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第8章 想世のタイザンフクン
第185話:我こそが地獄であり地獄こそが我である
しおりを挟む「──どれほどだ」
キョウコウは言葉少なに問うた。
誰に問うたかもわからないが、傍らに控えていたデブ執事ダオンはスクリーンを操作すると、キョウコウの求める答えを口にする。
「モンスター兵で戦闘不能に陥り、ネルネ様の【牢獄】に回収された者が凡そ15万体、600人のプレイヤーにも今の戦闘に巻き込まれた者がおり、200人弱は【牢獄】に回収されました……いやはや、念のためにとモンスター兵もプレイヤーも問わずにネルネ様の過大能力に登録しておいて正解でしたな」
「ムニャムニャ……正確にはねぇ~……」
ネルネがキョウコウの膝の上でゴロゴロしながら、褞袍の袖から細い腕を上に伸ばしてプラプラと振っている。
「モンスターたちが156724体……プレイヤーの人たちが197人……アタシの【牢獄】でグースカピーと寝ながら身体を治して……zzz……」
報告するネルネ当人がそのまま眠ってしまった。
それでも能力の当事者、夢見心地でも正確な数をカウントできるらしい。今のは寝言ながらもうまいタイミングで返事をしたようなものだ。
ふむ、とキョウコウは喉を鳴らす。
その“ふむ”という一声には感情が込められていない。
手勢を3分の1も失ったのに、残念な様子さえ見受けられなかった。
むしろ六歌仙の方が感情豊かに憤っている。
「嘘だろ……たった2人のプレイヤーに邪魔されただけで、アタイらの創った兵がそんな減っちまったのかよ……やるせねぇ、ってかムカつくなぁ!」
ミラは花魁みたいに結った髪を掻き毟っている。
「聞こえてる声だけなら3人だったみたいだけどねぇん。あたしたちとはちょっち違うけど、機械なんかの生産系に特化した人たちだったのかしら……」
それをニャルが穏やかに慰めた。
元々同じ部門にいた2人だけあって、仲が良いようだ。どちらかといえばニャルが兄貴分(姉貴分?)で、妹分のミラの面倒を見ているらしい。
「憎いか……ミラ?」
憤るミラにキョウコウが静かに問い掛ける。
「当ったり前だろ、旦那ぁ!」
ミラは着物の袖を大きく揺らして振り返った。
江戸っ子らしく憤慨した感情を思いついた先から喋り出す。
「エメッさんじゃねえけど、アタイらだって自分の創るモンスターにゃ精魂込めてるんだ! 我が子みてぇなもんなんだよ? それを潰されちゃあムカっ腹も立つしイライラもするさ! 憎ったらしくて当然だろ!?」
アンタは違うのかい!? ミラはキョウコウに問い返す。
キョウコウは目を閉じると、鼻から息を抜くようにして微かに笑った。鼻で笑ったというには、誰かを見下した感はない。
「……何がおかしいんだい、旦那ぁ?」
しかし、気が立っているミラには鼻についたようだ。
苛立ちも露わに食って掛かるミラを、キョウコウは片手で制して答えた。
「確かに……手勢を使い物にされなくされたことは遺憾だ……奴等に対する敵愾心もある……だがな、儂には同じくらいの喜びもあるのだ」
たった3人で15万のモンスターを蹴散らした若者たち。
たった3人で200人ものプレイヤーを【牢獄】送りにした若人たち。
「いるものだな……あれだけの力量を有した才能が……」
キョウコウは嬉しそうに鎧の拳を握り締めた。
「恐らく……あの連中は口振りからして、爆乳小僧の麾下にあるのだろう……彼奴も傑出した偉才だったが、斗来坊に見出されたなら当然だ……まだ、彼奴の下にはいるのやも知れぬ……我らに勝るとも劣らないプレイヤーが……」
それが嬉しい──キョウコウは独りごちた。
