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第11章 大開拓時代の幕開け
第251話:豊穣の巨神が振り下ろす鉄槌
しおりを挟むスプリガン総司令官──ダグ・ブリジット。
彼の名前はある神族の一団を率いた主神“ダグザ”に由来するものだ。
ダグの母親がダグザの子孫だったらしい。
ダグを産んだ彼女はこう言い残した。
『この子は父祖の再来となることでしょう』
これは預言か──それとも希望を託したのか。
少なくともスプリガンたちは預言と受け取り、主神の名を受けた当人は託された希望に応える者になりたかったという。
しかし、ダグの『巨鎧甲殻』は成長しなかった。
スプリガンの置かれた実情からすれば仕方のないことだし、一族の誰もがダグを卑下したことはない。彼が内に秘める“力”を感じていたからだ。
それでも──ダグは己を恥じた。
総司令官の地位を継ぎながら、それに見合うだけの能力がないことにダグは苦悩した。父祖の名に相応しい存在になろうと努めたそうだ。
そんなダグにとって満願成就の時が来た。
──豊穣巨神王ダグザディオン。
本来、スプリガンの『巨鎧甲殻』は1人につき1機。
灰色の御子でもあるダグだけが6体もの『巨鎧甲殻』を擁し、これらが合体変形することで最大最強の『巨鎧甲殻』へと神化を遂げる。
進化ではない──神化だ。
ダグザディオンを分析すると、『神族』として分類される。
おまけにLVも800から900まで上昇していた。
母親である地母神が預言した通り、完全変形を遂げたダグは父祖の再来としての力を発揮できるまでにパワーアップするのだ。
「どことなくダインの“巨神王ダイダラス”と似てるな」
製作者(デザインも兼ねる)が同じだから当然か?
──ハトホルフリートの甲板。
そこでツバサたちは、ダグザと名付けられた『巨鎧甲殻』が、5体の獣王と合体する一連の流れを見届けることとなった。
「『合体している間に攻撃しろよ!』っていうのは、ロボット物で1回はやるネタだけど、まさか変型中にこっちからガンガン攻めるとはな」
「獣王さんたちだけで戦艦を沈めちゃいましたね」
ツバサとマリナは着眼点をズラして感心した。
すると、ミロがチョイチョイと袖を引っ張ってくる。
「ツバサさんマリナちゃん、意外と多いのよ。その逆張りネタ」
合体中の安全確保のためバリアを張って合体するロボもいれば、ダグザディオンみたいに合体中でも平然とこっちから攻撃するロボも少なくないらしい。
「にしても……カッコいいな」
ツバサの男心、というか少年心が燃えそうだった。
ダグザディオンには、男の子の童心を焚きつける魅力がある。
ダイダラスにも心を動かされるものがあったが、個人的にはダグザディオンの方がツバサ好みのデザインをしている。
ベースとなるのは、鎧兜を身につけた武者風の人型ロボ。
そこに猪と牛を象った機体が両脚、猟犬を模した2機が両腕、鹿の王をモデルにした大型の『巨鎧甲殻』が上半身を覆う鎧として合体する。
鹿の角が背中に回り、両翼になるところが一風変わっていた。
角が左右に広がって大きな翼の骨組みとなり、その隙間を埋めるように気密体とよく似た物質化した“気”が皮膜となって覆っている。
大きく広げられた翼は“気”の粒子を燦々と振りまいていた。
全体的なカラーリングは深い緑色。
目映い光沢も相俟ってエメラルドグリーンのようだ。
ダグザとは豊穣を司る神──それに肖ったカラーリングらしい。
完成したダグザディオンを見たツバサが素直に「カッコイイ」と褒めた時、背後に空間を超える力を感じたが、振り向かずとも誰かわかった。
