想世のハトホル~オカン系男子は異世界でオカン系女神になりました~

曽我部浩人

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第8章 想世のタイザンフクン

第184話:想世巨神王フォートレスダイダラス

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 想世そうせい巨神王きょじんおう──フォートレスダイダラス。

 巨神王──ダイダラス。
 大巨神王──グレート・ダイダラス。
 超巨神王──グランド・ダイダラス。

 これらに続く新たなダイダラスシリーズの登場だ。

 今まではダインが大型トレーラー『ダインローラー』と一体化することで変形、そこから三体の機龍きりゅうと様々な合体をすることでバージョンアップされていたが、今回は新しい機体を用意したらしい。

 しかも、今までのトレーラーや機龍とはサイズが段違い。

 巨大な移動要塞を直立させたような超巨大人型ロボットに仕立てていた。

 かの有名なト○ンスフォーマーシリーズに、要塞から変形してロボットになる者がいたが、名前といい様相といい、そのキャラを思い起こさせる。

 そういえば以前、ダインと2人で行動した時のことだ。
(※第47話参照)

『もっと男らしい、侠気おとこぎあふれた話で盛り上がるぜよ! トラン○フォーマーなら何が好きじゃ? わしゃフォートレス○キシマスぜよ!』

『それ侠気あふれた話題か?』

 ──そんな話をした記憶がある。

 これ・・にダインの好みが表れているのは一目瞭然だった。

 それにしてもデカい──大極都神だいごくとしんよりも頭ひとつ分は大きい。

 全長1100mにも及ぶ超巨大巨神だ。

 天も地も制覇できる(海中も可)移動要塞として建造されながらも、巨大ロボ好きなダインの好みを反映して、巨大人型兵器に変形して戦えるように設計されている。ツバサも設計段階から報告は受けていた。

