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第9章 奈落の底の迷い子たち
第206話:やっぱりアフターケア~からの休暇強化週間
しおりを挟む還らずの都を巡る戦い──その後始末に追われる一同。
巨大蕃神から生じた眷属。溶けかけた巨人たちの死骸は、ツバサやミサキにミロ、それとクロウの第二の過大能力によって片付けられた。
案の定、死骸から瘴気を放って世界を汚染していたのだ。
ミサキやミロの次元を創り直す過大能力で存在ごと除去しつつ、ツバサの自然を司る過大能力で洗い流し、更にはクロウが初めて披露した『ありとあらゆる不浄を清める』過大能力で、綺麗さっぱり取り除くことができた。
蕃神の眷属の死骸を片付けた頃には、すっかり日も暮れていた。
西に薄ぼんやりとした夕焼けの名残があるが、すでに夜の帳は落ちている。
それでもまだ瘴気がうっすら漂っていた。
これは巨大蕃神が真なる世界に侵入してきた時の残り香だろう。
徹底的に掃除しようと意気込んだツバサたちだが、キョウコウ一派に巨大蕃神と度重なる激戦を重ねたので、蓄積された疲労が限界に達していた。
自己再生能力や自動回復技能も追いつかない。
溜まりに溜まった疲労と、精神的な気疲れがピークに達していたのだ。
「……皆さん、今日はもうこれぐらいで上がりましょう」
クロウの一言が鶴の一声となった。
切り上げるタイミングを見失いかけていたのでありがたい。
「巨大蕃神は追い返せましたし、その眷属も片付けられました。もう瘴気の発生源はないのですから、あとは自然に清められていくことでしょう」
それでも気になるようであれば後日、クロウが完全回復してから第二の過大能力を広範囲に使って、しっかり浄化させておくとのこと。
クロウは集まったツバサたちに向き直る。
シルクハットを脱ぎ、その頭蓋骨を深々と下げてきた。
「皆さん、お疲れさまでした。ツバサ君、そして、ミサキ君にアハウ君……あなたたちの助けがなければ、我々は今頃どうなっていたか……我々だけではありません。ククリさんや還らずの都、それにキサラギ族の皆さんも……」
私たちは──あなた方に救われました。
「この御恩、一生を費やしても返しきれないでしょう……ですが、幸いにも私たちには神族となったため時間がある……これから先、あなたたちに苦境あらば、喜び勇んで駆けつけることを約束いたします」
ありがとうございました、とクロウは更に深く頭を垂れる。
彼の眷属とも言うべきカンナ、ホクト、ヨイチ、ウノン&サノンも、先生であるクロウに倣って頭を下げてきた。本当、瀟洒な一団である。
再三に渡って言っているが、あの巨大蕃神は真なる世界全体の脅威だ。
クロウ陣営を助ける目的もあったが、あれと戦うため一致団結した面もある。
なので、こうも恩を感じられると恐縮してしまう。
それはミサキやアハウも同じなのか、困った顔で苦笑している。
だが、悪くない。清々しい笑顔だった。
「……ですが、今日のところは皆さん、もう休んでください。私もそうですが……皆さんも疾うの昔に限界を超えているはず、いくら神族と言えど……」
これ以上働いたら──過労で倒れかねない。
クロウの鶴の一声は、その心配に端を発するものだったらしい。
実際、無敵の肉体となる過大能力を備えたツバサやミサキですらも、身体が軋むような痛みに襲われていた。
無理ができるからと無理を重ねすぎたら、そのツケが回ってきたらしい。
ここはクロウの言葉に甘える形で、休んでおいた方が無難だ。
「そうですね……世界を創った神様でも、7日目には休んで日曜日にしたというし……キョウコウとの戦いに備えた準備もありましたからね」
ツバサもクロウに同意し、ミサキやアハウに促した。彼らも巨大蕃神を迎え撃つために全力攻撃を何回も行ったため、消耗が激しかった。
緊張が解けたことにより、積み重ねた疲労感が顕在化した感じだ。
