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第14章 LV999 STAMPEDE
第326話:バッドでデッドなお茶会へようこそ
しおりを挟む長く暗い──どこまでも続く薄暗い廊下。
そこを歩く大小5人の人影。
人影というには、あまりに大きく歪なものも混ざっている。
彼らの足音に統一感はない。ありきたりな革靴にハイヒール、草鞋といった古風な履き物もあれば、一歩踏み出しただけで特別製の靴底に穴を開けそうな重低音の足音を轟かせるブーツもあった。
最後尾に続くのは、巨大な蛇が這いずる音。
「なに黙りこくってんだよ、リード。ほら、アレだ」
なんか喋れよ、とアダマスは踏み鳴らす足音も苛立たしげだ。
──3m越えの人間離れした巨漢。
天災を司る神に相応しい堂々とした体躯、神話の英雄を意識したコスチューム。これはアダマスの趣味ではなく、サバエがコーディネイトしたものだ。
いっそ「パンツ一丁でもいい」と言い張るアダマスに、「悪役であっても品格というものが必要だわ!」とサバエが力説。やっとこさ着せたそうな。
ただし、頭頂部を飾るリーゼントは彼の誇りだ。
あの巨砲と見紛う猛々しいヘアスタイルは、現実から引き継いできたアダマスの魂らしい。リーゼントだけは何があっても型崩れを許さない。
型崩れするほど追い詰められた彼も、お目に掛かった例しがない。
今もダイヤモンドの櫛でせっせと整えている。
「いつまでひねくれてんだ、らしくねえ」
「……別にひねくれてませんよ」
一番前を歩くリードは振り向き、憂鬱な半眼で見上げる。
少年とも青年とも言い張れる微妙な年頃、線の細さと華奢な体格がその微妙さに拍車をかけている。全身黒ずくめだから尚更だった。
バンダユウに「鬼太郎」と揶揄された、片眼を隠したヘアスタイル。
これは意図したものである。覗けている左眼はいつでも倦み疲れたように死んでいるのだが、今日はより悪化して陰鬱に澱んでいた。
「………………はぁ」
言い返そうとしたが言葉が出ない。
正直、軽口を叩く余裕はない。アダマスに相槌を打つ気力さえなかった。それでもこのまま無反応を貫けば、この兄貴分に小突かれかねないので、渋々と億劫そうに振り返った。
手加減一発で山をも粉々に打ち砕く拳に小突かれたくはない。
体格的に貧弱なリードには、それなりに痛いのだ。
「締まらねぇ顔してんな。まるでケンカに負けた餓鬼だぜ」
「……実質、負けじゃないですか」
アダマスに呆れられそうだが、リードはふて腐れたまま答える。
現状を再確認し、自らへ言い聞かせるようにだ。
「LV999が14人もいたのに、たった1人の老人にあしらわれて、9人も脱落させて……“終わりで始まりの卵”はしょうがないとしても、肝心の穂村組の殲滅という任務を完遂することもできず……」
「挙げ句、ロンドの大将に尻ぬぐいさせたっシャからなぁ」
言いにくいことをサジロウが平気で呟いた。
羽織、袴に着物……どれも金のかかった羽振りのいい武芸者みたいな格好。背中には佐々木小次郎よろしく長刀を背負い、履き物まで古臭い草鞋だ。
ただし、顔は三枚目。出っ歯でヘラヘラ笑っている。
配下であるリードたちが取り逃した雑魚の群れを処理するため、総大将自らの手を煩わせた。それがどれほどの失態かわかっていない。
責任感のない人はいいよなぁ……。
口にこそ出さないが、リードは恨みがましくサジロウを睨みつける。
しかし、無責任サムライは何処吹く風でせせら笑っていた。
最悪にして絶死をもたらす終焉は──総勢108人。
新規参入者と任務中の死亡者(殉職といっていいのか?)という出入りが激しいので人員は目まぐるしく入れ替わるが、不思議とこの人数を保っている。
昇格を待っている人材がリードたちの下に唸っている証でもあった。
これだけでロンドが従える組織力の規模が伝わるはずだ。
108人はいくつかの部隊に分けられていた。
大体10人前後でチーム分けされており、新撰組に肖ったのか一番隊から十番隊までナンバリングされている。リードたちはロンドの覚えがいいためか、栄えある一番隊に任じられていた。
隊を率いるリードは、謂わば隊長である。
兄貴分のアダマスや姉貴分のジンカイといった格上が2人もいるせいか、隊長職を押し付けられた感もあるが、それでもリードは成果を上げてきた。
それが──隊員の半数以上を失う失態。
これまで隠れ里に潜んでいた黄金の起源龍を仕留めたり、アルマゲドン時代に名を馳せた高LVパーティーを全滅させたりと、華々しく活躍してきた一番隊の看板に泥を塗るような惨敗振りだった。
「そう気を落とさずとも……リードさんばかりの責任じゃありませんわ」
