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第18章 終わる世界と始まる想世
第441話:最大の誤算はおんどれや
しおりを挟む「うえぇ~ん! 兄ちゃんがしつこいよぅ!」
ロンドは幼児顔負けに泣きながら全力疾走していた。
「ボクちゃん何も悪いことしてないのに(嘘)! オヤジの言いつけを守って正義と愛をモットーに平和を愛して今日まで生きてきたのに(大嘘)!」
超爆乳のツバサ兄ちゃんがイジめるよう! と泣き喚く。
「カワイイ部下たちも全員オジャンにされて……オジさん悪いことした!?」
――ちょっと世界廃滅を企んだだけなのに!
兄ちゃんがいたら「極悪だろそれ!」とツッコんでくれたに違いない。
まだ追いついてないのが残念だ。
誰も見てないので演技する必要なんかこれっぽっちもないのだが、ジ○イアンとス○夫にいじめられたの○太くんみたいな泣き声を上げて、尾を引くほどの涙をキラキラ輝かせながら、音速を超える勢いで走っている。
もっとも、逃げた先にドラ○もんは待っていない。
いい年こいた大人は、みんな自力で何とかしなければならないのだ。
それでも両手両足の肘や膝を直角に曲げ、ハキハキとした走り方で一心不乱にスタミナ切れも構わずに逃げていた。
まあ――飛行系技能で空中を駆けているわけだが。
「……なぁんていじめられっ子っぽい台詞で逃げ回っているわけだが、正直あの金ピカ鳥は厄介なわけよ。どー対処すりゃいいんよあれ?」
現在、ロンドは追われていた。
ツバサの兄ちゃんが嗾けてきた追っ手はしつこい。
恥も外聞も知ったこっちゃないので、形振り構わず逃走中である。
それでも六本木辺りの高級クラブで幅を利かせていそうな、羽振りが良さそうなチョイ悪イケメン親父が全力疾走している様は滑稽だろう。場所が歌舞伎町ならヤクザの女に手を出した命知らずな色男が逃げているかのような醜態だった。
笑われてナンボだと思うロンドにしてみれば、ウケを狙いたいところ。
しかし、ツッコミ役が追いついてくる様子はない。
どうやらミレンはあちらのメイド長に足止めされたようなので、その指示に多少なりとも時間を取られているのだろう。
また、ロンドを追う道中には足止め要員もいっぱいだ。
世界を滅ぼすためにばら撒いた巨獣どもが襲いかかるに決まっている。
追加した巨大獣たちもツバサの敵ではないだろうが、無視して通り過ぎることもできず、倒すにしても少しは手間取るはずだ。
追いついてきてほしいような――もうちょっと時間を稼ぎたいような。
オジさんの心は微妙に複雑だった。
「兎にも角にも、あの鳥さんたちを何とかせんと……」
こっちも自由が利かん、とロンドは面倒臭そうに肩越しへ振り返る。
金翅鳥の大群が追いかけてきていた。
ツバサが魔法系技能をこねくり回して創った魔法生物だ。
潰えるまで悪を啄むとの触れ込みである。
全体的なフォルムは光りすぎてよくわからないが、鷹や鷲といった猛禽類に近いのだろう。翼長は個体差があり最低2m~最大6mと差があった。
そんな大型の鳥が群れを成して啄んでくるのだ。
大昔、鳥の群れに襲われるホラー映画を思い出させてくれる。
「こっちも怪物どもで対抗するのは下策だしなぁ」
これまでの道中、散々試して大失敗と反省したばかりである。
ロンド第一の過大能力――【遍く世界の敵を導かんとする滅亡の権化】。
心ある者が無意識の縁に幻視する欲動、俗に“対象a”とか“小文字の他者”と呼ばれる曖昧模糊とした畏怖や憧憬を具現化する能力。
小難しい言い方をすると上記のようになる。
バカにもわかるよう解説すれば、いくらでも怪物を創れるわけだ。
しかも対戦相手がいれば、そいつの弱点をいやらしく抉るデザインになる。簡単にいえば、虫嫌いなら昆虫型の怪物ばかりになるだろう。
あるいは――トラウマな人物の顔をした人面獣。
怪物の軍勢で押し潰す対軍制圧とともに、キツめの精神攻撃も強いる。
別に誰かの無意識に基づく必要もない。
ロンドが単独で行動していて周囲が誰もいなかろうとも、得体の知れない怪物による百鬼夜行を際限なく繰り出すことも朝飯前である。
ただし、適当な造形になるのは大目に見るしかない。
何でもいいから大量の怪物を創って、金翅鳥たちにぶつけて殺し合わせようとしたのだが、それが裏目に出てしまったらしい。
破壊神が創った怪物はやっぱり悪と判定されるようだ。
「出した傍から啄まれて、金ピカ鳥どもを元気にするだけだもんなぁ」
いくら怪物を創っても金翅鳥の餌になるだけだ。
悪の怪物を糧にすることで、金翅鳥はそれぞれ巨大化していく。細胞分裂するかのようにどんどん数を増やして手に負えなくなってきた。
群れの数なんて最初と比べたら倍に膨れ上がっている。
「適当な怪物の群れをぶつけるのは餌付けになって逆効果か……そんなら!」
――破壊神としての本腰を入れるまでだ。
ジャブの連発ではなく、腰の入ったストレートを決めてやればいい。
ロンドは空中で急ブレーキを掛けて立ち止まり、制動を働かせながら全身で振り返ると開いた右手を伸ばして、特別製の巨大獣を創造した。
「よーし、オジさんも博識だってとこ見せてやる!」
出でよ――カリュブディス!
