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第15章 想世のルーグ・ルー
第357話:女神様の仕立屋さん
しおりを挟むハトホル国中心に位置する――我が家。
ツバサ率いるハトホル一家が暮らす居住空間であり、そしてハトホル国という国において政治を司る中枢でもある。
最初はジンが建ててくれた二階建ての一軒家だった。
異世界転移した際、拠点が必要だと感じたツバサが召喚魔法で真なる世界へ呼び寄せ、それから長男ダインが幾度となく改築と増築を繰り返した結果、城郭に勝るとも劣らない御殿となってしまった。
今では城と呼ぶに相応しい外観となっていた。
各陣営の代表は一国を統べる“神王”という立場にある。
望むと望むまいとに関わらずだ。
曲がりなりにも王の住まう居城。権威を示さなければいけない。
そうなると掘っ立て小屋で暮らすわけにもいかないため、どの陣営もそれなりに威厳のある大きな建築物を拠点としていた。
ハトホル陣営に限った話ではない。
イシュタル陣営はパルテノン神殿を10倍豪華にしたような宮殿、ククルカン陣営はマヤのピラミッドを模した遺跡風の御殿、タイザンフクン陣営はベルサイユ宮殿を思わせる立派な洋館である。
各陣営、建築を担当した者の趣味が反映されていた。
内部構造は現代社会を生きたプレイヤーたちのため、電気ガス水道といったインフラが完備されている。部屋割りは個人の要望が通りやすい。
特にハトホル陣営とイシュタル陣営は顕著だった。
物作り大好きなダインとジンに「こんな部屋がほしい」と相談すれば、朝飯前の早さで素敵にリフォームしてくれるのだ。
たとえば、ドンカイの自室は相撲部屋である(土俵付き)。
フミカの部屋には専用の図書室、プトラの部屋には道具作り工房、マリナの部屋には読書部屋、イヒコの部屋には音楽室……。
――といった具合に、各人の望みが叶えられていた。
改築に必要な土地と建材には不自由しないので、大概のリクエストは希望を上回るレベルで通るのだ。いざとなれば室内を特殊な結界空間にすることで容積を操作して、とてつもない大部屋にすることもできる。
フミカの図書室がそれで、蔵書は数十万冊にも及んでいた。
『目指せセラエノ大図書館! バベルの図書館でも可ッス!』
『あんまり本を貯めすぎて床を抜かすなよ』
意気込むフミカにツバサは釘を刺しておいた。
ツバサの友人にやっぱり読書好きがいて、狭いアパート暮らしなので足の踏み場もないくらい本を収集した結果、床を抜いて大惨事になったのを思い出す。
まあ、ダインの建築なので壊れる心配はないだろう。
そして――我が家には離れもある。
当初はダインが暇潰しに建てたものだが、剣豪セイメイと起源龍ジョカが夫婦になったため、彼らの夫婦生活を邪魔しないために譲られた。
その後ダインとフミカも結婚したので、夫婦用の別宅を建てた。こちらはまさに二世帯住宅そのものである。
ツバサも自分の部屋をいくらか建て増ししてもらった。
間取り的には3LDKになる。
各部屋に洗面所、WC、風呂、そしてリビング・ダイニングキッチンが設けてあるのは基本構造であり、ツバサの自室はキッチン設備が充実している。
我が家には本格的な厨房もあるが、それはそれこれはこれだ。
残る三部屋は書斎、寝室、衣装部屋に当たる。
……なに? 武道家のくせにトレーニングルームがない?
そんなもの、精神○時○部屋みたいな異相に行けばいいじゃない。
暑さ寒さは灼熱地獄と極寒地獄、重力は平均値でも10倍、地域によっては100倍や1000倍となるのも当たり前な特殊空間だ。
自室でくらい寛がせてほしい。
フミカほどではないがツバサも読書はするので、趣味の格闘技や武術の指南書、娯楽として読む小説や漫画を収めた本棚を据えた書斎が一部屋。
(※書籍や情報媒体はフミカ&アキの情報処理姉妹が、それぞれの過大能力で融通してくれるので大概のものは入手可能。ただし、日本どころか地球もろとも世界が滅んでいるため既存のものに限る)
立派な机もあるので、軽めの執務も行える。
我が家には正式な執務室があるので、国政にまつわる仕事はそちらで執り行うのが基本だ。ツバサの部屋にあるのは普通の書斎である。
(※『第313話:束の間の平穏~ハトホル国執務室』参照)
次に寝室――ここはとても広い。
ツバサ大好きな子供たちが数人がかりで添い寝を求めることが多いため、超特大のキングサイズベッドが置かれているからだ。
この特大ベッドのために間取りが大きく割かれていた。
以前ツバサの寝室ではちょっとした戦争が起きたことがある。
長女ミロVS年下の子供たちによる紛争だ。
ミロに反発したのはマリナを筆頭にトモエ、イヒコ、ジャジャの四人。
ヴァトは不参加だ。男の子は一緒に寝るのを恥ずかしがる。
なので時折、ツバサが強引に抱き枕にしていた。
フミカには「将来ヴァト君の性癖が歪んでも知らないッスよ」と注意されがちだが、マザコンになったらそれはそれと思っている。
男は概してマザコンだ。幼少期、ツバサも母親にベッタリだった。
さて――この戦争はミロに原因があった。
一日も早くツバサに赤ちゃんを産んでもらいたいミロは、毎日のように男の娘になるとツバサを女として抱きまくり、懐妊させようと必死だった。
毎夜毎晩――ツバサを独占するようなものだ。
こうなると大人の世界である。
お母さんと一緒に寝たいマリナたちは夜ごと閉め出されてしまい、それが何日も続いた結果、とうとうマリナたちの堪忍袋の緒が切れて「ミロさんズルいです!」と声をそろえて「横暴だ!」と批判した。
ところでマリナやイヒコは10歳、トモエは15歳、ジャジャも精神的には16歳の男の子だが肉体的には転生して7歳の女の子。
……この年になっても母親に添い寝を求めるものなのか?
