上 下
186 / 532
第8章 想世のタイザンフクン

第186話:荒ぶる神々の戦場

しおりを挟む



 過大能力オーバードゥーイングとは神の力──誰かがそう言った。

 アルマゲドン運営が最後に行ったアナウンスでも触れていたし、灰色の御子との関連を臭わせるGMやプレイヤーも言及していた。

 中でも内在異性具現化者アニマ・アニムス──彼らの過大能力は群を抜いている。

 過大能力は1人につき1つしか覚醒しない。

 しかし、内在異性具現化者は2つ(もしくは3つ)と複数覚醒させるのだ。

 老病死苦ろうびょうしくの影響をまったく受けない肉体になれる者──。
 森羅万象しんらばんしょうの根源を司る存在になれる者──。
 世界に自分の意識を広げて管理できる者──。
 噛みついた事象を虚無きょむかえせる者──。

 そして──次元を意のままに創り直せる者。

 クロウ・タイザンの場合、彼の内側に広がる心象世界を解放することで、現実として目の前にある世界を蝕むように変えることができるのだろう。

 現実改変能力ではなく、現実侵蝕能力というべきだ。

 その力は容赦なく世界を侵食する。そして世界はそれに抗う術を持たない。

 まさしく過大能力オーバードゥーイングと呼ぶに相応しい異能である。

 過大能力──【我こそが地獄でありアイアム・ア・ヘル地獄こそが我である】・ヘル・アイアム

 クロウの内にある、地獄としか思えない世界を統べる能力。

 内なる地獄を解き放てば現実をも責め立てる。

 地獄の業火は善男ぜんなん善女ぜんにょささやかな罪すら焼き尽くすだろう。

 今のようにマップ攻撃として広範囲に地獄を広げることもできれば、個々の刑罰けいばつを喚び出して武器として使うことも可能。

 もしくは敵に接触し、体内から地獄で食い破ることもできるという。

 初めてクロウと出会った時、ゾンビ化したエルダードラゴンをこの能力で仕留めていたのは記憶に新しい。

 しかし──どうしてクロウの心象世界は地獄なのだろうか?

 誰かを地獄に堕としたいほど憎んでいるのか?

 あるいは、自分は地獄に墜ちるべきだと自らをさいなんでいるのか?

 それとも彼自身──今も地獄にある・・というのか?