 先日、ダインから──。

『完成したけどデカ過ぎておいそれと試し運転もできんぜよ。なんせ【不滅要塞】フォートレスから出しただけで、辺りの地形が変わっちまうんじゃ』

 この規格外のサイズだ。

 出しただけで周辺地域への甚大な被害は想像に難くない。

 一歩踏み出せば足跡が池になり、腰掛けるために土を盛り上げれば山となる。気まぐれに山脈を越えればそこが谷となり、横たわれば地がへこんで湖となる。

 やることなすこと創世神話の巨神レベルだ。

 日本ならば“だいだらぼっち”という巨人がそれに当たる。

 そういえば巨神王ダイダラスは、この“だいだらぼっち”とギリシア神話における伝説の名工ダイダロスの名前を掛け合わせたものらしい。

 命名者であるダインは、この巨大兵器を試運転したくて堪らないらしい。

 ハトホルの谷近くで試すなよ、とツバサは念を押した。

『え、アニキ……それ、フリじゃなかろな?』
『フリじゃねえよ、本気で言ってんだよ』

 やったらお説教どころじゃないぞ、と脅しておいた。

 大極都神が機動兵器となって動き出す。

 このミロの予想を聞いた直後からダインは「もしも極都が動いたら対抗措置として移動要塞を出撃させられるのでは?」と密かに目論もくろんでいたらしい。

 結果は御覧の通り、ダインの目論見通りに事が運んでしまった。

 他に打つ手もないため、結果オーライということで小言は抑えておこう。

 モニターの向こうで対峙する二体の巨大魔神。

 片や大極都神──。

 城塞じょうさいとしての外観を多く残しており、肩から頭部に掛けては尖塔せんとうが数多く突き立っているため、たくさんの角を生やしているように見える。

 上半身がガッシリとした体型で逆三角形。

 反して下半身や腰は細めで、どことなくいびつな体型をしていた。人間ならば上半身ばかりバルクアップさせて下半身は細い、いわゆるチキンレッグのようだ。

 その不釣り合いさゆえに異形さが際立つ。

 このため大極都神は見上げる者を畏怖させる“魔神”のおもむきがあった。

 対してフォートレスダイダラス──。

 こちらは近未来的な移動要塞をモチーフとしているため、その外観は要塞というより基地だ。だから大極都神よりもメカメカしくてロボっぽい。

 1㎞越えの巨体にも関わらず均整の取れたフォルム。

 腕や足のバランスも良く、全身を覆う装甲も主人公メカの佇まいだ。

 全体的に荘厳そうごん勇猛ゆうもうさを兼ね備えた“武神”の風情ふぜいがある。

 別のモニターにはフォートレスダイダラスの艦橋……ではなくて、コントロールルームらしき場所とオンラインで繋がっていた。

 ダインは操縦席らしき場所に座っているが、いくつものコードや回線と繋がっており、手足も膝や肘くらいまで周囲の機器にめり込んでいた。

 普段よく合体しているトレーラーから変形するロボット“ダイダラス”。

 あの機体とは『魂魄ソウル・接続』コネクトという形で本当に合体しているが、この移動要塞とも合体して一心同体となっているらしい。

 その前方にも操縦席があり、フミカがちょこんと座っている

 こちらは複数のスクリーンが何十枚も展開しており、要塞の状況を隅々までチェックしていた。情報処理に関してはフミカはハトホル一家ファミリー随一ずいいちだ。

 聞いたところによると、フォートレスダイダラス(長ったらしいので以後はフォートレスと割愛かつあいする)は、そのあまりの巨大さゆえにダイン一人ではすべての機能を管理したくても処理が追いつかないらしい。

「そこで内助の功ないじょのこう! 新妻にいづまたるウチの出番と相成るわけッス!」

 システム管理のためにスクリーンタッチ型のキーボードをブラインドタッチで忙しなく叩きながら、フミカはカメラ目線でドヤ顔を決める。

「フミィ……そがいこと大声で言わんといいきに……」

 ダインはまた両手で顔を隠したくなるほど赤面しているが、両手はフォートレスと繋がっているので動かせないため、俯くしかなかった。

 つまり、フミカが情報処理能力でシステム面を全面的にバックアップする。

 このサポートのおかげでダインは機体の操作に専念できるわけだ。

 ダインが機体と連結することで操縦し、フミカが火器管制やら機器の調整を担うことで、フォートレスは十全じゅうぜんの能力を発揮できるようになる。

「いわば新婚・・合体・・とも呼ぶべき夫婦の共同作業ッス!!」
「フミィ……もう勘弁しちょうよ……」

 わしこういうの慣れとらん、とダインは羞恥心がMAXだった。

 2人の能力をシンクロさせて巨大ロボットを操る。

 ダインとフミカのやり取りをモニター越しに見ていたミロが、不意に何を思いついたのか“ポン!”と手を打った。

「そっか、パシ○ィック・リムだ! イェーガーじゃんそれ!」
「んな? いぇーがー? 進撃○巨人?」

 ミロの発言にトモエが反応するも、それは違う。

 そのイェーガーさんとあのイェーガーはまるっきり別物だ。

 ツッコむと説明に長く取られるので、ツバサは素知らぬフリをした。

 ミロがトモエに教えているので放っておこう。

 そうこうしている内に──巨大魔神たちが動き始めた。

 互いに一歩踏み出せば地震を起こし、足下のモンスター兵を蹴散らす。

 ジンとマッチョな自走砲たちは心得たもので、さっさと撤収てっしゅうするや、歩き出したフォートレスにしがみつくように乗り込んでいた。

 通信端末で連絡を取り合っていたらしい。

 意気投合したせいか仲が良いな、工作者クラフターズ。

「行くぜよ、ロボメカ大好きなエキセントリック坊主ッ! 」
「来なさい若人わこうど! 新世代のロボ魂を拙僧せっそうにぶつけるのです!」

 どちらも熱血をたぎらせて、自慢の巨大ロボットを全力で叩きつけんといきり立っている。どちらの瞳も少年のように輝き、自信作のプラモデルを見せびらかす子供のように元気溌剌はつらつとしていた。

