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第17章 ローカ・パドマの咲く頃に
第401話:黄金の宇宙卵、その出現条件
しおりを挟む「随分とまあ――えげつねえもん造りやがる」
破壊神形無しじゃねえか、とロンドは肩を揺らして苦笑した。
高級なスーツを着崩した極悪親父だ。
身を預けるようにソファへ腰掛けているが、モデルみたいに長い両腕は背もたれに引っ掛け、欧米人みたいに長い足は適当に組んでいる。いい大人なのに大変行儀の悪い座り方だ。子供たちには見せられない。
この親父の真向かいに座ったツバサの気分も荒れてくる。
真紅のロングジャケットで決めた爆乳の地母神。
もはや「俺は男だ!」の発言も虚しいほど、オカン系女神が板についてしまったツバサだが、まだ男心を完全に失ってはいない。
ソファに腰に沈めた巨尻がどれほど重く丸くなろうとも……。
それを支える太ももがムッチリムチムチになろうとも……。
胸の下で腕を組んで支えないと重力を感じるほど、雌牛の女神の二つ名に見合った乳房が爆乳サイズまで大きくなろうともだ。
荒れた気分に反応するのか、長い黒髪がザワザワ騒いでいた。
守護神と破壊神が囲む――対等の円卓。
還らずの都を見下ろす上空に浮かび、大型ソファが囲んでいる。
その上に広げられた地図では、両陣営の戦いをリアルタイムで映した“駒”が独りでに動いており、双方の棋譜となって戦況を伝えてくれていた。
戦いは折り返し地点を迎えつつあった。
その起点となったのは他でもない、究極兵器から放たれた一撃だ。
――始源至道巨砲。
ツバサやロンドの視界にも過った絶大な威力である。
地球のあらゆる山脈を凌駕する巨大な死者都市“還らずの都”。それに比肩する質量を持った肉塊に膨れ上がったオセロット。
そのオセロットを一撃で消滅させる威力を叩き出していた。
裏を返せば、還らずの都も消せるという事実。
あの都は防衛能力を強化一新したので、そう易々と壊されることはないと思いたいが、それでも同等サイズの肉塊を消し去った威力は侮れまい。
ラザフォードの“巨鎧甲殻”に当たる巨大列車。
合体変形することで巨大ロボ・剛鉄全装ラザフォードになる。
そこにもう一段階、列車砲に変形する機構を加えた。
動力源や駆動系に装甲……すべてを強化改修することで、剛鉄全装ラザフォードはLV999と同等の能力を発揮できるようになった。そこまで強化しておかないと、この砲撃に耐えきれず自壊する恐れがあったからだ。
ツバサの必殺技――滅日の紅炎
ダグの必殺兵器――ダグザディオンメイス。
両者ともあらゆる存在を滅ぼし尽くす滅殺兵器だが、これを解析することで同等の威力を持った兵器を造ろうという工作者たちの計画があった。
その成果は混迷を極めた、と表現するしかあるまい。
天災道具作成師 プトラ・チャンドゥーラ。
彼女を計画に参加させたことで良くも悪くも破綻してしまった。
この世界ではない何処か――。
蕃神がやってくる別次元か、あるいは彼らさえも到達できない異次元。
そうした次元の影響を受けた七色に輝く異質な龍宝石。
これを増幅器として使った結果、ラザフォードの列車砲は異次元の破壊力を持ってしまったのだ。いや、その異次元すらも撃ち壊すだろう。
次元を貫く大砲、とダインは評していた。
世界を、空間を、次元を、混沌を、秩序を、虚無を、根源を……。
多重次元を撃ち抜く前代未聞の破壊力である。
あらゆるものの始まり、根源とか始原とか起源とか抽象的な呼び方は色々あるだろうが、万物の発端に届くまでの威力を誇った。
ゆえに始源へ至る道を拓く、と名付けられた次第である。
列車砲から放たれる――透明な波動。
すべての源にもっとも近い高純度のエネルギーがゆえに、あらゆる属性に支配されることもなければ影響されることもない。強すぎるがゆえに一切を受け付けず、何物にも染められない。
ただひたすらに純粋な力の奔流。
それが破壊力へ転じたのだから、その凄まじさたるや筆舌に尽くしがたい。
透き通った波動が宇宙の暗黒と星雲に彩られていく。
波動が通り過ぎただけで、そこの空間が溶け落ち、次元の向こう側が覗けているのだ。このため異色のエネルギー波として目に映っていた。
時折、蕃神らしき影が見え隠れする。
粘液まみれな触手の群れ、名状しがたい発光体、沸騰する肉の坩堝……。
垣間見えるこれらの異常物体は蕃神の一部らしい。
透明な波動に気付いたそれらは、そそくさと暗黒の彼方へ引き上げていく。思い出すのは人間が近付くと逃げ去る湖面の魚影。その挙動にそっくりだった。
透明の波動は彼らにとっても脅威なのだろう。
松明の火を突きつけられた野生動物よろしく、尻尾を巻いて別次元の彼方へと逃げていく。そんな光景を見られただけでも胸の空く思いだ。
ロンドまで「ヒューッ!」と賞賛の口笛を送る。
マルミたちとサバエの戦いは、ツバサたちも観戦できた。
さすがに遠方なので詳細まではわかりにくいが、肉塊山脈に肥大化したオセロットや、そこから生まれた五匹の巨大獣は十分視界に捕らえられる。目を凝らせば、それを食い止めるレンたちの雄姿も見つけられた。
なので、列車砲から放たれる透明な波動を拝むこともできた。
それがオセロットを消滅させる様子も……。
放出を続ける異色のエネルギー波をロンドは親指で指し示す。
「ありゃ“常世”の力か?」
珍しいもんを使ってやがる、と感心しながら見入っていた。
もしくは魅入られた視線を送っている。
あれは「叶うなら自分も欲しい」という目の色だ。世界廃滅を標榜する破壊神からすれば、次元をも破る超兵器は垂涎の的らしい。
それは当たり前として、ツバサはある単語に眉をひそめた。
「……“常世”?」
「なんだよ兄ちゃん、知らずに使ってたのかい?」
ロンドは意外そうな顔をすると常世について軽く触れた。
「常世ってのは真なる世界の外にある、永遠に変わらねぇ空間のことさ。蕃神どもが彷徨いてるだろ? あの真っ黒い別次元のことを指すんだ」
「ああ、別次元のことか……」
蕃神は次元の壁を引き裂いて、真なる世界へ乗り込んでくる。
この時に生じる空間の裂け目を“門”などと呼んでいるが、その向こう側に漆黒の領域が広がっているのは垣間見えていた。闇夜よりもなお暗く、恒星や衛星といった星々の輝きがひとつもないため、宇宙よりもなお昏い。
一度踏み込めば最後、二度と戻れない無間地獄のような暗黒世界。
それを真なる世界では“常世”と呼ぶそうだ。
「無数に折り重なる多重次元、無辺際に広がる空間、数多という言葉では収まらん数え切れない無限の世界……そういったありとあらゆるものを内包しつつ、それらすべてを生み出した混沌なる太祖ともいうべき存在」
礎の領域――ともいうらしい。
ロンドは吹聴するが如く語ってくれた。
「いくつもの世界が絡み合うこの真なる世界はおろか、プレイヤーたちの故郷でもある地球のあった銀河も、その他諸々の世界も……どこからやってきたかも知れたもんじゃねえ、くそったれな蕃神どもの世界でさえも……」
「すべての世界の源流、というわけか」
イグザクトリィ! とロンドはツバサの相槌をすんなり肯定した。
すべてを生み出し――すべてを包み込む世界。
多重次元をも包括しているとなれば、もはや人知の及ぶものではなく概念的なものと捉えるべきなのかも知れない。
神化したばかりの元人間では認識するのも難しい。
「しかし、常世か……聞いた覚えがあるな」
この言葉はツバサの記憶に引っ掛かった。
インチキ仙人から聞いた覚えがあるのだが、不思議とうろ覚えだ。あのジジイから教わったことは大抵、昨日のことのように思い出せるのだが……。
それとも友人の誰かから教えてもらったのだろうか?
