許したのだ。
彼女ならば、真なる世界に相応の被害をもたらす。
新参者ながら蕃神の“王”たちも、完璧令嬢の力量は認めていたのだ。
だが――思いも寄らない邪魔が入った。
マーナ、ホネツギー、ドロマンの三悪トリオである。
予想外すぎる彼女たちの参戦が、多方面に番狂わせを巻き起こした。
三悪トリオは苦戦こそ強いられたものの、クロウの助けやアキの後方支援のおかげで、どうにかこうにか完璧令嬢の一団を撃退することに成功。
一方のネリエルたちは何ひとつ成果を出せず、あろうことか終焉の炎という爆弾付きで逃げ帰る始末。この爆弾がとんでもなかった。
終焉の炎は蕃神の軍勢に延焼し、大災害を引き起こしたのだ。
真なる世界に攻め込むどころではなくなり、燃え移る終焉の炎を消す作業に追われた蕃神たちは、今回の侵略戦争を諦めざるを得なかった。
これらの事実は――後日判明する話。
アキとフミカの情報処理姉妹が戦後処理の一環で情報を整理していたら、偶然にも拾い上げた情報のひとつだ。
つまり――三悪トリオは蕃神侵攻を未然に防いでいた。
これが大金星として評価されるのは、もう少し先のことである。
~~~~~~~~~~~~
中央大陸北部はもはや原形を留めていなかった。
遙か上空から見下ろせば、中央大陸は凹みたいに北部だけへこんだ形になってしまっている。北に広がる大地はほとんど海底へ没していた。
僅かな土地が島のように残るばかり。
それらも海の底に沈むのは時間の問題だろう。
揺蕩う雲より高い空で、死闘を繰り広げる守護神と破壊神。
彼らの一挙手一投足から発せられる余波は天地を割り砕き、拳を叩きつけて蹴りを打ち合えば、その接点から空間が歪む波及を起こす。
「やれ行けそれ行けどんと行けやぁーッ! 総進撃で総攻撃だぁーッ!」
破壊神ロンドは倒すべき敵を指し示し、手勢を嗾けてくる。
悪意の想念で練り上げられた――混沌の泥。
全世界を覆い尽くしそれは、何もかも壊すために流動する超巨大スライムみたいなものだ。混沌の泥はロンドの代わりに巨獣や巨大獣の大群を生み出し、それらを上回る大蛇をダース単位で誕生させてくる。
1匹1匹が国をも丸呑みにする、神話の怪物みたいな大蛇だ。
その大蛇をも超越する――世界蛇。
図体が大陸に匹敵するようなサイズの超巨大な大蛇は、眉間の辺りにロンドを乗せて騎乗獣としての役目を果たしていた。
極悪親父の風体に変わりはない。
相変わらず繁華街の高級店を渡り歩く遊び人のオッサンみたいだが、その周囲には混沌の泥をいくつもの塊にして待機させていた。
あれはオプションみたいなもので、攻防自在に対応してくる。
おかげで本体を狙いたくても阻まれるので厄介だった。
「戦争は数だよ……ってか? 本当、力任せが好きなオッサンだな」
守護神ツバサは正面から破壊神の軍勢を迎え撃つ。
「合気使いにしてみりゃカモだぜ」
軽口なセリフは若造にお似合いのものだが、神々の乳母と讃えられるまでに女神になってしまった女体は、豊満すぎる爆乳巨尻を誇示していた。
タイトな衣装で引き立たせたボディライン。
グラマラスな踊り子が観客を魅了するように舞い踊る。
ツバサの体捌きに連動して、共に宙を乱舞するのは蒼い髪と羽衣。
どちらも末端に至るまでツバサの“気”を流しており、手足の代わりが務まるほど繊細な動きをしてくれる。襲い来る巨獣や巨大獣を合気の技で投げ飛ばし、牙を剥く大蛇の群れを薙ぎ払うのも難なく熟す。
天空の女神――ヌゥト。
殺戮の女神や魔法の女神に次ぐ、第三の戦闘モードである。
ツバサの戦いの流儀である合気を十全に使い熟し、神懸かり的な次元にまで引き上げるために編み出した、合気に特化させた変身形態だ。
破壊神が万の軍勢を送り出そうと、すべて受け流して滅ぼし尽くす。
守護神と破壊神による一進一退の攻防。