暗黙の了解みたいな示し合わせをすることで、ハトホル陣営、イシュタル陣営、ククルカン陣営、タイザン陣営は休むことに合意した。
「皆さん、最低でも1週間は休息するように──神族なので肉体の疲れは早々に癒えるでしょうが、今回は精神面の負担もあったはずです」
「あんなバカでかい手が降ってくるなんて夢にも思わないもんね」
SAN値直葬だよ、とミロが茶々を入れる。
教師らしくHRで生徒たちに連絡事項を伝えていたクロウは、ミロの割り込みを咎めることなく、むしろ同意するように頷いた。
「ええ、ショッキングな出来事も多々ありましたからね……それを癒やすためにも、身体だけではなく心のケアのため、しっかり休んでください」
クロウ先生の言うことはもっともだ。
これから1週間──ツバサたちはちゃんと休息を取ることにした。
~~~~~~~~~~~~
それが一昨日のこと──しかし、休めなかった。
いや、本当に1週間くらい休暇を取ろうとしたのだが、還らずの都やクロウ陣営へのアフターケアを忘れていたことに気付き、最低限のことを片付けておかなければゆっくり休めないと思ったのだ。
そこでツバサは駆り出したいメンバーに声を掛けておき、一晩ぐっすり寝て休息を取り、翌日すぐにアフターケアへ取り組んだ。
まず、もう悪さをするような輩はいないと思うが、ツバサはミサキとミロと3人で力を合わせて、還らずの都に不審者立ち入り禁止の結界を張っておいた。
マリナやジョカの使う結界は常時展開型。
だがしかし、当人がそこへ常駐する必要がある。
対して今回の結界は、ミサキやミロの“世界を創り直す過大能力”由来のものなので効果こそ強力無比で常駐も不要だが、それだけのものを作る当人たちへの負担が大きい。また長期間の持続効果も望めない。
あくまで短期間の不可侵領域を作り出すものだ。
これで1週間の休暇中は保つだろう。
後日工作者たちを派遣して、今回の壊れた箇所を修繕してもらう。
修理に掛かる見積もりは済ませてある。
「いやー、この階層をブチぬいちょる大穴が一番のネックぜよ」
「全階層を貫いちゃってるから、天井と床の張り直しと……ああ、いっそ直通エレベーターにでも改装した方が早くなくなくない?」
「……本当に申し訳ない」
この時ばかりはツバサも、長男と変態に平謝りせざるを得なかった。
クロウたちは──キサラギ族の避難地に身を寄せている。
兆しの谷から北東にある岩山。
その中腹にある大きな洞窟に、キサラギ族は避難用の施設を用意していた。
規模からすれば完全に引っ越し先として使える街だ。
「兆しの谷のひび割れ具合、数百年眠り続けたククリ様の目覚め、そして、新たな神々であるクロウ様たちの来訪……これらのことから近々、還らずの都が甦るやも知れないという可能性を考慮して、転居先を用意しておきました」
キサラギ族族長補佐──ヤーマの言である。
ダルマも族長として申し分ないが、ヤーマはその上を行っていた。
こうなることを見越して新しい居住区を用意しておくなど、備えあれば憂いなしどころの話ではない。気配りを通り越して予知能力レベルだ。
彼が族長になったら、キサラギ族はどうなるのやら……。
そのキサラギ族には戦争で負傷した者もいるが、いずれも軽傷で済んでいた。生命力の強い彼らなら、すぐに普通の生活を取り戻せるだろう。
その避難地(転居先)に、クロウたちも小型の洋館を建てていた。
当面はこちらを拠点とするつもりだという。
「還らずの都をどうするのか? それも含めて、あの広大な平原を如何に活用するかについて考えたいのですがね……相談に乗っていただけますか?」
「勿論です、クロウさん」
相談を持ち掛けられたツバサは、近い内にミサキやアハウも交えて4陣営で同盟を組み、これからについて話し合う予定を立てておいた。
あと──例の空間転移装置。
これはクロウたちの新しい洋館の隣に仮設的なものを建てておいた。
建設はダインとジンが1時間足らずでやってくれたのだ。
還らずの都をどうするか次第では、その守護に当たるキサラギ族と共に再び拠点を移す可能性がありそうなので、あくまでも簡易版である。
