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第16章 廻世と壊世の特異点
第387話:全身全霊ガンマレイ・アームズ!
しおりを挟む「あら、タロウ先生……先に逝かれてしまいましたか」
ジョージィは仰ぐように空を見上げた。
アハウもジョージィへの警戒を解かずに目線を上げる。
万物を干上がらせる光を操るジョージィと、万象を打ち破る咆哮を放つアハウはお互いの力を激しく交差させ、ジャングル上空で幾度となく競り合った。
その余波は密林に荒野のグラウンドを作るほどだ。
何度目かのぶつかり合いの後、どちらも荒れ地に降り立った。
そこから地に足をつけた戦闘に移行しようと、睨み合う視線で暗黙の内に示し合わせたところ、空の彼方に無視できない異変が生じた。
聞いたこともない爆音が降ってきた。
昼の空でも目に痛い烈光が、不格好な柱を形作っている。
それを見上げるアハウとジョージィは一時的に戦いの手を休め、空を焼き切らんとする光の柱を見つめていた。
局所的に増大した重力が一点に集約することで空間を歪曲させ、どことも知れない亜空間へ繋がる黒点、ブラックホールを作り出す。その黒点を中心に潮汐力という重力場で形成された降着円盤。
この円盤から細く絞られるも、双方向へ放射状に噴き出す火柱。
これ自体はクエーサー反応と呼ばれるが、1億度にも及ぶ超高熱の熱波は宇宙ジェットと呼ばれるプラズマガスである。
重力天体を中心に噴出するもので、宇宙で起こる現象のひとつだ。
どうやら――日之出一家が勝ったらしい。
タロウという爆発の芸術家と一度手合わせをしている彼らは、手の内をある程度知られているが、裏を返せばタロウの遣り口も経験済みということ。
『ってなわけで、あの爆発オヤジの始末は日之出一家が引き受けやすぜ』
タロウの接近を知ったヒデヨシは出撃を買って出たのだ。
アハウはヒデヨシの作戦を思い返す。
『奴さんにはね、人間と爆発の2パターンがあるんすよ』
人間形態ではランマルやネネコといった武道家と渡り合う実力だが、本職ではないだけに現実で正しく八卦掌を修めたネネコに分があった。
『だが、爆発になっちまうとあっちのターンだ』
意思を持った爆発となり、無差別な絨毯爆撃で攻めてくる。
こうなると爆発そのものであり、どこまでも広がって広範囲なマップ攻撃を仕掛けてくる。爆発とは実体を持たない現象に過ぎないため、ネネコたちのような物理攻撃主体の武道家では相性が悪い。
実体のない存在に触れる技能はあるが、恐らく効果は薄い。
タロウが爆発になれるのは過大能力の効果だからだ。
過大能力は、読んで字の如く大き過ぎること。
神や魔王に相応しい能力は、いくら技能を費やしても勝てない。
『だが、おれの大戦城なら爆発になった野郎でもブン殴れる!』
ヒデヨシは自信満々に言い切った。
あの城型巨大ロボ――大戦城という名前らしい。
多種多様な兵装による一斉掃射や、反物質巨砲なる大陸をも消滅させかねない超兵器も売りだが、大戦城の真骨頂は城としての堅牢な守りにあった。
敵性と認めたものを絶対に通さない防衛フィールド。
この利点を攻撃手段に転用したものが“ロケットパンチ”である。
『過大能力には過大能力をぶつけてやりゃあいい』
爆発になろうがタロウは敵性存在。防衛フィールドをまとった大戦城のパンチをお見舞いすれば、物理的ダメージを与えられるという寸法だ。
防御力を攻撃力に転じてぶん殴るとは……なかなか奇抜な発想である。
盾で相手を殴る技はあるらしいので似たような思い付きなのだろう。
『そこで、こんな作戦を考えたんすよ』
まずランマルの変身したネネコがタロウに挑む。
わざと手を抜いた戦い方で「ネネコは万全ではない」と勘違いさせ油断を誘う。そこへ本気の一撃を打たせることで大きな隙を作らせ、ここぞとばかりにタロウへ強烈なカウンターを食らわせる。
ここでタロウの調子を狂わせ、こちらのペースへ引き込む。
意表を突かれて戸惑ったのを見計らい、隠れていたネネコが飛び出して反撃すら許さぬ猛攻撃でタロウを空へと打ち上げる。
そう、前回の戦いをおさらいする流れを作るのだ。
いくら聖脂が足りないとはいえ、ネネコ渾身の一撃をまともに食らえば、タロウはダメージを逃がすため爆発の化身に変身するに違いない。
『そこで家長たるヒデヨシの出番っす!』
タロウが爆発の化身となって反撃した瞬間、潜んでいたヒデヨシが大戦城とともに現れて宇宙の果てまで突き上げる総攻撃を敢行。トドメに前回の戦いでも使われた反物質爆弾に似た砲弾を撃ち込む。
『多分、あの爆発オヤジはこっちの爆弾を逆手に取り、その爆発を吸収してパワーアップしようと考える……そこが狙い目でさ』
ツバサ君から製法を教わった――暗黒孔巨砲。
宇宙のあらゆるものを呑み込んで消滅させる、防御不可能の昏い穴。いくら爆発の化身であるタロウでも防ぎようがあるまい。
人間形態だとタロウでは戦いにくいし、爆発状態になればネネコやランマルとは相性が悪い。そこで閃いたのがこの作戦だという。
「……上手く事が運んだようだな」
アハウは空を劈く目映い輝きに眼を細めた。
あの空にかかった宇宙ジェットの火柱は、ヒデヨシたちの作戦が成功した証とも言えるだろう。ブラックホール弾頭が炸裂したのだ。
分かり合えない人物とはいえ――今一人の男を我々は手を下した。
その事実に哀悼の意を捧げ、アハウは黙祷する。
「ああ、悲しい……同志が先立つのは、いつも悲しいものです」
一方、同胞であるジョージィも目を閉じていた。
「三人がかりでやられたようですね……まあ、それならば負けた言い訳も立つでしょう。もっとも、今回アリガミ君の手助けは期待できませんので……」
おさらばですタロウ先生、とジョージィは合掌する。
ただし、微笑む口元に哀悼の意は見当たらない。
「でも……私もうかうかしてられないようですね、これは……」
ジワジワと勿体ぶるように瞼を開いたジョージィは、官能的にぽってりした唇に捕食者の微笑みを滲ませると、ゆっくりアハウに視線を振った。
現在、アハウは獣王神に相応しい姿をしている。
全体的なカラーリングはグリーン。
身体の部位によって深緑だったり若葉色だったり、エメラルドグリーンだったりと意識せずに自然と色分けされていた。
全高という意味での身の丈は3mを達しており、頭部に掲げた複雑な角や尻から伸ばした龍のような尾を含めれば全長は6mを越えるだろう。背中には翼竜に近いが、深緑で彩られた羽毛で飾られた大きな翼を生やす。
頭髪も鬣と呼べるほど伸びに伸び、全身を覆い隠そうとする量だ。
全身、濃い体毛で覆われた姿はまさしく獣の王。
……昔、好きで読んでいたダークファンタジーの強キャラが本気を出すと似たような怪物に変身したが、無意識に反映したのかも知れない。
巨大な悪魔に見えなくもないだろう。
しかし、ジョージィは物怖じせずアハウに立ち向かってきた。
こうして対峙しても脅えた様子はない。
手応えのある獲物に巡り会えた猟師もかくやの眼差しだ。
「こちらの内在異性具現化者な獣王神さま……アハウさん、でしたか? この方のお相手を務めるなんて……あちらの三人が可愛く見えます」
骨が折れそうです、とジョージィは苦笑した。
「こんな強い敵と戦うなんて……ああ、悲しい……」
苦慮するのではと思い悩みながら、余裕の舌舐めずりで唇を濡らす。
乾いた印象があるのに、妖艶という言葉が似合う人物だ。
長い黒髪をなびかせた長身の美女、全身には白布を巻いただけのようなローブで装っている。ローブ越しでもわかる豊かなバスト、細いウェスト、張り出したヒップラインから美女と評したが、男性的な赴きも所々に見受けられる。
一目で不自然な体格だと見て取れた。
性別がわからないので、アハウは分析をかけてみる。
判定は――両性具有。
どちらでもあるとは、正直な感想を述べさせてもらえば珍しい。
諸事情により、現実の自分とは異なる肉体で異世界へとやってきた人物。これはアハウを含め何人もいるが、望むと望むまいとに関わらず、性別は男女どちらかに振り分けられるものだ。
両性という例はあまり知らない。
ミロちゃん? あの子は色んな意味で特別だから……。
しかもジョージィの両性具有は後付けで作為的なもののようだ。
走査で調べるに元は男性らしい。
天使を気取るでもあるまいに両性具有という肉体を選んだ彼の心理も気になるが、アハウには心情的にもっと気に障ることがあった。
「君は仲間が死んだのに無感動なのだな」
仲間の死に思うことはないのか? とアハウは暗に問う。
ジョージィはほんの少し笑みを薄めた。
タロウの死を哀れんだというよりは、アハウの質問があまりにもつまらなかったので興醒めしたと言いたげな、微妙な変化である。
「いずれすべては滅びます……遅いか早いかだけの問題です」
――タロウ先生は一足先に滅んだ。
「ただ、それだけのことですよ。悲しいことは悲しいですが……私にとって、この世のすべてが悲しい……それ以上の感想はありません」
悲しいと零すジョージィだが、取り合うつもりはないらしい。冷め切った関係には、仲間意識とか友情について問い質す意義はなさそうだ。
話し合う余地はない、とアハウは諦念を固める。
「なるほど、これが最悪にして絶死をもたらす終焉か」
世界を滅ぼすまでは協力する――ビジネスライクな利害関係。
そう納得するより他あるまい。
情が絡んで動くかどうかは、個人差があるようだ。
ジョージィは冷めかけた微笑みを愛想良くすると、両手を胸の前で合わせて合掌し、挨拶のためにこちらへ頭を下げてきた。
「既に手合わせをしましたが、こうして穏やかに会話をできたのも何かの縁……改めて名乗らせていただきましょう」
№16 旱照のフラグ――ジョージィ・ヴリトラ。
「108人おりました最悪にして絶死をもたらす終焉より選び抜かれし20人、この真なる世界に破滅をもたらす終焉者の一人にございます」
「……丁寧な挨拶痛み入る」
名乗られたならば名乗り返すのが礼儀というもの。
古事記にもそう書いてある、というのは何のネタだったか? 思い出せないアハウはふざけることなく応対することにした。
「ククルカン森王国を治める王――アハウ・ククルカンだ」
挨拶を交わしたアハウは、ちょっと戯けながら切り出してみた。
「さて、これは戯言として聞いてもらいたいんだが……」
――大人しく引き上げるつもりはないか?