「カッコイイ──まっこと最高の褒め言葉ぜよ」
生まれこそ高知県だが、転勤続きの親に振り回されて中途半端な土佐弁になってしまったダインの声が聞こえてくる。
振り返れば、甲板に【不滅要塞】の門が出現していた。
「10時間をちくっとオーバーしちょったが、最後ん最後まで機体のデザイン調整に手間を掛けた甲斐があるちゅうもんじゃ」
そこからダインがのっそり現れ、フミカとジンが続いた。
振り返ったミロは合点のいった顔をする。
「あ、だからダグ君のロボも、合体メカの動物たちもカッコよくなってんだね。製作室で見た図面だと“もっさり”したロボットだったし」
言われてみれば──設計図と大分違う。
ミロが言ったとおり、設計図通りにあれらの獣王ロボを建造していたら、もっと時代遅れのデザインになっていたはずだ。
個々の獣王ロボも、人型のダグザも、現代風に改良されていた。
「ダインのことだ。フミカが調べてくれたダグの設計図を『こっちの方がええ!』とか何とか言って魔改造しまくったんだろ?」
ツバサが半眼で見据えると、長男をドヤ顔で手を振った。
「いやいや、そこは洗練したと褒めちょくれ母ちゃん」
「誰が母ちゃんだ……ま、格好良いのは認めてやる」
カッコいいと褒められて気をよくしたダインはニカッと歯を剥いて笑い、得意気に人差し指で鼻の下をこすっていた。
あれだけの巨大メカを10時間で作った息子。
疲れた様子は見せず、晴れ晴れした達成感の笑顔だった。
一方、ダインを手伝ったフミカとジン。
フミカは小走りで甲板に出てくると、見やすい位置からダグザディオンの勇姿を見つめるも、子供を案ずる母親のように眉を八の字にした。
「あーもう! 試運転が成功したからって、いきなり出撃して戦闘中に合体するなんて……これだから男の子は無鉄砲で困るッス」
ジンもマスク越しでもわかるほど不安げだった。
このアメコミマスク、装着した者の表情に合わせて変化するのだ。
ツバサも持っているが無駄に高性能である。
「お仲間のみんなが頑張ってるから、リーダーの自分が前に出なきゃって気持ちはわかるんだけど……作った俺ちゃんたちの気持ちも考えてほしいなぁ。もっとしっかり慣らし運転してくんないと……」
世話焼きな親戚目線で心配する2人。
スプリガンにとって肉体の一部でもある『巨鎧甲殻』を作ったダインたち3人は、ある意味では親代わりに近い存在なのだろう。
「なぁに、男子たる者あんくらいの気概があって然るべきぜよ。試運転? そがなもんいっぺんやりゃ十分じゃ、漢ならぶっつけ本番ぜよ!」
その筆頭たるダインは、まったく心配していなかった。
鋼鉄の拳を握り締めてガッツを滾らせている。
「──あとは勇気で補えばいいんじゃ!」
「あ、なんか見覚えある合体だと思ったらモデルは勇者王なの?」
蒸気の鼻息を噴いて力強く言い切るダイン。そんな彼を指差してミロは「わかっちゃった~♪」と鼻歌交じりにからかう。
ミロの冷やかしも笑顔で流すダインは、人差し指を突き出して叫んだ。
「さあ、ぶちかましちゃれ──ダグザディオンッ!」
~~~~~~~~~~~~
ダインの激励が聞こえたのか──。
「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーッ!」
ダグザディオンは雄叫びを上げると翼を広げて、高速飛翔を開始した。キラキラと“気”の粒子を振りまく翼は、不思議な音色を奏でている。
「──“金色の音色を奏でし父祖の竪琴”!」
ダグザディオンが背負う、黄金の角で形作られた両翼。
「えっ、なに、この心地良い音……あれ、傷が!?」
