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第14章 LV999 STAMPEDE
第344話:愛の滴りを浴びて我が身は変容する
しおりを挟む「四神同盟への加入――改めてお願いいたします!」
ヒデヨシは席に着いたまま円卓に両手をつくと、テーブルに頭突きする要領で音が出るくらい額ずいた。良くも悪くも一本気な男である。
ハトホル国――我が家に設けられた会議室。
室内には上に立つ者はなく座る者すべてが平等に意見を交わせる、という願いを託された円卓が据えられている。そこに関係者一同が集まっていた。
――まずは四神同盟の代表。
地母神ツバサ・ハトホル、獣王神アハウ・ククルカン――。
戦女神ミサキ・イシュタル、冥府神クロウ・タイザン――。
ツバサの隣には伴侶であるミロが座り、クロウの横には孫娘とも言うべきククリが腰掛けている。彼女たちは代表と等しい権限を有するからだ。
――各代表の後ろには補佐を務める副官が立つ。
女中頭クロコ・バックマウンド、秘書マヤム・トルティカナ――。
軍師レオナルド・ワイズマン、騎士姫カンナ・ブラダマンテ――。
常ならばミサキの後ろにはレオナルドと肩を並べて情報官アキ・ビブリオマニアが立つのだが、引き籠もりな彼女は「堅苦しそうなのでパス」と逃げた。
今日はアキの出番もないだろうと上司も許したらしい。
許したと言っても渋々だが……。
アキは通信系技能に秀でているため、レオが一声かければ通信のためのウィンドウを開いて「はいはいお呼びッスか?」と対応できる強みもある。
『五割の確率で惰眠を貪ってて応答せんのだがな……』
『強打者すぎるだろ、アキさん……』
レオナルドは苦虫を噛み潰したような顔でぼやいていた。
『今日はテレワークだとか抜かしてたな、あの引き籠もりは……』
『ウチの駄目姉がホントご迷惑を……』
会議室に入る前、別件でレオナルドと話し合う必要があったフミカは実の姉でもあるアキの自堕落さを平謝りしていた。
本当に仕事はデキるので文句も言いづらそうだ。
得意分野の垣根はあれど、情報の専門家として仕事量がズバ抜けているため、レオナルドも「爆乳特戦隊では有能な部類」と密かにアキを認めていた。
大っぴらにすると一悶着あるので黙っているが……。
その後、通信越しにフミカが説教で喚いたのは言うまでもない。
円卓には新たに3つの席が設けられていた。
そのひとつに腰を下ろすのは――穂村組顧問バンダユウ・モモチ。
後ろには番頭と若頭補佐が立っている。
組長不在が続く穂村組だが、組長代理を務めるバンダユウが「組長も仲間になると言ったんだから構わねぇだろ」と四神同盟への加入を決定した。
組員からも反論はなく、全会一致で受け入れられたという。
このため前々回くらいの四神同盟会議から穂村組代表ということで参加してもらっている。ただし、まだ同盟の名前は変わっていない。
穂村組と日之出工務店――。
この2つのプレイヤー集団をどう扱うか?
四神同盟の加入について、そこも今日の議題に上がる予定だ。
日之出工務店の代表――ヒデヨシ・ライジングサン。
円卓の新しい席に座る日之出工務店の代表。
今日も“大棟梁”という生き様を背負った半纏をまとっている。
隣に座るのは愛妻ネネコ。
先日の“最悪にして絶死をもたらす終焉”との戦いで過大能力を使いすぎたため、極端に痩せてしまった。長身のグラビアモデルみたいなスーパーナイスバディになっていたが、ほんの少し体型がふっくら戻っていた。
それでもまだグラビア誌を飾れるレベルのナイスバディである。
ツバサより長身の美女というなら、2m10㎝を誇る起源龍の化身ジョカがいるし、メイド長ホクトも2m近いはずだ。ネネコも185㎝ある長身で、今ならスリーサイズもツバサ越えという逸材である。
しばらくすれば、あの肥満体に戻るそうだが……。
『ここまで痩せちゃうと元に戻るまで半月は掛かるのよね』
そうネネコは困った顔で微笑んでいた。
過大能力で“気”の吸い上げる能力を強めることもできるが、それをやると近くにいる生物に悪影響を及ぼしかねないので控えているらしい。
大勢の国民が暮らす四神同盟への配慮でもある。
現実でもあの力士が道を譲るほど恵まれた体型だったため、当人もあちらの方が慣れているそうだ。また、ヒデヨシも豊満なネネコに一目惚れしたたため、旦那のためにも早く元の体型に戻りたいらしい。
この話を聞いていたミロは、悪気なしに余計な一言を呟いた。
『ヒデヨシの兄ちゃん、ひょっとしなくてもデブ専……』
『黙らっしゃい! このアホはもう!』