アハウからの提言を受けたジョージィは最初、ポカンとして目を丸くするものの、すぐにローブの袖で口元に浮かべた失笑を隠した。
「あらやだ、ご冗談を……私たちの理想は御存知のはずでは?」
ジョージィの身体が光を帯びる。
先ほどから球体にしてアハウに投げつけてきたものと同質の光だ。
光が発散されると、ジョージィの周辺が干上がっていく。荒れ地とはいえ戦闘で巻き起こった爆風にめくり返されただけ、豊かな土壌は水気や養分を失って不毛な砂に変わり、木々は萎びて枯れるに留まらず塵となってしまう。
石さえも恐ろしい速さで風化していく。
技能でここまでの効果は望めない。これがジョージィの過大能力だ。
過大能力――【際限なき愛の光に天も地も人も干上がらん】。
干害をもたらす日照の化身とでもいうべきか。
そういえば彼の“ヴリトラ”という名前は、インド神話に登場する悪神の名前だったはずだ。その巨体で水源を堰き止め、暗闇を操って太陽を覆い隠す巨大な神。雷神インドラと戦い、ついには打ち破られたとされている。
神話学的なメタ発言をすれば、インドラがヴリトラを殺すと雨が降るので、雨季と乾季の入れ代わりを象徴的に表したのだろう。
ヴリトラとは謂わば――乾期を象徴する神格なのだ。
暗闇を操ったとされるヴリトラの名を持つ者が、あらゆるものを干上がらせる光を振り向くとは何かの暗喩だろうか?
考古学者のはしくれだったアハウは勘繰ってしまう。
生物の渇きは苦しみとともに脱水症状を起こし、やがて死へと至る。世界の乾きは空気はおろか土も木も草も枯らし、やがて石さえ砂に変える。
光るジョージィを中心に砂漠が広がりつつあった。
それは生命の気配を失った、死の砂で埋め尽くされた砂漠だ。
滅びの光を仏像の光背よろしく背負ったジョージィは、観音菩薩というには卑しくも破廉恥なのに、彼なりの慈愛を込めた笑顔で告げてくる。
「かつて神は言いました……『光あれ』と」
「それは何もない暗黒で唱えられた創世のための一言だ」
まさか自分のそれが神の光というつもりか?
世界を創るために呟かれた神の言葉である。何もかも干上がらせるジョージィの破滅もたらす光とは別物、むしろ対局にあるものだ。
反論を聞き流すようにジョージィは続ける。
「ですが、強き光に弱き人の子は耐えられない……あなたも現世で見てきたのではありませんか? 正論や正義といった激しい光に照らし出され、身も心も焼き尽くされてしまった哀れな人の子らを……?」
確かに、強すぎる光は人間にとって毒となる。
「悲しいことです……強烈な光は人の心を照らすどころではない」
焼き潰すのです、とジョージィは目尻に涙を溜める。
光を正しきものと主張し、神の正義や正しき行為を絶対として、社会的弱者を虐げてきた歴史もあるので一概には否定できない。
アハウはなんとなくだがジョージィの真意を察しつつあった。
「……では、君の光は違うというのだな?」
然り! とジョージィは我が意を得たように喜色の声を上げた。
「私の光は遍くすべてを包み込む愛の光! 我が愛の光に包まれれば、苦しみを忘れて幸せのままに息絶えていくことが叶うのです! 老病死苦を味わうことなく、光に包まれて歓喜と幸福とともに昇華していくだけでいいのです!」
――歓喜と幸福?
熱弁を振るうジョージィを余所に、アハウはその二文字が引っ掛かった。
「そうか……さっきから違和感があるのはそれか」
アハウはジョージィの光をまだ直接浴びてないが、あれほどの攻撃なのに不思議と脅威を覚えないのが不思議だった。
ジョージィの光は爆発などの攻撃力とは無縁である。
直撃したところを中心に光が広がり、周辺を干上がらせるばかりだ。
あの光を浴びると破壊されるダメージを負うことはないが、石であろうと干涸らびて塵となって消滅する。そういう効果らしい。
気になったアハウは試してみた。
自身の過大能力を伸ばして、光を浴びて干上がりつつあった植物と感応してみたが、彼らはまったく苦しみを感じていなかった。
その逆――快感にも近い多幸感とともに枯死していったのだ。
「その光……多幸感を与えながら消滅させるのか」
ある意味、究極の安楽死が叶う能力。
ジョージィの宣伝文句に嘘偽りはない。彼が称するところの「愛の光」に包まれたなら、幸せのまにまにこの世からおさらばできるのだから。
その通り! とジョージィはアハウの推察を認める。
手の内を見破られたというのに、慌てる素振りすらない。
「我が愛の光に包まれて、幸せのまま息絶えていくこと……すべてを我が愛とともに包んで幸せな光へと還る……おお、これこそ救済と思いませんか?」
悲しき世界と決別して――すべてを光へ還す。
ジョージィは両腕を広げ、感極まった様子で宣言する。
「これが私の目指す世界廃滅……悲しさで満たされた世界を、私の愛より生じる光で包み込み、苦しみから解放すべく塵ひとつ残さず消し去る……」
「そして、新たな世界を作らせないつもりか……」
それも考え方のひとつだな――アハウは理解を示した。
まさか賛同が得られるとは思わず、意表を突かれたジョージィは「……えっ?」と耳を疑うような間抜け面になっていた。
「あの……私がいうのもなんですが……この世界を守ろうとする四神同盟がそんなこと仰ってよろしいのですか? 私たちの理解者めいた発言ですよ?」
「君が掲げるのは救済を旨とした破滅願望だな」
目新しいものではない、とアハウは在り来たりに肯定する。
「別におれは君たちの破滅願望を否定はしない。末法思想は文化人類学的に昔から認められる思想だ。辛くて険しい苦界に生きる以上、全部ひっくるめて終わらせてしまいたいと願うのは個人の自由だろ?」
『学者に求められるのは柔軟性だ――と俺は信じている』
この学説は絶対であり、この定説は遵守すべき。
そういった固定観念に縛られた考え方に囚われてはいけない、アハウが師事した『地上最強の民俗学者』と恐れられた准教授の教えである。
アハウが大学を卒業した頃には教授となっていた。
その後も親交があるため、彼の教えはアハウの血肉となっている。
『気に食わんからと他人の主張を頭ごなしに否定するな。理解を示せる箇所があれば聞き入れ、共感できる点があれば受け入れてやらねばならない』
ただし、と准教授は注釈を加えた。
その時の言葉をアハウはそっくりそのまま繰り返す。
「ただし――押しつけがましいのは感心せんな」