掛け声とともにロンドの右手から放たれたのは黒い宝玉。
それは金翅鳥たちの眼前へ飛んでいくと、彼らの目の前で渦巻きながらアッという間に黒い大渦となった。渦巻く黒い濁流すべてが生命を持っている。
流動的な粘液を思わせる、女の黒髪にも似た濁流。
メンヘラ女の妄念が宿ったような髪は空中で渦を巻き、台風よろしくすべてを巻き込むべく猛回転を始めた。それは海に生じる渦潮のようにも見える。
この濁流めいた渦は捕縛ネットも同然。
渦の中心には大きな顎が開き、不揃いの牙を打ち鳴らす。
この餓えた顎に餌を運ぶための捕縛ネットである。
黒い大渦に絡め取られた金翅鳥たちは、それを啄む暇すら与えられず渦の中心へと引きずり込まれていくと、大顎に噛み砕かれていった。
一応、コイツも巨大獣の一種。先ほどまでの怪物とは格が違う。
巨大獣>>>>>巨獣>>>怪物。
格付け的にはこれくらいの格差があった。
ならば巨大獣ばかり創ればいいじゃない、とツッコまれそうだがそこはそれ。コスパとか製造までの手間暇とか掛ける労力への問題が山積みだった。
具体的には、怪物なら即興でいくらでも出せる。
巨獣だと集中する時間がいる。巨大獣なら念を込める時間も欲しい。
コイツは破壊神自ら名前も授けた特別製だった。
――カリュブディス。
出典はギリシャ神話、海に現れる正体不明の怪物だ。
元はそういう名前の人間の女なのだが、この女は常識はずれな大食らいだった。どれほどの食欲だったかといえば、近隣の家から何頭もの牛を盗んで、その肉を一人ですべて平らげてしまったというから異常な部類だろう。
そして、懲りないめげない諦めない。
ついでに反省もしない彼女の愚行に怒った最高神は、彼女を海の底へ追いやると、その理性の効かない食欲に見合う姿に変えてしまったという。
オリュンポス神族の伝統芸――天罰覿面な呪いである。
以来、彼女は海の底に棲み着く怪物となった。
一日に三回、海の底から大渦を起こして巻き込んだものを貪り尽くす。
そういう怪物に成り果ててしまったのだ。
(※場所はイタリア半島の南側の先端にあるメッシーナ海峡。ちなみに、その反対側は女怪物スキュラの生息圏なので、当時の船乗りはカリュブディスに食われるかスキュラに襲われるかの二択を迫られたという。またギリシャ神話の英雄の一人、オデュッセウスはこのカリュブディスに2回殺されかけている)
そのカリュブディスをモデルにした巨大獣だ。
「怪物を生み出す親玉は怪物にも詳しくねえとな」
そんなことを言われて、参謀役のマッコウさんから暇さえあれば怪物講座や妖怪談義、果ては邪神にまつわる講釈を聞かされたものだった。
今となっては懐かしい思い出だ。
悪を啄む金翅鳥といえど、反撃する間もなく貪られていく。
腹の中で反撃されているのか、カリュブディスは瞬く間に弱ってしまうが金翅鳥が出てくる様子もないので、どうやら対消滅しているらしい。
生きた大渦が消えても、そこから金ピカ鳥が現れることもなかった。
「よーしよしよし、3分の2は殺ったか?」
逆に言えば、3分の1は取り逃がしているわけだ。
残った金翅鳥の残党はカリュブディスの大渦を回避するように急上昇し、一度だけ旋回してからロンド目掛けて急降下してくる。
もう一度、カリュブディスを出せば殲滅させられるだろう。
しかし同じ手を使うのは芸がない。
「どうせだったら、別の怪物で仕留めてやらねぇとなぁ」
出でよ――野槌!
新たな巨大獣は掌から生み出さない。
ロンドの羽織るロングコートが翻り、その内側からズルリと野太い触手のようなものが現れた。それはスルスル伸びていき、やがて鎌首を擡げる。
主人を守るように取り巻く、規格外の巨体を誇る大蛇。
ただし、その蛇体は鱗ではなく焦茶色の体毛に覆われていた。
顔も蛇らしさは皆無。目もなければ鼻もない。
そもそも顔がなく、ただポッカリと虚のような大口が開いているだけ。その口も牙や歯といったものが見当たらず、分厚い唇らしきものがあるのみ。
大きな口を持つ毛むくじゃらの蚯蚓。
一言にまとめれば、そんな風体を持つ化け物だった。
ロンドは迫り来る金翅鳥たちを指差し、大口を開ける巨大獣に命じる。
「薙ぎ払え! じゃなかった……吸い尽くせ!」
発声器官があるかも怪しい巨大獣だが、やたらビブラートを効かせた奇声を上げると、辺りの大気をゴッソリ奪うほどの吸引力を発揮した。
大口は倍以上に広がり、そこからすべてを飲み込む竜巻が立ち上る。
金翅鳥は一匹残らず竜巻に巻き込まれていく。
竜巻ごと金翅鳥の群れを飲み干した巨大獣は、大きなゲップを漏らした。
「食い残しはないようだな……よくやった野槌」
ロンドは労をねぎらうように巨大獣の名を呼ばわった。
野槌――意外と知る人が多い妖怪かも知れない。
元を正せば古事記などにも登場する女神・萱野姫(あるいは草野姫)の別名とされており、野に潜む蛇体の神だったのではないかと推察されている。
だが時代を経るに連れて、段々と妖怪にされていく。
徳がないのに口だけは達者な僧侶が、死んだ後で目も鼻も手足も失い、口と身体だけの妖怪となって野を彷徨う。そして、出会った獣や人をその大きな口で丸呑みにして食べるとして恐れられたそうだ。
「……ま、ここまで巨大化するようになったのは最近だけどな」
絶対にゲゲゲ○鬼太郎の影響である。
あの作品のおかげで知名度を得て、格を上げた妖怪や神は少なくない。野槌もその恩恵を受けた妖怪の一体である。水木しげる先生様々だ。
虐げられた神々の代表として厚く御礼申し上げたい。
ロンドも一介のファンである。
500年に及ぶ地球生活。面白いと思うものは知識であれ娯楽であれ、手当たり次第に見聞してきたものだが、漫画文化はその最たるものだ。
水木しげる作品は入れ込んだもののひとつである。
「今頃、本当に大妖怪とかになってそうな偉人だしなぁ……」
しみじみ思い出してしまう。
回想に思いを馳せている間にも、野槌は苦しそうに身悶えると先のカリュブディスと同じように消えてしまった。また金翅鳥と相討ちしたらしい。
「巨大獣でトントンかよ……おっかねえもん創りやがる」
兄ちゃんの新必殺技――――金翅烈日光。
即興で編み出した必殺技にしては攻撃力が尖っていた。
破壊神を倒すことを突き詰めた成果なのだろうが、いつもより注力マシマシにしたの巨大獣でようやく相殺できる魔法攻撃とか怖すぎる。
「やっぱ兄ちゃんと喧嘩する時はリミッターを解除せんとあかんな」
そろそろ本気になるか、とロンドも重い腰を上げようとする。
その時――項に破れるような感覚が走った。
ビリッ! と神経が引き千切られる衝撃。痛みはないが刺激的だった。
そして、破壊神らしからぬ悲哀が湧き上がる。
これは虫の報せにも似た、身近な人物の訃報を告げるものだった。
「ミレンちゃん……殺られたか」
ほんの少し前まで還らずの都上空に浮かんでいた円卓と、それを取り囲むソファがあった方角。そちらに哀愁を帯びた視線を向ける。
状況こそわからないが、彼女の死を感じることができた。
恐らく、クロコの仕業だ。
ツバサの気配はロンドを追跡しているのがビンビンに伝わってくるし、分身でしかないデブ執事にミレンを倒せるほどの力はない。消去法として、ミレンの足止めを買って出たであろうクロコしかいない。
メイド長同士の勝負は、変態メイドに軍配が上がったようだ。
柄にもなく涙腺が熱くなる。
「あんだけオレに滅ぼされたいって言ってたのにな……」
右腕は死んだ、頭脳役も消えた、これで秘書も失ってしまった。
――地球に渡って500年。
その中でも最長の付き合いになった腹心たち。
誰に頼ることもなく、何かの力を借りることもせず、単独で世界廃滅を推し進めることができる。それだけの自信を裏打ちする実力を持つロンドだが、気付けば虐げられし神々の末裔である彼らを拾い上げていた。
実のところ、彼らとは先祖の代から交流はあった。
しかし、ここまで長く付き従ってくれたのは三幹部が初めてだった。
同類相哀れむと言えばいいのか?
