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第12章 仁義なき生存戦略
第296話:スーパーロボット・スーパーウォーズ
しおりを挟むオトラの駆るビャッコオウの炎が、万魔殿を守る氷鎖の結界を破る。
ビャッコオウを初めとしたスプリガン四天王に授けた巨大ロボ型『巨鎧甲殻』には、大型の龍宝石が複数組み込まれている。
それらにはツバサたちの魔法や技能が宿っていた。
しかし、無垢のままだと強すぎる。いくらスプリガン族が頑丈でも、扱いきれずオーバーヒートしかねない。このためデチューン調整されていた。
ビャッコオウの炎は──ツバサの過大能力に由来する。
だからこそ、上位魔族の氷を溶かせるのだ。
無防備になった万魔殿。そこへオカメのゲンブオウが爆発力を封じたエクスプロージョン・シールドを何百枚も貼りつけ、スズメのスザクオウが爆弾型の羽根をこれでもかと放り込んだ。
一触即発──万魔殿は特大の爆発物と化す。
トドメとばかりにリンのキリンオウが絨毯爆撃を敢行。タツミのセイリュウオウも稲妻のブレスを吹きつける。
万魔殿はとてつもない大爆発に見舞われた。
全身からブスブスと黒い煙を吹き上げて、真っ黒に焦げた万魔殿はグラリと姿勢を崩した。蠢いていた触手も力を失ってダラリとする。
本体である塔が傾き、重力に負けて落下を始めた。
「標的……撃墜……作戦終了!」
オカメはダボダボの袖を振り回して喜んでいる。
「まだよオカメ、墜としただけで仕留めてはいないわ」
タツミは自分のセイリュウオウをゲンブオウの横につけ、ぬか喜びしそうなオカメに注意を促した。彼女は四天王の委員長でもある。
リンをして「四馬鹿の中ではまだマシ」と言わしめるほどだ。
「どうする? オレらも追い打ちかけるか?」
一番至近距離で戦っていたオトラだが、事前に打ち合わせていたので爆発に巻き込まれぬよう引き上げていた。一応、巻き添えは避けたらしい。
「……アンタは引き際というものを覚えなさい」
タツミは横目を細めて、煤けたオトラを見据えた。
巻き添えは避けたが、爆風は喰らったらしい。
「地上で妖人衆のみんなと父ちゃんが待ってるはずだし」
アタシらも混ざっちゃうー? とスズメは姉妹たちの同意を求めた。
「論ずるまでもない──我らも行くぞ」
キリンオウを駆るリンの一声に、四姉妹はビクリと肩を震わせた。
最姉ちゃんと恐れられる彼女の言葉は、時としてダグ総司令官や父親であるガンザブロンを凌駕する。彼らは甘いところがあるので強制力はあっても緩いのだが、リンの命令には甘さも緩さも一切ない。
最姉ちゃんの命令は絶対──姉妹では暗黙の了解だ。
「ハトホル様、ダイン様、フミカ様……そして神々の皆さまより能力を与えられた我らの新しい『巨鎧甲殻』。まだ全力を発揮してないではないか」
十全に使いこなすところを御覧いただかなければ──。
この戦闘で果たすべき任務のひとつ、それがリンの指針だった。
「そ、そして、私のカッコいいところをヴァト様に御覧いただいて、あわよくばお目を掛けていただき、これを機にもっと親密な仲へ……」
「落ち着いてリン姉さま! 鼻からオイルが漏れてます!」
凜々しい美女から一転、リンはだらしない笑顔を綻ばせると「ハァ、ハァ……」と変態チックな呼吸を繰り返し、鼻血をあふれさせていた。
リンがショタ関連で暴走すると、一番マシな性格のタツミがフォローに回らなければならない。オカメ、スズメ、オトラは何か言いたそうだが、下手に口にすると仕返しが恐いので白い目をするしかない。
咳払いで襟を正すリンは、鼻血を拭って真面目な顔に戻る。
