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第18章 終わる世界と始まる想世
第427話:最悪の老害VS最強の老兵
しおりを挟む「奇なる神の兵――と書いて奇神兵」
「それがおまえら……エンテイ帝国で用意した大型歩兵か」
執事らしく女主人に側仕えするダオンは、ツバサからの質疑応答を予見していたのか、説明に添付すべき資料を取り揃えていた。
燕尾服を着た肥満体、周囲にはいくつもの映像スクリーンが浮かぶ。
覗いてみると、そこには奇神兵のスペックについて記されていた。
機動兵器の仕様書みたいなものである。
長男が巨大ロボ大好きな工作者なのと、超機械生命体なスプリガン族を仲間にした経緯もあってか、ツバサもこうした資料への読解力が付いていた。
なので――物足りなさを覚える。
重要な箇所、大事な部分を明記していないのだ。
援軍に駆けつけたと公言するも、四神同盟とキョウコウ一派はかつて敵対関係。機密事項などの秘匿したいブラックボックスは隠されていた。
恐らく帝王は大して気にしないだろう。
しかし、兵器を作った工作者はいい顔をしないはずだ。丹誠込めた自身の技術力を余所へ流されるのは看過できまい。
ダオンの資料には、そういった技術者への配慮が窺えた。
中間管理職としては褒めるべき気配りだろう。
数枚のスクリーンをツバサへ恭しく差し出してくる。
「重装だな。武装ではなく装甲がだが……戦闘手段は能力に依存か。装着した仮面の効果で、神や悪魔の逸話に基づいた装備が展開すると……」
流し読みで奇神兵の成り立ちを把握する。
脳内では、こちらの準備した兵隊の基本性能を思い返していた。
四神同盟の大型歩兵――巨将。
分類的には、100m級の体格を持つ自律式大型ゴーレムだ。
特別な術式プログラムを施した龍宝玉を中枢核として、万里眼イヨが日本の歴史から拾い集めてきた歴戦の武将たちへの憧憬を宿し、乙将オリベの過大能力である硬軟自在の粘土を超強化セラミックに生成して機体を形作っている。
各々の時代にて勇猛果敢に戦った武将たち。
英雄視された彼らは時を超え、強大な想念となるほど神格化されている。
イヨが拾い集めたのは、この神格化された人々の想念だ。
憧憬が反映された巨将は様々な武将をモデルとした機体となり、その武将にまつわる逸話に基づいた武装を帯びていた。槍に秀でれば豪槍を振り回し、狙撃の腕があれば銃砲を撃ち、馬術に優れれば騎兵となる。
平安、鎌倉、室町、戦国、安土桃山、江戸、幕末……。
動乱の絶えない時代を駆け抜けた武将たちに助力を請うたわけだ。
機体性能はスーパー系ロボット、運動性能はマジカルでフィジカル。
早い話――超絶に強い戦国武将ロボである。
(※日本限定にしたのは、乙将オリベと万里眼イヨが日本出身のため。同族の親和性も考慮したが、諸外国の英雄について二人ともよく知らないため)
対するエンテイ帝国の大型歩兵――奇神兵。
分類的には巨将と同格、サイズも似通う自律式大型ゴーレムである。
「おいおい、そこは巨神兵って名付けとくべきじゃねーの?」
ロンドが小馬鹿にする茶々を入れてきた。
ツバサがダオンとあれやこれやと話し込んでいる隙を突いて、また秘書ミレンにカフェカプチーノを追加注文していた。何杯目だあれ?
軽いどころか重症のカフェカプチーノ中毒なのかも知れない。
「巨神兵はダメだろ。ネーミング的に危ない」
アニメ映画の巨匠に喧嘩売ってる、とツバサは却下した。
……いや、実のところもツバサも「奇神兵? 巨神兵じゃないの?」なんて台詞が喉元まで出掛かったのだが、野暮なので引っ込めておいた。
追求するまでもなく、名前の響きからして掛けている。
それでもスルーするのが優しさというものだ。
「いえ、最初は本当に巨神兵でした」
ダオンはニヤニヤ顔であっけらかんとネタバレをした。
「「――マジかよ」」
守護神と破壊神で息を合わせてツッコんでしまう。ダオンは「マジです」と相槌を打ち、楽しげに事のあらましを明かしていく。
「巨大な神兵だから巨神兵と安直に名付けたのですが、途中で『それなんて風の谷のナウシカ?』と気付き、慌てて変更しておりました。機体の性能を決める仮面に奇抜なものが多いので、そこに肖って奇神兵と……」
キョウコウ一派には従者製作が得意な者が何人かいたはずだ。
エメスという美形の僧、ミラと呼ばれていた鉄火肌の女絵師、無貌の仮面を被ったニャルと名乗る奇面の怪人。この三人がそうだと記憶している。
彼らの技術を結集したのが奇神兵。
全体的なフォルムは鈍重、ゴーレムらしい武骨さが目立つ。
兵士にたとえるならば、強固な鎧をまとった重装歩兵。分厚い装甲でどんな攻撃を受けても跳ね返し、敢然と突き進む重厚感を備えていた。
一方、巨将は機動性重視で装甲は汎用的だ。
どちらがいいという優劣はない。どちらも一長一短である。
量産型なので基本となる機体はすべて同一の形態をしているが、ダオンがチラッと口にした「機体の性能を決める仮面」で個体差が現れていた。
――神や悪魔を模した多彩な仮面。
これを装着した奇神兵は、仮面のモデルから力を模倣する。
機体にも変化が現れるらしい。更にゴテゴテした装甲をまとう者もいれば、流線型のフォルムになったり、背中にウィングを背負うようになる。
どことなく――コンセプトが似ていた。
巨将が戦国武将への想念を機体に仮託しているなら、奇神兵は神や魔に捧げられた畏敬の念を仮面に仕立てて機体へ付与しているのだ。
大型ゴーレムの機体を設計したのが――僧形のエメス。
神魔の仮面を作って能力としたのが――仮面のニャル。
仮面の能力を機体に描写させるのが――女絵師のミラ。
なるほど、確かに三人の過大能力が見事に組み合わされている。
ダオンの資料から大体の内容は読み取れた。
口頭で説明を受けたい点をツバサは遠慮なく尋ねていく。
「――LVに換算した戦闘力は?」
「すべての機体でLV999の基準値をクリアしております。仮面を介した神魔の能力に差はあれど、あくまでも誤差です。勝手ながらこちらでデータ採取をしたところ、奇神兵は巨将と比肩し、巨獣を駆逐できる性能を有しております」
「――戦後の処理は? 野晒しというわけにも行くまい」
「なるべく回収したいところですが、戦闘による破損や大破もあるでしょう……ですがご安心ください。エメス様が発明された特製セラミックは、こちらの特定信号を受けることで無害な土塊へと還るよう設定されております」
「また兵力が欲しい時は都合がつくのか?」
「再生産は可能にございます。奇神兵の開発コンセプトは本来ならば、蕃神との大戦争を想定してのこと……いわゆる汎用人型決戦兵器というやつですな。シンジ君やアスカちゃんにレイちゃんといった搭乗員は不要ですが」
「その乗り手要らずな自律式だ。人工知能はどうなっている?」
「ロボット三原則は登録済みです。徒党を成して共闘することで兵数を維持、これを基本とした戦闘を行うようプログラムされております。あるべき命を最大限尊重し、破滅をもたらす者へ立ち向かっていきます」
ふむ、とツバサは小さく頷いてダオンへ振り返った。
素敵なプラモデルを前にした少年の瞳で微笑み、最高の賛辞を贈る。
「――完璧だ執事」
「――感謝の極み」
ズパッ! と鋭利な音をさせて胸の前に手を構えたダオンは、賛辞への礼として目線をこちらへ向けたまま頭を下げてきた。
「製作に携われた工作者の皆さまにも、ツバサ様の賛辞をお伝えしておきます」
小さな気配りも忘れない。いい執事である。
100万の巨将兵団――追加で100万の奇神兵団。
彼ら巨大歩兵が隊を組めば巨獣も恐れるに足らない。あちらが1000万を超えていようとも、徒党を組んで個別に当たれば適切に駆除できる。
巨大獣には手こずりそうだが努力を願うばかりだ。
それに全長1㎞を越えるバケモノには、別戦力で当たってもらいたい。
「エンテイ帝国からの援軍は他にLV999が7人いると言ったな? 戦力的にはこちらが主力になるのだろうが……」
その内訳は? とツバサは少々内情にも嘴を突っ込んでみた。
LV999の数は、その陣営の力と=だ。
その意図はないものの、相手の総戦力を聞き出す質問に近くなっていた。
「ちょい待て、そもそもキョウコウ一派にLV999そんなにいたか?」
ここでもロンドは水を差してきた。
だがしかし、そこはツバサも疑問視していた点なので、代弁してくれたようなものである。最初にダオンが口にした時も「おや?」と訝しんでいた。
キョウコウ一派でLV999に達した者はいない。
