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第9章 奈落の底の迷い子たち
第207話:お母さんは休めない(色んな意味で)
しおりを挟む「……って違う! 誰が“妻"だ!」
微睡んでいたツバサは、おかしい独白にツッコミを入れた。
肉体的疲労は神族なのですぐ回復するが、それに伴う精神的疲労はかなり不味いところまで到達していたらしい。
まさかミロのことを“夫”と書いて“妻”と呼び、自分のことを“妻”と記して“夫”と呼んでいたとは……漢字とルビの意味が逆転している。
つまり、それぞれの立場も逆に捉えていたのだ。
男であるはずのツバサが“妻”──女であるはずのミロが“夫”──だと。
夢の中でツバサの男心が「違う!」と喚いていた。
その声によって叩き起こされたのだ。
「自分でも気付かずに、随分前から寝入ってたのか? いくら怠かったとはいえ、そんな勘違いをするなんて……錯乱していた気分だな」
自己認識を女だと──ミロの妻だと認識しかけていた。
もしかすると、ククリの母の魂の影響かも知れない。ミロが受け継いだククリの父の魂とは夫婦なのだから、そう思い込んでしまうのも頷ける。
だとしたら、彼女には失礼だが悪影響にも程がある。
ツバサはここまで女神化、地母神化、母親化が進行しても、決して自分を“女性”だとは認めたくなかった。それは心の奥底にある現実世界においての自分こと“羽鳥翼”という1人の男に起因する感情だ。
あるいは──女顔から来る精神的な外傷なのかも知れないが。
「まったく、悪夢を見たより悪い寝覚めだ……ふぅ……」
久し振りに寝汗かいたらしい。
頬を伝う一筋の冷や汗を拭ってから、なんとなく窓の外に目を遣れば、もう日が傾いていた。季節的には冬の気配が色濃くなった秋のようだ。
真なる世界に飛ばされて半年……いや、7~8ヶ月は経っている。
地球が何事もなければ、日本はそろそろ秋から冬に移り変わる頃だ。
真なる世界も似ているのか、秋めいた季節は終わりを告げつつあった。そろそろ冬支度をしなくてはいけない肌寒さを感じる。
もっとも、神族化したプレイヤーは気温差に左右されない。
不老不死(老いて死なないという意味)の肉体を得た神族は、暑さ寒さにも耐性がある。人間がへこたれる温度差でも影響はない。
血も凍るような極寒や骨まで焼く灼熱でもない限り、神族が夏の暑さや冬に寒さに苦労することはない。このおかげで、プレイヤーは暑さや寒さを気にして着替えることはなくなっていた。
なので、季節感を無視した衣装でも平然としている。
衣替えを意識しているのは、ツバサとハルカとマヤムとホクトぐらい。
全員、各陣営のお母さん役を務めていた。
「誰がお母さんだ……って、そろそろ自分の脳内発言にツッコむのはやめるか……しかし、秋の夜はつるべ落としだな。日が落ちるのも早い」
思ったより深く眠っていたらしい。
眠りに落ちる寸前、時計の針は午後14時半を刺していたが、今見てみれば16時40分を回っている。2時間近く眠っていたらしい。
昼寝としては寝過ぎなくらいなのに、まだ眠気が晴れない。
寝起き特有の倦怠感があったとしても、この眠気は異常かも知れない。そもそも神族や魔族は、睡眠や飲食に悩まされないはずだ。
神族としての肉体的疲労が度を超していたのに、戦いが終わった後もあれこれ無理をしたから、精神的疲労が溜まっていたのだろう。
ツバサたちは神族化したとはいえ、まだ日が浅い。
神となった肉体に人間の精神が追いついておらず、その人間のままな精神が神族として負った疲労感を克服できていないらしい。
だから疲れて眠くなるし、無性に癒やしを求めてしまうのだ。
「本当に、ちゃんと休まないと駄目みたいだな……ん?」
ふとツバサは違和感に気付いた。
ソファに座ったまま眠っていたためツバサは動いていないが、自分に抱きついていたミロがいつの間にかずり落ちて、足下の床に寝転がっていた。
ソファの下に敷いた絨毯の上で、ゴロリと寝返りを打っている。
「くぅ……くぅ……エヘヘ、ツバサさんのエッチぃ……」
穏やかな寝息かと思えば、間抜けそうな顔で“にへら”と頬を緩めたミロは聞き捨てならない寝言を呟いた。
きっと自分に都合のいいエッチな夢を見ているのだろう。
「……誰がエッチだ、このアホ」
