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第11章 大開拓時代の幕開け
第254話:年中行事は気付けば終わってるもの
しおりを挟む年末年始──現実では忙しない時期だ。
商業主義とサラリーマン社会によって拡大解釈された、別にやらなくても誰も損はしないのに、関わっておかないと世間から白い目で見られるイベントが目白押しである。もはや社会的病巣といっても過言ではない。
呼び方は様々あれど──要するにすべて“飲み会”である。
大学生時代、ツバサも散々な目に遭った。
数人でワイワイ呑むのは楽しいものだが、年末年始は度が過ぎる。事あるごとに宴会をやるのだ。あんなもの、決して連続でやるものではない。
身体がアルコール漬けでおかしくなる。
年末年始のスケジュールが連日連夜の飲み会で埋まるような奴らもいた。
違う、埋まるのではない――無理くり埋めるのだ。
忘年会やクリスマスに託けて、その前後に「忘年会・前夜祭」とか「忘年会・後夜祭」と付けたり、酷いのになるとクリスマスの三日前に「クリスマス・イブイブ」なんて訳のわからない名称をつけてでも宴会を開いていた。
もはや「飲み会しないと死んじゃう病」に罹っているレベルだ。
無論、ツバサはそっと遠慮した口である。
なので、ツバサは現実の時間軸では年末年始が近付こうとも、そういった飲み会は全部スルーするつもりでいた。
お正月にちょっとした宴を開く。
庇護下においた種族たちに御馳走を振る舞い、幼い子供たちにはお年玉の代わりになるものをあげて、新しい一年を粛々と祝うつもりだった。
しかし──そうは問屋が卸さない。
「あー、ゴホン……そろそろクリスマスとかやらんのかのぅ?」
まずドンカイが顔色を窺いながら訊いてきた。
横綱という力士の頂点にまで登り詰め、引退後もタレント業に勤しんでいたこともあり、そういった催し事は欠かせなかったのがわかる。
「ツバサちゃん、もうすぐ忘年会だけどモチロンやるよな?」
次にセイメイが単刀直入に催促してきた。
飲み会と聞けばどこにでも顔を出して、どんちゃん騒ぎに明け暮れたという根っからのお祭り野郎なので、やらないという選択肢はないのだ。
「こう見えて私、ビール好きです。あと甘いカクテルも好みです」
あろうことかクロコまでアピールしてきた。
タチの悪い変態メイドだろうと、曲がりなりにも社会人。
付き合いの飲み会は日常茶飯事だったそうな。
ドンカイ、セイメイ、クロコ──。
年長者の多いハトホル陣営では、飲み会は避けられない運命にあった。
……というか、やらないとうるさいのだ。
最悪の場合、次に大人が多いアハウさんのククルカン陣営に乗り込んで、バリーたちと勝手に宴会を開いて、あちらさんに迷惑を掛けかねない。
仕方がないので、さっさと済ませてしまおう。
「というわけで──クリスマスじゃ!」
サンタクロースに扮したドンカイがでかい朱塗りの杯で大酒をかっくらい、その後ろではツバサ率いるハトホルファミリーが思い思いにクリスマスっぽいコスプレをして、“あらえっさっさー♪”という感じで歌って踊って飲んで食べてのどんちゃん騒ぎをやっていた。
「そんでもって──忘年会だ!」
今度はセイメイが音頭を取り、単衣の着物姿で片肌を脱いで朱塗りの大杯で酒をガブ飲みし、その長身と爆乳では着付けも大変だったジョカが抱きついている。後ろではツバサたちが“あらえっさっさー♪”という感じで歌って踊って飲んで食べてのどんちゃん騒ぎをやっていた。
「年が明けて──新年会です!」