「治ってる……結構やられてたのに?」
それが飛翔する時に奏でる音色を浴びたスプリガンの娘たちは、自分の傷が見る見る治っていくことに気付いて目を白黒させていた。
結界の間際でミ=ゴを迎撃していた彼女たちは、自爆上等で突っ込んできた艦載機の爆発に巻き込まれたり、それを乗り越えて突入してきたミ=ゴとの戦闘で負傷していたが、ダグザディオンの音色はそれを癒やしたのだ。
「ダグザが持つとされる秘宝──三弦の黄金の竪琴」
それを再現した兵器ッス、とフミカが教えてくれた。
ダグザとは──ケルト神話にて語り継がれる主神の1人。
ダグザの権能を象徴する秘宝は3つあるのだが、ダグの『巨鎧甲殻』にはそれに基づいた兵器が組み込まれていたそうだ。
そのひとつ──聞いた者の感情や肉体を操る三弦の黄金の竪琴。
それを兵器に転用したのが、あの翼らしい。
ダグザディオンは癒やしの音色を奏でながら超巨大結界内を飛び回り、仲間たちに治癒を施すと、単身結界の外へ飛び出していく。
当然、ミ=ゴの艦載機が一斉に群がった。
すると一転、黄金の翼は破滅的な音を鳴り響かせる。
劈く音波が届くところにいたミ=ゴの艦載機は、全身に細かい亀裂が走るや否や木っ端微塵に爆散してしまった。
「治癒効果だけじゃない──物理的な威力を持つ音響兵器にもなるのか」
現実でも音響爆弾なるものがあった。
あれは攻撃的な音波を投射することで、人間の三半規管や脳にダメージを与えて行動不能に陥れるもの。なので、物質的な破壊力はない。
しかし、ダグザディオンの翼は立派な兵器だ。
超震動は攻撃をはね除けるバリヤーの役目を果たすとともに、接近してきた敵の装甲もろとも中身まで破砕する攻撃力を発揮した。
回復、攻守、迎撃……多方面に使い回せるらしい。
もはや音波兵器である。
何人たりとも近寄らせないダグザディオンは速度を上げ、ミ=ゴの円柱型戦艦に向かっていく。ほとんど無傷で残っている艦にだ。
艦を守ろうと艦載機が立ち塞がるも、音波攻撃の前に為す術もない。
ミ=ゴ戦艦からの砲撃すら音波による障壁で打ち消すダグザディオンは、右腕を振り上げると猟犬の顔だった部分を変型させた。
「──“生者必滅を為す獣牙”!」
腕の猟犬が吠えると牙が縦に分厚く伸びていき、巨大な牙を象った刃に変わっていく。形状としては“ジャマダハル”という、インド北部に伝わる斬ることよりも突くことに重点を置いた刀剣に似ていた。
ダグザディオンは牙の剣を剥いて戦艦に突撃する。
牙の剣が戦艦の装甲を噛み破り、そのまま艦内を真っ直ぐに蹂躙する。
音波攻撃も壊滅的なダメージを与えていた。
瞬く間に戦艦1隻を爆砕するまで追い込むダグザディオン。
戦艦の爆発から飛び出してきたダグザディオンは牙の剣を両腕に構え、二刀流を振り回しての大立ち回りだ。
2隻目、3隻目、4隻目……次々と牙の剣で噛み破っていく。
「……あれもダグザの秘宝なのか?」
ツバサの質問にフミカが戸惑いがちに答える。
「違うッス、あれはダグザの秘宝をモデルにしたんじゃなくて……」
「わしが開発したオリジナル武装じゃ!」
言い淀んだフミカに変わり、ダインが嬉しそうに声を上げた。
ああ……とツバサは呻き声で納得させられてしまった。
腕を組んで誇らしげに自信満々、狂喜さえ孕んだ笑みで長男は力説する。
「ミスリルをふんだんに配合した形状記憶アダマント合金製の刃! 秒間60億回を越える超震動を発生させる高周波硬質ブレードじゃき! どんな装甲じゃろうとシングルのトイレットペーパーみたいに噛み破るぜよ!」
狂的科学者じみた笑み──いや、狂的技術者というべきか?