私たちにも責はあります、とサバエはフォローしてくれた。
ゴシックドレス調の派手ではないのに豪奢な喪服。頭に付けたファッション性の高い黒の帽子から垂れ下がる黒いレースで顔色は窺えない。
憂いを帯びる美声には、リードを思い遣る優しさがあった。
「亡くなった者たちはリードさんの忠告に耳を貸さず、あの物騒なご老人へ迂闊に手を出したのですから、自己責任と割り切るしか……」
鬱を奏でるサバエに慰められるとは妙な気分だ。
彼女の後ろではアダマスが太い腕を組んで「うんうん」と頷いている。
「ほら、アレだ。弱火強火ってやつだ。死んだ奴が悪ぃのよ」
「はいはい、弱肉強食っていいたいのね多分」
それそれ、とアダマスは恒例になってきた言い間違いをサバエに訂正され、反省するでもなく男臭い笑みのまま彼女を指差した。
「恐らく、ロンドさんは何も言わんぞ」
頭上から降ってきた女性の声に、振り返りながら仰ぎ見る。
──ジンカイ・ティアマトゥ。
下半身が大蛇になっているだけではなく、様々な生物のパーツで「これでもか!」というくらいデコレートした禍々しい容姿の大地母神である。
ズリズリ……と這いずる音は彼女のものだ。
下半身は10mを超える大蛇になっているが、何十種類もの生物の脚が大きさや長さを無視して統一感なく生えており、彼女が前へ進むのを助けていた。ダンゴムシやムカデの歩き方を彷彿とさせる。
腰から上の人間的な部分も女性としてはとてつもなく大柄で、クッションになってもらった爆乳は這いずる度にブルンブルンと波打っていた。
ここに過剰反応する男はいないが……圧巻である。
大柄だとしても十二分なくらいの美貌を誇るジンカイは、凜々しくも男前な表情で見下ろすと、リードと視線を合わせてから話した。
口調まで男らしく、女臭さがまったくない。
「あの人は俺たちが考えている以上にドライだ。そして比喩ではなく、本当にこの世界を滅ぼそうとしている……そこに例外はない」
あらゆるものを塵さえ許すことなく、完全に消し去るつもりだ。
最悪にして絶死をもたらす終焉も──自分自身さえも。
「世界廃滅の過程で俺たちが何人死のうと『後始末の手間が省けた』の一言で済ますだろうし、万に一つもあり得ないが、自分が殺されても『しょがねーか』と笑って済ませる……と予想できる」
「あー……ほら、アレだ。ロンドさんなら笑顔で言うわ」
「そうそう、妙にヤニ臭そうな笑顔で言うっシャ」
「前髪がほつれてたりしたらグッと来ますわね……」
仲間たちは概ね好評のまま受け入れてるが、リードは「ええぇ……」という愕然とした表情で口を半開きにするしかなかった。
まあ──言いそうなのは否定できない。
最悪にして絶死をもたらす終焉は、そもそも仲間意識が薄かった。
リードがアダマスを兄貴分と敬ったり、サバエが出張中のオセロットを弟のように溺愛したり、あるいは隊の枠を越えた交友関係があるにはある。
しかし、仲間の死を悼むことはほぼない。
精々、ボゥアの仇討ちをしようとしてバンダユウの返り討ちに遭ったガグがいいところだ。その場の勢いで仕返しするのが関の山だろう。
事実、リードも死んだ仲間を悼む気持ちはない。
弱い奴が負けて死んだ、それ以上の感慨はなかった。
それでも9人もの人的財産を失ったのは組織として損失であり、そいつらを采配していた中間管理職であるリードの不手際である。
リードを悩ませるのは、その肥大化した責任感からだった。
――世界を滅ぼすとなれば一大事業。
その破壊活動という工程において、人手や戦力は必要不可欠だというのに、徒に死なせれば監督不行き届きの誹りは免れまい。
憂鬱な理由は大体これである。
部下の不始末の責任を取らされる……これが中間管理職の理不尽さ。
そこを察した口振りでジンカイは続ける。
「……俺たちが1人や2人欠けたところで気にも留めんさ。ごっそり減ったところで『じゃあ補充するか』ぐらいの感想しか持たんよ……アダマスやサバエも言っていたが、死んだ奴が悪い。弱さは自己責任……そう切り捨てるはずだ」
「それはまあ……そうなんですけどね」
一番隊の功績が誇りのリードは、責任も蔑ろにしたくなかった。
世界廃滅を謳う“最悪にして絶死をもたら終焉”の中でも、リード率いる一番隊は最も成果を上げてきた。それだけは自慢できる。
なので、今回の失態により『おまえクビな、じゃあ死ね』なんて失業保険も降りる暇がない即死級の解雇はないと思うが……。
ロンドは気まぐれだから――ありそうで怖い。
「そろそろ見えてきましたわよ。本当、長い廊下ですわね」
歩くのも一苦労ですわ、とサバエが溜息をつきながら前を指差した。