今度はクロコが大ジョッキを掲げて音頭を取り、メイド姿のまま一気に泡立つ生搾りビールを煽っていた。その後ろでは着物姿のツバサやミロたちや、紋付き袴を着込んだダインやドンカイたちが“あらえっさっさー♪”という感じで歌って踊って飲んで食べてのどんちゃん騒ぎをやっていた。
「忘れちゃいけない──墓参りでゴザル……」
締めにジャジャが音頭を取ると、それなりに喪に服すような礼服を着たハトホル一家の面々。ジャジャと12人の仲間が眠っていた墓へと参る。
ミロは老騎士の墓にも忘れず花とお供え物を手向ける。
それぞれに墓参りをして神妙に手を合わせて供養をした後──。
「墓参りからの──精進落としでゴザル!」
我が家に戻ってきた一同は広間に集まって、また“あらえっさっさー♪”と陽気なノリでどんちゃん騒ぎをして…………。
「よぉ~~~~し、年末年始の行事はこれにて終了!」
男物の礼服を無理やり着込んだため、胸元がパッツンパッツンで今にもボタンが弾け飛びそうなツバサが、ゼーハーゼーハー深呼吸しながら宣言した。
一緒にノンストップで行事に参加したハトホル一家も総出でへばっている。
「ちょ、ちょっと……駆け足が過ぎたんではないかのぉ……?」
ドンカイですら息切れする怒濤の展開だったらしい。
「せっかくの飲み会が……1ページくらいでまとめられてねぇか?」
全然呑んだ気しねぇ、とセイメイが愚痴を垂れる。
「長く丁寧にやるとページを食うからといって……これはあまりに……」
さすがのクロコも苦言を呈したいようだ。
先の二人はぼやきで済んだが、クロコはしつこく食い下がってくる。
「せっかく、ツバサ様を強かに酔わせて大らかな気持ちになってもらい……皆さんの前でストリップショーとか、またバニーガールでダンスっていただきたかったのに! おっぱいプルンプルン! な艶姿を拝みたかったのに!」
「……おまえ、油断も隙もないな」
どんなに変態でもクロコだって一応は社会人。
大人の嗜みとして飲み会をやりたいだけかと思いきやさにあらず。そんなことを企んでいたとは……今後、クロコの進言には注意を払おう。
駄メイドは四つん這いのまま血を吐くような慟哭を上げる。
ダンダダーン! と拍子を踏んで床を殴りつけるのも忘れない。
「──und betrogen worden!」
「何故にドイツ語、そして何故『おっぱいプルンプルン!』と聞こえる?」
発音の問題か? 単なる空耳か?
ドイツ語としての意味は『騙されてきただけなんだ!』となるはずだ。
ダメな大人たちだがツバサは敬語で言い付ける。
「……とにかく、これで年末年始の飲み会は終わり。また年末年始になるか祝い事でもない限りやりません。どうしてもというなら、これからやりたい面子で二次会をすることだけ許可しましょう」
後始末はクロコに一任する。
「よぉし、ツバサ君の許しも得た! 今夜はぶっ通しで飲み明かしじゃ!」
「別に許した覚えはないんですけどね……」
新年ゆえの気の緩みか、いつもよりドンカイもはっちゃけている。
ツバサは冷ややかに目を細めるが気にもしない。
「よっしゃ! 新年ぐらいはハメ外して酔い潰れたっていいよな!」
「おまえは年中ハメ外しっぱなしで酔いどれだろ……」
セイメイは年中無休でアル中の穀潰しである。
これ以上ハメを外せるというならお目に掛かりたいものだ。
四つん這いのまま「ツバサ様のおっぱいプルンプルン!」と聞くに堪えない慟哭を上げていたクロコは、何事もなかったように瀟洒に立ち直る。
「仕方ありません……お付き合いがてら後始末を承りましょう。ツバサ様のストリップショーを拝見できなかった憂さをお酒で晴らさせていただきます」
「酔って気分が良くなっても脱衣はしないからな」
ツバサはクロコに言い聞かせておいた。
……この大人トリオを放置していいのだろうか?