灰色の御子から迫害された彼らを見捨てられなかったのだ。
こういうらしくない些末な情は、父親の影響だとロンドは思っている。
あの父親は――破壊神を決して見捨てなかった。
「どうせみんな滅ぼすのによ……三幹部だってそのつもりだったのに……」
――なんだか切なくなっちまうな。
その一言を口にすると人間だった頃を思い出し、地球に置いてきた妻子のことまで思い出して感傷に縛られそうなので、堪えるように飲み干した。
振り切るようにロンドは背を向ける。
「……さ、先を急ぐか」
ただ闇雲に金翅鳥から逃げ惑っていたわけではない。
ちゃんと目的地がある。ツバサの兄ちゃんにしてやられた振りをしつつ、そこへ向かいながら金ピカ鳥どもを煙に巻こうと飛んでいたのだ。
目指す先は――世界大蓮。
銃神に消し飛ばされた跡地と、そこに散らばる残骸に用があった。
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世界大蓮は完全に破壊されていた。
大蓮と名前にあるが植物ではない。
あくまでも大きな蓮の花を象った巨大建造物である。茎に見える部分は巨大な塔にも匹敵する支柱であり、その上で花開いた大きな蓮は“終わりで始まりの卵”を抱える孵卵器の役割を与えられている。
支柱は根こそぎ消し飛んでいて跡形もない。
銃神を名乗るジェイクが放った砲撃で、大地ごと抉られていた。
波動砲みたいな一撃だったのだから無理もない。
孵卵器である大きな蓮の花部分も同様だ。
しかし、こちらは砲撃を浴びせ損ねた取りこぼしがあったのか、無数の花弁を揃えたような花が少しだけ残されていた。
ある花弁の残骸は巨大な慰霊碑のようにそびえ立ち、ある花弁の残骸は崩れかけて瓦礫の丘になりかけている。残骸にも千差万別、色々な有り様があった。
ロンドは残された残骸のひとつへ舞い降りる。
花弁を形作るのは、くすんだ大理石を思わせる硬度の高い建築素材。
銃神ジェイクの砲撃による余波なのか、軽く踏んだだけでグズグズと崩れる始末だ。自己修復機能があったとしても再建は望めないだろう。
「……酷ぇな。これしか残ってねぇのか」
思い切りが良すぎるだろ銃神、とロンドは毒突いた。
当人はそこら辺に寝転がっているはずだ。
破壊神の秘蔵っ子でもあるリードを相手に善戦し、ついには勝利を収めて痕跡も残さず抹消した後、最後の力を振り絞って世界大蓮を壊していた。
力を使い果たして卒倒中なのは想像に難くない。
正直、手塩に掛けたリードを殺された怨みもなくはない。
だが、消耗しすぎて気配も目立たない野郎をわざわざ探し出して、恨み辛みをぶちまけるかのように仕返しするのは気が引けた。
どうにも――破壊神らしくない。
負けた奴が阿呆なだけ、自他共にそう言い聞かせてきたのだ。
リードの敗北と死は惜しいと思うが、そのことを個人的な意趣返しとして果たしに行くのは、何とも人間的な感情に流されているではないか?
だから自粛する――無慈悲な破壊神として。
どうせ、もうすぐ真なる世界をこの手で滅ぼすのだ。
復活する様子も見せない拳銃使い一人、捨て置けばいい。
それよりも優先して調べたいことがあった。
そのためにツバサの兄ちゃんから尻を捲って逃げ出して、遙々こんな北の僻地まで足を運んだのである。さっさと用件を済ませよう。
崩れていく世界大蓮の残骸。
それを無造作に踏み潰してロンドは歩を進める。
「還らずの都みたいに、真なる世界の趨勢に関わってくる遺物だってLV999ならピンと来るだろうに……ここまで徹底的に壊すか普通? いくら破壊神が利用しようと悪巧みしてるって読めたからって……やり過ぎじゃねこれ?」
思わずブチブチ文句を垂れ流してしまう。
「……いや、思い切りがいいのは四神同盟や兄ちゃんか」
銃神が独断でやったとは思えない。
連中は独自の連絡網を構築しており、リアルタイムで状況報告のやり取りをしていたはずだ。銃神ジェイクもツバサたちに了解を得たに違いない。
『世界大蓮ごと宇宙卵をぶち壊してもいい?』
『OK、やっちゃえ銃神』
意訳だが、最低限これくらいの連絡は取り合ったはずだ。
「だとしてもだ、躊躇なく壊せたもんだぜ」
最終的な判断を下したのは、四神同盟の代表的存在であるツバサのはずだが、用心深くて慎重派な兄ちゃんらしく即決ぶりが気になった。
「いくら破壊神が悪用すると見破ってもだ」
還らずの都のように保護下へ置く発想に至らなかったのか?
「まるで対処法を知ってたみたいだな……」
宇宙卵――“終わりで始まりの卵”への対処法。
この遺物には出現条件が設定されている。
それと対を為すが如く無効化の条件も決まっていた。
この世界を継続したいと願うのであれば、宇宙卵も世界大蓮も木っ端微塵に破壊するしかない。壊すことで力と意志を示す必要があるのだ。
『まだ現世を終わらせない! 俺たちがこの世界を護っていく!』
その示威を表明するために宇宙卵を打ち壊すのだ。
知ってか知らずか、四神同盟を代表して銃神のやったことがこれである。
ロンド的には「壊すべきか守るべきか?」で二の足を踏んでもらい、自身とは別の破壊神が生まれるまで放置してもらいたかったところだ。
その破壊神も真なる世界を壊してくれる。
ロンドはロンドで、ツバサの兄ちゃんたちを始末すればいい。
四神同盟も真なる世界も程良く滅んだ頃には、宇宙卵から生まれた破壊神は新たな創造神へと転じるだろうが、そうなる前にロンドが仕留める。
斯くして――世界の終焉は相成るわけだ。
「……そう思ってた時期もオレにはありました、ってなもんだなこりゃ」
最初っから当てが外れたぜ、とロンドは残骸を蹴り飛ばす。
世界大蓮を形作っていた大理石のような建材が崩れると、その隙間から宇宙卵の欠片と思しき発光する卵の殻みたいなものがこぼれてきた。
「しかしなぁ、こいつだけはどうしても得心いかねぇんだよなぁ……」
ぼやいたロンドは興味なさげに眼を細めて摘まんでみる。
既に風化が始まっており、手に取っただけで脆くも崩れていく。
「宇宙卵の中身が空って……どういうことだよ!?」
誰かに責任を詰るわけにもいかず、ロンドは独りで憤ってしまった。
卵にも受精して幼体が孵るのを待つ受精卵と、精子と結びつくことなく排出される無精卵があるが、この宇宙卵はそのどちらでもなかった。
そもそも黄身が宿っていないのだ。
卵を割っても透明な白身しか入ってない状態である。
「おかしいだろこんなの!? 出現条件はちゃんとオールコンプした、だからこそ世界大蓮はこうやって出現したんだから……宇宙卵を産むべく周囲から“気”を掻き集めてもいた……なのに、肝心の中身が空っぽってどうよ?」
よもや――未達成の条件があったのか?
「それならまず世界大蓮が出てこねえし、卵を作りもしねぇよなぁ……?」
ならば――世界大蓮の機構に不備があった?