申し訳程度の乏しい照明しかない暗い廊下を歩いた先、出口の形に切り取られた明かりが見えてくる。その先に広がるのは仲間が集う中央の間だ。
ロンドはあざ笑うように“円卓会議場”と名付けていた。
ドーム状の丸みを帯びた天井。
贅ではなく美を追究したデザイン性の高いシャンデリアが、適切かつ均等な間隔で並んでおり、球場を上回る面積の広間を照らし出していた。
複雑な紋様が織り込まれたカーペットが敷き詰められている。
広間のあちらこちらには、雑多な品々が適当に並べ置かれている。雑然としたそれらは“最悪にして絶死をもたらす終焉”メンバーの持ち帰った戦利品や、お気に入りの私物だ。調度品の代わりにもならない。
統一性がないので、寂れた博物館みたいな案配だ。
戦利品の中には、犠牲者を素材にしたと思われる品も多い。どういった過大能力や技能で加工したのか、まだ生きている物もある。
――六番隊が作った芸術品だ。
あそこの隊に属するメンバーは、生命体を加工する魔法や呪いを得意とする者で構成されている。そして、全員もれなく歪んだ美意識の持ち主だった。
金属や鉱石などに固められた者――。
人体の特徴を残したまま道具や器物とされた者――。
不定型な肉塊と化した者、スライムのようにされた者――。
樹木や果実にキノコといった動かぬ静物にされた者――。
状態変化の呪いを浴びた者の見本市だ。
どいつもこいつも人間の尊厳どころか神族や魔族としての能力も剥奪されているが、意識はそのままだ。物によっては口も利ける。
世界が滅びるまで無様に生かしておく、という腹積もりらしい。
脇を通ると聞こえる「コロシテ……」や「タスケテ……」が鬱陶しかった。
「……ったく、悪趣味シャ」
「ほら、アレだ。ひと思いに殺してやれよな」
呪われた陳列物を横目に、サジロウとアダマスが舌打ちした。
仕合と喧嘩を至上の喜びとする彼らは、敗者を屠ることはあっても決して蔑もうとはしない。そんな彼らの美意識にはお気に召さないようだ。
――リードも同感だった。
アダマスは対戦者をダイヤモンドになるまで圧縮炭化して“コレクション”するのが趣味だが、一瞬で押し潰すことでトドメを刺している。曰く「卒塔婆や位牌に墓標も兼ねてるから一石四鳥だぜ」とのことだ。
何でもうろ覚えなのに、そういう単語は知っているのか……。
最悪にして絶死をもらたす終焉に名を連ねる者は、生きた芸術の声に耳を貸すことなく通り過ぎていく。苛立ち紛れに壊す奴もまれにいる。
アダマスやサジロウがそうだ――通りすがりに手当たり次第で壊す。
広間の中央には、大きな円卓が据え置かれていた。
外壁のように円卓の円周を取り囲むロングソファは、東西南北に合わせた切れ目があり、そこから出入りできるようになっていた。
20人は同時に着席できる円卓。
もし108人全員集められたとしても、その時は隊長格のみ座れればいいので、このサイズで十分だった。
円卓に腰掛ける者は、ロンドしか見当たらない。
どうやら他の隊はまだ戻っておらず、リードたちの一番隊がチーム名の相応しく一番乗りだったらしい。
他の隊の前でしくじりを報告せずに済んだと安堵すべきか……。
あるいは、いの一番に失敗報告に戻ってきたことを恥じるべきか……。
どちらにせよ、リードは神族にあるまじき胃痛に悩まされた。
もう1人。円卓にこそ着いていないが、ロンドへ付き添うように立ち尽くす人影があった。リードたちは彼女に会釈する。
ロンドの傍らに控えるのは──メイド姿の女性だった。
メイドといってもオーソドックスなメイド服ではなく、性的嗜好を満たすために作られたもの。俗に“フレンチメイド”とも称される、露出度が極めて高いセクシー路線まっしぐらのコスチュームだ。
スラリとしたモデルのような体型。バストやヒップは大盛り過ぎず小盛りほど控え目でもない、誰もが羨む最高のスタイル。
そんなモデル体型なラインをひけらかすメイド服だった。
丈の短いタイトなミニスカート、面積的にしている意味がない扇情的なエプロン、浅くもないが視線は注がれる胸の谷間が覗ける胸元……。
ウェーブの掛かった黄金色の髪はショートヘアで整えられ、わざとそういうデザインにしたのか、やたら刺々しいホワイトブリムで飾っていた。
よく観察すれば、彼女の装飾品には棘が目立つ。
チョーカー、リストバンド、アンクルバンド、ピアス……。
どれも拷問器具のように棘が逆立っている。彼女の趣味だという。
GM№29──ミレン・カーマーラ。
格好こそHなメイドさんだが、その実態は現実世界の頃からロンドを支えてきた三大幹部の1人である。リードたちからすれば上役だ。
「お帰りなさいませ、一番隊の皆さま」
会釈するリードたちに気付いたミレンがお辞儀をしてきた。
