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第17章 ローカ・パドマの咲く頃に
第414話:不滅という名の無期懲役
しおりを挟む情報屋ことショウイ・オウカは目を見張った。
あまりにもドラマティックな展開が立て続けに起きているので、瞠目するより他ないのだ。折られかけた喉で必死に息を継ぐ。
チャームポイントの出っ歯をすり抜ける空気だけでは足りない。
丸眼鏡をずらして「フハッ!」と鼻息も吹いた。
――源層礁の庭園。
仮に、この真なる世界である生命が絶滅したとしよう。
とある種族の進化の系譜が前触れもなく途絶える事態があるかも知れないし、予想もできない突然変異が起きて、生態系が復元できない状態まで追い込まれる未来が待っている可能性も捨てきれない。
生態系に起こる特異な事象は予測が難しい。
それは地球でも同じである。
歴史を紐解けば、数々の大きな事件に起きていた。
生命種が短期間で大量に増えたことによる炭素の欠乏、氷河期の始まりと終わりで起きた温度差による海面高度の変化についていけなかった水棲生物の大量絶滅、急激な酸素濃度の変化に対応できず衰退した生物種……。
地磁気が変化して地球外から降り注ぐ宇宙線が強まり、遺伝子に変化をもたらしたとの説もあれば、巨大隕石の衝突というわかりやすい異変もある。
ここに挙げた例などほんの極一部。
地球の環境でさえ数々の大異変に見舞われてきた。
そうした大異変が起こるごとに多くの種が死に絶え、この異変を生き延びた種から新たな生物が誕生し、生態的空白を埋めていったのだ。
生命は絶滅と進化、離合集散を繰り返してきた。
それでも一度たりとて途絶えることなく、生命の連鎖は紡がれてきたのだ。
今日に至るまで生まれた種は途方もない数となるだろう。
地球でもこれだけの激動があったのだから、真なる世界ではもっとダイナミックな劇的変化が巻き起こってきたのは想像に難くない。
では――絶滅した種は弱かったのか?
そんなことはない。彼らなりに生存に適する形質を獲得したはずだ。
ただ、それが時代の潮流にそぐわなかっただけ。
不老不死に等しい寿命を持つ神族や魔族は、多種多様な種が生きるために身につけた能力を見続けてきた。進化の変遷を見届ける時間的余裕があったのだ。
ある時、誰かがこう考えたらしい。
『その進化――失うには惜しい』
いつの頃からか、学者肌の神族や魔族が集まっていた。
彼らは歴史から零れた進化を拾い集める。
多種族の生きた痕跡を探し出し、希少な怪物の構成要素を保存し、失われた生物の化石を掘り集め、過去の動植物の死骸が堆積した地層を保護し……。
やがて、集めたものを保護して研究する場を設けることになった。
――生命の歴史を集積した資料館。
それが源層礁の庭園と呼ばれる遺物の正体である。
たとえ真なる世界に生きる大半の生命が滅んだとしても、この庭園に残された種族の因子(遺伝子と同義らしい)を用いれば、あらゆる種を復活させられる。絶滅した原因がわかれば、それを補う要素を組み込むこともできる。
ここは遺伝子の貯蔵施設なのだ。
地球の例でたとえるなら――ノアの方舟。
世界を覆う大洪水を乗り越えるため、ノアの一族だけではなく動植物の雄雌を必ずつがいで乗せることで、次の時代へと種を繋いだ神話である。
そういう意味でも、庭園は方舟に通じるところがあった。
生態系を保全する研究施設も兼ねるからだ。
自然そのものである生態系を見守ることに専念し、必要以上の干渉はしないことを鉄則とする。あくまでも異常事態にのみ対応して行動を起こす。
生態系の調停者であり――生命の管理者だ。
真なる世界のみならず、地球や他世界までの生物学的な情報資源まで収集していたのだから、ここを築き上げた研究者たちの情熱が窺い知れる。
ショウイは情報屋と呼ばれてきた。
だからこそ、情報を扱う人々の信念には共感することができた。
生物学だと畑違いでは? と思われるかも知れないが、情報屋の扱う情報に区別はおろか貴賤もない。そういった専門知識も喜んで収集してきたし、集めたものを整理しながら読み直すのがショウイの楽しみなのだ。
異世界へ飛ばされて数ヶ月後――。
『何としてでも生き延びてやる!』
『生きて生きて生き抜いて! この世界を知り尽くしてやる!』
『あの人たちみたいに……俺も強くならなければ!』
『強くなって、この世界のことを調べ尽くして……ッ!』
『そうだ! もし再会できたら、あの人たちの情報屋になろう!』
魂に火を着けてくれた――彼女たちのために働こう。
このような決意の元にがむしゃらな旅路を続けたショウイは、決死の思いが報われたのか、気付けばLV999に到達していた。
戦闘系も鍛えたが、情報処理系で伸びた分が大きいらしい。
ショウイの戦闘方法は準備を徹底する。
入念な分析と走査――すべてを調査してから戦う。
索敵や警戒も念入りに仕掛けていき、外敵が接近する前にそいつの得意技から急所まで、鼻毛の数もわかるくらい調べ尽くしてやるのだ。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。
これを有言実行する戦法で、ショウイは真なる世界を生き抜いた。
それでも強行軍ともいうべき過酷な旅が祟ったようだ。溜まりに溜まった疲労値が限界に達し、とうとう行き倒れてしまったらしい。
目を覚ますと――源層礁の庭園だった。
周囲を警戒中の守護者が発見し、管理者が看病してくれたのだ。
ショウイは「地球から来た神族」と理解された。
灰色の御子という神族と魔族の混血児が、地球の人間から素質ある者を見出して、新たな戦力として連れてくるという話は聞いていたそうだ。
だからなのか――ショウイは大歓迎された。
庭園を管理する研究者たちは地球の情報を聞きたがり、庭園の番人である守護者たちは自分たちを上回る強さを手に入れたショウイを敬ってくれた。
まるで異世界に召喚された勇者の気分である。
ショウイの祖父たちの時代、そういった小説や漫画が一大ムーブメントを巻き起こしたと聞いたが、それをリアルで体験するとは夢にも思わなかった。
ただ、彼らにも打算があったようだ。
地球での最新情報を持ち、守護者より強く、人柄の良さそうな神族。
是非とも仲間に引き入れたかったらしい。
親密になった神族の女性がこっそり打ち明けてくれたのだ。
ショウイは助けられた恩もあるし、彼らの立場なら同じことをやりかねないと思ったので、蒸し返すこともせず仲良くやっていくことにした。
どうせ地球へ帰る当てはない。
この世界に骨を埋める勢いで、ショウイは庭園での暮らしに馴染んだ。
やがて情報を愛好する同士として打ち解ける。
ショウイは正式に庭園に迎えられ、用心棒という立場に落ち着いた。
報酬は食う寝るところに住むところ。
それと庭園に収められた情報の閲覧する許可だった。
ショウイの覚醒した情報操作系の過大能力が重宝されており、それに庭園の情報を保存することで、万が一に備えてほしいと求められたのだ。
要するに緊急時のバックアップである。
断る理由もないので、ショウイは喜んで了承した。
それほど庭園に集められた情報が魅力的だったのも手伝っている。
こうしてショウイの庭園暮らしは半年を超えた。
大きな戦争が始まったのは、迷宮の奥にある庭園にいてもわかる。天地を揺るがす激震が地の底にまで伝わってくるのだから無理もない。
知らぬ存ぜぬで通す方が難しい。
庭園に暮らす者たちは――この戦争には参加していない。
世界を終わらせかねない大戦にもかかわらずだ。
これをグレンは大いに罵った。
『世界の終わりを前にしても腰を上げない臆病者ども!』
源層礁の庭園に暮らす研究者や、庭園と彼らを守る守護者たちを、軟弱者呼ばわりして蔑んだ。好戦的な彼の性格ならば当然だろう。
もしくは閉鎖的な共同体と見做したようだ。
しかし、庭園の者たちは臆病でもなければ排他的でもない。
我関せずを貫くならば、ショウイは助けられていなかった。
庭園の保護――この使命を最優先とする。
これは遺物を託された者たちに共通するという。
無論、戦闘能力の高い者は「あーじれったい! 俺ちょっと参戦してきます!」と騒いでいた。自分が加われば百人力だと言わんばかりに、この世界を守ろうとする勢力への加勢をしたがる者も後を絶たなかった。
特に迷宮の番人を務める守護者グループ。
彼らはLV800越えが多く、この戦争に加われば十二分な戦果を挙げることが望めるので、義侠心に駆られて出陣しようとした。
士気を挙げる守護者軍団を庭園の長老は懸命に押し止めた。
『遺物の守護者に選ばれた者はそれを全うせよ』
還らずの都も、天梯の方舟も、金言と銀言の塔も……他の遺物を守るよう言い渡された守護者たちも、心苦しいだろうが辛抱しているはずだ。
『遺物とは真なる世界の根幹を司る“柱”』
その“柱”を守ることも――また立派な戦いである。
長老の言葉に説得された守護者勢は不承不承ながら聞き入れた。
しかし、戦火はあちらから舞い込んでくる。
真なる世界に対して破滅的な攻撃を仕掛けている集団。
その中でも強大な力の持ち主が一人、世界各地を転戦するように手当たり次第の殺戮を繰り返し、ついに源層礁の庭園へやってきた。
守護者勢は迎え撃ったが、誰一人として敵わない。
主立った守護者の面々をすべて一撃で葬り去った張本人は、庭園最深部に避難した管理者たちと、その用心棒を任されたショウイの前に現れた。
我が眼を疑って絶句する。
そして、この悪縁を呪いたくなった。
現れたのは大嶽煉次郎――いいや、殺戮師のグレンだった。
見目こそ変わっていたが、あの血肉を欲する餓狼のような眼差しは忘れるはずもない。親友ながら幾度となく肝が冷えたのを覚えている。
それでも学生時代の数少ない親友だ。
ショウイは情報屋として多くの交流はあったものの、親友と呼び合えるほど親密に付き合った者は少ない。グレンを含めて数えるほどだった。
桜井昌一郎は、大嶽煉次郎の異常性を見抜いていた。
殺人欲求ならぬ殺害欲求。
生命を殺すことを快楽に覚え、血みどろの戦いに情熱を燃やす男。
何度か家へ遊びに行った際、トイレと間違えて迷い込んだ納屋で見つけた凶器の数々と、グレンがよく口にした野生動物に関する話。
それは実際に腑分けしなければわからない情報ばかりだった。
ショウイはその知識欲から解剖学などの本を読んで得た知識を、読書とは無縁のグレンはペラペラと実体験のように喋る。いくら山深い里の生まれで猟師と付き合いがあるとしても、異様なくらい詳しく知っていた。
どうすれば皮を剥げるか? 内蔵の位置と骨の配列はどうなっているか?