乳離れできない娘たちにツバサはちょっと懐疑的だ。
さて、この猛講義を受けたミロは反論した。
『十月十日でカワイイ弟か妹ができるから我慢しなさい!』
『センセイの赤ちゃんで新しい妹弟は大歓迎ですけど、だからって毎晩センセイの独り占めはやり過ぎです! センセイは日に日に精気が増して肌が艶々になってきてますけど、ミロさん目の下に隈ができて窶れてきてます!』
マリナは怒りながらミロの心配もした。
神族が窶れるなんて余程だからだ。
しかし、瞳に炎を燃やしたミロは決意の拳を握る。
『たとえ精根尽きても、ツバサさんに赤ちゃんを産ませればアタシの勝ち!』
『勝ち負けの話じゃないですよねこれ!?』
ちょっとは自重してください! と説得気味に叱られたのだ。
ここに長女ミロVS妹たちの戦争が勃発した。
戦争といっても実力行使をしたらミロが圧倒的に有利なので、両者の言い分を聞いた横綱ドンカイがこう提案してくれた。
ハトホル陣営においてナチュラルに補佐を務める優秀な副官であり、子供たちの面倒も見てくれる頼れる大人、それがドンカイなのだ。
そんなドンカイは子供たちに言い聞かせる。
『だったらゲームで勝負をつけなさい。それなら安心安全じゃ』
eスポーツ協会会長を務めた彼らしい提案であった。
そこで対戦で楽しめるゲーム三本勝負が行われた。
二本先取した方が勝利である。
結果は――双方ともに一勝一敗一引き分け。
痛み分けとなったので再びドンカイが仲裁に入ると、ミロと妹たち両方の意見に耳を傾けて、「それぞれ一週間を分配するように」と定めたのだ。
月水金日は――年下の妹たちがツバサと同衾できる日。
火木土は――ミロがツバサと子作りに励める日。
こうして平和的な棲み分けが実現できた。
そのため月水金日の夜にはツバサの寝室に子供たちが集まり、時にはジョカやフミカにプトラまで遊びに来て、女子会というかパジャマパーティーの様相を呈することさえあった。
だから超特大のキングサイズベッドが必要なのだ。
寝室を広くした理由がこれである。
最後の一部屋は衣装部屋――大型クローゼットと思えばいい。
ウォークインクローゼットというものがある。
文字通り中に入って歩くことができるスペースのあるクローゼットだが、ツバサの部屋にあるそれは完全に衣装部屋だった。
四十畳もの面積があり、天井までの高さも3mはある。
壁一面には様々な衣装が飾るように並ぶ。
備え付けのタンスには、女性になったツバサに合わせて仕立てられた下着類があふれる寸前まできっちり詰め込まれている。
ツバサ自身、そこまでファッションにこだわりはない。
特に女性用の衣類なんて問題外。
この爆乳巨尻の女神な身体になってからは、必要性に迫られてブラジャーなどの身に付け方を覚えたが、そうでなければ女性と間違われる度にキレていたツバサには縁のないものだった。
フェミニンなファッションに興味はない。
だが、衣類のバリエーションには自戒的なこだわりがあった。
ミロや妹と暮らしていた手前、彼女たちに悪影響を及ぼさないよう「着た切り雀ではいけない」と気を遣い、最低限の衣装は取り揃えていた。今では8人もの娘を抱えているので、その手本となるべく自らの服装を律していた。
毎日同じ服を着ない――お洒落や身嗜みに気をつける。
しかし、女体化した身体には女性用の衣服しか似合わないので、割かしストレスになっているのも事実だった。悩ましい問題である。
多分、一人っ子なら気にしなかった。
誰にも迷惑をかけず清潔感さえ保てていれば、動きやすいジャージや修行に適した稽古着で過ごしていたはずである。同じものを何着も用意してだ。
良かれ悪しかれ――そこはツバサもずぼらな男の子だった。
しかし今となっては周囲がそれを許さない。
極上の女体をミロやクロコが放っておいてくれなかった。
隙あらばエロい下着を用意したり、男性視点からすればエロ以外の何物でもないドスケベな衣装を着せて辱めようとするのだ。
ホクトとハルカの服飾師師弟がこれに拍車をかける。
ツバサの肉体美は彼女たちのセンスをダイレクトに刺激するようで、「その美々しいお身体を着飾らないなんて世界的損失です!」と、次から次へと新作衣装を作ってはプレゼントしてくれるのだ。
ミロやクロコは泣くまでシバけそれでいい。
しかし、服飾師師弟はあくまでも善意なので断りにくかった。
(※ハルカからは下心が見え隠れするけど……)
ホクトやハルカから贈られる衣装は縫製技術が最高なのも然る事ながら、着心地が抜群に良く、防御力もそこらの鎧を凌駕する。
おかげで処分できず、無体に扱うわけにもいかなかった。
そこでダインに私室を改築してもらって新たに衣装部屋を作ると、贈られた衣装をその中へ仕舞うようにしたのだ。
今では上下二段のハンガーラックが部屋の四方を天井まで覆い、部屋を間仕切りするように三列も並んでいる。いくつもあるタンスにはクロコが「傑作です!」と自慢する下着類が収められていた。
もう本当、女物の衣類で埋まりそうな勢いである。
しかし、もうツバサはこの部屋にあるものを着ることはできない。
体型の変化により、すべて仕立て直す必要があった。
原因は――魔法の女神モードである。
殺戮の女神に続く第二の戦闘形態として編み出したのはいいのだが、副次的効果により女性らしさまでパワーアップしたらしい。
このため肉体の女性化が進み、服が合わなくなってしまった。
顕著は変化があったのは――バストサイズ。
今まででさえLカップなんて滅多にお目にかかれない規格外の爆乳だったのに、1サイズアップしてMカップになっていた。
ハルカに聞いた話――。
『日本国内で販売されていたブラジャーはA~Dが主流で、大きくてもミサキ君のJカップくらい、流通市場でも最大でLカップくらいだったはずです。それ以上のサイズとなれば、特注するか海外から取り寄せるか……インポート物といわれるものを使うしかなかったと思いますよ』
とうとう日本基準に収まらず、世界基準に達してしまったわけだ。
変化はバストに限った話ではない。
ヒップ、お尻もより肥大化して重くなっていた。
ただでさえ安産型を超えたデカ尻だと言われていたが、本当に超安産型と呼ばれるに相応しいサイズになってしまったらしい。
尻が大きくなれば、それに比例して下半身も大きくなる。
臀部を支える脚――特に太腿は脂肪の厚みが増す。
女性が成熟するにつれて下半身の皮下脂肪が増量していくのは、子供を産むための骨盤を支えるため、安定感を得るためだという。
詰まるところ――女性的な特徴がより主張してきたわけだ。
身長と尻と乳のドデカい女になってしまった。
ウェストなどは据え置きなので、太ったわけではないと弁解させてもらう。乳房やお尻が大きくなった時点で肥えたようなものだが……。
恐らく、ぱっと見では気付かれない程度だ。
しかし、本人としては下着や服がキツくなったと実感できる。
そして――服飾師の眼は誤魔化せない。