自慢にもならないが、ツバサの友人は専門家が多かった。
レオナルドもそうだが蘊蓄たれの話し好きも多く、ツバサも聞き上手ではないが「うんうん」とつい聞いてしまうので、自然と無駄知識を覚えていく。
だが聞き流すこともあり、こうしたうろ覚えが増えるのだ。
仕方ないのでヘルプを頼む。
『はいはい、お呼びッスかバサママー?』
『誰がバサママだ。ちょっと知恵を貸してくれ』
精神念波を介してハトホル一家の知恵袋、次女フミカに応援を求めた。
わからなかったら人に聞く、こんな時のための連絡網でもある。
『常世に関する蘊蓄を垂れ流してくれ』
『お安い御用ッスよー』
やっぱり知っていたか、さすが博覧強記ムスメ。
ツバサの記憶が確かなら、常世という単語は現実世界でもあったはずだ。神道とか民俗学とか、そっち系に詳しい友人が口にしていた気がする。
『常世とは謂わばあの世、幽世のことッス』
常夜とも書くという。
『いつまでもどこまでも、永遠に変わることのない領域。不可侵というより、おいそれと辿り着けない神域のことッス。対義語の現世が現実世界なので、あの世という他ないッスね。日本独自の古い死生観に基づいた考え方ッス』
フミカの噛み砕いた蘊蓄が脳内に流れてきた。それに触発されたのか、ツバサの脳内にも誰かに聞いた記憶が蘇ってくる。
同時進行でロンドも彼なりの常世の解釈を並べていた。
三重音声みたいに頭の中へ響くが、何とか聞き分けることができた。
「常世ってのは現実でも使われてた単語だぜ。世界的に見れば普遍的な死後の世界なんだが、宗教に口出しされると隅に追いやられちまいがちだな」
ロンドの意見だが、そこはツバサも同感できた。
「そうだな。宗教や神話の死生観ってのは基本y軸で動くもんだし」
「y軸? ああ、上下運動ってことか」
人間は死後、生前の行いによって行き先が決まる。
良い行いをした者、善行をした者――善人は天国へ迎え入れられる。
悪い行いをした者、悪行をした者――悪人は地獄へ突き落とされる。
多かれ少なかれ違いはあるが、大体どこの国の神話も、どの地域発祥の宗教でも、こうした教えを説くものだ。
日本神話はちょっと違うのだが……。
ロンドは伸ばした人差し指を上下に揺らした。
y軸をなぞっているのだろう。
「人間を中心に考えた価値観によってx軸y軸へブレるとしたら、天国と地獄はy軸を上へ下へと揺れ動くってわけだな」
天国ならばy軸を昇っていき、地獄ならばy軸を墜ちていく。
仕方あんめぇよ、とロンドは投げやりに言う。
「人間社会は性善説を前提にしなきゃ回らねぇ仕組みになってるからな。神話にしろ宗教にしろ、頭悪い人間どもを躾けるためにはこういう教えを設定しておかなきゃ立ち行かなかったんだろ」
「悪いことしたら地獄に墜ちますよ、だな」
わかりやすくていいだろ、とツバサは過去の宗教家に同情する。
今も昔も賢い人間なんてろくすっぽいやしない。
ツバサやミロも含め、大半のものが煩悩と世俗にまみれた頭の悪い愚か者に分類されるのだ。そうした愚者を教化するにはわかりやすいに限る。
小難しくすれば誰も耳も貸してくれまい。
「……とまあ、地獄と天国の概念ってのは、その他大勢の猿からちびっとだけ逸脱しちまったお偉いさんの都合でできたもんだ」
「常世はもっと一般的な死後の世界……というより異界だな」
フミカの脳内解説をツバサなりに咀嚼していく。
そして、言葉に紡いでみた。
「すべてが生まれ出でて――すべてが死んで還っていく場所」
そこは永久に変わらない神秘的な領域であり、あらゆる命を生み出す原動力となるため、あらゆる死を受け入れる根源的な世界でもある。
そこには時間の流れがない。それゆえに永遠なのだ。
そこでは子供は成長し、老人は若返り、若人はいつまでも変わらない。
そこは不老不死がもたらされる永遠の理想郷。
そこは何もかもがあると同時に、何ひとつない虚無でもある。
神も魔も人も獣も――。
そこからすべてが生まれ、そこにすべてが還っていく。
「――それが常世か」
「そうだ、だから“礎の領域”なんて大層な名前が付けられる」
ロンドはツバサの説明をまとめた。
日本人の死生観には根底にこの常世があるらしい。
500年も日本人に紛れて暮らしていたロンドは、そこに思うところがあるのか熱心な論調で語り始めた。
「仏教の地獄極楽に六道輪廻、耶蘇教の地獄、黄泉、煉獄、天国、ヘル、インフェルノ……これらy軸の死生観は、元々日本にゃなかったもんだ」
日本の死生観は――x軸。
即ち、縦(y軸)ではなく横(x軸)だったという。
「渡来物にコロッと傾倒するのが日本人の悪い癖だ。それでもまあ、現代まで常世のイロハは伝わったんだから根深いものだったんだろうよ」
常世は天上世界ではなく、地下世界でもない。
地平線の先、水平線の彼方、深山幽谷の奥、海の向こう側……。
「そういった世界の果てだ」
常世はそこにあると信じられていた。
あらゆる命は常世から生まれ、死んで常世に還っていく。
日本神話でも、役目を終えた(死を迎えた)神々は常世へ去って行くという描写をされている者が少なくない。
彼らは一様に地の果てや海の彼方を目指して旅立つ。
そこにある常世へ向かって――。
「辛うじて仏教の西方浄土って考え方が近いか?」
極楽や浄土は西にある、という思想だ。
「観音菩薩のいる楽園へ行くために、死ぬ覚悟と前提で船出する“補陀落渡海”という修行があったそうだからな。仏教にもx軸の死生観あったんだろう」
フミカの入れ知恵のおかげで博識の振りをすることができた。