その生物を仕留めてから解体するまでの知識が豊富すぎるのだ。
あの血生臭い凶器で――野山の獣を狩り殺している。
そう結論付けるのに時間はかからなかった。
しかし、人間の趣味は十人十色だ。
猟奇的趣味も数多い。スプラッター映画の愛好家がいれば、殺人記録映像じゃないと興奮できない筋金入りの変態もいる。
グレンが戦闘や殺戮も楽しむのも、愛好症のひとつかも知れない。
そう割り切ることで友情は保たれていた。
アシュラ・ストリートを勧めたのも、グレンの抱えている殺害欲求というストレスを緩和できればと、良かれと思ってのことである。
思い返せば――これが過ちだった。
デスペナルティを意に介さず、プレイヤーの虐殺を楽しむ。
この凄惨なプレイスタイルだけならば、そういう残虐嗜好が趣味なのだと片付けても良かったが、さすがに“英霊への道”は常軌を逸していた。
『弱い奴らが弱いままなのが気に入らねぇ』
以前、グレンはショウイにこんなことを零したことがある。
『強くなろうとする根性のある奴を、強くなった時にぶちのめすから面白ぇんだ。弱くても格上に噛みつく、窮鼠の猫を噛むってぐらいの気概がある奴をぶっ殺してこそおれの心は満たされるんだよ』
平和というぬるま湯――現状維持という停滞。
『そのくせ口だけは一人前以上に叩きやがる……そういう奴らの目を覚まさせてやりてぇ。殺し合う強さに目覚めさせるきっかけはねぇものか……』
それが“英霊への道”に他ならなかった。
VR空間内におけるアバターの運動性能を向上させる電子サプリ。
その実態は、アバターの運動性能のみならず戦闘能力を「ブッ壊れ」と揶揄されるほど向上させ、心理的な攻撃性まで誘発させる電脳ドラッグだ。
ただし、脳の運動野を酷使するために後遺症が起こる。
運動神経が深刻に脅かされ、まともに動くことさえできなくなるのだ。
このドラッグでは大勢の被害者が出た。
アシュラ・ストリートはサービス終了に追い込まれ、“英霊への道”を使った者は日常生活に支障が出るレベルの後遺症に悩まされていた。
――俺のせいだ。
ショウイは自責の念に苦しんだ。
自分がグレンにアシュラ・ストリートを勧めたから、このような事態を招いたのだと思い込んでしまった。かといって誰かに責められるわけでもなく、グレンもショウイについて言及しなかったため、贖罪の機会にも恵まれない。
恥ずかしながら名乗り出る勇気もなかった。
罪の意識を抱えたまま、ショウイは悶々とした日々を過ごしてきた。
あれから数年――最悪の再会である。
まさか異世界転移なんてふざけた未来の先に、現実世界へ置いてきた因縁の当人とこうして再会するとは夢にも思うまい。
グレンにしてみれば、いくらか思惑があったように見受けられる。
異世界転移の足掛かりとなったVRMMORPG。
これをショウイに勧めたのは他でもない、電脳ドラッグ製造と流布の罪で刑務所に服役中のグレンである。面会中の話に盛り込んできたのだ。
『おまえがおれにアシュラ・ストリートをオススメしてくれたように、オレもおまえ向けのとっておきを教えてやる……きっとハマるぜぇ?』
牙みたいな犬歯を輝かせてグレンは笑っていた。
そう推論してしまうと、あの殺戮狂の思惑通りということだ。
殺しにしか興味のない脳筋野郎にはめられた気がして、情報屋としては少々癪に障る展開である。だが、見方を変えれば好機とも捉えられた。
この場で――グレンを倒す。
悪縁と因果を絶つ絶好のチャンスだ。
抱え込んでいた自責の念を拭い、わずかばかりの贖罪ともなる。
どちらにせよ、グレンとの戦いは避けられない。
グレンは庭園の最深部へ到達するまでに、何十人もの守護者たちを血祭りに上げているのだ。用心棒として看過できるものではない。
グレンは庭園に暮らす者を全員殺すに決まっている。
殺しへの欲求が疼いて堪らないはずだ。
まだ息のある守護者は勿論、避難した管理者たちも見逃すわけがない。
そして、親友であるショウイも殺すだろう。
『親友だからな……誠心誠意、友情という真心を込めて殺してやる』
血塗られた友情もあったものだ。
夕暮れの河原で殴り合う漢の友情、その過激バージョンか?
しかし、むざむざ殺されるつもりはない。
どんな手を使ってでも生きて生きて生き抜いて、弱さに甘んじていた自分の魂を燃やしてくれた、憧れの彼女たちに相見えなければならない。
再会しなければならない理由もできてしまった。
そのためにもグレンを殺す。悪縁を断ち切るのだ。
双方ともに相手を殺す決意を固めた以上、全力で殺り合うしかない。
文字通り――命を懸けた死闘が始まった。
ショウイもLV999という最高峰には達したものの、それはグレンとて同じこと。むしろ殺戮と戦闘をこよなく愛する彼ならば、前衛職の職能として一足先にLV999になっていたはずだ。
当然、戦いへの熟練度が違う。
情報収集がメインの後衛職には荷が勝ちすぎている。
ありったけの銃火器を用意し、火薬の類も在庫一掃のつもりで使った。
管理者たちにも武器を渡して手伝ってもらった。
しかし――結果は無残なものだ。
どれだけ攻撃してもグレンは怯むどころか歓喜し、肉はおろか骨まで砕いて内臓をこぼすほどのダメージを与えても意に介さない。
どんな重傷でも瞬時に再生回復し、こちらへと詰め寄ってくる。
ショウイとグレンの戦いに巻き込まれた管理者はとばっちりで何人も死に、愛用の突撃銃を砕かれたショウイも首を鷲掴みにされてしまった。
手加減なしで陸珊瑚に叩きつけられる。
時としてアダマント鋼に匹敵する固さにまで成長する陸珊瑚へ、受け身を取ることもできずに叩きつけられたら無事では済まない。特殊繊維の軍服と一緒にショウイの背中はズタズタに引き裂かれた。
捕まれた首は今にも頸椎がへし折られそうだ。
ショウイの頸動脈にグレンは鉤爪をジワジワ突き立ててくる。
「親友を手に掛けるのは初体験だが……悪くねえ、悪くねえ気分だぜ」
彼は――泣きながら笑っていた。
歓喜の涙か? それとも……まさか後悔の涙なのか?
どちらかと言えば「ここまで戦えるようになった親友を殺すのは惜しい! でも殺さないと満足できない!」という懊悩の涙のようだ。
自分勝手なジレンマもあったものだ。
葛藤の時間を楽しむように、握力と鉤爪がゆっくり食い込んでくる。
「命乞いもさせないのか……君って奴は!」
辛うじて声を絞り出せても、命乞いが間に合うとは思わない。
そもそもの話、この殺戮狂が命乞いを聞き入れるわけがないという諦めが先立っており、腹の底から湧き上がる血反吐の味が“死”を意識させた。
「――あなたぁッ!」
神族の女性が上げる悲痛な叫びが聞こえてくる。
こんな冴えない自分と親密な仲になってくれた奇特な人だ。せめて彼女と……だけは守ろうと頑張ってみたものの、努力は報われなかった。
「……あばよダチ公!」
別れの言葉を雄叫びのような大声で告げるグレン。
ここまでか……意識まで遠退くショウイは瞼を閉じかけた。
朧気な視界で見たのは、グレンの横っ面が鉄拳で殴られる瞬間だった。
「…………え?」
死ぬ間際、そうなってほしい願望でも垣間見たのか?