足下に転がるミロの頭を爪先で軽く小突く。
しかし、寝落ちする前にミロの愛撫を自ら求めていたのを思い出して、つい頬が熱くなってしまう。苛立ち紛れにもう1回小突いておいた。
ミロが床にずり落ちた原因は、どうやらマリナとジャジャにあるようだ。
この幼女2人はツバサの左右に陣取って、寄り添ったり丸まったりしながら一緒に昼寝をしていた。しかし、ツバサが眠りに落ちると、彼女たちはミロを追い払うように退かして、自分たちがツバサの胸に縋りついたらしい。
右側からはマリナが抱きつき、右の乳房に頬ずりするように顔を埋めている。
左側にはジャジャがしがみつき、左の乳房に小さな顔をめり込ませていた。
モゾモゾと動いては、より一層ツバサに身体を寄せてくる。
まだ微睡みの中にいるがどちらの瞳もうっすら開いており、寝ぼけながらの行動のようだ。でなければツバサからミロを引き剥がすなんて、そんな恐れ知らずな真似をマリナとジャジャにできるわけがない。
そんなことをしたら──ミロにいじめられるからだ。
「センセイェ……センセェ……寂しかったです……」
マリナは寝ぼけ眼のまま、ツバサの右胸を独り占めするかのように抱き締める。
彼女の体格からすれば、ビーチボールを抱えている感じだろう。
抱きつくマリナの両手は絶えずグニグニ動いている。
弾力に富んだ爆乳が揉まれ、乳房にみっちり詰まった乳腺が刺激された。
そこに溜め込んだ液体を外へ搾り出すかのようにだ。
「センセイ、お母さぁん……ぎゅうっ……」
「ちょ、マリナ、あんまり抱き……んっ、くぅ、あっ……ッ!」
我慢しようとしたのだが、甘い声が出るのを抑えられなかった。
乳房の先端から何かが漏れた感じまでする。
眠る寸前、ミロの愛撫を自分から求めるくらい女性的な性欲に昂ぶっていたのは間違いないが、まさか幼いマリナに感じさせられるとは……!?
「母上ぇ、自分もぉ……母上が恋しかったでゴザルぅ……」
便乗したわけではないだろうが、ジャジャまで同じことをしてくる。
マリナより小さい身体で、懸命にツバサの左乳房にしがみついてくるのだ。彼女にしてみればバランスボールに抱きついてるような感覚だろう。
そして──ジャジャは元少年だ。
男の子だった頃の性欲も残っているのか、マリナよりも荒っぽく乳房の肉を掴もうとする。幼児の握力なので高が知れているのだが、それが微妙な力加減となってツバサの性感をちょうどいい感じで刺激する。
それがツバサの性的興奮を更に焚きつけてきた。
乳房を掴もうとする幼子の握力は、愛撫よろしく揉みほぐしてくる。
「母上、母上……母上ぇぇぇ……ッ!」
「ま、待てって……ジャジャ! おまえまで……ひぃん!?」
母の温もりを求めてくる幼女の手に、ツバサは女の快感を覚えてしまった。
マリナとジャジャは──母親に甘えまくる。
娘たちとしては寝ぼけたままなので欲求に素直になり、1週間も出張していたお母さんに甘えているだけなのだ。当人たちはそう主張するだろう。
ツバサも今回の件で女神として大幅にパワーアップしたため、地母神特有の母心も強まっている。いつも以上に娘たちが愛らしくて辛抱たまらない。
だが、今回はタイミングが最悪だった。
ツバサとしては珍しく、自主的にいやらしい気持ちが昂ぶって……。
「いや、違う! 断じて否! 認めな……いぃんッ!?」
訂正しようとしたのに変な声が漏れる。
人前では決して上げられない、恥ずかしい声色だった。
女神の肉体がミロを男神として求め、性的な欲求を得たいという気持ちが静かにこみ上げてきたのだが、疲労感を優先して寝入ってしまった。目覚めたところで寝ぼけ眼の娘たちが甘えてきて、それに女性的快感を感じてしまったのだ。
娘たちに甘えられて、母性は沸騰しそうなくらい狂喜する。
同時に、彼女たちの甘える動作がツバサの女神的肢体を程良く刺激してくれるので、女体だけが感じられる喜びに骨の髄まで痺れている。
母の喜びと女の幸せ──その相乗効果は計り知れない。
2乗3乗どころではなかった。
母性と女性──両方の感情が相互に刺激し合い、どちらの幸福感も爆発的に膨れ上がらせていく。眠気が吹き飛ぶどころではない、あまりの心地よさに蕩けてしまいそうだった。このまま卒倒してもおかしくはない。
女神の乳房を良いように弄ばれて身悶える。
男だったはずの自分がこんな快楽に墜ちそうだなんて!?