アハウは獣の眼光でジョージィを厳しく睨めつける。
角の軋む音、筋肉の唸る音、獣毛や羽毛がざわめく音……それらはアハウが再び臨戦態勢に向けて肉体を調整している音だった。
「滅びたければ――おまえらだけで勝手に滅びるがいい」
ジョージィはアハウの眼力を受けて立ち、自らも直ちに身構える。
ただ、とうとう目尻から一筋の涙を零していた。
「意見が対立するから争いが起こり……主義を違えるから諍いとなる……ああ、悲しいことです……やはり、人の世も神の世も不完全なのでしょう」
発散されるのはジョージィ曰く“愛の光”。
光はいくつもの像を結び、無数の光球を形作っていく。あんなものを連射されたら密林でも瞬く間に死の大地へ早変わりだ。
「悲しみの連鎖……我が“愛の光”で断ち切って進ぜましょう!」
光球は今にも解き放たれんとしていた。
その前にアハウは片手を上げ、ジョージィを制した。
「意気込んでいるところ悪いんだが、君は既におれの術中ある」
すまんな、とアハウは詫びた。
その直後――ジョージィは植物に襲われる。
とっくの昔に死に絶えたはず、砂漠と化した足下を突き破って無数の木々が梢を槍のように研ぎ澄ませて伸び上がってくる。しかし、いくら固く尖らせてあるとはいえ、植物の槍では神族の皮膚すら傷つけられない。
「木々を操る能力? しかし、この程度では……ッ!?」
ジョージィは自身が帯びる“愛の光”を過信して、これぐらいの植物ならすぐに枯れ果てると高を括っていた。その思い上がりが命取りだ。
植物の役目は一時的な捕縛にすぎない。
それも樫や鉄木といった密度が高く下手な金属より固くて重い木々を選び、アハウの過大能力を通わせた木々である。
ジョージィの光を浴びようともすぐには枯死せず、時間を無視した成長速度で蔦のように絡まっていき、彼の五体を拘束するように縛り上げる。
動きを封じるのは一瞬でいい。
次に地響きをさせて地中から現れたのは、ミスリル製の巨大な手だ。
ヒデヨシの操る巨大ロボみたいなミスリル製の手が、動けないジョージィを掌中に収めて握り潰す。彼を手の内に収めたミスリルは自らを圧縮しながら変形を続けていき、内部に収めたジョージィを擂り潰していく。
ここから――更なる追い打ちをかける。
次に現れたのはオリハルコン製の巨大な手。既に銀色の玉になっているミスリルを握り潰し、前例へ倣うように球体へと圧縮する。
トドメは真なる世界最硬の金属、アダマント製の巨大な手だ。
これも球体となったオリハルコンを握り、際限なく潰していく。
ジョージィとの会話にもつれ込んだ際、アハウは自らの過大能力でこの辺り一帯の世界を支配下に治め、一瞬で畳み込む計画を練っていた。
アハウの過大能力──【色彩豊かな世界に拡大する意識】。
アハウの意識は肉体を越えて、どこまでも広げられる。
広げた意識は世界を侵食するかの如く拡大していき、自らの意識が浸透した世界をアハウは自由自在に操ることができるのだ。
肉体に威厳ある巨大化をさせたり、人間に近いコンパクトな形態に変えるのもこの過大能力の効能だ。凶悪なレーザービームみたいな咆哮の一閃も、「対象を破壊する」という意識を収束させたものである。
最近では錬金術系の技能も研究し、世界の操作に深みを持たせてきた。
ただの土塊から金を作り出すだけではなく、死んだ砂から森のような植物を生やすこともできるし、様々な金属に錬成することさえ容易い。
それらを用いて――ジョージィを圧殺。
やはり、敵対する者とはいえ命を奪うのは心苦しいものがある。
自ら手を汚したとなれば尚更だ。
アハウは敬虔な仏教徒というわけではないが、日本人らしい性から「南無……」と潰れていく球体に念仏を唱えかける。
そんなアハウの頬を、一筋の光が貫いていった。
痛覚を刺激せず衝撃もない。だがレーザー光線のように走り抜けていく光を受けた頬の肉は抉られており、掠った耳たぶにも穴が開いていた。
痛みはなく、代わりに快感にも似た安らぎを覚える。
「なるほど……これが“愛の光”か」
直に受けてみて理解する。これは厄介なものだ。
攻撃を受けて痛ければ肉体が条件反射で防御しようと動くものを、この光にはそれがないため反応が遅れる。いや、心の弱い者がまともに浴びれば、心地よい安心感を求めるあまり、自ら浴びに行こうとするかも知れない。
それは麻薬に溺れる感覚に等しかった。
「ああっ、悲しい……私は悲しい……わかりますか、この悲しみが?」
ミスリル、オリハルコン、アダマント――。
鋼鉄をも凌ぐ硬度を誇るこれら三重合金を圧縮した球体の向こうから、ジョージィの声が聞こえてくる。
球体には小さな穴が穿たれており、そこから光が漏れていた。
新たに九つの穴が開けられると、そこから“愛の光”を収束させた光線が飛び出してくる。合計10本の光線はレーザーのように球体を焼き切った。
重低音を響かせて、切り刻まれた金属片が転がる。
「まさか……こんな児戯で殺れるとお思いだったのですか?」
心外ですね、と言いたげにジョージィが現れる。
本人は元よりローブや髪の毛に至るまで無傷だ。この不意打ちで片付いてくれれば、死なずとも戦闘不能に陥ってくれれば助かったのだが……。
「やれやれ、現実はいつもシビアだな……」
ちゃんと息の根を止めねばならないか――アハウは牙を噛む。
碧い翼を広げたアハウは低空飛行で飛び立つ。
地面スレスレ、地を這うような飛び方だが初速で音速を超えており、まだ金属球の残骸から出ようとするジョージィに特攻を仕掛ける。
ジョージィは慌てず騒がこともない。
金属球を焼き切ったのは、10本の指先から伸びる“愛の光”。
それを長い鉤爪のように整えていた。
ジョージィは光の爪とでも呼ぶべき武装で身構える。
「シビアでなければ現実といえないのですよ、残念ながらね……それゆえに人々は悲しむのです……あなたもさぞかし悲しんできたのでしょう?」
わかりますよ、とジョージィは同情するように言った。
「あなたの慟哭には計り知れない哀愁が織り込まれています……余程、悲しい目に遭われてきたのでしょう? わかりますよ。でも、もう大丈夫……」
今――楽にして差し上げましょう。
ジョージィの発する“愛の光”が光量を増す。
こちらを包み込むべく、全方位を照らすように光り輝いた。
──ひゅぅるぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ……ッ!!