「本音を申せば、我らと妖人衆の方々だけで連中を討ちたいところだが……さすがは魔族といったところか、手応えはあれど仕留めてはおらん」
「え? でもでも最姉ちゃん、あのでっかいイカ落っこちたよ?」
スズメは幼さゆえの気安さでリンに尋ねた。
スプリガン四天王の総攻撃を受けて撃沈したのだから、倒したも同然ではないかと言いたいようだが、唇を結んだリンは首を左右に振った。
「残念ながら無傷だ。あの巨大な頭足類は敢えて爆発を受けて、それに逆らうことなく吹き飛ばされたに過ぎない。自前の頑健さを活かして、爆発の衝撃を浴びることで逃がしたのだ。それに、何やら小細工をしていたからな……」
マリが頑丈な僵尸を人壁にして──。
レイジが絶対零度の氷の防御壁を作って──。
ゲンジロウがあらん限りの火球で迎撃して──。
そしてバンダユウが──こちらの目を盗んで何かをやっていた。
爆発の規模こそ災害級だったが、万魔殿は爆風に煽られたに過ぎず、これ以上の空中戦は不利と判断したらしい。墜とされたフリをして地上に逃れたのだ。
リンは万魔殿の戦略的撤退を見通していた。
「我らスプリガン四天王(5人)が上空にて迎撃。それを鬱陶しく思った巨大イカが地上へ逃れると想定……これが計画の第1段階だ」
リンは軍師から防衛作戦の全容を伝えられていた。
地上ではダグやガンザブロン、それに神族化した妖人衆の三将が待機しており、まだ未開発の平地にて本格的に迎え撃つ……これが第2段階だ。
この第2段階に──スプリガン四天王も参戦する。
当初の予定では、空中戦でスプリガン四天王は疲弊すると思われたので、万魔殿を地上へ誘導したらハトホルベースへ帰還する予定だった。
いくらスプリガンが現地種族の中でも強い力を持つ亜神族とはいえ、上位魔族化したプレイヤーと戦えばタダでは済むまいと思ったからだ。
しかし蓋を開けてみれば、ほぼ無傷で第一フェーズを終了。
本戦とも言うべき第二フェーズに参加する余力が残っていた。
リンは通信機でツバサとダグに「お伺い」を立ててくるが、どちらも即座に了承と返した。リンは頷いて姉妹たちに檄を飛ばす。
「ハトホル様と若様……ダグ総司令官の了解も得られた」
行くぞ! と言うが早いかリンは先駆けとなって地上へ降りていく。
その途中──変型合体をする。
「──魂魄接続!」
ダインがダインローラーと合体する際に発する掛け声。
同じ文言を唱えたリンはキリンオウの頭から飛び降りる。そして、キリンオウの胸部が開くと、リンは背中からその中へ吸い込まれていった。
リンを取り込んだキリンオウは眼から目映い光を発すると、天馬らしく嘶いて変型を始めた。麒麟を模したフォルムから、二足歩行の人型へと形を変えていったのだ。前脚が両腕に、後ろ脚が両脚に、器用に変型していく。
馬の首部分が開くように変型して、胸や肩のアーマーを形作る。
背中の翼は薄く細く広がり、法衣のように人型の機体を覆った。
尾が変型した三叉の大槍を武器として構え、キリンオウを『巨鎧甲殻』として身にまとったリンは変型したボディで名乗りを上げる。
『四央天聖──ヨウセンタク!』
神将と呼ぶべき人型の巨大ロボ。そのフォルムは女性的だ。
本来、スプリガン族の女性は『巨鎧甲殻』をこのように着こなせない。
男性のみが巨大ロボ化できる『巨鎧甲殻』をまとえるのだが、ダインとフミカがダグを改良した際、女性たちにも合体変形用の機体を用意してやれば、大幅なパワーアップを望めることが判明した。
そのための調整は欠かせないが──。
スプリガン四天王は、その試作機にして成功例だった。
『あのデカブツの間合いに入る前に魂魄接続を済ませておけ! 四遊機状態を試すのに打って付けの機会だ! おまえたち、出遅れるなよ!』