 そう──やってることの本質はそこ・・なんだと思う。

 これは子供のオモチャ遊びなのだ。

 どちらも神の能力を存分に発揮して、天地創造の巨人に匹敵するほどの巨大メカを造り出したが、マクロの視点では子供のお遊びにしか見えない。

 しかし神々の遊びは──世界を揺るがす。

 大極都神が右腕を振りかぶれば、右の拳が変形を初める。

 握った拳の4本の指が縦に割れ、そこから電磁でんじチェーンソーがせり出した。

 殴りながら相手の装甲を削り取る武装のようだ。

 電磁チェーンソーパンチが、フォートレスの胸板に繰り出される。

 迎え撃つフォートレスは、パンチを外側へ避けるようにかわす。

 胸板の装甲に掠っても気にせず、背をらすようにして大極都神の右腕を避け、こちらの長い両腕で抱き込むように掴まえた。

 そこから──大極都神を組み伏せていく。

 まるで犯罪者を取り押さえる警察官のようだ。

 こういった技は捕り手と呼ばれ、暴漢を抑え込むために発展した技術だ。柔道、空手、柔術などから技を取り込んでいる。

 どうしてそれをフォートレスが使えるのかといえば──。

「ウチがサポートしてるからに決まってるッス!」

 フミカは立ち技こそ不得手だが、寝技やサブミッションは得意なのだ。

 捕り手の技もツバサがたわむれに教えたものである。

 フミカのプログラミングした姿勢制御システムを積んだフォートレスは、スタイルの良さも手伝って、これほどの巨体でありながら人間以上の柔軟かつ機敏な動きができるのだ。つまり、接近戦に持ち込んだ方が有利である。

 おまけに装甲の厚さもあるため、肉弾戦も得手えてである。

「アタタタ、肩甲骨けんこうこつがギリギリいってんじゃねーか!」
「自分のことじゃないのに自分のことみたいに痛いわよねぇん!」

 大極都神は逆関節を決められ、要塞の各部がギシギシと悲鳴を上げる。乗り込んでいるミラやニャルたちまで痛そうにしていた。

「巨大ロボでも苦悶くもんするのね……悪くないわ」

 マリラは組み伏せられた大極都神を見下ろしてサディスティックに微笑む。

「……見境のない女だな」

 これにはさしものブライも呆れ果てていた。

「このまま腕1本、もろうちゃるわッ!」

 ダインはフォートレスの馬力を上げ、組み伏せた大極都神の右腕を関節とは逆向きに決めたまま、へし折るなりもぎ取ろうとしていた。

 しかし、エメスに焦りはない。

「巨大ロボットにも関わらず、秀でたバランス感覚と四肢の融通性ゆうづうせい……こうなると運動性の高さが物を言いますか……ふむ」

 やりますね、お若いの──エメスは純粋にダインの技量を褒めた。

「どうやら格闘戦ではそちらに分がありそうですな」

 しかし、これは巨大ロボによる決戦。

「人間にはできないことをやる……それがメカ戦の醍醐味だいごみですぞ!」

 霊・宿・動! とエメスは裂帛れっぱくの気合で印を組む。

 すると大極都神の決められた関節が逆向きになった。

 関節技で決められていた方に曲がるようになり、その技を仕掛けていたフォートレスが思いっきりバランスを崩した。

 この隙に──大極都神は反撃へと転じる。

 体中の関節どころか体型さえも派手な音をさせて変形させると、人型ではありえない形状となって、そこからフォートレスに膝蹴ひざげりを食らわせる。

 その膝蹴りが大爆発を起こした。

 どうやら膝に爆裂系魔法の魔法陣が仕込まれていたらしく、膝蹴りを撃ち込むと同時に発動させたのだ。ニー・キックならぬニー・ボムである。

 これにフォートレスが怯むと、大極都神は変形させた全身を使ってフォートレスを弾き飛ばした。気付けば腕が6本にまで増えている。

 膝をつかず2足歩行のまま、後ろへたたらを踏むフォートレス。

 それに阿修羅あしゅらの如き様相となった大極都神が攻め寄る。

 6本の腕には先ほどの電磁チェーンソーのみならず、開いた掌にプラズマを発生させる装置や、極度の冷凍機能を備えた氷結放射砲、熱線を放つ砲などなど……それぞれ異なる攻撃手段が搭載されていた。