ショウイは間抜けな声を漏らしながらも瞼をこじ開ければ、喉の拘束が解けており、目の前からグレンの姿が消えていた。
遠く離れた場所からドゴーン! と陸珊瑚が爆砕する音がする。
どうやら本当にグレンは殴り飛ばされたらしい。
殴り飛ばした人物は、ショウイや管理者たちの前に降り立った。
その大きな背中から感じたのは頼もしさ。グレンという脅威からこの場の全員を守るべく、巨体を盾にして立ち塞がっている力強さに満ちていた。
――山の如き巨漢であった。
身の丈190㎝を超える偉丈夫だが、顔立ちはまだ若々しい。
多分、ショウイやグレンと変わらない年齢だろう。
日本人離れした骨格をしているのか、手足が長くて太い。
凄まじい鍛錬をしてきたのは、その鋼にも勝る体躯を目にすれば一目瞭然だ。全身の筋肉量は相当なものだが、不思議と重々しさは感じられない。例えるなら大型のイヌ科動物……太古の狼を連想させる。
あるいは野山を飛ぶように駆ける天狗のようだ。
硬い表情を浮かべる面立ちだが、そのマスクは端正なものだった。
巨体に見合わぬ好青年な面相である。
髪はスポーツマンらしく短めに刈っていた。
ファッションはそれほどこだわりがないのか、ラフなTシャツに脚の動きを制限しないカーゴパンツ。ファーをあしらったスカジャンに袖を通していた。
ゴツい編み上げブーツ、分厚い靴底は特注のようだ。
このストリートファイター風なファッション。
ショウイの記憶に間違いはない。この青年には見覚えがあった。
――アシュラ・ストリート全盛期。
グレンの兇行が噂として流れてきたので、ショウイは勧めた経緯もあったのでゲームこそプレイしなかったものの、評判や人気について調べてみた。
調べた情報には上位ランカーも含まれる。
最強のアシュラ八部衆や、グレンも数えられたベスト16もだ。
――そのベスト16の一人。
幾度となくグレンと鎬を削り、アシュラ九部衆と言われた漢。
「……山峰……円央……ッ?」
あの頃と変わらない出で立ちのエンオウがそこにいた。
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――少々手間取ってしまった。
エンオウは探索に費やした時間のロスを悔いた。
イシュタル女王国と水聖国家オクトアードを守る第一次防衛ライン。そこで迫り来る巨獣を倒しながら、グレンが訪れるのをエンオウは待っていた。
しかし、待てど暮らせどグレンは来ない。
予想した通り、エンオウとの対戦する前に寄り道をしていた。
いつまで経ってもグレンは現れず、こうしている間にも真なる世界の生命が次々と奪われていく。さすがに業を煮やしたエンオウは、ミサキ君やヌン陛下から了解を得ると、グレン討伐のために第一次防衛ラインから動いた。
持ち場を離れ、こちらからグレンを迎えに行く。
幸いなことに万全のサポート態勢が整っているからできることだ
――情報官アキ・ビブリオマニア。
四神同盟随一の情報序理系技能に優れ、あらゆる情報の探索に秀でた過大能力を使う彼女の後方支援のおかげで、グレンの居場所はすぐに判明した。
アキさんの情報を頼りにエンオウは現地へ向かう。
しかし、あの殺し屋は移り気だ。
一カ所にジッとしておらず、殺戮を堪能するとすぐに次の狩り場へまっしぐらに移動するため、エンオウはあちらへこちらへと奔走されてしまった。
ようやく移動が鈍くなって追いつくことができた。
低めの山脈に偽装した――巨大迷宮。
そこは惨劇の舞台となりかけており、多くの神族や魔族に多種族、それに灰色の御子たちがあたら無惨に命を落としていた。
エンオウが到着するまでの間、何百人が犠牲になったのか?
……もっと早く行動に移るべきだった!
エンオウは安直にグレンを待ったことを後悔した。あの殺戮狂を放置しておけば、こうなることは火を見るより明らかだったにも関わらずだ。
ギリッ、と奥歯を噛み締めて拳を硬く握る。
せめて――この迷宮最深部にいる生存者は守り切る。
我が身を呈してでも必ずだ。エンオウは自らにそう誓約を懸けた。
「逆上せてたとはいえ、おれを殴り飛ばすとは……」
殴り飛ばしたグレンのぼやきが聞こえる。珊瑚のように生命力を感じる硬い岩を突き崩すほど殴り飛ばしたのだが、もう意識を取り戻したようだ。
砕けた岩を押し退けながらグレンは立ち上がる。
その首は辛うじて繋がっていた。
首の皮一枚だが、高速回復のおかげでもう喋れている。
以前の戦いではエンオウの拳打により、グレンの首と胴体を生き別れさせることができた。あの頃より肉体強度が上がっているようだ。
どんな重傷も瞬く間に回復し、回復する毎に異常な強化が働く。
死の淵から甦る度に強くなる。
まるでどこかの名前が野菜だらけの戦闘民族みたいだが、グレンの強化は一時的なものだ。しばらく経てば落ち着くらしい。
それでも――強化により変質した肉体は結果として残る。
ある程度の強化は肉体に定着し、それに見合った身体的変化が伴うのだろう。以前にも増して肉体に獣じみた変貌を遂げつつあった。夜に出会したら普通にバケモノと勘違いしそうな風体である。
より殺戮と戦闘に適した肉体に変わりつつあるらしい。
「……本当、放置しておけない男だな」
エンオウは小声で嘆息した。
死ぬこと忘れた不死身の殺戮狂、傷を負う度に強くなる戦闘狂。
いずれ誰の手にも負えなくなる日が来る。
それこそ終末の獣のように畏怖される魔獣となり、生きとし生けるものをただ狩り殺すことを楽しみとする、最凶最悪の害獣となるはずだ。
「仕留めておかないと被害は甚大になるばかりか……」
ツバサ先輩たちはグレンの危険性にそう評価を下していた。
『喰うために殺すならばまだわかるが、グレンは戦いで得られる昂揚の果てに絶頂を求め、生き物の血と肉をぶちまけることに喜びを見出している』
獣や人としても、神や魔としても有り得ない。
出会した者を誰であれ殺す。通り魔のように理不尽な脅威。
もはや存在そのものが呪われている。
『実体を持ってしまった殺意の権化だ……対処せねばなるまいよ』
救う術はない、とツバサ先輩は言外に示していた。
「――無粋を承知でお願いしたい!」
ツバサ先輩やレオナルドさんのお言葉を脳内にて反芻していたエンオウは、誰かが必死に懇願する声で我に返った。
グレンへの警戒を怠らず、そっと後ろに振り返る。
そこには軍服姿の兵士が土下座していた。
この世界に現住する種族ではない。地球からのプレイヤーだ。
LV999だが後衛職の空気を感じる。
グレン相手に善戦したのだから、相当な実力の持ち主だろう。
先ほどまでグレンと戦っていたが、その背中は珊瑚のような岩に叩きつけられたため血塗れだ。軍服もズタズタに引き裂かれ、直視するのも痛々しい。傷の痛みに脂汗を流しながらも、必死な表情で頼み込んでくる。
「君は……山峰円央くん、だろう?」
「! どうして、俺の名前を御存知なのですか……?」
初対面のはずだが、いきなり名前を告げられたことに困惑する。
「こちらが一方的に知っているだけ、のんびり説明している暇はない……アシュラで通じるはずだ。グレンとの因縁も多少は聞いている……」
確認が取れた兵士の青年は何度も頷いた。
「助けてくれたことに御礼を言いたいし、できればこの場のみんなを救ってやってほしいと厚かましいお願いもしたいが……まずはこれを!」
受け取ってほしい! と兵士の青年はある物を差し出してきた。
懐かしい――ナノメモリだ。
地球では最新の情報記憶機器として普及していた。
もっとも、真なる世界に飛ばされてからはお目に掛かったことがない。電子機器どころか機械さえない世界だから当たり前だ。
最近、四神同盟に加入してから何度か目にしている。
一流の工作者であるダイン君やジン君が、普通に使っていたはずだ。宇宙戦艦や巨大ロボを作れる彼らにしてみれば、スマートフォンやナノメモリを作るなんて朝飯前なのだろう。
この兵士の青年も工作者の腕があるらしい。
よほど射撃の練習をしてきたのか、掌には銃ダコが目立つ。
そこに3つのナノメモリが乗せられていた。
「この状況下でなら……俺たちより君の方が生存率が高い! だからこそ、これを受け取ってくれ! これには……此処の人々が守ってきた情報と、俺が今日まで調べてきた情報……そして、重要なことが記憶されている!」
必ず――あの人たちに伝えなければならない!