キョウコウの発言にミラは口を挟もうとしなかった。
彼の発する覇者のオーラとでも言うべきか、物静かながらも無意識に周囲へ振りまいている威圧的な気迫に飲まれていた。
その気迫に負けまいと、ブライがキョウコウに尋ねる。
「……強い奴が多いほどいい、ということですか?」
「その見解は間違ってはおらん……だが、まだ足らんな」
自らも強者だと誇るブライの問い掛けに、キョウコウは即答する。
そして、説き伏せるように続けた。
「強き者が多いに越したことはない。強き者は儂に刃向かう者であれ、ういやつよ……だが、足りぬ……真の絶望に立ち向かうには……強者の絶対数が足らぬ……儂が求めるのは強者……数えきれぬほどの強者の軍勢なのだ……」
どこか物憂げにキョウコウは言った。
叶わぬ願いを、わずかな希望に賭けるような口振りである。
「あら、キョウコウ様、もしかして……」
マリラは女の勘を働かせ、見透かしたように問うた。
「あわよくば──彼らも臣下に加えるおつもりですか?」
兜と頬当ての隙間から覗くキョウコウの眼が、弓なりに曲がる。
それだけで答えとしては十分だろう。
「ブライにも言った通り……強い奴が多いほどいい……その者たちを余すところなく傘下に加えたい……さっきの工作者ども然り、いつぞやの女騎士然り……」
そして──あの爆乳小僧もだ。
「だが、ああいった輩は得てして強情だ……素直に我が軍の末席へ加わることもあるまい……だから、戦う……我らの強さと奴らの強さ……鎬を削り合うことでしかわからぬこともあるからな…………」
覚えておけ、とキョウコウは部下たちに伝える。
「……強き者と戦うならば、相手を尊び敬うことを忘れてはならぬ」
いつか──肩を並べる日が訪れるやも知れぬから。
「天を塞ぐ絶望に立ち向かえるのは……身も心も魂も、全てにおいて強靱かつ壮健な者のみ……その時まで、我らは競い合うしかない……互いの強さを凌ぐように、そして追い越さんと、どこまでも高みを目指して精進するしかないのだ……」
彼方を見つめたままキョウコウは語る。
淡々と、しみじみと──祖父が孫たちへ伝えるようにだ。
それは幾多の戦場を潜り抜けた老兵が、まだ若き兵士たちに先人の知恵を授けるにも似た……独白のような教訓に聞こえるものだった。
しかし、ミラやブライ、マリラやイケヤなどの年若い者たちに、この教えはまだピンと来ないらしい。ダオンだけは訳知り顔で微笑んでいた。
やや年嵩なニャルも感じ入るものがあるのか、何もない顔で頷いた。
キョウコウは眠るように目を閉じながら呟いた。
「いずれわかる……その時が来ればな」
『あれは──あれだけは──自分の目で見なければわかるまい』
キョウコウの寂しげな言葉は、頬当ての外に出ることはなかった。
飛空城は空を征く──還らずの都を目指して。
眼下には数こそ減らしたものの、20万を越える軍勢が犇めいており、空飛ぶ城を追うように進軍する。見渡す限りモンスターだらけだ。
飛行系技能を使う低LVプレイヤーたちや、空を飛ぶモンスター、或いはそれに騎乗する者たちが先行し、大地を駆ける軍勢がそれに続く。
空を舞い飛ぶ飛空城──そのテラスに静寂が訪れる。
キョウコウが意味深長なことを語ったため、彼を主人と仰ぐ幹部たちはその真意を読み取ろうと四苦八苦していた。無闇に言葉の意味を問い直すのも憚られるし、それぞれに考え込んでいるらしい。
快眠を楽しむネルネ以外は──。
キョウコウも空気を察したのだろう。
兜と頬当ての間からわずかに覗く眉をしかめていた。
「年寄りの戯言だ……気にしなくてもよい、今はな……」
それよりも──目の前の戦に集中せよ。