   ~~~~~~~~~~~~

 ツバサとドンカイの合わせ技、氷河期アイス・エイジの凍った海。

 これだけでもキョウコウ軍のモンスター兵団は壊滅的なダメージを被ったはずだが、そこへダメ押しとばかりにクロウの地獄がお見舞いされた。

 氷河は砕かれると同時に溶け、水に戻る前に蒸発する。

 濛々もうもうと立ちこめる湯気によって視界がさえぎられているところへ、灼熱をまとう地獄の刑具けいぐが足下から襲いかかってくるのだ。

 まさに阿鼻あび叫喚きょうかんの地獄絵図。

 焼け爛れる八熱はちねつ地獄じごくと凍て付く八寒はちかん地獄じごく。奇跡のコラボレーションである。

 キョウコウ軍の兵力は、これでほぼ駆逐できただろう。

 しかし、神族化したプレイヤーはさすがに一筋縄では行かない。

 プレイヤーの多くは技能スキルを使い、今の猛攻を生き延びた。

 冷気耐性で氷漬けを耐えたり、火気耐性で灼熱の炎を防いでおり、逃げ足の速い者は飛行系技能で空中に飛び上がっていた。

 一部のモンスター兵も、グリフォンやペガサスなどの空を飛べる者、そういったモンスターに騎乗きじょうしている者はまだ戦える状態を保っている。

「その点は──こちらも折り込み済みだ」

 ミロ、とツバサは自分の胸に甘えている娘に声を掛ける。

「あいよ、真打ち登場ってね!」

 名残惜しそうにツバサの胸から離れたミロは、防壁から飛行系技能で飛び立ち、背中の神剣をスラリと抜き放った。

「ミロスセイバー! オーバーロードッ!」

 神剣ミロスセイバーから光が走り、それは目映まばゆい極光となって山をも切り裂くほどの長大な光の剣となる。いや、どこまでも伸びる気配が留まらない。

 光の剣はどんどん大きくなり、防壁よりも幅広くなる。

 まるで万里の長城──どこまでも伸びて広がる光の帯となった。

 その光の帯みたいな剣をミロは横薙ぎに振るう。

「──なんもオール・かんもブッ壊ブレイキングし帯ッッッ・ベルト!」

 ミロスセイバーから発せられた光の帯は、地を覆う海流と氷河と地獄の責め苦を逃れて上空に舞い上がった者たちを薙ぎ払っていく。

 光の帯と見紛う──超巨大な斬撃。

 その威力は果てしなく、後方にいた飛空城まで捉える。

「ちぃぃぃッ! 即興落書き、鉄壁大番傘ッ!」

 飛空城のテラスではミラが即応していた。

 ミラは掌から極彩色の墨をあふれ出させると、指先を筆代わりにして墨で空中に番傘を描く。それは一瞬にして飛空城を覆う巨大な番傘と化す。

 以前の墨色すみいろの番傘とは異なり、ちゃんと彩色さいしょくされた番傘だ。

「ウッソだろ!? アタイの描いた番傘が!」

 ミラの大番傘は飛空城を守る壁となり、ミロスセイバーから放たれた特大斬撃を受け止めるが、徐々に煙を上げてくすぶりながら燃えだした。

 それでも、神剣の威力をいくらかはいだらしい。

 ミラに続いてニャルが動き出す。

 仮面をひとつ手に取り、燃えかけた番傘の後ろに投げる。

「立ち塞がるは大形面おおぎょうめん! 善界ぜかい大癋見おおべしみッ!」

 ミラの番傘と入れ替わりで、ニャルの仮面が巨大化して盾となる。

 大きく誇張された鼻、何かに耐えるが如く口を硬く結んだ異形の面。どことなく能に使われる天狗の仮面を連想させるデザインだった。

 その仮面が盾となり、ミロスセイバーの特大斬撃を防ぐ。

 ミラの番傘で勢いが落ちていたこともあり、ニャルが作った仮面の盾は壊れかけるものの、ついにはミロスセイバーの斬撃をしのぎきった。

「ミラちゃんとわたしの2人がかりでやっと……おっかないわねぇん!」

 ヒビだらけの仮面を前にして、ニャルの声は震えていた。

「いったい何者なの、あの蒼っぽいお嬢ちゃんは!? 今の流星が横薙ぎに飛んできたみたいな攻撃、尋常じゃなかったわよぉん!?」