虫を殺したこともないような可憐な面立ち。しかし、いつも澄まし顔で微笑すらSSレアだ。感情を露わにした場面はあまりお目にかかれない。
彼女は自身が幹部でありながら、部下であるはずのリードたちに敬語を使い、様付けで呼ばわるのだ。返って恐縮してしまう。
「ただいま戻りましたミレンさん。それで……ロンドさんは?」
「ロンド様でしたら、こちらにおられますが──」
ロンドは絶賛爆睡中だった。
ソファには両肩を預けるように両腕を伸ばし、円卓には長い両脚を絡めるように両脚を乗せて、天井を見上げたまま軽快ないびきを立てていた。
目元にはアイマスク、耳全体を覆う高性能タイプのヘッドホンを付け、何かしらの音楽を聴きながら寝入っているらしい。だらしなく開いた口元からは涎がこぼれかけ、鼻からはまさかの鼻提灯が膨らんだり萎んだりしていた。
仮眠中の敏腕プロデューサーのようである。
六本木で関係者と徹夜で飲み明かして、仕事の合間に眠くてしょうがないから一眠りしているような案配だ。
中年親父らしからぬスマートで若々しい風体。
スタイリッシュなファッションが、そんなイメージを加速させる。
アダマスやサジロウは「鼻提灯!」と指を指して笑っているが、リードは苦虫を噛み潰した顔を手で覆うしかない。
あまりにもだらしないロンドの生活態度に幻滅しそうだった。
仕事はできる人だから……とリードは自分を説得する。
「ロンド様、リード様と一番隊がお戻りになりました」
「ぐー……すかぁー……くぅー……すかー」
ミレンははっきりと聞こえる声で呼びかけるがロンドに反応はなく、返事の代わりに聞こえてきたのは、寝言のようないびきだった。
ヘッドホンを付けてるから、大声で呼びかけても気付くまい。
「おいロンド様、リード様たちが帰ってきましたよ」
「うぅん、むにゃむにゃ……ミサコ、あと五分寝かせて……」
ミレンの声は数オクターブ強くなり、上司に「おい」と呼びかけるほど荒っぽい口調になる。肩に手をかけて揺さぶるもロンドが起きる気配はない。
次の瞬間――ブチッと何かが切れる音がした。
音の正体は、ミレンの堪忍袋の緒だったらしい。
彼女はポーカーフェイスのまま、こめかみに血管の編み目を膨らませる。次に男なら釘付けになる美脚を頭上へと振り上げた。
タイトなスカートの中身が露わになるのも厭わずに――。
ブラックの布面積が極めて少ないショーツに注目する暇もない豪速で、美脚から繰り出されるかかと落としがロンドの顔面に炸裂する。
「さっさと起きなさい、このグータラ親父!」
「へぶっ!? 痛い痛い鼻血出た! なになにどしたの何事!?」
熟睡中のロンドは、直撃したかかとで目覚めた。
ロンドは鼻血を垂らしたまま、ヘッドホンやアイマスクを放り捨てるように剥ぎ取って飛び起きた。右へ左へ上へ下へと顔を振り回して、顔面へお見舞いされたものの正体を探そうとしている。
ミレンは何食わぬ顔で、瀟洒なメイドの佇まいに戻っていた。
彼女に蹴られたとは夢にも思わないらしい。
「お目覚めですか、ロンド様?」
「ミレンちゃん……オレのことグータラとか言わなかった?」
蹴られたことより、そっちを優先するらしい。
「いえ、『グースカ寝てんじゃねえこのタコ』と罵声を浴びせたまでです」
「あっそ、ならいいや」
いいんですか!? とツッコミかけたが辛抱した。
笑ってはいけないなんちゃら──みたいな空気を感じたのだ。
「……お、リードちゃんたち今帰り? お疲れちゃん」
リードたちに気付いたロンドは気の良い笑みを浮かべると、長い指をワキワキさせながら振った。それからハンカチで鼻血を拭う。
「ただいま戻りましたロンド様」
リードがお辞儀をすれば、他の面子もそれに習う。
利かん坊のアダマスも、ロンドには一目置いているので礼儀正しい。
「ああ、堅苦しい挨拶はいいよ。オレたちゃ世界を滅ぼすって目的で結託してるに過ぎないんだ。強い弱いはあっても付き合いは対等だよ」
まあ座んな、とロンドは円卓への着席を勧めてくる。
本来ならリードたちは彼の前で跪くべきなのだが、ロンドは許さない。どんなに下っ端でも円卓へ座るよう促すのだ。
強さの上下関係はあれど――組織内では対等な関係。
それがロンドのポリシーであり、“最悪にして絶死をもたらす終焉”メンバーはきつく言い渡されていた。なので、彼の強さに謙ることはあっても、仕事の上ではパートナーのように交流することが許されていた。
だから、跪くなど以ての外らしい。
リードはロンドの正面に座り、その左右にアダマスとサバエが腰を下ろす。
ジンカイは四分割されたソファのひとつを1人で使い切り、サジロウは空いたソファへ離れて座っていた。彼ははぐれ者の気質なのだ。