一抹の不安が過ぎるツバサの肩をチョイチョイと突く者がいる。
「ツバサさん、僕が見てるから心配しないで」
2m越えの巨大な美少女に化けた起源龍が、プカプカと宙を舞いながら安心するように声を掛けてきた。確かに彼女が見張っていれば大丈夫だろう。
なにせ酒に強い──本当の意味でザルなのだ。
セイメイやドンカイも酒豪だが、ジョカには決して敵わない。
さすが起源龍、人間とは肝臓の出来が違う。
「僕ももう少し呑みたいからみんなに付き合うよ。度が過ぎるようなら止めるし、どうにもならなかったらツバサさんを呼ぶからさ」
「じゃあ、お目付役を頼もうかな」
時刻は22時──子供なら寝てなきゃおかしい時間だ。
ツバサは酒宴の見張りをジョカに、後始末をクロコに押し付けると、子供たちにお風呂へ入るよう促した。就寝に向けての準備を進める。
「そうだ、アハウさんやバリーの野郎にケイラちゃんも呼ぼうぜ!」
「ふむ、ではクロウさんもお招きしてはどうかのう?」
「でしたら、お二方の名前でレオ様もお誘いいただけませんか? 私がお招きすると敬遠されますが、親友であるお二方なら……」
ダメな大人たちは呑み仲間を集めようとしていた。
ツバサも成人しているが、ここまでディープな飲み会に付き合えるほど成熟してはいないので、振り返ることなく広間を後にした。
~~~~~~~~~~~~
「富国強兵──ってあんまり良いイメージないよな」
湯気に煙る夜空に向けて、ツバサは問うように呟いた。
「そりゃあ日本の黒歴史でもある戦時中に流行った四字熟語ッスからね。全体的にマイナスイメージになるのは仕方ないッス」
答えてくれたのはフミカだった。
こういう時、博識な彼女が話し相手だと助かる。
「しかし、これからやるべきことを要約すると他にないんだよな……」
目標とする言葉が──ツバサは気怠げに呟いた。
真なる世界を富ませて豊かにし、そこに暮らす民たちを強くする。
それを簡潔に言い表す言葉が他に見当たらなかった。
フミカは水滴まみれになった眼鏡を湯船のお湯で洗ってかけ直すと、富国強兵という言葉に逡巡するツバサへアドバイスをくれた。
「でもバサ兄、富国強兵って古くは春秋戦国時代からある言葉ッスよ」
「あれ、元ネタは中国だったのか?」
ツバサ自身、戦時中のイメージが強かったらしい。
フミカは四文字に込められた意味を詳らかにしてくれる。
「民が潤うくらい国力を発展させて、国を守るための軍事力を強くする、ってのは国として当然の政策ッスからね。ましてや200を越える国が乱立したと言われる春秋戦国時代、生き残るためには根幹にすべきものッスよ」
「それが俺たちの目指すところでもあるんだけどな……」
ツバサは自然石で組まれた湯船にもたれかかった。
熱い温泉に肩までしっかり浸かりたいのだが、Lカップの爆乳が浮き袋となってそれを妨げる。頑張れば首元まで沈められるのだが、ちょっとでも気を抜くと自然に浮かび上がってしまう。そんなことを繰り返していた。
ハトホルの谷の我が家──新設された露天風呂だ。
先日、お休みの日にイシュタルランドを訪問してミサキ君たちと遊んだ際、ジンが作った露天風呂に入ったのだが……これが素晴らしかった。
我が家にも大浴場があるけど、露天風呂にも入りたい。
ダインに頼んだら半日で作ってくれたのは言わずもがなである。
『ついでに強化つきまくりの温泉も掘り当てといたぜよ!』
『おまえ本当に優秀な息子だな!?』
ご褒美に抱擁してやろうとしたが拒否されてしまった。
もうそがい年じゃないきに! とダインは顔を真っ赤にして逃げ回るが、喜んだ母心が遊び心まで起こして、しばらく追い回したのは内緒だ。
ダインを息子として可愛がれるようになった。
それはツバサが地母神に適応しつつ、心身ともにより一層の女性化へ順応しつつある証明でもあった。だが、それでも…………。
「……男心を捨てられないのは何故だろうな」
ツバサはうだりそうな温泉の熱に身を委ねてぼやいた。
誰にも聞かれないような小声でだ。
何度目かの爆乳による浮上で、ツバサは肩まで浸かるのを諦めた。
半身浴のつもりで乳房を湯に浮かべると、湯船の縁に腕を乗せて上半身を預けるようにする。少し行儀が悪いけど男なんだからいいだろう。
自分の身体を女神で──ここは露天風呂の女湯なんだが──。
ハトホル一家も14人という大所帯になり、女性ばかりで構成されていたが近頃は男性陣も増えてきたので(実質4人しかいないのだが、精神面を鑑みればツバサとジャジャも含め6人になる)、お風呂は男女に分けたのだ。
我が家内の大浴場も、男湯と女湯に改築されている。
その女湯にはツバサの“娘”を称する女性陣が一堂に会していた。
現実であればナイスバディな女子高生なはずの最年長なフミカを筆頭に、同じく女子高生ギャルのプトラ、健康優良児なトモエ、キッズモデル誌の表紙を飾れそうな小学生のマリナとイヒコ、最年少の美幼女ジャジャ……。
いや待て──最年長は起源龍じゃないか?