それは大陸を蝕みながらも、未だに決着がつく様相を見せなかった。
「てめぇら投げられっぱなしでいるんじゃねえ!」
いいかげん学習しやがれ! とロンドは大蛇の群れを叱りつける。
「何のために蛇体にしたと思ってんだ!? ツバサの兄ちゃんが投げにくいようにだろうが! 投げられても絡みついてしがみつけ!」
動きを封じろ! とアバウトな作戦命令を下す。
大蛇たちは命令へ忠実に従い、ツバサを十重二十重に囲んできた。
投げても投げても投げても、他の大蛇の巨体が邪魔して投げきれない位置へと立ち回り、次第にその長い蛇の身体でツバサを厳重に包囲していく。
出来上がるのは群れた大蛇の肉団子。
いやいや、規模からすれば大蛇でできた山脈だ。
ここまで巨大な質量で押し固められれば、合気どころの話ではない。
この仕上がりにはロンドも後方腕組みでご満悦だった。
「よぉーしよしよし! ヨシ!」
その昔ネットミームで流行った現場で働く猫が取るようなポーズで戯けたロンドは、ツバサを封じた大蛇の肉団子へと命じる。
「ボインちゃんは世界的損失だが、そのまま挽肉になるまで潰しちまいな!」
「――潰せるもんならな」
ドゴン! と大蛇でできた山脈の頂点が火を噴いた。
噴火ではなく大蛇たちの肉厚な血肉を殴り飛ばして、紅炎をまとった鉄拳が突き上げられたのだ。紅炎を浴びた大蛇は瞬く間に灰と化していく。
混沌の泥まで類焼させる紅炎にロンドは舌打ちする。
「しまった……仮○ライダー張りの変身バリエーションか」
「誰が平成以降の仮面○イダーだ」
始末した大蛇どもに肉片を焼き払いながら、真紅の鬣を振り乱す筋肉質な女神になったツバサがダイナミックに姿を現す。
肉弾戦メインの攻撃特化な変身モード――殺戮の女神。
何もかも焼き滅ぼす滅日の紅炎も使える形態なので、敵勢力の殲滅にも向いている。破壊神のように従者を大量生産してくる敵にはもってこいだ。
燃費がちょっと悪いのが玉に瑕である。
なにも天空の女神モードに固執することはない。
「戦況次第ではいくらでも切り替えればいい……こんな風にな」
一部から「メフレックス!」と褒められそうな筋肉美を誇る真紅の女神から、色が抜け落ちるように白銀の髪を靡かせる妖艶な女神へと変わる。
筋肉が落ちた分、女性美に塗り替えられていく。
魔法戦メインの魔力特化な変身モード――魔法の女神。
滅日の紅炎で燃えた部分を切り捨てて、混沌の泥が伸び上がるとツバサを包み込もうとする。大蛇の群れも鎌首をもたげて、再び包囲網を敷いてきた。
それらを悉く――二次元空間へと引きずり込む。
魔法の女神と化したツバサは、膨大な魔力を駆使することで次元や空間さえも従える超高位魔法を意のままに操ることで、無限の奥行きを有する二次元空間を作り出し、そこに襲い来る敵勢を閉じ込めることもできる。
あらかた敵を取り込むと、二次元空間を投げ飛ばした。
それは空間を断絶する巨大手裏剣となり、ツバサに迫ってきた大蛇の新手や巨獣に巨大獣どもを薙ぎ払い、彼らの大ボスであるロンドに斬り掛かる。
「――ふんがんっんっ!」
ロンドは珍妙な掛け声で片腕を振り抜く。
混沌の泥を右腕に巻き付けて硬化させ、防御不可能なはずの空間を斬り裂く刃を弾き飛ばした。のみならず打ち消してみせる。
代償として、腕にまとわりつかせた混沌の泥は消えたようだが……。
「やられたらやり返すぜオレぁなぁ……大蛇どもぉ!」
大蛇たちはそれぞれLV999、おまけに個別の過大能力を持つ。
破壊神譲りのこの世を壊すことに長けた能力を吐きながら、大蛇の大群は飽きることなくツバサへ襲いかかり、討ち滅ぼさんと躍起になっていた。
対するツバサは冷静に観察眼を働かせていた。
「……随分と焦ってるみたいだな」
「……なんだと?」
ボソリと呟いたツバサの一言をロンドは耳聡く拾う。