 遠目でもミロの蒼いドレスはよく目立つ。

 ニャルは特大斬撃を放ってきたミロを見つめて戦慄せんりつしていた。

 キョウコウの視線も、遠くのミロに注がれている。

「恐らく、爆乳小僧の連れだ……彼奴あやつらが女騎士を助けに極都ごくとへ攻めてきた時……引き際に濃霧を湧かせ、儂らの視界を奪った者がいた……」

 あのむすめがそれだ──とキョウコウは断じた。

「先の濃霧は世界に働きかけることで発生させていたが……この斬撃といい、次元を改変する過大能力を持っているな……爆乳小僧といい、見所がある……」

 飛空城のテラスには、まだハルカの人形たちレギオンズが潜んでいる。

 そして──ツバサの胸の谷間にもだ。

 おかげで彼らの会話が筒抜けなのだが、キョウコウに関していえば底知れない発言ばかりするので、こちらの背筋が寒くなることもあった。

 キョウコウの洞察力どうさつりょくは、ミロの過大能力オーバードゥーイングの本質を見抜いた。

 まだ2人は直接会っていない。

 にもかかわらず、あの濃霧を湧かしただけで、ミロの過大能力が“世界や次元を創り変える”ものだと言い当てた。奴こそ尋常ではない。

「……ミロが能力を使った痕跡、その残り香・・・から読んだっていうのか?」

 あの男、力に固執するだけの愚か者ではない。

 時間を費やしていたら、こちらの能力を丸裸にされて為す術なすすべがなくなってしまうかも知れない。本気を出す前に全力で叩かなければ駄目だ。

 ミロスセイバーの特大斬撃が防がれた直後、ツバサも仕掛けていた。

 キョウコウも気付いたらしく空を見上げる。

 大陸中央の荒野は、いつしか空の果てまで曇天どんてんに覆われていた。重く垂れ込めた黒雲は、その内に目も眩むほどの稲光いなびかりまたたかせている。

「ほう、畳みかけてくるか……いくさ定石じょうせきよな」

 キョウコウはツバサの一手を読んだのか、ほくそ笑んでいた。

 これからツバサが──最大火力で攻めるというのにだ。

 自然を操る過大能力でかつてないほどの低気圧を作り出したツバサは、暗雲の中にあらん限りの稲妻を溜め込んでいた。電力に換算したらどれほどのエネルギーになるのか? 日本全国を一ヶ月は余裕で賄えるかも知れない。

 電圧も電流も限界を超え、電力は天文学的数字に跳ね上がる。

 そこまで溜め込んだエネルギーを、ツバサは号令と共に解放した。

「落ちよ轟雷ごうらい──神鳴かみなる力ッ!」

 曇天より降り注ぐは雷の豪雨。

 大量の雷は、未だ地獄の責め苦が続いている荒野へ追い打ちのように降り注ぎ、まだ息のあるモンスターやプレイヤーたちを容赦なく打ち据える。

 まさしく万雷ばんらいと呼ぶに相応しい威力。

 降り注ぐ轟雷はキョウコウたちのいる飛空城にも落ちた。

 そこはツバサが狙い澄まし、飛空城を飲み込むほど野太い稲妻の柱を何度も連続で落とした。はたから見ていると光の柱に飲まれたように見えるほどだ。

 幾度となく轟雷を落とされ、ついに飛空城は落ちた。

「……後でハルカに謝っておかないとな」

 飛空城にはハルカが偵察に出した人形たちがまだ数体いたのだが、それを知った上で轟雷を叩き落としたのだ。

 一応、ハルカには了解を取ってあるが──。

『大丈夫です。偵察に出した人形たちだけなら、やられても私にはさしてダメージはありませんから……できるだけ撤退はさせておきますけどね』

『すまないな、ハルカ。偵察を頼んでおいて……』

『いえ、お気になさらず。そんな自分を責めなくても……ハッ!』

 ツバサの罪悪感を見抜いたハルカは一転、悪い顔になった。

 そして、小さく薄い胸を抑えて苦しそうに身悶みもだえる。

『あああっ! やっぱり少なからず痛くて辛いかも……素敵なお姉さんが私の作った衣装をいっぱい着てくれて、丸1日私専属のファッションモデルになってくれないと……この傷は癒えそうにありません!』