続け! と号令一喝、ヨウセンタクは超高速で地上へと向かう。
キリンオウよりも出力が跳ね上がっていた。
スプリガン四天王もリンに続く。
「「「「──魂魄接続!!」」」」
オカメは身を縮めてゲンブオウの口に吸い込まれていく。
タツミとオトラも、セイリュウオウとビャッコオウが大きく顎を開くと、そこに手足を折りたたんで飲み込まれていった。
唯一、スズメのスザクオウだけがキリンオウと同じように胸部を開くと、その中に小さなリンが乗り込んだ。嘴は細すぎて搭乗口に不向きらしい。
四姉妹と合体した四神型『巨鎧甲殻』もまた変型する。
どれも人型の巨大ロボとなり、全体的なフォルムはすべて女性的だ。
亀型のゲンブオウは四つん這いから仰け反るように腹を持ち上げると、背中の甲羅を広げていく。中から現れる女性型ロボに分解した甲羅がアーマーとなって装着されていく。
大蛇型の尻尾は鞭にも槍にもなる蛇腹の長柄武器となる。
オカメと合体したゲンブオウは、重武装をした武神となった。
『北遊武君……トウマソン』
龍型のセイリュウオウは蛇のように長い身体を器用に折りたたみ、頭部を中心に胴体を形成すると、ほっそりとした手足を伸ばす。そして、全身から気密体を放出すると仙人の衣服めいた、ゆったりしたヴェールを全身に羽織った。
武装は尾の一部が変型した杖。これも蛇腹式なので変形する。
タツミと合体したセイリュウオウは、女仙人を思わせる姿となった。
『東遊大仙──ハッセンコウ』
鳥型のスザクオウは翼の一部から両腕を分離させると、残りの両翼は背中へと回って飛行用ウィングになり、鳥の頭が変形して人型の頭部へと変わる。折り畳まれていた足が伸びて、こちらも人型の両脚となって直立歩行をする。
4体の中では一番小型、武装はないが兵装が充実している。
スズメと合体したスザクオウは、真っ赤な神仙風の童子となった。
『南遊童神──カコウジン♪』
虎型のビャッコオウは四足歩行から起き上がって二足歩行になり、腰部を180度回転させながら、前脚を両腕へ、後ろ脚を両脚へと変形させる。虎の頭部は背中へと回り、全体的なフォルムは西遊記の孫悟空を連想させた。
虎柄の各部装甲など、取経の旅に出た孫悟空そのものだ。
(※三蔵法師のお供をする際、孫悟空は服がなかったため道中で施された小僧向けの僧衣と、襲ってきた虎を倒して剥いだ虎皮を着込んだ)
武装は如意棒を意識した鉄棍。頭部には緊箍児まではめている。
オトラと合体したビャッコオウは、孫悟空を思わせる機体だった。
『西遊大将──セイテンソン!』
オカメ、タツミ、スズメ、オトラ、この4名に授けた『巨鎧甲殻』は玄武、青龍、朱雀、白虎といった四神と呼ばれる霊獣をモデルにしているが、変型後の人型ロボは『四遊記』という古代中国の物語をモデルにしたらしい。
有名な西遊記以外にも、北、南、東の名を冠する遊記があるそうだ。
……あいにく日本ではマイナーだが。
それぞれの機体は西遊記、北遊記、南遊記、東遊記、これらの主人公をモチーフにしてフミカが調整した。ダインもそうだが夫婦して凝り性である。
『……アタシ、重いから真っ先に落ちる~……あ~れ~』
『ああーッ! オカメちゃんズルい! 一番乗りはすばしっこいアタシぃ!』
『待ちなさいスズメ! 防御力のあるオカメを盾にしなさい!』
『前衛は一番火力のあるオレだろうが! 待てコラ!』
中国説話をモデルにした4体の『巨鎧甲殻』は、先を争うように地上へと降りていく。先陣を切るのはリンのヨウセンタクだが、続く姉妹たちも追いつけ追い越せと言わんばかりのスピードだった。
その地上では──乱戦へと突入していた。