「古代神族と古代魔族が、この真なる世界が滅んだとしても自分たちの因子を存続させるため、心血を注いで完成させた輪廻転生の機構にか?」
それも考えにくい。連中の造る遺物の完成度は絶対に等しい。
還らずの都や天梯の方舟のように、滅多なことで壊れやしない。たとえ半壊寸前にまで追い込まれようとも、その役目を十全に果たすはずだ。
不完全だとしても、そのデメリットは精々弱体化。
宇宙卵から生まれる破壊神がちょっと弱いくらいのものだろう。
卵の黄身がないなんて事態は起こり得ない、珍事とすべき異常事態だった。
「……オレの与り知らない未知の要素でもあるのか?」
ロンドは顎に手を当てて思案する。
こういう時は初心に帰れ、と親父に教えられたものだ。
まず出現条件を振り返ってみよう。
何度も「ヨシ!」とトリプルチェックしたので、見落としはないと思うのだが、もしかすると抜かした条件があったりするかも知れない。
それが原因で卵の中身が空になった可能性もある。
そもそも出現条件がコンプリートできてなければ、世界大蓮が現れなさそうなものだが、上手いことその条件だけすり抜けることもあるだろう。良いのか悪いのか知らないが、妙な悪運が働いてしまった結果だ。
様々な考慮を踏まえるべく、世界大蓮の出現条件を再確認する。
これは以前、兄ちゃんが簡潔にまとめてくれた。
『この真なる世界から生まれた者が、どんな理由であれ世界を壊そうとする……それは世界に拒絶反応を引き起こし、いつかは限界を迎える……』
すると、世界は以下のような考えに辿り着く。
『この世界はもうダメだ――いっそ新しい世界を創ろう』
世界に意識があるならば、それに諦念を抱かせる。
自ら生んだ被造物を嫌悪するほど、世界を絶望のドン底へ叩き落とす。
「……ここまでが第一段階」
謂わば前提条件、世界大蓮を呼び起こすための下地である。
ここから引き金となる決定打が必要だった。
「世界を変える力を持つ者たちが――絶望を抱いて死ぬことだ」
四神同盟 VS 最悪にして絶死をもたらす終焉。
世界の守護者軍団 VS 世界の破壊者集団。
シンプルでわかりやすい対立構図だ。美しく素晴らしい。
どちらもLV999になるまで力を蓄え、自らの意志で世界の命運を決められるほどの実力を備えた超越者たちのグループだ。正面から激突すれば、双方どちらかに死傷者が出るのは必然。これはどうやっても避けようがない。
守護神の兄ちゃんの仲間が負けて死んでもいい。
破壊神の部下が殺られてくたばってもいい。
どちらに転んでも、世界を変える力を持つ者が絶望のまま死んでいくことに変わりはないからだ。戦況が進むほど死人は加算されていくだろう。
一人二人で足らない。最低でも九人は見積もりたい。
何人もの強者が絶望とともに死ななければならなかった。
いくつもの絶望に彩られた断末魔、それが世界大蓮を出現させるのだ。
これらの死者たちは贄である。
彼らは魂を掻き毟るような絶望ゆえに声を上げざるを得ない。
自らが望む新しい世界――理想を欲して叫ぶのだ。
新たな世界を渇望する声に世界大蓮は応え、その華に“終わりで始まりの卵”を抱くのだ。一名を宇宙卵とも呼ばれるこの卵に宿る者こそ、今ある現世を打ち壊す破壊神にして、まだ見ぬ来世を創り出す創造神となるのだ。
「改まって考えてみると……出現条件といっても2つしかないんだよな」
ひとつ、世界を荒らして再起不能に追い詰める。
(※世界の意識ともいうべき思念体を諦めさせなければいけない)
ふたつ、強者を何人も絶望させながら死なせる。
(※その強者は一人でも世界の命運を左右できるほど力があること)
付帯する条件もあれど、大きく見ればこの2つのみだ。
どちらもちゃんとクリアしている。それが証拠に世界大蓮は見事に咲き誇り、そこに見せかけだけとはいえ宇宙卵を孵そうと動き出していた。
宇宙卵の滋養となる“気”の収集も進んでいた。
「なのに、一番大事な中身が……この場合は卵だから黄身か? が入ってないないなんてな……不備とか不具合とか、そんな単純なもんじゃねえだろ?」
宇宙卵を育むシステムは正常に働いていた。
ただし――肝心の中身がない。
仮にロンドの踏んだ手順に誤りがあったり、宇宙卵を創る装置に不備があったり、システムそのものにバグなどの不具合が生じていたとすれば、世界大蓮そのものが出現しないはずだ。
こんな期待外れな誤作動をすることもない。
そもそも準備段階に間違いがあれば起動さえしないだろう。
「……だが、世界大蓮は現れた。宇宙卵を創ろうとした」
正常に動こうとしていたのは疑いようがない。なのに、どうして生み出すべき卵の中身が空だったのか? 無精卵どころか黄身もない状態だったのか?
まるで――始めから用意されてなかったようだ。
「いくら考えてもわからんやろなぁ」
いきなり降って湧いた声にロンドは震え上がった。
破壊神として君臨してきたが、これほどの怖気に震えたのは久し振りだった。直近だと、ツバサの覇気に当てられて身震いしたくらいのものだ。
あの兄ちゃん――とんでもない覇気の持ち主だぞ。
抜山蓋世、圧倒的な力で山を引っこ抜いて世界に蓋をするほどの気迫。この世を絶対的な力で統べることができる者にのみ許される風格。
いわゆる覇王色の覇気というやつだ。
ロンドの戦闘狂な部分がいきり勃ちそうな極上物である。
しかし、この怖気はツバサの覇気とは質が違う。
たとえるなら、悪ガキの悪戯を見つけた親が放つ威圧感。
それに近しいものだった。
声の主はロンドの背後にいる。距離にして数歩、そこまで近距離に迫りながら、声を発するまでこちらに気配をまったく感じさせなかった。
この事実にも戦慄させられるが、ロンドは声自体に脅えていた。
とても――懐かしい声なのだ。
ここまで忍び寄られたのに、警戒することも忘れて喜びにも似た感情が湧き上がるあまり、反射的に振り返ってしまったほどだった。
不用心かつ無防備に、背後に立った人物の顔を拝もうとする。
「おい……まさかがはぅあッ!?」
瞬間、土手っ腹に強烈が一撃をお見舞いされた。
掛けた声が濁音の悲鳴に変わる。
身体が“く”の字に曲がるほどの激痛は久し振りだった。全身の肉と骨と臓器をバラバラに解体しそうな衝撃は、意識まで弾け飛ばす威力があった。
ロンドの鳩尾に掌底を叩き込んできた人物。
彼こそが声の主であり、懐古の念を擽る声で続けてきた。
「宇宙卵が孵らぬ最大の誤算――それはおんどれや」
そこにいたのは一人の老爺だった。
浅黒い肌をした痩躯だが、身体の芯と筋がしっかりしている。
痩せているのも厳しい錬磨を重ねてきたからだ。年相応に枯れた五体でありながら、その骨格には限界ギリギリまで絞った筋肉がまとわりついていた。
その四肢は細長く、蟷螂などの昆虫を連想させる。
痩せ細った痩身には地球でいうところのインド風な衣装、それも彼の国で遊行僧と呼ばれる人々が着るような白衣をまとっていた。
ギョロリと三世を見つめる大きな眼に、ロンドは射竦められる。
まるで恩師に睨まれる悪童のように動けなかった。