クロウ陣営が本格的な拠点を再建築したら、そちらに建て直すつもりだ。
万が一、休暇中に大陸中央や還らずの都にトラブルが発生したとしても、この空間転移装置さえあればすぐに対応できる。
これにて──アフターケアはほぼ終了だ。
~~~~~~~~~~~~
「……で、今日からめでたく1週間のお休みに突入したわけだが」
「だれるねぇ~。これではだれるねぇ~……」
人としてダメになりそう、とミロはツバサの胸にもたれかかってきた。
「人として駄目って……おまえ、元は引きこもりのニートだろ」
「あー……そうだった、アタシ、元からダメ人間だったわ。じゃあ、これ以上ダメになることもないだろうからダメのまんまでいいや……」
「ダメ人間って……インキーマンか……」
ツバサはよく“ダメ人間”の代名詞にされた某芸能人を思い出す。
「あの人、社長なのにミスると土下座してたよね……部下や仲間に……」
「ミロとよく似てるじゃないか……」
「そりゃあ、アタシだってダメ人間代表の自信があるからねぇ~……」
「そんな自信、威張るモンじゃないぞ……まあ、もうダメ人間でもないんだけどな……人間じゃなくて神族、神さまなんだから……」
「んー……じゃあ、ダメな女神、略して駄女神」
「そういう女神もいっぱいいたような……それにミロの場合、女神というには微妙になってきてるような……美少年にもなれんだから……」
「そりゃあミロさん、美少女と男の娘のリバーシブルだからねぇ……でも、そういう女神さまって結構いなかったっけ? ゲームで見たような……」
「そういうの、18禁ゲームばかりじゃなかったか……?」
「うーん、どうだったかなぁ……今度、フミちゃんに訊いてみよ……」
実際の神話では色々と類例があるらしい。
男の神が女性化して子供を産んだり、自分を女性化して楽しんでいたら他の神まで女神化させて騒動を起こした、なんて話が伝わっているそうだ。
『意外とインド神話には男神が女神になった話が多いッスよ。あそこには“ヒジュラー”という第三の性にまつわる考え方があるせいかも知れないッスね』
ヒジュラーとは現地の言葉で「両性具有」あるいは「半陰陽」を意味する。
実際にそういう体質の人もいるが、主に女装した男性のことを指すらしい。男でも女でもない存在で、様々な神事を司る聖職者であることが多い。
一方で、いわゆるオカマに近い差別用語としても使われるらしい。
ただ、「第三の性」という文化が根付いていたのは間違いないようだ。
そんな話をフミカから教えてもらったものの、ここでミロに教えてもちゃんと理解するまい。曲解されたら面倒になりそうなので黙っていることにした。
「……神様だって性転換もするだろうさ」
そんな曖昧な返事をするだけに留めておいた。
ダラダラと取り留めない会話に終始するツバサとミロ。
疲れすぎて口を開くのも億劫なせいか、会話にやたら間が開いてしまう。
おかげで三点リードが鬱陶しいことになっていた。
ハトホルの谷──ツバサたちの我が家。
一昨日には戻ってきたのだが、昨日はまた還らずの都がある大陸中央にまで出向いてアフターケアをやっていたので、今日からが本格的な休日だった。
ツバサにしては珍しく怠惰に過ごしていた。
さすがに疲れが溜まっていたのだろう。我ながら無理もない。
神族なので肉体的な疲労は1日あれば、ほぼ全快する。
しかし、ツバサたちの誰もが精神的にはまだ人間なので、心理的な疲労感に肉体が引っ張られてしまうのだ。
なので、久し振りに本気で休むことにした。
ツバサとミロは、我が家のリビングでのんびり寛いでいる。
ツバサは女性用ワイシャツにもブラウスとも見える、大振りな白いシャツ。それにタイトなスラックスを合わせて部屋着にしていた。
ハルカが織ってくれたもので、ツバサのようなグラマラス体型でも部屋着として着られるほど着こなしが楽なのはいいが……胸の形というかラインというか、そこら辺を強調しすぎじゃないかこれ?
