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第9章 奈落の底の迷い子たち
第221話:陶器で練られた地界の王国
しおりを挟む「祠……というよりダンジョンへの入り口みたいだな」
ツバサは自然を司る過大能力【偉大なる大自然の太母】によって、この辺りの地形を立体的に把握することができる。その能力で感知してみたところ、目の前にある祠から地下へと続く洞窟らしきものが確認できた。
しかし、洞窟の内部は漠然としていてる。
酷く“気”が澱んでおり、感知能力が行き渡りにくいのだ。
大気中に漂う普通の“気”が透き通るような清流だとしたら、この洞窟内に漂っている“気”は泥のようなとろみのついた沼に似ている。
濃厚かつ濃密ではあるものの汚れている感もあった。
ここまで近付いても判然としないことから、内部に潜入したとしても全貌を把握するのは難しそうだった。
「言われてみりゃあ……ダンジョンにありがちの地下から湿った臭いが鼻を衝くな。アルマゲドンでも似たような雰囲気のがあったし」
セイメイは鼻を鳴らし、脇差しを鞘に収めた。
「そこら辺、アルマゲドンはVRシステムの限界に挑戦するべく、凝った作りをしておったからのう。まあ、今となってはこちらの世界へ飛ばされるためのウォーミングアップみたいなものだったわけじゃが……」
ドンカイはゲームの出来を思い返しながら、子供たちを肩から降ろしてツバサに預けてきた。それからセイメイの横へ並ぶように前へ出る。
戦士系の職能で前衛──その役割を心得た行動だ。
チビッコたちの手前、大人の男らしい仕事ぶりを披露して、かっこつけたいだけかも知れない。特にセイメイの態度はそんな風に見受けられた。
2人の間から、ツバサも祠の様子をそっと窺う。
「それにしても派手だな。極彩色とでも言えばいいのか……」
森の奥にあったのは見晴らしのいい広場──。
明らかに人為的に拓かれた土地だ。
木々の伐採は切り株まで丹念に取り除かれ、下草も1本残さず丁寧に刈り取られており、地面も歩きやすいように均されている。
整頓されたその土地は、野球場ぐらいの広さがあった。
広場の中央には──祠が建てられている。
「ありゃあ焼き物……陶器でできておらんか? “テロン”とした光沢が瀬戸物のように見えてならん。デザインも和風っぽいが……?」
「どう見ても神社だろ、あれは」
ドンカイは明言しなかったが、セイメイは一言で切り捨てた。
ニート侍の言う通り、あれはどう見ても神社だ。
陶器で組み立てられた神社──そんな風情がある。
祠を構成する壁も柱も屋根も、釉薬を塗って焼かれた陶磁器のような質感の素材で作られていた。建築様式も日本古来の神社にしか見えない。
その陶器の色がやたらと派手なのだ。
ドンカイも言っていたが、釉薬を掛けて焼いた陶磁器特有の“てかり”が目に眩しいほど映え、色合いも豊かで見ていて飽きない。
まるで──鑑賞的に楽しませるような出来映え。
そういう意味では神社らしくない。形をそれっぽく真似ているだけだ。
神社の建物はどれもこれも同じように見えがちだが、専門家によれば社殿や本殿や拝殿と種類があるらしい。しかし、日本人ならば「神社みたい」と言えば、大体どんな造りか想像がつくだろう。
ただ、正面の扉が神社というよりは屋敷の入り口を守る門構えのようにしっかりした作りなため、ツバサたちの第一印象は“祠”になった。
この門構えのため入り口としか思えず、他に建物も見当たらない。
なのでツバサは「地下に通じるダンジョンの入り口」と断じたのだ。
祠から地下へ流れていく空気の流れを感じる。ぱっと見ではわからないがどこかに通気口もあるようで、しっかり換気もされているらしい。
何より「ダンジョンの入り口」と決めつけた理由は──。
「ちゃーんと門番まで立ってやがるしな」
セイメイは腰の大小を叩いて、自分の出番だと誇示する。
神社を模した祠を警護するように、門番の兵士が配備されていた。
数にして40から50、小隊を作れる人数だ。
その兵士たちを分析したツバサは眉をひそめる。