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リンの読みは当たっていた。
万魔殿はその頑丈さを活かして、スプリガン四天王(5人)の集中爆撃を敢えて受けると、撃墜されたと装いつつ爆風に乗じて降下したのだ。
四大幹部が極力、爆撃を打ち返したので被害も軽微である。
行く手を阻む彼女たちが鬱陶しかっただけ。
相手にするのも煩わしく、蹴散らす手間も惜しかったらしい。
一刻も早くハトホルの国の中央、そこにいるツバサとの面会を望む穂村組の組長は、ルート変更を決めると上空からの接近を諦めて、地上からハトホルの国へアプローチする方向へシフトしたようだ。
しかし、これは誘導されたものである。
万魔伝が着地したのは──ハトホルの国の北東。
この辺りはツバサが過大能力で整地はしたが、まだ民家や建物はおろか田畑すらできてない未開拓地。何もない草原が広がっている。
そこに降りてきた万魔殿。
とてつもない質量を持つ触手を生やした巨大な塔が、重力に任せて落ちてきたのだから大地はクレーターができるほどへこみ、大地震となって我が家にいるツバサまで震わせ、ハトホルの国に暮らす住民を震え上がらせた。
なのに、万魔殿はビクともしない。
着地と同時に鋼鉄の触手を蠢かせた万魔殿は、それを大地に突き立てると本体である塔部分を引っ張り、地面を這うようにしてハトホルの国へ向かう。
さながら陸に上がったクラーケンが大地を侵略するが如しだ。
万魔殿の着地によって土煙が舞い上がる。
その土煙の向こうから、厳しい眼光が輝くと薩摩弁が怒鳴ってきた。
『じゃっどん──こっから先へは行かせんど!』
万魔伝の進撃を阻み、ハトホルの国を守るべく立ちはだかる巨影。
濛々とした土煙を撃ち破り、砲撃の雨が降りかかる。
その威力と物量はスプリガン四天王(5人)を上回っていた。万魔殿は前進に使っていた触手を振り回して砲撃を打ち払う。
リンの僵尸による人壁、ゲンジロウの炎の障壁、レイジの冷気の結界。
万魔殿も防御結界を張り巡らせるが、スプリガン四天王の時と同じように焼け石に水だった。守っても守ってもすぐ破られてしまう。
飛んでくるのは砲弾と限らない。
大小各種のミサイル、魔法のエネルギー弾、様々な加工を施された弾丸。
連射速度もさることながら、圧倒的物量で攻めてくるので万魔殿も防戦を強いられていた。やがて、砲撃の雨が土煙を吹き飛ばしていく。
現れたのは──山のように巨大な亀だった。
オカメのゲンブオウも亀型ロボだが、こちらはスケールが違う。
万魔殿の本体とも言うべき塔部分は約650mだが、その半分に達するであろう320mを超えている。全体的なデザインはゲンブオウが陸亀だとしたら、こちらはヒレを使って海を泳ぐ海亀のフォルム。
亀ならば甲羅に当たる部分は山の如く盛り上がっており、そこに砲塔やミサイル発射台、他にもありったけの兵器が積み重ねられていた。
超巨大亀型メカは砲撃の手を休めず、ゆっくり距離を詰めていく。
ただし、万魔殿の触手が届く距離へ踏み込まない。
下手に飛び込んだら最後、捕まるのが目に見えているからだ。
「移動要塞型『巨鎧甲殻』──ダイアケロン」
超巨大亀型メカの頭部。ちょっとしたステージの広さだ。
そこに自前の『巨鎧甲殻』をまとって重装型ロボとなったガンザブロンが、腕を組んで仁王立ちしていた。
普段は西郷隆盛っぽいイメージの薩摩隼人を大きくしたような、逆三角形な体型のオッサンロボ。『巨鎧甲殻』を身に付けると、肩や両腕に分厚いアーマーを備えた全長15mを超える、重装歩兵風のロボになる。
そして、ダイアケロンがガンザブロンの新しい『巨鎧甲殻』だ。