ツバサはもう遅いとわかっていながらも、ミロの顔を引っ叩くように口を塞いだ。あまりの威力に落雷みたいな破裂音と衝撃が走ったくらいだ。
しかしヒデヨシ夫妻は――爆笑した。
『応よ、ミロ嬢ちゃん! オレぁ筋金入りのデブ専だぜ!!』
『ウチの人ったら……あたしに告白する前から公言してたのよ』
笑っちゃうでしょ、とネネコも大笑いだ。
ヒデヨシは一際ふくよかな女性が好みらしい。なのでツバサのような体型の女性は「乳と尻は満点だが痩せすぎなので減点100」だという。
宣言通り、筋金入りだ――さすが工務店の社長。
そのヒデヨシが円卓に突っ伏していた。
顔を伏せたまま、ヒデヨシは感想を述べるように喋り出す。
「この三日間、四神同盟の皆々様と顔を付き合わせて話し合い、ハトホル国、ククルカンの森、イシュタルランド、タイザン平原と見学させてもらった。実に有意義な三日間だったことを、この場を借りて礼を言わせてもらいてぇ……」
四神同盟こそ――ヒデヨシの求めていたものだ。
「是非ともオレたち日之出工務店を末席に加えてもらたい! 微力ながら力になると約束させてくれ! そして……」
助けると約束した人々も迎え入れてくれ! と訴えてくる。
ヒデヨシの申し出に異を唱える者はいない。
四神同盟を治める4人の神は、ヒデヨシを喜んで迎え入れた。
勿論、彼の細君であるネネコとその弟ランマル、そして家族とも言うべき日之出工務店に所属する10人の工作者たちも一緒だ。
ヒデヨシたちをハトホル国へ招待して――3日が過ぎていた。
この間、ヒデヨシたちには四神同盟の各国を見て回ってもらい、それぞれの国を治めるミサキたちとの面談を済ませていた。ツバサがネネコを仲良くなれたように、ヒデヨシもミサキやクロウとすぐに打ち解けた。
特にアハウとは年齢が近いせいか、話題も弾んでいた気がする。
だからというわけだろうが――。
「そんなわけで、我ら日之出工務店が根を下ろすなら“ククルカンの森”を選びたいんだが……構わねぇかな?」
「おれは大歓迎だが……皆さんはどうだろうか?」
ヒデヨシがそっと顔を上げてツバサたちの顔色を伺い、アハウも首を巡らせるとこちらの意見を求めてきた。まず最年長のクロウが骨を鳴らして口を開く。
冥府神クロウは本日もフォーマルスーツで決めていた。
死んで骨だけ、と子供たちの笑いを誘うようにスケルトンと化した身体を隠すことなく、全世界の紳士を代表するが如き衣装。ほとんど礼服である。
「私は賛成です。ヒデヨシさんの配慮もわかりますから」
軽く手を挙げたクロウは肯定の意を示した。
むしろ後押しするように推している。
「おじさま、ヒデヨシさまの配慮とは……?」
ククリが不思議そうな顔でクロウの髑髏な顔を覗き込む。
今日のお召し物はクロウの礼服みたいな衣装に合わせて、うっすらピンク色を帯びたホワイトのお姫様ドレスで着飾ったククリ。会議が始まる前、ツバサとミロの前に来て「いかがですか?」と披露してくれたのを思い出す。
当然、母親の気持ちになってべた褒めした。
ククリの疑問に答えながら、クロウは皆へ聞こえるように言う。
「工作者の配分に対する気遣い――ですよね?」
「さすがクロウの旦那、わかってらっしゃる」
ヒデヨシは「我が意を得たり」とばかりに猿めいた大きな口元にニヤリと笑みを浮かべた。ツバサたちも得心できたので静かに頷いてみる。
ハトホル陣営には――長男ダイン・ダイダボット。
イシュタル陣営には――変態ジン・グランドラック。
タイザンフクン陣営には――執事ヨイチ・クロケット。
それぞれの陣営にお抱え工作者がいると言っても過言ではない。
しかし、ククルカン陣営にはいなかった。
今までは代表であるアハウが本職でないながらも覚えた工作系技能でやりくりしたり、ダインたちが出張してお手伝いをしてきた経緯がある。
三日間の見学で、ヒデヨシはそこを見抜いたらしい。
「ハトホル国のダイン君もそうだが、イシュタルランドのジン坊やタイザン平原のヨイチ君も工作者としちゃ立派に一人前だ。オレがグチグチ口を出すこともねぇ腕前ときてる。だが、ククルカンの森にゃ専属の工作者がいねぇ」
そのため――土木や建築の進捗が今ひとつだ。
ククルカンの森は亜熱帯地方にある。
鬱蒼とした密林に覆われたジャングル地帯でもあり、そこに暮らす種族もヴァナラ族やショウジョウ族といった自然に慣れ親しんだ者が主だった。
動物に変身する能力を持つウアイナワル族も同様だ。
だからなのか、安全とわかっている自然があふれた場所でさえあれば、大した家がなくとも生きていける種族ばかりなので問題なかった。
雨風しのげる屋根と地べたじゃない床。
それさえあればいい、という者さえいるくらいだ。