仏教が日本に浸透したのは、この親和性ゆえかも知れない。
「日本のあの世は黄泉ともいうが、この黄泉も常世に含まれるそうだ。日本における死後の世界の原型、そいつが常世ってわけだな」
日本神話では他の神話と比べて、y軸の考え方が異なる。
「大抵の神話では人は死後に二分される。善人は神々の暮らす天国へ導かれるが、悪人は鬼や悪魔のいる地獄へ墜ちるものだ。しかし……」
日本神話には天国も地獄もない。
天津神が暮らす天上世界の高天原、人間が暮らす葦原中国(地上世界のこと)、そして死者のための世界である根之堅洲國(黄泉の国とも)……。
日本神話もy軸の三層構造ではある。
だが、死者はすべて根之堅洲國へ向かう。
人間は勿論、神も死ねば同じである。
善悪の罪業など関係ない、死者はみんな根之堅洲國行きなのだ。
国生みをした創造神である地母神イザナミが火の神カグツチを産んだショックで死んだ後、黄泉の国へ旅立った神話は知る人も多いだろう。
そして、根之堅洲國は地下にあると限らない。
「根って名前の最初にあるせいで地下世界と思われがちだが、神話の描写からすると常世みたいに歩いて行けるところ、つまりx軸上にあるようだな」
死者はみんな――常世へ還る。
善も悪も男も女も人も獣も神も魔も、区別せず差別なく須くだ。
「差し詰め、森羅万象が巡り還るところか」
日本人は元来、そうした死生観を持っていたというのだ。
しかし仏教やキリスト教の影響によって天国や地獄という死後の世界を新たに設定したため、常世という死生観は改変を余儀なくされた。
いつの間にか楽園、仙境、理想郷といった位置付けになったらしい。
「だが、本来の意味はすべての“大元”ってわけよ」
ロンドの言い方にツバサは注釈を入れる。
「それなら最近は“根源”って呼び方のが通るらしいぞ。漫画かアニメかゲームの影響かは忘れたけど、オタク友達がそんなこと言っていたな」
そうなの? とロンドはちょっとだけ反応した。
「まあ、根源でも大元でもどっちでもいいやな。要するにプリミティブでファンキーでオプティマスプライムなパワーってことだ」
「……オプティマスプライムってそういう意味だっけ?」
ツバサは首を傾げてしまった。
超ロボット生命体な総司令官がそんな名前じゃなかったっけ?
するとフミカが翻訳してくれる。
『オプティマスは最善や最良、プライムは最重要って意味ッス』
『あながち間違いでもないのか』
『どっちかっていうと、オプティマスプライマルの方が正しいッス』
プライマルは原始、あるいは原初や根本といった意味だ。本来は限定的な形容詞なので、「原始の~」「原初の~」と他の用語と絡ませて使うらしい。
『……それもどこかの総司令官の名前じゃなかったか?』
それはともかく、精神念波なフミカの脳内補足に感謝する。
ロンドは列車砲から迸る透明な波動を見つめていた。
既に砲撃はほぼ終わっている。
だが、砲口からはまだ余韻が立ち上っていた。
それを六尺大玉の花火を見上げる、子供のように無垢な瞳。なのに人生の酸いも甘いも味わい尽くした老獪な眼差しで見据えていた。
濃い影が差した双眸は、魔王の暴力性を湛えていた。
「万物の誕生と万象の死滅を司る、最も原初の力だぞ? それを敵を薙ぎ倒すための兵器のエネルギー源として転用すれば……この世のどんなものでもぶっ壊せるに決まってるじゃねえか。あの超巨大蕃神であろうと塵芥にできるぜ」
持ち上げる右手、五指はわなわなと忙しなく蠢かせる。
厳つい眦のまま牙を剥くように大笑した。
「あれ、超欲しい~……喉から手が出るほど欲しい~~……ッ!」
「アカン、極悪人の顔や」
思わずツバサは関西弁でツッコミを入れてしまった。
なんというか……濃厚な作画で人気の漫画家さんが、一筆入魂した悪役のフルパワーな笑顔って感じで、真向かいにいるのがキツい。正直ドン引きだ。
「兄ちゃん、アレ譲ってくれや! くれたら何でもするでぇ!」
ロンドも関西弁で懇願してきた。
スーツの懐から分厚い長財布を取り出して札束を見せびらかしてきたが、そんな紙クズが真なる世界で役に立たないのは承知のはずだ。
「金か? ナンボや? いくらでも大枚叩かせてもらうでぇ!」
だから売ってくれ! と目の色を変えて訴えてきた。
この極悪親父も小芝居が好きだから困る。
始源至道巨砲の破壊力に惚れ込んだのは本当のようだが、それをツバサがすんなり渡すわけもないので、嫌がらせをしているのだ。
ツバサはソファにふんぞり返り、下唇を突き出した。
「誰が売るかバーカ、一昨日来やがれ」
フン、と女の子みたいにむくれてロンドの要望をはね除ける。
するとロンドは露骨に拗ねた。
「チェッ、兄ちゃんのけちんぼ! そのホルスタインみたいな爆乳と巨尻くらい太っ腹なところ見せてくれたっていいだろぉ。このほっそりウェスト!」
「誰がホルスタインみたいな乳と尻だゴラァ!」
ミロ以外に雌牛扱いされたツバサは、烈火の如く憤慨した。
戦闘もしてないのに黒髪を真紅にして怒鳴り散らし、危うく本気で殺戮の女神になる寸前だった。滅日の紅炎までまき散らしかけてしまった。
荒っぽい深呼吸で自制に努める。
こちらばかり苛立つのも癪なので、ちょっとロンドに厭味をぶつける。
「ったく……負け越してんのに余裕じゃねえか」
「あん? 負け越しって何よ?」
ロンドは付き添いの従者、フレンチメイド姿のミレンという女中にまたカフェカプチーノを注文している。もはや愛飲ではなく中毒だ。
負け越しという皮肉も通じていない。
「……クロコ、俺にもお茶をくれ」
「かしこまりましたツバサ様」