「あれは……何なんだろう? 操り人形? 使い魔? ゴーレム? それともホムンクルス? サーヴァントでもないようだし……」
少なくとも、現地種族ではない。神族や魔族でもない。
かといって蕃神でもない。そもそも生命力を感じられないのだ。
ぱっと見では──デッサン人形にしか見えない。
のっぺらぼうな頭に、球体関節で繋げられた胴体に繋げられた首、両腕、両足。腰回りもちゃんと稼働するように設計されている。これらの素材も滑らかな陶器に似た素材で作られているらしい。
手に至っては五本の指まで再現されている。
どれもこれも鮮やかな緑色をしており、緑釉陶器のようだ。
陶器製のデッサン人形たちは武装している。
陣笠、兜、鎧、籠手、脛当て……これらの防具は金属製だったり革製だったり、本格的な素材が用いられていた。
門番たちが手にする刀、槍、弓、これらも本物の武具だ。
装備のどれもが日本風の拵えで統一されている。
「ここを根城にしているのが何者かは知らないが……随分と日本贔屓だな」
それも戦国時代の流行がお好みのようだ。
兵士たちの出で立ち、あれは戦国乱世の装いである。
「それを着ているのは速写に使うデッサン人形だけどな」
「あやつらも陶器みたいなもんでできとるのぅ」
セイメイは呆れたように呟くも、物陰に潜むのをやめて歩を進めた。彼の目配せを受けたドンカイは頷き返すと、ツバサに振り向いてくる。
「ツバサ君、あれらは退けても良かろう?」
現地種族でも神族でも魔族でもない。
一見して生物とは思えないし、話が通じそうな相手でもない。探索の邪魔になりそうだから排除しても構わないだろ? と確認を求められた。
「ええ、仕方ありませんね。一応、声を掛けてみて、返事もせずに敵対行動を取るようなら退けるしか……」
「おい、木偶ども──そこを退いちゃくれねえか?」
ツバサが説明を終えるより早く、セイメイが声を掛ける。
思わず「このバカ!」とセイメイを叱りかけたが、ツバサが言おうとしたことをやっていたので叱責の言葉は飲み込んでおいた。
セイメイの声に、デッサン人形たちが反応する。
目も鼻も口も耳すらない顔を、一斉にこちらへと向けたのだ。
セイメイが一歩踏み出すや否や、門番の兵士たちは身構える。
こちらの声は聞こえているが、それに受け答えするだけの機能は搭載されていないようだ。そもそも口がないから喋れそうにもない。
槍を構えて、刀を抜き、弓に矢をつがえる。その挙動は人間らしく、人形なのが惜しいくらいの反応速度だった。兵士として練度は高そうだ。
「だが──遅ぇ」
セイメイは広場へ踏み込むと同時に、腰の剛刀を神速ですっぱ抜いた。
居合術により抜き放たれた剛刀から斬撃が走る。
アルマゲドンでは刀剣術を極めれば、人間のままでも“飛ぶ斬撃”を放つことができたが、セイメイは現実でも“飛ぶ斬撃”を撃てると豪語する達人。
今や剣神となった彼の腕前は、人間の達人を凌駕する。
放たれた斬撃は、巨大な三日月形のエネルギー波となって迸る。
1個小隊はいる人形兵を1体残らず木っ端微塵に砕き、ついでとばかりに陶器の祠も斬り飛ばすように破壊してしまった。
「久世一心流──切風」
来業伝という先祖伝来の剛刀に肖って名付けた神刀を振り払い、ドヤ顔で技名を言ってから、セイメイは刀を鞘へと収めた。
セイメイ──わざと派手にやったな。
このニート侍は本物の剣聖……いや、紛う事なき剣神だ。
その点だけは認めざるを得ない。
今の居合術、セイメイならあんな衝撃波を発生させるまでもなく、人形兵の小隊をすべて胴体から真っ二つにして、陶器の祠も両断できたはずだ。
音もなく衝撃もなく──斬られたことすら自覚させずに。
それをわざわざ派手にやった理由は……。
「おおーっ! 真っ黒サムライさんすごーい! 一撃虐殺ってやつじゃーん!」
イヒコは効果バツグンの必殺技を前にして拍手喝采だった。
「……やっぱり、このお侍さんも凄い人なんだ」
強さに関心のあるヴァトも、セイメイの腕前に唸っていた。
セイメイは鼻高々で胸を張っている。
このニート侍、子供の前で見栄を張りたかっただけなのだ。
特撮ヒーローみたいな気分なのだろうか?