『ここぞとばかりにぶっ込んできやがったな』

 ハルカに弱味を見せてはいけない──覚えておこう。

 とにかく、ツバサは轟雷でキョウコウ軍を攻め立てた。

 キョウコウを含む幹部たちのいる飛空城は徹底的に雷で打ちのめす。

 やがて万雷が鎮まっていく。

 曇天が雷を吐き尽くした頃──飛空城は地に落ちた。

 モンスターの軍勢もクロウの地獄でトドメを刺したようなものだが、そこに追い打ちで轟雷を落としまくったのだ。残存兵力は如何いかほどか。

 ツバサとしてはそちらはついで、本命は飛空城にいたキョウコウたち。

 飛空城は叩き落としたが、果たして…………?

「ツバサさん、あれ見て!」

 特大斬撃を放ってからツバサの元に戻ってきたミロは、墜落した飛空城に向けて指を指す。その声にはまだ張り詰めた緊張感があった。

 ツバサの轟雷により、飛空城は落城寸前。

 外壁は焼け焦げて崩れ落ち、城その物が割れそうな有り様だ。空を飛んでいた物が地に落ちた時点で、使い物にならなくなったのも同然だが──。

 しかし──テラスは無傷だった。

 テラスを純白の長い毛のような物が覆っており、その毛は目を背けたくなるほど目映い光を発している。だが、ツバサは目を凝らした。

 光り輝く長い毛が解けると──。

「……よく合わせた、イケヤ」

 長い毛の正体は、キョウコウの兜に生えたたてがみのような飾り毛。

 あの飾り毛、伸縮自在で硬度も上げられるらしい。

 恐らくだが──ツバサの髪と同じような芸当ができるのだ。

「ハッハハ-ッ☆ お褒めに預かりベリーサンキュー☆ いやー、エネルギー量がパないから、ボクのキラメキ・・・・でも防げるかちょっぴり不安でしたけど」

 なんとかなるもんですねー☆ とイケヤは陽気に腰を振った。

 あの三流ホスト、ジンと似た匂いがする……。

 キョウコウの飾り毛を輝かせているのは、残念ホストみたいなイケヤという五人衆の1人。どうやら彼は光を操れるらしい。

 ツバサの轟雷も雷光を伴う──つまり光の一種。

 それをイケヤの能力で、少なからず操られてしまったらしい。

「……イケヤ、おまえの輝きはそんなものか?」

 まだまだ輝けるだろう? とキョウコウは部下を挑発しておだてる上司のように言った。これをイケヤはストレートに受け取る。

「モッチロンですよ、キョウコウ社長ッ☆」

 過大能力──『光ってライトニング・輝いてシャイニン煌めいてグ・スパーキしまう男前☆ング・ダンディ

 イケヤはジャケットをはだけ、上半身は諸肌もろはだとなる。

 その瞬間、イケヤから眼球に突き刺さるほどの閃光が発せられた。

 発光源は──イケヤの乳首である。

「乳首が光ったッ!? お目々いったーいっ!」
「んなっ、まぶしッ!」
「アホじゃねーの!? なんで野郎の乳首が光んだよ!?」
「女の子の乳首が光っても嫌だけどね!」

 非難がましい声はミロだけじゃない。

 防壁に潜んでいたトモエやカズトラ、ヨイチの悲鳴も聞こえてきた。

 いつも無駄にキラキラしていると思えば、イケヤの目に優しくない光の粒子はこの過大能力の一端いったんだったらしい。やはり光を操作する能力なのだ。

 暴力的かつ無差別な──光の乱流。

 攻撃力こそないが、目眩ましとしてはこれ以上ないくらい有効だ。

 神族は視力が良くなる分、こうしたものは効きやすい。

 しかし、ツバサのように武道家系の技能を高めていれば気配で相手の位置を把握でき、何より過大能力で自然の力を利用しても感じ取れる。

 瞼を閉じても視界を遮られても、仲間と敵の位置は把握できていた。

 そんなツバサの感知能力が──高速で移動する者を捉える。

 落ちた飛空城から飛び出したのは4人。

 感じ取れた身体の大きさや気配の強弱から推測するに、イケヤ、ブライ、ニャル、ミラの4人が飛び出したようだ。