「おつとめご苦労さん、なんか飲む?」
オレはカフェカプチーノね、とロンドはミレンに注文する。
「ほら、アレだ。強炭酸コーラ、大ジョッキに氷少なめで」
「私はロシアンティーをくださいな」
「梅昆布茶プリーズっシャ、できればお茶請けも」
「カフェラテ。ミルクと砂糖多め、できればウィンナーコーヒーみたいにたっぷりクリームを乗せてほしい……」
仲間たちはロンドの奢りにたかるみたいに次々と注文していく。ミレンも「遠慮なさらず」という視線を向けてくるので、リードも断りにくい。
「……珈琲、濃いめのブラックで」
かしこまりました、とミレンは注文を書き留めて場を離れる。
どこにあるのかよくわからないのだが、彼女は給仕室へ向かうとリードたちの頼んだ飲み物や食べ物を用意して戻ってくる。
どんな注文でも断らないし、難しい料理でも5分以上は待たせない。
給仕メイドとしては破格の有能さだった。
「さて、お茶が来る前に――仕事の首尾でも聞いておこうか?」
どんな案配よ? とロンドは訊いてくる。
14人いたはずの一番隊が5人しか戻らず、それに触れるでもなければまったくのノーリアクション。おまけに穂村組の後始末をしてくれたのだから、大凡のことはロンド自身も把握しているはずだ。
なのに、底意地の悪い笑みが「報告してちょうだい」と迫ってきた。
それでもリードは隊長としての責務があった。
「はい、穂村組殲滅の任務ですが……誠に申し訳ありません」
まず謝罪の一声から始める。
そして、来る道すがら脳内で編集した報告書を詳らかにした。
~~~~~~~~~~~~
「下駄を履いてるか――さすが年寄り、表現に味があるね」
そこがツボだったらしい。
報告内容を聞き終えたロンドは、バンダユウがリードたちを指して「下駄を履いている」と評したことを愉快そうに蒸し返した。
9人の仲間を失ったことや穂村組を取り逃がしたこと、更に言えば穂村組の後始末をロンドにやらせたことについては一切言及されなかった。叱られるべき案件を無視されると、部下としては肩身が狭くなる。
「遅かれ早かれバレるかなー、とは思ってたんだけどな」
百戦錬磨の老人は怖いね、とロンドは苦笑する。
「アダマスやジンカイみたいに自力で990越えてりゃ、オレの履かせた下駄もちゃんと役に立つんだが……やっとこすっとこ800前後の半端者にゃあ高下駄すぎたんかね。ハリボテのLV999と笑われてても仕方ねぇやな」
「やはり数だけ揃えてもうるさいだけでしたね」
反省の色を見せるロンドに、ミレンが厳しい声で追い打ちをかける。
「ですから私もマッコウ様もアリガミ様も申し上げたのです。最低でもLV950を越えた者のみを選抜して特別な力を与え、少数精鋭の親衛隊を結成させる……残りの者たちは兵隊に留めておくべきだと」
ミレンたち三大幹部の意見はそうだったらしい。
GM№18――マッコウ・モート。
GM№25――アリガミ・スサノオ。
どちらもミレンと肩を並べる三大幹部である。
現在、サバエが弟のように可愛がっているオセロット・ベヒモスという少年を連れて特別任務に出掛けていた。
その任務も、彼らの発案だと聞いている。
ロンドからの指令は、基本アバウトなものが多い。
各部隊に細かな指示をするのは、マッコウやアリガミの仕事だった。この仕事はミレンも他人事ではなく、幹部と部隊とロンドの間で調整役を務めていた。
「いーじゃん派手で。多い方が賑やかだし、みんなビビるだろ?」
「だからといって108人の構成員はやり過ぎです。統率を取るのもままなりませんし、質の悪い者が混ざりすぎておりました」
ミレンの評価は辛辣だった。
悪びれるどころか自慢げに誇っているロンドに対して、ミレンはほんの少し眉間を寄せると意見といよりも忠言を叩きつけていく。
ポーカーフェイスがデフォのミレンにそんな表情をさせる。
長い付き合いだというから、ロンドも何かを察したのだろう。「やり過ぎか」とわずかに反省したようだ。
「まあ、今回の件で元LVが低い連中は、マジモンのLV999にゃ鼻であしらわれるってわかったからなぁ……再考の余地どころか、根っこから直していくしかないわな、うん即座にそうしよう」
結局そうなるしな、とロンドは前向きに言った。
「ロンドさん、結局とは……?」
その意味をリードが問えば、ロンドはカフェカプチーノをちょっと苦そうな顔で啜ってから口早に答えてくれた。
「ああ、今回リードちゃんの一番隊が証明してくれたでしょ? 死んじまった9人のアホ……ああ、こいつらを無駄死にさせたとか反省しなくていいよ。責任追及もしない。死んだ奴がマヌケなんだから」
失敗の一端があっさり許された。