猛禽類の嘴を思わせる鉤鼻というか鷲鼻、その下から生える口髭は左右へ流れ落ちており、それぞれ一本の長いタスキのように腰まで伸びている。
癖のある総白髪は後頭部で軽くまとめていた。
ロンドはこの老人を知っている――それはもう嫌というほどにだ。
「りぃ、聖賢師……ノラシンハ・マハーバリぃ……ッ!」
ええんがな、とノラシンハはぞんざいに口癖で答える。手癖でもあるタスキみたいな髭を指で扱く仕種も欠かさない。
「久し振りやな、シェーシャ……いや、名前を変えとるんやったな」
ノラシンハは訂正して言い直す。
「今は“輪廻の時はもう来ない”やったか? 大層な名にしたもんやな」
「ぐぅぅぅがぁ……あああっ、ほ、ほっとけぇ……ッッ!」
激痛が引かない。治まるどころか増すばかりだ。
冗談でも比喩でもなく、本当に全身がバラバラになりかけていた。
次から次へと関節が外れて、骨という骨が粉砕骨折し、筋肉も脂肪も見境なく引き千切れて、臓器が片っ端から弾け飛んでいく。
怪物を創る過大能力の応用で、損傷した肉体の代替品を作り出す。
壊れた部位の代わりができる怪物を作り、入れ替えるように移植することで定着させ、肉体的ダメージをなかったことにするロンドの得意技だ。
神族や魔族の血を引く灰色の御子。
本来、不老不死であるはずの彼らも地球では老化を余儀なくされた。
ただし、そこは不思議パワーを持つ神や悪魔の末裔。
抜け道を探す方法はいくらでも見繕えた。
しかし、自前の能力で老化を乗り切った者は指折り数えるほどだろう。ロンドはこの方法で500年間、ほぼ老いることなくやり過ごしてきた。
チョイ悪親父の見た目は故意――わざとである。
だというのに……。
「うぐぅおぉ……い、移植が……入れ替えが追いつかねえええッ!?」
新しい部位を移植しても即座に壊される。
移植用の部位となる怪物を生み出すことさえままならない。まごついている間にも身体はバラされていき、末端から再生不可能になるまで死んでいく。
さっきの掌底――あれはまさに必殺の一撃だった。
破壊神という個を否定する一撃。
いやさ、多種族だろうが神族だろうが魔族だろうが、それこそ死の概念すらないはずの蕃神にすら滅びという名の死を叩き込む。
まともに食らえば絶対の死あるのみ。
回復する術はなく、細胞の一片まで死滅していく。
「人獅子絶殺打……ッ!」
「覚えとったか、オレの得意技や」
忘れるかよ……と答えたいが、声帯までも壊死を始めた。
うつ伏せに倒れて無様に地面でのた打ち回るロンドを見下ろしながら、ノラシンハは頭の悪い生徒へ言い聞かせる教師よろしく説いてくる。
「終わりで始まりの卵はな、一世代にひとつしか産まれんもんや」
それはロンドの疑問を氷解させるものだった。
「そん卵から生まれてくる破壊神で創造神となるものもな、一世代につき一柱と決まっとる……当代がまだ現役なら、次代を産む意味があらへんがな」
「当代が現役……だとぉぉぉ……ッッ!?」
最初、言葉の意味がまったくわからなかった。
脳細胞まで一撃必殺の効果が及んで死にかけているようだから、懸命に脳細胞を補充して思考を巡らせ、その言葉の真意を探ろうとする。
霞む視界で見上げると、こちらを見下ろすノラシンハと眼が合った。
――この選択に後悔はない。
だが、詫びの気持ちと親愛の情が交錯している。
ロンドを見つめるノラシンハの眼に宿る光はそう汲み取れた。
彼の真意を察したロンドは愕然とする。
「ッッッ!? ま、さか……そうだっていうのかッ!?」
ふと歯車が噛み合うように理解する。
「オレがこうで……アンタが……なのも……そうなのかよ!?」
ノラシンハは沈黙で押し通そうとした。
「………………せやな」
だが、言葉のみならず眼でも訴えるロンドの圧に耐えきれなくなったのか、渋々ながらも肯定した。弱々しく目を背けながらだ。
やっと――腑に落ちた。
破壊神として真なる世界に生を受けた意味、母親の顔を知らぬまま親父に育てられた理由、内在異性具現化者のように相反する両義を抱えた存在。
破壊神でありながら――生命を創造する能力。
見逃してきた違和感を解きほぐすことができそうだった。
生まれ落ちてから悩んできた疑問、その解消に指が届いた気分である。
「ク、クハハァ……なるほどぉ、当代が現役かぁ!」
そういうことかよ! とロンドは再生した声帯を張り上げた。
「そりゃあ孵らねえわけだぜ! 終わりで始まりの卵ッ!」
ロングコートが突風に煽られるようにはためいたかと思えば、ロンドの背中からドス黒い暗雲が噴き上がる。その雲の中から無数の手が伸びてきた。
「当代がピンピンしてんだから次はまだってわけか? 当たり前だよなぁッ!」
過大能力で創り出される怪物どもの腕だ。
「なんやと!? 絶殺打をもろうてまだ……ぬおっ!?」
暗雲から現れた怪物の群れは、伸ばした手でノラシンハに掴みかかる。
ドス黒い雲に見える部分も、血肉の通った未分裂の怪物の一部だ。百鬼夜行がドロドロに融合したような案配と思ってもらえばいい。
質量もあるので、勢いよく叩きつければ土石流の如く重い。
「おおおおおおおおおおおッ!?」
その痩身では受け止めきれず、怪物どもの腕やら足やら体当たりやらで揉みくちゃにされながら、ノラシンハは吹き飛ばされていく。
「グハハハーッ! 相変わらず詰めは甘々ちゃんだなぁ聖賢師サマよぉ!」
石碑のように屹立していた世界大蓮の破片。
そこにノラシンハを叩きつけ、残骸の海を漫遊するようにゴガガガガガーッ! と鼓膜に悪そうな破砕音を響かせて押し潰しまくる。
トドメとばかりに、不定型な怪物のドロドロで練り固めてやった。
「どういうこっちゃ……なして死なへんのや!?」
粘液状に溶け合う怪物どもの汚泥。
その下敷きにされながらも細い手足で藻掻くノラシンハは、黒いヘドロの底から顔を覗かせると、たたでさえデカいギョロ目を更に大きくしていた。
何者であれ一撃の下に殺しきる奥義。
拳聖と謳われた力が通じない事実に驚きを禁じ得ないようだ。
「いいや、みんな一発で死んじまったぜ。正直、オレもヤバかった……」
ロンドは立ち上がりながらスーツの埃を払った。
パンパンと叩く手に合わせて、身に付けている高級スーツやロングコートがボロボロと引き裂かれていく。その破れ方は生物的な生々しさがあり、安っぽい生ハムの薄切りを引っ張ったらほどけた感触に似ている。
叩くとともに破れ落ちていくロンドの衣装。
その下からまったく同質の衣服が現れる。まるで早着替えのようだ。
「そうか……服まで怪物仕立てやな?」
生命体のように脈打つ装束からノラシンハは看破した。
ご名答、とロンドは悪役の微笑みで返す。
「蕃神の“王”ですら一撃で殺しちまう、アンタみたいな最強ジジイが真なる世界にはゴロゴロいるって承知の上だ。対策しねえ方がおかしいだろ」
どんな敵であろうとも一撃で殺す技。
回避が難しい精度で放たれ、防御しても意味はなく、如何なる手段を以てしても治すことができない。そんな必殺技、どのように防げばいいのか?