アハウは咆哮の一閃を解き放ち、これに応戦する
~~~~~~~~~~~~
一方――こちらの戦いもヒートアップしていた。
「絶ッッッ好ッ調ぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああーーーッ!」
「オレっちに殴り飛ばされた分際でなーにが絶好調だ! このマンモス野郎!」
カズトラ・グンシーンVSゴーオン・トウコツ。
良くも悪くも直情系な少年と巨漢は、無慈悲とも言えるほど落差のある体格差をどちらも気にすることなく、ド迫力の追走劇を繰り広げていた。
鬱蒼とした密林を打ち破るゴーオンの巨体。
身長5mを越える人類では有り得ない体格に、象牙にも似た野太い牙が生えた獣の毛皮を被っているので、擬人化されたマンモスという表現が的確だ。
カズトラが「マンモス野郎!」と呼ぶのも当然である。
対するカズトラも「痩せた狼」と喩えられるが、その印象に恥じない俊敏な動きでゴーオンを翻弄するように立ち回っていた。
身長はようやく成長期が到来したのか、やっと170㎝に届きそうな今日この頃、手足は昔から長いので妹分のミコは「カズ兄ちゃんはスタイルがいい」と褒めてくれるが、男としてはもっと筋肉質になりたい今日この頃だ。
ゴーオンみたいな筋肉モリモリマッチョマンの変態になるつもりはないが、針金を縒り合わせたかの如き、しなやかな筋肉はカズトラの自慢だ。
生意気そうな面構え、獣の体毛みたいな頭髪。
ここらへんが狼といわれる所以かな、とカズトラは思っている。
母親代わりのマヤム姉ちゃんが選んでくれた、アダマントの金属片をカジュアルにあしらったジャケットを羽織り、その下にはタイトな黒のシャツとパンツ。森の中でもグリップ力を失わない編み上げブーツといった出で立ちだ。
カズトラは鎧や武器が性に合わなかった。
武器なら過大能力で間に合っているし、何より自慢の右腕がある。
――ガンマレイ・アームズ。
武装傭兵ガンズと宝石魔術師マレイ。兄や姉のように慕った仲間が遺してくれた、右腕を失ったカズトラに授けられた特別な義手だ。
今ではカズトラの肉体と完全に融合しており、意のままに扱える。
この腕が、この手が、この拳があれば――負ける気はしない。
ゴーオンにも真っ向勝負を挑む。
だが、ここはククルカン森王国に近すぎる。
もっと王国から引き離さなくては、とカズトラは頭が悪いなりに考えて、少しでも国に被害が出ないようゴーオンを遠ざけようとしていた。
幸いなことにゴーオンは扱いやすそうだ。
「絶ッ好ッ調ぉぉぉぉぉーーーッ!」
どうやらパンチで吹っ飛ばされたことが悔しかったらしい。
さっきまではククルカン森王国を目指す進路で走っていたが、今は明らかにカズトラを標的にしていた。密林の木々に紛れながら、疾風迅雷の速さで駆け回るカズトラをどこまでも追いかけてきた。
これは好都合――森王国から引き離せる。
カズトラは北上する経路を取り、ゴーオンを誘導してやった。
ゴーオンは走りながら丸太よりも太い両腕をウェスタンラリアットのように振り回したかと思えば、今度は大胆な回し蹴りを放ってくる。
どちらも草刈り機よろしく、密林を一蹴するように刈り払う。
普通に走るだけでも森を吹き飛ばせるが邪魔らしい。
下草を切って山へ分け入る感覚に近いのか、それともジャングルを隠れ蓑にして走り回っているカズトラを見つけたいのか。
絶好調の雄叫びは怒りを帯び、カズトラの背後に迫ってきた。
「絶……好調ぅぅぅおおおおおわぁぁぁーーーッ!」
いつもの叫びを溜めたかと思えば、間近に迫ったカズトラに向けて大振りのパンチを振り下ろしてくる。体格差のためそうならざるを得ないのだ。
「当たるかよ、そんなテレフォンパンチ!」
どんな軌道を描いた拳で殴りかかってくるか? これが見え見えなものをテレフォンパンチというそうだ。当然、熟練者にはあっさり避けられる。
かつてのカズトラのパンチもこれだった。
そこでツバサの姉貴を筆頭に、ドンカイ親方やレオナルドのオッサン(と呼んだら叱られた)といったプロフェッショナルにレクチャーを受け、しっかり改善しなてもらい、拳打中心の戦い方を骨の髄まで叩き込まれた。
その甲斐あって、カズトラは大いに成長することができた。
ゴーオンの威力だけは核爆弾級のテレフォンパンチを避けるのは簡単だが、ここは敢えて正面からぶつかる策を選びたい。
「ガンマレイ・アームズ――インパクトブリット!」
右腕を回転輪動式に変形させ、六発の超威力な弾丸を装填する。
弾丸一発ごとに超常的な必殺パンチを撃てる仕組みだ。
この必殺技を四発も費やしてゴーオンを殴り飛ばしたが、まだとびっきりの破壊力を秘めた二発が弾倉内に残されている。
しかし、こんなテレフォンパンチに使うのは勿体ない。
迫るゴーオンの巨拳に、カズトラは合わせるように右腕を振り上げる。
両者の拳が刹那的に激突した。
ウェイト差で押し込もうと目論むゴーオンに対して、カズトラは拳をスルリと滑らかにスライドさせて巨拳を受け流す。のみならず、掌を添えると巧みにゴーオンを引き寄せて、担ぎ上げるように投げ飛ばしていく。
「絶!? 絶ッ絶ッ絶ッ……好調ぉぉぉぉあああーッ!?」
「土ん中でもほざけるかその文句!」
あらよッ! とカズトラはゴーオンを一本背負いする。
受け身が取れない投げ方で、頭や首を痛めるように、防御もできない速度で地面に向けて頭頂部から叩きつける。
大地震が巻き起こり、爆心地から数百mが大きく陥没した。
ゴーオンも頭から腹まで逆さに埋まっている。
ツバサから教わった合気の技をカズトラなりにアレンジした大技である。これでゴーオンの自滅を誘ってみたが、まだ気を抜けるほど油断できない。
「……絶ッ好ッ……調ぉぉぉぉぉぉぉぉーーーッ!」
地面を吹き飛ばしてゴーオンは復活する。
頭も首もさしたるダメージを負ってないのか、左右へ倒してゴキゴキと小気味よく関節を鳴らしている。首や肩が凝っている時にやるみたいにだ。
「チッ、やっぱ異常なタフネスが売りか……」
見た目からして頑丈な図体、生半可な攻撃では通じまい。
「絶好調ぉぉぉぉーーーッ!」
陥没から飛び出してきたゴーオンは、一足飛びで間合いを詰めてきた。巨体に見合わぬ素早さに苛立ったカズトラは舌打ちする。
「ちぃぃ、疾ぇ……ッ!?」
コンパクトでありながら、強弓を引き絞るのにも似た構え。
さっきのテレフォンパンチとはわけが違う。腰の据わった本物のパンチ、空手でいえば精魂込めた正拳突きが打ち込まれてくる。
この間合い、ゴーオンの拳速なら――回避不可能、逃げられない。
掛け値なしの一撃を放ってくるつもりだ。
「ガンマレイアームズ!」
即座にそこまで読んだカズトラは、インパクトブリットに変形させたままのガンマレイアームズの撃鉄を起こした。
「インパクトブリット――オーバースロゥ・フィフス!」
五発目の弾丸を装填させたガンマレイアームズ。
桁違いに威力を跳ね上げたゴーオンの正拳突きに対抗するためには、まだまだ付け焼き刃の合気では躱すこともままならない。
ならば真っ向勝負、こちらも最大出力で迎え撃つまでだ。
ゴーオンを胸が破裂しそうなほど肺に息を送り込むと、一気に吐き出しながら初めて「絶好調!」以外の言葉を口にする。
「――人壊ナックルッ!」
技名とともに解き放たれた拳は、人間など擦っただけで血煙に散らす破壊力をまとっていた。無防備に受ければ神族とて即死だろう。
ゴーオンの巨拳に、カズトラのガンマレイアームズが受けて立つ。
衝突の瞬間――ソニックウェーブが全方位に走る。
都市破壊型兵器が直撃したとしても、ここまで甚大な被害を及ぼすほどの衝撃波は発生するまい。密林の木々が薙ぎ倒されるどころか根こそぎ宙に浮かび、吹き飛ぶ前に粉々に打ち砕かれていくのだから。
爆心地にいる2人は、巨拳と鉄拳で鬩ぎ合う。
「絶ッッッッッッッ……好ッッゥッ調ぉぉぉぉぉぉぉぉぉーッ!」
「オレっちだって絶好調だぜおらぁぁぁぁぁーーーッ!」
僅差ながらもカズトラのガンマレイアームズに軍配が上がっていた。
ジリジリとだがゴーオンの拳を押し返している。
これにカズトラはニヤリと口角を釣り上げるが、ゴーオンもまた白い歯を見せるようにニカッと笑うと、またしてもちゃんとした人語を口にした。
「おまえ強いね、坊主……やるじゃないか」
だからアタシも本気だ、とゴーオンは新手を繰り出してきた。
「――地壊エルボーッ!」
ゴーオンは打ち合わせていた拳を自身の胸板へ向けて腕を折り畳んだかと思えば、至近距離からの肘打ちに切り替えてきた。短いながらも震脚で大地を踏み締めて、腰を激しく回転させて、その力を肘に乗せてくる。
体幹を捻る回転力、踏み込んだ脚力の反作用。
それらをパンチやキックに乗せて威力を増大させる。
発勁に限らず、こうした技術は様々なスポーツや格闘技に通ずるものだ。
拳を外されたカズトラも黙ってはいない。
その場でバレリーナのように一本足で爪先立ちになると、ガンマレイアームズの出力を活かして瞬時に何十回転もする。さながらベーゴマのようにだ。
自転する遠心力を上乗せした鉄拳を再び叩き込む。
最後の一発――最強の六発目の弾丸を送り込むことも忘れない。
「インパクトブリットぉ! エクスターミネィション・シックスッッッ!」
ゴーオンの肘打ちと、カズトラの拳打が激突する。
先刻とは比べ物にならないショックウェーブ……いや、互いの闘気に染められたエネルギー波が大地を円状に陥没させていく。
本当、なるべくククルカン森王国から距離を置いて正解である。
こんなドッカンバトル、国の近くでやれるはずもない。
今度は確実にカズトラが勝っていた。
インパクトブリット最強最悪の六発目を使ったのだ。これで負けようものなら別の切り札を切る必要に迫られる。カズトラとしては避けたいところだ。
なにせ――すべて未完成なのだから。
『次から次へと必殺技を編み出す、カズトラの創意工夫は褒めてやる。だが、ひとつひとつの技を洗練させてないところは赤点だな』
そうツバサの姉貴に叱られたので、できれば使いたくない。
『おいコラ、誰が姉貴だ』
脳内でも決め台詞は忘れない。さすがツバサの姉貴だ。
「……ぅおおおおおおおおおーッ! こいつで終いだ、マンモス野郎ッ!」
これで決着をつけたい、カズトラは鉄拳を押し込んだ。
しかし、ゴーオンは「物足りない」と言いたげに男臭い笑みを零す。
またしても肘を畳むように構え直したかと思えば、今度は肉厚な肩から突っ込んできた。ラグビーやアメフトのタックルを思い出すが、そういえば肩を打撃に使う有名な技があったような気がする。
鉄山靠――というのだったか?