「マリ、ナ……ジャジャ……くぅっ! い、いけないって、そんなの……俺の胸は……オモチャじゃない、のに……ああっ!? はぁ、んんっ……」
女と母の快感に身悶えるツバサは、それでも無意識に両手をマリナとジャジャの背に回すと、彼女たちを落とさないように抱き締める。
娘への愛おしさが募り、母性本能が自然とツバサを動かしていた。
同時に──もっと快感を求める自分もどこかにいた。
男としては認めたくないが、自分の行動から認めざるを得ない。
その上で2人の娘に自分のおっぱいを好きなように弄ばせて、母と女の喜びを同時に味わっていた。気持ちよさに打ち震えながらも、彼女たちを起こさないようにできるだけ嬌声を抑える。
2人を抱き上げているためソファに座ったまま、できるだけ動かないようにしているが、男の頃には感じたことのない骨の髄まで溶かしそうな強烈すぎる快楽には耐えきれず、ツバサは喘ぎながら首を振り回して我慢する。
声を殺して俯いた瞬間、2人の娘が次に取ろうとする行動に気付いた。
「あっ、くぅぅ……2人とも、あっ……駄目、今それはっ!?」
2人は蕾みたいな小さな唇をそっと咲かせて、ツバサのそれぞれの乳房の頂点に吸いつこうとしていた。娘たちにしてみれば、いつもやっていることだ。
寝ぼけているので服や下着を剥ぐまではできないらしい。
だから、服越しでもお構いなしだ。
ツバサも普段から彼女たちに施している行為。
母親が娘たちに乳を与えるなど、当たり前の行為だった。
「でも、おまえ、たちもいいかげん……乳離れし、ろ……あぐっ!?」
今日はヤバい。今はいけない。
これ以上、刺激を受けたら大変なことに──。
「センセイ、お母さん、ママ……ママ、ママっ……はぷっ」
「母上、母上……おっぱい、おっぱい……あむっ」
「──────────────────────────────ッ!!」
音波だけでリビングを崩壊させそうな喘ぎ声が漏れ出るところだったが、ツバサは唇を噛み切そうな勢いで口を閉じ、その声を腔内で噛み殺した。
一瞬だけ我慢した後、歯を食い縛ったまま深呼吸を繰り返す。
マリナもジャジャも、ワイシャツがあろうがブラジャーがあろうが、お構いなしで吸い付いてくる。それがただでさえ疼いていた乳房を刺激して、ハトホルミルクを止め処なく噴き出させる。
吸われる度、また声が漏れそうになるのだ。
「…………ああ、もういいや……俺、お母さんでもいい……」
ツバサは娘2人を抱いたまま静かに号泣する。
女神になってしまったこの身だが、達観した表情で男泣きに泣かせてもらう。
吸いつかれた瞬間、ツバサは様々な意味で絶頂を迎えていた。
ただでさえ性的に昂ぶっていたところに、今や最大の性感帯となった特大の爆乳を娘たちは加減せずに吸ってきたのだ。
こんなの耐えられるわけがない。
母親としての幸せが絶頂を迎え、女としての喜びが絶頂を迎え、性的な意味での快感が絶頂を迎え、途方もない多幸感が押し寄せてきた。
この想像を絶する快楽に男心はどんだけ喚いても押し流されてしまい、男としての絶望感だけが奈落の淵に叩き落とされていく。
2人の娘は服越しでも関係なく、チュウチュウと吸い上げている。
彼女たちが吸いきれないほど大量のハトホルミルクがあふれ出し、娘たちの唾液と混ざってツバサのワイシャツをしとどに濡らす。
これは着替えるだけでは済まない。風呂で洗い流すレベルだ。
「ブラやシャツどころか、ショーツの中まで不味いことになってる……夕飯前に風呂でも浴びるか……ああ、しかし、まさか幼い娘たちに……ううっ」
まさか、こんな幼い娘たちの手で、女性としての絶頂に導かれてしまうとは夢にも思わなかった。当人たちに半ば意識はなく、偶発的な事故だと片付けてしまえばそれまでだが、それはそれで不本意な気持ちになるのは否めない。
しかも、快感そのものは現在進行形なのだ。
マリナもジャジャも乳房に吸いついたまま離れようとしない。
普段でも敏感になった乳房を吸われるのは気持ち良くて神々の乳母に起因する喜びが騒ぎ出すのに、今日みたいに癒やしを求めている時は、殊更に女性的な快感へと繋がってしまうようだった。
絶頂を迎えたばかりなのに、すぐさま高揚感が再燃する。
こういう感覚は男の頃にはなかったものだ。