すると、ヴァトとイヒコはツバサの大きなお尻に隠れるようにして、悪気はないのだろうが、割と失礼な質問をセイメイにぶつけた。
「「ところで──オジサンだーれ?」」
見事にズッコけるセイメイ。コメディリリーフの技能も働いていた。
割とショックなのか、すぐに立ち直れずコケたままだ。
「オ、オジさんはともかく……だーれ? って……」
へっぴり腰のまま、生まれたての子鹿よりも激しく足を痙攣させていた。
さすがに悪いと思ったのか、イヒコとヴァトが交互に言い訳をする。
「真っ黒サムライさんだけ、ツバサさんや他のゲーム実況者さんでも見たことないから……あ、もしかしてツバサさんの舎弟ですか?」
「すいません、ドンカイさんみたいに有名人なら知ってるんですけど……セイメイさんの名前はあんまり伺ったことがなくて……」
ヨロヨロと立ち直ったセイメイは、残念そうに呻いている。
「おれってばそんなに知名度なかったんか……オジサンショック!」
鬱だ死のう、なんて暗い声でぼやいていた。
心折れたように振る舞うセイメイに、ドンカイとツバサは指摘する。
「おまえさん、そういう承認欲求とは無縁じゃろうが」
「そうだよ。いつぞや『“孤高の大剣豪”なんて小っ恥ずかしい二つ名、誰が付けたんだよ』って鼻で笑ってたじゃないか」
「それでも……おれだって人並みに傷付く自尊心くらいあるのよ?」
男臭い声のセイメイは、カワイイ裏声で反論する。
「「ウソつけ、この天上天下唯我独尊野郎」」
ツバサとドンカイは半眼で笑いながらこき下ろしてやった。
セイメイは傷心の演技をそれまでに、長羽織を翻して立ち上がる。
「ま、何にせよだ。兵隊としちゃあ悪くない即応振りだったが、おれから見りゃあ烏合の衆よ。小手先ひとつでちょちょいのちょいさ」
セイメイは露払いを終え、広場に罠などがないかを探る。
それを終えてから子供たちに「気にすんな」と笑いかけて、「入ってこいよ」とツバサたちに先へ進むよう促してきた。
割れた人形兵の欠片を踏まないよう子供たちに注意しながら、ツバサとドンカイも広場に足を踏み入れる。
祠の跡地を覗き込み、ツバサは呆れた。
「しかし……ここまで吹っ飛ばさなくても良かろうに」
セイメイの斬撃は陶器製の祠を斬り飛ばすだけでは飽き足らず、土台から根刮ぎ吹き飛ばしていた。地下へ降りるための階段まで露わになっている。
「いいじゃねえか、扉を破る手間が省けただろ?」
セイメイは悪びれもしない。
手間が省けたことに違いはないが……。
「やり過ぎだ、と言ってんだよ。もしもこの地下に住む何者かが、話の通じる友好的な相手だったらどうするんだ? あの人形も俺たちを不審者と自動的に判断しただけで、会ってみたらいい奴だったりしたら……」
挨拶代わりに訪問先の玄関をブッ壊したようなものだ。
防犯装置の人形兵も壊滅させているから、家主への心象は最悪だろう。
「まあまあ、やってしまったものは仕方あるまい」
ドンカイが割って入り、済んだことで揉めるのを諫めてきた。
「あの人形の兵士からして、問答無用で外敵を寄せつけぬ配慮が見え隠れしとるし、話し合いに持ち込むには難儀そうな相手じゃ。そういう時は……」
「……力尽くしかない、ですよね」
こちらの力を見せつけて屈服させ、それから諭すしかない。
神族の力でチートするような傲慢な振る舞いをツバサは好まないが、下手に出るばかりが能じゃない。時には高圧的な交渉も求められる。
「んじゃ──行きますか」
話がまとまるとセイメイが先陣切って階段を降りていく。
それにツバサがヴァトとイヒコを連れて続き、最後にドンカイがもう一度辺りに目を配ってから降りてくる。ここでもしっかりと殿を務めてくれた。
階段を降りながらドンカイが声を上げる。
「この階段……幅といい段差といい、大きく作ってあるのう。ワシの図体でも余裕で上り下りできるくらいじゃから相当なデカさじゃぞ」