『正しくは貼山靠、背中から体当たりを仕掛ける八極拳の技だ』
脳内ツバサの姉貴に是正されてしまった。
「――天壊ショルダーッッッ!」
ゴーオンのそれはアメフトのタックルに近いが、5mのマンモス男に体当たりされるとなれば、10tトラックのノーブレーキアタックどころではない
ガンマレイアームズの再装填――間に合わない!
「ぬぅりゃあああああああああああああああああああーーーッ!」
カズトラは反射的に右腕のガンマレイアームズと、素の左腕を同時に突き出してダブルパンチのようなもの繰り出した。完全に苦し紛れである。
その証拠に、今回はゴーオンに押し負けていた。
カズトラのダブルパンチには山をも突き崩すパワーはあるけど、さっきまでのインパクトブリットと比べたらあり合わせのその場しのぎの技だ。全体重を乗せてくるゴーオンのショルダータックルとは比較するまでもない。
それでもカズトラは不屈の精神で諦めない。
根性を決めてゴーオンのタックルにひたすら抗った。
やがて――双方の攻撃が減衰していく。
力を出し切った直後の脱力が2人に訪れる。
カズトラはどうにかゴーオンのタックルを防ぐことに成功したらしい。相殺できたわけではなく、カズトラがちょっと吹き飛ばされていた。
ダメージはなく、宙に浮かされた程度である。
『そういう瞬間が一番危ない』
脳内ツバサの姉貴から注意された瞬間、カズトラは鈍痛に襲われた。
「――全壊ヘッドバットぉぉぉぉぉーーーッ!」
ゴーオンのマンモスみたいな頭突きが、カズトラの鳩尾に深々と突き込まれていたのだ。「防いだ!」と安堵した瞬間を狙われてしまった。
身構えるのも防御姿勢も間に合っていない。
ミサイルみたいに飛び込んできたゴーオンのヘッドバットの直撃に内臓はへしゃげて悲鳴を上げ、肋骨どころか背骨も折れそうな激痛が走る。
「うぶっ……ぐああああああああああああああっ!?」
カズトラは血反吐を吐きながら吹き飛ばされた。
何百本の大木を巻き込んでへし折りながら、まっすぐに地面を耕すような勢いで転がっていき、1㎞先の大岩へめり込むように叩きつけられた。
がふっ! ともう一回、血の塊を吐く。
視界が真っ赤に染まり、カズトラの意識は飛んでしまった。
~~~~~~~~~~~~
カズトラの沈黙をアハウは感知していた。
意識を外界まで広げる過大能力の枝葉を伸ばして、ククルカン陣営に属する家族や仲間の位置、そして状態を感じ取れるようにしておいたのだ。
まだ息はある。あの攻撃でも致命傷ではない。
ツバサ君に鍛えられた成果か、当人の努力の賜物か。
どちらにせよ息子のように可愛がってきたカズトラの生存を確認できて、アハウはジョージィに気取られることなく胸を撫で下ろす。
「おや……そちらの懐刀さんはウチの弟にやられたようですね……?」
対峙するジョージィは、その話題を振ってきた。
現在、2人は睨み合いが続いている。
ジョージィが“愛の光”をいくつもの球体にして散弾を撃ち出すようにばら撒けば、アハウは大地を操って様々な金属の手で受け止める。
中途半端な小競り合いが続いていた。
アハウがカズトラの様子を気にするように、ジョージィも弟だというゴーオンを気にかけているらしい。おかげで両者ともになかなか大技を切り出せず、お試しのジャブを打ち合う程度の戦いに終始していた。
保護者の心境で――子供たちの戦いを見守っている。
だからなのか、どちらも自身の戦闘へは本腰を入れようとしない。
「まだワンダウンさ。カズトラは健在だよ」
ウチの懐刀を舐めないでもらおうか、とアハウは不敵に言い返す。
「それを言うなら……私の弟も侮らないでもらいましょう」
彼の本骨頂はここからです、とジョージィは得意気に微笑む。
「絶ッッッッッ好ッッッッッ調ッッッッッおおおおおぉぉぉぉーーーーッ!」
言葉が届いたわけでもあるまいに、まるで弟自慢をしてくれた兄の期待に応えるべく、ゴーオンは世界中を打ち振るわせるような雄叫びを響かせた。
分厚い胸板を両手で叩いている。ゴリラのドラミングにしか見えない。
カズトラを打ち負かした勝利の雄叫びか?
いや、それにしては雰囲気が違う。
そもそもゴーオンの雄叫びには異質なものを感じるのだ。
彼の声を聞いているとアハウでも胸の奥がざわつくというか、意識の奥に眠っている野獣の本能を疼かされるような刺激を覚えてしまう。
これはもしや……と訝しんだ時だ。
ジャングルが叫び声を上げた。そこかしこから野獣の声が沸いた。
密林に潜んでいたモンスターの群れが、尾に火が点いたような勢いで騒ぎ出したのだ。どいつもこいつも目を血走らせて暴走寸前である。
野性を滾らせるのは彼らに留まらない。
アハウが咆哮の一閃で倒したはずの巨獣が息を吹き返し、ゴーオンの雄叫び応えるように吠え返すと、ククルカン森王国への進撃を再開したのだ。後続だった巨獣の群れも追いついており、彼らもまた凶暴性を増していた。
狂気に駆られているだけではない。
巨獣もモンスターも、ゴーオンの雄叫びに応えた者は総じて数倍のパワーアップを遂げていた。その上で殺意満点の凶暴性を漲らせていた。
怪物軍団は勢いを増して、ククルカン森王国へ侵攻を開始する。
突然の変貌振りに、さしものアハウも戸惑う。
「これはまさか……過大能力か!?」
「弟のは少々特異でしてね。他者への影響力が計り知れないのですよ」
過大能力――【終わりなき戦を求めて鬨の声を上げよ】
「弟が魂から吐いた咆哮を耳にした者はね……獣としての本能を否応なしに刺激されて、敵味方問わず、何であれ誰であれ殺そうとする狂戦士になるのですよ……その際、超常的な強化も施されます」
「他者を強化し……更に狂化を誘う能力か」
「またゴーオン自身も強化されます。止め処なく重ね掛けで……ね」
叫ぶほど手に負えなくなるのか!?