呆気に取られているリードだが、圧のある視線を感じて横目を滑らせると、アダマスやジンカイが「ほらな」という顔で笑っている。
気の利くミレンは、お茶と一緒に軽食も用意してくれた。
――ボリュームありすぎだが。
サバエが摘まむサンドウィッチや、サジロウが頬張っているおにぎりはまだ許容範囲だが、アダマスがかぶりついているのは大型車両くらいある巨体で大地を疾走するバリバリ鳥の特大チキンレッグだ。
ジンカイが女性とは思えぬ大口を開けてバリバリ噛み砕いているのは、アノマロカンスという海老みたいな古代魚。それを素揚げにしたものだ。
どちらも見た目はゲテモノだが、味はいいと評判である。
お茶請けというには胃袋を圧迫しそうなものばかりだが、そういったものをかき込みつつ、彼らは「ほらな」という顔をしていた。
今日の晩御飯いらないかな……リードは遠い目になった。
お茶請けには水菓子もある。
真球果という、この世にはあり得ない完璧な球体をした果実がいくつも大皿に盛られている。大きさはリンゴより一回り大きい。
甘味が強く酸味が薄めで、強化効果もある神々の果実だ。
その真球果を囓りながらロンドが続ける。
「その9人はな、バンダユウとかいう無双ジジイが間引いてくれたと思っときゃいいんだよ。使えねえ人材を始末してもらえた上、穂村組って影に隠れてたおっかねえジジイを表に引っ張り出せたんだから万々歳さ」
撒き餌としちゃ上出来だ、とロンドは言う。
「9人で済んで安上がり――と考えておくべきかも知れませんね」
そうそう、とミレンの一言にロンドは頷いた。
「まだ戻ってないけど二番隊から十番隊も、一番隊と同じように穂村組みたいな、真なる世界をあっちへウロウロこっちへウロウロしてる連中が目障りだからって潰させている最中だが……ま、似たようなもんだろ」
真なる強者――LV999。
バンダユウのように幅を利かせた組織を隠れ蓑にして、自らの強さを誇示しない本当の古兵はまだまだ潜んでいるはずだ。
──最悪にして絶死をもたらす終焉。
一年間に及ぶ潜伏期間を経て与えられた最初の任務は、10の部隊が各地に散り、無差別な殺戮と破壊を楽しむことだった。
豊かな自然は二度と甦らぬよう灰まで焼き尽くすこと──。
神族や魔族は無論、どんな弱小種族でも殺し尽くすこと──。
植物から微生物に至るまで徹底的に滅ぼし尽くすこと──。
そして──“終わりで始まりの卵”を探すこと。
任務の際、数人の生存者をわざと見逃すこともある。
そういった命冥加な者たちに最悪にして絶死をもたらす終焉の恐ろしさを植えつけつつ、“終わりで始まりの卵”への神秘性を匂わせる。
誰もが特別な卵に興味を持ち、いつか誰かが探し出す。
見付けたら――強奪すればいい。
こうした喧伝もまた、リードたちの仕事のひとつだ。
隠れていた黄金の起源龍や、有名な高LVパーティーを撃破した一番隊。
三回目の遠征が、穂村組殲滅だった。
「“最悪にして絶死をもたらす終焉《ら》”は、隠れてたLV999を焚き付けてくれた。今後は、そいつらを巣穴から引きずり出してこい」
LV999を倒せずとも被害を与えられれば良し――。
倒せずとも表舞台に出せればそれも良し――。
「もしも倒せたら大金星、特別ボーナスを大盤振る舞いだな」
倒せたらな、とロンドは挑発的に繰り返す。
「そうやって各地でドンパチを繰り返していきゃ、オレたちと敵対する意思のあるLV999を引っ張り出せるし、使えねえアホをあっちで間引いてくれる」
「108人もいれば玉石混交が過ぎますからね」
「石を片付けてもらえりゃ、最期に残るのはピッカピカの玉だけよ」
その磨かれた玉で――親衛隊を再構築する。
「最悪にして絶死をもたらす終焉は、そうだな……15人まで、本当にLV999となった者だけを選抜した親衛隊にしよう。番外で昇格を待っていた有象無象どもはそのまま兵隊。それでいいな、ミレンちゃん?」
「問題ないかと思います――つーか、最初からそうしろダメ親父」
よっしゃ! とロンドは膝を打った。
……暴言はスルーなのか?
「なあ、ロンドさんよ。ダメ親父って言われたけどいいのか?」
怖いもの知らずのアダマスが、場の空気を読まずにツッコミを入れた。特大チキンレッグの骨までバリバリ噛み砕いている。
ロンドはヘラヘラ手を振って答えた。
「ああ、美女限定で許してんの。オレ、結構マゾなのよ」
「同じセリフを吐いたアリガミ様は、奥歯ガタガタになるまでビンタされました」
だから、かかと落としも許されたのか……。
ロンドは“最悪にして絶死をもたらす終焉”の総帥だが、三大幹部との間柄はいまいちよく掴めていない。仲がいいんだか悪いんだか……。
言いたくないが――家族みたいな関係か?