兵士の青年、その丸眼鏡の奥にある力強い眼差しが訴えてくる。
これを託す人に全幅の信頼を寄せている証だ。
「もし俺たちに何かあっても……この地が滅ぼされたとしても……生き残った君があの人たちにこれを渡してくれれば……俺たちの勝ちだ!」
「その相手とは……?」
エンオウが問い質すと、兵士の青年はニヤリと笑う。
「ツバサ・ハトホル……ミロ・カエサルトゥス!」
ツバサさんとミロちゃんに! と兵士の青年は親しげに2人の名を呼んだ。
明らかに面識のある言い方にエンオウは面食らう。
「あの2人なら、この世界でも逞しく生き抜いているはずだし……この情報を正しく扱ってくれるはずだ! 俺はそう信じている! 自分のこと以上に!」
――すべてを任せるに値する人物だ!
兵士の青年の言葉を聞き届けたエンオウは静かに微笑む。
敬愛する先輩とその彼女を、これほど熱い想いで信じてくれる御仁と出会えたことを密かに喜んだ。だが、今は言葉で伝える余裕はない。
グレンを殴り飛ばした拳骨は、握り締めたまま熱い蒸気を上げている。
その指を解いたエンオウは大きな手で制した。
「申し訳ありませんが、それを受け取ることはできません。その大切なものは……あなた自身の手で先輩に渡してあげてください」
きっと先輩もお喜びになります、と一言だけ添えた。
「え? せ、先輩……?」
戸惑う兵士の青年からエンオウは申し訳なさそうに顔を背けると、立ち直りつつあるグレンへ向き直った。宿敵を見据えたまま約束する。
「代わりと言ってはなんですが……皆さんのことは俺が守ります」
絶対に、とエンオウは他者にも誓約を懸ける。
いくつもの誓いを立て、逃げ場はないと甘い自分を戒めていく。
今日こそ――グレンを討伐する。
その決意と覚悟を拳に込めて握り締めると、再び蒸気が噴き上がる。熱い拳を眼前へ持ち上げるように構えたエンオウは厳しい声で言った。
「寄り道が過ぎる……だから迎えに来てやった」
ゴキン! と無理やりズレた骨をはめ込む音がした。
グレンが治った首の位置を戻した音だ。陥没も治った頭蓋骨を撫で回すと、すべて牙になった口元に三日月みたいなあくどい笑みを浮かべる。
「ああ、感謝するぜ親友……そんで悪かった」
待たせちまったなぁ! とグレンは両腕を広げて大歓迎だった。
その腕も人間離れしてきている。
筋肉の付き方は元より骨格も人間らしくない。
虎や獅子といった大型肉食獣、あるいは熊の前脚を思わせる狂暴なものだ。なのに手の形は五指を備えた人間のままなので器用さを失っていない。
「事ここに至って、能書きを垂れることもねぇよな!」
グレンは身構えるが、戦うための型とは思えない粗雑な構えだ。
武道家の視点では雑かも知れないが、野獣が獲物へ飛びかかるために全身をたわめていると見れば、理に適っている可能性があった。
「お優しいエンオウはクソ人間どもやこの世界の奴らを守りたい!」
錐みたいな太さの鉤爪でエンオウを指差す。
「グレンはどいつもこいつもぶち殺したくて慢できねぇ!」
長く伸びた親指を立てたグレンは自身を指した。
「この世界での立場の割り振りはこれで十分だ! アシュラで出会ってからの因縁は腐るほどあるが、今となっちゃあ青春の1ページで最高の思い出よ! おまえが善玉でおれが悪玉! 殺し合うにゃ十分に足る理由だよなぁ?」
存分に――殺し合おうぜ。
チラリ、とグレンはエンオウの背後に目を配る。
明らかに兵士の青年を見つめており、謝るような軽口を叩いた。
「そういうわけだ情報屋ショウイ! 悪ぃがおまえとの友情は後回しだ! 主菜が先に来ちまったんでよ! おまえは前菜と思ってたんだが……」
食後茶菓に予定変更だ! などと勝手なことを宣う。
グレンの口振りや親しげさから、兵士の青年とも知り合いだとわかる。
エンオウは小声で肩越しに青年へ尋ねてみた。
「……あの殺戮狂と縁があるのですか?」
「恥ずかしながら……中学生時代からの友人、腐れ縁です」
ヤバい――苦労を分かち合えそうだ。
この戦いを乗り切れたのなら、いい友達になれるかも知れない。共にグレンという悪友に悩まされ、ツバサ先輩を敬愛する友人になれそうだ。
兎にも角にも、まずはグレンを倒すのが先決である。
「さぁエンオウ! 御託を並べるのはこれくらいにして……え゛ぇッ!?」
まだ喚こうとするグレンの胸板。
そこに鍛え上げた鉄拳が深々とめり込んだ。
対峙するエンオウとグレン、その間合いは遠く離れていた。
飛行系技能を駆使して一足飛びに間合いを詰めたとしても、真正面から近付けば気付かれて、あっさり防御体勢を取られてしまう距離だ。
その間合いをエンオウは刹那で詰めた。
そして、隙だらけのグレンの胸に拳を打ち込んだのである。
歩法――無拍子。
相手に予備動作を見抜かせず、動き出す兆しすら感じさせず、その隙を縫うように動くことで奇襲する山峰家に伝わる独自の体術だ。
「能書きと御託が多いのはおまえだろ……なあ?」
血の滴る肉を潰す音を響かせて、エンオウは拳を押し込んでいく。
「おまっ……マジで無言で……殺るなよ……ッ!?」
味気ない奴ッ! とグレンは毒突きながら赤い飛沫を吹いた。
いい不意打ちを食らって苛立つグレンだが、エンオウも負けず劣らず腹立たしさを抱えている。顔には出さないが内心では舌を巻いていた。
渾身の突きが貫通していないのだ。
水聖国家オクトアードで再会した時のことである。
あの時と同じように隙だらけのグレンの虚を突いて、胸板を穿ったのまではいいのだが、前回と比べて手応えがありすぎた。以前は心臓を打ち破り、背骨をへし折り、背筋を突き破って背中まで飛び出していた。
なのに、今回は胸筋を破って心臓を圧迫するに留まっている。
力任せに押し込んでも心臓がひしゃげるだけだ。
明らかに肉体の強靱度が上がっている。
この間の対戦でエンオウが致命傷を与えるも、過大能力で強力に再生された効果なのだろう。強化は収まっているが、筋骨の強度が桁違いだった。
「おれは自慢じゃねえがバカだからなぁ」
グレンは牙にまとわりついた血を舌舐めずりする。
「脳味噌がポンコツな分、身体の方がお利口さんにできてるみたいでよぉ……殺られたことはちゃんと覚えてるぜぇ? 同じ攻撃は二度と通じねえよう頑丈になってくれるんだよ……強化再生する能力の名残だぜぇ!」
「折れた骨が強くなるのと同じか……」
ただし再生力も強化具合も人外、異次元の怪物レベルだ。
身体機能に自信のある神族や魔族でも、ここまで超常的な回復力は備えていないし、完治したところが異常にパワーアップすることもない。
傷を負う毎に逞しくなり、死から蘇る度に強くなる。
行き着く先は終末の獣――地獄から現れて現世を支配する黙示録の獣だ。
そうなる前に仕留めなければならない。
エンオウの責任は重大だ。
同時にここから始まる戦いが激闘を超えた死闘となり、長引くにつれて苦闘となっていく予感に戦いた。エンオウが相手を必ず葬り去る超必殺技や、一撃で木っ端微塵にする大技を繰り出したとしよう。
最初こそ効くだろうが、グレンはすぐさま復活するはずだ。
その技は――二度と通用しなくなる。
一撃で殺せればいいが、グレンの不死身は尋常ではない。
勿論モミジから教えられた不死身を無力化する方法でもある「不滅を施す術式」はやってみるが、その過程で殺せるものならグレンを殺してやりたいともエンオウは心の片隅で考えていた。
永遠の不滅より――死んだ方がマシだ。
モミジから伝授されたこの術式は、元を正せば“最後の大魔女”と恐れられたエンオウの母親が考案したものだが……とにかくえげつない。
死ねないだけではないのだ。
死ねず、滅べず、終わらず、いつまでも在り続けるのみ。
不滅という名の無期懲役を食らうも同然だった。無論、仮釈放すらない。
死ぬことが救いにさえ思えてくれる。
不滅を施す術式で封じることを前提に戦っていくが、できる限りグレンを完膚なきまでに抹殺する方向で動くつもりだ。
それが、せめてもの悪友への情けだった。
心臓への一撃は不滅の術式への布石、そして必殺を狙ったものである。
「――膻中!」
術式を宿した拳を寸勁とともに叩き込む。
密着状態から震脚を踏み込み、相手の動きに合わせた発勁を繰り出す。今度こそグレンの心臓を叩き潰し、悟られることなく術式も植え付けていく。
「ぐぅおおおおッ! 急所ばかり狙いやがってぇ!」
「獣を仕留める時の定石だろう!」
グレンは顔を顰めると、ドロドロと塊のある血反吐を吐いた。
潰したのは心臓だけではない。食道や肺、その他の臓器も機能不全に陥るほどのダメージを与えたのだ。タフが売りの神族でも動けまい。
だが、グレンは平気の平左で動きやがる。
懐に入り込んだエンオウへやたらめったら攻撃を仕掛けてきた。
人間の規格よりも伸びた腕で、ゴリラが胸を叩くドラミングのようにエンオウへ叩きつけてくる。鉤爪で引っ掻いたり突き立てたり、熱い痛みの走る裂傷まで負わせてきた。自分が傷ついてもお構いなしだ。
どうせすぐ治る。我が身を顧みない荒っぽい戦術だ。
スカジャンごと切り裂かれ、破けた肉から血が溢れるのを感じた。
荒っぽい攻勢が本格化する前に離脱する。
エンオウはグレンの胸板から拳を引き抜いた。
既に突き込んだ拳を取り込むように癒着が始まっている。慌てて右の拳を手前に引き寄せ、反動を付けるように左手を掌底にして突き出した。
狙うのはガラ空きの喉笛だ。
「――玉沈!」
無論、ただの掌底ではない。
相手の体組織を内側から弾け飛ばす“内に置く打撃”に、この状態から注ぎ込める限りの発勁を上乗せし、途轍もない爆発力を込めた一撃である。
もはや“内に置く爆撃”というべき威力を発揮するはずだ。
そして、例の術式も抜かりなく埋め込む。
打ち込むと同時に、反発する力を利用してグレンから飛び退いた。
飛行系技能の力も借りて飛距離のある後退をしたエンオウは、グレンから離れて兵士の青年がいる辺りまで戻ってきた。
いつの間にか、青年には神族の女性が介抱のために寄り添っている。
羊のような巻き角の目立つ女性だ。牧羊神だろうか?