答えは「盾となる身代わりを用意する」だった。
この手の必殺技には意外とルールがある。
扱う当人の膂力も然る事ながら、自然界の法則を捻じ曲げるほどの意志力が介在する場合が多く、それゆえに常識の埒外な効果を現すものだ。
バカの一念岩をも徹す、というやつである。
(※正しくは「虚仮の一念岩をも徹す」)
あるいは、無理が通れば道理が引っ込むみたいなものだ。
尋常ならざる力で奇跡をゴリ押すタイプの必殺技は融通が利かない。
一撃必殺ならば言葉通りに「一撃で必ず殺す」ものの、それは殴りつけた対象に限られてしまうのだ。一撃一殺と漢字を入れ替えてもいい。
ノラシンハの人獅子絶殺打はまさにこれである。
「どんな奴でも一発KO! 裏を返せば、一発で何かを仕留めたら効力を使い果たすってことだろ? 後はただひたすら痛いだけのパンチじゃねえか」
それだけでも十二分な脅威なのだが……。
況してや拳聖の異名で恐れられた無手勝流の達人である。
手加減一発、擦っただけでも内臓破裂は免れまい。
だが「一撃で必ず殺す」という効果を削げば、こちらの生存する確率はグンと上がる。こうして逆転の目も狙えるチャンスもできた。
「手も足も腰も……体幹まで押さえ込まれちゃ拳も構えられまいよ?」
高を括りながらもロンドは注意深く行動する。
全身から怪物となる暗雲を湧かせると、瞬く間に何匹もの怪物が溶け合ったような不定形の生物に変える。質量的も大増量させた、重量もt単位の桁違いに重いブラックスライムともいうべき化け物だ。
それをノラシンハに覆い被せ、致命的な追い打ちを仕掛けていく。
だというのに、老人のギョロ目は死んでいなかった。
浴びせかけただけで石柱でも縦に潰す過重だというのに、ノラシンハは重苦しい汚泥に潰されたまま勝ち気に片頬を釣り上げる。
「うぅむ……お互いの手の内は知り尽くしてちゅうことかいな」
果たして――それは全部やろか?
この一言に不吉な予感を覚えたロンドだが、確実なトドメを刺すよりも早くノラシンハが行動を起こした。リアクションを取る間も与えてくれない。
怪物の融合体、ブラックスライムが吹き飛ばされる。
並々ならぬ重圧を備えた汚泥が飛沫となって散り散りになっていく。
ノラシンハが気迫だけで吹き飛ばしたのだ。
覇気そのものを強大なエネルギー波にしたかのように、老人から巻き上がる目映い闘気が鉛よりも重いブラックスライムを消滅させる。
「……妙だとは思わへんかったのか?」
黒い汚泥を塵に変えたノラシンハは問い掛けてくる。
問題を読み違えた弟子を問い詰める師のようだ。
その全身から赤い闘気を発するとともに、凄まじい熱を起こしているのか真っ白い蒸気を噴き上げている。単純に肉体の出力を上げているだけではない。
身体の内外で劇的な変異がおきているのが見て取れる。
やがてノラシンハの肉体が変容を始めた。
痩せた身体が筋肉で膨れ上がり、身の丈が倍以上に巨大化していく。
変身を続けながらノラシンハは語る。
「一撃必殺は一撃一殺……その仕組みにビビって、着衣はおろか肌着まで怪物で作り込んで、そいつらに一撃必殺を肩代わりさせたようやけども、そん割にゃあおんどれもごっつう痛かったんやないのかい?」
「た、確かに……」
ノラシンハの迫力に押されるロンドは反論できない。
先ほどの一撃必殺――衣服に仕立てた怪物たちで防いだはずだ。
ロングコート、ジャケット、ワイシャツ、肌着、ズボン、パンツ(オッサンなのでトランクス派)……下着類は念のため何重にも着込んでおいた。
にもかかわらず、ロンド本人にも死を覚悟するダメージが届いたのだ。
一撃必殺のオマケだとしても威力がおかしい。
赤い闘気と白い蒸気をまとい、ノラシンハは変貌する。
全長は3mを越えて4m……ひょっとすると5mくらいはあるだろう。
痩せ細った肉体は恐ろしい密度の筋肉で鎧われ、筋肉モリモリマッチョの変態どころの話ではない。極限を超えてパンプアップしたキングコングだ。
大木と見紛う両腕、鉄柱にしか思えない両脚。
全身を覆う筋肉は光沢を帯びて白金に輝いていた。
殴られても蹴られても、必殺技とは関係なく一撃で殺されそうだ。
まとめていた白髪はほどけて毛髪の量を増している。
巨大化した肉体に見合う量になっており、まるで獅子の鬣のようだった。真っ白い乱髪は闘気や蒸気によって舞い踊っている。
顔立ちも獣面に近くなるよう変化しており、隈取りのような筋肉の皺が走ったその顔は獅子のようでいて人間、人間でありながら獅子の面立ちだった。
まさしく人獅子と呼ぶに相応しいだろう。
純白の鬣を振り乱し、白金の豪腕を構える姿にある伝説を思い出す。
その昔――絶対に死なない魔族がいた。
死にも勝る苦行を乗り越えた成果として得た不死身の肉体を笠に着て、悪行三昧の限りを尽くしたある日、とある神族の天誅によって葬られる。
この不死身の肉体には決まり事があった。
『日が昇る昼と日が沈む夜には死なない。建物の外でも建物の中でも殺せない。大地に足が付いてる時も、その身が空中にある時も害せない』
『神族、魔族、多種族、獣や動物、モンスターも傷つけられない』
『そして、如何なる武器や兵器の攻撃も通じない』
殺す機会もなければ弱点もないとしか思えなかった。
そこで彼を誅殺した神族は一計を案じた。
『昼でなければ夜でもない夕方に、建物の外でも中でもない玄関で、割れた柱から生を受けた神族でも魔族でも多種族でも動物でもモンスターでもない獅子の頭を持つ人間の姿で、大地でも空中でもない自らの膝の上で殺す』
そうやって――不死身の魔族を倒した。
この魔族を誅殺したのは、世界維持をモットーとする神族の代表。
彼は様々なものに化身する能力を利用して、不死身の魔族が手に入れた死なないルールの穴を突く方法を模索していたのだ。
苦肉の策、という気がしないでもない無理やり感もあるが……。
世界を維持せんとする神族――ヴィシュヌ族。
マハーバリー族はその傍流であり、ノラシンハは末裔に当たるのだ。
「伝承化身――人獅子大帝」
変身した巨体で獅子顔の老爺はそう名乗った。
ロンドはちょっと唖然とするも、気を取り直して指摘する。