ダインやジンの指導の下、最低限のログハウスを建てられるようにはなったものの、そのログハウスだって機密性はまるで皆無という風通しの良さだ。
ジャングルの原住民が暮らす小屋よりマシな程度である。
ヒデヨシは腕を組み、渇いた笑みで首を傾げた。
「いやー、四神同盟をあれこれ見物させてもらったが、文明レベルはほぼ均一なのに、なんでククルカンの森だけ町並みが未開部族のそれなの? って口には出せねーけど失礼ながら思っちゃったからなー……」
「おまえさん、口からおもいっきり出てるわよたった今!?」
ネネコはヒデヨシをビシバシ叩いて指摘した。
あ、いっけね……と慌てるヒデヨシにアハウは苦笑する。
「耳が痛いな。だが、否定もできない」
アハウは髭と見間違える顎の獣毛を整えるように指で梳いた。
今日は珍しく獣人めいた身体にスーツを着込んでいる。ちょっとレトロなデザインのスーツを身にまとう獣王神は、なんとなく『美女と野獣』に登場する獣に変えられた王子を連想してしまう。
マヤムも今日は魔術師のような風体ではなく、魔女というか美女を意識したコーディネイトだし……狙っているのかも知れない。
獣毛の毛先が丸くなるまで梳いてアハウは話を続けた。
「先日の面談でもそのことは話題に上がりましたからね。是非ともククルカンの森で、その民となった人々に建築のイロハを広めていただきたい旨を伝えたが、それを真に受けてくださるとは……」
「その誘いがきっかけなのは間違いねぇさ。他にも理由はあんだけどね」
ヒデヨシは顔を上げてソファタイプの席に座り直す。
そして、指折り数えるように理由を挙げた。
「まず未開発というのが大きいな。ハトホル国を初めとした他の三国は都市の形が出来てきてるから、日之出工務店が手を出す余地がねぇ」
しかし、ククルカンの森はまだ未開発だ。
ダインやジンが国民のための家を建てたり、その国民が自らの手で切り拓いてもいるが、手付かずのジャングルがまだまだのさばっている。
「あの大自然を損なうことなく活かした街造りをやってみてぇんだ。これから増えるであろう国民を養うための大規模農地開拓もやってみてえ。現実世界じゃ問題も多かったが、オレの目が黒いうちはそんなことさせねぇ」
緑にあふれる国を造りたい――それはヒデヨシの夢のひとつ。
この三日間ヒデヨシはツバサたちに「オレは色んな国造りに挑戦したいんだ!」と自らの夢について熱弁を振るっていた。
まずはククルカンの森で挑戦したい! といったところだろう。
「他に理由があれば……オレが助けた人たちのためかな」
軟体生物ながら女性体であるフィメルスライム族。
鉱物の肉体を持つ無性のメタリアン族。
意思を持って動く樹木エレントフォルン族。
様々な怪物の能力を持つモンスター族。
火の精霊で蜥蜴の要素も併せ持つサラマンドル族
水中に生きる男女の妖精ヴォジャノーイ族&ルサールカ族。
蜘蛛の特徴を持つ女性ばかりのアラクネ族。
ヒデヨシが助けてきた種族は、そのほとんどが自然豊かな土地を住み処に選んでいた場合が多い。そのためククルカンの森はうってつけだった。
また、彼らは恩人であるヒデヨシを慕っている。
ヒデヨシが四神同盟のどこかに居を構えると聞けば、許されるのなら彼の膝元で暮らしたがるだろう。
「こんなことを言うのは小っ恥ずかしいんだが……あいつら、オレについてきそうでな。全員まとめてご厄介になりてぇんだ」
いいかい? とヒデヨシは照れ臭そうにアハウへ尋ねる。
もう最初の礼儀は忘れて、親しい友人みたいな口調だった
アハウは快い笑みで大らかに頷く。
「勿論、大歓迎です。ククルカンの森も賑やかになる」
「賑やかだけじゃねえ、暮らしやすい国にすることを保証するぜ」
ヒデヨシはぴょんと跳ね、席から立ち上がった。
その意図を察したアハウも立ち上がり、こちらにやってくるヒデヨシへと歩いていく。向かい合った2人は満足げに握手を交わした。
「よろしく頼むぜ、アハウの旦那!」
「こちらこそ、その工作者の腕に期待させてもらおう」
固い握手を交わす2人に、惜しみない拍手が送られた。
ネネコも席を立ち上がると、「夫をよろしくお願いします」と方々に繰り返し頭を下げる。夫を盛り立てるのを忘れない、できた奥さんだ。
「んで――おれからちょっといいかな?」
挙手をしたのはバンダユウだった。
金糸銀糸を織り込んだド派手な褞袍を羽織り、盆栽みたいな石川五右衛門ヘアに戻っている。愛用の極太煙管は弄ぶだけで火はつけていない。
以前のロマンスグレーな総髪を項でまとめていた方が、スッキリしていて男振りが上がると思うのだが、バンダユウは頑なにこの石川五右衛門ヘアにこだわっているらしい。マリから愚痴っぽく聞かされていた。