「おまえ、こういう時は嬉々というより鬼気とするよな……」
「でも、そんなダイちゃんも素敵ッス……♪」
母親は長男の性癖に呆れ、恋女房は惚れ直していた。
竪琴をモデルにした兵器と違い、武骨で荒々しいと思いきや案の定だ。
しかし、音波兵器との相性は抜群だった。
艦載機を蹴散らして、次々とミ=ゴ戦艦を撃沈する。
1人で数人分の成果をあげることを“八面六臂”の活躍振りというが、それ以上の戦果をダグザディオンは単独で上げている。
出番がなさそうなミロはだらけ気味にぼやく。
「もうダグザディオン1機でいいんじゃないかな?」
「そうふて腐れるな、俺たちは動かないと言っただろ」
ツバサやミロが出撃すると、ミ=ゴが本能的に「敵わない」と悟って戦略的撤退をする可能性があるため、なるべく前に出ないと決めていた。
同時に──スプリガンに自信を付けさせてやりたいのだ。
彼らは戦闘民族なところがある。
代表のダグが「我らに戦う力をください! 奴らに報復しなければ始まらない!」とツバサたちに懇願した時、ブリジット姉妹やガンザブロン、それに戦士の娘たちまでもが無言で追従したくらいだ。
数百年に及ぶ一方的な防戦──よほど堪えたのだろう。
戦士である彼らの気持ちを慮り、この戦いではスプリガンに主導権を任せ、彼らに一族の誇りを取り戻してやりたいと思っていた。
しかし、ミロは食い下がってくる。
抱ているマリナを押し退ける勢いで、ツバサにもたれかかってきた。
「でも、アタシたちが神様として威厳を示さないと……わっぷ!?」
ピーチクパーチクうるさいので、黙らせるのも兼ねてマリナと一緒に抱き込んでやった。それで気が済んだのか、口を閉じたミロに言い聞かせる。
「神の威厳ならとっくに見せたし、この後しこたま見せるから安心しろ」
初手でツバサとミロのコンビネーションによる“太陽ホームラン”でミ=ゴ戦艦を撃沈し、人の手ではどうにもならない次元の裂け目を閉じたのだ。
これを神の威厳と言わずして何というのか?
だからこそ、ダグはツバサたちを信奉してくれたのである。
「ダグが──ダグザディオンがあそこまでの高性能を見せてくれたのは、俺たちにとってもスプリガンにとっても僥倖だ」
この場はスプリガン総司令官に任せよう。
一族が積み重ねてきた屈辱と、満足に成長できなかった鬱憤。あるべき姿と力を取り戻したダグはそれらを晴らすために発憤中だ。
ツバサたちが出るまでもない活躍振りである。
「想定外の事態が起きたら俺たちが始末を持ってやればいい。それまではダグ……ザディオンにできるだけやらせてやろう。どうせ後始末もあるしな」
ツバサの口振りから察したミロは明るい表情へと変わった。
この後、自分の晴れ舞台があることに気付いたのだ。
「そっか、最後の〆はアタシじゃなきゃできないもんね」
最後の〆──次元の裂け目を閉じることだ。
こればっかりは神族化したプレイヤーでも、世界を創り直す過大能力に目覚めた愛娘と愛弟子にしかできないことだった。
その点でもスプリガンはミロを崇拝すべき神と認めていた。
もうすぐ自分の出番が来るとようやく理解したミロは、その時が来るまで一休みのつもりなのか、ツバサの乳房に顔をめり込ませて甘えてきた。
「わかればいい。その時が来るまで大人しくしてろよ」
目を離すと何をしでかすかわからない問題児。
ウロチョロさせておくより、抱き留めておいた方が良さそうだ。
こうしている間もダグザディオンの快進撃は止まらない。
ミ=ゴ艦隊は戦艦も艦載機軍団も、ハトホルフリートや方舟そっちのけでダグザディオンに焦点を当てた攻撃に切り替えていた。