喋りながらも五体は更なる闘争を求めるように休まない。
戦闘の爆音が鳴り止まぬかな、読唇術でも読み取れるようにゆっくり唇を動かしながら、ツバサは脳内で重ねてきた推論を口にする。
「ミロがホムラが勝った辺りから……破壊神、挙動不審だぜ?」
一見バレないように平静を取り繕っている。
だが鍛えられた洞察力を持つツバサからすれば見え見えだ。
ほぼ同時にリードが敗北したため、そちらで動揺することで隠したつもりかも知れないが、ロンドは確かにミロの動向へ注意を払っていた。
ホムラが敗北して№入りのコインが消えた瞬間。
微かとはいえロンドの目が泳いだのをツバサは見逃さなかった。
「混沌の泥でしつこく邪魔してるんだってな?」
ミロがツバサの元へ駆けつけるのを――。
連絡網を通じてミロが「ゴメンねツバサさん!」と平身低頭するみたいに謝ってきていることから、邪魔のされ方が段違いなことが窺える。
念のため、情報官に比較データも検証してもらう。
すると、他の遊撃手に比べてミロの行く手を阻む混沌の泥や巨獣の数が明らかに多い。お邪魔虫の数は当社比で6~7倍の差があった。
「ミロがこちらへ向かった頃……破壊神の攻め手はより苛烈になった」
「……何が言いたいんだい兄ちゃん?」
単刀直入に言いねぇ、とロンドは結論を求めてくる。
ニヒルな笑みで肩をすくめる極悪親父は、ほんの少し後ろに退いていた。
その仕種は危機管理能力が無意識に騒いでることの表れだ。
「大した話題でもないことを針小棒大に語り、つまらないことやどうでもいいことはベラベラ喋り、セクハラ紛いの言動もひっきりなし……そんな破壊神がだ」
ツバサは推理を突き詰めた結論を述べる。
「ミロに関する話題にはどういうわけか消極的だよな」
ツバサを弄るネタとして、もっと引き合いに出してもいいはずである。
敢えて触れないようにしているとしか思えない。
「戦争が始まった直後、ミロとは離れ離れにされたけど……」
神々の乳母が半狂乱になりかけたほどショックだった。
それは単にミロの万能な過大能力を知ったロンドが、ツバサの秘密兵器となるのを警戒し、ホムラを使って引き離した策略だと思い込んでいた。
「あれがどうにも違和感ありまくりでな」
単独でも世界を破壊すると豪語する最強無敵の破壊神。
普段からそれほどの大口を叩いているのだから、ツバサとミロがコンビを組んで挑んでも、ラスボスの余裕で「掛かってこいやぁ!」と迎えればいい。
なのに――わざわざミロを取り除いた。
最初は秘密兵器なミロを警戒したと思い込んでいた。
そこに奇妙な違和感が芽生えてくる。
ミロの過大能力――その全容をバッドデッドエンズは知らないはずだ。
まさか何でも出来る万能能力とは夢にも思うまい。
多種多様な効果をもたらすミステリアスな能力だと見当は付けているかも知れないが、それでも必要以上に敬遠することはないだろう。
ロンドの性格上、殊更に警戒するのが不自然だった。
「そもそも前提として――ロンドはミロを避けてないか?」
「……………………」
饒舌な人間の無言は肯定と受け取りたくなる。
宴の席で対面するくらいなら問題ない。
だが、直接対決は御免蒙るなんて雰囲気をヒシヒシと感じる。
そう直感した瞬間、これまでの推測を再考した。
秘密兵器云々の問題ではなく、単純にミロと戦いたくないから、あるいはミロの能力を警戒するから、わざわざ遠くへ追い遣ったのではないか?
ツバサから引き離そうとしたのではない。
ロンドから距離を置くように仕向けたと思えてならなかった。
そうして導き出した仮説は……。
「破壊神は怖いんだ――英雄神の持つ何かが」
それこそが破壊神の核を打ち砕く条件に違いあるまい。
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