身長2m越えの巨大娘でありながら美少女という、規格外の造形美をした人間の姿になっているが、中身は地球誕生と同時期に生まれた最古の龍だ。
だが、生憎とこの場にはいない。
彼女はセイメイやドンカイというオッサンたちに付き合って、酒宴の真っ最中のはずだ。給仕をいいつけたクロコもいない(計画通り)。
「ツバサさ~ん、アタシアタシ、最愛の長女がカウント漏れ~」
「おまえはオオトリだろ。何事も順番だ」
そして『アホな娘ほど可愛い』の体現者であるミロ。
ツバサが「お風呂に入って歯を磨いて寝なさい」と言い付けたら、「みんなでお風呂に入ろう」と言い出して、御覧の有り様である。
ダメと言って聞き分けるわけもないし、無理に断る理由もないので全員で一緒に入ることになった。露天風呂はプール並みに広いから人数制限もない。
みんな、思い思いに露天風呂を楽しんでいた。
「まあ、アタシは入りすぎてのぼせたわけですが……うぇ」
「だから風呂の中で泳ぐなと言っただろ」
いくら神族といえ、強化がつく温泉ではしゃげばのぼせるに決まっている。なので、顔を真っ赤にしたミロは露天風呂に用意されたベンチに寝転がって涼んでいた。
頭隠して全裸隠さず──という状態だ。
冷水で冷やしたタオルを頭に乗せているだけ、美少女として完成された女体美を惜しげもなく晒している。温泉に濡れた肌が星のように煌めいていた。
見慣れているけど見飽きない、そんな裸体に見とれそうになる。
ふと湯船に目を移すと、こちらにも裸の美少女が浮かんでいた。
「トモエ、おまえは何をしてるんだ?」
「んなー……温泉の流れを全身で感じてる……」
筋肉美少女──腹筋系アイドル。
自他共に認めるそれを認めるトモエは、筋肉質な美少女の裸体を仰向けにすると、湯船に“プカァ……”と力なく浮かんでいた。
皮下脂肪少ないのによく浮くな、と感心する。
源泉掛け流しのお湯には少なからず流れがアリ、トモエはそれに逆らうことなくあっちへユラユラこっちへユラユラと漂っている。
「オヤカタに教えてもらった……どんなものにも流れがある、その流れを掴むことが大事……トモエ、お湯の流れでそれを掴んでる……」
トモエは土左衛門よろしく流されていく。
そういう修行法は聞かないでもないが、やるなら激流の川とか高低差の激しい滝でやるものではなかろうか? 温泉でやって効果あるのか?