横目で彼らを確認した頃、グレンの咽喉に仕込んだ“爆撃”が炸裂する。
「うっ…………ぼふぉあああああーッ!?」
本来なら首を爆破し、頭をロケットみたいに分離させる予定だった。
なのにグレンは顔を真上に向けて大きく口を開くと、喉を大きく膨らませて爆発力を雄叫びに乗せて吐き出したのだ。
焼けた喉で吠えるダミ声は、さながら怪獣王のようである。
爆発力のおかげで破壊光線にしか見えない。
「ゲホッ、ゴホッ……ケッヘヘッ! いいね、こうこなくっちゃ!」
数回咳き込んだだけで、いつもの声に戻っている。
「痛みを寄越せよもっと強ぇのを! それを受けきっておれは強くなる!」
いくらでも際限なくな! とグレンは呵々と大笑した。
前回の頭を吹き飛ばした経験値により、首から上の強度も格段に跳ね上がっているようだ。今ので内側からの攻撃に対する耐性まで与えてしまった。
――ダメージを与えても体力ゲージ満タンまで即時回復。
――しかも受けたダメージに対する耐性が上昇する。
――おまけにすべてのパラメーターも急激に強化される。
長期戦になるほど戦りづらくなり、こちらは一方的な不利を強いられる。
「……フ○ムでもここまで鬼畜じゃなかったぞ」
愛好する「死にゲー」で名を馳せたゲーム会社を挙げてみたが、もしかするとこんなエネミーもいたかも知れない。なにせ、あのフロ○である。
やりかねない――エンオウはそう思った。
今度、物知りなレオナルドさんにでも聞いてみよう。
「へっ、あの鬼畜ゲーか? おれも何度かやったぜ……」
エンオウの呟きを拾ったグレンは、何故か間合いを詰めてこない。その場に足を止めたまま息を吸い込み、頬も肺も胸もパンパンに膨らませる。
そこに猛々しい“気”を溜め込んでいた。
「こんな鬼畜なことをしてくる奴がゴロゴロいたよなぁ……ッ!」
溜め込んだ猛気をグレンは一度に吐き出す。
「――殺劫砲ッッッ!」
それは砲というより弾幕だった。
避ける隙間はおろか逃げ場所もない弾幕――完全な波状攻撃だ。
赤黒い津波のような気功波が押し寄せてくるのだが、その中に大玉転がしに使うようなサイズの紫色の球体が無数に紛れ込んでいた。この球体も破滅的な威力を宿した気功波の一種であり、直撃すれば弱い種族なら塵も残るまい。
当たり前だが、赤黒い波にも一撃必殺の威力がある。
「殺気を凝らした滅殺の吐息だッ! さあ、コイツをどうするよッ!?」
この迷宮最深部を吹き飛ばすくらい朝飯前の破壊力だ。
エンオウ単独ならば避けられただろう。
だが、後ろには兵士の青年とその手当をする神族の女性。
彼らの他にも、この迷宮に暮らしていた人々が身を寄せ合っていた。
「……防ぐしかないッ!」
エンオウは深呼吸を繰り返し、体内の“気”を練り直した。迫り来る波濤のような気功波を受け止めるべく、大盾を持ち上げるような構えを取った。
こちらの独特な呼吸法にグレンは着目する。
「ヒャヒャヒャ! この期に及んでまた全集中の呼吸かぁ!?」
そうツッコんだグレンだが、不意に我へ返ると笑うのを止めて、表情が真顔になっていた。この呼吸法に少ない記憶容量を刺激されたらしい。
「ん……なんだそりゃあ?」
グレンの前でこの呼吸法を使うのは二度目だ。
山峰家一子相伝の秘法であり、エンオウが覚醒した過大能力。
「――廻れ九天」
グレンの吐いた殺劫砲が直撃する寸前だった。
エンオウの総身から濃厚な、それこそ物理的な質感のある“気”が野太い間欠泉のように噴き上がると、城壁のように殺劫砲を食い止めたのだ。
この最深部、地下洞窟を押し流しかねない殺気の大津波。
それを易々と受け止める気功波でできた分厚い城壁を顕現させたエンオウは、ありえないほどの“気”を我が物として扱っていた。
だからなのか、全身が神々しい金色の“気”に包まれている。
もう覆われているどころではない。
例えるなら、流動する黄金色の水飴に包まれているような外観だった。
おかげでラフなストリートファイター風ファッションのデカい少年にしか見えないエンオウも、ちょっとは神様らしく見てもらえるかも知れない。
それくらい神々しい“気”を発散させていた。
しかも莫大を越えて絶大にだ。
無限にも等しいエネルギーを扱えるのは、大自然の力を無限増殖炉のように生み出せるツバサ先輩やミサキ君の過大能力ぐらいのものだそうだが、エンオウの能力は彼らに勝るとも劣らない性能を持っているらしい。
だから操る“気”も濃厚で、物質的な重々しい感触を備えていた。
質感のある“気”はすべてを巻き集めていく。
やがて生み出されるのは、触れたもの全てを焼き尽くす超高密度の“気”が渦を巻く大竜巻だ。その中心にエンオウが立っている。
エンオウが発した濃厚な“気”と、グレンの放った殺劫砲という“気”。
その2つを織り交ぜた大竜巻を解き放つ。
竜巻は本物の龍のように躍動感のある飛翔で洞窟内を駆け巡ると、最終的には天井をぶち抜いて空へ駆け上っていった。
迷宮を突き抜け、最深部に外の光が差し込んでくる。
誠に申し訳ありません……ッ! エンオウは心の中で謝った。
この遺跡らしき洞窟を破壊した件への謝罪だ
できれば何も壊すことなくエネルギーを減衰させて処理したかったのだが、グレンの必殺技に込められた“気”が強すぎたため、どこかへ放り捨てることが精一杯だった。一応、被害は最小限に抑えたつもりだが……。
余所に意識を回している暇はない。
「それがおまえの本気かぁエンオウッ!? そのデケぇ“気”がぁッ!」
エンオウから発する“気”の急激な膨張。
それを脅威と感じたのか、より激しい戦闘を求めるグレンは一気に間合いを詰めてきた。鉤爪を尖らせた手をビンタのように殴りつけてくる。
エンオウは右手で軽く振り払う。
たったそれだけの動作でも、強い“気”の奔流が流れた。
帯びる余波がグレンの動きを邪魔するほどだ。
黄金色の奔流は振りかぶったグレンの腕を肘まで飲み込み、肉はおろか骨まで擂り潰しながら消滅させる。
「な、なんだぁ!? ただのジャブで威力がダンチ……おごっ!」
「――夾脊!」
腕を消されて狼狽するグレンの隙を突いたエンオウは、左の拳をグレンの臍に叩き込んだ。これも黄金の奔流をまとっている。
不滅を施す術式を添えた――全力の拳打。
黄金の奔流を宿したエンオウのパンチは、太陽の紅炎に打ち勝つ熱量を伴った貫通力のあるエネルギー波となり、グレンの土手っ腹を打ち抜いた。
風穴どころではない。腹部に大穴が開いている。
「ぬおっ……まだまだぁ! こんなもんじゃおれは止められねぇぞぉッ!」
普通ならこれでくたばるがグレンには意味を成さない。
腹筋も内臓も背骨もなくなり、上半身と下半身の連係も成り立たないはずなのに、両足はこちらへ踏み込み、両腕はがむしゃらに殴りかってくる。
戦いを放棄しない、この根性は見習ってやってもいい。
咄嗟にエンオウは利き足を振り上げた。
狙い澄ますのは大股開きのグレンの股間――ではない。
男の急所狙いなんてセコい真似はしない。狙うのは股間の更に奥、性器と肛門の間に位置する胴体の最も真下にある会陰という部分だ。
編み上げブーツの先端、アダマント鋼で固めた爪先をめり込ませる。
四度目の術式を施すのも忘れない。
「――尾閭!」
蹴り上げた爪先を勢いに乗せて振り上げる。
この蹴りにも黄金に輝く“気”の奔流が漲っており、それはグレンの肉体を焼き滅ぼす極光となりながら、キックの様々な力を何乗倍にも跳ね上げた。
単純な威力を始め、破壊力、推進力、爆発力、ETC……。
振り上げた蹴撃はグレンの下半身ごと上半身を両断した。
腹に開けた風穴もまだ修復されていない。このためグレンは両腕両足を中心に据えた、四つの肉塊に分裂してしまった。
これでも生きているのだから度し難い生命力である。
「殺られたあッ! 親友に殺られちまったぜぇ! ゲラゲラゲラッ!」
殺られたら殺り返す――それがグレンの流儀。