還らずの都で激突した時(第7章~第8章)、その領域に到達していたのは頭目であるキョウコウ唯一人。次点の実力者がダオンやエメスだった。LV900超えは何人かいたと思うが、LV999だった者はいない。
ロンドも先の戦争を観戦していたはずだ。
ナイター気分でぼんやり眺めていただけではなく、いつか敵対する可能性のある陣営の戦力も調べていたのだろう。抜け目ないオヤジである。
分析を掛けてみるとダオンはLV999。
ちゃっかり高みの領域へと登り詰めているではないか。
先日の敗戦からの反省し、LVアップに勤しんだのかも知れない。
だとしても――早すぎる。
LV900を越えてからはレベルを1上げるのも至難の業、艱難辛苦を長期間にこれでもかと味わわなければならない。
たった数ヶ月では不可能に近い。
最低でも1年は掛かる。
それも朝から晩まで修行に訓練に特訓と明け暮れ、執拗なまでに鍛錬へ取り組み、幾度となく自らを死地へと追い込まなければならない。魂の経験値を重ねることのみに執心し、他のことをする暇など一切ない。
LV999に昇格するのは、それほど修羅の道なのだ。
「こんな短期間でLV999は無理だろ」
精神と時○部屋でも使わなきゃな、とロンドは付け加えた。
この一言にツバサは内心ドキリとする。
真なる世界での1日が、そこでは1年に値する。そんな都合のいい“異相”という亜空間を修行場としてバンバン使っているからだ。
まさにあの精神○時の部屋そのままなチート空間である。
異常にストレス負荷が掛かるため、高位の神族や魔族でも1年以上そこで過ごすと精神崩壊を来すため、度を超しての使用は不可能だが、それでもこの異相のおかげで四神同盟ではLV999が着実に増えていた。
時間差こそ利用したが、努力と精進で最高峰へ到達したのだ。
バッドデッドエンズのように破壊神から力を分け与えられた、養殖めいた偽物とはわけが違う。地力からしてまったく比べ物にならない。
この世界を掛けた戦争において、確実な優位性となっている。
難癖めいたロンドの物言いにダオンは口角を釣り上げた。
「かの有名な漫画作品のように、1日を1年として有意義に使える空間がある……としたらどうししますか? お心当たりはありませんか?」
ロンドは考える素振りからすぐ気付いたらしい。
「そうか……時空間のねじくれた異相を見つけやがったな!?」
「キョウコウ様が見繕ってくださいましてね」
牙を剥いて挑発的な笑みを浮かべるダオン。
「精々身体を壊さぬよう、無理のない範疇で利用させていただいております」
ダオンはロンドへ軽い会釈で応じる際、ツバサへ目線を送るとウィンクで合図を送ってきた。その意図は言葉にせずとも伝わってくる。
『ツバサ様たちが使われている異相とは別口です――悪しからず』
どうやら四神同盟で異相を使ったトレーニングが行われているのを、ダオンは既に調査済みのようだ。この男もこの男で抜け目ない。
あるいは――真似でもされたのか?
どちらにせよ、真なる世界生まれの灰色の御子であるキョウコウならば、異相についても詳しいだろう。部下を育成強化させるために便利な異相のひとつやふたつ、見つけていても不思議ではない。
ロンドが代弁してくれたので、ツバサは別の質問をぶつけてみた。
「LV999が何人かいる疑問はそれで解けたが、援軍として7人寄越してくれたと言ったよな? 随分と大盤振る舞いじゃないか?」
現在――キョウコウの家臣は合計8人。
元々キョウコウは幹部クラスを2つのグループに分けていた。
元GMで構成されたキョウコウ六歌仙。
かなり昔からキョウコウに付き従ってきた忠臣ばかりで、全員灰色の御子の末裔だという。ただし、神や魔の力はかなり劣化していた。
強豪プレイヤーの集団から成るキョウコウ五人衆。
彼らはVRMMORPGで名を馳せた猛者で、その才能をキョウコウに見出されてスカウトされたと聞き及んでいる。何人かはツバサたちも出会っており、GMから危険人物として要注意されている者もいた。
還らずの都争奪戦より少し前――。
四神同盟とキョウコウ一派は知らず知らず小競り合いを起こしており、その過程でツバサたちは幹部の何人かを打ち倒していたのだ。
六歌仙からは一人脱落し、五人衆からは二人ドロップアウト。
だから生き残りの幹部は8人。
夢見る国を微睡み支配する妃――惰眠側妃ネルネ・スプリングヘル。
キョウコウの盟友にして副官――機動僧侶エメス・サイギョウ。
不貞不貞しい外見で煙に巻く――慇懃執事ダオン・タオシー。
奇怪な仮面を操る無貌の怪人――奇面紳士ニャル・ウーイェン。
七色の墨で生命を描く女絵師――虹色才媛ミラ・セッシュウ。
打倒帝王を掲げる無頼の鉄拳――拳闘士ブライ・ナックル。
弱者を鞭打ち強化する虐待師――嗜虐姫マリラ・ブラッディローズ。
光って輝いて煌めくイケメン――輝光子イケヤ・セイヤソイヤ。
記憶に誤りがなければ、これが生き残り組である。
「主力ともいえる幹部全員LV999になったと仮定しても、そこから7人も援軍に回してくれたとなれば太っ腹と言うしかないだろ」
主力をほとんど出したことになる。
それにネルネなどは後方支援に長けた過大能力で、戦闘能力は皆無に等しい。先の戦争にも間接的にしか参戦していない。
ツバサの計算が正しければ、主力全員を駆り出した形になる。
自陣の守備を疎かにしかねない――捨て身の全軍出撃だ。
ダオンは制するように持ち上げた両手を振る。
「いえいえ、先述しました通り、我々もキョウコウ様を帝王とする国を某所に建設しておりますれば、そこの防備を保つためにも全軍出撃はとてもとても……あれから私たちにも賛同を得られる仲間が増えましてね」
新規加入の面子も、続々とLV999に昇格したらしい。
戦争後にかき集めた敗残兵から成り上がった者もいるのかも知れない。
「ですので、帝国の確かな防衛力を担える主力陣は据え置きで、こちらの戦争に手を貸しても支障ない戦力を提供させていただいております」
「余裕はないけど出せる人員が7人か……」
エンテイ帝国の守備――そのために必要な主力は配備されている。
即ち、余剰戦力になる強者が7人というわけだ。
各地で騒動が起きた際、四神同盟から威力偵察を目的として差し向けられる人数と大差ない。有能な仲間をかなりスカウトできたらしい。
ツバサたちもそうだが、強者は強者と巡り会う。
日之出工務店、銃神ルーグ・ルー陣営。
水聖国家オクトアード、怪僧ソワカと奏女トワコ。
彼らが四神同盟の志に惹かれて加盟してくれたように、キョウコウの決意に共感して臣下の列に加わった者がいるのだろう。
これはひょっとすると――いけるかも知れない。
キョウコウは先の戦争を反省し、ツバサに好感を持って若手の有望株として買っているという。ダオンのお世辞には多少なりとも尾鰭は付いているだろうが、この男がまったく嘘八百を並べているとも思えない。
上手に外交できれば、キョウコウ一派を同盟に迎えられる。
そうなれば戦力となるLV999は大幅増。
破壊神との戦争を乗り越えた先、蕃神から仕掛けられる侵略戦争を見越して、戦える仲間はいくら増えても困ることはない。
そんな未来への青写真をツバサが描いていると――。
「おいおいおい……って、さっきっから居酒屋の酔っ払いみたいにおいおいから始まる突っかかりしてねぇけどよ。おいおいダオン君よぉ」
まさに酔いどれ親父らしく、ロンドは絡むように問い詰める。
口の端に嘲笑をたっぷり蓄えてだ。
「さっきっから偉そうにあることないこと事務的な報告みたいな口振りで並べてるけどよぉ……なんかこのまま四神同盟の傘下に入るみてぇだなぁ?」
常勝無敗の神将――キョウコウ・エンテイ。
「猛将キョウコウともあろう御方がだ、爆乳小僧の手下になるつもりか?」
「誰が爆乳小僧だコラ!?」
ツバサが決め台詞によるツッコミを終えた後、ダオンは回答する。
「はい、キョウコウ様はそのおつもりのようです」
なにぃ!? とロンドは嘘だろと言わんばかりに仰天した。
キョウコウはかつて数多くの蕃神の王を打ち倒してきた武功があり、灰色の御子の中でも偉業を誇る。相応のプライドを持っているはずだから、ポッと出のツバサたちに与するわけがないと踏んでいたのだろう。
況してやツバサは自身を負かした張本人。
敗者として屈する道を選ぶはずがないと読んでいたらしいが……。
「我が王の心構えを読み違えられては困りますな」
チッチッ、とダオンは立てた太い指を左右へ振った。
「キョウコウ様にとって第一義は“真なる世界の守護と保全”なのです。そのためならば若造と轡を並べて戦うなど些細なこと……いいえ、その若造の有能さに惚れ込んで、老将として手ずから育成されたいと熱望するほどでございます」