いわゆる“乳袋”みたいになるのだ。ちょっと恥ずかしい。
そして、ミロは相変わらずの軽装だった。
ほとんど胸周りしか隠していないチューブトップに、布地が少なすぎるショートパンツ。下着姿や水着姿と大差ない、ほぼ半裸みたいな格好だ。
ツバサはリビングの大きなソファに身体を預けていた。
ソファの背もたれに両腕を乗せて、だらしないというよりは偉そうな姿勢で伸びきっていた。そんなツバサにミロがしなだれかかってくる。
ソファに座るツバサをソファにしているようなものだ。
ミロはともかく、いつも率先して家事に取り組んでいるツバサまでダラダラしているのは、ハトホル一家では珍しい光景かも知れない。
そこに凜とした女性の声が投げ掛けられる。
「御安心くださいませ、ツバサ様」
ハトホル一家のメイド長──クロコ・バックマウンド。
クラシカルなメイド服を身にまとっていても、そのナイスボディを誇示する銀髪ポニーテイルの爆乳メイドは、ツバサとミロに楚々と一礼する。
「この1週間どころか累計的に見れば四ヶ月あまり、ほぼ出番もなく放置プレイな私でございましたが、我が家の家事はそつなく無駄なくこなしておりました。これからツバサ様たちが休養に入られる1週間も、どうぞこのメイド長たるクロコに我が家の全てをお任せくださいませ」
頭を上げたクロコは右手でジェスチャーを送ってくる。
握った拳、人差し指と中指の間から親指だけを出す。
公共の場でやったらモザイクの掛かる、あのいけないジェスチャーだ。
「ですので、ツバサ様とミロ様はどうか、イチャイチャパラダイスで淫蕩な爛れた日々を送りつつ、愛のある百合百合な蜜月タイムを満喫してください」
クロコはソファで身体を重ねているツバサたちから眼を逸らさず「尊い……」と囁きながら、涎を溢れさせてスマホのカメラ機能を連写していた。
本当、このメイドの性癖だけは絶対にブレない。
セクハラメイドの台詞さえ検閲できなかった。
いつもならツッコミを入れ、ついでに張り倒してところだ。
「……うん、ツッコむ気力さえ起きん」
「んあぁぁ~……アタシもエロに回せる元気ないなぁ……」
今はこれが精一杯……ミロはツバサの胸に顔を埋める。
面倒くさそうに両手を持ち上げると、ツバサのビーチ-ボールみたいな乳房を柔らかくもみほぐそうとするのだが、そこに握力はなくて撫でる程度に留まっている。
この程度ではツバサも喘がなくなってきた。
どうやらミロの疲れも半端ではないらしい。
「まあ、今日のところは勘弁してやるから……家事全般は任せた」
頼んだぞクロコ、とツバサは力なく手を振った。
「お任せください、ツバサ様。では、まず洗濯から……」
「待て、それはさすがに怒るぞ!?」
クロコは一礼すると足下に置いていた洗濯カゴを持って洗濯機へ向かおうとしたのだが、それをツバサは眉間に皺を寄せて彼女を怒鳴りつけた。
さっきまでは、特に問題なかった。
しかし、クロコは洗濯カゴを持ち上げる一瞬で、ミロのショーツを覆面みたいに顔にはめると、ツバサの特大ブラを帽子みたいにかぶったのだ。
変態だ──変態という名のマスクレディーだ。
クロコは洗濯カゴを抱えたまま、グッドサインで答えてくる。
「大丈夫です、洗濯前だから私の涎で汚れても問題ありません」
「問題ありまくりだ! 俺やミロの精神衛生上的に!」
「アタシはあんま気にしないけどなぁ……クロコさんやツバサさんなら」
「ミロ様のお許しも得られました」
「俺は許さんけどな! ショーツもブラもさっさと外せ!」
更にグッドサインで押してくるクロコにツバサは怒鳴り散らした。
ツバサに散々叱られて、クロコは渋々ショーツとブラを外した。
名残惜しそうにクンカクンカしたのは……大目に見よう。
ツバサとミロの入ったお風呂の残り湯でお茶を煎れようとしていた時は本気で解雇を考えたが、これさえなければ有能なので手放しにくかった。
まだ手の掛かる年頃の娘も多い。
11人の大家族なので、ツバサ1人では家事が間に合わないのだ。
「そういえば……他の面子はどうしている?」
なんとなく家族の動向が気になったので、過大能力で全員の所在を確認済みだろうと思って、クロコに行先を尋ねてみた。
「はいツバサ様、ドンカイ様とトモエ様はヒレ族の暮らす川辺で、いつもの休日のように釣りを楽しんでおられます」
トモエはドンカイと一緒にいることが多い。
以前から懐いているが、それが定着したようだ。
シズカとの一件で世話になったことも手伝っているのだろう。
還らずの都では思いも寄らず再会を果たしたことにより、喜びと悲しみが一挙に押し寄せて錯乱気味だったと聞いている。それを慰めたのもドンカイだ。
「あの2人、案外くっついちゃったりして……」