先日、ホクトに体型の変化を見抜かれてしまった。誰にも内緒で隠して、今まで通りの下着や衣服を着ていることがバレたのだ。
服装の乱れは心の乱れ、と人は言う。
現職のファッションデザイナーだったホクトは人一倍厳しい。
ホクトは服飾師として「すべての人間には平等に着飾る権利がある」を信念に掲げている。体型の変化が恥ずかしいからと、身体に合わない衣装を着込むツバサなどお説教の対象でしかない。
他陣営のトップであっても遠慮無用。
ホクトは逃げるツバサを捕まえると、その場で正座させて「衣装とはなんぞや?」にまつわる説教を小一時間ほど行った。
『早急に採寸して、お召し物を仕立て直す必要があります』
2m前後の恵まれた長身、極限までビルドアップさせた剛体、199X年に世紀末を迎えた世界で救世主になれる雄々しき相貌。
そんな漢女に凄まれたら、ツバサも拒否することはできない。
明日、すぐにでも取り掛かるという。
まずは変化したツバサのスリーサイズを測り直す。
手足の長さや太さ、肩幅や腰回り、服装に関わる身体の部位すべてを測り直し、これまでの衣服を調整するように仕立て直してくれるそうだ。
ブラやショーツといった下着とて例外ではない。
ツバサの身を案じる作業となれば、断るわけにもいかなかった。
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「これ以上、大きなブラはやだよぅ……Mカップなんてやだよぅ……」
ツバサは膝を抱えてシクシク啜り泣いた。
Lカップの爆乳だった時点で体育座りが難しかったが、Mカップになってから更にやりづらくなった感がある。顔を伏せることもままならない。
ボリューム満点の乳肉に邪魔されるのだ。
長すぎる髪が自然にツバサを取り囲んで防護膜となり、包み込む繭になりそうだった。肉体に働きかける過大能力がツバサの「いっそ引き籠もりたい……」という弱気に反応しているようだ。
膝を抱えるツバサをミロが心配そうに覗き込む。
「まだ泣いてるのツバサさん? 男らしく覚悟を決めちゃいなよ」
その一言はツバサの男心に引導を渡すものだった。
「男らしくありたいのに、おまえらが許してくれないんだろうが!」
「そんな逆ギレされても……ブラのサイズ合わないとすっごいキツいんじゃない? いざって時に戦えなくても知らないよ」
まさかミロに正論を吐かれるとは思わなかった。
事実、その通りだった。
サイズが1つ小さいブラをつけているだけで、きつくサラシを巻いてるかのような息苦しさに見舞われてしまう。平時ならまだ耐えられるが、一呼吸すら疎かにできない戦闘中にあの息苦しさは致命的であろう。
実際、アリガミ戦ではブラのホックが壊れてしまった。
ブラジャーという支えをなくした乳房は、その重さゆえ慣性に振り回され、こちらの思った通りに動いてくれない。万分の一秒の狂いすら命取りになる神族の戦いともなれば、ブルンブルン弾むだけの厄介物でしかなかった。
戦えない――これは戦闘狂の気があるツバサに効く説得材料だ。
水聖国家の接合作業は昨日のこと――。
明けて翌日の午後、ここは先述したツバサの衣装部屋だ。
小休止用に置かれたソファ。そこに腰掛けたツバサは、爆乳のせいで不器用に膝を抱えて不貞腐れていた。昨日から泣きっぱなしで瞳は真っ赤である。
身に付けるのは寝間着の赤襦袢のみ。
これから採寸されるのだ。身体のサイズを測られるにしても、試作の服や下着を着たり脱いだりしやすいようにと、脱ぎ着しやすいものを選んだ。
この赤襦袢はハルカのお手製だった。
装備の作成を頼むため、ハルカに出会ったばかりの頃。
一目見てツバサをモデルとして惚れ込んだハルカは「創作意欲が湧きました!」と言っては、オマケと称して様々な衣装を作ってくれた。
この赤襦袢はその一着である。
肌触りがベルベットのように心地良いのに重くなければ厚みもなく、自然と身体に寄り添うような着心地の良さから気に入っていた。
ソファの横にはミロが座る。
今日は黒のカッターシャツをざっくり着て、脚のラインがくっきり出るタイトな黒のパンツで過ごしていた。いつも下着と見間違えそうなほど軽装な彼女にしてみれば、被覆率が高くて大人しめの格好だった。
ちょっとボーイッシュを気取っているのかも知れない。
ツバサはしばらく待ち状態である。
衣装部屋で忙しなく動き回る二人の作業が終わるのを待っていた。
タイザン陣営所属――ホクト・ゴックイーン。
イシュタル陣営所属――ハルカ・ハルニルバル。
タイザン陣営をまとめる骸骨紳士クロウを恩師と崇める、(現実で教師と教え子の間柄だった)筋肉メイド長のホクト。イシュタル陣営の若き当主ミサキの彼女(本人は婚約したと主張)であり、召喚魔法を得意とするハルカ。
四神同盟が誇る服飾師な師弟である。
師弟でファッションブランドを作っており、2人の名前を足して「ハルクイン」と名付けていた。四神同盟の衣装を一手に請け負っている。
ホクトはタイザン陣営のメイド長として、いつも古典的なメイド服を着ていた。筋肉が膨れ上がる度にはち切れそうでハラハラする。
ハルカは春色のロングカーディガンを愛用しており、その下は会う度に色取り取りの衣装に着替えていた。服飾師だけあってオシャレに気遣いがある。
そんな2人だが、今日は一風変わった服装だった。
どちらも動きやすそうな上着とズボンで、ポケットの大きい前掛けをしていた。ポケットの中には裁縫道具がこれでもかと収まっている。
仕立屋さん、あるいは裁縫屋さんらしい格好だ。
――ツバサの衣装をすべて仕立て直す。
それを今日中に成し遂げるという強い決意が感じられた。ここまでやる気を出されると、ツバサが「嫌だー!」と言える空気ではない。
「ホクトさん、こちらはゆったりした部屋着が多いですね。手直しは胸とお尻の周りだけで済みそうです。そもそも布地に余裕があるものばかりです」
――ハンガーラックに並ぶ衣装。
それを一着ずつ確かめるハルカは、師であるホクトを呼んだ。
「こちらはツバサ様ご愛用のロングジャケットを初めとして、戦闘用コスチュームにもなるものがメインですね……どれも戦うツバサ様の動きを邪魔しないことを最重視する以上、手足や関節部の生地も調整しなくては……」
ホクトも居並ぶツバサの衣装をチェックしていた。
大幅な仕立て直しが必要となるものをピックアップしており、どこを直すべきかを素早くメモして改良点を控えていく。
ホクトとハルカは現在、修繕する衣装を洗い出していた。
服飾師の師弟は計測系技能により、目測でツバサの体型変化を大まかながら把握していた。これまで自分たちが手掛けた衣装を手に取って思い出しつつ、どのように仕立て直すべきかの算段をつけているのだ。
下調べ、と言ってもいいかも知れない。
ハルカは布面積の足りない服を見つけて懐かしがる。
「あ、こんなの作ったっけなぁ……ツバサさんがあのキャラに似てるなーと思って、セーラー服をアレンジしたんですよ。胸もお尻も丸見えになるけど」