「ちなみに、おまえらは合格だ。バンダユウとかいう無双ジジイを見事にやり込めてきたからな。以後もバッドデッドエンズを名乗ることを許してやる」
押忍! とアダマスは覇気を漲らせた。
サバエやジンカイは目を閉じて目礼、サジロウは湯飲みの梅昆布茶を啜りながら片手を上げて鷹揚に返すだけだった。
2本目の特大レッグチキンに取り掛かったアダマスは申し出る。
「ロンドさんよぉ、あのジイさんは俺のコレクションにしてもいいよな?」
「その意気や良し! 強敵をはバンバン仕留めちゃってくれ!」
世界の滅びが捗る! とアダマスの要望は認められた。
「そんでリードちゃん――穂村組を逃がしたのも不問だ」
オレも逃がしちゃったしなー、とロンドはあっけらかんと笑った。
どうせ終末の毒を嗅がせているに違いない。
あの毒に蝕まれたら最期、世界が終わるまで廃人確定である。
「ちなみに、オレがあの場所にいたのはほとんど偶然だ。ちょいと野望用で出掛けてて、見晴らしのいい山頂で休んでたら、使い魔どもが知らせてくれたんでな。ついでだからプチッと潰しとこうと思ったわけよ」
また失敗がさっくり許されてしまった。
「しかしまあ、空飛ぶイカだのクジラだのサメだの……大勢乗せて飛んで逃げられるもんばっか作ってたのなあの組。早めに潰しといて正解だったぜ」
面倒臭そうだよなぁ? とロンドは同意を求めてくる。
もう取り越し苦労どころではない。拍子抜けのリードは曖昧な表情のまま頷くくらいしかできなかった。
意に介することなく、ロンドは飄々と語る。
「それにしても、無意識下で一方的に取引を成立させるなんて反則だろ、あの過大能力。おかげで穂村組とその無双ジジイも取り逃がしちまった」
まあいいさ――策を変えたから。
リードの失敗も自分の失敗も「大したことない」と大目に見たロンドは、カプチーノのマグカップを円卓に置いてから、パチリと指を鳴らした。
空中に現れるのは、4枚の顔写真。
どれも超望遠で隠し撮りしたのか、画像の粗が目立つも人相はわかる。
超爆乳を誇る雄々しくも美々しい地母神――ハトホル。
少女と少年の美しさを併せ持つ戦女神――イシュタル。
巨獣の野性と賢者の理性を兼ね備えた獣王神――ククルカン。
万物の死から万象の生を還らせる骨の冥府神――タイザンフクン。
予めロンドより「まだ手を出すなよ絶対に」と釘を刺されていた、現時点で最強クラスのLV999プレイヤー4名である。
それぞれ強力なプレイヤーとパーティーを組み、弱っていた現地種族を保護し、各地に国家と呼べるほど肥大化したコロニーを作っているとか……。
「おまえらも知っての通り、アンタッチャブル指定の4人だ」
穂村組は、ハトホルのコロニーに逃げ込んだらしい。
「当初はだ。おまえらバッドデッドエンズに暴れてもらって、ほどよく世界を荒廃させながら、使えねぇ雑魚プレイヤーの駆逐や、生き残ってる弱っちい現地種族を殲滅してもらう予定だったが……」
「――思ったより強者がおりましたからね」
それよ、とロンドは割り込んできたミレイの一言を拾った。
「穂村組みたいなLV999を中心に据えたパーティーがチラホラいる。一筋縄じゃいかないみたいだから、ちいっと作戦を変えよう」
四大コロニーを後回しにした理由――。
それは「大所帯だから逃げられない」という単純な推測からだ。飛行船を持っているコロニーもあるが、大勢を連れて逃げ切れまい。
「難民を連れての逃避行なんざ、かの劉備玄徳だって苦しんだからな」
――世にいう長坂の戦いである。
~~~~~~~~~~~~
長坂の戦いとは、三国志のエピソードの一つだ。
華北(中国北部)を平定した乱世の梟雄・曹操は、荊州(中国南部)へ進出するべく進撃を開始。荊州を治めていた劉表への攻勢を強める。
この時、劉備は劉表の元に身を寄せる武将の1人だった。
しかし、劉表は病床に倒れる。
後継者問題でごたつく劉家。客将の一人に過ぎない劉備は口を出すわけにもいかず見守るしかなかった(孔明は「この機に乗っ取りましょう」と唆したが、劉表への恩義がある劉備は「それをやっちゃあいけねぇよ!」と却下した)。
劉表の後を継いだ劉琮は、曹操に降伏してしまう。
最前線にいてそれを知らなかった劉備は孤立無援。曹操は目障りな劉備を始末しようと追撃。劉備は手勢とともに逃げるしかなかった。
だが、劉備は自分の人気を過小評価していた。
荊州の人々に劉備は絶大な人気を誇っており、弱腰の劉琮や侵略者の曹操に見切りを付けると、逃げる劉備についてきてしまったのだ。
その数――数十万人。
自分を慕ってついてきた荊州の人々を、劉備は「見捨てられねぇよ!」と連れての逃避行。距離を稼げるわけもなく、曹操軍に追いつかれる。