「直に“還らずの都”がある渓谷へ到着する……先刻の奴等を嗾けてきた爆乳小僧と、彼奴と手を組んだと見られる女騎士の仲間たちも待ち構えているはずだ……奴等の実力は未知数……決して侮るでないぞ」
キョウコウが厳命すると、幹部たちは「ハッ!」と短く一斉に答えた。
エメスより、飛空城の操縦を任されたのがダオン。
彼は空飛ぶ城を操りながら、どこまで来たかの行程を伝える。
「間もなく“還らずの都”があるとされる谷が見えてくるはずです。私の使い魔が偵察した限りでは、我々への防衛対策をしていたようですが……」
「もしかしなくても──あれかい?」
ミラが顎でしゃくった先には、谷ではなく山が連なっていた。
~~~~~~~~~~~~
前述の通り、兆しの谷はツバサが過大能力で隠した。
固い木々の枝葉を谷に張り巡らせて、その上を土で覆い隠した落とし穴みたいなものだ。何もない地面に見せかけているだけ。
その兆しの谷を囲むように──様々な山が連なる。
遠目には小高い丘や背の低い山に見えるかも知れないが、そのどれもが高く築かれた石垣や煉瓦壁、もしくは高密度で積み上げられた土塁である。
飛空城と軍勢が押し寄せる方向を重点的にカバーしていた。
これら様々な防壁の後ろには、戦闘準備を終えたキサラギ族たちが、今か今かと待ち構えている。彼らの顔には一様に緊張が現れていた。
それも道理だろう。
ダインたちが減らしてくれたとはいえ、25万ものモンスターの群れが押し寄せてきており、その中には400人以上の神族も加わっているのだ。
対して、キサラギ族の兵力は100人ちょっと。
彼我の戦力差は絶望的なまでに開いている。
それでも彼らは“還らずの都”を守るという一族の使命を果たすべく、敵前逃亡することもなく、勇敢にも立ち向かうことを決めてくれた。
「俺たちは──その手伝いをするだけだ」
兆しの谷に設けられた、一番大きく一番外側にある防壁。
過大能力【偉大なる大自然の太母】で築き上げられた、一際デカくて外側を硬い鉱石で覆った最硬の防壁。最初の難関として立ちはだかる障壁だ。
──その頂上にツバサは陣取っていた。
腕を組んで仁王立ちしているつもりなのだが、爆乳が邪魔して腕が組めず、どうしても乳房を持ち上げるように胸の下で組むのを余儀なくされる。
これでしなでも作ったら、まるっきりグラビアのポーズだ。
威圧感を醸し出す迫力あるポーズを取りたいのだが、どうやっても悩ましい色っぽさが露わになってしまう。艶めかしい女体が恨めしい。
「ツバサさん、もう諦めたらー?」
どうにかカッコいい立ち姿を目指そうと四苦八苦するツバサに、ミロはその内心を読んだかのようにツッコんできた。ツバサは素知らぬフリをする。
「諦めるって……何の話だ」
「え? 男らしいポーズ取りたいんだけど、何をどうやってもグラビアモデルさんみたいなエロポーズになっちゃうから悩んでんじゃないの?」
ミロの推理がツバサの胸に突き刺さる。
ツバサの動作から、それらの感情を読み取ったらしい。
直観や直感のスキルは伊達じゃなかった。
世界を創り変える過大能力といい、ミロはチート気味である。
「ツバサさんはアタシとセットで、こんなポーズの方が似合うって♪」
ポフン、と柔らかい音をさせて、ミロはツバサの胸の谷間に顔を埋める。
そのまま細い腰に手を回して抱きついてきた。
それは──娘が母親に甘える姿そのものだった。
「不思議と仲良し姉妹には見えない……これがツバサさんのオカンパワー!」
「誰がオカンだ、このアホガール」
ミロがこちらに背を向けるようにツバサは抱き直す。
ますます母親が娘を抱擁しているように見えるが気にしない。
しかし──ツバサもこれが一番落ち着いた。
娘を胸に抱いて、その息遣いを感じて安心する。
これは母親だけが持ち得る感情に違いない。