「……どんだけ買われたんだ俺」
ドン引きとまでは行かないが、ツバサは逃げ腰になっていた。
極悪親父といい鎧親父といい、ついでにいえば穂村組の顧問とか陶器大好きなへうげもの大名とか……オヤジ軍団からの好感度上昇が半端ない。
ハーレム(親父)とか笑えなかった。
ですが――ダオンは意味深長に申告してくる。
「誠に勝手ではありますが、四神同盟加入の件は取り下げていただきました」
私の具申により――ダオンは自らの仕事だと強調した。
なにぃ!? と今度はツバサが仰天させられる。
どういうことだ!? と問い質す前に執事は流暢に喋り出す。
「キョウコウ様は自粛と謹慎を終えて禊の期間を経た後、改めてツバサ様の前に現れて謝罪を述べた後、友好関係を結ぶ申し出をしつつ、四神同盟への加入を検討してもらう旨を考えておられましたが……」
「……ダオンの一存で止めさせたっていうのか?」
この男、主人であるキョウコウへの発言権を持っているようだ。
説明を求める前にダオンは流暢に語り出す。
「協調路線、共闘関係、文物交流……大いに結構、私めも賛成いたします。ですが、それは同盟の輪に加わらずとも国家間で適うこと。ひとつの大きな輪は強力な力となりますが道を誤りし場合、輪に属する者すべてが共倒れです」
「……あ! そういうことか」
ダオンの危惧を読んだツバサは 同盟入りへ躊躇う理由を察した。
四神同盟に属さなければ、別組織として立ち回れる。
もしも四神同盟という輪が自覚なく悪い方向へ進もうとした場合、それを外部から指摘することで制止させられるかも知れない。聞き入れられない場合、悲しいことだがまた戦争になるか、見切りを付けて縁を切ればいい。
これとは逆のパターンは履修済みである。
還らずの都を求めてキョウコウが暴走、四神同盟が食い止めた事件だ。
この苦い経験を活かしたのがダオンの具申だったのだろう。
異なる組織として、相互の倫理を常に検証する。
怪しい点があれば即座に指摘できる、制御装置にも成り得るわけだ。
安易な方へ踏み出さず、主君の勇み足にも臆さず忠告する。
この慇懃無礼で韜晦大好きなデブ執事、キョウコウが重用するわけだ。見てくれに騙されていると、切れ味のいい知略で足下を掬われかねない。
(※韜晦=自分の才能、実力、本心などを隠すこと)
敵に回すと恐ろしいが――味方に引き込めたら千人力だ。
ツバサは呆れた顔をするも、唇には愉快さを帯びた笑みが浮かぶ。
「……わかった。エンテイ帝国との交流は前向きに取り組むと約束しよう。その上で同盟加入は見送りということでいいかな、執事の特使殿?」
問い掛ける言葉も丁寧になる。
「無理をして援軍に出向いた甲斐がありましたな」
感謝いたしますツバサ様、とダオンは誠意ある一礼で返してきた。
そこへパン! と柏手を打つような音が響いた。
「どっちみち今日ですべて破壊神が跡形もなく終わらせるっていうのに……仲がよろしいこったな。多少手勢が増えたところで変わりゃしねぇぜ?」
ロンドが注目を引くために手を打ったのだ。
大体よー、と極悪親父は投げやりな口調でダオンを指差した。
「ダオン含めてLV999が7人出撃したとか言ってやがるが、援軍の指揮官ぶってるおまえはここで兄ちゃんと戦前戦後交渉みたいな打ち合わせやってるだけじゃんか。奇神兵とやらはさておき、実質6人しか出撃してなくね?」
「重箱の隅をつつくような糾弾だな」
もしくは障子の桟を指でなぞるような揚げ足取りだ。
ロンドは右手でダオンを指差したまま、開いた左手を口に添えてメガホン代わりにすると、子供っぽい口調でツバサに告げ口してくる。
「センセー、ここに仕事しないサボりデブがいますよー! ってなもんさ」
「誰が先生だよ、ロンドの方がよっぽど不良じゃねえか」
テメエみたいな老け顔の生徒がいるか、と暴言で返してやる。
何を言われてもダオンは顔色ひとつ変えない。
相変わらず不貞不貞しいくらいニヤついた笑みを満面に貼り付けており、ともすれば牙のような歯列を見せつけて不敵な表情を崩さなかった。
ロンドに対抗したわけではなかろうが、ダオンも人差し指を立てる。
指を突きつけた先は頭上――遙か上空だ。
すると空からボトボトと巨獣の骸が降ってきた。
どの巨獣も完膚なきまでに絶命しており、二度と復活しないよう頭は切り落とすか砕かれており、心臓などの臓器は抉られ潰されていた。
これが誰の仕事によるものか? ダオンは説明を始める。
「この場にて皆様と会話させていただいているのは、失礼ながら実体を持つ影にございますれば……私自身は現在、他の援軍とともに巨獣駆除のためこの付近一帯で奔走しているところです。そのため御覧の通り……」
巨獣ばかりではなく、解体された巨大獣まで墜ちてくる。
「晴れ時々ところにより獣が降り注ぐ、などという巫山戯た荒天になるやも知れませんこと、どうかご容赦くださいますようお願いいたします」
ツバサとロンドは顔を見合わせ、同時に目を剥いてしまった。
本体と勘違いさせるほど遜色のない分身!?
守護神どころか破壊神にさえ「本人だ」と錯覚させる力を有した分身を作り出せるダオンの力量に、双方ともに内心では舌を巻いていた。
やはりこの男――容貌に騙されてはいけない。
LV999も然る事ながら、絶対強者をも欺く実力を備えている。
ケッ! と派手な舌打ちをしてロンドは苛立つ。
「ダオンといいレオナルドの野郎といい……使えそうな才能持ちはどいつもこいつもオレからそっぽ向きやがる! そいつが最高に気に入らねえッ!」
だが裏を返せば楽しみだ、とロンドは残酷に反証する。
「俺に背くってことは楯突くってことだ。そういう意のままにならねえ輩どもってのは殺し甲斐がある。そこだけは破壊神冥利に尽きるな」
しっかり足掻いてくれよ――策士ども。
これはロンドからの賞賛と受け取っていいだろう。
ツバサが最たる例だが、どうやらロンドは殺しにくい敵や滅ぼしにくい者へ好感を抱くらしい。そして無二の親友のように接したり、部下や配下に加えて愛でたりしたがる傾向があるようなのだ。
最悪にして絶死をもたらす終焉も、そういった集まりである。
だから今のは破壊神一流の褒め言葉でもあった。
「それはそれは……無駄死にせぬよう励まさせていただくしかありませんな」
ロンドの脅し文句もダオンの脂肪で覆われた厚顔には通じない。
「フン、皮肉もいなしやがるか……それよりどうだ?」
今からでも鞍替えしない? と掌を返したロンドは勧誘を始めた。
気に入った奴は見境なく誘う、これも極悪親父のらしさだ。
「ご冗談を――」
ロンドの誘いを片手で制したダオン、その面相からはいつもの笑みが消え失せており、強めた語気も怒りを孕んだ力強いものだった。
そして勧誘を一蹴した理由を明かす。
「私は大恩あるキョウコウ様に終生の忠義を捧げた身です」
珍しく虚飾が少ないダオンの言葉。
それゆえに誇示する信念の強さを感じ取ることができた。
ツバサはようやくダオンという漢を理解する。
これまでの出会いはすれ違うものばかりだった上、真意を煙に巻くような喋り方をするため為人や性格を観察することができなかった。
しかし、この宣誓からわかったことがある。
こいつは慇懃無礼じゃない――ただただ慇懃なのだ。
無礼な輩と勘違いされるは、厚かましそうな見た目のせい。その本性は超が付くほど物腰丁寧な紳士で、生真面目に任務を遂行する。
そして、韜晦して本心を隠すような態度。
これは真面目しか取り柄がない自分に気恥ずかしさを覚え、それを誤魔化すために曰くありげな人物を演じようとする照れ隠しだ。
忠誠を誓った主君ため誠心誠意で尽くす――有能執事である。
ロンドではないが手元に置きたくなる人材だった。
「ウチの変態メイドと交換でき……嘘嘘嘘ッ! 冗談だってば!」
ツバサがぼんやり本音を漏らしかけると、いきなりクロコが獣のように飛びかかりながら泣きついてきた。ソファを飛び越えて足下に縋りついてくる。
捨てられた子犬よろしくツバサの脚にしがみつく。
「…………ッ! ……………………ッ!!」
いつもなら口から出任せみたいな喧しいマシンガントークを噛ましてくるクロコだが、今日はガチの泣き顔で一言も発しようとしない。
そのため本気の度合いが強そうだ。
こちらもうっかり漏らした言葉は本音に近い。
だから真に受けてしまったのか、瞳を涙の海で溺れさせると、子供みたいに頬を膨らませて口を食い縛り、首を左右に振りながら無言で訴えてきた。
目は口ほどに物を言う。無言の圧力は凄まじい。