「だから試着だけで終わったわ」
ほとんどコスプレじゃねーか、とツバサは文句のように言った。
ホクトは真紅のロングジャケットを見つける。
このタイプは何着もあるが、これはデザインが少々凝っていた。
「これは……ツバサ様愛用の戦闘用ロングジャケットを、防御力を最大まで上げつつ、縫製を凝らして動きやすさを追求し、女王の権威を際立たせるために高級感を漂わせる……謂わば、当時の私の最高傑作ですね」
「うん、完成されすぎてて勿体ないから着れなかったやつだ」
お気に入りというのも理由の1つにある。
お気に入りの最高級品というのはいざという時に袖を通したいから、ついついタンスの肥やしになりがちだ。
ツバサの正直な感想にホクトははにかんでくれた。
こういう時、彼女の笑顔は漢女といえどチャーミングである。
「そんなこと仰らずに……どんどん着てあげてくださいませ」
「そうですよ。どの服も滅多なことじゃほつれないんですし、戦闘なんかで破れたら私やホクトさんが直してあげるんですから」
そこについては感謝しかない。
どの服もミスリルやオリハルコン、あるいは最硬金属アダマントから加工した糸でできているので、強度に関しては折り紙付きである。
服飾のプロフェッショナルな彼女たちの手に掛かれば、どんなに破れてもリフレッシュどころではない、新品と変わらない状態にしてくれるのだ。
しかし、手を煩わせる申し訳なさを覚えてしまう。
「そう考えると、大切にして着ることを手控えちゃうんだよなぁ……」
ツバサは頭を掻いて少年のような弁解をする。
自分の手間が増えるのはいいが、他人の仕事を増やすことに気乗りしない。それなら自分で片付ける、これがツバサのスタンスなのだ。
ミロは呆れるも感心するように嘆息する。
「ツバサさん、根っからの生真面目だからねぇ。他人のお世話は喜んでするくせに、自分がお世話されることになれてないっていうかさぁ……」
肩をすくめて手を挙げるミロに、ウチの変態メイドも賛同する。
「その奥ゆかしいところがツバサ様の魅力なのです」
ハトホル陣営メイド長――クロコ・バックマウンド。
アルマゲドン時代からツバサやミロの世話を焼いてくれたGM。
今はメイド長として忠誠を誓うように仕えてくれていた。
SでありMでもあり、大凡の性癖を網羅した高性能な変態でもある。
いつも無表情だが十分すぎる美貌の持ち主であり、黙って立っていれば銀髪巨乳の美女。だというのに口を開けば下ネタばかり、行動すればセクハラばかり、どうしようもない変態エロ駄メイドだった。
だけど――仕事をさせればこの上なく有能なのだ。
どんな難題であれ卒なくこなす。実際、何度も助けられていた。
元上司であるレオナルドも「四人の部下で最も使えるんだが、これほど持て余した問題児もいない」という評価である。
仕事をさせれば万能、だが私生活はエロスな悪ふざけに全振り。
ツバサも幾度となくセクハラの餌食にされていた。その度に拷問レベルのお仕置きをしているのだが、「ご主人様からのご褒美です!」と苦痛さえも快感にしてしまうマゾッぷりなので、ほとほと手を焼いていた。
エロス特化のくせして、メイド服はオーソドックス。
気分次第でセクシー路線のフレンチメイド服に着替えることもあるが、主に上司であるレオナルドを誘惑する時にしか着用しない。
今日はちゃんとクラシカルなメイド服という出で立ちだった。
クロコも服飾系技能を修めており、ツバサの衣類(主に下着類)を熱心に作ってくれるので、今回の仕立て直しイベントに参加していた。
「服とは動けば縫ったところからほつれていくもの、着れば汗などの体液で汚れるもの……致し方ありません。それが服の宿命なのです」
クロコの声がくぐもって聞こえる。
「ですが御安心あれ――そのためにメイドがいるのです!」
服がほつれたら即座に繕い、服が汚れたら丹念に洗いましょう。そのために家事を司るメイドがいるのだと、クロコは力説する。
「ですからツバサ様! これからもどんどんお召し物をお汚しになってくださいませ! 特にショーツのクロッチ部分とかブラのカップの内側とか!」
「クロコはまずタンスの抽斗に突っ込んだ顔を引っこ抜け!」
彼女の声がくぐもって聞こえた理由がこれだ。
クロコはツバサのLカップブラジャーや伸縮性に優れたショーツが目いっぱい詰め込まれた抽斗に顔を突っ込み、そこから喋っていた。
「……ぬぅ、丁寧に洗っているため、お日様と洗剤の香りしかしません!」
「やかましい! 臭いが残ってたら洗濯になってないだろうが!」
「ああ、でも……微かにミルクなのにフローラルで馨しい香りが……ッ!」
「いいからタンスから顔を出せと言ってるんだ!」
抽斗からあふれそうな――女性用下着の山。
極彩色にカラフルなそれを自分が身に着けていると思い出したツバサは、半泣きになりかけた。辱めを受けているように錯覚してしまったのだ。
思わず頭を抱えて項垂れてしまう。
ズシン、ズシン、ズシン……と重い足音に顔を上げる。
ホクトはクロコの背後に立つと、大きく開いた掌を抽斗に突っ込んでクロコの頭を鷲掴みにした。後頭部へのアイアンクローである。
ミシミシ、と頭蓋骨が軋む音がした。
さしものクロコも激痛には無表情なポーカーフェイスを維持することはできず、苦悶の表情を浮かべて視線だけを背後に送った。
「ホ、ホクト様? こ、これは一体……いったい痛い痛い痛いッ!?」
「それはこちらの台詞です」
――あなたは一体何をなさっているのですか?
言葉から凄まじい怒気を感じる。
ホクトの雄々しき面立ちは露骨な怒りを孕んでいた。閉じた口から漏れる吐息は、怒りのあまり蒸気のような白煙となっている。
「ツバサ様が体型の変化に困惑しているのは明白……それを嘲るような行為、許されるとお思いですか? 如何に家族同然のお付き合いを許されたメイドとて……いえ、だからこそ礼儀を欠いてはならないはずです」
「こ、これは私なりのスキンシッ……ああ、割れてしまいます!?」
メキャ! と怖い音が鳴った。
バプッ! とクロコを鼻血を吹く。彼女がエロ行為の興奮以外で鼻血を流すところなんて初めて見た。ホクトは本気で握力を込めている証でもある。
もう少しでセクハラメイドの頭蓋骨が砕けるだろう。
ホクトはLV999の主戦力。クロコはその多忙さゆえまだLV970代。力の差は歴然なので戦闘となれば一方的だった。
そして、服飾師は矜持を語る。
「すべての人は平等に着飾る権利があります……人のファッションをけなす行為、指差してからかう行為、あざ笑うタネとする行為……私は決して認めません」
人のお召し物を侮辱すること――万死に値します。
懲罰とともにホクトのお説教は続く。
「もしもツバサ様が嫌悪感を催すセクハラ行為を続けるというのであれば、仕立て直しの作業をお手伝いさせるわけには……」
「……ちゃ、ちゃんとやります! 改心します! 心を改めます!」
ツバサ様――申し訳ありませんでした!