男の快感は一度でも達してしまうと、割と冷静になってしまう場合が多い。俗にいう“賢者タイム”というやつだ。出すもの出したらスッキリする。
しかし、女性の快感は余韻が長い。
おまけに余韻の最中でも新たな絶頂へと導かれることさえあった。
ここら辺は夜毎、ミロに女として愛されたことにより実感した。
ツバサなりに、女性として経験則から学んだものだった。
ミロはその日の気分で女同士の百合を楽しんだり、自身を男の娘に変えることでツバサに女体の快楽というものを叩き込んできた。
その度にツバサは泣き、叫び、喚き、よがり──ミロに縋る。
どうしょうもないくらい女であることを思い知らされ、男心は嘆きに嘆いて暴れ狂うも、神々の乳母である肉体は喜び、ツバサ自身はミロに愛されることを受け入れて歓喜していた。
……そろそろ神々の乳母と羽鳥翼が乖離して、二重人格にでもなりそうな気がしないでもないが、ツバサの精神力が強すぎるためか、そうはならない。
だから羽鳥翼という男心がいつまでも苦悩するのだが──。
「でもまあ、良くも悪くも1回……んっ! ……イッたせいか……んっ、こいつらに乳を吸われるぐらいじゃ……あん、動じなくなってきた……な……ッ!」
それでも、気を抜けば妖しい声が漏れる。
本来なら叱りつけて起こせばいいものを、ツバサの中の神々の乳母が、母に抱きついたまま心地よさそうに眠る娘たちを起こすことを許さなかった。
彼女たちが起きるまでこうするしかないな、とツバサも諦める。
そんな時に限って──アホが動き出す。
「ん~……んがぐっぐっ……ふぁ……ツバサさんのおっぱい、の匂いがするぅ……アタシも飲むぅ……ハトホルミルクちょうだぁい……」
ツバサの足下で寝転がっていたミロ。
鼻提灯を割ったかと思えば寝ぼけ眼で起き上がり、やっぱり微睡んだままツバサの足にしがみつくと、マリナやジャジャのようにおっぱいを求めてきた。
「え、こ、こら! ミロ、そこは違うっ……ひんっ!?」
しかし、どれだけ大きくとも生憎だがツバサの乳房は2つしかなく、右はマリナが占領しており、左はジャジャが独り占めしていた。
そこにミロの割り込む余地はなく、目覚めている時ならばともかく寝ぼけている彼女はそこまで自分を持ち上げる余力もないようだった。
「んんっ……アタシもおっぱい、ツバサさんのおっぱい飲むのぉ……」
「だから、そっちじゃない! そこは……ヤバいって!」
ツバサの足にしがみついたミロは太股まで這い上がってくると、ソファに座っているツバサの両足をこじ開けて、股ぐらに割り込ませてきたのだ。
開かれたツバサの股間に、ミロは顔を押しつけてくる。
服や下着など防御力皆無――秘所を守るための障壁にもならない。
それほど激しくミロは攻め立ててきた。
「っああ!? はっ、やめ、だめぇ……んくぅんんっ、はぁ……ッ!」
そして、本人は乳房に吸いついているつもりなのだろうか、チュウチュウと吸いついてきたのだ。これにはツバサも目が点になるほど仰天し、激痛にも似た快感に腰を浮かせてしまった。
股間に溢れていた愛液は啜られ、新たに漏らしてしまう。
潮でも吹くかのように勢いよく多めにだ。
「はぁ、はぁ……ふぁ、あああ……ッ!」
快感が強すぎるあまり涙がこぼれ落ちかけている。
不意打ちだったこともあり、心構えができてなかったのもあった。
一瞬だったが、軽く絶頂に達しかけた気がする。
「待っ、ミロ……やめ、あっ……こんなところで……起きろ、こらっ!」
さすがにこれは許容できない。
深夜、ツバサの部屋でふたりっきりとかいうシチュエーションならば、姿勢としては拒みながらも押し負けてされるがまま……になっても良かった。
だが、此処は我が家のリビングルームだ。
家族の誰かがいつ顔を出してもおかしくない場所なのだ。
おまけに半分寝ているとはいえ、胸にはマリナとジャジャを抱えている。
「こんな痴態、誰かに見られたら……はぁ、んんっ、くぅ……ッ!」
ツバサは必死でミロを止めようとする。
こじ開けられた足を閉じて、ムチムチの太股でミロの頭をサンドすると、アホの頭を押し潰してでも止めようとするが、快感のせいで足腰にまったく力が入らない上に、ミロはグイグイと力任せに口を股間に押しつけてきた。
こいつ──力が強くなってる!?