『どうか見捨てないでくださいませ! デブ執事と交換はご勘弁を!』
瞳の中にそんな台詞が刻まれているかのようだ。
クロコの神族としての性質上、主人に捨てられるのは死活問題。
必死になるのも仕方ないことだった。
だが――変態としての本性も拭えないらしい。
脚に縋りついた状態から這い上がってくると太ももへ抱きつき、勢い余った風を装ってツバサの爆乳にまで手を伸ばしてきた。
あろうことか、片方の手はこちらの股間へ忍ばそうとしている。
絶対にドサクサ紛れを狙っている。
「わ、わかった! おまえ御先神でオレとミロに従属してるから、捨てられたらペナルティーで死にかねないもんな! 捨てない、捨てないから……こら! おっぱいを鷲掴みにしようとするな! 乳首や乳輪をつま……んひぃ♡」
性感帯を指先で愛撫されたところで拳骨を落とす。
暴走したセクハラメイドを物理的に説得して、どうにか落ち着かせることに成功したツバサは振り返る。なんとなくダオンの反応が気になったからだ。
ロンドには嬌声を上げたことを揶揄われるが無視した。
ダオンは空の彼方を見つめている。
「そろそろ我が軍の精鋭たちも、戦線に加わった頃でしょうかね……」
その一言には仲間の身を案じる思い遣りがあった。
~~~~~~~~~~~~
大陸中央より南方――密林に覆われたククルカン森王国。
この地での主力勢による戦いは、ひとまずのところ決着を見ていた。
進撃してきたバッドデッドエンズの終焉者は計3名。
それぞれアハウたちにより撃破されている。
爆発の芸術家タロウは、因縁のある日之出工務店の棟梁ヒデヨシとその妻ネネコ、そしてネネコの弟であるランマルたちによって打ち倒されている。
ネネコとランマルは囮役、ヒデヨシがトドメを刺した。
突き進むことしか知らない狂奔ゴーオンは鉄拳児カズトラが迎え撃ち、危うげな場面もあったが、見事カズトラが勝利を収めた。
ただし、カズトラは再起不能レベルの重傷を負っていた。
最後に愛の光を司る者――ジョージィ・ヴリトラ。
ククルカン森王国へ攻め込んだ終焉者の中でも最強格だったが、アハウが召喚した巨大な虚無に喰らわせることで倒すことができた。
最後まで抵抗されたが、虚無による消滅を確認している。
最悪にして絶死をもたらす終焉、その終焉者を3人も討ち果たしたのだ。
しかし、戦いは終わらない。
終焉者は倒せたものの、巨獣の軍勢による大進撃は止まらなかった。
一匹でも放置すれば世界を脅かす終末の獣。
体長100mを越える大怪獣が、大地を薙ぎ払いながら大群となって押し寄せてくるのだ。この世の終わりと絶望したくなる風景だった。
無論、対策していないわけではない。
ツバサ君が用意してくれた巨大歩兵部隊――巨将
巨獣に対抗するべく彼らも頑張っている。
隊列を組むことで簡易的な防衛ラインを構築し、四神同盟が治める各国へ押し寄せる巨獣の侵攻を食い止めるため、我が身を削るように奮戦中だ。
それでも――多勢に無勢だった。
いくらアニメで主役を張れるスーパーロボットが100万体揃おうとも、映画のメインを張れる巨大怪獣1000万体の相手は荷が重いに違いない。
抑えきれない巨獣は、どうしても取り逃がしてしまう。
巨獣の群れは一時的に散開するも、迎え撃つ巨将を潜り抜けてから再び群れを立て直して集結、再び大地を揺らす軍勢となって行軍を開始する。
ククルカン森王国にも巨獣の魔の手が迫っていた。
国土再生とともに植生を広げ、豊かな緑を甦らせていた密林。
その5分の1が焼け野原になりつつあった。
平均で100mを越える巨体を有する獣たちは、ただ歩を進めるだけで大地にあるすべてを跡形もなく踏み潰す。それだけでも脅威だというのに、彼らは業火を噴き、稲妻を吐き、氷嵐をまき散らして、すべてを灰燼に帰するのだ。
存在すべてが世界を滅ぼすために出来ている。
まさしく終末をもたらす獣であろう。
もどかしい――わずかな休息さえアハウは時間の無駄と感じた。
現在アハウたちは国の拠点へと戻っていた。
3人の終焉者との激闘は制したが、無傷の勝利というわけではない。
カズトラはゴーオンとの激突で力を使い果たしていた。
命に別状こそないものの、万能薬を越えるミルクをしこたま浴びて回復と修復の魔法を二重掛けで受けているが、未だに目を覚まさない。
それだけ肉体と精神を酷使した証でもあった。
アハウもカズトラのことを笑えない。
内在異性具現化者という他の神族や魔族となったプレイヤーより恵まれた力を持っているとはいえ、終焉者ジョージィとの戦いは熾烈を極めた。肉体的にも頑強さと生命力に優れる獣王神の肉体でも、膝を突くほどの疲労困憊である。
戦争は継続中、巨獣の進撃も留まるところを知らない。
すぐにでも戦場に戻りたい焦燥感が募る。
その焦りをアハウは噛み殺し、休息による体力回復に努めていた。
ククルカン森王国――アハウたちの拠点。
外観はマヤ・アステカ文明の巨大ピラミッドにしか見えない建物だが、内部はアハウたちの暮らす現代的な邸宅になっている。
ピラミッドの頂点は見晴らしのいい展望台として造られていた。
その展望台からアハウは、せめて戦況を見届けんとする。
ジョージィと戦っていた時は、天まで届く龍蛇神ケツアルコアトルへと変身していたが、今は普段使いしている獣人の姿へとサイズダウンしていた。
それでも巨体に見合う大振りのタオルを頭から被っている。
座り込む身体からは、火傷しそうな蒸気を絶え間なく噴き上げていた。
肉体の再生力を技能や過大能力によって限界まで引き上げ、細胞の一片に至るまで極限まで賦活しているせいだ。おかげで血流は限界を超えて循環し、とんでもない速さで新陳代謝を繰り返していた。
その影響で体温が急上昇、汗が流れるより早く気化していた。
満身創痍の肉体を癒し、疲労物質の排出を促す。
「ツバサ君の力も借りたが……完全回復には時間が掛かりそうだな」
アハウは苦笑とともに手にした空瓶を見下ろす。
ミロちゃんから「もしもの時の万能薬!」と手渡された物だが、中身に詰められていたのは紛れもなくハトホルミルクである。
乳母神という技能の影響で溢れるようになったという母乳。
まだ二十歳の青年だったはずのツバサ君が、お母さんというか経産婦というか、それこそ乳母のように止め処なく母乳を出せるようになったことは「男として心底恥ずかしい!」と酒の席で愚痴として聞かされた。
心身の回復、消費した活力、精神的疲労の緩和……。
ハトホルミルクを飲むことで、そうした総合的な疲労感が驚くべき速度で回復していくのを実感した。まさしく万能薬、効果はそれ以上だろう。
だがしかし、ツバサ君の羞恥心を慮ってしまう。
とても気まずいが、戦時下では四の五の言っていられない。
早いところ復調して戦列に戻らなければならないのだ。そのためには良薬口に苦しと思って、ツバサ君の恥じらいも黙殺してやらなければ……。
「アハウ様……カズ兄ちゃんがまだ起きない」
ふと傍らからミコの泣きそうな声が飛んできた。
まだ10歳になったばかり、巫女装束が似合う幼気な少女だ。
帰ってきた兄貴分カズトラの介抱を続けている。
ゴーオンに勝利したカズトラは力を使い果たしただけではなく、肉体の内側から破けるような重傷を負ったため、アハウの帰還とともに連れ帰っていた。
無茶な過大能力の使い方をしたせいらしい。
カズトラはアハウの横へ仰向けに寝かされていた。
無造作なボサボサヘアが似合うヤンチャ盛り、『痩せた狼』と形容される喧嘩っ早い少年だ。ククルカン森王国ではアハウの懐刀を自称している。
ミコは目覚めないカズトラを案ずるが心配無用。
喧嘩に勝ったが疲れて寝てるだけ――そんな具合だからだ。
仲間たちの回復魔法による応急処置は済んでおり、万能薬ハトホルミルクも浴びせておいた。飲んでも塗っても効果があるのは素晴らしい。
気絶していてミルクを飲むことはできなかったが、機転を利かせたミコが口移しで飲ませたので、体内からも回復力が浸透しているはずだ。
……緊急事態なので接吻は不問としておこう。
「大丈夫、ちょっと疲れているだけだよ」
頑張ったんだから休ませてやらないとな、とアハウはミコを宥めた。
大きな手で小さな彼女の頭をそっと撫でる。
「うん、魂とかが無事なのはわかる……でも、心配になっちゃって」
ミコは半泣きで不安そうだが、少し安堵してくれた。
カズトラの役に立ちたくてしょうがない彼女は、豪快なイビキを立てる兄貴分から片時も離れず、一心に回復と修復の魔法をダブル掛けしていた。
この娘は将来、献身的な嫁になることだろう。