もはや彼らにとって、無視できない脅威となったらしい。
ミ=ゴの総攻撃を一手に引き受け、ビクともしない豊穣巨神王。
おかげでスプリガンたちも手持ち無沙汰である。
というか──ダグザディオンに見惚れていた。
どうもスプリガンという種族は『巨鎧甲殻』が一種のセックスアピールになっているらしく、男性は『巨鎧甲殻』が大きくて逞しいほどモテるそうだ。
その点、ダグザディオンはスプリガン史上最大の大きさを誇る。
戦士の娘たちは戦闘中だということも忘れて、戦うダグザディオンをウットリ見つめていた。「ガンザブロン一筋!」と吠えていたガラの悪そうな年長の娘たちでさえ、頬を熱くしてダグザディオンに見とれている。
そして──彼女たちの魅入り方は度を超していた。
「見てるか、ディア……ダグが……あのダグが……あんな立派になって……私たちの弟が……本当の総司令官として覚醒してくれたぞ……」
「ええ、ブリカ……眼が逸らせない……あのダグ君が……先代総司令官よりも雄々しく逞しく……わたしたちの真の主人に相応しく……」
ブリカとディアは感動のあまり号泣していた。
砲撃するのも忘れて自らの『巨鎧甲殻』にへたり込み、真っ赤に染まった頬を涙の滝で濡らして感動している。時折“ビクン!”と震えていた。
それを遠隔視で覗いていたミロが一言──。
「お姉ちゃんズ、あれ発情してない? 上も下もヌレヌレなんじゃ……あで」
「ミロ、エロは許すが下品は許さないぞ」
下品な発言が終わる前に拳骨で小突いて黙らせる。
しかし、ミロの指摘は当たらずも遠からずだ。
ブリカとディアは愛する弟が一人前になったことを喜ぶ姉である以上に、スプリガンの女として一族最強となった男に愛欲を募らせていた。
戦場に出ているスプリガンの大半が似たり寄ったりだ。
……戦争が終わったら大変だぞ、ダグ。
などと余計な心配をしている間に、ダグザディオンは両方の腕に装備した牙の剣でミ=ゴ艦隊のほとんどを大破に追い込んでいた。
疾風怒濤──ダグザディオンの機動性に富んだ神速の攻勢。
ダグザディオンを破壊しようと試行錯誤している内に、その巨神王に翻弄されたミ=ゴ艦隊は壊滅寸前に陥っていた。
ここに来て──25隻目の超巨大戦艦が焦るように動き出す。
こちらへ踏み込み、艦首を開いて巨大な砲門を開いた。
初期接近遭遇でハトホルフリートを狙った、あの波動砲モドキだ。
あの時の戦艦より格段に強そうだが──。
縦に並んだこちらの3隻を貫通させる弾道を選んでいる。
しかも、前半分だけを吹き飛ばすように照準を合わせていた。
方舟の後部に天梯があると知っているのだ。
「そんなことはさせ──んッ!?」
ダグザディオンが阻止するために向かおうとするが、ミ=ゴ艦隊の残存兵力が立ちはだかる。大破した戦艦をぶつけてでも止めるつもりだ。
足止めを打ち破り、超巨大戦艦へ向かうおとするダグザディオン。
ここで──ダインが絶叫した。
「ダグッ! ここでアイツを使わんでどがいするッ!?」
怒号めいた声を張り上げるダインに、ダグザディオンもマシンの目の色を変えるほど反応するが、彼の横に並んでいたフミカも慌てふためいた。
すぐさま【魔導書】を開くと、そこには魔法陣が描かれている。
どうやら何かの封印を解除する術式のようだが──。
フミカは緊張した面持ちでダインに問い掛ける。
「ダイちゃん、ダグ君の開発中に封印制御を掛けといたアレを……ッ!?」
「ああ、ダグザの秘宝のひとつ──」
ダグザディオンメイス──解放じゃ!