番頭と若頭補佐は、会議に相応しいドレスコードで臨んでいる。
バンダユウが手を上げたのは、ヒデヨシとネネコがソファの席に戻ったタイミングを狙ったもの。機会を推し量っていたのだろう。
バンダユウの提案については事前に相談を受けていたので、ツバサも内容は知っている。それを改めて会議の場で発言するつもりなのだ。
「ヒデヨシ君とこの日之出工務店も、晴れて四神同盟入りしたってことで、穂村組や彼んとこの身の振り方についておれから提案があるんだが……」
聞いてくれるかい? とバンダユウは許可を求める。
全員が頷いたので「じゃあ遠慮なく」と本題を切り出した。
「おれたちはグループ丸ごと四神同盟に入ったわけだが、国を治めるわけでもなければ、そこに暮らす国民をまとめるわけでもねぇ」
ヒデヨシが保護した現地種族はククルカンの森で暮らすことになる。
これはアハウの保護下に預けたという意味だ。
また穂村組が“最悪にして絶死をもたらす終焉”との戦いで追い詰められながらも、商人ゼニヤが機転を利かせて倉庫型道具箱に避難させいていた現地種族は現在、ハトホル国の一員として暮らしている。
つまり――どちらの組織も国としての態を為していない。
「なのにおれたちもそれぞれの代表さんと同格に扱われ、四神同盟を六神同盟とか、五神一魔同盟って具合に増やすように名前まで改めさせるってのは妙な話だ。おれたちとしても恐縮しちまうばかりよ……そこでだ」
パン! と膝を叩いてバンダユウは宣言した。
「おれたちは四神同盟所属の専門家集団――ってことにしてくれねぇか?」
バンダユウの話を簡潔にまとめるとこうだ。
穂村組は――傭兵・戦闘集団。
日之出工務店は――土木・建築集団。
四神同盟に属するが国の統治や国民の管理ではなく、それぞれの得意分野で同盟各国をサポートする組織として割り振ってほしいというのである。
「バンダユウのオッチャンたちはそれでいいの?」
ミロは上目遣いにバンダユウを見つめる。
ホームルームに飽きた小学生よろしく、円卓へ上半身を預けるように前のめりになってだらけているが、ミロの視線はバンダユウを気遣うものだった。
穂村組顧問は即答せず、ミロが質問を重ねるのを待った。
「この前いっぱい話した時、オッチャン言ってたじゃん」
自分たちの居場所がほしい――黄金の穂で満ちる村がほしい。
「四神同盟に加わるけど、これまで通り戦争屋さんみたいなことに専念しちゃうなら、穂村組の夢は叶わなくなっちゃう……いいの、それで?」
ミロの素朴な疑問に、バンダユウはちょっと真顔になる。
「……ミロちゃんは優しいな」
それから好々爺といった趣で相好を崩した。
「その気持ちだけでオジさん腹いっぱいでお腹がはち切れそうだぜ……でもなミロちゃん、よくよく考えてみなよ。おれたちゃもう居場所をもらってんだ」
四神同盟という居場所をな――。
パン! と小気味よい音をさせてバンダユウは円卓を叩いた。
「此処こそが黄金の穂で満ちる村だ。それを穂村組の手で守れるってんだから、千年の悲願も達成できたようなもんさ。むしろ、戦うことができるおれたちが率先して前に出なきゃ、稲穂で満ちた村もそこに住む人も台無しにされちまう」
「だから……戦うことを選んでくれたの?」
「そういうこった、これは穂村組の総意と受け取ってくれていい」
レイジ、マリ、セイコ、ガンリュウ、ダテマル……そしてバンダユウ。
暫定的ながら穂村組幹部からも賛意を得ている。
「だから、ミロちゃんが心配することはねぇんだ……ありがとよ」
「うん、納得ずくならいいんだ」
ごめんね変なこと聞いて、とミロは笑顔で謝った。
「いいってことよ。いや、ミロちゃんは本当にボスの器だなぁ」
穂村組のこともちゃんを見てる、とバンダユウは褒めるように笑った。
アホの癖してグループ全体への気配りを忘れない。
だからこそ、異相へ逃げ込んだ亡命者でさえも「真なる世界の住人=仲間」と見なすので、悶着の原因になるかと危ぶんだのだ。
その危惧については幸いにも解決した。
異相の亡命者を助けに行く――という計画が進んでいるからだ。
バンダユウは専門家集団の考えに至った経緯を説明する。
「代表のみんながヒデヨシくんと会談したように、彼は穂村組にも挨拶に来てくれてな。おれとも話し込んだのよ。そん時この話題になったんだ」
後を継ぐようにヒデヨシも話に加わる。
「バンダユウさんのところはケンカが取り柄の組員ばかりで、ヒデヨシんところは物を作るしか能がない奴らの集まり……だったら、できることに集中した方がいいんじゃねぇかって話になったのさ」
四神同盟は転移装置のおかげで行き来は自由である。