まだ意識を取り戻さないカズトラだが、ちゃんと息はある。大口を開けて鼻提灯を膨らませ、イビキをかいているのだから当然だ。
命に別状はないだろうが、さすがに戦線復帰は厳しそうだ。
この戦争ではリタイアさせるしかあるまい。
一方、日之出工務店一家は既に戦線へ戻っていた。
棟梁ヒデヨシとその義弟ランマルは、巨獣退治に励んでいる。
妻ネネコは体調に不備があるため(彼女の過大能力を使いすぎると極端に痩せてしまう)、彼女だけアハウたちと一緒に拠点へ戻っていた。
しかし休んではおらず、厨房で炊き出しの準備を始めている。
この戦争に必ず勝つと信じ、疲れて帰ってくる亭主や弟、それにアハウや仲間たちのために温かい料理を作ってくれているのだ。
夫を持つ妻君らしい温かな心配りに涙ぐむほど感謝したい。
「最前線の状況はどうですか、アハウさん」
脳内で考えを巡らせていると、自身の妻君から声を掛けられた。
マヤム・トルティカナ――アハウの妻だ。
元GMだった彼女は内在異性具現化者であるアハウに近付き、その動向を密かに監視していた。おかげで異世界転移した時も同伴したくらいである。
そうした縁が2人の馴れ初めだった。
十代のあどけなく可愛らしい女子学生に見える若々しさだが、ちゃんと成人した女性である。現実では二十代半ばだったはずだ。
より女性らしさを醸し出すため、やや長めにしたボブカットの銀髪。
マントやコートめいた衣装を重ね着するファッションは変わらないが、その下には王妃らしいドレスをまとうようになっていた。ククルカン森王国の妃として自覚を持つためだとか言っていた気がする。
こんな彼女がかつて男の娘だったと誰が知ろうか。
元々女性的だったところに女性化願望も手伝い、VRゲーム内で密かにアバターを女性化していたら、異世界転移で完全に女性となってしまったのだ。
今では神族化したため女神である。
ツバサ君やミサキ君とは事情は異なるが、これも女体化の1事例だろう。
それを承知で――アハウは彼女と夫婦の契りを交わした。
今ではアハウの右腕にして副官を務め、森と大地を統べる獣王神の妻として此処ククルカン森王国の王妃に祭り上げられていた。
アハウの左隣には、寝るカズトラとそれに付き添うミコ。
マヤムは右隣へ控えるように立っていた。
彼女はククルカン森王国、その守りの要でもある。
過大能力――【換われ替われよ空間水晶の立方体】。
空間を水晶のように変化させ、自在とする空間操作系能力だ。
この空間水晶を活用してミコの協力も得て、敵性存在のみ侵入を許さない不可侵の結界を張り巡らせ、ククルカン森王国を護っている。
マヤムとミコの展開する結界こそが、この国の最終防衛ラインだ。
最前線の戦況を気に掛けるのも当然である。
そこを突破されたら自分の結界だけが頼りなのだから――。
獣人と化した巨体ゆえ座高もあるアハウは、横に振り向くだけでマヤムと視線を合わせることができた。彼女の瞳を覗くようにアハウは答える。
「ああ、問題ない。みんな善戦してくれているよ」
アハウは獣王神の視力に千里眼系の技能を働かせていた。
そうすることで数百㎞先の戦場、巨獣の群れをククルカン森王国へ寄せ付けないための第一次防衛ラインまで視界を広げることができた。
アキさんとククリちゃんの情報網――。
彼女たちを頼れば離れた場所で戦っている戦士と連携を取れるが、激しい戦闘を繰り広げている現場からリアルタイムの返信を受け取るのは中々難しく、状況の確認にはいくらかの時間差が生じていた。
しかし、アハウの眼ならば多少距離があっても補足できる。
もしもの事態にはすぐ動けるよう注視していた。
「……だが、もう少し休憩しても許してもらえそうだな」
防衛ラインで立ち回る仲間の活躍振りに、アハウは安堵の息を漏らした。
穂村組からの用心棒――ダテマル三兄弟。
年若い少年にしか見えない長兄ダテマル、双子だという禿頭で年嵩の大男にしか見えない次男ドンと三男ソン。この3人で構成された実の兄弟だ。
3人とも墨染め衣の仏僧スタイルで骨法という武術を得意とする。
特に貫通力と破砕力に優れた発勁“徹し”という技を得意としており、ドンやソンはその一撃で巨獣を屠り、ダテマルの一撃は本人曰く「千里を走る」という言葉に偽りなく、巨獣の群れごと引き裂くように打ち破っていた。
アハウの仲間であるバリー&ケイラ夫婦も負けていない。
ケイラはLV999だが直接的な攻撃手段が少なく、過大能力も空間転移に優れたものだった。この転移能力を活かして、巨獣たちを翻弄している。
神出鬼没の騎兵には五感に優れた巨獣たちも目を奪われていた。
そこに大きな隙ができる。
この隙を拳銃師バリーが逃さず狙い撃つ。
一撃必殺――対象の弱点を確実に射貫いて抹殺する狙撃でだ。
夫婦のコンビネーションは、狩猟にも似た手順で巨獣を仕留めていく。
既に述べた通り、日之出工務店の棟梁ヒデヨシと義弟ランマルは戦線復帰しており、ヒデヨシは過大能力で防壁のような移動城塞を築き上げ、そこから村雨のような砲撃によって巨獣の進軍を押し止めていた。
ランマルは砲撃の雨を掻潜り、巨獣たちへ肉薄する。
変身系の過大能力を上手に使ってパンチやキックの瞬間に手足を巨大化させると、一撃の元に巨獣を殴り倒していく。
仲間たちの活躍により、防衛ラインは問題なく守り切れていた。
「しかし、いつまで保つかは怪しいな……」
先行き不安、見通しが立たない未来にアハウの表情も曇る。
「巨獣と巨大獣の追加……って連絡ですよね」
マヤムも困ったように眉尻を下げてため息をついた。先ほど情報網でツバサ君から伝えられた、最悪の伏兵について頭を悩ませているようだ。
破壊神ロンドが新たな巨獣を数万単位で解き放った。
そこには巨大獣という更に強力な怪物が紛れ込んでいるという。
この報告に四神同盟内には激震が走った。防衛ラインを維持できている国でも、決して安心はできないことを再確認させられているところだ。
「援軍の報せも受けたが詳細はまだだしな……」
「……ッ! アハウさん、言ってる側から伏兵がやってきました!」
密林の地平線を見つめていたマヤムが顔を上げる。
防御結界の担当として気を張っていたマヤムが、いち早く敵影の接近に気付いてくれた。彼女が指差す先、空を行軍する巨獣の大群が迫っている。
有翼のドラゴン型が多く、機動力に優れているようだ。
想像以上に巨獣たちのフットワークがいい。
まだ完全回復とは言い難いが、アハウも再出撃しなければ間に合わない。
疲れた重い腰を上げようとした――その時だった。
「え? あれ……なんだか、すっごい勢いで撃墜されてませんか?」
上空を征く巨獣の群れが次々と撃ち落とされていく。
何者かの手によって見る見るうちにだ。巨獣を撃墜する時の一撃は相当な威力に及ぶのか、爆散すると大きな火球が花火よろしく咲いていた。
瞬く間に火球の花が空に咲き乱れる。
そこから1人の強者――LV999の気配が舞い降りてきた。
気配の主を認めたアハウはマヤムに指示する。
「マヤム君、彼が結界内へ入るのを許可してやってくれ」
これにはマヤムも少々戸惑った。
「え? でも、巨獣は倒してくれたみたいですけど、敵か味方か……」
「報告にあった援軍だよ。あの姿は見覚えがある」
彼とはカズトラが一番縁深いはずだ。
アハウはキョウコウとの戦争を終えた後、事後報告の資料で彼の容姿を確認したことがある。聞いていた雰囲気とも合致しているので間違いあるまい。
その男はまっすぐに降りてくる。
アハウたちのいる展望台――眼前の空中に留まると跪いた。
武士が位の高い人物へ平伏するかのようだ。
この男は自分より強い者しか認めないと資料にあったが、何らかの心変わりでもあったのか、礼儀を弁えるようになったらしい。
180㎝を越える長身。武人として鍛え上げられた肉体美を誇る。
癖っ毛な天然パーマは伸ばし放題。
しかし身なりは小綺麗になっていた。報告書の資料では歴戦の勇士らしく着古した衣装をまとっていたが、編み上げブーツにレザーパンツ、防御力の高そうなアーミーベストなど、すべて新調されている。
防御力を上げつつ、機動性を損なわない縫製をされているようだ。
拳にも武器としてナックルガードを装備している。
カズトラとの戦いで右腕を失ったと聞いたが、ちゃんと両腕は揃っていた。細かく分析を掛けてみると精巧な義手になっているようだ。
神族ならば失った五体を取り戻すこともできる。
修復系技能を使えばいいし、仲間の過大能力や高等技能を借りれば、失った手足を取り戻せるはずだ。わざわざ義手にする必要はない。
……どことなくカズトラを意識しているのか?