「巨大メカ戦の真骨頂……それは多彩なギミックでしょうッ!」

 エメスの号令と共に、6本の腕が同時に繰り出される。

 大極都神が殴りかかるのではなく、それらの腕が蛇のように身をうねらせて伸びてくると、フォートレスに殴りかかってきた。

「へっ、ギミックね……お説、いちいちごもっともじゃ」

 じゃがな、とダインは鼻で笑う。

「チマチマしたん揃えるよか、でけぇの・・・・ひとつんが強えんじゃッ!!」

 フォートレスの胸部装甲が左右に開く。

 胸の奥には渦巻状の機関が隠されており、それは遠目から見ると超巨大な銃口のようにも見えた。渦巻にも似た溝はライフリングを思わせる。

 その巨大な砲口の奥──眼も潰れそうな輝きが溜め込まれていく。

 フォートレスも他のダイダラスや機龍と同じく、龍宝石ドラゴンティアを原動力としているはずだが、フォートレスの胸部に仕込まれたものにツバサは親近感を覚えた。

「あれは……ハトホルおれの力を宿した龍宝石か!?」

 少し前にダインから特大の龍宝石へ力を宿すよう頼まれたのを思い出した。

 ならば、あの胸の奥に漲る力は──。

「「──太陽にぶっ飛ばされて逝けッ!!」」

 ダインとフミカの叫びが唱和する。

 フォートレスの胸部砲塔から、あらゆる輝きに彩られた太陽フレアのエネルギーがほとばしる。それは極大の光球となって発射された。

 ツバサが蕃神へのトドメによく使う、文字通りの必殺技だ。

 新妻であるフミカの助けを借りて、フォートレスという増幅装置を用意しながらではあるが、ダインはツバサの能力を再現してみせた。

 攻勢に出ていた大極都神も、これには抗する術がない。

 フォートレスに向けて伸ばしていた6本の腕を停止させ、それを一点に集中させることで防ごうとするも無駄である。

 すべてを焼き尽くす太陽フレアは、そんなもの一瞬で蒸発させていく。

「これはこれは……少々見誤りましたなッ!」

 劣勢に追い込まれるエメスだが、その横顔は笑っていた。

 我ここに好敵手こうてきしゅまみえたり──そんな笑顔だ。

 エメスは唇を固く結んだまま素早く何十もの印を組み、「喝ッ!」と気合を込めて叫べば、大極都神から追加の腕が何本も生えてきた。

 分厚い籠手こてを身に付けたような、装甲の厚い腕だ。

 迫り来る太陽球にそれらを伸ばして、新たなる防壁とする。

 今度の腕は最大限まで耐熱加工を施した上、防壁が斜めになるよう傾斜に構えていた。要するに即席のカタパルトになっているのだ。

 太陽の光球は大極都神の防壁を溶かしながら、カタパルトを転がり上がる。

 そのまま上空へ打ち上げられてしまった。

「ふぅ……くくッ、ハハハハハハッ! いいですよ、お若いのッ!」

 エメスは武者震いに打ち震えたまま上機嫌だ。

「ロボバトルはこうでなくてはいけません! 次から次へと繰り出される新装備! 新装備を出されたらこちらもすぐさま対抗策を打つ! そうしてメカは……ロボは……どこまでも躍進的やくしんてきな進化を遂げていくのですッ!」