(※第146話参照)
往来に制限がないので、いつ何時「手を貸して!」と頼まれても駆けつけることができる利便性があった。それを見込んで造ったというのもある。
この利点あればこそ、同盟に属する組織という妙案が生まれたらしい。
各方面に秀でた専門部隊――。
四神同盟全体をサポートしてくれるとなれば、有り難いこと最上級だ。
今後、何をするにしても計画や行動が捗るだろう。
「モンスターや蕃神から国や人々を守る警護、そいつらを討伐する戦闘……こういった荒事はおれたち穂村組に任せてほしい」
「オレら日之出工務店には各国の工作を請け負わせてくれ。無論、ダインくんたちとも仲良くやっていく自信がある。あと、“還らずの都”の周りに環状都市を造りたいって計画にも一枚噛ませてくれ!」
バンダユウとヒデヨシは胸を張り、各々アピールしてきた。
ヒデヨシなど鬼神族の族長補佐であるヤーマが推進中の“環状都市計画”の協力まで買って出てくれた。
この申し出に対しても、四神同盟から異論は出なかった。
かくして――。
穂村組は戦闘及び傭兵請負集団としてハトホル国に拠点を置き、四神同盟の領域を外敵から守るために戦うことを任とする防衛部隊として――。
日之出工務店は土木及び建築請負集団としてククルカンの森に本店を建て、四神同盟のあらゆる工作業務を引き受ける工作部隊として――。
それぞれ四神同盟に籍を置くことに相成った。
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会議も一段落したので、ティータイムを挟むことにした。
クロコの指示でメイド人形たちがティーセットを乗せたワゴンとともに会議室へ入ってくると、それに乗じてツバサの娘たちまで紛れ込んでくる。
お姫様の格好をした――マリナ・マルガリータ。
指揮者の装いをした――イヒコ・シストラム。
そして、本当は15歳の少年だったが紆余曲折あって7歳の幼女に転生してしまったジャジャ・マル。今日はくノ一らしい格好をしていた。
3人の幼い娘がツバサに群がる。
「センセイ、会議終わったんですよね? じゃあ、もうワタシたちがお邪魔しても大丈夫ですよね? 一緒にお茶しても怒られませんよね?」
「みんなの心臓が穏やかで弾んだ音色を出してるし、ゆったりした雰囲気の音階でお茶を飲むくらいだから、きっと難しい話は済んでますよね?」
まずマリナとイヒコが膝に抱きついてきた。
音界を支配する過大能力を持つイヒコなど、会議室にいる人々が発する心音や脈拍を読み、重大な話し合いが終わったことがわかっていた。
「母上とママ上は出撃の旅に出てしばらく帰ってこないと思ってたでゴザルから、姉上たちが『今のうちに全力で甘えとこう!』って……」
そういうジャジャも、身軽なことと最年少ゆえ小柄な身体を最大限に利用して、ツバサの胸へと飛び込んできた。ごく自然に抱き留めてしまう。
「だからって会議の隙を突かなくてもいいだろ」
母親離れできない娘たちにツバサは半笑いで呆れた。
それでも、子供たちに求められるのは神々の乳母が喜んでしまい、どんなに顔を引き締めようとデレデレに緩むのを止められなかった。
「あれ、これだけか? トモエやヴァトは?」
いつもより集まった子供の数が少ないので訝しむ。
「トモエさんはここ最近の日課になった、結界の見廻りに行ってます」
「ヴァトもついていきましたよ。トモエさんに追いつく練習だって」
筋肉娘はこの度めでたくLV999に昇格した。
おかげで責任感にも目覚めたらしく、その瞬足を活かしてハトホル国の境界線に張られた結界を自主的に見回ってくれているのだ。
次男ヴァトもまだ10歳ながら、ツバサを師匠と崇めている。
成長して身体が出来上がるまで無理はさせられないので、LV999にするべく異相の修行場には連れ込めないが、向上心の化身みたいな少年なので暇さえあれば格上の誰かに付き添い、その技術を学ぼうと躍起になっていた。
嬉しい反面、甘えに来てくれない寂しさが募る。
……いかん、神々の乳母と同調してオカン心が疼いてしまった。
代わりというわけではないが、爆乳にしがみつくジャジャを、膝にすがりつくマリナを、太腿に頬ずりするイヒコをありったけの母性で慈しんでやった。
それを羨ましそうに見つめる視線がひとつ――。
他でもない、クロウの付き添いでやってきたククリである。
ゆえあってククリの母の魂を受け継いだツバサは、通称“ブライド”と呼ばれる変身してパワーアップできるようになったのだが、彼女の魂を得たがためにククリから本物の母親のように慕われるようになってしまったのだ。
ククリはお茶にも手をつけずソワソワしている。