道理でやたらめったら「絶好調!」と叫ぶわけだ。あれは巨獣たちを鼓舞すると同時に、自分自身へ何重にも強化をかけていたのだろう。
「知ったところで……防ぎようがありませんよ?」
そう高を括ったのか、ジョージィはこちらの動揺を誘うべくゴーオンの過大能力を偉そうな口調で開示してきた。煽っているつもりらしい。
アハウは煽り耐性が低いので、今すぐ理性がプッツンしそうだ。
しかし、それでしくじった過去があるので、ここは火を飲む気持ちで堪えることを選んだ。またツバサ君に迷惑をかけるわけにはいかない。
まずは巨獣の進軍を制するのが先決だ。
だがしかし、アハウはジョージィと拮抗しているため迂闊に動けない。余計なことをすれば、その隙をジョージィは容赦なく狙ってくるだろう。
ククルカン森王国にも防御結界は張られている。
防衛設備もバッチリだ。拳銃師バリーを始め、穂村組の用心棒であるダテマル三兄弟も防衛ラインに控えており、タロウを倒した日之出一家もそちらに回ってくれる手筈になっていた。抜かりはないはずだ。
それでも、あの巨獣たちには脅威を感じてしまう。
ジョージィの相手をしながら少しでもいい、巨獣の群れを削れるか?それとも後衛に控える仲間を信じて託すか? 彼らにのし掛かる負担は如何ほどか?
焦燥感に駆られながら、アハウは心の中で戦略の算盤を弾く。
その時――獣の群れが宙へと舞い上がった。
連発花火にも似た爆発音が鳴り響き、巨獣たちが吹き飛んでいる。
「…………は?」
「…………なんだと?」
ジョージィは弟の功績にご満悦なところ、水を差された気分で目を丸くして愕然としていた。アハウも何が起きたか理解できずに疑問符を浮かべる。
何者かが物凄い勢いで疾駆していた。
流星の如く光の尾を引いて、密林を貫くように疾走する。
停止することができないロケットか、爆発すること忘れて飛翔するミサイルか、超高速で移動する謎の物体が巨獣を片っ端から蹴散らしていた。
いや違う――殴り飛ばしているのだ。
「ガンマレイ……アアアムゥズゥゥゥアアアアアアアアアアアアッ!!」
流星の正体はカズトラだった。
自慢のガンマレイアームズを自分と同じくらいのサイズまで拡張させると、長距離弾道ミサイルみたいな形状に整え、その噴射口から発せられる超常的な推進力を頼みに、並み居る巨獣たちを次々と薙ぎ倒していた。
それにしても尋常ではない。
確かにカズトラは血の気が多くて喧嘩っ早い子だ。
あんな我武者羅な戦い方も好んでやる。
だが、ツバサ君たちに課せられたトレーニングによって、少なからず根性を叩き直されたので、あんな無茶苦茶な暴れ方はしなくなったはずだ。
狂気に毒された巨獣に負けず劣らずの狂暴っぷりである。
「え、よもや……ゴーオンの過大能力が?」
ジョージィが思い至ったことにアハウも察してしまった。
「そうか……カズトラは気絶していた!」
普段ならば神族としての、それもLV999に達した強さがある。だからゴーオンの過大能力による叫びを聞いても影響を受けなかった。
だが、意識が飛んでしまえば話は別だ。
気絶して無防備な意識は、すんなり受け入れたに違いない。
特にカズトラは過去の出来事から、強くなることに固執している。
ゴーオンの過大能力は狂化を促すに留まらず、絶大な強化も引き起こすというから尚更だ。力を求めるカズトラなら受け入れかねない。
今のカズトラは――強化された狂戦士だ。
「フゥルゥバァァァァァスットォォォォォオオオオオーーーッ!」
行きがけの駄賃とばかりに巨獣を殴り飛ばしていく。
殴るどころではない。音速を突破したミサイルパンチは巨獣の分厚い肉体を易々と打ち破り、一撃必殺でバラバラの肉片になるまで打ち砕いていた。
そうして向かう先にはゴーオンが待っている。
「そう、そうこなくちゃ…………面白くないよ、坊主ぅ!」
どこか女性らしさのある口調で「絶好調!」以外の台詞を口にしたゴーオン。自分へ立ち向かうカズトラを嬉々として迎えに行く。
「絶ッッッ好ッッッ調ぉぉぉぉぉぉーーーッ!」
いつもの台詞を、ゴーオンは喉が張り裂けんばかりに吠えた。
これまでにない過大能力の波動を感じる。
咆哮による強化はゴーオンの筋肉繊維を何倍にも膨れ上がらせ、地を蹴る脚力も凄まじさを増す。それはカズトラへの強化にも働いた。
「ガぁンぁマレぇイアぁぁームズッッッ!」
カズトラは黒目をグルグルと渦のように回転させて絶叫する。
完全に戦闘狂という狂気の虜になった少年は、鋼鉄と宝石を練り合わせた義手に呼び掛けると、増幅された力をすべてそちらへ回していく。
力を注がれた義手は、強さを象徴する変形を繰り返していった。
強大に、絶大に、最大に――そして、巨大にだ。
「ギガンティストぉぉぉ……ビッグバンパァァァァンチィィィィィッ!!」
天への反逆を示すかのように突き上げられた剛腕。
ヒデヨシが操る巨大ロボ“大戦城”の片腕に匹敵するサイズ、そこまで巨大化させたガンマレイアームズをカズトラは振り回していた。
シオマネキどころではないアンバランスさだ。
それでもガンマレイアームズはカズトラの身体の一部。
一応、意のままに動くらしい。
かなり強引な力業なのではないかと心配になるが、カズトラはビルディングみたいな剛腕をゴーオンに叩き込む。ゴーオンは自身の巨体をも掴みかねないガンマレイアームズに戦くこともなく、まっしぐらに突っ込んでくる。
巨人のパンチとマンモス男の体当たり。
その衝突は天の果てまで届く大爆撃を巻き起こした。
「ウッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーアアアッ!」
「絶好調ォォォォォゴォウガアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッ!」
――もはや怪獣大決戦である。
濁点の際立つ奇声を発するカズトラとゴーオンは、意気投合した喧嘩友達のように常軌を逸した殴り合いを始めてしまった。
片や巨大ロボみたいに巨大化させた義手を奮い、片や5mの巨体を余す所なくフル活用して、“喧嘩”と形容するしかないメチャクチャだが超弩級の戦いを繰り広げている。ひたすら相手を殴ることに腐心していた。
どちらも呵々と大笑し、相手の打撃に歓喜をもって応じる。
このまま2人が戦い続けたら、せっかくアハウたちが育ててきた密林が、某グランドキャニオンのような山あり谷ありの渓谷になってしまう。
現時点で密林の何割かが壊滅的被害を受けていた。だがカズトラもゴーオンもお構いなしだ。戦いという狂気にこれでもかと酔い痴れている。
そして、両方に良くない兆候が現れていた。
過度の強化は心身に負担をかける。
過ぎたるは及ばざるがごとし、良薬であれ度が過ぎれば害毒となる。
それがどちらにも現れていた。カズトラのガンマレイアームズには不穏な亀裂が生じ、ゴーオンの肌にもドス黒い痣が浮かんでいる。
度重なる劇烈な強化によって、肉体が臨界点を越えつつあるのだ。
このままでは遠からず破滅する。
「やめろカズトラ! 正気を取り戻せ!」
大声で呼び掛けるに留まらず、アハウは過大能力を伸ばして意識から働きかけようとするが、カズトラは受け入れず弾かれるばかりだ。