「源泉掛け流しだから流れはあるが……まあ、いいか」
彼女なりに寛いでいるみたいだから良しとしよう。
マリナ、イヒコ、ジャジャ──。
最年少トリオはツバサの傍にいた。
「はぁ……やっぱりセンセイのおっぱいが一番落ち着きます」
いつもは二股の三つ編みにしている紫色の長髪をほどいて、頭はタオルでしっかり巻いてある。無論、ツバサのやってあげた仕事だ。
マリナはツバサの右脇から寄りかかっており、右の乳房を枕にしてウットリ目を瞑っていた。無意識に手を這わせたりもしてくる。
「ツバサさんのおっぱい最高……ああ、夢みたい……♪」
反対側からはイヒコがもたれかかっていた。
彼女は最近になってツバサの娘になったにもかかわらず、その馴れ馴れしさは群を抜いている。マリナ同様に遠慮なく左側の乳房を枕にして、その肌触りを楽しむみたいにこちらの胸を揉んでくる。
母親恋しいと聞いていたが……そろそろ目に余りそうだ。
肩まで伸びる薄茶色の髪は洗いざらし。
マリナのようにタオルでまとめてやろうとしたら「邪魔くさいんでいいです」と断ってきた。こういった手間は女の子でも性格が出るらしい。
「ヴァトもこっちに来たらー? やせ我慢しなくてもいいよー?」
イヒコはツバサのおっぱいにしがみついて呼び掛ける。
声を送る先は壁の向こう──露天風呂の男湯だ。
イヒコの従兄弟で、彼女と一緒にツバサの息子となったヴァトに呼び掛けた。
まだ10歳だからギリギリ女湯でも許される……のか?
「い、いけるわけないだろ! ぼ、ぼぼくは男湯でいいよ!」
顔を真っ赤にして困惑するヴァトの顔が思い浮かぶ。
ツバサは「次男だ」と公言するのだが、ヴァト本人は「ぼくはツバサさんの弟子です」と恥ずかしそうに訂正する。
ダインといいヴァトといい──男の子は素直じゃない。
ツバサの爆乳に反応するぐらいだから、女体に興味が出るお年頃なのだが、まだいやらしいことへの罪悪感が勝っているのだろう。
本格的な思春期までもう一歩、といったところである。
「よう言うた義弟! こっちはこっちで野郎同士、裸の付き合いぜよ」
「うわっぷ!? ……ダ、ダインさん?」
そんなヴァトにお湯を浴びせながら褒める声も聞こえてきた。
ダインも二次会には付き合いきれず、ひとっ風呂浴びてから【不滅要塞】で作業をするつもりだと言っていたのを思い出す。
「よっしゃ、侠気あふれた話で盛り上がるぜよ! おんしはトラン○フォーマーなら何が好きじゃ? わしゃフォートレス○キシマスぜよ!」
「だからそれ、侠気あふれた話題か?」
ツバサは壁越しにツッコんだが、ダインには届いてなさそうだ。
この問い掛けにヴァトは生真面目に答えた。
「えっと、ぼくは……バンブ○ビーが好きです。実写の劇場版のも好きですけど、個人的にはアニメチャンネルで見た、トランスフォーマーアド○ンチャーで隊長をやっていたバ○ブルビーが一番好きです。あと、どのシリーズだったかな……声優の大○透さんが看護員ラ○ェットを演じてたシリーズも好きでした」
「ヴァト、お、おまん……マニアックじゃな!」
「ダインさん!? 痛い痛い痛い! これベアハッグ!?」
義弟よ! と感動したダインがヴァトを抱き締める音がした。
新入りの義弟が、ここまで語れるトランス○ォーマー通だと初めて知ったと同時に、同好の士を得られたことに感極まったらしい。
男湯からは賑やかな声が聞こえてくる。
「ダイちゃーん、可愛がりも程々にしとくんスよー?」
はしゃぐ亭主にフミカはのんびり釘を刺していた。
愛しいダインに近付く者は老若男女問わずヤキモチを焼いていたフミカだが、晴れて夫婦となってからは余裕が出てきた。いい傾向である。
「ざーんねん、恥ずかしがるヴァトで遊べると思ったのになー」
イヒコはまたツバサの胸に縋りついてくる。
「センセイのお胸に直で甘えられるのは娘の特権なんですよ」
マリナも負けじと乳房に桃色の頬をすり寄せる。
10歳の美幼女が2人──裸でツバサにまとわりつく。
こう記すと犯罪臭がすることこの上ないし、その趣味の人間にとっては血の涙を流して羨むシチュエーションかも知れないが、ツバサは幼女趣味じゃないので別段反応するようなことはない。
ただ、母性本能が無上の充足感を覚えるだけだ。
彼女たちに限った話ではない。
ミロもトモエも、それより年上で女子高生のくせして異常に発育のいいフミカや、年相応なナイスバディのプトラも裸で目の前にいる。