腕力とかじゃない、総合的な膂力が上がっているのだ。
以前なら、こんな状況に陥っても力負けすることはなかったのに、今では明らかにツバサが押し負けていた。
快感のせいで力が出ない、だけでは言い訳にならない。
恐らく──ククリの父の魂を受け継いだ影響か?
細身だと思っていたが、ああ見えてパワーファイターだったのかも知れない。
それがミロの力を底上げしたらしい。
「ここで、それを思い知らされるなんてっ……くぅあんッ!」
唇でスラックス越しにジュルジュルと吸いついていたミロは、「唇だけじゃ物足らないでしょ?」とばかりに舌まで使ってきた。ミロの舌技はよく知っているつもりだったが、服越しでも威力は衰えないことを改めて痛感させられた。
「センセイぃ……チュバチュバ……ペロペロ……」
「母上ぇ……レロレロ……」
「お、おまえら、まで……ッ! 本当は起きてんじゃないのか!?」
示し合わせているとは思えないのだが、乳房に吸いついていたマリナやジャジャまで舌を使い始めた。わざとやっているとしか思えない。
「ベロベロベロぉ……むぅー、これ邪魔……カチャカチャ、ジィー……」
「ミロ、おまえっ……嘘だろ!?」
ツバサのしっとりしてきた股間に顔を埋めていたミロは、口でベルトを外したかと思えばスラックスのボタンを取り、ファスナーまで下ろした。
舌だけでショーツをズラし、大切なところを剥き出しにする。
器用どころの話ではない──どんなテクニシャンだ!?
そして、ミロはツバサの秘所に顔を埋めてきた。
固くなってきた男性器の名残みたいな小さな突起を舌先で舐め、少年になれるミロの男性的器官を受け入れようと濡れ始めた割れ目に吸いついてくる。
ツバサは猛毒のような女性の快感に半狂乱になりそうだった。
しかし、どんなに身悶えてもミロはやめてくれない。
「だ、駄目だって……ミロッ! これ以上は本当にもう……ぁッ!」
本当に怒らなくては駄目だ。叱りつけなくてはいけない。
いくら寝ぼけているとはいえ、家族の憩いの場であるリビングでこんなハレンチ行為に及ぼうとするアホ娘に説教しなくては、ついでにマリナとジャジャにも少々お灸を据えなければいけない。
いいかげん乳離れをさせなければ……。
ツバサはそう思うのに──娘たちを振りほどけなかった。
最愛の娘たちに自分の肉体を貪られているようなものなのに、それが神々の乳母には嬉しくて堪らず、この状況に狂喜乱舞していた。もっともみくちゃにされてもいいとさえ思っている。
わずかな男心もなけなしの理性も──太母の至福には敵わない。
「もう、も、う……駄目、また……イ……ッ…………ん?」
3度目の絶頂に辿り着く寸前、ツバサは視界の端にとてつもなく不快なものがあることに気付いて、閉じかけた瞼をこじ開ける。
そこに控えていたのは──クロコだった。
片膝をついたクロコは撮影の高さを調節しており、望遠鏡みたいなレンズが取り付けられた大型のカメラを構えている。シャッターボタンは押しっぱなしで、カシャカシャカシャ……という音が鳴り止まない。
撮影班はクロコ1人だけではなかった。
メイド長にして創造主たるクロコの指示通りに動くメイド人形たちもまた、高性能なビデオカメラや、様々な撮影機器を操作している。
娘たちに群がられ、あられもない姿を晒しているツバサの恥ずかしい姿を、余すところなくフィルムに収めているのだ。
ツバサの視線に気付いたクロコは、カメラから目を離した。
目礼をしてツバサに断りを入れてくる。
「あ、どうぞ私たちにお構いなく、ツバサ様たちは続けてくださいませ。私どもは名前の通り黒子、この場にいないものとして扱いください」
真顔のまま鼻血と涎を垂らしまくるクロコはそう言って、何事もなかったかのように撮影を続行する。こいつら、いつからそこにいたのだろうか?