「あの、クロウおじさま……」
ククリは申し訳なさそうなクロウへ声をかけると、彼は最後まで聞かずとも彼女の言いたいことを読み取り、骸骨の顔で穏やかに微笑んだ。
「ええ、行ってらっしゃい。誰もはしたないなどと思いませんよ」
「ありがとうございます、おじさま!」
ククリは席を立ってペコリと頭を下げると、ティーカップを持っていたクロウの頬にキスをしてからトテトテと小走りに駆け出した。
おやおや、と意外そうな声を上げてクロウはお茶を一口啜る。
「母様! ククリも仲間に入れてください!」
母親に甘える子供たちの無邪気さに当てられて、ククリも我慢できなくなったのだろう。上品なドレスに皺が寄るのも構わず抱きついてくる。
子供たちのチームワークも大したものだ。
ククリが駆けてくるや否や、マリナとイヒコは左右に開き、ククリのために場所を設けた。ジャジャもこちらの身体をよじ登り、自らツバサに肩車される場所へと落ち着いた。おかげで正面はガラ空きである。
ソファに座って足を開いたツバサの真正面。ククリは円卓の下から潜り込むようにして、細い腰に抱きつきながら乳房の谷間に顔を埋めてきた。
彼女も分け隔てることなく、娘として慈しんでやる。
こういう時、ツバサの長女を自認するミロは「アタシもーッ!」と率先して突っ込んでくるものだが、最近は大人になったのか混ざらなくなった。
今も円卓に頬杖をついて、チェシャー猫みたいに笑っている。
「アタシはもう子供っぽく混ざったりしないよ」
ミロは独白を読んだかのように言った。
余裕綽々をアピールした態度で微笑んでいる。
大人の余裕っていうより、余裕ぶっこいているアホにしか見えない。
「アタシはツバサさんの長女――そして伴侶だからね」
もう大人だもーん♪ とミロは意味深長に繰り返す。
まあ確かに……ツバサの柔らかく豊満すぎる女体を味わうため、子供たちに混ざって甘えなくてものいいのだろう。
何故なら――夜ごとツバサの肉体を独り占めしているのだから。
あまり触れたくないが毎夜毎夜、とんでもないことをさせられているのだ。
思い出すだけで顔から火が吹き出そうな情事ばかりで困る。
昨夜なんてツバサは仰向けに寝かせられると、ミロはこちらの太腿を掴み、大きくて重い尻が浮くまで持ち上げられると、もう既にドロドロに溶けているツバサの秘所がよく見えるような姿勢にさせて……。
あれはまだ全然、序の口だった。
そこから何回、絶叫みたいな嬌声を上げさせられた覚えていない。
あんなの経験したら――男に戻れなくなりそうだ。
もう無理では? と神々の乳母にツッコまれたので腹が立つ。
また、それを自分が女になってやらされたと思い出すだけで羞恥心が騒ぎ出し、顔を真っ赤にして俯きそうになってしまう。
回想するだけ秘所が熱く濡れる錯覚を覚えてしまう。
「いやー、ホント子だくさんだなツバサくんところは! ウチもあやかりてぇくらいだぜ、なあネネコ?」
ヒデヨシが大声を上げたおかげで我に返れた。
「やだ、おまえさんったら……」
同意を求められたネネコは、ほんのり赤く染めた頬に手を添えた。
――神族と魔族は子供ができにくい。
生物として完成されており、不老不死という生態。寿命が保てば一個体が何千年も生きる。そのため次世代を残す必要性が極めて薄いのだ。
このため、どちらの種族もほぼ不妊に近い。
ただ、調べたところまったくないわけではなく、受精率が極端に低いということまでは判明している。フミカがシミュレーションしたところ、SSレアの当選率の渋いソーシャルゲームどころではないそうだ。
おかげで、ツバサとミロもまだ子宝に恵まれていない。
後継者や次世代についても悩まされそうだな、とツバサは遠い未来に辿り着きそうな難題についてぼんやり考えた。
その時――にわかに会議室の外が騒がしくなった。
会議が一段落して、みんなが思い思いに語り合ってたから話し声でそれなりにしても聞こえてくる騒々しさだ。誰かが廊下を走っている。
2つの神族の気配が近付いていた。
気配は会議室の前まで来ると、蹴破るような勢いで扉を開いた。
「棟梁、おかみさん! 大変です! んで申し訳ありません!」
「ランマル坊ちゃんがまた脱走しました!」
部屋へ飛び込んできたのは、日之出工務店の社員だった。
禿頭で大柄な僧兵のような大男はセイカイ、逆立てた髪に捻り鉢巻きを巻いたタンクトップの女性はユリ、そんな愛称で呼ばれていたはずだ。
息せき切る2人にヒデヨシ夫妻は狼狽した。
ヒデヨシは席を立つとソファの上に飛び乗って、巨漢のセイカイよりも高い位置から見下ろそうとする。
背が低いことをそれなりに気にしているのか?