全長320mを超える巨体は、あの巨大蕃神の手で掴まれても壊れないよう堅牢かつ強固さを重視して設計されており、御覧の通り桁外れな火力を搭載することで敵の軍勢を制圧する能力にも優れている。
コンセプトは3つ──。
『危機的状況において大量の避難民を乗せられる輸送力』
『追撃を受けても乗り込んだ人々を守り切る防御力と防衛力』
『有事の際には敵地に要塞ごと攻め込める攻撃力と制圧力』
こうして造られたのがダイアケロンである。
こう見えて『巨鎧甲殻』なので、その気になれば娘たちスプリガン四天王のようにガンザブロンと合体して超巨大ロボにも変型できる。
「今日はご披露なさらないのですか?」
ガンザブロンの傍らに立つディアが尋ねた。
スプリガン司令官補佐を務める──ディア・ブリジット。
本来ならばスプリガン族の旗艦である装甲方舟クロムレックから指示する立場だが、今日は姉妹であるブリカに任せてガンザブロンのサポートに付いた。
ブリカが女軍人といった装いならば、ディアは純白のドレスをまとった貴婦人というべき衣装なのだが、彼女の『巨鎧甲殻』は凶悪だった。
無数のミサイルを際限なく発射する艤装。
こうしてガンザブロンと雑談をしている間でも、ディアの発射台型『巨鎧甲殻』は鬼のような勢いで万魔殿を爆撃中である。
そんなディアの疑問に、ガンザブロンは困った笑顔を見せた。
「おいもかっこよかところを見せよごたっどん……あん触手はおそろしか。下手に踏み込めば雁字搦めにさるったぁ目に見えちょっど。近接戦闘にもつれ込めば、手も足も出なくなりもはん」
「そうですね……あちらのイカさんの方がちょっと大きいですし」
本体だけでもダイアケロンの倍はありそうですし、とディアも困ったように吐息をもらすと悩ましげに頬へと手を添えた。
「迂闊に飛び込むは愚策──将ならば踏み止まるのが正解ですぞ」
ガンザブロンとディアの背後から渋い声がする。
シャリシャリと草履を踏んで現れたのは、乙将オリベだった。
例の「ツバサが遊女風にいやらしく描かれた扇子」を仰いでいるが、今日は緑を基調とした着物ではなく、戦場らしく具足を身に付けていた。
戦国時代を駆け抜けた過去を思い出しているのかも知れない。
ただし、鎧は陶器を思わせる独特な形状をしており、袖を通した陣羽織はコートのように丈が長く、彼のイメージカラーである緑で彩られていた。
やっぱり戦場でも洒落者である。
兜は着けておらず、代わりに烏帽子形の頭巾を被っていた。
「あの万魔殿なるイカの如き大物……うねる触手は大軍にも匹敵することでしょう。如何にガンザブロウ殿のだいあけろんが強固かつ強力であろうとも、あの中に飛び込めば囲まれるのは必定」
こんな時は手堅く──外側から切り崩すに限りますぞ。
ダイアケロンから放たれる砲撃を見上げ、オリベはそう評する。踏み込まずに遠距離攻撃に徹するガンザブロンの判断を褒めたのだ。
もしもガンザブロンが突撃していたら、オリベは即座に止めただろう。
今のオリベには──スプリガンへの指揮権もある。
「これはこれはオリベ殿……いや、軍師殿」
「全軍指揮お疲れさまでございます、軍師様」
現れたオリベにガンザブロンは敬礼、ディアは礼儀正しくお辞儀する。
オリベは人のいいチョイ悪い親父の笑顔で「いやいや」と手を振って恐縮するが、にやける表情は満更でもなさそうだった。
「軍師などと畏まられても困りますな。この度はツバサ殿に以前の経歴を買われて、ハトホル国の防衛指揮を任されたまで……それがしなど、太閤様を支えたあの竹中半兵衛殿や黒田官兵衛殿と比べたら凡将に過ぎませぬ」
オリベの自己評価は低いが、それでも戦国時代の武将である。