「なぁに1人でえつに入っとんじゃ、このハゲェ!」

 ケンカで頭に血の上ったダインは、言葉遣いも荒っぽくフォートレスを前進させていく。大巨神が駆ければ、それだけで大地震に見舞われる。

 半分溶けた大極都神の即席防壁まで詰め寄ったフォートレスは、先手のお返しとばかりに右腕を振り上げて、おもいっきり殴りかかろうとしていた。

「半壊と言えど、そちらの最大攻撃を防いだ盾ですよ?」

 無謀ですね、とエメスはダインの浅慮せんりょなじる。

 しかし、ダインは思いっきり足を踏み込んで振りかぶった右腕からストレートなパンチを繰り出そうとしていた。

 フォートレスがパンチを放つ直前──右腕が変形する。

 右肘からジェットの噴出口が現れ、握った拳の指が縦に開くとそこからも何らかの射出口が現れる。それらは太陽の光を発していた。

「「──太陽にぶん殴られて逝けッ!!」」

 太陽神ホルスを産んだ神々の乳母ハトホルの力を借りて、フォートレスはエルボー・ロケットによるパンチを放った。拳にも太陽の力を宿してある。

 太陽フレアの推進力と破壊力を乗せた拳は、溶けかけた防壁を木っ端微塵に砕いてから、大極都神の土手っ腹にパンチをめり込ませる。

 しかも、ねじり込むようにコークスクリューブローでだ。

 巨神の鉄拳もドリルの如く目にも止まらぬ速さで回転していた。

 その密着したゼロ距離状態から──ロケットパンチが発射される。

 肘のロケット噴射が威力を増して、肘から先を高速回転させながら、拳には太陽の力を宿したままで、ロケットパンチとなって解き放たれる。

 ただでさえめり込んでいた拳は、その途方もない突破力により大極都神の腹を打ち破り、ついに背中へ飛び出していく。

 大極都神の腹部には、文字通りの風穴かざあなが空いた。

 そして、ロケットパンチはちゃんとフォートレスの腕に戻ってくる。

 キサラギの里にある作戦本部──。

 そこのモニターからフォートレスの勇姿を見守っていたツバサたちとクロウ陣営から歓声が上がった。これは誰が見ても大打撃と言えるだろう。

 だが、彼もまた──エメスも笑っていた。

 自慢の大極都神がかなりの痛手を被ったというのに、嬉しそうに楽しそうに愉快そうに笑っているのだ。その余裕過ぎる笑みには鬼気迫るものがあった。

「いいですねぇ……半死半生な手傷を負わされ、絶体絶命……ここから起死回生の挽回を打つ……それこそが、拙僧の目指した壊れない・・・・機体なのですッ!」

 霊・宿・動──エメスはいつもの呪文を繰り返す。

 これに応じるが如く大極都神は蠢動しゅんどうし、またも変形を繰り返す。

 破壊されたいくつもの腕を引き戻して回収し2本の腕だけになると、腹部に開けられた穴も早送りで建築するみたいに修復させる。

 大極都神は、あっという間に初期状態へリカバリーされてしまった。

「ハハーン……坊さん、自己修復機能に重きをおいちょるな?」

 ダインはエメスの設計コンセプトに勘付いたらしい。

「誰のか知らんが、龍宝石ドラゴンティアに“肉体を作り替えられる”ようなプレイヤーの能力を宿して、そんデカブツん中に仕込んじょるじゃろ? だから変形も自由自在。子機を造りまくるんも、手足を増やすんも、風穴塞ぐんも早いわけじゃ」