「キョウコウ様が臣下の一人……拳闘士ブライ・ナックル」
男から発せられた声は愛想なくぶっきらぼうだが、「助太刀に参上した……」と添えられた一言には、そこはかとない敬意を感じられる。
キョウコウ陣営改めエンテイ帝国からの援軍。
ツバサ君があちらの特使と交渉し、巨大ゴーレム歩兵軍団“奇神兵”100万体の投入。そしてLV999の戦士7人を援軍として受け入れたのだ。
ブライは援軍としてやってきた1人である。
還らずの都を巡る戦いではキョウコウ一派の幹部としてカズトラと戦い、この時もカズトラはボロボロになりながらブライに辛勝したらしい。
仲間の遺志を受け継いだ義手“ガンマレイアームズ”。
そこに宿る力のおかげで勝てた、とカズトラは言っていた。
カズトラと一戦交えたという並々ならぬ因縁を抱えながらも、この有事に際しては助力のために駆けつけてくれたようだ。
「自己紹介痛み入る。ククルカン森王国代表、アハウ・ククルカンだ」
「妻のマヤム・トルティカナです」
こんな格好で失礼する、とアハウはタオルを被ったまま詫びた。
「……いや、戦いの最中ならよくあることだ」
気にするな、とブライは素っ気なく付け加える。
「援軍についての連絡は受けているよ。応援感謝する」
「ああ、それじゃあ……」
ブライは軽い返事をして立ち上がり、再び上空へ飛び上がっていく。
無口で寡黙で無愛想――会話が続かないらしい。
この国の近隣で大暴れをするのだから挨拶ぐらいしておこう。それくらいの感覚でアハウたちに顔見せに来ただけのようだ。用事は済んだので本題である援軍としての参戦、さっさと役目を果たすつもりらしい。
少々味気ない話だが、その方がアハウたちにも有り難かった。
なにせ追加された巨獣の群れが、続々とこちらへ近付いているのだ。
――積もる話はすべて終わってからでいい。
ブライの背中が雄弁に物語っていた。
それでも後ろ髪を引かれる名残惜しさがあるのか、肩越しに振り返るとアハウの横で寝転がっているカズトラへ一瞥くれた。
敗北を味わせて右腕を奪った張本人。
思うところがないと言えば、絶対に嘘となる相手のはずだ。
「カズトラは……負けたのか?」
「負けてない! カズ兄ちゃんは勝ったんだよ!」
ブライから武骨な質問に、ミコが噛みつくように即答した。
引っ込み思案な性格を忘れてミコは主張する。
「ゴーオンっていうお兄さんよりもおっきくて怖くて強そうな人に正面から立ち向かって、一対一のタ、タイ……タイマンってやつして勝ったんだもん! カズ兄ちゃんは強いんだから! これからもっと強くなるんだから!」
こんな威勢のいい剣幕のミコは初めてだった。
アハウどころかマヤムまで目を丸くして驚くほどだ。
幼女の激しい反論を受けたブライも一瞬キョトンとしていた。
「そうか…………なら、いい」
ブライは笑った。無愛想な相好を崩して、嬉しそうに笑ったのだ。
親友を褒められたような笑みだった。
気が済んだと言わんばかりに目線を空に向けると、噴炎のように闘気を上げながら急上昇していき、巨獣たちのど真ん中へ突撃していく。
「カズトラには借りがある……それを返しに来た」
不言実行――言葉よりも行動で示す。
ブライは巨獣を爆裂させる花火でジャングルの空を鮮やかに彩った。
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大陸中央より西方――豊饒の大地が広がるハトホル太母国。
この地にも巨獣の大群は訪れていた。ツバサたちが協力することで回復させてきた肥沃な土地や豊かな自然を、これでもかとばかりに蹂躙している。
巨獣の進撃に対抗する策はいくつも打たれていた。
巨将たちの防衛ラインは言わずもがな、他にもツバサが自然を司る過大能力を使うことで築いた、突き進んでくる巨獣の足絡みになる防備柵が十重二十重にハトホル太母国を取り囲んでいるのだ。
奈落の底まで届きそうな深い谷、雲の高みまで達する稜線の高い山脈。
地形を操ることで設けた空堀と防壁である。
即席の陣地工作――神為的に造り上げた天然の要害だ。
巨獣の侵攻を鈍らせる効果はあった。
だが、世界を跡形もなく滅ぼすことを使命とする巨獣たちは、この程度の障壁ではへこたれない。空堀は仲間を投げ込んで土塁として埋め立て、山脈は総勢で体当たりをして突き崩そうとする。
全軍を以て事に当たり、天然の要害を突破せんと目論んでいた。
そうして足踏みをさせることが狙いだった。
障害を崩すことに集中し、行軍を遅らせた瞬間がチャンスである。
「んなあああああああああああああああああーーーッッッ!」
野性的な少女の雄叫びが駆け抜ける。
ドップラー効果も飛び越えて光速に達せんとする速度。音速の壁などとっくに越えており、大気を突き破って輻射熱で赤く燃えるのは桃色の弾丸。
「パズルアームMARKⅡッ!」
少女の号令を受けて掌中にある武具は形を変える。
「――突き破るもの! 渦巻く螺旋ッ!」
パズルのピースにしか見えない破片を組み替えて、出来上がるのは高層建築物の尖塔のように大きな槍。しかも穿孔機よろしく高速回転をしている。
その切っ先が狙うのは数多の巨獣。
生物の重要器官を狙って穿ち、何十匹も貫通しながら撃ち破る。
目に付く巨獣をあらかた片付けた桃色の弾丸は、安全圏まで飛び下がると速力を緩めていき、呼吸を整えるために宙で足を止めることにした。
ハトホル一家 四女 トモエ・バンガク。
弱冠14歳(15歳になってた)ながらも腹筋系アイドルなんて愛称で呼ばれるほど細マッチョなナイスバルクに育った野生的な美少女である。
これは神族・蛮神へと神化した影響だった。
筋力や体力に大幅なボーナスが付くため筋肉質になるらしい。
(※その代償なのか知力低下、頭が悪くなる)
同年代よりも明らかに筋肉で鎧われた肢体。
胸やお尻はまだ未発達だが、毎日ハトホルミルクをがぶ飲みしているので、きっとツバサお母さんみたいなナイスバディになれると信じている。
腹筋系アイドル名に違わず、腹部はシックスパックに割れていた。
身につける戦闘服は白を基調としたビキニアーマー。手にするのはトモエの思い通りに形を変えて、どんな武器にも変形するパズルアームMARKⅡ。
音声入力だから説明書がなくても使えて楽ちんだ。
ククルカン森王国同様、ハトホル太母国も結界に護られている。
起源龍ジョカやツバサの五女マリナといった結界操作ができる神族たちが何重にも張り巡らせていた。これはハトホル太母国の最終防衛ラインだ。
天然の要害が設けられている地点は最前線。
つまり第一次防衛ラインである。
トモエはこの防衛ラインを担当する主力の1人に数えられていた。
もう1機も絶賛活躍中である。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおーーーッッッ!!』
巨大ロボから咆哮が轟いた。
全長30mの巨体を誇る二足歩行型の巨大ロボ。
超豊穣巨神王――ゴッド・ダグザディオン。
超機械生命体なスプリガン族の総司令官にして、大地母神の血を受け継いだ灰色の御子であるダグ・ブリジットが操縦する巨大ロボだ。
スプリガン族は“巨鎧甲殻”という追加の外骨格をまとえる。
本来なら1人につき1つのはずの“巨鎧甲殻”を、ダグは灰色の御子ゆえの特権か6つも持っており、それらすべて変形合体できるのだ。
これによりゴッド・ダグザディオンが誕生する。
雄々しい鍬形を掲げた兜を被り、重装な装甲で覆われ、背にはエメラルド色に輝く飛行翼を背負う。全体的なデザインは巨大ロボを愛好する人々が目にすれ「勇者」とか「主役機」と賞賛を受けるであろうフォルムだ。
全身に気密体という高密度に圧縮された“気”をまとわせており、これが更にゴッド・ダグザディオンの機体強度を高めていた。
この合体形態に限り、ゴッド・ダグザディオンはLV999となる。
つまり、ツバサたちと肩を並べて戦えるわけだ。
手にする武装は、本体を上回るサイズ感を備えた巨大な鉄槌。
主力武装――ダグザディオン・メイス。
殴打した森羅万象を瞬時に“気”の塵へと還す、風化抹消兵器である。
自分より大きく重い鉄槌を片手で軽々と振るう。
『微塵となりて――大地に還れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーッッッ!!』
巨大な鉄槌をまるでバトンのように回転させながら前面へ突き出すと、ゴッド・ダグザディオンは飛行翼のバーニアを全噴射させて突進する。
ダグザディオン・メイスに触れたものは滅ぶ。
それが風車よろしく回転しながら迫ってくるのだから堪らない。
巨獣たちは危険を察知して逃れようとするも、その巨体で群れているのだから押し合いへし合いして、横へ逸れることも後退ることも叶わない。
迫り来る滅びの鉄槌に擂り潰されるしかなかった。
疾風怒濤――ダグの活躍によって周囲の巨獣をほぼ殲滅できた。