「なんだとおい!? あれほど目を離すなって言ったのに……!」
面目ありません! とセイカイとユリは土下座する。
「ランマル坊ちゃんも神族なのに、『ちょっとお花摘みに行ってくる』っていうのは変だなー、と思ったんですが止めるわけにも行かず……」
「あんまり遅いのでトイレを調べたら、どうもスライムに変化して換気扇から脱出したみたいで……今、店の者たちで手分けして探しています」
「換気扇から逃げるって……映画やゲームじゃねえんだぞ!?」
映画なら換気扇から不定形の怪物が襲ってきそうだし、ゲームなら怪物から逃げる主人公が通風口を伝って脱出するシーンが思い浮かぶ。
ランマルの脱走に大慌て――これには理由がある。
彼は日之出工務店がハトホル国へ到着してからこの3日、それぞれの国で2~3回は騒動を起こしているのだ。
アホの子だとは思っていたが――傍迷惑なタイプである。
別に人死にが出るようなことはしてないし、騒動といっても笑い話になるようなものなのだが……まあまあ始末に困ることはやっている。
だからヒデヨシとネネコは、工務店の社員に見張りをさせていた。
その度にランマルは、あの手この手で逃げ出すのだが……。
「慌てることはないわおまえさん、あの子の行き先はわかりやすいから」
追いかけるのは簡単よ、とネネコも立ち上がる。
そう、この数日の騒動にはツバサも何度か付き合ったのだが、ランマルが騒ぎを起こす現場はかなり限定されていた。
男女問わず人が多いところ――いわゆる繁華街めいた場所だ。
~~~~~~~~~~~~
ハトホル国――食堂やお店が軒を並べる大通り。
いつもなら様々な種族がそれぞれの理由で往来を歩いているのだが、今日は黄色い悲鳴が上がり、人々があちらへこちらへ右往左往させられていた。
いくつかの女の子のグループが逃げ惑っている。
「そこの鱗がキュートなカワイコちゃんたち~、オイラとお茶しな~い?」
ランマルがラミアの少女たちを追い回していた。
大きなおさげを揺らした拳法家みたいな青年が追いかけると、ラミアの少女たちはキャアキャアと悲鳴を上げながら蛇の身体をくねらせて逃げていく。
端から見てると――鬼ごっこで遊んでいるようにも見える。
ラミアたちも本気で嫌がっていないのだ。
ランマルは曲がりなりにも神族、それもLV999の強者。
力ある神族に誘われれば、ラミア族の女性なら誰もが舞い上がるだろう。
彼女たちの種族は強い男性に目がないのだ。
ラミア族は女性のみ、下半身が大蛇となっている種族。
そのため子供をもうけるには他種族の男に種を求める必要があった。
神族ならば申し分ない――最高位の種である。
しかし、ハトホル国に暮らすラミア族は「ハトホル様を筆頭に神族の皆さまには恩義がある」と敬ってくれているので、神族との間に一線の距離を置いていた。
求められない限り、性的なアピールは自粛してくれているのだ。
だが、神族から積極的となれば話は別である。
ランマルの気安さもあって誘われそうになるのだが、下手に神族に関係を持てばツバサたちに迷惑をかけるという自重の念も働いてしまう。
誘いに乗りたいけど――ここは辛抱するところ。
そうした複雑な想いと、ランマルのコミカルなキャラクターが功を奏して、御覧の通りの「楽しい鬼ごっこ」な戯れが行われていた。
「あー、そっちの羽がキレイなカワイコちゃんたちもどーおー?」
ランマルは標的を変える。今度はハルピュイア族の少女たちだ。
腕が大きな鳥の翼となっているハルピュイア族。
彼女たちもラミア族同様、女性だけしか生まれてこない種族なので、他種族から男の種をもらって繁殖する必要があった。
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なので、彼女たちも笑い転げながら逃げ惑っている。
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「おやめください! お客人!」
スプリガン族のガンザブロンがランマルの前に立ちはだかった。
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被害こそ出てないが、ランマルを注意するために現れたのだ。
いきなり2mを超えるロボットのオジさんに行く手を阻まれたランマルだが、わずかに感嘆の声を漏らすだけで大して驚きはしなかった。
警備員の格好をしたガンザブロンは、やれやれとため息をつく。
「ランマルさんやったね。ないごてこげんところで騒ぎを起こさるっとな? ツバサ様やヒデヨシ様たちは御存知じゃっとな?」
ガンザブロンは不良少年を捕まえた警官のような態度で接すると、手帳を開いて簡易的に状況を書き留める。後で報告書にまとめるためだ。
その後、ランマルに「ツバサ様に連絡しますよ?」ということを話しながら通信機を用意する(※スプリガン族の何人かはツバサへの特別回線を持つ)
しかし、ランマルの耳には一切届いていない。
薩摩弁を喋るロボットに、ランマルは興味津々で瞳を輝かせた。
その眼はラミア族やハルピュイア族を追い回している時よりも煌めき、キラキラと羨望の眼差しでガンザブロンの巨体を見上げていた。
「いいな、オッチャンのその機械みたいな肉体……」