そんな未来を予感して、ツバサの胸元でミロがほくそ笑む。
「それはないだろ。ドンカイさんは年下に興味ないしな」
無類の尻マニアということに目を瞑れば、彼の女性の好みは極端でもニッチでもない……はずだと思う。少なくとも、ロリコンではない。
「姪っ子が叔父さんに懐いてるようなもんさ。どっちも他意はない」
「そうだねぇ~……アタシの直感もそう囁いてるわぁ~……」
2人で釣りをして、のんびりまったり過ごしているのだろう。
「ダイン様は御自身の【要塞】に籠もっておられます。先の戦いで出撃させた機体の修理と改修に勤しんでるとのこと、フミカ様はそのお手伝いです」
「それはいつものことだな」
超巨神型移動要塞兵器──フォートレス・ダイダラス。
大都市を擬人化したような、あの大極都神と互角以上の戦いを繰り広げ、ついには勝利をもぎ取ったのだから大したものだ。
起動させたのは初めてということもあり、動かしたことで判明した不具合や改善点、それにフミカが記録したであろう戦闘データから、壊れた機体を修理しつつ改修を進めているのだろう。
そういう方面でのダインの研鑽振りはツバサも見習たい。
また、長男が率先して働く姿を見せるのは下の子たちに良い刺激になると思うので、子供たちにも見習わせたいところだ。
「しかし……あいつらにも休めって言ったのに、またそんなことしているのか……度が過ぎるなら止めに行かないといけないな」
「何かしている方が気が紛れて、休息を取るよりも落ち着くのでしょう」
どちらかと言えばツバサもそういう性分だ。
その性分も役に立たないほど、今回は疲れたのだが……。
「……ダインに関して言えば、先日の件でツバサから距離を置きたがっているってのもあるかもな。ちょっとやり過ぎたか……反省しないとな」
先日──ツバサがククリの母親の魂を受け継いだ直後。
パワーアップした影響なのか反動なのか副作用なのか、ツバサの母性本能まで増幅されてしまい、ダインも息子として可愛がれるようになった。
戦争が終わった後、人前でおもいっきり抱擁してやったのだが──。
「あれ以来、ツバサに近付こうとしないからな、ダイン……」
「男の子はねぇ~……お母さんにベタベタされるの嫌いだもんねぇ~……」
ミロは気にすることなく、ツバサにベタベタしてくる。
娘として甘えているだけではなく、夫婦がイチャイチャしているつもりなのかも知れない。這わせてくる指先の動きも、どこかいやらしさが含まれている。
しかし、いつものキレはない。
先の戦いの疲労はまだ尾を引いているようだ。
「あの時は……疲れていたのもあるが、ククリちゃんのお母さんのせいもあったんだろうな。母性本能にブースト掛かってて止められなかったんだよ」
今はちゃんと制御できている。
男心も復活したのか、ダインを抱擁して「よ~しよしよしよし!」と撫で回したことを思い出すと羞恥心が暴れ出して堪らなくなる。
「やばい……本当に恥ずかしくなってきた……」
ツバサは発熱で顔が茹で上がる前に、両手で覆い隠した。
指の隙間から湯気が漏れるのを見上げて、ミロは呆れている。
「ククリちゃんのお母さんを受け継いだおかげで、本当のお母さんになったかなぁ~……と思ったのに、ツバサさん、まだオトコノコなんだねぇ~……」
残念♪ とミロはウィンクひとつして、ペロッと舌を出した。
その仕種が可愛かったので、無意識かつ反射的に抱き締めてしまった。
「うぅ~ん……ツバサさん、包容力がアップしてるから抱き締められると安心感がパナイのぉ……あぁ~……ママンの胸に抱かれて極楽極楽ぅ……♪」
「誰がママンだ」
いつもの決め台詞で返すも、抱擁は止められない。
「あとは……セイメイとジョカはどうしてる?」
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仕事がなければ、ひたすら呑んだくれているだろう。
ミロを上回る剣豪だが、それを上回る無職のニートでもあるのだ。
クロコがツバサのブラジャーを啜っていたので電撃を当ててやめさせると、本日のセイメイたちのスケジュールを報告してくれた。
「はい、セイメイ様でしたら午前中はネコ族、ヒレ族、ハルピュイア族の生徒たちに剣術の稽古をつけ、お昼休憩を挟んだ後、午後はネコ族の村に出向いて少し高度な木工技術の勉強会を……ジョカ様はその付き添いをしております」
「「ニート侍が働いてるだと!?」」
ツバサとミロは息を合わせて驚愕してしまった。
最近、真面目に働いてるとは思っていたが、みんなが休んでいる時でも働くようになっていたとは……目を見張る進歩かも知れない。
ジョカを嫁にもらったことで、夫の甲斐性でも芽生えたのか?