 キョウコウ、ネルネ、ダオン、マリラは動いていない。

 いや──ダオンの気配が消えている。

 あの太いというより丸い体型のデブが動けば目立つ。ツバサの感知能力で気付かないわけがない。しかし、飛空城から動いたのは4人。

 そこにダオンが加わっている様子はなかった。

 まさか──密かにキサラギ族の里に向かったのか?

 ダオンは吸血鬼ヴァンパイア系の技能を備えている。

 吸血鬼の使い魔ファミリアにはネズミやモグラもいたはずだし、それらの小動物で数に物を言わせて地中を掘り進めば、キサラギ族の里へ直行できるだろう。

「クロウさん、お願いします!」

 嫌な予感がしたツバサはまぶたを閉じたまま、その言葉のみを伝えた。

 これだけでもクロウには伝わるだろう。
 LVの高い者同士、言葉にせずとも察することができるのだ。

「心得ました!」

 クロウの返事が聞こえた後“ズブン!”と耳慣れない効果音が聞こえてきて、クロウの気配が地中深くへ沈んでいくのが感じ取れる。

 地面を透過とうかできる技能スキルでクロウが地下に潜っていた。

 そのままキサラギ族の里へ向かうはずだ。

 あちらはクロウに任せよう──彼女と還らずの都を守ってくれる。

 こちらはキョウコウたちを抑え込むことに専念する。

 イケヤの閃光が鎮まり、ようやく目が開けられるようになった頃。

 キョウコウの幹部たちは防壁近くにまで迫っていた。

 いや、1人だけ……イケヤは防壁を越えて、ツバサが覆い隠した兆しの谷上空にまで到達していた。彼らの中では群を抜いた速度を誇っている。

 高速どころか光速──そんな速さで空を駆けていた。

 飛行系技能を使って空を走っているのはわかるが、その走るモーションはやたらと無駄が多いのに異様なくらい速いのだ。

 しかし、速さならばツバサの娘にも自慢できる者がいる。

「ハアッハー☆ 悪いけどボクが還らずの都に一番…………のりごぉ!?」
「んなあッ! させないッ!」

 光の軌跡を引きながら、兆しの谷へ突入しようとしたイケヤ。

 その横っ腹にトモエが頭突きで突っ込んだ。

 トモエの過大能力──【加速を超えアクセル・オーた加速の果て】バー・アクセル

 素早さだけならピカイチのイケヤを、同じく素早さだけならダントツのトモエがこの過大能力で捉えたのだ。

 トモエの大砲みたいな頭突きをまともに食らったイケヤは吹っ飛ぶ。

 煉瓦レンガの防壁に叩きつけられるも、すぐに起き上がった。

 本人はカッコいいつもりだろうが、第三者から見ればダサいポーズを決めている。こんな時でもキラキラと輝く粒子をまき散らしていた。

「おやおや、これは素敵なリトル・レディ☆ 君がボクを止めるつもりかい?」

 イケヤは両腕を交差させると、ジャケットの懐に両手を差し入れる。

 そこから取り出したのは、リング状の刃物だった。

 インドの武器『戦輪』チャクラムによく似ている。

 それをてのひらにまとわせるようにクルクルと回転させていた。

 当然──これも無駄に光の粒子を発散させている。

「んな、おまえは脚早い。トモエも脚早い。止められるのトモエだけ」

 腕に絡ませた鎖を鳴らして、トモエは身構える。

 無数のパズルで構成された知育玩具な武器──パズル・アーム。

 腕に巻き付けた鎖の先に繋がっている武器は今でこそ斧の形を取っているが、戦況に応じて組み替えられる。

 制作者であるジンと再会したことで、アルマゲドン時代よりもグレードアップしてもらったそれはマークⅡともいうべき性能強化をされていた。

「レディのお相手は歌舞伎町でのお仕事だけにしときたかったんだけど……ま、この世界に来たら仕方ないかな☆」

「んなっ! トモエは女の子の前に一人前の戦士! なめるな!」

 各々の武器を構えたトモエとイケヤは、早々に戦い始めた。