ホクトのアイアンクローで吊し上げられたままの体勢だが、クロコはこちらに向き直ると楚々とした仕種で詫びてきた。
激痛のあまり、鼻血どころか涙と涎まで止まらない。
いつも興奮がエスカレートすると、同じように顔中を体液塗れにするクロコだが、今日は様子が違う。本当に痛くて辛いのか、かつてないほどみっともない泣き顔をさらしており、心の底から謝罪するように悔い改めていた。
ここで――ツバサは訝しむ。
クロコはどんな責めも快楽に変換できるマゾだ。
おかげでセクハラをされたツバサが轟雷を浴びせて説教しても、大喜びで甘受してしまう。体罰とともに叱ってもご褒美にしかならないのだ。
しかし、ホクトのお仕置きは効果覿面である。
「恐らく――要因は2つあるのでしょう」
ホクトはクロコへの折檻を緩めることなく解説する。
クロコは助けを求める視線をツバサとミロに送ってくるが、ホクトの怒りが本物なのでミロは口出しできずにいた。ツバサは普段の彼女の素行もあるため、「いい気味だ」と傍観を決め込んでいる。
「ひとつは『説教師』などの技能のおかげと思われます」
「相手を叱って説き伏せる話術系の技能か……でも、それならツバサやレオナルドも持っているぞ? クロコに効いた試しはないが」
説教すらも言葉責めと解釈して、このセクハラメイドは喜ぶのだ。
「もうひとつ――私がメイドだからでしょう」
同職にあるから効果があるようです、とホクトは憶測で述べる。
ツバサはこの憶測でピンと来た。
「そうか……クロコは神族・御先神だ。誰かに従属しならなければいけないペナルティ持ち。反面、それさえクリアできれば自由が利く。そしてクロコほどのマゾならば、目上と定めた人々のお叱りを喜びとして受け止められる」
だがしかし――同列の者はこれに含まれない。
クロコと同じ地位にある者は目上とカウントされず、従属神のボーナスが発生しないため、叱られたり怒られたりすれば心に届くようだ。
体罰もちゃんと効果を発揮するらしい。
「私もメイド長、クロコさんもメイド長……どちらも同格に扱われるため、私のお仕置きがこのようにしっかり効いたものではないかと思われます」
「た、たしかに……全然気持ち良くありません」
後頭部を掴まれて吊し上げられたクロコは、アイアンクローこそ緩められたものの、まだ痛いのか顔を濡らすほどの涙を流して苦しんでいた。
これは朗報と言わざるを得ない。
「なるほど、これからはクロコが度を過ぎたセクハラされたら、ホクトさんにちょっと出張してもらって説教してもらえばいいのか」
「私で良ければお引き受けいたしましょう」
「え、ちょ、待っ……それはご勘弁くださいませッ!?」
まさかの対処法を握られてしまったクロコは、これまでの澄まし顔が嘘と思えるほどあからさまに狼狽えていた。
こんなクロコ、初めて尽くしで見物だった。
クロコは胸の前で両手を握り合わせ、本気で許しを請うてくる。
「これからはセクハラを当社比で控えるようにいたします! お説教やお仕置きにも反省するようにいたします! ですから、ホクトさんを呼び出しての折檻はどうぞご勘弁くださいませ! 後生ですから、ツバサ様ぁ……」
ここまで殊勝なクロコは久々かも知れない。
ツバサの御先神となる誓いを立てて、アルマゲドン時代にツバサたちを監視してきたことを詫びた時以来だろう。
(※『第79話:“人間”が来るまでの猶予期間』参照)
何より――クロコの弱味を握れたので気分がいい。
これまで散々セクハラされてきて、その度に死んでもおかしくないレベルの拷問を与えてきても、常軌を逸したマゾッぷりで嬉々として「ご褒美です!」と喜んできたクロコが、泣いて謝って懇願してきてるのだ。
今後おふざけが過ぎたら「ホクトさんを呼ぶぞ」と脅せばいい。
……まあ、多少のセクハラはよく働いてくれるメイド長への報酬として看過してやらないでもないが、本気で怒った時の切り札となる。
昨日からMカップの件で気持ちが塞いでいたツバサだが、ちょっとだけ胸が空いた気分だ。微笑みながら窮屈な体育座りをやめる。
「ちょっとは心を入れ替えろよ? もう弱点は掴んだからな」
「は、はい! ありがとうございますご主人様!」
「誰がご主人様だ! って……関係的に間違ってないのか」
御先神は仕えるべき存在(種族問わず)を主人と認めて、その者に絶対服従することで強化を得られる神族。
クロコの場合、ツバサとミロが主人に当たるのだ。
本当、厄介な家来を雇ったものである。
「おいたをする子供を怖がらせるために呼ぶオバケ……クロコさんにとって、私はそのような存在になったわけですね。子供部屋のボギーでしたか」
西洋文化圏におけるある種の妖精のことだ。
親の言いつけを聞かない生意気な子供を躾けるため、「いい子にしてないと悪い妖精がおまえを攫いに来るよ!」と怖がらせるものだ。実に様々な種類の妖精がいるため、総称して“子供部屋のボギー”と呼ぶらしい。
フミカに語らせたら、全種類の詳細な解説をしてくれるだろう。
「日本のナマハゲみたいなものですかね?」
悪い子はいねがー、とハルカがうろ覚えで真似をする。
ホクトは肯定するように頷いた。
「どこの文化圏においても子供の躾には、超常的存在の力を借りたものなのです。そういった扮装の衣装製作にも携わったことがありますし」
「さすが師匠! 服飾なら何でも手掛けてるんですね!」
思い掛けずハルカの師匠に対する株が上がった。
ツバサへの謝罪を終えたクロコを、ホクトはアイアンクローから解放する。
「乱暴をして申し訳ありません。クロコ様」
責めたことを詫びたホクトは、激怒した理由を明かす。
「ですがモデルを辱めれば、不必要なストレスとともに緊張を与えることへ繋がります。これから採寸させていただくツバサ様に、そんな負荷をかければ身体を無意識に萎縮させ、数㎜単位で計測が変わることもあるのです」
仕立てにおいて数㎜の誤差は大きいです、とホクトは語る。
一カ所数㎜の誤差でも問題になりかねないのに、筋肉や姿勢の萎縮によって全身の複数箇所で測り間違えれば、その差は数㎝にもなる。
装着者の緊張により、大幅に狂ってしまうこともあるという。
「服飾師として見過ごせるものではございません」
アイアンクローから解き放たれたクロコは床にへたり込んでいたが、ハンカチを取り出して顔を拭うと、平素の無表情を取り戻して立ち直った。
そして、クロコとツバサへ深々とお辞儀をする。
「……はい、私も思慮が足りませんでした」
誠に申し訳ありません、とクロコは真摯に謝った。
「これからは心を入れ替え、真面目に取り組むとお約束いたしましょう」
クロコは決意も新たに、細い指を結んで拳を握る。
「ツバサ様のバストがMカップに到達した喜びのあまり、つい羽目を外してしまいましたが……Mカップになられたバストをゴージャスに飾るためのブラジャーを、このクロコが誠心誠意を込めて作らせていただきます! より煽情的でファッショナブルなデザイン! 原初のエロスたる母性という魅力を際限なく発揮できる、エロティシズムの極地を目指したブラジャーを……ッ!」
どんなエロティシズムなのか――。
クロコは再び、涙、涎、鼻血をダクダクと垂れ流していた。
「ホクトさん、やっぱこの変態は追い出してくれ」
膨れっ面のツバサは妄想に浸るクロコを指差したが、ホクトは両手を挙げて制すると首を左右に振って拒んだ。
「いえ、これは芸術性を追求しておりますのでノーカウントです」
芸術的ならばお目こぼしされるのか……。
偶然だとは思うのだが、ホクトの服飾師としての琴線にも安全地帯があり、そこへ言及するクロコの発言はノーカウントと判定されたらしい。
「ツバサさんの嫌がることは厳禁、ですよね」
師匠の物言いに引っ掛かるものでもあるのか、ハルカは人差し指を唇の下に添えると、視線を宙に漂わせて何かを思い描いていた。
「絶対ツバサさんに似合う際どいコスプレ衣装とか…………」
ボソッと呟いたハルカの言葉にホクトは振り向く。
その眼光は鉄板をも射貫くレーザー光線のように輝いていた。
「何か仰いましたか、ハルカさん?」
「いえ、なんでもありません師匠! いかがわしいことは厳禁です!」
ハルカは背筋を正して最敬礼で応じた。
どうやらツバサにいやらしいコスプレ衣装を着せたいようだが、そんなことをさせたらホクトの怒りを買うと予想して自粛したらしい。
……ん? ハルカお手製のコスプレ衣装?