逆に、イヒコやヴァトのような子供には少々キツい。
ピョンピョンピョン、と一段ごとに両足で飛び降りている。可愛らしい。
「家主はドンカイさん並みの巨漢なんですかね」
ツバサも階段を降りていくが、この身長でも難儀する段差だ。
「あっ、ツバサさん、ヴァト、こっちの方が歩きやすいよ」
すると、イヒコが何かに気付いて階段の端に寄った。
大きな階段の両脇に、段差の違いの階段が側溝のように設けられていた。こちらは普通の人間が歩くのに適した高さになっている。
「巨人用と一般人用とは別々のようじゃな」
ドンカイはそのまま中央の大きな階段を下っていき、ツバサはイヒコやヴァトを伴って脇の階段へ、セイメイは強がってドンカイの後に続いていた。
そうして降りていきながら、ツバサは感知能力を研ぎ澄まさせる。
この地下に潜む者を探り当てるように──。
~~~~~~~~~~~~
階段を降りていくと、すぐに地階に広がる空間を目の当たりにできた。
それは──奈落まで通じていそうな大穴。
地下の奥底へと掘り進められた大穴は歪んでおり、そこかしこに大小の横穴が開いていた。その横穴から複雑に洞窟が入り組んでいるようだ。
歪みながらも地下へ向かう大穴を中心に、無数の横穴が枝葉のように広がっているらしい。地中で例えるなら、さしずめ巨木の根に例えられる。
大樹を支えるため縦横無尽に張り巡らされた根──。
そんな趣のある巨大な洞窟だ。
「……地下も陶製のもので整えられているわけか」
ツバサたちの目に入ってきたのは、またしても陶器で形作られた物だった。
大穴の外壁を這うように地下へと降りていく螺旋階段や、対角線上にある横穴を結ぶように渡される通路、そこから別の横穴へと繋がる歩道橋……。
こうした通路もすべて陶器で建設されていたのだ。
階段も通路も橋もすべて繋がっている。大穴の中を縦横無尽に編み目の如く張り巡らされていた。所々に楼閣らしきものまで設けられている。
目に映るものの意匠はどれも純和風──歴史情緒さえ漂わせていた。
ツバサは橋の欄干を指で叩いてみる。
「しかもこれ、ただの陶器じゃない……ファインセラミックみたいに尋常じゃない強度があるな。どうやって作ってるんだろう?」
ダインやジンのような工作者ならば鑑別できるかも知れない。
見た目は食器に使われる陶器のようだが、強度や耐久性は現実世界にて工業製品に使われる強化素材のようだ。これなら建材としても十分だろう。
「瀬戸物でできてんのはいいけどよ、なんかひん曲がってねえか?」
橋の欄干や楼閣の梁、そういったものが微妙に歪んでいる。
絶妙に──と言い直してもいいかも知れない。
セイメイがその点を「欠陥住宅みたい」と指摘すると、ドンカイが陶器製の欄干を飾る擬宝珠を愛でるように撫でながら反論した。
「そいつは違うぞ、セイメイ──こりゃわざと歪ませとるんじゃ」
造形に“甲”ではなく“乙”な美を求める。
「なんもかんも“ピシッ!”と型に嵌ったとおりに作るんではなく、自然物のようにどことなく歪んでおったり、人工物ではなしえない崩れた柔らかさを表現しようとしておるんじゃ……これらの建築物はそういう路線を目指しとる」
「語るねぇ、オヤカタ。骨董趣味でもあったのかい?」
セイメイがからかうと、ドンカイは懐かしむように答えた。
「ワシゃあゲーム好きだと公言しとろうが……じゃが、角界の諸先輩方やタニマチのお偉方には、こういう骨董好きが仰山おったからのぅ」
そん人らからの受け売りじゃ、とドンカイは眼を閉じて微笑んだ。
「実際、わざわざ歪ませた器を焼いとった陶工もおったらしいからのぅ……いや、あれを主導してたんは茶器狂いの大名じゃったかな?」
「歴史の勉強はカンベンしてくれ。高校時代の赤点を思い出す」