きっと神々の乳母のせいだ、とツバサは責任転嫁しておいた。自分が女々しくなっている理由は、全部神々の乳母のせいにしておこう。
そんなツバサとミロの後ろに──大きな影が2つ。
一際大きな影から送られる視線に、ツバサはお尻にむず痒さを感じる。
「ふぅむ……先ほどのポーズなら、3番目のがワシは好きじゃったの」
尻の強調具合がな、とドンカイが感想を漏らす。
「ドンカイさん、その発言はセクハラですよ」
大人の男は気を付けないといけません、とクロウは教師らしく注意した。
最前線の防壁の上──そこにいるのはツバサとミロだけではない。
最強の横綱ドンカイと骸骨紳士クロウも一緒だった。
この4人は全員LV999だ。
先日ミロとドンカイもこの領域に達した、最高位プレイヤーである。200や300ぐらいの低LVプレイヤーがいくら群れても敵ではない。
「あ、見えてきたね。あちらさんの大進撃」
ミロはツバサに抱かれたまま、こちらのおっぱいを枕にして小さな身体を預けてくると、右手を額に当てて地平線の彼方に目を遣った。
地平線の彼方──迫り来る大軍勢。
神族の視力だから正確に見えているが、常人の目にも地平線が軍勢の巻き上げる土煙でもやついているのがわかる頃だろう。
キサラギ族にも緊張が走り、誰もが固唾を呑んでいる。
「ワシらの役目は、あの大軍勢の戦力をなるべく減らすことじゃな」
ドンカイが再確認してきたので、ツバサは補足する。
「できればキョウコウと幹部8人……エメスとかいう坊さんが抜けたから7人か、彼らもまとめて一網打尽にしたいところですけどね」
それは高望みが過ぎるな、とツバサは断じた。
残存兵力は──25万のモンスター兵と400人の低LVプレイヤー。
正直、これはツバサたち4人で処理できると思っている。
それほどまでに神族のLV差というのは大きいのだ。
LVが10違うだけで勝ち目は薄くなり、100を超える差があれば敗北確定といっても過言ではない。
その無慈悲なほどのLV差を──ここで知らしめてやる。
「ではドンカイさん、クロウさん」
手筈通りにお願いします、とツバサは年長者2人に請うた。
「おう、任せてもらおうかの」
「先手必勝と言いますしね。先陣、引き受けましょう」
ドンカイは肩に羽織った単衣の着物を、クロウは裏地が赤で表地が黒のマントを、それぞれ風になびかせて最前線の防壁から飛び降りる。
重力に逆らうことなく落ちていき、ドンカイはズシーン! と物々しい音を立てて着地する。片膝と拳を地面についており、ヒーロー着地というやつだ。
クロウはマントをはためかせ、それで風を受けて落下速度を和らげる。骨だけしかないので軽いのか、音もなくふわりと着地した。
2人が着地した頃には、大軍勢も一段と距離を詰めていた。
モンスター兵の上げる鬨の声が、風に乗ってここまで届く。
顔までは確認できないが、様々な装備を身につけて、手にした武器を振り上げて突っ込んでくる様子が常人の肉眼でも見て取れる頃合いだろう。
敵勢がそこまで迫ったのを確認して、ドンカイとクロウは目配せをする。
先に頷いたのは──ドンカイだった。
ドンカイは両腕を伸ばす。
それから“何か”を受けるように両方の掌を軽くたわめると、両手を引いて腰に溜めるポーズを取った。誰もが見覚えのあるポーズだろう。
“かめはめ波”という単語が真っ先に思い浮かぶ。
腰に溜められた両掌に──蒼い球体がわだかまる。
それは水の塊だった。
ただの水ではない、強い塩気を帯びた深層の海水である。
ドンカイの掌で波打つそれは、次第に白い波を帯びるほど激しく渦巻き、やがて深い海の底のような昏い蒼を球体の奥へ形作っていく。
ドンカイの過大能力──【大洋と大海を攪拌せし轟腕】。