ハトホルの谷への貢献度も上昇中である。
「そして、マリナ様とジャジャ様は──そちらに」
マリナ・マルガリーテ──10歳。
ジャジャ・マル──8歳(中身は15歳の少年)。
アルマゲドンの頃からツバサを母親と慕う幼女マリナと、様々な事情を経てツバサとミロの本当の娘に転生してしまった少年ジャジャ。
2人は先ほどからツバサたちと一緒にいた。
お姫さまを意識した普段着用ドレスという、ハルカ監修のオシャレ部屋着を着込んだマリナは、ツバサの右脇に座っていた。ツバサにピッタリ寄り添うようにして眠り込んでいる。時間的にお昼寝タイムだろう。
反対の左脇ではジャジャが子猫みたいに丸まっている。
元少年ということもあって女の子っぽい服は嫌がるジャジャ。近頃ではもっぱらオーバーオール系の普段着で過ごしている。
こちらもおねむなのか、親指をくわえて赤ちゃんみたいに眠り込んでいる。
両手に花ならぬ両手に幼女──しかも最愛の娘だ。
正面からはミロに抱きつかれ、右脇にはマリナが寄り添い、左脇ではジャジャが母の温もりの元で眠っている。このシチュエーションにツバサの中の神々の乳母は有頂天だった。
母性本能の喜びが、暴走寸前にまで昂ぶっている。
しかし性欲のそれとは違う、穏やかな昂ぶりなので現状維持。
ツバサは満面の笑みを浮かべたまま、間近にあるミロの頭を撫でたり、そのミロにおっぱいをされるがままにされたり、マリナを抱き寄せては頬ずりしたり、ジャジャのお腹をポンポンと叩きつつ、ほっぺをプニプニしたり……。
母の幸せと女の喜びに陶酔しきっていた。
男心はちゃんと「こんなことで喜ぶな!」と騒いでいるのだが、いかんせん疲れが酷いから癒やしを求めるため、ツバサはこの幸せに依存した。
1週間、こうしているのも悪くないと思いながら……。
「ツバサ様……とっても幸せそうでございますね」
クロコは「尊い……尊い……」と呻きながら、大量の鼻血を垂れ流してスマホのカメラをひたすら連打。この状況をしっかり写真に収めていた。
「幸せというか、癒やしが欲しいだけだよ……娘たちが可愛くて仕方ないのも本心だし、俺だって“男”だからな……女の子に囲まれれば嬉しいさ」
勿論でございます、とクロコは共感めいた同意をする。
「美少女に囲まれて喜ばない者など、果たしてこの世におりましょうか……ツバサ様にとって、此処こそがハーレム(娘)でございましょう。ツバサハーレム、略してバサハレでございますね」
「……おい、ハーレムの後にいらんもつけたな?」
クロコの微妙なニュアンスを、ツバサは聞き逃さなかった。
いいえ別に、とクロコは素知らぬ顔で惚ける。
「では、私は家事を片付けてきますので、これにて失礼させていただきます。御用があれば何なりとお呼びください。光の速さで参上しますので……」
「ああ、よろしく頼む……だから俺のブラに吸い付くな!」
「嗚呼、ハトホルミルクの残り香が堪りませんわ……」
リビングを去る間際までツバサの下着を弄ぶクロコを怒鳴りつけた。
メイドが消えると、またソファに身を預けて脱力する。
「身体の疲れは取れたが……まだ、怠さは脱けないか……」
やっぱり疲れた──本当に疲れたのだ。
神族になってから、これほどの疲労感に嘖まれたのは初めてかも知れない。人間だった頃、師匠に半死半生になるまでシゴかれたことを思い出す。
「そうだよねぇ、怠いよねぇ……ここんとこ、ずっと忙しかったし……」
ミロはツバサの胸の谷間に顔を埋めたまま喋る。
大陸中央への旅からして強行軍なスケジュールだったのに、そこでキョウコウと出会ってからは戦ったり守ったり準備したり……挙げ句の果てに戦争が始まって、スケールが違いすぎる巨大蕃神の乱入と来たものだ。
「……振り返ってみると、ハードスケジュールだったな」
わずか1週間足らずの出来事とは到底思えない。
何ヶ月もクロウたちと共に過ごしたような気になってくる。
「そーだねぇ……まさか2章もかかっちゃうとはねぇ……本当なら1章で済ませたかったんだろうにねぇ……どーしてこーなっちゃったのかしら?」
「……おい、何の話だ? どこ向いて話してる?」