いくらツバサがミロ一筋とはいえ、こちらは意識せざるを得ない。
だが──フミカとプトラは一向に気にしないのだ。
どうやら完全に“男性”と思われていない様子。そもそも初対面の時からツバサは女神化しており、男だった頃の面識がまったくない。
本当は男だ──と言っても説得力がないらしい。
しかし、選り取り見取りな年頃の娘たちに一糸まとわぬ全裸でウロチョロされるのは、いくら女神化しようと元男として精神衛生上よろしくない。
何度も目を閉じたり、目元を手で覆ってしまう。
「おまえら……俺の視線を気にしないのか?」
やんわり注意してもフミカやプトラはケラケラ笑うばかりだ。
「もう、今さら何いってんスか。ウチらよりダイナマイトバディになってるバサ兄のがウチらの視線を気にするべきッスよ。女の子同士でもエロい目で見たり見られたりするもんスよ?」
「おまえらの視線が突き刺さってるのはよくわかるよ……」
視線は時として痛覚以上に訴えてくる。
ツバサの場合、胸やお尻にグサグサ刺さるのを意識してしまう。
以前よりは耐性こそついたものの、まだ“女として見られている”と感じてしまうと、羞恥心から来る動悸を覚えるのだ。
「そうそう、女の子同士だからっておっぱい揉み放題とかやったりやらなかったりするし……あたいはそういうの好きなタイプだし」
プトラはいやらしい目付きでニンマリ笑ってお湯から両手を出すと、ワキワキと10本の指を動かしていた。
女の子同士でそういうことをやるやらないと噂には聞いたことがあったが、こいつはそっち派だったか……。
──プトラ・チャンドゥーラ。
イヒコやヴァトと一緒に加わった、コギャルの道具作製師だ。
職能の分類的には工作者に近い。
フミカも長い髪をタオルでまとめているが、私生活がだらしないというプトラもオシャレを意識してか髪をしっかりまとめ上げていた。
普段から昇天ペガサス盛りみたいな頭だから、気を遣っているらしい。
フミカはツバサに負けず劣らずのグラマラス体型だが、プトラはそこまで豊満ではないが均整の取れたナイスバディだ。出るところは程良く出っ張っているし、引っ込むところはキュッと引き締まっている。
世の男性諸君に万人受けしそうなスタイルだ。
様々なタイプの美少女が素っ裸で揃っている──この現状。
クロコがいれば感情のない声で「ツバサ様だけの極上ハーレム(娘)ですね」と鼻血と涎をあふれさせて冷やかしてくるに違いない。
健全な青少年の精神なら、脳髄が茹で上がるような光景だ。
「母上……自分、目を開けていられないでゴザル……」
ツバサの真正面──乳房の谷間でジャジャが呻いた。
大きな露天風呂で湯船の縁にもたれかかり、長い足をぐーんと伸ばしたツバサの身体をソファ代わりして、小さなジャジャの身体を乗せていた。
ツバサとミロの遺伝子を受け継ぎ、7歳の美幼女に転生した忍者。
しかし、その中身は15歳の少年なのだ。
幼女に転生してしばらく経つが、少年時代の感覚が拭いきれないのだ。
ツバサが男心を忘れられないのと同じである。
7歳という割には幼すぎる──魅惑のプニプニボディ。
そんなロリータな体をツバサに預けているジャジャは、露天風呂に広がる美少女パラダイスを見ようとするのだが、まともに見続けていると興奮のあまり頭に血が上っておかしくなりそうなので、両手で顔を隠していた。
男として発情しても、反応する器官がない。
興奮の行き場がないから悶々としてやるせないのだろう。
ツバサぐらい女性として発育していれば、女性的な興奮を覚える場所が反応しないでもないが、それはそれで困ることが多々あった。
「おまえも男だった過去を捨てきれないのか……」
お互い難儀だな、とツバサはジャジャの小さな頭を撫でてやる。
美幼女3人に群がられるツバサは、彼女たちの位置を直しながら喜びに打ち震える母心を理性で抑え込むと、真剣な眼差しで話題を変えた。
「ちょっと脱線したが──富国強兵だ」
俺たちが取り組むべきことはな、とツバサは念を押した。
するとフミカが「お言葉ッスが」と断って片手を挙げた。
「それはウチらが推進的に取り組むってことッスか?」
「ああ、そうだ……おまえが言いたいこともわかってるよ」
あんまりイジワルなこと言わないでくれ、とツバサは自嘲気味に言いながら手をヒラヒラさせると、フミカはこちらの意を介した上で追及する。