ただし一時的なんて前置きが付く儚いものだ。
トモエはゴッド・ダグザディオンの肩に飛び乗って一息ついた。
ツバサお母さんから教わった肉体能力を底上げする特殊な呼吸法を繰り返すトモエは、ダグザディオンの中にいるダグへ呼び掛ける。
「ダグくん、急いで休憩な!」
『はいトモエ様! すぐに第五波が来かねませんからね!』
ダグもゴッド・ダグザディオンの全機能をアイドリング状態にして、いつ全力を出しても回路が焼き切れぬように休ませる。
無尽蔵のパワーを沸き立たせる神器“無限を湛える父祖の大釜”がダグザディオンの動力源なのだが、それを幾度となく追い炊きをすることで徹底的に焚きつけ、エネルギーを再充填することに注力していた。
――巨獣の進撃には波がある。
巨将たちの迎撃により、いくつかのグループに分かれたらしい。
トモエとダグが今掃討したのは第四波だ。
ひとつの波を乗り切れば、ほんのわずかな余裕ができる。
そのチャンスを逃さずに休憩を取って体力を回復し、武器や装備に異常がないかを確認しておかないと、次の波で一巻の終わりとなりかねない。
「……そうツバサお母さんに注意されたのな」
トモエはいい子だから、お母さんに言われたことを守っていた。
『早くドンカイ様やセイメイ様がお戻りになられればいいのですが……』
「んな、無い手は頼っちゃダメなんな」
ほんの小さな弱音を吐いたダグをトモエは注意する。
気持ちは同じだが、弱音を吐くと頼りたくなるから止めた方がいい。
「それを言ったら……ダインやフミカもまだ帰ってきてくれないのな。あの2人がいれば全然違うのに……でも、あっちも大変だからこっちも頑張るんな」
意図せずトモエも弱音を漏らしてしまっていた。
トモエは道具箱からミルク瓶を取り出す。
ハトホルミルクをがぶ飲みして零れそうな涙を我慢した。
現在、第一次防衛ラインを守っているのはトモエとダグの1人と1機。
第二波までは横綱と剣豪がいてくれた。
しかし、途中からバッドデッドエンズの終焉者が殴り込んできて、2人はそちらに掛かり切りになってしまったのだ。横綱と剣豪がメチャクチャ強いのは知っているが、あの終焉者たちも負けず劣らずの腕前をしていた。
とても「こっちを手伝って!」と言える空気ではない。
ここはトモエたちが頑張るしかないのだ。
総司令官であるダグが最前線で戦っているため、スプリガン族もこの日のために建造した超々遠距離砲で火砲支援攻撃を続けてくれている。
ミロから分けてもらったハトホルミルクと、こういう時のためにトモエがこっそりツバサお母さんから搾っていた内緒のハトホルミルクの貯蔵も充分。
万能薬でフル回復もバッチリだった。
まだまだ頑張れる――まだまだ持ち堪えられるはずだ。
「……ッ! トモエ様、第五波です!」
「もう来たのな!? 早すぎるのなッ!?」
本当に一息ついた程度の休憩しか取れていないが、来るなと喚けば止まってくれるような融通の利くものでもない。諦めるしかなかった。
見渡す限りの地平線――その彼方に濛々と土煙が舞い上がる。
身体を揺らす微震に気付けば、すぐに天地を震撼させる激震となった。
巨獣が地津波を起こしながら押し寄せてくる。
ダグはスリープモードで休ませていたゴッド・ダグザディオンをすぐさま再起動させ、トモエはその肩から飛び立ってパズルアームを構え直した。
全然休憩を取れなかったが仕方ない。
そこは諦めるが、不安が足下から込み上げてくる。
このまま巨獣の波が寄せ続ければ、ダグもトモエも長くは保たない。
そんな暗い未来を想像してトモエは呻く。
「くっ! せめて……長男と次女が戻ってきてくれたらな……ッ!」
無い手は頼るな――ツバサお母さんの至言だ。
それでもトモエは求めてしまう。この窮地を助けてくれる手を、一緒に戦ってくれる仲間を……横綱や剣豪、長男や次女が戻ってきてくれることをだ。
不意にゴッド・ダグザディオンから警報が鳴り響いた。
『未確認のLV999反応を検知! こちらに急接近していますッ!』
ダグザディオンのレーダーが何者かの接近を捕らえる。
正体を確かめる間もなく、その何者かはアクションを起こしてきた。
「シャアアァイニングゥ……シューティングスタァァァァーーーッ☆」
トモエの願いが星に届いたのかも知れない。
底抜けに明るくて語尾が間抜けな声が聞こえたかと思えば、一緒に降ってきたのは視界を埋め尽くすような光の流星群だった。
流れる星のひとつひとつが、強力で攻撃的な“気”の結晶である。
流星群は迫り来る巨獣の群れに降り注ぐ。
その行進を止めるどころか、息の根を止める絨毯爆撃となった。
『な、え……? 巨獣の第五波が……全滅!?』
起動したゴッド・ダグザディオンは自身より大きいダグザディオン・メイスを振り上げたままの姿勢で固まっていた。巨大ロボの眼も白黒している。
トモエもパズルアームを組み立て直していた途中だ。
「んなぁ……」
開いた口が塞がらず、眩しい流星群を見上げて唖然としてしまった。
視界を目映い光で埋め尽くすほどの星の瞬き。
その中に実体として影を帯びる人物が紛れており、トモエたちの元へ向けてまっしぐらに飛んでくる。しかし、彼もまた目に痛いくらい輝いていた。
――キャラ作りに失敗した三流ホスト。
ツバサお母さんは彼に対して、そんな評価を下していた。
舞い降りてきたのは光り輝く美青年。
軽妙かつ軽薄な口調は一度聞いたら忘れられず、電飾でも這わせているかのように煌めいているウルフカットの金髪。睫毛と顎と鼻がちょっと尖っているが、それさえ見逃せばまあまあの美形で通じる。
微笑む口元から覗く白い歯までギンギラギンに輝いていた。
素肌に羽織るジャケットやパンツに革靴。
それらすべてがホワイトウェディングばりに光を帯びた純白だった。
「はぁーいリトルレディ♪ お久し振りぶりー☆」
助けに来たよー☆ とその男は光の粒子を振り撒いた。気取ったピースサインを顔に添えて、へんてこりんなポーズを取っている。
トモエを「リトルレディ」と呼ぶ人物に心当たりは1人しかいない。
還らずの都でトモエはこのお兄さんと戦っていた。
キョウコウ五人衆――輝光子イケヤ・セイヤソイヤ。
「んなぁ……ツバサお母さんが言ってたのってもしかして……」
情報網で「助けが来るかも」みたいな話がツバサお母さんから連絡で回ってきていたが、トモエは戦闘に夢中で聞き流してしまった。
なので半信半疑だったのだ。
イケヤは白い歯を輝かせて極上のスマイルを贈ってくる。
「YES☆ ボクと愉快な仲間たちのことさ☆」
キョウコウ様からの援軍だねー☆ と爪先立ちでクルクルと回転する小躍りをしながら、イケヤは自分たちが援軍だとアピールしてきた。
そのまま錐揉み回転で舞い上がっていく。
「さてさて、助けに来たよー☆ って挨拶も済んだことだし、リトルレディと鋼鉄製のビッグボーイはもうちょっと休んでいるといいよー☆」
点に見えるほど上空まで再浮上したイケヤ。
「休憩くらいの時間――今のボクなら稼いであげられるしねー☆」
そこから爆撃の流星群を放ち、第六波の巨獣までも食い止めてくれた。
トモエは気の抜けたため息をつく。
「んなあぁ……ダグ君、お言葉に甘えて休ませてもらうのな」
そういってトモエは飛び立ちかけたゴッド・ダグザディオンの肩へ座り直した。でも油断はできないので、ハトホルミルクおかわりで回復力を上げる。
『え……よ、よろしいのですか?』
あの怪しい青年を信じても? という気持ちが言葉の裏に隠れている。
いいんな、とトモエはミルクで濡れた唇を拭う。
「あのお兄さんはいい人な。トモエ、一回戦ったからわかるのな」
変態だけどな――余計な情報も付け足しておく。
イケヤのおかげでこの防衛ラインはしばらく維持できるそうだ。
心配なのはダインとフミカが置かれた状況だった。
予定では今頃もうハトホル太母国に戻っており、トモエたちと一緒に第一次防衛ラインの守備に加わっていなければならないはずなのだ。
しかし、この場に長男と次女の姿はない。
未帰還の事情については、情報網で連絡も回ってきていた。
どうも厄介な終焉者に捕まってしまったらしい。
~~~~~~~~~~~~
ハトホル一家 長男 ダイン・ダイダボット。
ハトホル一家 次女 フミカ・ライブラトート。
ツバサを母親と慕う子供たちの中では最年長であり、現実世界から交際を重ねてきたた恋人同士。ミロの強引な仲人によって晴れて夫婦となった。
もしもツバサやミロに万が一が生じた場合。
この夫婦がハトホル太母国の全権を受け継ぎ、次の盟主となるのだ。
それほど頼りになる人材という意味である。
蛮カラサイボーグなダインと文系褐色踊り娘なフミカ。
2人はこの戦争の開戦時、ツバサやミロと行動を共にしていた。
破壊神ロンドが開戦と同時に仕掛けてくる3つの初手を先んじて封じるため、4人で力を合わせて立ち向かったのだ。結果は概ね成功といったところで、世界中にばら撒かれた巨獣を相当数減らすことができた。