ジョージィもゴーオンの無茶振りに焦り出す。
彼もまた、弟の異変を目の当たりにして心配せざるを得まい。
「ゴーオン! そんな小僧の相手なんかしてないで……そうだ! この先にある国を滅ぼしてきなさい! ゴーオン……お兄ちゃんのいうこと聞いて!」
だが、こちらも馬の耳に念仏だった。
狂化されたカズトラとゴーオンは、目の前の敵に熱中している。保護者代わりで父親のつもりな獣王神の声や、兄さんなんのか姉さんなのかよくわからない兄姉の言葉など届くはずもなかった。
「カズトラぁ! いい加減にしないと本気で怒るぞ!?」
「ゴーオン! お兄ちゃんお願いするからこっち向いて! ねえ!?」
両者の限界バトルにハラハラするばかりで、保護者であるアハウとジョージィは自分たちの戦闘そっちのけで気を揉むしかなかった。
~~~~~~~~~~~~
不安を掻き立てる地鳴りが鳴り止まない。
でも、部屋に引き籠もるなんて臆病な真似はできなかった。
マヤムを筆頭にククルカン陣営の女性陣は、防御結界内で待機するも王国の防衛を任されているのだ。一時たりとも気を抜くわけには行かない。
全員、拠点の外に出て戦況を具に見守っていた。
ククルカン森王国――アハウ陣営の拠点。
一見するとマヤ・アステカ文明に建てられたピラミッド風の建物だが、内部は現代的な住宅になっていた。日之出一家が加わってくれたおかげでより快適に造り直されており、拠点としての防衛力も改装されている。
そのピラミッドの最上階は、見晴らしのいい展望台になっていた。
マヤム、ケイラ、ミコ、三人の待機場所である。
現状、視界の届く範囲ではまだ戦闘が行われていない。
情報にあった巨獣の群れも、マヤムとミコが力を合わせた防御結界にまで到達していない。アハウたちが侵攻を食い止めてくれているのだ。
彼らは防衛ラインの最前線に立っていた。
防御結界スレスレ、最終防衛ラインとも言うべき場所には拳銃師バリーを筆頭に、穂村組の用心棒さんたちが控えている。また、速攻で仇敵を倒した日之出一家も最終防衛ラインまで戻ってきているところだ。
地平線の彼方、地鳴りとともに閃光や爆発が立ち上る。
数十……ひょっとすると百㎞以上も離れている地点から窺えるのだから、その規模は天変地異に値する。アハウたちの激闘が続いているのだ。
「アハウさん……カズトラくん……」
最前線で戦う男たちを心配するあまり、名前が口から出ていた。
マヤム・トルティカナ――ククルカン森王国 神王妃。
以前は“愛妻”とか“秘書”なんて肩書きだったが、アハウがククルカン森王国の建国を宣言して正式に神王となったことで、その妻であるマヤムは神王の奥方であるから神王妃と呼ばれるようになってしまった。
マヤムの本音としては、かなりこそばゆい。
見る人によっては、まだ十代半ばの少女と思うあどけなさ。
だが実際にはもう二十歳を超えており、現実ではれっきとした男だった。それでも外見の良さが手伝い、美少年というか女性的な特徴に過分なくらい恵まれたのも手伝って、マヤムは男の娘コスプレイヤーをやっていた。
持て余すほどの女性化願望を満たすため……。
VRMMORPG時代、誰にも内緒でアバターを女性化して楽しんでいたら、異世界転移で完全に女性化してしまった経緯を持つ。
『元は男だった自分が妃になっていいのだろうか?』
そう自問自答するばかりではなく、アハウや仲間にも相談したものだが、誰も異を唱えるどころか賛成してくれたので妃に収まってしまった。
アハウの妻になったのは紛れもない事実であり、彼が神王として讃えられるからには、妻であるマヤムには支えていく責務がある。
女として、妻として、妃として――。
マヤム・トルティカナという女神として生きていく覚悟はできていた。
銀髪の少女と思われがちな、小柄で童顔な体型。
白銀に輝く髪はボブより少し長めでカットしており、最近は女性らしさを醸し出すべく、もう少し伸ばすようにしていた。
コートやマントを重ねたようなデザインの外套をまとい、その下には以前なら魔導師風のローブを着ていたが、神王妃と呼ばれるようになってからは奥ゆかしくも気品あるドレス調の衣装を着るようになっていた。
スタイルまで少女みたいなのが、目下のところの悩みである。
ツバサくんみたいなグラマラス体型は女として憧れなくもないが、アハウさんは「今のマヤム君ぐらいがちょうどいい」と褒めてくれる。
夫の気持ちはわかるが、もう少しボリュームが欲しい今日この頃だ。
それでも、徐々にではあるが女性的成長は進んでいた。
最近ブラのカップがキツく感じたり、お尻や太ももに張りと重みを感じるようになったので、遅ればせながら女性らしい第二次成長期が着ているのかも知れないと密かにマヤムは喜んでいた。
あるいは――外的要因か?
クロコ先輩との裏取引でこっそり取り寄せているツバサ君のハトホルミルクを毎日飲んでいるおかげか?
はたまた、毎夜アハウと男女の睦み事で愛されて、女性として肉体を開発されてきたおかげか?
どちらにせよ、このまま理想的なボディスタイルになれたらいいな……とマヤムは期待する。期待とともに夢想して、もっと女性らしくなった肉体でアハウに夜毎愛される自分の妄想を思い描いた。
思わず頬が桃色に染まり、口元が緩みそうになる。
そんなマヤムを現実へ引き戻すように、外套が引っ張られた。
「マヤムお姉ちゃん、お顔が変……大丈夫?」
上目遣いのミコが心配そうにこちらを見上げていた。
ミコ・ヒミコミコ――カズトラの妹分だ。
まだ10歳なので四神同盟にも多くいる幼年組の1人。
幼いながらも大きくなれば美少女になることを約束された、可愛らしい容貌をした少女である。穏やかな性格が顔立ちに現れていた。
青に染まる長いストレートヘアを二つに分けて結っている。
名前にあやかっているのか、ミコは巫女服を好む。幸いにも服飾師の皆さんが幼い女の子向けにアレンジした衣装をたくさん作ってくれるので、ミコは毎日のようにコスプレみたいな巫女衣装でお洒落をすることができていた。
今日は白い着物に緋袴、一般的な巫女服の改良版だ。
神秘性を加えるため羽衣のようなオプションがついている。
マヤムが不調なのではないかと心配するミコだが、まさか「アハウさんに抱かれるのを妄想してまして、デヘヘ♪」なんて打ち明けられられるはずもない。
「う、うん、大丈夫だよ。何ともない」
心配しないで、とマヤムはお茶を濁すように微笑んだ。
ミコと目を合わせながら頭を撫でてやると、はにかみながらちょっと安心してくれたらしい。そして、マヤムは地平線へと視線を向ける。
「アハウさんやカズトラさんが一生懸命戦ってるんだ、と思うとね……ここで待っているだけの自分が歯がゆくなっちゃって……」
その気持ちは嘘ではない。が、妄想を誤魔化すのに使わせてもらった。
マヤムの言葉を聞いて、ミコも頷きながら地平線を見つめる。
円らな瞳は不安げに揺らいでいた。
先ほどから宝石と鋼鉄を絡ませたような巨塔が、ドッタンバッタンと地の果ててのたうち回っているように見えるのだが……あれはまさかカズトラの仕業なのだろうか? ガンマレイアームズの配色によく似ているのだが……?