 スピーカー越しにダインの推察を聞いたエメスは一言だけ返す。

君もそう・・・・なのではありませんか、お若いの?」

 この世で最も敬うべき御方おかた──その力を借りている。

 エメスの一言でツバサも察した。

 フォートレスがツバサの太陽を司る力を基盤としているように、大極都神はキョウコウの異常とも言える肉体可変能力を参考にして造られたのだ。

「つまり……二度と自己修復できんほど、粉々にり潰すか灰になるまで焼き潰さんと、そんデカブツは止められんいうことじゃな」

 ダイン、ではなくてフォートレスがバキボキと拳を鳴らす。

 戦闘意欲がえるどころか昂ぶらせるダインに、エメスも大極都神の指をかぎ爪のように曲げて怒らせ、応戦する気構えを見せていた。

「その前にあなた自慢のオモチャを拙僧が解体すればいいだけのことですよ、お若いの……しかし、いささか手間と時間が掛かりそうです」

 やむを得ません、とエメスはまた印を組んだ。

 同時にキョウコウの傍らに控えているデブ執事に目配せする。

「ダオン君、“飛空城・・・”を任せても宜しいですね?」

「心得ております、こういう時・・・・・のために操作を習ったのですからね」

 ダオンがたるのような腹に手を当てて一礼するのを確認すると、エメスは横顔だけ振り向いて軽く頷いた。それからテラスのさんに手をかける。

 エメスは桟を飛び越え、大極都神の肩へ飛び移っていった。

 肩にある城砦の扉から大極都神にエメスが入ると、キョウコウ軍の幹部が勢揃いしているテラスに異変が起こる。

 正確には──大極都神の頭部が変形を始めたのだ。

 首を切り離すかのように、キョウコウたちのいる城部分が浮かび上がる。

 それは空を飛ぶ城となって、大極都神から分離していった。

 ダオンの周辺に浮かぶ、何枚ものスクリーン。

 彼はこれで空飛ぶ城を操作しているようだ。

 エメスは“飛空城”と言っていた。これも移動要塞の一種らしい。

 大極都神と比べたらささやかなものだが、それでも100m級の城が空を飛んでいるのだから、移動要塞としての機能は充分にあるだろう。

 スクリーンのタッチパネルで操作しつつ、ダオンは確認する。

「キョウコウ様。この場はエメス様に任せ、我らは兵と共に“還らずの都”へ進軍を再開いたします……宜しいでしょうか?」

「構わん──エメスがそう望んだからな」

 キョウコウの返事を受けたダオンは頷くしかない。

 かしこまりました、と定型文の返事を返したダオンは、飛空城を操作しつつモンスター兵の軍勢に指示を出して、進軍を再開させる。

「ダイちゃん、あの兵隊さんたち足止めしたいんスけど……」
「ああ、そいは目の前の坊さんが許してくれそうにないのぉ……」

 フミカはフォートレスの足下を通り過ぎていくモンスター兵をどうにか止めたいのだが、目の前に立つ大極都神から目を逸らすわけにもいかない。

 飛空城やモンスター兵に気を逸らせば猛攻撃を仕掛けてくる。

 大極都神から、そんな気配が漂っていた。

 飛空城となって頭部を失った大極都神。

 抜けた首から新しい顔が生えてくる。前と少し違うデザインでだ。

 その眉間には第三の目のような形で、大きな宝玉のようなものがはめ込まれているのだが、そこに結跏趺坐けっかふざしたエメスが座っていた。

 本腰を入れて操作するのが、このスタイルなのだろう。

「さあ、お若いの──第二ラウンドと参りましょうか!」

 エメスは俄然がぜんやる気を見せていた。

 巨大ロボに情熱を傾ける身としては、自分と同じ趣向を持ったダインのような敵と戦える機会を、みすみす逃す手はないと思っているのだろう。

 それは同好の士たるダインとて同じこと──。

「モンスターん兵団は、それなりに数を減らせた……あとはこのデカブツを、ここで抑え込むんがわしらの仕事じゃ」

 いいなフミ? とダインは恋女房に同意を求めた。

「もちのろんッス! 妻は夫の三歩後ろからどこまでも付いていくッスよ!」

 フミカは無条件で従う。ダインの意向ならば当然だ。

 よし! と返事をしてダインはエメスに向かい合う。

 フォートレスと一体化したダインと、大極都神と一体化したエメス。

 巨大ロボットに心血を注ぐ2人は、今一度ぶつかり合う。

「行きますよォ! お若いのぉ!!」
 大極都神はまたしても何本の腕を変形させて掴みかかってくる。

「来いやぁ! 生臭坊主がぁッ!!」
 フォートレスは太陽の力を宿した拳を振り翳す。

 かくして巨大魔神の激突は大地をいつ果てることなく揺るがした。



 それこそ──地の底まで踏み抜くような勢いでだ。


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