「……なんだそりゃ? 変身ヒーローの真似事かよ? 超サ○ヤ人3? ギア4○ウンドマン? それともゴンさんかよ? デッカくなりやがって……」
初めて見たぜ、とロンドは怨むように言葉を添える。
正直――裏切られた気分に近い。
「そりゃ悪かった。見せたことあらへんからのぅ」
ノラシンハは肥大化した身体に見合う野太い声で返してきた。
「こいつを拝ませた輩は――みんな殺しとるからな」
「絶対殺す宣言ってわけかよ……」
道理でロンドが見せてもらってないわけだ。長い付き合いなので叱られたことは星の数ほどあるものの、殺意を向けられたことは一度もない。
そのノラシンハが人獅子大帝を解禁した。
これはロンドを殺す覚悟を決めたことを意味する。
まあ、放蕩三昧にやってきたので愛想を尽かされるのも無理はない。
見限られて当たり前か……とロンドは密かに嘆息した。
「伝説になった偉神の功績をなぞるように再現でもするのかよ……」
分析で変身の仕組みはそこまで読み取れた。
涼しい顔で皮肉をぶつけたロンドだが、誰にも見えない背中では滝のような冷や汗が流れていた。この変身の恐ろしさを理解できるからだ。
この変身はハッタリではない。
アニメや漫画のヒーローやヴィランが、強化形態へとパワーアップする。
伝承された化身とある通り、過去に名を馳せた神族や魔族を模倣するようだが、伝説として語り継がれてきた分だけの歴史の重みが加味されていた。
だからこそ――本家より断然強い。
釣り逃した魚に尾鰭が付いて大物になるように、落とした小さな針が話を経る毎に棒よりも大きくなるように、伝説は語り継がれるほど濃さを増す。
伝承される主役の力も弥増していくのだ。
目の前にいるのは、かつて不死身の魔族を殺した人獅子ではない。
伝承という名の強化を付与され――大帝の称号を得ていた。
「せやな。人獅子が一撃必殺を為したちゅうんなら……」
ノラシンハが動き出す、その兆を見落とせば即死も有り得るだろう。
ロンドは怪物の素となる暗雲を噴かせながら身構えた。
「――人獅子大帝なら一撃全殺はイケるな」
嘯いたノラシンハは突然、獅子らしく咆哮を上げた。
「グゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーッッッ!」
空間をひしゃげさせるほどの衝撃波が発声する。
次の瞬間――視界が潰された。
何も見えない暗黒の中、ロンドは自身を圧殺しようとする空前絶後の打撃力を受けていると危機感を抱くものの、何が起きたのかまったくわからない。
直前の光景をフラッシュバックのように思い出す。
獅子と化したノラシンハは、攻撃的な衝撃波を伴う遠吠えを放ってきた。
その衝撃波に乗って一気に飛びかかってきたのだ。
衝撃波という津波を乗りこなして、空間ごと吹き飛ばすことで空気を始めとした様々な抵抗をも無効化し、超常的な初速度を叩き出したのだろう。
凶暴なスリップストリームを悪用したものだ。
(※高速で動くものは速度を上げれば空気抵抗とぶつかることになるが、その後ろでは空気が押し退けられている。その分だけ空気圧が下がって空気抵抗が薄く、しかも巻き込む気流も発生しているため、前へ進もうとする推進力として利用することができる。これをスリップストリームという)
当人の瞬発力も筋肉ダルマと化したのに半端ではない。
巨大な鉄塊が気安く第一宇宙速度を飛び越えたようなものだ。
(※音速は秒速340m、第一宇宙速度は秒速7.9㎞)
そして、白金の豪腕を繰り出してきた。
咄嗟にロンドは腕を交差させ、無意識に防御体勢を取っていた。
湧かせておいた黒雲を硬そうな怪物にすることで、防御力アップも忘れない。ツバサほどではないが、それぐらいの用心深さはあった。
だが、どれもが徒労に終わる。
鉄壁のように硬化させた怪物ごと両腕をへし折られ、ひしゃげた両腕ごと胸板に豪拳を叩き込まれ、肋骨も肺も心臓も脊柱もグシャグシャに潰される。
そのダメージは視界を黒で塗り潰すに十分だった。
過大能力を総動員させて、怪物を代替組織にしても追いつかない。一時的に脳や視神経への血流が途絶えたので視界がブラックアウトしたのだ。
瞬時に回復させても視界はぼやけたままである。
気付いた時には、世界大蓮の破片を何回も突き抜けていた。
途方もないパンチで吹き飛ばされていたらしい。
こちらが踏み止まることも許さない運動エネルギーとともに、肉体の内側から爆ぜさせるような破壊力を注ぎ込む豪華なオマケ付きだ。地球における中国拳法などで言うところの“発勁”というやつだ。
「い、一撃必殺じゃねえ……一撃、全殺か……ッ!」
一撃で必ず殺すのではなく、一撃で遍く全てを殺し尽くす。
看板に偽りのない威力だった。
高級な衣服に化けさせた怪物どもは死に絶え、壊れた箇所を怪物で埋め合わせるのが精一杯だった。一瞬でも気を許せば全身の細胞が死に絶えてしまう。
怪物を創っても創っても――死んでいくのだ。
為す術なく豪速で吹き飛ばされるも、肉体の再構成に全集中する。
「おんどれは怪物を創るんやない」
その時、ノラシンハの声が聞こえてきた。
自らが殴り飛ばしたロンドへ追いつき、頭上に陣取っているのだ。
同じ速度で飛びながら淡々とノラシンハは続ける。
「無限の怪物が巣食う総体や……ほならな、総体をすべてぶっ殺せば、おんどれという不死身の破壊神も殺し切れるんとちゃうか?」
無限大の命でも延々と殺せばいつかは死ぬ。
脳筋戦法も甚だしいが、それを一撃でできるなら話は別だ。
無限大の命を一撃で全て殺せばいいのだから……。
「……頭いいな、さすが聖賢師サマ」
苦し紛れの負け惜しみを呟いて、ロンドは目を瞑る。
鉄柱の如き剛脚から振り落とされる踵落とし。
まだ吹き飛ばされているロンドはろくに防げず、顔の左側面へまともに食らってしまう。頭蓋骨がパンクするような激痛だが歯も食い縛れない。
本当に破裂しそうで歯の根も合わないからだ。
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その中心に叩き込まれたロンドだが、ドリル顔負けの速さで地中へと沈められていく。どれだけ力を注ぎ込めばこんな蹴りになるんだ!?