従者を連れているのはロンドだけではない。
ツバサも伏兵としてメイド長のクロコを後ろに控えさせていた。くさくさした気持ちを鎮めるため、鎮静効果のある紅茶を求める。
「私特製、愛の妙薬をブレンドした特別製の紅茶をお煎れいたしま……」
「媚薬だろそれ。いいから普通のお茶をくれ」
こんな非常事態でも、平常運転のクロコがブレることはない。
そのことに奇妙な安心感を覚えてしまう。
「負け越しってのはあれか、ウチの部下どもが軒並み総崩れの件か?」
「……わかってて惚けたのかよ、このオッサンは」
カフェカプチーノを啜るロンドは負け越しを再確認してきた。
「負け越しってーか、連戦連敗してっけどな」
まるで他人事である。
破壊神ロンドが率いる軍勢、最高幹部でもある最悪にして絶死をもたらす終焉。108人から選抜された最強の20人、終焉者と呼ばれる者たち。
その内――8人までもが敗北に喫していた。
「えーっと、最初に負けたのは……タロウ先生だっけ?」
ロンドは片手にカプチーノのカップを持ったまま、反対の手で指折り数えながら負けてしまった幹部たちを思い返している。
№12 爆滅のフラグ――タロウ・ボムバルカン。
ククルカン森王国へ侵攻。
待ち受けていた因縁の相手、日之出一家のコンビネーションによって宙の彼方まで吹き飛ばされた後、ブラックホール弾に飲み込まれて消滅する。
№15 狂奔のフラグ――ゴーオン・トウコツ。
ククルカン森王国へ侵攻。
鉄拳の軍神カズトラと交戦。どちらも狂気に駆られたまま暴走気味に戦い続けるも、最終的には正気を取り戻して一騎打ち。壮絶な最期を遂げる。
№16 旱照のフラグ――ジョージィ・ヴリトラ。
ククルカン森王国へ侵攻。
すべてを干涸らびさせる愛の光を撒き散らす巨大な蛇神となって森の王国を滅ぼそうとしたが、虚無を操る太陽神ケツアルコアトルに倒される。
№02 境滅のフラグ――アリガミ・スサノオ。
単身、還らずの都破壊を計画。
ベリルやサバエを囮にして、一気に還らずの都を次元の果てへ追いやろうと計画するも、女騎士カンナの無効化能力に翻弄されて敗北。
№14 蟲襲のフラグ――メヅル・アバドン。
還らずの都へ侵攻。
怪蟲の軍団を操って都を貪ろう目論む。剛直メイド長カンナを追い込むも、選手交代で現れた工作の変態ジンの怒りを買って素粒子に分解される。
№13 侵毒のフラグ――ベリル・アジダハーカ。
還らずの都へ侵攻。
三つ首の毒蛇龍に巨大化して猛毒を振り撒き、還らずの都を溶かして朽ち落とそうと猛攻するも、鋼火鉄炎の巨神と化したクロウに地獄へ堕とされる。
№10 暴食のフラグ――オセロット・ベヒモス。
還らずの都へ侵攻。
肉塊の山脈へと肥大化して五匹の巨大獣を繰り出し、四神同盟を追い詰める。しかしラザフォードの新兵器、次元を貫く列車砲にて跡形もなく滅ぼされる。
№09 凄鬱のフラグ――サバエ・サバエナス。
還らずの都へ侵攻。
愛弟オセロットの補佐を務める。その呪殺歌で四神同盟を苦しめるも、最期はオセロット同様、次元を貫く列車砲の波動に巻き込まれて行方知れず。
彼女のみ、コインが消失していない。
しかし、砕けたところを見ると戦意を喪失したらしい。
弟を失った心の痛手は大きいはずだ。少なくとも、この戦争中に復活することは望み薄だろう。実質的に再起不能、退場と見做していい。
「……命冥加なサバエを数えても8人減ったってわけだな」
ゴッソリ逝ったな、とロンドは指折り数えていた片手から虚空へ視線を上げると、何を考えているかわからない表情でぼんやり呟いた。
「いやーめっきり寂しくなったもんだ」
「本当にそう思うなら、もっと情感を込めて言ってやれ」
さすがに不憫になってきた。
いくら敵対する組織とはいえ、ロンドの無責任さを知っているとはいえ、負けた部下に酷薄すぎるのは如何なものかと勘繰ってしまう。
「なんだよ兄ちゃん、もっと喜べよ」
訝しげなツバサの瞳に気付いたロンドは煽ってくる。
「この世を滅ぼそうとする悪の幹部を8人も倒したんだぜ? 正義の味方連合軍らしく、拍手喝采してお仲間の勝利を祝ったらどうだい?」
「誰が正義の味方だよ……」
そんなつもりツバサには毛頭ない。
この異世界で生き抜く覚悟を決めただけで、安住の地にするため鋭意努力しているところに、「この異世界をブッ壊します!」と宣言されたものだから、生存本能の赴くままに戦っているだけのこと。
どちらが善でどちらが悪とも言い切れない。
これまで倒した8人の凄惨な来歴も、優秀な情報官たちのおかげでそれとなく裏が取れてしまったので尚更だ。
同情こそするものの、真なる世界で犯した罪を購えるものではない。
それでも一抹の憐憫くらい湧くものだ。
なのにこの男は――部下に対して興味がない。
勝っても負けても無反応、無感動、無関心の三拍子だ。
敗北したことを怒りも叱りもしなければ、嘲りの笑みを浮かべることすらなく、蔑むことさえしない。本当に無関係な他人事として捉えていた。
ツバサは改めて問い質す。
「ご自慢のバッドデッドエンズ、その終焉者は20人……」
そこから8人の終焉者が脱落した。
+αもいるが、敢えて触れないでおく。
20-8で残り12人、半数が減ったといっても過言ではあるまい。
「部下の半数が討ち死にしたっていうのに……アンタは何も思わないのか? もうちょっと顔になんというか……出てもいいんじゃないか?」
泣いて悲しめとまでは言わない。
それでも負けたことに「何してんだあのバカ!」くらいの怒りを見せてもいいのではないか? 感情を露わにしてもいいのではないか?