バラバラになった手足が、ビクンビクンといきなり大量の血流が通ったかのように痙攣すると、高速再生を行いながら別個の生物のように動き出す。
どこに体を動かす支点があるかわからない。
だが、まるでそこに透明な五体があるかのように、振り上げた腕は拳を握ると殴りかかってくるし、振り回した足は蹴りかかってくる。
「お返しだぁオラァオラオラオラオオラオラオラオラオラーッ!」
叫び声も獣のように喧しく、4つに分離した腕や脚は再生すると同時に筋肉量も増やして、猛然とした連打で四方八方から打ってくる。
一撃ごとに打撃の重みが増す。再生と強化が加速しているようだ。
しかし人間業じゃない。妖怪が使うような秘技だ。
「もう少し……真っ当な喧嘩はできんのかドララララララアアアアーッ!」
エンオウも張り合うように叫びながら殴り返した。
連打には連打、上下前後左右から殴られ蹴られどつかれるのに対応するべく、宙に浮かび上がってジャイロ回転しながら迎え撃つ。
いつしか2人は争いながら、広大な洞窟内を所狭しと飛び回る。
その間にも連打の応酬が休まることはない。
完全に力任せの殴り合い、技も型もへったくれもない子供の喧嘩だ。
ただし、その波及は天変地異を巻き起こした。
LV999の戦闘特化型の神族同士の戦いだ。それだけでも地震や嵐を巻き起こすというのに、いくら広いとはいえ洞窟内という閉鎖空間で戦えば、その激突により発生する衝撃波の逃げ場がない。
空気がビリビリと震動し、世界ごと震撼しているかのようだった。
洞窟内に点在する地層の島がいくつも崩れていく。
世界樹のような巨大鍾乳石も、エンオウが叩きつけられたりグレンの断片を殴り飛ばしたりと、ガタイのいい2人がぶつかる度にへし折れていった。
……すんません! 本当にすんません!
この洞窟内の地層や鍾乳石が、大切な物だというのはわかる。
だが、周囲に気遣いながら戦う余力はない。
グレンはそれほどの強敵になるまで成長を遂げているのだ。
縦横無尽に駆け巡りながら戦っていると、どうしても戦いの波及によって壊してしまう。グレンはあの通りの性格だから気にも止めないが、お人好しのエンオウは心の中でこの地の管理者らしい人たちに謝りまくった。
後ほど五体投地の謝罪もしよう、と心のメモ帳に刻んでおく。
「おい親友! いいかげん質問に答えろよ!」
それがおまえの過大能力か!? とグレンは半ギレで問い詰めてきた。
質問と一緒にストレートなパンチも飛んできたが、エンオウは“気”の奔流を熱く凝らし、波動砲を放つような威勢で撃ち返す。
その一撃はグレンの拳を打ち砕き、二の腕から肩までを爆散させた。
「そうだ……森羅万象の“気”を我が物とする」
それが俺の過大能力だ! とエンオウははっきり認めた。
過大能力――【九天に満ちる遍く気は我が竅へ集え】
人体にも“気”は通っており、これは気の経絡を流れているのだが、中でも脊柱や正中線に沿うように7つの気の集積地が重要とされていた。
これら気の集積地はチャクラと呼ばれている。
(※中国仙道ではこれを竅という)
それぞれ名前があり、頭頂部は「泥丸」、眉間は「印堂」、咽喉は「玉沈」、心臓は「膻中」、臍は「夾脊」、脾臓は「丹田」、会陰は「尾閭」。
(※会陰は性器と肛門の中間)
気功系技能を使う上で、このチャクラが重要な役割を果たす。
このチャクラを回転させられなければ、気功系技能ではろくに気を操ることはできないのだ。控えめのかめはめ波や波動拳だって撃てやしない。
仙人、道士、方士、修験僧、天狗、聖賢師……。
気功波を攻撃的エネルギーとして操る武道家や格闘家もこれに含まれるが、まずはチャクラを回転させる技能を習得しなければならない。
7つのチャクラをフル回転させられるようになれば免許皆伝であろう。
それでも自ずと限界はやってくる。
チャクラは7つしかないので、その総和が増えることはない。
過去に無理やり8つめのチャクラを身体の何処かに見出そうとした前例もあるそうだが、ろくな結果に終わらなかったと伝え聞いている。
そこで天狗の末裔とされる山峰家の先祖は考えた。
『大地を8つめ、天空を9つめ……新しいチャクラに見立ててみよう』
森羅万象の“気”を取り込んで我が物とする外気功。
それを更に推し進めることで、もっと貪欲にチャクラを回そうという野心的な発想であり、山峰家の頑強な肉体はそれを成し遂げてしまった。
自身の7つ、天地の2つ――9つのチャクラを回転させる呼吸法。
奥義“九天法”の完成である。
エンオウは現実世界でも、この九天法をギリギリ体得できた。
心優しき父親の英才教育のおかげである。
それが真なる世界に転移後、神族になることで過大能力として覚醒したものだ。効果や効能はそのままで、桁外れなパワーアップを果たしていた。
森羅万象から取り込める“気”の総量。
以前は人間の肉体という脆弱性のため限界があったのだが、神族になった肉体は無限大ともいえる“気”を自由自在に取り込むことができた。攻撃、防御、回復、身体補助……あらゆる効果に高出力の“気”を回すこともできる。
莫大な“気”の投入による絶大なブースト効果。
それがエンオウの過大能力、最大にして最強の利点である。
「つまり……世界中の“気”をテメエの思い通りにできるってわけか」
デタラメだな! とグレンは哄笑を交えて殴ってくる。
「どの口がほざくか! 無限再生怪人!」
先ほどからエンオウは“気”の奔流でグレンを迎え撃っていた。
手加減一発――抜山蓋世。
山を抜くようなパンチや世界に蓋をするような足蹴を喰らわして、まだ分裂したまま宙を舞うグレンの四肢を打ち砕いているのだが、壊したところから回復される始末だ。あまりにも不毛な戦いに辟易してきた。
エンオウの攻撃はグレンに届く。
一撃で彼の肉体を打ち破るれるのだが、瞬間的に再生されては意味がない。
最悪なのは、グレンの攻撃がエンオウへ響いていることだ。
ジワリジワリと――着実にである。
グレンは執拗なくらいエンオウに血を流させていた。
あの化け物みたいに太い鉤爪が難点だった。
引っ掻き攻撃は当たり前、もっと工夫した使い方もしてくる。
握った拳をインパクトの瞬間に開いて、鉤爪の先端で皮や肉を破ってくる。鉤爪を揃えて拳のようにすると空手でいう貫手の形にして、手足の腱や腹部を破ろうと突き込んできたりもしてきた。
エンオウは分厚い“気”の層を鎧のようにまとっている。
グレンの鉤爪はそれを貫いてくるのだ。
肉体に働きかける技能によるアドレナリン操作や筋肉収縮で止血できているし、取り込んだ森羅万象の“気”で自己再生能力にも働きかけている。
それでも、血管を裂かれた瞬間の流血は抑えきれない。
失血は恐ろしい弱体化をもたらす。
人間は20%の血液を失えば死ぬ危険性が高まる。いくら神族の生命力が高くても、人間に近い身体構造なのだから徒に血は流すことはできない。
そうでなくとも、失血とは物理的な貧血だ。
頭痛、目眩、吐き気くらいならまだ軽いが、血を流しすれば全身の力は抜けていく。やがて意識が混濁して失神、最終的には死に至る。
意図的なのかそうじゃないのか、グレンは失血を狙っているようだ。
野山で獣を狩ってきた男である。
手傷を負わせた野生動物が弱る様を、実際に目の当たりにしてきたのだろう。こうした死線を潜り抜ける最中、無意識にやっているだけかも知れない。
だとしたら――天性の狩人だ。
真っ当に活かす術はなかったのだろうか? と惜しんでしまう。
「ガガガガッ! 殴る蹴るばかり能じゃねえんだぜ!?」
どこに隠していたのか、黒い鬣を振り乱した頭部がいきなり出現した。
その顔立ちも鼻先が伸びて獣臭さが増していた。
耳まで裂けそうな大顎を開いて、エンオウの首筋に牙を向けてくる。
「――印堂!」
頭には頭、エンオウは噛みつきを頭突きで撃墜した。
ついでに不滅を施す術式も付与する。これで五つめになるはずだ。
「ギャンッ!? うぅぅぅ……があああああッ!」
叱られた犬みたいな悲鳴を上げて、眉間の真ん中を陥没させたグレンだったが、すぐに頭部を復元させると、懲りずにまた襲い掛かってきた。