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幼き日に後ろ髪を引かれるのか、ノラシンハには苦手意識があった。時分でも気付かないうちに、反撃の手を緩めているのかも知れない。
だが、それは悪ガキだった時分の話だ。
いい年こいたオッサンがジジイにビビる理由にはならない。
ロンドは苛立ちを焚き付けて怒りの炎を燃やす。
「やりたい放題やってくれるな……ええ、筋肉ライオンマンよぉ……」
声が怒りに震えるのを抑えられなかった。
ロンドにも破壊神の矜持がある。
破壊神なのに全身を壊される攻撃を食らい続け、面目丸潰れな辛酸を舐めさせられていることにムカっ腹が立って仕方なかった。
しかも相手は、棺桶に両足を突っ込んでいるような老いぼれである。
激怒を起爆剤にして全能力を賦活させていく。
限界を超えて怪物を創り出し、壊れた肉体の瞬時に立て直した。
「ふざけんな――このロートルがぁぁッ!」
そうして無理やりにでも五体を復元させたロンドは、無数の怪物を護衛のように引き連れながら地上を飛び越え、上空まで舞い戻ってきた。
人獅子大帝と再び対峙する破壊神。
「今更しゃしゃり出てきてまだ全盛期とでも言い張るつもりか!? 老いてなおお盛んかよ!? いいか、アンタの出番は疾うの昔に終わってんだ!」
怪物たちを右手に集めて変形させていく。
ノラシンハを睨みつけながらロンドは曰くありげに吐き捨てる
「オレを殺したところで過去は帳消しにならねぇぞ!?」
硬く鋭く尖らせたそれは、破城槌顔負けの大きな槍となった。後部からはジェット噴射のように火を噴かせて、ノラシンハへ突撃させる。
城をも穿つ大槍をノラシンハは額で受けた。
「ああ、ええがな……わかっとるがな、そないなことはな」
「ぬぅ……ぁんだとぉ!?」
直撃するが突き立たない。槍の穂先が少しも肉にめり込まない。
ロンド自身が筋力を強化させて押し込んでも、ビクともしない。筋骨隆々となった肉体は攻撃力のみならず、身体能力の頑丈さも跳ね上げているようだ。
悲しげな色を両眼に宿したノラシンハは、むんずと大槍と掴む。
握力のみで大槍をへし折りながら言葉を続ける。
「それでもな、ケジメはつけなアカンねん」
破壊神ロンド・エンドを始末する――これがノラシンハのケジメ。
他でもない、その理由はロンドが誰よりも知っていた。
「それが大人っちゅうもんやで……シェーシャ」
噛んで含めるような優しい物言いに、ロンドは激昂するまま吠える。
「いいかげん、その名で呼ぶんじゃねえ……親父ぃッ!」
500年振りにそう呼んだ瞬間、右の頬が大爆発を起こした。
ロンドの突き出した怪物の大槍を握り潰したノラシンハが、猛然とした加速で詰め寄ってきて、豪腕でおもいっきり殴ってきたからだ。
あちらも獅子面を怒らせて激昂している。
「父上呼べいうたやろがアホンダラ! 百歩譲って父さんや!」
こん阿呆坊がッッッ! ともう一発殴られる。
そういえば――ロンドに負けず劣らず父親も短気だった。
年食って多少は丸くなったが、血潮が昂ぶれば御覧の通りである。
そこからは圧倒的なフルボッコが始まった。
打ち出される豪拳はすべて一撃全殺、それを連続で食らう。
防戦どころではない。致命傷がロンドの中心へ届かないように、必死の思いで怪物を繰り出して身を守ることに専念するしかなかった。
無呼吸連打が絶え間なく続けられる。
父親としての仕置きもあるのだろうが、あまりにも凄絶だった。
無限に生まれてくる怪物の総体とはノラシンハの評価だが、その無限を殺し切るような勢いで一撃全殺の拳を叩き込まれるのだから堪らない。
なのに、ロンドは薄ら笑いを浮かべていた。
嬉しくて堪らない笑顔だった。
これだ――これこそが拳聖ノラシンハ・マハーバリである。
過去・現在・未来のどこでも見渡せる“三世を見通す眼”で予言者や占術師と崇められたノラシンハは、彼の人生においては晩年でしかない。
人獅子の異名で恐れられた、古今無双の拳聖ノラシンハ。
蕃神の“王”をも一撃で倒した英雄神の一柱。
神眼の遠隔視“三世を見通す眼”も、本来ならば一撃で敵を仕留めるための観察眼と洞察力を極めた先に体得したものである。
この強さこそ、幼き日のロンドを尊敬させた理由だった。
「……まだ、衰えちゃいなかったか」
自分が殺される寸前まで追い込まれているというのに、それをこの身を以て確認できたことが、何故かロンドは無性に嬉しかった。
自然と笑みも零れてしまうくらいだ。
「息子としても破壊神としても……乗り越える価値があるってもんだ!」
バサリ、とロンドはロングコートを翻す。
これも衣装の形を借りた怪物だが身を守る防具でもあるため、即興で創れる怪物どもよりは力も質もより強い仕上がりになっている。
ロンドの意を酌んだ怪物コートは形を変えた。
それは三対六本の大蛇となり、ロンドの意のままに動く蛇の腕となってノラシンハの猛攻へ反撃していく。
この程度で怯むわけもなく、ノラシンハは乱舞のような連打を止めない。
六匹の大蛇と一対の豪拳が凄まじく競り合う。
互いを撃墜させる勢いで激突するため、大気を割る衝突音が鳴り止まない。人間がこれを聞けば、鼓膜が割れるどころが脳が泡となるだろう。
その攻防も10秒と保たずに終了を迎えてしまう。
ノラシンハは豪拳で円を描くよう動かした。
ほんの少し、些細な動作にしか見えない。
それは六匹の大蛇の襲いかかろうとする軌道をズラして、あっという間にひとまとめにすると、邪魔そうに裏拳で払い除けられる。
合気の冴えか柔術の巧みか――軽やかに受け流されてしまった。
大蛇たちはロンドの背中から生えている。
彼らが払い除けられれば、ロンドも釣られるように体勢を崩しかない。
拳聖の尊称は伊達ではない。
ノラシンハは殴る蹴るどつくの単純な格闘バカではなく、剛柔と虚実を自在に使い分けるテクニカルファイターでもあるのだ。
4m越えの筋肉ライオンマンになろうと、それは変わらなかった。
「くそったれ! 体術はそっちが一日の長かよ!?」
ロンドは慌てて体勢を立て直そうとする。
万が一に備えて、怪物の百鬼夜行を目の前に湧かせておき、おいそれとノラシンハが踏み込んでこないように防壁の予防策も忘れない。
構うことなくノラシンハは突っ込んでくる。
「一日やない――万年の長や」
ノラシンハは鉄柱の如き剛脚を振り回す。
シンプル極まりない回し蹴りだ。
たったそれだけで、百鬼夜行は鼻であしらうかのごとく一蹴されてしまった。直撃することもなく、振り抜いた圧力だけで消し飛ばされていた。
「……嘘だろおい!?」
ロンドの知る父親、その全盛期のパワーを上回ってないか?
破壊された肉体組織の代替品となる怪物。そちらを節約してまで用意した防壁がまったくの役立たずで終わったことに慌てる暇もない。
一撃全殺の拳を引き絞る人獅子大帝が迫っているからだ。
――腰撓めにされた右の豪拳。
それは時を追うごとに、深紅の闘気と白銀の蒸気を噴き上げつつも右腕にまとわせ、竜巻のようなエネルギー波を轟かせて力を溜め込んでいた。
息子の真なる名前を叫び、ノラシンハは張り裂けそうな声で豪拳を繰り出す。
「これで終いや! シェーシャ・マハーバリッ!」
一撃全殺の豪拳は――破壊神の総体を強かに打ちのめした。
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(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
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芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
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