無反応なのは哀れすぎる。
特にロンドのようなノーリアクションは最悪と言えるだろう。
「おい、兄ちゃん……なんか勘違いしてねえか?」
癇にさわったのか、不意にロンドの声はドスを利かせてきた。
カフェカプチーノのカップを円卓に置くと、持っていた手の五指をゴギャベギャと濁音だらけで鳴らして、威嚇するように吐き捨ててくる。
「オレたちゃ仲良しごっこやってんじゃねえんだぞ?」
世界の廃滅を標榜し――破壊と殺戮を是とする集団。
「上下関係や仲間内の好き嫌いはあるが、情で動いちゃいねぇんだよ。最終目標は来世さえ許さない世界の完全破壊。負けた奴は阿呆だし、死んだ奴は間抜けなだけだ。それをいちいち引き摺ったりするかってんだ」
世界を滅ぼすなんて蛮行、中途半端な覚悟では挑めない。
「餓鬼のお遊びじゃねえんだ。勝った負けたや生きた死んだで一喜一憂するなんてお門違いもいいところ。世界が終わるまで突き進むだけさ」
部下が死んだ――だからどうした?
「負け犬が死んだところで誰が見向きするんだよ、なぁ?」
破壊神の気迫で凄むロンドだが、ツバサは涼しい顔でやり過ごす。
「悲しむのはその時だけか……」
ツバサは意味深長にボソリと漏らした。
これにロンドは「揚げ足を取られた」と眉をひくつかせる。
手塩に掛けた幹部の1人、後見人として世話を焼いてきたというアリガミが死亡した直後、ロンドは明らかにショックを受けていた。
取り乱すほどではなく、ほんのわずかな慈悲をその目に光らせた程度のものだ。あれ以降、アリガミの死を意識した様子はまったくない。
だが、あの瞬間――ロンドは悲しんだ。
あれを目の当たりにすると「部下が死んでもどうでもいい」なんて態度も強がりに見えるのだが、ロンドにも優先順位があるらしい。
「ふん……親父を思い出して、らしくねえ真似をしたせいかもな」
仲間を作るなんて、とロンドはため息をついた。
「オレは世界を滅ぼすつもりだ……たった一人、単身でもな」
嘘でもブラフでもはったりでもない、これはロンドの本心である。
そう豪語するだけの力をロンドは持っていた。
ツバサは数度、ロンドと腕試し的な手合わせをしているが、その時でさえ世界を数十回壊してもお釣りが来る攻撃を仕掛けてきた。
ツバサが抑えねば真なる世界はそこで終わっていただろう。
破壊神のあだ名は伊達ではない。
「だけどまあ地球で暮らして、マッコウさんと出会ったり、ミレンちゃんやアリガミを拾ったり……人間臭いことをしたのが良くなかったのかもな」
いつしか――仲間を増やしていた。
柄にもなく最悪にして絶死をもたらす終焉なんて組織を作り、一時は構成員が1000人近くまでも膨れ上がったという。
そんなに協力者がいたのか、とツバサは無言で舌を巻いた。
思ったより破滅主義者はこの世に蔓延っているらしい。
「ったく、親父のせいだぜこれ」
ロンドは怨むように心の内にいる父親へ毒突いた。
そういえば以前、呑み会で聞いた話だ。
(※第371話参照)
ロンドは父親を「破壊神だった自分をまともにしてくれた人格者」だと誇らしげに語っていた。その影響が一匹狼の破壊神に、家族や仲間を持たせるように働きかけていたらしい。
「だが……オレの本質はあくまでも破壊神だ」
負けた奴は見向きもしないし、死んだ奴に情は寄せない。
「それが引き摺らない、ってことか?」
ツバサの問い掛けにロンドは大仰に頷いた。
「そういうこった。悲しんだとしても一瞬一秒、それで『あーよく悲しんだな!』とサパッと断ち切るだけさ。そっから先は面倒くせぇだけじゃねえか」
よく割り切れるものだ、ツバサからすれば羨ましい。
ツバサは誰かの死を引き摺る、いつまでも、どこまでも……。
いっそ背負ってしまうくらいだ。
それが重荷に感じることも多々あるが、放り捨てることはできないし、ツバサの内側にどんどん積み重なっていくばかりである。
この戦いで死んでいった者たち。
彼ら彼女らへの思いも、きっと引き継いでいくのだろう。
「――さて兄ちゃん」
しんみりするツバサを鞭打つように、ロンドは弾けるように指を鳴らすと、こちらの気を引いてきた。破壊神に負けぬよう、守護神も気を取り直す。
睨み返すツバサにロンドはいやらしい笑顔で告げる。
「バッドデッドエンズの負け犬どもが半数まで欠けたのは事実。そいつは認めてやるし、そこまで圧倒したおまえさんらを褒めてやろう」
「圧倒なんかしてねえよ、ギリギリの勝ちしかねえだろうが」
皮肉にしか聞こえなかった。
返す言葉も素の江戸弁でべらんめえ口調になってしまう。
アハウやクロウのような内在異性具現化者でさえ、全力全開を出し切ってのようやくの勝利、ほとんどの者がズタボロで勝ち取った辛勝である。
カズトラなど、主戦力では若手ながら健闘したものだ。
後でご褒美を上げないと、と神々の乳母という母性本能が疼いている。
「そんな謙遜しなさんな、勝ちは勝ちなんだから」
だがな、とロンドは卓袱台をひっくり返す。
「バッドデッドエンズの敗北でこのロンド様に動揺は誘えねえよ?」
「うん知ってる」
もう見た、とツバサは冷めた眼で言ってやる。
多少なりとも思い入れのある部下はいるようだが、それで心が揺れ動くのは一時に過ぎない。そこで悲しむだけ悲しんだから、綺麗さっぱり斬り捨てられるだけの達観をロンドは極めていた。
……なんだろう、変なところミロと似ているなコイツ?