 どちらも飛行系技能のまま超高速で空を舞い、兆しの谷上空を飛び交いながらぶつかり合っている。ツバサでも横目で確認するのは難しかった。

 乱戦状態になりつつある今、キョウコウの各幹部は仲間たちに任せていた。いくらツバサやミロが強くても、全員を相手にするのは不可能だ。

 仲間を信じて──託すしかない。

 イケヤに次いで速いのはブライだった。

 彼は飛行系技能を使わず、大地を凄まじい速度で駆け抜ける。

 地獄と化した荒野を踏み破るように、土煙を巻き上げて邁進まいしんするブライの前に立ちはだかったのは、どことなく彼と相通ずるところがある少年だった。

「ここは通さねぇよ! ガンマレイアームズ!」

 兄と姉と慕った仲間から受け継いだ、鋼鉄と宝石が絡んだ右腕。

 それを介してカズトラは過大能力を発動させる。

 過大能力──【我が掌中にあるもウェイクアップ須く武器と成るべし】・アームズ

 クロウが召喚したともいうべき地獄の刑具の数々。

 鋼鉄製のそれらがカズトラの過大能力によって変化し、大型弩砲バリスタや大砲やガトリング砲になると、ブライへ向けて一斉に発射される。
 
 立ちはだかる武器の数々を目にしたブライは冷めた眼を大きくした。

「へえ、面白いもんだな」

 感心とともに歓迎するような声だ。

 カズトラの猛攻を一身に受け、ブライは大爆発に巻き込まれる。

 爆発の煙が巻き上がるのを見たカズトラは勝利の手応えを感じたのかニヤリと微笑むが、その爆煙ばくえんが弾けるのを見て眼をいた。

 爆煙を内側から吹き飛ばした、ブライが原因とおぼしき攻撃。

 爆発力のあったそれに──兵器の影が見え隠れした。

「オレとおまえの戦い方スタイルは似ている……そういうこともあるのか」

 ブライは少しだけ楽しげに言った。

 その言葉尻には──どことなく期待が込められていた。

「オレっちと似てるって……うおっ!?」

 カズトラが戸惑っている隙に、ブライはボクシングにも似たステップで一気に間合いを詰めると、目にも止まらぬジャブを打ち込んできた。

 咄嗟とっさにガンマレイアームを盾状に変化させ、カズトラはジャブを防ぐ。

 しかし、ジャブとは思えない打撃の威力に押し負け、軽量なカズトラは吹っ飛ばされた。辛うじて踏ん張ったものの何mも後ずさってしまう。

 受け止めたジャブからカズトラは何かに勘付いた。

「今の攻撃……おまえの能力も・・・・・・・!?」

「言っただろ、オレとおまえはよく似ている……戦い方も」

 過大能力オーバードゥーイングもな、とブライは本気で拳を振るう。

 パンチとは思えない轟音が響き、受け止めたカズトラに大爆発が起きる。

 ブライの拳がカズトラに当たる直前のことだ。

 その刹那せつな、ツバサの視界は捉えていた。

 繰り出されるブライの拳に──ミサイルの幻影が重なっていたのだ。

 過大能力──【我がマイ・総身これフォル全て兵ボディ器であるべし】・ウェポンズ

 ブライの能力は恐らく、自分の肉体に兵器の能力を上乗せできるものだ。

 ミサイルに限らず、ロケットランチャーでも戦車砲でも戦艦の砲塔でも自由自在なのだろう。それをパンチなどの近接戦闘で直接叩き込んでくる。

 確かに──カズトラの過大能力と似て非なるものだ。

「お、同じ能力だってんなら……オレっちが負けるかよ!」

「青いな、まだまだ餓鬼がきか……」

 カズトラはガンマレイアームズを武器化させてブライに殴りかかり、ブライも拳に兵器の威力を乗せて叩きつけていく。

 似た者同士の激突は、新たなる大爆発を起こして両者を巻き込んだ。



 高LV神族たちプレイヤーによる激戦──その火蓋ひぶたがついに落とされた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...