了解ッス! とフミカは開いたままの【魔道書】に掌を添えた。
【魔道書】の上にスクリーン型キーボードが現れ、フミカはブラインドタッチで複雑な暗号を叩き込んでいく。
「封印制御術式“モイツラ”……解錠ッ!」
最後のエンターキーを押した瞬間、どこかで何かが解放された。
「ううううぉぉぉぉぉぉああああああああああああああああッッッーーー!!」
呼応するようにダグザディオンが咆哮を轟かせる。
「“無限を湛える父祖の大釜”──全開ッッッ!!」
【魔導書】によって何かが解放される前に、ダグザディオンは自らの軛を外すべく叫んだ。これにより絶大なパワーが湧き上がる。
さすがのツバサも口元を噛むほど驚かされた。
「なっ! ダグザディオンが…………LV999に!?」
瞬間的だが、そこまでランクアップしたのだ。
増大するエネルギーにより、ダグザディオンの機体はエメラルドグリーンの輝きを増していき、翠玉の宝石でコーティングされたようになった。
「ダグザが持つとされる秘宝──無限の食物を生み出す大釜」
いくら食べても尽きない食糧を提供するとされる大釜。ダグザのもてなしを受けて満足しない者はいないと言われる、豊穣のシンボルとされる秘宝。
一説には、あの有名な“聖杯”の原型ともされている。
無限のエネルギーを生み出す豊穣神の大釜──。
それが今、ダグザディオンの動力炉として稼働していた。
「ダグ君がスプリガンの中で一目置かれていたのは、体内に組み込まれていたこの秘宝のせいッス。ただ、使いこなせなかったみたいッスね」
「そこでダグザディオンじゃ。あの機体なら出力180%までイケるぜよ」
ダインとフミカの解説で腑に落ちる。
だから『巨鎧甲殻』が未完成だというのに、総司令官に相応しいLV600もの力をダグから感じられたわけだ。
フルパワーとなったダグザディオンは、一時的にではあるがツバサやミロのような最上位神族に匹敵するポテンシャルを得た。
そんな彼の元に──最後の秘宝が舞い降りる。
神族の道具箱に似た亜空間。そこから顔を覗かせたのは──。
「あれは……ハンマーですか?」
マリナは見たままの感想を子供らしく述べた。
現れたのは戦槌らしき武具だった。
全長20m前後のダグザディオン。その体躯に合わせた長い柄を持っているが、先端に付いているハンマー部分はさして大きくはない。
自動車ぐらい軽々と叩き潰す大きさだが、ダグザディオンの威容からすると普通すぎてインパクトが足りない気がする。
ミロなど小声で「拍子抜け~」と抜かすくらいだ。
そんな外野の感想など知る由もなく、ダグザディオンは武具の柄を掴むと道具箱から引き抜いた。その瞬間、誰もが目を剥いた。
「でぇっ……でぇかあああああああああああああああーーーいッ!?」
ミロの悲鳴めいた絶叫が響き渡った。
しかし、その瞳は少年のようにキラキラ輝いている。
最初に現れたハンマーは槍で言えば石突──柄の末端に過ぎない。
野太い柱のような柄の先には、巨大な鉄塊が括りつけられていた。一振りで高層ビルをも叩き潰しそうな固唾を飲む大きさだ。あまりの無骨さから鉄塊といったが、ちゃんとメカニカルなデザインになっていた。
両端が殴打する形になっているので、やっぱりハンマー型である。
これが──ダグザディオンメイスだ。
「なんで!? ダインの製作室で設計図を見た時には、もうちょい大人しいサイズだったのに……てか、棍棒じゃなかったっけ!?」
そう──ツバサの記憶でも“ダグザの棍棒”と呼ぶべき外見をしていた。
だが目の前に現れたあれは、どう見てもハンマーにしか見えない。
戸惑うミロに、ダインはとびきりの笑顔で親指を立てた。
「わしの大好きな必殺兵器をオマージュしてみたぜよ!」
「本当にあのハンマー好きだね、ダイン」
ミロは納得するも薄ら笑いで呆れ気味だった。
メイスとは棍棒、戦棍、鎚鉾、日本語に訳すると色々な呼び方があるが要するに殴打武器だ。しかし、形が形なのでハンマーにしか見えない。
ダグザディオンより質量があるメイス。
その重量を意に介することなく、ダグザディオンは振り回す。
振るうのは勿論、迫ってくるミ=ゴの艦隊だ。
「退けぇぇぇああああああああああああああぁぁぁーーーッ!」
雄叫びを上げてダグザディオンがメイスを振るうと、ハンマーからエメラルドの衝撃波が発せられた。ミ=ゴ艦隊はまともにそれを浴びる。
そして──瞬時に塵と化した。
ダグザディオンの黄金の翼が奏でた音波攻撃とは質が違う。
「あれは……ツバサの『滅日の紅炎』に近いものだ」
以前、キョウコウという強敵に対抗するため編み出した新技だ。
この世に在るものは、いつか必ず滅ぶ。
その滅びの時まで対象を早送りする──時間操作系の技能に近い。
正確には物質の分子や原子の働きに、極限を超えた圧力を与えて加速度的に劣化させ、一瞬で風化させているだけなのだ。ただし、この時かける圧力は天文学的なエネルギー量になるため、普通の神族では扱えない。