どちらにせよ──記録されていたのは間違いない。
そのことを理解した瞬間、ツバサの脳髄から快楽は消し飛び、代わりに活火山が大爆発するようにマグマにも似た激怒の熱情が盛り上がってきた。
それは一瞬で頂点に達し──。
~~~~~~~~~~~~
うたた寝していたドンカイは、不意に目を覚ました。
ハトホルの谷──ヒレ族の集落近くの川辺。
川縁に茣蓙を引いて座り込み、釣り竿を構えたまま眠りかけていたらしい。
隣を見れば、トモエも釣り竿を保ったままウトウトしていた。
「……おっと、寝落ちし取ったわい。いかんいかん……神族になったというんに、これほど眠いとは疲れが取れておらん証拠なのかもなぁ」
何度か頭を振ると、寝落ちしかけても離さなかった釣り竿をくゆらせる。
釣り針に獲物は掛かっておらず、餌も取られてない。
「うむ、幸か不幸かわからんがな……おっとトモエ君!」
横に目を遣れば、同じく川辺に座って釣り糸を垂れていたトモエも船を漕いでおり、もう少しで頭から川面に落ちるところだった。
慌てて小さな肩を掴まえると、トモエはハッと目を覚ます。
「んなっ! ふぁぁぁ……トモエ、寝てない……起きてる、よ……」
「いやいや、寝とったわい。危うく川に落ちるところじゃ」
ドンカイが笑いかけながら言うと、トモエは竿を片手で持ち直して、もう片方の手でクシクシと目をこすった。小動物みたいな仕種が微笑ましい。
「んーな……寝てたかも知んない……でも、トモエ起きた。なんか“ドカーン!”って大きな音がして起きた……気がするな……」
「ドカーン? 言われてみりゃあ……?」
うたた寝していたドンカイも、耳を劈く爆発音でビックリして目が覚めたような気がする。その割には敵襲があったとは思えない。
もしも襲撃だとしたら、ドンカイもトモエも目覚めぬはずがない。
周囲を警戒したり、敵意に反応したり、襲撃を察するなど、戦士系の職能として備えておくべき技能は、どちらも隙なく抜かりなく取り揃えている。
寝落ちかけていた意識を叩き起こすほどの爆発音。
だが敵意は感じられない。これの意味するところは──。
「んな、オヤカタさん、あれあれ!」
トモエに着物の袖を引っ張られ、彼女の見つめる先に視線を向けてみれば、それは我が家のある方角だった。その上空だけ暗雲が渦巻いている。
暗雲からは豪雨よろしく何条もの稲妻が降り注いでおり、我が家のリビング辺りに落ちていた。そのリビングからは業火どころが溶岩が空に届くまで勢いで噴き上げている。ついでに竜巻も群れで吹き荒れていた。
文字通りの大噴火、いやさ天変地異だった。
「──誰がお母さんだああああああああああああああああああああっ!!」
「ギャアアアアアアアス! ツバサさんどったの急にーッ!?」
「センセイ、落ち着いてください! お家が壊れちゃうーーーッ!」
「母上ーッ! お怒りを鎮めてくだされでゴザルーッ!」
「ツバサ様ご乱心! ツバサ様ご乱心!」
「誰のせいだと思ってんだクラアアアアアアアアアアアッ!! ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーッ!!」
吹き荒ぶ颶風に乗って、怒れる母の雄叫びが届けられる。
大規模な自然災害が巻き起こり、その猛威がハトホルの谷を揺らした。
ヒレ族どころか、ネコ族やハルピュイア族の集落からも悲鳴が聞こえ、怒り狂っているのがハトホルだと知れると、鎮魂の祈りが捧げられている。
ドンカイとトモエはため息をついて半眼になった後、流れる冷や汗もそのままに、我が家の方から聞こえる惨劇に目を背け、川面を見つめる。
「日が落ちるギリギリまで粘っていこうか……のうトモエ君」
「んな、ツバサお母さんの激おこが収まるまで帰れない」
暮れなずむ夕日に、ツバサの咆哮がいつまでも轟いた。
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