ミロの場合、その場では号泣するもしばらくすれば「あーよく悲しんだ」と立ち直ってしまう。ただし、その悲しみを忘れない。
引き摺りはしない。むしろ心の糧にするくらいだ。
ツバサも見習うしなやかで柔軟な精神性、それがミロの持ち味である。正直、そういう強さでは絶対に叶わないとアホの子に負けを認めていた。
ロンドは無遠慮にその理由についても語る。
「さっきも言ったが、バッドデッドエンズを結成したのは親父の受け売りだ。真っ当な神や悪魔なら、仲間っていう眷族を揃えるもんだしな。地球でカミさんもらって子供を産ませたのもそれだ。しかし、破壊神にしてみりゃ……」
ぜんぶ余録よ、とロンドは微笑んで切り捨てた。
「破壊神一柱で世界を木っ端微塵にブッ壊せる確信がある。ぶっちゃけ、手下なんざいらねえのよ。遊び半分で集めたに過ぎねえ」
いや待てよ、とロンドはやや考え込んだ。
「勢いのままに語っちまったが、ちょっと訂正させてくれ……ここまでは既定路線だし、バッドデッドエンズにはそれなりの役割があったわ」
「役割? 世界を滅ぼすことだろ?」
大地を砕き、空を焼き、生命を殺し、世界を壊す。
来世の訪れも許さず、完膚なきまでに世界を廃滅させる。
それが最悪にして絶死をもたらす終焉の宿願だ。
ロンドの麾下となった者は、自身も含めてこの世のすべてを滅ぼしたいという願いを抱いている。ロンドはその心意気を買って迎え入れていた。
今更、他に役割があると明かされてもピンと来ない。
ロンドは種明かしするかのように、その役割について話し出す。
「バッドデッドエンズに期待したのはな、言ってしまえば地上げ屋よ。真なる世界を脅しつけるように、あちこちで暴れてくれりゃ良かったんだ。それ以上の働きは正直なところ、全然期待しちゃいなかったな」
思い掛けない単語が飛び出してきた。
「……世界を脅しつける?」
真なる世界を脅迫するような言い方だ。この異世界に暮らす数多の種族を土地から追い出すのではなく、世界その物を脅かすという風に聞こえる。
すぐに理解が及ばず、ツバサは悩んでしまう。
それを尻目にロンドは勝手に何やら事を進めていた。
またパチンと指を鳴らすと、空中にいくつものスクリーンを展開させた。
そこに結ばれる映像は、この戦争で行われている情景を切り抜くように映し出したものだ。この男も遠隔視みたいなことができるらしい。
世界各地で繰り広げられる戦い――。
大地を蹂躙しながら命あるものを喰い滅ぼそうとする巨獣の群れを、戦国時代の武将たちをモデルにした巨将の部隊が食い止める。
その戦いは驚天動地、巨人戦争ともいうべき壮絶な有り様だった。
世界廃滅のため邁進する最悪にして絶死をもたらす終焉。
その破滅願望を阻止するべく、立ち向かう四神同盟の戦士たち。
彼らの戦いのハイライトも映像に切り抜かれている。
「まさに最終決戦、あるいは神々の黄昏か?」
人間様はこういうの好きだろ、とロンドは邪神の笑みであざ笑う。
円卓に置いていたカフェカプチーノを手に取ると、少し温くなったそれを一口啜って喉を潤してから、核心をぼやかした喋り方で続ける。
「真なる世界に縁ある者が――自らの世界を壊す」
最悪にして絶死をもたらす終焉は地球生まれのプレイヤー、彼らもまた真なる世界の因子を受け継いだ末裔だ。
そんな彼らが世界廃滅を掲げて、滅亡の日を目指して暴れる。
「当然、真なる世界を第二の故郷にしようとしている兄ちゃんたちと激突するし、蛙の王様みたいなこの世界の既存住人たちも立ち上がる」
両者の諍いは争いとなり、否応にも世界を震撼させていく。
「望むと望むまいとに関わらず、おまえさんたちの戦いは真なる世界を傷つける。直接や間接は関係ない、余波や波及でさえ大ダメージだ」
「俺たちも世界を壊している……」
そう言いたいのか? とツバサは怪訝に問い質した。
ロンドはこれに答えず触れることもなく、自身の話を押し通していく。
「そのダメージが度を超すとな、アレルギーを起こすんだ」
「アレルギー? 真なる世界が……ってことか?」
真なる世界が生き物のような言い分だ。
しかし、地球も一個の生命体だと考える“ガイア理論”もあったので、全否定するわけにもいかない。不思議が罷り通る異世界なら大いにあり得る。
だが、気になる点がひとつ。
「蕃神はどうなんだ? 奴らもこの世界を壊してるじゃないか」
ロンドの口振りだと、真なる世界に縁のある生命にのみ言及しているが、別次元から侵略してくる蕃神は無視しているようだ。
予想した通り、ロンドは手をヒラヒラと否定的に振った。
「ありゃノーカンだ、ノーカン」
ノーカンノーカン♪ とロンドはどこかの班長みたいに繰り返す。
「あれはこの世界から見れば別物だ。免疫反応を起こす起こさない以前に、免疫が認識できないほどの外的要因って感じなんだよ」
真なる世界は外界からの侵略を想定していなかったらしく、耐性がまったくなかったという。そういう意味では無反応とのことだ。
「おかげでやられっぱなしよ」
不甲斐ねえ話さ、とロンドは忌々しげに鼻を鳴らした。
「だが真なる世界はともかく、そこに暮らす神族や魔族は次元を越える力を目覚めさせた。それをアレやコレや工夫することで、地球に渡っておまえさんたち人類っていう後継を創るという実績も残している」
その経験があったからこそ蕃神と戦えたのもあるらしい。
別次元の存在、異次元の宇宙、多次元への可能性。
こうした研究を進めていたからこそ、蕃神の侵略に対抗できたそうだ。
「その成果のひとつがあれ――還らずの都だ」
ロンドの人差し指が、傍らに聳える巨大な死者都市を指差した。
世界最硬の金属アダマント鉱石を切り出して積み上げ、山脈を上回る規模で組み上げた霊廟である。蕃神との戦争で戦死した英霊を奉っていた。
都市には地脈から“気”を汲み上げて貯蓄する機能がある。
もしも世界が危機に陥った際には、貯め込んだ莫大な“気”を用いて英霊たちを一時的に受肉させ、その危機に立ち向かう軍団として召喚するための施設でもある。
蕃神に対抗するための迎撃装置だ。
「もっとも、蕃神に限らず破壊神にも使うことはできるがな」
ロンドはいけしゃあしゃあと軽口を叩いた。
それが無理な相談だと承知の上で煽っているのだ。