はて、そんな約束をしたような記憶があるのだが?
「ま、ツバサさんはMカップのせいで昨日からご機嫌ナナメだからね」
怒らせないのが吉だよ、とミロは寝転んだ。
ソファに座り直したツバサの膝にコロン、とミロは頭を預けてきた。反射的というか無意識というか、ツバサは位置調整して頭を撫で回してやる。
ミロはゴロゴロと猫みたいに喉を鳴らす。
「ここでアタシらがアホなことやってブチギレさせちゃうと、仕立て直しの延期もあり得るからね。台無しにならないように気をつけないと」
「ほう、アホの子にしちゃ消極的だな」
こういうツバサの女神化を囃すようなイベントが起きると、率先してアホなことをやり、ツバサの怒りを真っ先に買う代表にしては珍しい。
「だってさ、お祭りの時にやらかして大反省したからね」
さすがのアホも身に沁みれば学習するよ、とミロは得意げだった。
「そういえばそんなこともあったなぁ……」
二ヶ月弱くらい前の出来事だ。
ハトホル国を挙げて春のお祭りを企画した際、豊饒の大地母神として国民の前へ降臨することとなったツバサに、ミロはあの手この手を駆使して超ドスケベな衣装を着せたのだ。当然、ツバサは天変地異を起こすほど激怒した。
(※『第268話:ハトホル豊作祈願祭~お召し替えタイム』)
『お祭りが台無しになっちゃう! ごめんなさーいッ!?』
お祭り大好きなミロは、ツバサを本気で怒らせたことを心底後悔して猛省。この時ばかりは平謝りでツバサの機嫌を直そうと必死だった。
以来このアホの子は、ほんの少しだけ空気を読むようになった。
「やっぱり躾って大事だよな。痛感させられたわ」
「うん、オカンを怒らせちゃいけないってさすがに学習したわ」
「誰がオカンだ」
ツバサは決め台詞とともにミロの鼻を摘まんで引っ張ってやる。ミロはフガフガと呻きながら引っ張られるままになっていた。
「あ~! ミロさんがセンセイとイチャイチャしてます!」
これを見たマリナが指差しで大声を上げた。
いつものお姫様ドレスだが、今日は衣装部屋にあったツバサのロングジャケットを羽織っている。「仕立て直す前に着てみたいです!」というので、好きにさせてやっていた。
ホクトたちの手掛けた服は高性能なので、乱暴にしても生地がよれることや布がへたれることはない。だからこそできる芸当だった。
これにイヒコも反応する。
「あ、ホントだ! いつもツバサさんと一緒にいるからイチャイチャし放題なのに、こんな時までベタベタするのは独占禁止法違反ですよね!」
戦闘服こそ指揮者風の装いになったが、普段着のイヒコは年相応にラフな格好をしがちだった。今日はダブッとしたトレーナーにハーフスカート。その上にツバサの衣服を何枚も羽織っていた。
どちらもお母さんの服で遊んでるようなものだ。
母親の衣装部屋で遊んでいる子供は彼女たちだけではない。
「んなぁ……やっぱりまだブカブカんな」
体操着にブルマを普段着とする腹筋系アイドルのトモエは、ツバサのLカップブラジャーをつけていた。しかし、どう頑張っても大きさが足らない。
可哀想だがトモエはいいとこBカップだ。
スカスカなカップを持ち上げては、残念そうに眉を八の字にしていた。
「トモエ姉上、自分たちにはまだ全然早いでゴザルよ」
トモエに付き合わされているのは最年少のジャジャだった。
かつて16歳の少年だったが紆余曲折を経て、ツバサとミロの遺伝子を受け継いだ七歳の幼女として転生。今日も可愛らしい女児服を着せられており、トモエに付き合ってツバサのブラジャーを装着させられていた。
ブラジャーのカップが大きすぎるあまり、ジャジャには帽子というかマスクのようになっている。2つのカップで埋もれそうになっていた。
ツバサの衣装部屋ではしゃぎまくるお子様たち。
普段ならオカンとして許さないところだが、今日は無礼講ということで大目に見てやっていた。なにせ最近、ツバサが一緒にいてやれないからだ。
それもこれも――最悪にして絶死をもたらす終焉が悪い。
奴らへの対応を迫られるツバサは多忙を極めており、四神同盟を行ったり来たりしてハトホル国を留守にしがちである。当然、子供たちと一緒にいられる時間が目減りしているため、その不満は爆発寸前だった。
今日は衣服の仕立て直しで一日中ツバサが我が家にいる。
子供たちがストレスを感じているのはわかっていたので、いつもなら「他人の部屋へみだりに入るな」と教育しているツバサも、お母さんと一緒にいたいというマリナたちの気持ちを慮ってやったのだ。
それで――このお母さんの衣装遊びという次第である。
そんな子供たちの世話を焼いてくれる者もいた。
「ダメだよマリナちゃん。そんなにツバサさんのジャケット引きずっちゃ……いくらアダマント繊維だから無茶が効いてもいけないって。イヒコちゃんも何枚重ね着してるのそれ? トモエちゃんとジャジャくんも無理でしょそれ」
「んな、ミサキ兄ちゃんならイケそうな。はいな!」
「そうですね。ミサキさんならワンチャン……いがかですか?」
トモエとジャジャは揃ってブラジャーを差し出す。
「オレだって無理だよ。ツバサさんの器に敵うわけないじゃないか」
ミサキは苦笑いしてLカップのブラを固持した。
イシュタル陣営代表――ミサキ・イシュタル。
ツバサと同じ内在異性具現化者で、男性から女性へと性転換してしまったタイプである。彼の場合、紅顔の美少年から美少女の戦女神になっていた。
まだ17歳……もう18歳になったはずだ。
ツバサより一回り小さいくらいの体型だから170㎝前後。紫色の長い髪をした少年の凜々しさを備えた美少女という容姿をしている。体型は十二分なくらい巨乳美尻だが、本人はあまり意識してないらしい。
ミサキは女性になったことがそこまで堪えてないそうだ。
思い返せばアシュラ・ストリート時代から交流があり、その頃から美少女アバターを使っているので、あまり抵抗がないらしい。
今日はカーゴパンツにタンクトップ、女軍人の軽装みたいなファッションで決めていた。昔の格闘ゲームにこんな格好のキャラがいた気がする。
しかし、やっていることは保育園のお姉さんだ。