若い頃は織田信長の使番(敵味方問わず伝令の書状を運ぶ役目。一歩間違えると敵陣で殺されかねない危険な仕事)に励み、時には敵方を説得したり調略したりと交渉術にも長け、大名となってからも戦歴を重ねている。
彼はいくつもの戦いに参加して、いずれも生き延びた。
目立った武功こそないものの、どんな名将であろうと負ければ死を免れない戦国時代を生き抜いただけで賞賛に値する。
その戦歴を見込んで、ツバサはこのような相談をした。
『近日中に穂村組という一団が攻めてくるかも知れません。そこで、神族になった妖人衆の三将と、新しい『巨鎧甲殻』を授けたスプリガン四天王を先鋒として当たらせ、腕試しをさせてやりたいのですが……その指揮を頼めますか?』
これにオリベは──訂正を求めてきた。
『ハトホル国の主人として命じなされ。さすれば、お引き受けいたしましょう』
未だに主人という立場に慣れないツバサだが、老臣気取りのオリベに厳しく上下関係を躾けられてしまった。仕方なく、命令として言い直した。
ツバサは気まずそうに咳払いをすると、口調を改めて主として命じる。
『乙将オリベ、妖人衆とスプリガン族を率いて先方を務めよ』
『ハハッ! 承知つかまつりました!』
オリベは芝居がかった声色で嬉々として了承してくれた。
オリベはツバサのエロい扇子を軍配代わりにして、天や地を指し示しながら解説していく。正直、あの扇子はいつか没収したい。
どうせ予備を山ほど用意しているのだろうが……。
「穂村組なる魔族の集団が空から来ようと陸から来ようと、まずは機動力に優れたすぷりがん殿の軍船で迎撃。大事が起きてもハトホル本国へ被害の及ばぬこの平野へと誘導する……」
「そして、おいのダイアケロンで行く手ば塞ぎつつ迎撃すっど」
「敵船が大きくとも1隻で幸いでしたね。下手にばらけないので追い込むのも行く手を遮るのも、思っていたより上手くできております」
オリベたちは第1段階の終了を確認した。
ここから第2段階──万魔殿をこの平野に留まらせる。
決してハトホルの国へ踏み入れさせない。ここで確実に抑え込むのだ。
「さて、まずはそれがしの一座建立にて持て成そうか」
オリベは右手に持った扇子をパチンと鳴らして閉じてから、その先端で万魔殿の足下を指差した。そして、命じるように告げる。
「剽げよ──碧覚練土」
万魔殿の足下から大量の粘土が噴出した。
その勢いたるや、火山の噴火で湧き上がる溶岩の如しだ。
緑色の粘土は噴き上がりつつ広がっていき、スライムよろしく万魔殿へまとわりつくと瞬く間に硬化した。緑色の光沢を帯びたセラミックへ早変わりする。
まるで釉薬を掛けてじっくり焼成した陶器のようだ。
一瞬にして万魔殿は動きを封じられた。
この瞬時にセラミック化する粘土を操る能力は、オリベが真なる世界に転移してから会得した特殊能力だが、ツバサの眷族として神族に格上げしてからは過大能力となっていた。能力的にも格段にパワーアップしている。
ただし──名前は付けられていない。
ツバサたちの過大能力は何故か冴え渡る中二病めいたネーミングセンスで勝手に名付けられているのだが、オリベたちの過大能力はそれがない。
なので、名付けるも無記名も自由にさせてある。
『おのれ猪口才な! こんな粘土……何するものぞじゃあッ!』
万魔殿の外部スピーカーから、また怒れる少女の声が聞こえてくる。彼女の怒りに呼応した万魔殿は、触手に全力を込めて硬化セラミックを破壊した。一時的に拘束はできるが、万魔殿が本気になれば振り解くことはできるらしい。
「なぁに、細工は流々……それがしの役は足止めで十分」
オリベは自身の過大能力で仕留めるつもりは更々ない。
「本陣に攻め入るのは若い者の仕事よ」
オリベは扇子を開いて、企む笑みを浮かべた口元を隠した。