「今も世界の大ピンチだ。巫女さんが覚醒して自由に使えるようになった今、英霊どもを叩き起こしてオレたちに総当たりさせることもできるだろ?」
「それができたら苦労しねぇよ」
腹立たしい。ツバサはあからさまな舌打ちをした。
現在、還らずの都に奉られる英雄はいない。
超巨大蕃神の出現に対抗するため、都に眠っていた英霊はすべて喚び出した後である。彼らは蕃神を撃退すると、その役目をようやく果たしたことになる。
還らずの都の墓碑に名前を刻まれれば、死後も死者都市に縛られる。
世界を守る大任を果たすまで、真の永眠が訪れることはない。
還らずの都が起動し、受肉して役目を果たすことで、都から解放されるのだ。
それまでは本当の意味で「世界に還る」ことはできない。
ゆえに――還らずの都と呼ばれる。
超巨大蕃神“祭司長”撃退のため、英霊の軍団を喚び出したばかり。
還らずの都には今、英霊は一人も眠っていない。
ロンドはそれを知って、あからさまに挑発しているのだ。
腸を煮えくり返らせながらそんなことを思い返していたツバサは、改めてロンドが還らずの都を話題にしたことに不自然さを覚えてしまった。
ふと猛烈に嫌な連想を組み立ててしまう。
「まさかアンタ……これを狙って?」
だとしたら最悪だ、と言わんばかりにツバサは睨めつける。
「いやー偶然だよ偶然」
ロンドは無責任親父らしく、こちらの眼光を飄々といなした。
「オレたちが事を起こす前に、還らずの都が発動するイベント起きんかなー? と狙ってたけど、あれはキョウコウがご執心なのを知ってたからね。下手にちょっかいかけるべきじゃないと考え直しただけさ」
(※キョウコウ・エンテイ=第7章から第8章のラスボス)
「放置して計画通り、って顔してやるぜこの野郎……ッ!」
ツバサは悔しげに歯噛みする。
ロンドの思惑通り、キョウコウは強行策に打って出てしまった。
「キョウコウだけに強行……」
「やかましい! 親父ギャグ禁止!」
いらんことをほざこうとしたロンドを叱りつける。
ロンドがキョウコウに少しでも関与していれば、あの筋肉鎧親父も警戒心を働かせて、もっと慎重に動いたかも知れない。
そうすれば――未来は変わった可能性もある。
還らずの都を巡るツバサたちとキョウコウの戦争が起こることも、それを嗅ぎつけて超巨大蕃神が現れることも、その蕃神を追い返すために還らずの都を発動させることもなかった未来があったかも知れないのだ。
もっともロンドの言う通り、キョウコウは還らずの都にご執心だった。
それを考慮すると、遅かれ早かれという感も否めない。
だが、ロンドの口から聞かされるとムカつきが倍増するのだ。
「クソ、変な気を回しやがって……」
あるいは危機管理能力、もしくは予感が働いたのかも知れない。
策士ではない、策略家でもない、策謀を巡らせるわけでもない。
一事が万事ひょんな思い付きで謀略さえも気分次第。
なのに――悉く上手いこと運ぶ。
類い希な豪運の持ち主であるロンドに、ツバサは恐れ戦く畏敬を覚えつつ、やり込めてやりたいという反骨精神も芽生えつつあった。
豪運だけで世渡りできるか! と思い知らせてやりたくてなる。
「ちと脱線しちまったな、話を戻すか」
本題は還らずの都ではない――世界を脅しつけることについてだ。
ロンドは話をそちらへと無理やり戻していく。
「真なる世界はな、その腹ん中で暮らしている種族が戦争に明け暮れて、世界を壊しすような選択ばっかしてると、いいかげん愛想が尽きてくんのよ」
そして、このような決断に至るらしい。
「この世界はもうダメだ――いっそ新しい世界を創ろう」
次の瞬間、世界が悲鳴を上げた。
全世界が震え上がるような奇声が轟いたのだ。
ロンドの言葉に賛同するかのようなタイミングで起きたそれは、途切れることのない奇声を鳴り響かせつつ、真なる世界の根底から激震を引き起こす。
激しい揺れを引き起こす原因はすぐに現れた。
中央大陸の北方、還らずの都からは大分距離がある。
距離にして数百㎞、それほど遠くに離れているのに見て取れる。奇声と激震の原因となったものは、誰の目にも映るほど巨大な存在だった。
最初、それは大きな樹に見えた。
世界樹と見間違えておかしくない、巨大な木の根だ。
梢が伸びていくのではなく、触手のように野太い木の根が天を目指して突き上がっていくように見える。それも一本や二本ではない。
何本もの巨大な木の根が、一斉に空へと駆け上がっていた。
先を争うように伸びていく木の根は、互いに絡み合い、巻き付き、編み込むようにして一本の大樹を形作っているかのようだった。
植物としては有り得ない成長速度でだ。
その質感も植物というより金属に近い硬質感を帯びていた。
いつかレオナルドが蘊蓄を垂れていた地球外生命体、ケイ素系生物なんて与太話を思い出す。硬質ポリマーでできた植物と思えなくもない。
やがて世界樹に勝るとも劣らない高さに達する。
そこまで到達すると、根の先端は大樹の先端とはならず、三百六十度へ規則正しく広がっていく。気付いた頃には、花に似た形状を象っていた。
「…………蓮の花?」
泥の中に茎を這わせ、水面に美しい大輪の花を咲かせる。
蓮にとてもよく似ていた。
「やっと出やがったな――世界大蓮」
異変を起こした巨大な蓮の花に似た何かを、ロンドはそう呼んだ。まるで古い友人と再会したかの如く、口調はとても待ちくたびれた感があった。
「兄ちゃんは知ってるよな? オレたちが卵を探してたのを」
終わりにして始まりの卵――。
宇宙卵、あるいは黄金の卵などとも呼ばれている。
この世が終焉を迎えそうになった時、そこから怪物が生まれて世界を滅ぼした後、その怪物が新たな世界の萌芽となる世界再生システム。
来世を認めないロンドにしてみれば、目の上のたんこぶだろう。
「オレはバッドデッドエンズどもに『卵を探せ』と命じた。だが、わざとその形状や出現条件については教えなかった」
卵を探せ――ロンドはその一点のみを指示した。
暴君の命とあらば、忠誠を誓った臣下は唯々諾々と従うしかない。
「連中は血眼になって終わりにして始まりの卵を探した。分けた草の根を焼き尽くしてでも探しただろうさ。それもまた……」
真なる世界を傷つけた、とロンドはほくそ笑む。