今度は頭突き対決を挑んでくる。
ただし、再生したグレンの額には犀みたいな角が生えていた。
「当たると痛いぞ……俺の石頭は!」
エンオウの石頭は、角ごとグレンの額を叩き割った。
しかし、今回は少なからず相討ちだ。エンオウの額も割れて、プシッと炭酸飲料の栓を開けるような音とともに血を噴いてしまった。
「…………で、泥丸!」
それでも術式も仕込むことを疎かにしない。これで六つめ。
「痛ぇ! マジで痛ぇ……ハハハ、やっぱりおまえとの喧嘩がイチバン楽しいぜエンオウ……実力伯仲ってやつか? ほぼほぼ互角だから、勝てるか勝てねえかのギリギリの瀬戸際ってのが最高にひりつくぜ……」
そんな感想を述べながら、グレンは本格的に肉体を再生していく。
強化による変化は、原形を留めぬまでに発展していた。
身長や体重がエンオウを上回っている。その体格は3m近い重量級に達しており、灰色熊か超大型の類人猿といった怪物らしさが際立っている。
「……それが俺に絡む理由か」
グレンの変異を観察するエンオウは、なんとはなしに尋ねてみた。
あん? とグレンは質問の意味を解さず怪訝とする。
無意識に2人は小休止を挟んでいた。
他愛のない、だけど思いの丈を告げるような雑談を交わす。
「アシュラで出会った時……俺はおまえの暴挙を見過ごせず、横槍を入れるように殴り飛ばした……てっきりそのことを根に持っているのかと思ったが……」
「そんなわけねーじゃん」
あれがきっかけではあるけどな、とグレンはさっぱりしたものだ。
良くも悪くも陰湿さとは無縁である。
肩をすくめるグレンの肉体は、人外の要素で埋め尽くされていた。
硬そうな竜の鱗、鋭そうな獣の毛、鋭さを秘めた鳥の羽……そういったものが至るところから生えていた。天然の防具になりそうな勢いだ。
肥大化した鉤爪はドリルと見紛い、螺旋の溝まで刻んでいた。
人差し指の鉤爪でこちらを指差す。
「エンオウはな――グレンにとっての登竜門だ」
「……登竜門?」
珍しい単語がグレンの口から出てきたので首を傾げた。
グレンは人間らしさを失った五指を握り締めた。
その拳をこちらに差し向けてくる。
「おれと互角か、おれより強いおまえを倒すことで、おれはもうひとつ上のステージへ登ることができる……その時は、もっと強い奴らとのバトルも心の底から心行くまで楽しめるはずだ……だから、おまえなんだよ」
エンオウという登竜門を倒してこそ、グレンは高みに望めるのだ。
「ウィング、ドンカイ、獅子翁、天魔ノ王……あいつらと対等の領域で戦える……親友のおまえを殺すことで、おれは新たな場所へ踏み出せるんだ」
バサリ――羽ばたく音が響く。
グレンの背中に巨鳥の翼が生え、たくさんの羽根を舞い散らしている。
ブゥン――鞭を振るう音が響く。
グレンの尻から竜の尾が伸び、空気を裂くように振り回されている。
グレンは終末の獣に相応しい姿になりかけていた。
もうただの“気”の奔流を乗せた打撃では通用するまい。まだダメージは与えられるかも知れないが、更なる強化を促すだけに留まるだろう。
殺るなら――強大無比な一撃による必殺しかない。
「…………フッ」
エンオウはこの戦いで初めて笑った。
ほんの少し、苦笑や失笑にも程遠い細やかな笑みだ。
「おっ、笑いやがったな。親友が胸に秘めた想いを打ち明けたってのに」
口調こそ心外だと怒っているが、グレンも笑っていた。
その想いとやらにエンオウなりの回答をする。
「思っていたより実直な男だったんだな、おまえは……」
振り返れば、グレンがツバサ先輩たちに挑んだ回数はそれほど多くない。それよりもエンオウとの勝負が遙かに多かったのだ。
その理由を理解することができた。
「おまけに殊勝だ……殺しに快感さえ見出さなければ……な」
本当の悪友――いい好敵手になれたかも知れない。
惜しいな、そう思うのは何度目だろう。
「……こんな非道な真似はせずに済んだのにな」
エンオウは九天法により“気”の取り込みを激化させる。
取り込んだ“気”をチャクラで練り上げ、破壊力や爆発力をこれでもかと凝縮させながら全身に這わせていき、その“気”すべてを発勁に乗せて撃ち出し、グレンを一撃の下に爆砕するための超必殺技を準備する。
「おっ、いいねその殺意……正真正銘の大技来るか?」
ただならぬ“気”の膨張にグレンは喜び、受けるために身構えた。
この男は避けない。信用にも似た確信があった。
「今の俺が使える最大級の技だ……これでおまえを殺せれば俺の勝ち」
生き残ったら――おまえの勝ちだ。
エンオウの申し出に、グレンはゾクゾク震えながら満面の笑みを浮かべる。
「いいぜぇ……来いよ親友! おまえの最高をぶつけてみろぃ!」
了承を得られたのでエンオウは即座に動いた。
歩法――無拍子。
残像すらも視界に捉えさせない神速の体術でグレンの間合いに踏み込むと、腰撓めに引き寄せていた両手をどちらも掌底にして突き出す。
打ち込む先はグレンの下腹部、ちょうど脾臓のある辺りだ。
よく“丹田”と言われる場所である。
「奥義――九天勅下ッッッ!」
そこへ掌底を叩き込み、練りに練った“気”を起爆させる。
すべてが――白金に染まった。
直撃をまともに喰らったグレンは元より、奥義を放ったエンオウの視界も、その場に居合わせいた者たちの眼を目映い白で埋め尽くしたはずだ。
九天法で取り込んだ森羅万象の“気”。
エンオウの体内に限界以上に取り込み、極限を超えて圧力を掛ける。
そうして凝縮に凝縮を重ねた“気”を、すべてを滅ぼし去りながら純粋な“気”へと還すための波動として解き放つ。
エンオウの両手から白金の領域が生まれたように見えるだろう。
極太なんて言葉では足らない、世界を塗り替える規模で放たれた気功波だ。グレンの肉体を起点として、“気”の嵐が吹き荒ぶ。
この最深部に至るまでの迷宮はおろか洞窟をも半壊させる。
地層でできた天上や壁の3分の2は、崩れ落ちる前に“気”に飲まれて塵となっていく。迷宮も崩落するより早く瓦礫が消え去っていった。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉッ!? ぎ、効くぅぅぅぜぇぇこれぇぇーッッッッ!」
そして、グレンを徹底的に苛んだ。
強化に強化を重ねた魔獣の肉体であろうと例外ではない。
細胞の一片に至るまで灰も残さず焼き滅ぼす。むしろ凝縮した“気”の爆心地にいながら、まだ悲鳴を上げられる胆力があることが異常だった。
別次元よりの侵略者――蕃神。
一度だけ遭遇した“王”と呼ばれる巨大な蕃神。
奴らも名状しがたい不死身の肉体を持っていたので、これを撃破するためにエンオウが編み出した、掛け値無しの全力を費やした超必殺技だ。
現時点ではこれを上回る破壊力は望めない。
やがて――吹き荒れた“気”の乱流が収まってくる。
迷宮も洞窟もほぼ無くなり、頭上を仰げば青空と太陽を拝めた。
「ごめん……やり過ぎた」
エンオウは誰にというわけでもなく謝った。
この地を守ってきた人々には大変申し訳ないし、後でどんな償いでもする所存だが、こうでもしなければグレンを殺し切れそうになかったのだ。
グレンは……跡形もなく消えていた。
彼の肉片が焼けた名残なのか、焦げ臭い白煙が漂っている。
「肉の焼けた臭いのする……煙だと?」
レオナルドさんの蘊蓄を思い出して寒気を覚えた。
『……灰がなくなるまで焼いたのに、そこから立ち上った煙が集まることで復活したなんて、とんでもない事例もあるからね』
まさか!? と思った時にはもう既に遅かった。
白煙が生き物のように蠢き、意思を持って一点に集まっていく。
「…………惜しかったな、エンオウ」
存在感を増した煙は厚みを帯び、瞬く間に肉塊へと転じた。
肉塊は不気味な脈動を繰り返しながら増殖、あっという間にグレンの肉体を再生させる。だが、不思議なことに強化が上乗せされていない。