欲しい――ランマルから骨の鳴る音がした。
ゴキン! と滅多に聞けるものではない骨が変形する音を鳴り響かせ、ランマルは肉体を変容させていく。変わるのは骨だけではない。
筋肉や脂肪まで泡立つ音を立てて、配置や形状を変えていく。
175㎝の背丈は伸び、10㎝プラスの185㎝まで高くなる。
かといって、体格が大きくなったわけではない。手足の先はスラリとしており、男のものとは思えないほどほっそりとなめらかだった。
胸や尻は逆らうように膨張していく。
上着を止めていたボタンがはじけ飛ぶほど膨らんだ胸は、筋肉ではなく大量の皮下脂肪によるもの。つまり、特大の乳房になっていた。
腰回りは細くなったので、胴着のズボンを締めていた紐が緩む。
しかし、肉のたわむ音がしそうなくらい安産型に広がったワイドな臀部によってずり下がるのが食い止められていた。
紅顔とは言えずとも、そこそこ美少年な顔立ちにも変化が現れる。
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目、眉、睫毛、鼻……どれもがネネコに瓜二つだった。
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しかし、今のランマルはネネコと双子の姉妹だと言い張れば、十中八九誰もが鵜呑みにするくらいそっくりな長身の美女に変身していた。
「カワイコちゃんが相手してくんないなら……イケメンもアリだよね」
この発言が意味するもの。
ランマルは女性も男性もイケる口、ということだ。
服の合わせ目、覗ける乳房の谷間をランマルは見せびらかす。
妖艶な微笑みを浮かべ、誘っているつもりだろう。
だが――相手が悪かった。
かつて絶滅寸前に追い込まれたスプリガン族。
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後にスプリガン中興の父祖と讃えられることは間違いないだろう。
しかし、ガンザブロンほど誠実な男はいない。
彼は同僚、先輩、後輩……亡くなった戦友の妻たちを抱いてきた。
子孫を残すために仕方なくだ。
それがガンザブロンの実直な心を嘖み、罪悪感と後悔の念で押し潰しそうなほど苦しめてきた。最近、ようやく解消されたのだが……。
このためガンザブロンは、正しい男女関係への提言や、夫婦の愛情の深さ。そして女性への貞淑さには一家言を持つようになった。
媚びた目線で男を誘惑する女性など、説教の対象にしかならない。
目の前のランマルのように――。
ガンザブロンは見たことがないほど不機嫌な顔になると、まずランマルの服の前をしっかり合わせた。決して乳房が覗けることのないようにだ。
次に彼(女?)の顔を鋼鉄の両手でソッと挟み込む。
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顔を押し潰す万力のような具合である。
「女子が公ん場でこんなことしたしたらいけませんッ!」
「ご、ごめんなさぁぁぁ~い! で、でもオイラはどうしても……」
ランマルは変身するのも忘れて痛がる。
弁解しようとすれば――万力の幅が狭まるだけだ。
「デモもストもなか !ツバサ様たちが来っまで反省なっせ!」
「んぎぃぃぃっ! お母ちゃんたち来るまでこのままぁぁぁぁんッ!?」
そんな~、とランマルは女の子の声で情けない悲鳴を上げる。
――男でも女でも構わずに誘おうとする。
バイセクシャルと言い張るにはあまりにも見境のないナンパ、これにはランマルが覚醒した過大能力が切実に関係していた。
ランマルの過大能力――【愛の滴りを浴びて我が身は変容する】。
多種族の肉体的能力をあることを行って獲得し、自らの肉体に覚え込ませ、時と場合に応じて我が身に反映させて変身できる過大能力。
変身した肉体は多種族であろうと、神族基準の能力を発揮する。
たとえばエルフの肉体的能力を覚えてエルフに変身すると、外見こそエルフだが肉体的ポテンシャルはエルフを模倣した神族のもの、ドワーフならばドワーフを真似た神族のもの、オークなら……といった具合だ。
そして、獲得した種族の肉体を複合させて使うことも可能。
これがランマルにとって最大の強みである。
多くの種族の肉体的能力を覚えれば覚えるほど、その特性を織り交ぜれば織り交ぜるほど……できることの幅が広がり、融通性も高くなる。
しかしこの能力――ひとつだけ難点があった。
倫理に厳しい人なら「使うな!」と怒りそうな難点だ。
多種族から肉体的能力を得するためには、その種族のすべてを学び取るようにあることしなければならない。それは、人によっては超難題である。
大概の人は好むが、これにもまた好き嫌いがある。
生物にとって永遠の命題なのだが……人間はこれを重視する人もいれば、軽視する人もいるし、公共の場では詳細を語ろうとする者は少ないだろう。
その方法をランマルは泣きながら訴える。
「だって、オイラ……エッチなことしないと能力もらえないんだものぉ!」
多種族と恋愛して――肉体関係を結ぶ。
それが種族的な肉体的能力を覚えるための必須条件だった。
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