ツバサのようなLV999に達した神族にしか──。
ダグザディオンは膨大な“気”を生み出せるダグザ・コールドロンという動力源でエネルギーを賄い、あのメイスを使いこなしているのだ。
「ダグザが持つとされる秘宝──生死を自在とする棍棒」
3つの秘宝の内では唯一の武器であり、超攻撃的な代物だった。
神々が8人掛かりでようやく持ち上げられるほど重く、一度振るうだけで多くの兵士を絶命させ、逆に振るえば意のままに蘇生させることもできる。
殺す時の威力もまた壮絶で、この棍棒に叩き殺されたものは「馬の蹄に踏まれた霰」のようになって、深く地面にねじ込まれるという。
「その棍棒をモデルにしたあの兵器は、想像を絶する圧力を掛けてあらゆるものを強制的に滅びへ加速させる対軍兵器な鈍器ッス」
ダグザの棍棒について解説してくれたフミカ。
最後に、ダグザディオンのメイスがどのようなものかを教えてくれた。
やはり、ほぼツバサの『滅日の紅炎』と同じ原理だ。
「あのメイスを完璧に使いこなすんは、ダグザディオンに合体変形して、力の源であるダグザ・コールドロンと、音波を操るゴールデン・ハープを同時に発動させんといかん。でないと、メイスからの反動でヤバいからのぉ」
しみじみとダインは呟き、ツバサは得心がいった。
「アレを使ったからダグは大怪我を負ったのか……」
改良前とはいえ、基本コンセプトは一緒のはず。
未完の『巨鎧甲殻』であんな超兵器を使えば、何十年も休眠をするほどの重傷を負って当然だ。いや、よく生き残ったものである。
「あの時はやられたが……今度こそぉぉぉぉぉぉーーーッ!」
豪快に振り回されるダグザディオンメイス。
そこから放たれる緑に彩られた光は衝撃波となって、既に崩壊寸前のミ=ゴ艦隊を塵へと変えていった。やがて行く手を阻む者もいなくなる。
戦艦も艦載機も蹴散らして、ダグザディオンは真っ直ぐ降下。
目指すは最後の1隻──超弩級の円柱型戦艦。
「先代総司令官も……地母神も……そして、みんなの家族も……おまえが! おまえたちが! おれたちから大切なものを根こそぎを奪っていったッ! この500年、どれだけ辛酸を舐めさせられたか……ッ!」
ミ=ゴを倒さなければ──スプリガンは未来に進めない。
「今こそ……我らスプリガン一族の雪辱を晴らさせてもらう!」
ダグザディオンは万感の想いを込めてメイスを振り下ろす。
超弩級戦艦も負けてはいない。
その図体に似つかわしくないスピードで船を動かすと、波動砲をダグザディオンに合わせたのだ。迎え撃つ作戦を隠そうともしない。
まだ充填が終わってない主砲を解き放つ。
迸るエネルギーの奔流に、さしもの巨神王も飲み込まれそうになる。
「おぉぉぉらぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁーーーッ!」
ダグザディオンは襲ってくるエネルギーの先端にメイスを叩き込んだ。
あらゆる存在を滅びへと加速させる巨神の鉄槌は、エネルギーの奔流であろうと例外ではなく、何の益体もない塵へと変えて霧散させてしまった。
どれだけ主砲を撃ち込もうと塵にするまで──。
ダグザディオンは押し寄せるエネルギー砲すらも叩き潰すように打ち消し、ミ=ゴの首魁と目される超弩級戦艦へ迫っていく。
「次元の彼方に……消え失せろおおおおおおぉぉぉーーーッ!!」
そして巨神の鉄槌は、ついに仇敵へと叩き落とされた。
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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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『鑑定——』
エリオット・ラングレー
種族 悪霊
HP 測定不能
MP 測定不能
スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数
アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数
次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた!
だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを!
彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ!
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(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
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