ミロはあらぬ方向を向いて、第三者へ説明するみたいに喋っていた。
「んー? 第四の壁を突破してカメラ目線で話してる……」
「なんだそりゃ……」
追及する気力すら起きず、ツバサまたソファにもたれかかる。
ミロはツバサの爆乳を枕にして、思い出したように「ニシシ」とか「クフフ」などといやらしい含み笑いを漏らしては甘えており、いつしか微睡んでいた。
時折、気怠そうな手付きで乳房をもみほぐしてくる。
しかし、ミロも疲れているのだ。
こういう時は周囲に誰がいようと手加減せずにセクハラしてくるはずだが、今日は前述した通り、おっぱいを甘く揉むぐらいが関の山だった。
あとは母の胸に抱かて眠り、ゴロゴロと喉を鳴らすぐらい。
まるで野生を失った猫のようだ。
可愛いなぁ……心の底からミロが愛おしい。
娘としての愛らしさも一入だが、年下の夫としても可愛くて仕方なかった。こうして一緒に過ごしているだけで、幸せが湧き上がりながら沸き上がるように、止め処ない多幸感がこみ上げてくる。
マリナとジャジャの温もりも感じるので、相乗効果も絶大だった。
可愛い娘が2人──彼女たちが傍にいるからか、ミロのことは娘というより伴侶として見ている自分に気付いた。
地母神であるツバサの伴侶──“夫”としてだ。
彼女を“妻”と記せないのは、ツバサの男心が残っているからだろう。
ここまで母親になっても、男であることは捨てきれなかった。
微睡んでいるミロは乳房の谷間に顔を埋めて、おっぱいを揉むぐらいの悪戯しかしてこない。これがツバサにはもどかしかった。
そう、もどかしいのだ──ツバサの中の神々の乳母が悶えている。
今なら激しく責められても文句を言わない。
それどころか、もっと強い刺激を求めているというのに……!
これは母親としての喜びが足らなくて悶えているのではない。
夫からのスキンシップが──より正確に言えば、妻としてもっと夫婦の営みを、直接的な性行為をされたくて身悶えている。
普段、ツバサから性的なものを求めることは滅多にない。
それが今日に限っては、ミロにそういうことをされたくて堪らなかった。
これも疲れのせいだろう。癒やしを求めているのだ、多分。
あれ、ちょっと待て…………夫? ミロが夫?
なんだろう、脳内変換が上手くできていない。
ツバサが妻で、ミロが夫……おかしい、漢字の使い方が変だ。
やはり疲れている。夫や妻なんてよく使う簡単な漢字のルビにさえ、違和感を覚えてしまう。これがゲシュタルト崩壊というやつか?
ツバサは瞼が落ちてきた瞳で、リビングの時計を見遣る。
「時間は……14時半、頃合いかな……ふぁぁ………zzz」
娘たちに釣られてツバサも午睡へ浸ることにした。
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前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
30年待たされた異世界転移
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気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
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【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
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書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
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記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
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