いや、あそこまで巨大化はさせられないはずだ。
しかし、カズトラの身に何か起きているのかも知れない
「…………カズ兄ちゃん」
口にこそ出さないが、ミコも同じ予感を抱いているようだ。
「私がひとっ走り偵察してこようか?」
蹄の音を鳴らして提案してくれたのはケイラだった。
偵察猟兵――ケイラ・セントールァ。
夫である拳銃師バリー・ポイントとともにククルカン陣営に加わってくれた女性である。ミコどころかマヤムが見上げるほど背が高い。
それもそのはず、彼女は肉体的にケンタウロスなのだから。
軍馬のように屈強な馬の下半身、その首の辺りから人間の女性の上半身が生えている感じだ。女性にしては体格が良く、気の強そうな美人である。
長い黒髪はケンタウロスだからなのかポニーテールに揺っており、褐色の肌にはいつもより重装備な防具を身につけている。武装も常日頃の偵察用のものではなく、明らかに決戦使用のフル装備だった。
しかし、どんな分厚い鎧でもその爆乳は隠しきれない。
馬の体格に合わせたものなのか、ツバサ君に負けないサイズである。
ケイラも切れ長の瞳を騒々しい地平線へと向けた。
音を伴わない光の破裂や、アハウのものと思しき哀切を極めた慟哭。かと思えば怪獣のような怒号が轟き、爆音と地鳴りが鳴り止まない。
ケイラはその危険地帯を偵察してきてくれるという。
「でもケイラお姉ちゃん、危ないんじゃ……」
ミコの不安を払拭するように、ケイラは明るい声で言う。
「心配無用だ。それが私の役目であり、そのための過大能力だからな」
ケイラの過大能力――【黄泉から天界まで駆け巡る襲歩】。
彼女の視界が届く位置ならば、どこへでも瞬間移動できるという機動力に優れた能力だ。偵察は元より傷ついた仲間を回収して退避するなど、サポート面でも優秀な働きを見せてくれる。
いざとなれば前線で戦う男たちの補佐に回り、危機的状況に陥ったならばマヤムとミコを連れて安全な場所へ避難する。
ケイラはそのような役目をアハウから託されていた。
様子見の偵察ぐらいお手の物だ、とケイラは親指で自身を指す。
「君たちは守りの要、気が気じゃないあまり防御結界の運転に支障が出るようでは困るからな。戦況を窺い知れるだけでも気の持ちようが違うだろう?」
ケイラのいうことは一理ある。
たとえアハウたちが不利な状況に陥っていようとも、それならば動きようがあるというものだ。何も知らずヤキモキするのは精神衛生上よろしくない。
「千里眼系の技能を習得しておくべきだったかな……」
今更ぼやいても遅い。
この戦争が終わったら善処しよう、とマヤムは心のメモに書き留めた。
「そう、ですね……お願いできますか?」
ククルカン陣営の防御結界は、マヤムとミコの二段仕立てだ。
マヤムの過大能力―― 【換われ替われよ空間水晶の立方体】。
ミコの過大能力――【わたしは数多の精霊となって遍在する】。
マヤムの過大能力は、空間を結晶化するもの。
この空間水晶は普通の方法では壊せず、金剛不壊の防御結界として機能するのだが、すべてを遮ってしまうため少々使い勝手が悪い。
そこでミコの能力である。彼女自身の精神力から発生した“分霊”という微細な精霊の働きを借りて、融通性と警戒性を高めてもらっているのだ。
これでククルカン陣営の防衛は万全となった。
逆に言えば、マヤムやミコに何かあれば結界は万全に機能しなくなる。精神的な安定感を欠けば強度も弱まってしまうかも知れない。
ケイラはそこを懸念してくれたのだろう。
マヤムも理解したからこそ、ケイラの身を案じながら危ない偵察を申し訳なさそうに頼むことにしたのだ。
「よし、では早速…………ッ!?」
カッポカッポと蹄を鳴らしてケイラが踏み出した時だった。
「……っはぁ、はぁっ、くぅ……うぅッ!」
突然、ミコが両手で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
ミコちゃん!? とマヤムとケイラは一緒にミコへと駆け寄った。小さな彼女に合わせて膝を折り曲げ、手を伸ばして抱き留める。
荒い呼吸を繰り返すミコは、ギュッと眼をつぶっていた。
その額は大量の汗に塗れ、この短時間で衣装が湿るほど汗ばんでいた。
「ミコちゃん! どうしたの急に!?」
「子供特有の突発的な発熱……どころの症状ではないぞこれは!?」
突然の事態にマヤムとケイラは狼狽える。
ミコはマヤムの胸元に身を預けてくると、息も絶え絶えに呟いた。
「カズ兄ちゃんが……はぁ、はぁ……くっ、大変……ど、どうし、よう……カズ兄ちゃんが……このままだと……うっ、ううっ……大変に……」
「カズトラくんが……ミコちゃん、それがわかるの?」
もしかして――分霊の仕業か?
ミコが過大能力で作り出す分霊とは、謂わばミコの精神をコピーした小さな精霊であり、微弱ながらミコの意識と繋がっている。
即ち、分霊が見たり感じた情報はミコも共有できるのだ。
恐らく、大好きなカズトラお兄ちゃんを心配するあまり、ミコは無意識にいくらかの分霊を彼の元まで派遣していたらしい。
そこでカズトラの窮地を垣間見てしまったに違いない。
「ミコちゃん! 気をしっかり保て! カズトラに何かあったのか!?」
ケイラが大声で呼び掛けてもミコに反応はない。
マヤムの胸に抱かれたまま、ミコは気を失ってしまった。
~~~~~~~~~~~~
ミコが気を失った頃――完全に同時刻。
「がぅっぅら゛ら゛ら゛あああああああああああああああーーーッ!?」
「ぜっごぉぉぉぢょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおーーーッ!?」
もう何度目になるかわからない、カズトラとゴーオンの激突。
カズトラは高層ビル級に巨大化させたガンマレイアームズで殴りつけ、ゴーオンはそれに怯むことなく全身をぶつけたショルダータックルで対抗する。
どちらも自身を顧みない戦い振りに疲弊が激しい。
それはもう――損耗と言い換えられるほどだ。
肉体を崩壊寸前にまで追い詰めるも、決して戦いを止めなかった。
どちらが先に五体を木っ端微塵に粉砕してもおかしくはない。気合いでバラバラになりそうな四肢をつなぎ止め、根性で攻撃を放っている状態だ。
もはや2人を突き動かすのは意地しかあるまい。
あるいは――戦士としての矜持か。
巨大化させすぎたガンマレイアームズに無数の亀裂が走る。
カズトラが先に限界を迎えそうだ。
「ここだッッッ……絶好調ぉぉぉぉぉーッ!」
ここぞとばかりにゴーオンが盛り上がった肩を押し込み、カズトラにトドメを刺そうとするが、狂気に取り憑かれた少年は意に介そうとしない。
我が身が根底から砕けようともお構いなしだ。
「やめろカズトラッ! 義手を引け!」
アハウは駄目元で呼び掛けるが、やはりカズトラには届かなかった。
万事休すかと思いきや――微かな希望を垣間見る。
グルグルと渦状に巻いて狂奔を表していたカズトラの黒目に、人知の輝きが戻ってきたのだ。その口元にも人間臭い笑みを浮かべている。
「――ガンマレイアームズ!」
義手にかける声にも理性が宿っていた。
ようやく保護者の声が届いたか? いや、そうじゃないらしい。
カズトラをキラキラと優しい光の粒が取り巻いている。
やがてそれは彼の背中へ抱きつくように姿を変えていき、いつしか美しい女性の姿を象っていた。まるでカズトラを守る女神のようだ。
カズトラの背を守る女神の横顔に、アハウは既視感を覚えてしまう。
「…………ミ、ミコちゃん?」
随分と大人びているが、確かにミコの面影があった。
ミコによく似た女神の幻影を背負ったカズトラは、巨大化させたガンマレイアームズが崩壊しかけていても気にせず指示を出すように叫んだ。
「――カミカゼ=ディストラクト!」
次の瞬間、巨大ガンマレイアームズは盛大に砕け散った。
内側に溜め込んだ力を解放するようにだ。
ゴーオンとの激突に負けたのではない。カズトラが自らの意志で壊していた。
つまり自爆である。故意に破壊したとしか思えない。
しかも砕けた瞬間、その破壊力に指向性を持たせていた。これを正面から浴びたゴーオンを大きく仰け反らせ、僅かな隙を作る。
その隙を狙うカズトラは、両眼をギラギラと輝かせた。
眼に宿る光からは狂気が失せている。
ただ、勝利をもぎ取らんとする情熱の炎が燃えていた。
カズトラは自爆させたガンマレイアームズの内部を突っ切っていく。
宝石を打ち砕く音と鋼鉄を打ち破る音を鳴り響かせ、まっしぐらにゴーオンへと突き進む。砕けた義手の破片の奥に、カズトラの影を確認することができた。
砕いた巨大化義手は煙幕の代用品だ。
破片の中を一気に駆け抜け、ゴーオンの眼前にカズトラは迫る。
そして、自慢の拳を打ち込んだ。
宝石と鋼鉄の壁を殴り破ったガンマレイアームズは、以前とは見違えるほどのモデルチェンジを遂げていた。
一言で表すならば――偉容にして威容。
今までが地中で過ごす地虫であり、あの巨大化した腕が蛹だとしたら、このガンマレイアームズは見事に脱皮を果たしたと言えよう。
まるで立派な角を携えた甲虫のようだ。
カブトムシやクワガタムシに相通ずる――雄々しいフォルム。
カズトラの新しい拳はゴーオンの腹に深々とめり込み、思いっきり振り抜くと5mの巨体を地の果てまで運ぶように殴り飛ばした。
「絶ッッ……ご、うぅ…………ちっ……………………ォッッッッ!?」
絶好調の悲鳴を上げる余力も与えない。
ゴーオンに一矢報いたカズトラは全身を露わにする。
その姿もまた一変していた。
拳や手に腕どころではない。頭から爪先までをガンマレイアームズと同じ材質、宝石と鋼鉄を練り合わせた素材で覆っていたのだ。
思い出すのは――往年の特撮を盛り上げたメタルヒーロー。
あの輝かしくも神々しく、英雄の証ともいえる金属質のスーツに勝るとも劣らない衣装に鎧われたカズトラは、口元を隠すマスクから蒸気を噴いた。
そして一言、自身の新しい力について口にする。
「全身全霊――ガンマレイ・アームズ!」
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