彼の豪腕はこの世界のどこかの海と繋がっており、その両腕からは止め処なく海を喚び出すことができるのだ。そこに制限は一切ない。
それでこそ過大能力である。
後世、ドンカイは海の神として崇められるかも知れない。
ドンカイの掌に溜められた水球。
それは限界を超えて圧縮された大海原の精髄だった。
「──波濤! 海皇青海波っ!!」
ドンカイも何気にそれっぽい技名を付けるのが好きらしい。
溜め込んだ海洋の塊を、ドンカイは一気に解き放つ。
解き放たれた水球は爆発、海となって溢れ出す。
荒れ狂う大津波が、こちらへ向かってくるキョウコウの軍勢を地平線へ押し返すように流れていく。どんな体力自慢のモンスターであろうと、30m級の津波が押し寄せてくれば、否が応でも押し流されていく。
大陸中央に広がる荒野は、瞬く間に水没していった。
「ここで俺が一工夫加える」
ツバサが右手を空に差し出せば、その爪先が白く染まる。
手を覆うのは霜──地母神の手から極寒の冷気が流れ出していた。
「──行け、氷の女王」
冷気はドンカイが作った海洋の塊のように、塊となってツバサの掌に浮かぶ。
氷の女王と名付けた通り、ドレスで着飾った貴婦人のような形状だ。
それは投げずとも自らの意志で動き出した。
高速で射出された冷気の塊は、モンスター兵を怒濤の勢いで押し流す津波に飛び込み、本物の海のように広がる海流を凍てつかせる。
──瞬く間に氷河期が訪れた。
凍てついた海は飲み込んだモンスターたちも氷に閉じ込め、何人かのプレイヤーまで巻き込んでいた。ほとんどの者が凍り付き、冷気に耐性のあるモンスターさえも氷の中に閉じ込められ、身動きを封じられていた。
ドンカイとツバサの合わせ技により、大軍勢が行動不能に陥る。
そこへクロウが前に出た。
数歩前に踏み出したクロウは、革手袋で覆われた掌を大きく開いた。
その手には近寄りがたい力の波動があふれている。
しゃがんで掌を地面に押しつけ、骸骨の顎を開いたクロウは短く呟く。
仄暗い眼窩、その奥底に赤黒い炎が灯った。
「開け──地獄の門よ」
瞬間、凍り付いた海を割るほどの力が地下から湧き上がった。
焼けた銅の柱、燃える鋼の柱、針1本が刀ほどの大きさはある剣山、鋼の棘を生やす茨、炎を噴き出す硬そうな樹木、燃え盛る鉄の車輪……。
どれも地獄を臭わせるものばかり、灼熱を帯びている。
地下から飛び出してきた地獄の力は、固く閉ざされた氷の海を突き破り、そこに閉じ込められていたモンスター兵に致命的なトドメを刺す。
絶対に殺す──地獄の刑罰を思わせる能力は凄まじいものだった。
兵たちは死ぬ前にネルネの【牢獄】に回収されるが、この場はそれでいい。
当分、戦線に帰って来ないだけで充分だ。
これがクロウ・タイザンの過大能力がひとつ。
過大能力──【我こそが地獄であり地獄こそが我である】。
名が体を表す通り、クロウ自身が地獄となる能力だ。
ダインやクロコのように道具箱を使う過大能力とは違うらしい。
クロウの内側にはある種の別世界が広がっており、そこは地獄にも似た責め苦が絶えず繰り返されているそうだ。
クロウは自分の内にある地獄を解放することで、このように地獄を顕在化させることができるという。その威力は目の前に惨劇となって現れていた。
氷を溶かしながら打ち壊し、モンスター兵を責め立てる。
大陸中央に広がる荒野が大海に没したかと思えば、それは瞬時に氷河期を迎えて凍り付き、その氷を破って地獄が湧き上がってきた。
抗い難き超常的な猛威は──キョウコウ軍は壊滅へと追い込んでいく。
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