ホクトやハルカ、それにクロコはツバサの衣装を忙しなくチェックしているので、彼が代理として子供たちの世話を焼いてくれていた。
ツバサはほら、Mカップ事件で意気消沈しているから……。
子供たちが寄ってくれば喜んで相手をするが、子供たちもツバサの傷心を気遣い、なるべくソッとしておいてくれた。本当、よくできた子たちだ。
その分、ミサキに構ってもらっていた。
ツバサはからかい半分にミサキへと尋ねてみる。
「ミサキ君も俺の雌牛みたいに膨れた胸を笑いに来たのか?」
「ち、違いますよぉ!?」
トモエとジャジャに無理やりツバサのブラを着せられたミサキは、動揺の声を上げて振り返った。大わらわでブラを外して弁解する。
「ハルカから誘われたんです。後学のためにも立ち会ったらどうだって」
「後学のため? 身体の採寸されたりすることか?」
その通りです、としゃしゃり出てきたのはハルカ当人だった。
「ミサキ君もツバサさん同様、内在異性具現化者です」
内在異性具現化者はその魂の強大さゆえ、表と裏がひっくり返ってしまった者のことを指すらしい。ツバサやミサキは男女の性別が反転していた。
また、女性から男性になってしまった者もいるという。
反転するのは性別に留まらない。
人性と獣性が裏返り、獣人の如き姿になってしまったアハウ。生死が裏返ることで白骨死体のような外見になってしまったクロウ。他にも老人から子供の姿へ若返った者や、反転せず両方の性質を併せ持った者もいるそうだ。
――ついぞお目に掛かったことはないが。
「二人とも男性から女性に変わったタイプで共通しています」
これを踏まえた上でハルカは力説する。
貧乳と指摘されたらブチ切れる薄い胸を張っていた。
「女性化してからも緩やかに発育を促されるように体型が変化してきているツバサさんが顕著ですけど、ミサキくんだっていつかはツバサさんのようなダイナマイトバディ……違うな、アトミックボムバディ……物足りない、ビッグバンバディになるかも知れないんです! だから参考のために連れてきました」
「どこまで爆発するんだツバサの身体は?」
核爆発とか宇宙創世ってなんだよ、とツバサは冷めた表情でツッコんだ。
でもまあ、言い分はなんとなく理解した。
要するにミサキもいずれツバサに追いつけ追い越せな体型にならないとも限らないので、こういう事態に直面するかもしれないということだ。
そう考えれば後学や参考といった意味がわかる。
「ねえ、ミサキちゃんも胸とかお尻とか大きくなったの?」
ミロが好奇心から訊けば、ミサキは照れ臭そうに教えてくれる。
「肉体を常時万全にする過大能力に目覚めた時かな、景気づけとばかり大きくなったりしたよ。それまでGカップだったけどJカップになったし、お尻や腿もボリュームアップしてさ……それをハルカが直してくれたんだ」
「あの時からイシュタル陣営での裁縫役が始まったのよね……」
薄い胸で腕組みしたハルカはしみじみ回想する。
ふ~ん、と鼻を鳴らしたミロはガバリと起き上がった。
「でもさ、ツバサさんも同じように身体を完全無敵にする過大能力を覚醒させてたけど、あんまり変化とかしなかったよね」
アタシ見てたし、とミロは見開いた眼を指差して不思議そうだ。
「センセイの場合、ゆっくり変わったんじゃないですか?」
最初期から一緒のマリナがそんな感想を述べた。
ロングジャケットを羽織ったままトコトコ近寄ってくると、ミロが膝枕から顔を上げた隙を狙い、ツバサの膝へ飛び乗ってきた。
こちらの胸に甘えるマリナは、詳しく話してくれる。
「ミロさんやワタシはセンセイとずっと一緒だったから、ゆっくり女性らしくなっていったセンセイの変化に気付きにくかったんだと思うんです。ほら、そういうのってよくあるでしょう?」
毎日一緒にいる家族の変遷はわかりにくいものだ。
小さな変化の繰り返しは見慣れてしまうものであり、毎日相手への認識を微調整されるわけだから、変化の過程も見落としがちになってしまう。
これを聞いたミロは頭を抱えて呻いた。
「一緒にいるとビフォーアフターの喜びがわかりにくい。だけどツバサさんと離れて暮らすなんてアタシにとって死刑と同じ……ああ、ジレンマ!」
堪らずミロは頭を掻き毟って思い悩む。
「勝手には悩んどれアホ」
薄ら笑いを浮かべたツバサは頬杖をついてぞんざいに言った。
「ではツバサ様――こちらへお出でいただけますか」
既存の衣装チェックが終わったホクトは、衣装部屋の開けたスペースに立つと軽く会釈をしてツバサを招くように声をかけてきた。
「衣装の修繕点を洗い出せましたので、採寸に移らせていただきます」
「あ、ああ……こちらこそよろしくお願いします」
思わず杓子定規な返事をしてしまった。
立ち上がってそちらに向かうが、どうにも足の進みが遅い。
例えるなら予防接種を恐れる飼い犬の心持ちか、もしくは歯医者の順番待ちをしていて呼び出される子供の心境に近いかも知れなかった。
これまでにも服飾師に採寸はされている。
ホクトやハルカはツバサの衣装作りを手掛けているので尚更だ。
採寸に際してはなるべく余分な衣装を身にまとわない方が正確に測れるというので、この赤襦袢の下は下着さえ身につけていない全裸だった。
どういうわけか――恥ずかしい。
ミロやクロコ、それに子供たちの視線など今更のはずだ。
彼女たちの前で着替えをすることはざらにあるし、そもそもお風呂や温泉で裸の付き合いをしている。彼女たちだって見慣れたものだろう。
ミサキ君にしてもそうだ。
アルマゲドン時代は元より、真なる世界に来てからも稽古をつけてやった後には共にお風呂で汗を流したことも一回や二回ではない。
あれは眼福だった……いや違う、そうじゃない。
お互い女神になった身とあって恥ずかしがるのもお門違いである。
なのに、どうして――肌をさらすのに躊躇するのか?
乳や尻がさらに女性らしく肥大化したせいか? Mカップなんてワールドサイズの爆乳になったせいか? 改めて女性化が促進されてしまった身体に注目を浴びることに男心が臆してしまったのか?