「どんな卵かわからないけど壊す、どんな生き物の卵でも壊せばいい。卵は完全栄養食だ、プレイヤーや現地種族も欲しがる。そいつらを皆殺しにして、卵もみんなぶっ潰せばいい……卵を探してれば、自然と破壊や殺戮も捗る」
一から十まで教える必要はない。
「卵を探せ、と命じておきぁあいい。そうすりゃバッドデッドエンズは世界もブッ壊してくれるし、神族も魔族も多種族も皆殺しにしてくれるってわけよ」
「一石二鳥とでもいいたいのか、テメェ……ッ!」
卵を探せ云々という命令は拍車。バッドデッドエンズという馬をがむしゃらに働かせるための拍車だったのだ。
彼らが動けば、ついでとばかりに破壊と殺戮に手を染めるのは必定。
このアバウトな命令は、それを煽る追い風となっていた。
「ロンドの言いたいことが透けて見えぜ」
ツバサは答えを求めるように、自然と解答を口にしていた。
「この真なる世界から生まれた者が、どんな理由であれ世界を壊そうとする……それは世界に拒絶反応を引き起こし、いつかは限界を迎える……」
『この世界はもうダメだ――いっそ新しい世界を創ろう』
世界を諦めの境地まで追い込む。
世界が自ら生んだ被造物に愛想を尽かすほど絶望へ陥れる。
「それが終わりにして始まりの卵の出現条件か?」
「そこまでは前提条件――単なる下地だ」
もう一手間加える、とロンドは人差し指を立てて回した。
「必死に卵を探すバッドデッドエンズが暴れれば暴れるほど、四神同盟みたいなのとぶつかるのは避けられねえ。そうなりゃ殺り合うのは当然……お互い世界を壊せる強者、LV999の高みに届いているならなお良しだ」
世界の命運を左右する者を殺し合わせる。
いずれ勝敗が決し、片方は無念のまま死ぬだろう。
「その無念さが……あるいは世界に対する絶望が鍵なんだよ」
終わりにして始まりの卵の出現条件、それは――。
「世界を変える力を持つ者たちが絶望しながら死んでいくことだ」
たち、という複数形が重要なのだろう。
一人や二人では足らない、何人もの強者が絶望のまま死んでいくのだ。
最悪にして絶死をもたらす終焉は、世界に期待していない。
世界のすべてに諦念し、見切りを付けていた。
それを四神同盟が倒してしまえば、世界に絶望した強者を屠ることになる。
ロンドに魔改造された者でも、世界を変えるだけの能力は持っているはずだ。現にこれまで倒した8人の終焉者も、一人で世界を滅ぼせる力はあった。
「別に、四神同盟が死んでくれても構わねえんだぜ?」
バッドデッドエンズが可哀想ならな、とふざけたことを言う。
それはそれで、世界を変える強者が絶望のまま死んでいくのと同義だ。なにせ世界廃滅集団に敗北すれば、奴らを野放しにして先に逝くのである。
遺された世界の未来に絶望し、無念を抱いて死んでいくのだから……。
どちらにせよ贄という要素が強い。
最悪にして絶死をもたらす終焉は、ロンドが用意した贄なのだ。
「……どう転んでも、卵の出現条件は満たすわけか」
ツバサは痛いほど拳を握り締めていた。
誰もが何も知らぬまま――破壊神に踊らされていたのだ。
「夢と理想を違えれば、戦争が避けられねえのは人の世の常……いいや、神も魔も獣もみんな同じさ、大差ねえよ。競い合って殺し合う運命なのさ」
血みどろの戦いの果てにこそ、平和な来世を夢見る宇宙卵は顕現する。
「オレはそいつをブッ壊してぇんだよ」
ロンドが得意気に話す間にも、世界大蓮の変化は続いていた。
蓮の大輪、その中心が輝き始める。
それに呼応するかのように、世界中から小さな光の粒が湧き上がった。光の粒は流星のような軌跡を描いて、蓮の中心に吸い寄せられていく。
あの小さな光の粒は――すべて“気”だ。
世界大蓮は真なる世界の至る所から、“気”を吸い寄せていた。
集められた“気”は凝縮されていく。
それは世界大蓮に釣り合う大きさの光り輝く卵になりつつあった。
「オレじゃあダメだったんだ。破壊神じゃあな……」
ロンドはほんの少し残念そうにぼやいた。
「オレだと手加減一発でも世界を吹き飛ばしかねぇからな……そしたら終わりにして始まりの卵どころか、それを創り出す世界大蓮までブチ壊しかねん……それじゃあダメだったんだよ」
世界を滅ぼした後、破壊神も消えるとロンドは公言している。
その後、世界大蓮が復活しないとも限らない。
そこから終わりにして始まりの卵が現れないとも限らない。
さしものロンドも確信が持てないようだ。
「そしたら来世ができちまうからな……それを避けるためにも、この手で確実に壊しとくには、回りくどいがこうするしかなかったのさ」
宇宙卵を出現させるための追い立て要員。
「チマチマと卵を探しながら、あっちを壊してこっちを滅ぼして、神族や魔族を殺して、現地種族を絶滅させて……世界が滅びる前に卵を出現させる」
最期には殺し合うことで宇宙卵の贄となる。
「そうか……だから指令の質を落として、目標を曖昧にさせたんだな?」
一気呵成に世界を滅ぼさないために――。
卵探しに注力させ、必要以上に暴れないようブレーキを掛けたのだ。
最悪にして絶死をもたらす終焉は、いつ終わるかもわからないアバウトな命令をこなしているうちに、知らず知らず達成していたらしい。
無論、彼らは破壊神の先兵として世界を壊す役目もあっただろう。
その裏でいくつもの役割を兼ねていたわけだ。
「最悪にして絶死をもたらす終焉は……ロンドにとっての兵隊か」
ロンドの意を酌んで動く忠実な機動部隊。
奇しくも彼らは、その役割もしっかり果たしていた。
半数が討ち死にするも、終わりにして始まりの卵を出現させることに成功したのは大手柄と褒められてもおかしくはない。
世界廃滅のため殉死する――ロンドにとっての既定路線だ。
「そういう意味じゃ仕事を遣り果せたとも言えるな」
光り輝く宇宙卵は着々と育っている。
卵を横目にしたロンドは、眼を細めて邪悪な笑みを浮かべている。
それは終焉を待ち侘びる破壊神に相応しい破顔だった。
「ホント、使い勝手のいい兵隊だったぜ」
死んだ部下たちへ、ロンドは始めて感情を込めた言葉を投げ掛けた。
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