劉備は妻子を捨ててまで逃げたが、敵陣を単騎で突破して劉備の妻子を救おうとした趙雲の活躍や、張飛が橋の上でたった1人、身体を張って殿という大役を果たしたエピソードは有名だ。
孔明や関羽も奮闘したが、苦戦に次ぐ大苦戦。
数十万の避難民がいなければ、もっと上手に立ち回れただろう。
「……この昔話からわかるように、民を連れての逃避行なんざ愚策も愚策よ。曹操なら下手に民を殺せば、いずれ自分の物とする荊州に悪評が立つから、それなりに手控えるかも知れないが……」
「私たちからすれば――片っ端から殺してけばいいだけです」
ロンドとミレンは大量虐殺を仄めかす。
「僕らも“皆殺し上等!”ですけど、曹操もやりかねませんよ?」
リードも三国志くらい聞きかじっている。
曹操は理不尽な理由から虐殺に走ることがままあった。
兗州という土地を手に入れて領地経営が軌道に乗った頃、曹操は父親を初めとした家族を兗州へと呼び寄せた。
その旅の途中、曹操の家族は徐州という土地に立ち寄る。
そこで盗賊によって皆殺しにされてしまった。
これに怒り狂った曹操は「徐州にある者は生かしておくべからず」と徐州に攻め入る。その際、無抵抗な民までことごとく虐殺したという。
家族を殺された怨みを、徐州すべてで購わせようとしたのだ。
(※徐州の領主である陶謙と対立していたので戦端を開くための口実、という説もなくはない。また、陶謙側の策略という諸説もある)
「……匿ってくれた家の人間が、曹操を歓迎する料理を作るため庖丁を研いでいたのに疑心暗鬼から殺害、証拠隠滅のため皆殺しにする人ですからね」
そんな真似を仕出かしたため、軍師の陳宮に嫌われたという
「勢い任せの殺戮、気持ちいいねー」
生きてたら仲間にしたかったぜ、とロンドは冗談めかす。
「まあ何にせよだ。こいつらの勢力はデカいし強いし遣り手だしで、こっちの準備が整うまで下手に悟られたくなかったんだわ。そんで、滅ぼしたい多種族を集めたり、厄介な連中を片付けてくれたりもしてたし……」
有り体に言えば、そこを利用させてもらった。
プレイヤーや多種族が集まるまで、放置しておいたのだ。
大所帯になればなるほど守るのも逃げるのも難しくなる。そこに殺戮集団をけしかけてまとめて始末する心算だった。
「それもあって、この4つのコロニーは『どうせ逃げられない』と高を括って後回しにしていたが……穂村組が逃げ込んでくれたおかげで、いい策が閃いちゃったぜ。いやまあ、薄ぼんやりとは考えてたんだけどな」
「嘘ですね――行き当たりばったりなロンド様に限ってあり得ません」
そんなことないよぅ、とロンドは変な声色で拗ねた。
そういえば……リードは他の幹部たちの忠告を思い出す。
マッコウ様はこう仰っていた。
『ちょっとリードちゃん。ロンドさんの話をあんまり真に受けちゃダメよ。あの人ってば一見すると頭良さそうだけど、その実なんにも考えてないところがあるからね。ちゃんと自分の考えも言わなきゃダメよ!』
アリガミ様もこう仰っていた。
『リードくん、ロンドさんが調子乗り出したら話半分に聞いておきな。あの人って刹那的に生きているからね。後先考えずに動くし……』
彼らが言いたいのは、ロンドのこういうアバウトさなのだろう。
それでも何とかなっているのが不思議だ。
常識外れな汎用性を持つ過大能力のおかげだろうか?
あるいは…………。
「おまえらの仕事は当面このままだ。四大コロニーには手を出すなよ、それ以外の場所に巣食ったり彷徨ったりしてる奴らの始末を続けてくれ」
そんでな、とロンドは4枚の写真を順に指差した。
「こいつらのコロニーを――駆け込み寺にするのさ」
地球から飛ばされてきたプレイヤーも、この地に隠れ潜む神族や魔族も、追い詰められて絶滅寸前な現地種族もお構いなし。
「適当に殺して、適度に虐めて、ほどほどに追い立ててやるんだ」
ロンドは立ち上がり、興奮気味に捲し立てた。
「この滅ぶの待ったなしな世界に蔓延るザコどもに、おまえらバッドデッドエンズの悪名を轟かせてやれ! まだ影も形も見えねぇ“終わりで始まりの卵”ってブツの存在を吹聴しろ! そして、恐怖と絶望にまみれたザコどもを、こいつらのコロニーという安全地帯へ追い込みゃあいい!」
ロンドは手にした真球果を握り潰した。
まるで生命に満ちる惑星を粉々にするように……。
「時が来たら、避難民でいっぱいの安全地帯を一気に攻め滅ぼす!」
四大コロニーを統括する4人のプレイヤー。
彼らの顔写真が一斉に爆ぜた。
「そうすりゃ必ず出てくるさ――“終わりで始まりの卵”がな!」
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