もしかしなくても……すべて当て嵌まっている。
初めてアルマゲドンの世界へ入った時、女性化したアバターを与えられて驚いた時の気持ち、それに匹敵する羞恥心が湧き上がってきた。
平静を装っているが、頬は恥じらいで紅潮していくのがわかる。
ミロやミサキにマリナたち、愛しい子供たちの注目を一身に浴びる。彼女たちの視線がジリジリとツバサの男心を焦がすような心地だ。
ここで及び腰になれば茶化されかねない。
そうなれば悪循環だ。お調子者のミロを筆頭にクロコなどの賑やかしに囃し立てられて、裸になることにも二の足を踏んでしまうだろう。
恥ずかしいなら――さっさと終わらせるに限る。
ホクトの前までやってきたツバサは唇を噛んで恥ずかしさを堪えると、まとっていた赤襦袢の帯を解いて一気に裸になることにした。
豊潤を迎えた女神の裸体――惜しげもなくさらけ出す。
均整の取れた五体、鍛え上げられた肉体美、艶やかな女性美。
それぞれの長所を最大限に活かしながら、決して互いを損なうことなく共存共栄させている肉体がそこにあった。
――白磁のようにシミひとつない無垢な肌。
触れれればしっとりとした潤いを感じさせ、艶々に磨かれたもっちりとした質感を失うことはない。股間のそこに陰りこそあるものの、それ以外に無駄な体毛など一本たりとて見当たらない。
ほっそりした指先から嫋やかな掌、しなやかな腕からなだらかな肩へと続く女性美を的確に表現した両腕。むちっとした皮下脂肪で包まれている。
柔らかい肉の下、柔軟さと剛健さを併せ持つ筋肉が隠されていた。
巨大な乳房は母性という名の暴力だった。
大きく、重く、足下が見えないくらい迫り出した乳房。これほど大きければ自重で垂れそうなものだが、凄まじい弾力と張りが「まん丸」と評すしかないほぼ球体を形作っていた。
これこそMカップが必要な超爆乳である。
乳房の大きさに比例する乳輪は面積を広げている。以前よりもぷっくりと薄褐色の肉を盛り上げ、その先端には大豆よりも大きい乳首が埋もれかけていた。
性的に感じる――あるいはハトホルミルクを出す時。
興奮するに従って乳輪は大きく膨らみ、乳首など目を背けたくなるほど肥大化する。平時はこうして縮んでくれるのはせめてもの救いだった。
おかげで薄着をしてもあまり目立たないし……。
ウェストは相変わらず細いままだ。乳房の大きさと比べれば、我ながらえぐい細さだと思う。こちらも女性的な皮下脂肪が乗っているので女の子らしいお腹なのだが、触るとすぐ下に硬すぎる腹筋があるのがわかる。
殺戮の女神モードだと、腹筋がバキバキに8つへ割れるのだ。
安産型を越える超安産型と言われていた巨尻。
こちらはそれほど変わったように見えないが、ツバサ当人の実感としては肉感が増しており、確実に重みを増している。ブラジャーほどではないがショーツもキツくなっており、油断していると尻の谷間に食い込みそうになる。
気付けばTバックになることが多くなった。
尻が大きくなれば太腿も厚みが増す。
武道家でもあるツバサは下半身のバネとなる脚力も重視するたちなので、チキンレッグにならぬよう鍛錬も欠かさなかった結果、腿の筋肉とその上に付いた女性的皮下脂肪のせいで極太の太腿になってしまった。
バストがボン! とバカみたいに大きく、ウェストがキュッ! と嘘みたいに細く、ヒップがドン! と信じられない存在感がある。
この上なくグラマラスな女神的な体型だった。
ここまで豊満すぎると乳房や尻は垂れてきて見苦しくなるものだが、そこは神族なので、十代の少女に勝るとも劣らない瑞々しい若々しさを半永久的に保つことができるのだ。神族の肉体は美化される特権も備えていた。
それに加えて、ツバサは肉体を万全に保つ過大能力を持っている。
これは健康や体調に限らず、肉体美にも反映される。
鍛えれば鍛えた分だけ筋肉や反射神経は増強するが、異常に筋肉が盛り上がることはなく女性美は保たれる。当然、今回のように女性的な成長が促進されれば体型も変わるが、より女性らしい美しさを強調させた。
ツバサの男心からすれば歓迎できない作用なのだが……。
「…………うっ、美しい」
感涙と鼻血を流すクロコが厳かに呟いた。
彼女はその場に跪き、ツバサを信仰して敬うかのように「ははーっ……」と感服する声を漏らして平伏したのだ。
「崇めるしかない……ツバサさんの美にひれ伏すしかない……ッ!」
これにミロが悪ノリして、まったく同じ仕種でひれ伏す。
ミロがやれば下の妹たちも追随する。トモエがやり始めると、マリナやイヒコもこれに続き、最終的にジャジャまで苦笑いしながら拝んできた。
「やめろコラ! 俺の裸を崇めるな!」
ツバサは片方の腕で両胸を無理やり隠しつつ、もう片方の手で股間を隠しながらひれ伏すミロたちに怒鳴り散らした。その時、気付いてしまった。
「なんでミサキ君まで一緒にやってんだよ!?」
ミサキもミロたちに交じり、土下座する勢いでひれ伏していた。
ツバサに叱られてハッと顔を上げたミサキは弁明する。
「ハッ!? ミロちゃんたちに釣られてつい……で、でも、崇め奉りたくなるほど、ツバサさんの裸に見蕩れてしまったのも本当で……」
「やめろ! やめてくれ! マジで恥ずかしくなってくるから!」
こんな時、真顔で褒められたりしたら耐えられない。
仕方なくツバサはホクトへ助けを求めた。
「ホ、ホクトさん! こいつら俺の裸のことで茶化してるんだ! クロコを徹底的に締め上げるついでにお説教してやってくれ!」
ホクトは豪腕を持ち上げると、分厚い胸筋の前で交差させる。
どう見ても「×」を描いているとしか思えない。
彼女の剛体でこういう仕種をすると、必殺技と勘違いしそうだ。
「いいえ、これは純粋にツバサ様の研ぎ澄まされた肉体美と、女神として完成された女性美を褒め称える行為……ゆえにノーカウントでございます」
「そういう風にカウントされるのこれ!?」
男なのに――女神となった美々しい肉体を尊ばれる。
それに男心が羞恥を覚えるのだが、今回はからかっているわけではなくツバサの美しさを褒めているので懲罰対象には当たらないらしい。
ホクトの怒りを呼び起こすのは、他人の身体的特徴をあざ笑うような言動、その人が身にまとう衣装を貶すような行為。こういったもののようだ。
納得いかないが、ホクトなりのルールがあるのだろう。
全員ひれ伏したかと思えば、ゆっくり上体を起こして両手を挙げたままツバサの裸を仰いでガン見すると、またゆっくり平伏していく。
クロコたちはこれ繰り返していた。そういう宗教なのか!?
参加しないのはホクトとハルカの服飾師師弟。
「さて、ツバサ様を裸のままにしておくわけにも参りませんね」
ホクトは取り出した巻き尺のメモリが並んだ帯を何mも伸ばすと、まるで新体操のリボンの如く鮮やかに宙へと舞わせていた。
「はい――ホクト師匠」
その横に並んだハルカはホクトを師匠と呼ばわる。
彼女の左手には生地を切り抜くための型紙となる厚紙の束が握られており、それを切り出すためのハサミを右手に握っていた。
「ツバサさんの恥ずかしさが限界突破する前に終わらせましょう」
わかってるなら早くしてくれ! と喉まで出かかった。
本当に叫ぼうとするよりも早く、ホクトとハルカはツバサの採寸に取り掛かってくれた。彼女たちの仕事に合わせるべく、身を委ねていく。
もう少しの辛抱だ、ツバサは自分にそう言い聞かせる。
だが――ツバサは知らなかった。
これからホクトとハルカの服飾師師弟によって、自身がどれほど爆乳になったかという事実を、執拗なまでに再認識させらることになるとは……。
――この時のツバサは知る由もなかった。
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