魔獣の姿から大して変化していないように見受けられた。
「今ので千と……二十六回は、殺されたぜ」
いつもの無駄口をトーンダウンさせたグレンは、こちらに気付かれないようにしているものの、あからさまに呼吸のリズムが乱れていた。
苦しそうに胸まで押さえている。
「さすがのおれも、本当に死ぬかと思った……なんとか再生こそできたが、強化を乗せるとこまで手が回らなかったからな……大したもんだぜ」
「なるほど……そういう理屈か」
ならば強化が追加されなかったのも道理である。
グレンを限界寸前まで追い込むことには成功したのだが、もう一押し不足していたらしい。しかし、エンオウもすべての力を出し切ってしまった。
まだ九天法は解除していない。
森羅万象からの“気”は供給されているが、9つのチャクラを回しすぎて身体にガタが来ている。満足に動けるようになるまで時間が掛かりそうだ。
それまでグレンが見過ごすとは思えない。
「本当、惜しかったな親友……だが、最高に楽しい殺し合いだったぜ」
グレンも疲労の色が濃いのか、声から陽気さが失せている。
それでも殺しへの欲求に駆られて動き出すと、更に獣らしく鼻面の伸びた顔に笑顔を浮かべ、鉤爪を尖らせながらこちらに近寄ってきた。
エンオウは臆することなく逃げもしない。
グレンがエンオウの前に立つ。鉤爪も拳も蹴りも届く距離だ。
首を伸ばして牙を剥き、噛みつくこともできる。
「おまえならおれを殺せるかもと思ったが……ちっとばかし足らなかったな」
不死身も存外――つまらねぇな。
グレンはエンオウに手を掛ける前、ポツリとそう呟いた。
「おれ、強くなりすぎちまったのかもな……どんな奴でも殺せる力……たとえ死ぬような怪我でも治っちまう身体……いいもん手に入れたと思ったが……」
なんか――つまらねぇな。
消化不良みたいな言い方を飽きることなく繰り返した。
待ち侘びたエンオウとの勝負に勝利を収めた達成感よりも、これでエンオウとの殺し合いが終わることでの虚無感が大きいようだ。
それでも殺戮の鬼は、生命を奪い取る快楽を忘れることはない。
「まあ、いい……楽しかった親友との大一番もこれまでだ……エンオウ、おまえを殺しておれは次の相手を見つける。差し詰め、ウィングか獅子翁だな」
終わりだ、とグレンは五指の鉤爪を振り上げた。
「ああ、終わりだ……グレン」
おまえがな――エンオウは意味深長な言葉を投げ掛ける。
この一言が気になったグレンは、振り上げた腕をピタリと止めた。
「おまえはタチの悪いプラナリアだ……」
「あん? なんだと? 誰がプラナリアだぁ……ってなに?」
なんだそりゃ? とグレンは聞き捨てならねえとばかりにエンオウの胸ぐらを掴もうとしたが、振り上げた腕は降りてくる気配がない。
ここでようやく、グレンは自身に起きている異変に気付いていた。
「な、なんだぁ? 身体が……うごか、ねえ?」
ギシィィィ……と金属が軋むような音がグレンの関節から鳴り響く。
魔獣の肉体は錆びついたように動きが悪くなっていた。
「プラナリアは環境さえ整っていれば、いくら切り刻まれても再生するという……グレン、おまえもそうだ。おまえの過大能力はそういう仕組みなんだ」
エンオウは俯いたまま語り出す。
「プラナリアは生き物……この世界のあるべき法則に則って生きている……グレンも行き過ぎてはいるが、神として魔として、まだあるべき生態系のルールに基づいて生きている……おまえも生き物であることに変わりないんだ」
非常に死ににくい生命力の高さ。不死身と錯覚するほどしぶといだけ。
「陰陽五行……相生相剋……」
エンオウは詩を吟ずるように、呪文を唱えるように口遊む。
「森羅万象、天地万物、気をもたざるものはなし……気は満ち満ちて循環し、有から無することなく、無より有することなし……互いに互いを生じ、互いに互いを剋することで新たなる行を成す……これ陰陽五行という」
――陰陽五行。
中国道教に端を発する思想であり、日本では陰陽師が基本とする考え方である。この五行は水気、木気、火気、土気、金気の5つからなるものだ。
水生木――水気は木気を生み出す。
(※水が動植物に潤いを与えて育てるから)
木生火――木気は火気を生み出す。
(※草木が燃えれば炎が上がるから)
火生土――火気は土気を生み出す
(※火が燃えて灰となって土になるから)
土生金――土気は金気を生み出す。
(※大地の奥底にこそ鉱石が宿るから)
金生水――金気は水気を生み出す。
(※冷たい金属の表面が結露して水となるから)
これを相生という。
水剋火――水気は火気に剋つ。
(※水を浴びせれば火は消えるから)
火剋金――火気は金気に剋つ。
(※火で熱すれば金属は溶けるから)
金剋木――金気は木気に剋つ。
(※金属の刃物は動植物を切れるから)
木剋土――木気は土気に剋つ。
(※草木の根は土に分け入って伸びるから)
土剋水――土気は水気に剋つ。
(※土の堤防は河の水を堰き止めるから)
これを相剋という。
これらの関係性を相生相剋といい、相生は円を描くように配置され、相剋は星の形を描くとされる。安倍晴明の五芒星はこれをシンボライズしたものだ。
絶えることなく循環する森羅万象の“気”を表す構図である。
「時として相生相剋が逆しまに巡ることあり……」
これを――反生反剋という。
「やめろエンオウ! なんだ、その気持ち悪い文句はよぉ!?」
とうとう我慢できずにグレンが声を荒らげた。
「なんだ、おい……なにわけのわかんねぇお題目を唱えてんだエンオウ? なんだそりゃ!? おれに負けると知っておかしくなっちまったのか!?」
おいエンオウッ! とさしものグレンも当惑気味だ。
これから起こる名状しがたい恐怖。
獣の第六感がそれを予感したのかも知れない。
掴みかかるなり殴りかかるなりしてエンオウの台詞を遮ろうと試みるのだが、グレンの身体はもう思うように動かない。
耳障りな金属音をさせて身動ぎするのが精一杯だ。
「ぐっ、くそ……なんなんだこりゃあ!? どうして動かねぇんだぁ!?」
困惑するグレンを余所にエンオウの詩吟は続く。
これはモミジに教わった文言だ。
馬の耳に念仏だが、グレンへ言い聞かせるように唱えていく。
「反生反剋はすべてを逆しまに辿る邪法なり……森羅万象の理に逆らうものにして、自然の流れに背く禁術なり……ゆえに異形異能と成り果てる……」
相生相剋とは――輪廻を変転して生命を巡る理なり。
反生反剋とは――時空を反転して不滅に至る理なり。
「反生反剋の理に囚われしもの……不朽不滅の牢獄にて虜囚とならん」
「……不滅、だと? ぐっ、おおおおおおおおおおッ!?」
いつしかグレンの肉体は硬質化していた。
強化ではない。錆が広がるように肉体が金属に変わっているのだ。血も骨も肉も皮も無機質な鉱物となっていき、急速に生命力を失いつつある。
もうじき微動だにできなくなるだろう。
――何が起きているのか?
「グレン……おまえに反生反剋の秘法を施した」
おまえはもう――不滅の存在だ。
エンオウがグレンの身に起きていることを説明した。
「生まれて死んで世界に還ることでまた生まれる……この変成流転するのが相生相剋の定めならば、反生反剋はそれに逆らう術だ。滅びるはずのものは滅びることなく、時間を逆行するように始原へ戻ろうとする禁術……」
土気が火気に、火気は木気に、木気は水気に、水気は金気に……。
文字通り、相生相剋とは逆の順番で巡っていく。
しかし、反生反剋だと金気で止まってしまう。金気から土気に戻ることはできないため、どこまでもいつまでも金気であることを強いられるばかり。
「……そこで終わりだ。土に還ることはない」
物言わず考えず、身動きも取れず、風雨にさらされても朽ち果てない。
反生反剋の末路とは、土に還らない金気の塊になること。
即ち――不滅の器物に成り果てしまうのだ。
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