万魔殿は硬化セラミックを破壊するが、破壊した箇所から新たな粘土が生えてくると、すぐにセラミックへと硬化して触手を抑え込んでいく。
壊しては固まり、壊しては固まり……イタチごっこである。
この隙を突いて──妖人衆の三将が動き出す。
ダイアケロンから見れば右手、平野の木陰から三将が踊り出た。
「よし、オリベ様が大イカの動きを封じたぞ」
言うが早いか、鍛鉄のオサフネは地を蹴って走り出す。
人間を辞めさせられて刀になっていた時も宙を飛べた彼だが、ツバサの眷族として神族化すると速度も上がり、こうして大地を走る際にも尋常じゃない速力を出せるようになっていた。
刀の妖怪めいたオサフネも、今では人間の姿を取り戻している。
神族になったことで凛々しく美化もしていた。
鍛冶師らしい白装束を着た、生真面目そうな面構えの短躯な青年。
団子っ鼻がチャームポイントだが、本人は気にしている。
「オレたちは右手を抑えりゃいいんだな。左手は……誰だっけ?」
「……すぷりがんの頭領、だぐ殿だ。忘れるな」
オサフネに続いて、妙剣のウネメと覇脚のケハヤも飛び出した。
婆娑羅な女武者といった装いのウネメと、大名行列の奴さんを派手にした格好のケハヤが、摩擦で地面を焦げるほどの駆け足で駆け抜けていく。
やはり神族化したウネメとケハヤも美化されており、ウネメは剣神となりながらも女神として女っぷりが上がっており、毛むくじゃらだったケハヤは角力神となって脱毛もできたのか、ちょっと毛深いだけの男前になっていた。
「がんざぶろう殿が正面、だぐ殿が左側面、後方がすぷりがんの軍艦7隻……そして、俺たちが右側面の担当だ。オリベ様がそう仰っただろう」
ケハヤは巨漢の大男に似つかわしくない美声だった。
このボーイソプラノを笑われるを嫌がり、言葉の通じない野人のフリをして奇声を上げていたが、先日の一件で心機一転。ちゃんと地声で喋るようになっていた。
もうケハヤを笑う者はいない。仲間は皆、自然なものとして受け入れている。
地を駆けていた三将は飛行系技能で宙に舞い上がった。
彼らも眷族とはいえ神族のはしくれ、これぐらい朝飯前である。
万魔殿に接近する上位神族と化した三将──これをマリが察知したらしい。
迎え撃つためにLV500の僵尸軍団を差し向けてきた。
これに対して三将の中からオサフネが速度を上げて単身で前に出る。彼が手を振ると、どこからともなく「カァー……ン! カァー……ン!」と槌で金属を打ち鍛える音が聞こえてきた。
オサフネの周囲が波打ち、空間を超えて無数の刃が突き出てくる。
神族化したオサフネは亜空間に道具箱を持てるようになったのだが、そこは彼の工房でもあり、短時間で兵団に行き渡るほどの武具を量産できるのだ。
これがオサフネの過大能力──槌音鳴り止まぬ鍛冶場。
「マリナ様が浄められた聖なる槍の穂先……穢れた死者など何するものぞ!」
同じ効果を発揮するように作られた、何千何百もの大槍が射出される。
柄にもないことをすると「明日は槍が降る」とからかわれるが、文字通り槍の雨が降り注ぐと、僵尸たちの胸を串刺しにして宙に射止めた。
LV900に達したマリナが聖別した神聖魔法付与の槍。
そんな槍で貫かれたら僵尸であろうと堪らない。槍で貫かれた箇所から発火したかと思えば、あっという間に燃え尽きて灰となった。
僵尸の大群は、オサフネの露払いによって一網打尽となる。
1匹残らず片付けたのを視認したオサフネは空を飛ぶ速度を緩め、宙に刺さったままの槍を回収していく。その両脇をウネメとケハヤを追い抜いていった。
「よくやったダンゴ鼻、あとで乳揉ましてやる」
「誰が揉むか! おまえは仕事を果たせ!」