作戦終了後、ダインとフミカはツバサたちと別行動を取る。
超巨大機動要塞――フォートレス・ダイダラス。
普段はダインの過大能力でもある【要塞】という亜空間に格納されており、彼の意志ひとつでどこにでも召喚できる移動要塞だ。
全長1㎞に及ぶ浮遊要塞として空を航行することもできれば、ダインとフミカが登場することで規格外の巨大ロボに変形して戦闘を行うことも可能。
この移動要塞とともに自国へと帰還する。
その帰り道、砲撃や爆撃による巨獣退治も忘れない。
ハトホル太母国の第一次防衛ラインを守る面子は、横綱ドンカイ、剣豪セイメイ、腹筋娘トモエ、ゴッド・ダグザディオンの計4人いる。
しかし、横綱と剣豪はいずれ外れると予想されていた。
どうやらバッドデッドエンズの中に因縁を持つ者がいるらしい。
終焉者との激突がほぼ決定事項だからだ。
彼らの抜けた穴を埋めるためにも、ダインとフミカはフォートレ・スダイダラスを駆って巨獣を狩りつつ、大至急ハトホル太母国へ帰る必要があった。
「そいつをこがな形で邪魔されるとは……ッ!」
「有り得るかもと思ったけど、ここまでのは想定外ッスよーッ!?」
夫婦は息を合わせて悲鳴を上げてしまった。
フォートレス・ダイダラス――複座式の操縦スペース。
コンソールとモニターが幾重にも取り囲んだ前の席にフミカが座り、移動要塞の全情報を統制コントロールしている。その席からやや高い位置に設けられた後ろの席にダインが陣取り、要塞と半ば融合しつつ操縦を担当していた。
とにかくフォートレス・ダイダラスはデカい。
他の巨大ロボや合体メカならば、ダインが単身でも操縦するなり合体なりすることで操作できるのだが、この移動要塞ロボだけは追いつかない。
そこで内助の功、フミカの出番である。
フミカが要塞内の情報管理を一手に引き受けて支援することで、フォートレス・ダイダラスは万全の機能を発揮できるようになるのだ。
そのフォートレス・ダイダラスが――機能不全により墜落寸前だった。
フミカは狂ったようにコンソールを弾きまくる。
キーボード式のそれは目まぐるしく明滅を繰り返していた。
「メイン動力炉出力低下! 最大出力と比較して55%も出てないッス! 10個あるサブ動力源も半分が活動停止! 残り5個も回転率が急降下ッス! 予備電源とかも間に合わないッスよ~~~ッ!?」
モニターに浮かんでは消える「警告」と「ERROR」の二文字。
吐き出される不具合は5桁に近付いている。
その対応と処理に追われるフミカは、発狂してもおかしくないほど眼がグルグルと回っていた。それでも情報処理の専門家という自負がある。
動かなくなる動力炉、足りなくなるエネルギー。
停止目前の動力炉をどうにか目覚めさせ、枯渇していくエネルギーを効率重視で賄おうと、一心不乱にコンソールを操作していた。
一方、ダインも恋女房にばかり苦労を掛けさせているわけではない。
フォートレス・ダイダラスは合体変形ロボでもある。
ダインはこの移動要塞と合体、一心同体になっているのだ。
ダイダラスの不調はダインの不調に等しい。
動力炉に問題が起きてエネルギーを確保できない以上、ダインは眠気と空腹を取り混ぜたような倦怠感に見舞われる。フォートレス・ダイダラスという肉体を動かそうにも、心臓や肝臓といった臓器が働こうとしない状態だった。
しかも最悪なことに――原因がわからない。
「ぐっ、むっ……一体全体なんじゃあこりゃあッ!?」
フミカに手間を掛けさせるばかりではなく、ダインも動力炉を叩き起こそうとあの手この手で発破を掛けているが、何故か弱まるばかりだった。
フォートレス・ダイダラスから力が失われていく。
その原因が皆目見当付かない。要塞内のどこにも不備はないのだ。
「このままじゃレーザー砲などの光学兵器に回す火力も確保できないッス! いやそれ以前に飛行能力を維持することさえままならないッス!」
そもそも現状、推進力すら確保できていない。
おかげで逃げることもままならず、足止めを喰らっていた。
フミカは悲痛な叫びとともにダインへ振り返る。
愛妻にこんな顔をさせるなど亭主失格だ、とダインは己の未熟を恥じた。
「こいは絶対に何かをされちゅうな……やけんど悔しいがな」
――何をされちゅうのかがわからん!
ダインは操縦席の肘掛けへ拳を振り下ろした。叩き壊すのも仕方ない。この危機的状況で怒りに任せて、コンソールを破壊するのは避けたかった。
フォートレス・ダイダラスから力を消えていく。
この異常事態を引き起こしていると思しき人物は目の前にいた。
2人のモニターに映るのは――宙に浮かぶ毛玉。
薄汚れた灰色の毛玉にしか見えないが、紛れもなく終焉者の1人だ。
最悪にして絶死をもたらす終焉 20人の終焉者。
№17 混迷のフラグ ウトガルザ・ロキ。
ハトホル太母国への帰り道を急ぐダインとフミカ、2人が乗るフォートレス・ダイダラスの前へ立ちはだかるように現れた不気味な老人である。
彼が出現して以来、動力炉が弱ってきているのだ。
しかし動力炉自体は正常に稼働している。
何度調べても故障などはしておらず、むしろ帰り道を急ぐため常と比べて出力を上げているはずなのに、発揮されるべきパワーは衰える一方だった。
すべてはロキという老人の出現とともに始まった。
「あん毛玉ジジイが何かしちゅうは間違いない……やけんどな!」
「あの毛玉の人……微動だにしてないんスよね……」
これが不可解すぎる点なのだ。
ロキはフォートレス・ダイダラスの行く手に浮かぶばかり。
髪と髭に覆われた毛玉からは手も足も出してない。
過大能力や技能を使う素振りさ見せていなかった。
派手なエフェクトが発生する様子はどこにもない。もし隠密系や隠匿系といった技能を使うことでこちらの視覚を騙そうとしても、探知や感知に索敵といった調べることが得意なフミカの眼を誤魔化せるわけがない。
あの毛玉みたいな老人はただ宙に浮かんでいるだけなのだ。
だが、この老人が原因としか考えられなかった。
「さて、お若いののお二人さん……そろそろ死んでくれんかギ?」
ギッギッギッ、とロキは軋んだ含み笑いをする。
すべてを滅ぼす終焉者。投げ掛けてくる言葉もそれらしい。
「老い先短い儂よりも一足先に死んでおくれギ」
しかし、そこから先の台詞はダインたちの予想からかけ離れていた。
「儂はこの通り老いさらばえておるギ……神族とはいえ、いつ死ぬか知れたもんじゃないギ……でも、一人で死ぬのは寂しいから御免蒙るギ」
道連れが欲しいギ――そういうロキの声は陰湿な喜びを含んでいた。
ダインとフミカはロキの言いたいことを察する。
それはまさに最悪にして絶死をもたらす終焉に相応しい思想だった。
「つまりアンタはアレか、孤独死は嫌きちゅうて……」
「この世のすべてを道連れにして死のうって魂胆ッスか!?」
毛玉の奥、真円のようなロキの眼が弓なりに曲がる。
「最近の若いのにしては飲み込みが早いギ……見込みがあるギ」
楽しいのか嬉しいのかそれとも両方なのか、ロキは全身の体毛をわっさわっさと揺らして喜んでいるような。軋んだ笑い声も鳴り止まない。
もしかすると歓喜のダンスなのかも知れない。
やがてピタリと踊りを止め、鋭い眼光に乗せて殺気を叩き付けてきた。
移動要塞ごと朽ち果てさせかねない冷徹を極めた殺意だ。
「ならば尚更のこと……儂より先に死んでほしいギ」
「「最悪だこのクソジジイィィィーーー!!」」
ダインとフミカは声を揃えてロキにありったけの罵声をぶつけた。
「まったくだ――老醜ここに極まれりだな」
どこからともなく同意の声が流れてきた。
ロキとは違う、だが年齢を重ねた深みのある男性の声だった。
声の主より先に別のものが姿を現す。
それは遙か空の高みから降り注ぐ無数の法剣だった。
密教で使われる法具の独鈷杵。その意匠を持ち手に施した法具のような剣が、豪雨と見紛う物量で撃ち出されるように降ってきた。
そのすべてがフォートレス・ダイダラスへと突き刺さる。
法剣は要塞の装甲を傷付けることはない。
だが、要塞に張りついた見えない何かをザクザクと斬り裂いている。
その途端、移動要塞から軽快な駆動音が奏でられた。
「動力炉回復したッス! サブ動力に予備電源……全機能オールグリーン!」
「やっぱあん毛玉ジジイのせいかクソがぁ!」
フォートレス・ダイダラスの復活にダインとフミカは気炎を上げた。
これにはロキも狼狽を露わにする。
「ギィッ!? まさか儂が視えて……ギィィィィィッ!?」
ロキは突然の苦痛に絶叫を上げる。
一際大きな法剣が突き立ち、毛玉を貫通したからだ。
巨大な法剣はロキの肉体を刺し貫き、空中に縫い止めたままにする。その剣の柄へ軽やかな足取りで着地するひとつの影があった。
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