「バサ兄、ネコちゃんたちを助けた時に仰ってたッスよね。現地種族の発展には手を貸すけれども必要最低限、彼らが文明的にも自立できるような援助しかしない。いずれ地球の人類が転移してきた時には、彼らを受け入れるだけの裁量を持ってくれるように促していきたい……って」
ツバサの意図を理解した上で、フミカは柔らかい言葉で問い掛けてきた。
「ああ、言ったな……ついでに、すべてが落ち着いたら俺たち神族になった者たちは人間たちと距離を置くとも言った。力の差は不和を生むからな」
もしかすると地球に帰る時が来るかも知れない──。
いずれ蕃神との戦いに終止符が打てるかも知れない──。
平穏な時代が訪れて神の存在が疎まれるかも知れない──。
「そんないくつもの“かも知れない”があったから、あの時はあんなことが言えたんだ……だが、今となっては希望的観測だったと思い知らされる」
──別次元からの侵略は終わらない。
「古い神族や魔族たちが4000年以上前から追い返し続けているのに、蕃神たちは諦めることなく、真なる世界への侵攻を続けている……俺たちがこの世界に転移してきてからもうすぐ1年だが、この間にも大きな戦いは何度もあった」
なのに──蕃神の脅威は去らない。
「蕃神は執拗だ……どれだけ痛めつけても殺しきれない感があるうえ、この世界の活力を奪おうと幾度となく攻め込んでくる……こちらの都合など意に介さず、いつでもどこでもお構いなしだからな」
甘く見ていたことは反省せねばなるまい。
ツバサは眉を八の字にすると言い訳をさせてもらった。
「正直、蕃神も真なる世界からの反撃で弱っているとか、奴らの眷族がこの世界に蔓延っているわけじゃないから猶予はありそうだとか……対抗措置を講じるだけの時間はあると目算してたんだがなぁ……」
「予想より再侵略のペースが速かったッスからね」
「ああ……人間の常識に当てはめちゃいけない。失敗だったよ」
蕃神の再生力や行動力──そして飢餓感。
何より、この世界に対する執着心をナメていた。
ボヤボヤしている時間はない。悠長に構えている暇もない。
「ボサッとしていたら、何もかもが奪われる……そんなのは御免だ」
ツバサや広げていた両腕を持ち上げると、自分に寄り添っていた娘たちを静かに抱き寄せる。心の中では、もっと多くの者を抱き寄せているつもりだった。
ツバサは、重苦しそうな声で本心を打ち明ける。
「もう……家族を失うのは嫌なんだよ」
ハトホル一家の誰かを、ネコ族を、ヒレ族を、ハルピュイア族を、イヨやオリベが率いる妖人族を、スプリガンの一族を……。
それだけじゃない。
ミサキ君たちのイシュタル陣営、アハウさんたちのククルカン陣営、クロウさんたちのタイザンフクン陣営。
彼らの誰1人として失いたくなかった。
「理不尽に滅ぼされてたまるかよ。だから……」
「富国強兵──なんスね」
知恵蔵というだけではなく、頭の回転も早いフミカはわかっていたはずだ。それでも確認の意味もあって、ツバサに問い掛けてきたのだろう。
ツバサは「ああ」と小さく答えて続ける。
「俺たちには蕃神に立ち向かうだけの力がある。だが、長年の侵略で傷付いた現地種族にはそれがない……最初はゆっくりと地力を培ってもらおうと思っていたが、のんびり構えていられそうにもないからな」
もはや一刻の猶予もない。迅速な行動あるのみだ。
まだ非公式ながら、ツバサはこの場で明言することにした。
「この世界すべての力を底上げする──神の力で大々的にテコ入れするぞ」
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誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
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※カクヨムでも連載しています
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*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
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