「任せておけ……道は切り開く」
「剣術バカだけじゃ心許ない。ケハヤさん、頼みます」
万魔伝へ特攻するウネメとケハヤ。
マリの僵尸では止められないと見て取ったのか、万魔殿は鋼鉄の触手を2本持ち上げると、それぞれウネメとケハヤ目掛けて振り下ろした。
これにウネメは驚かず、牙を剥いた獣の笑みで向かっていく。
ケハヤも口元を固く引き締めると、鼻から大きく深呼吸して止まらない。
退かず、避けず、逃げず──真っ向から突撃する。
ウネメは自分に振り下ろされる巨大な触手に集中力を注いだ。
すると、どこに刃を叩き込めば確実に斬れるか? その最適解が淡く光るラインとなって彼の瞳に浮かび上がる。そこに一太刀を浴びせればいい。
これがウネメの得た過大能力──斬断絶の一閃。
「セイメイの旦那直伝!」
セイメイから手解きを受けたウネメは誇らしげに叫んだ。
ウネメは宙を駆け抜けながら居合い斬りの要領で抜刀する。その切っ先から鋭い剣気が目にも止まらぬ速度で迸り、触手に現れたラインへ注ぎ込まれた。
触手がウネメに触れる寸前、そのラインに沿って分断される。
「久世一心流──落塔」
塔を落とす。この言葉通り、塔のように巨大な鋼鉄の触手を斬り飛ばした。
一方、ケハヤは──。
「ひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッッッ!」
聖歌隊のように綺麗なボーイソプラノを隠すために上げていた奇声を掛け声に、振り落とされる触手へ立ち向かっていく。
飛翔しつつ体勢を変え、跳び蹴りの準備をする。
触手に突き立てるべき右足。その膝部分が燃え上がるように赤熱化していくと、筋肉を捻りながら膨張する。そこに絶大なパワーが渦巻いていた。
バネのような筋肉と神経、ゴムのような関節と軟骨。
妖怪化したことでこのような特異体質となっていたケハヤは、その弾力を用いて常人を超えた脚力を生かした蹴り技を得意としたが、神族化したことによってより強力な特製を得ていた。
ケハヤの過大能力は──沸騰する血液による爆発力。
バネとゴムの特性をそのままに、自らの血液を爆発させる能力を得たケハヤは、以前とは比べ物にならない圧倒的なブースト力を手に入れた。
バネの張力、ゴムの弾力、火薬の如き爆発力。
「きしゃああああああああああああああああああああああああッッッ!!」
この3つを同時に発揮させた超常的なキックが、万魔殿の触手を吹き飛ばすようにへし折った。ケハヤ自身、彗星のように燃え上がっている。
行く手を阻む僵尸はオサフネが消し去り、襲いかかる鋼鉄の触手はウネメが斬り払い、ケハヤが蹴り抜いた。もはや邪魔する者はいない。
「よっしゃ、オレが一番乗り~♪」
「待て、迂闊に飛び込むな! まだ触手があんなに残ってるんだぞ!」
「案ずるなオサフネ、邪魔するならまた蹴散らせばいい……」
オサフネは慎重を呈するが、ウネメとケハヤは突き進む。
「そんな粋がるおバカさんたちの前に──」
どこからともなく若い女の声が響いてくると、万魔殿から2枚の円盤がクルクルと回転しながら飛んできた。それはウネメたちの眼前でありえない方向転換を繰り返しつつ速度を上げ、神速に到達するとともに襲いかかってきた。
ウネメは気に入らないとばかりに舌打ちして不本意ながら刀で打ち払い、ケハヤは円盤の腹に狙いを定めると蹴り返した。
返っていく円盤、それを颯爽と現れた麗人が掴み取る。
「──僵尸よりも触手よりもコ~ワイお姉さん登場よ~ん♪」
両手に大型の鉄扇を構えたマリが、三将の前に立ち塞がる。
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