ドンカイは話を広げたそうだったが、セイメイはアッカンベーをして長話になりかけた話題を打ち切った。
階段を降りきった一行は、大穴に橋渡しされた通路を進む。
この通路の幅も広く、5人連れでも悠々と歩ける。
ドンカイか、それ以上の巨漢が行き来することを前提にした造りだ。
しかし、楼閣を覗いてみると一般人や身の丈の小さな者に配慮した高さの椅子やテーブルが置かれていた。地下にある階段も、やはり大小二通りだ。
「バリアフリーには程遠いが、造った者の気配りが窺えるな」
楼閣のひとつに入ったツバサ一行は、そこから地下に広がる広大なダンジョンを覗くように見渡してみた。通路には等間隔で灯籠も配備されており、そこには暗闇でほんのり明かりを灯す“蛍光石”が仕込まれていた。
おかげで薄暗いものの、地下洞の全容をなんとなく眺めることができた。
「……でも、一番底は暗すぎて何にも見えないね」
イヒコが欄干から顔を出して、恐る恐る真下を覗き込んでいた。
「うん、ぼくの技能じゃ見通せない……どれくらい深いんだろう?」
真似するみたいにヴァトも一緒に欄干から顔を出す。
「すぐにわかるさ──これからな」
欄干から地の底を覗いているイヒコとヴァト。
2人の背後からツバサは覆い被さると、そのまま両脇に抱えるように抱き締めてやる。右の乳房にイヒコがめり込み、左の乳房にヴァトの頬が埋もれる。
「えっ!? あっ、ツバサさんの抱擁!? ここで約束実行ですか!?」
「ふぁっ!? なっ……ツ、ツバサさん胸がががあがおがっ!?」
イヒコは驚きながらも歓声を上げて自分からしがみついてくるが、ヴァトは赤面しながら硬直してしまい、やばそうな喘ぎ声で呼吸を荒くしていた。
先刻から──剣呑な気配が蠢いている。
大穴のそこかしこからツバサたちの動向を注視しており、こちらの一挙手一投足にまで目を光らせているのが丸わかりだった。
この洞窟に棲まう現地種族か?
それにしては様子……というより気配がおかしい。
上手く表現できないのだが、どうにも歪な感じがしてならないのだ。
さながら、この洞窟を飾る陶製の迷路の如く──。
数こそ多いが、大半の者は相手にもならない雑魚ばかり。
「2人……違うな、3人ってところか」
「うむ、2人ははっきりしとるが、3人目がどうもわかりにくいのぉ」
明確な殺気を送ってくる者が3人──。
ツバサが感知できた者の中でも、この3人はずば抜けて保有する“気”が大きいので、このダンジョンに巣食う者の中でも幹部級と思われる。
そして──最大級の力を持つ者が最深部にいる。
そこにはプトラらしき女神の気配と、もうひとつ幽けき気配があった。
「じゃあ、任せてもいいですかね?」
ツバサはドンカイに断りを入れた。その内容はアバウトだが、気心の知れた達人の間では多くの言葉は使わずとも伝わるものがある。
「ああ、先に行っとるといい。すぐ追いつくわい」
「おれたちが追いつくのが早いか、ツバサちゃんがダンジョンのラスボスを倒すのが早いか……スピード勝負で賭けてもいいんじゃね?」
セイメイからの軽口な了解も取れた。
既にセイメイとドンカイは自然体のまま臨戦態勢に入っている。
2人も自分のやるべきことをしっかり心得てくれていた。
あと数秒で──潜んでいる者たちが襲ってくる。
セイメイとドンカイにそれを引き受けてもらい、ツバサは子供たちを連れて一足先に地下へと降り、地の底にいると思われるプトラを救出する。
話し合わずとも、そのような算段になった。
ツバサは神々の乳母が欲するるまま子供たちを愛おしむように抱き上げ、欄干へと足を掛ける。そして、深淵の底を目指して飛び降りていく。
その直後──楼閣が大爆発に見舞われ、異形の者が殺到した。
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