想世のハトホル~オカン系男子は異世界でオカン系女神になりました~

曽我部浩人

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第8章 想世のタイザンフクン

第178話:大人の“漢”たちの宴席へ

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だ! いいこと思いつきました!」

 ハルカが喜色に彩られた声で両手を合わせた瞬間、ツバサは得も言われぬ寒気を覚えてブルリと震えた。その反動で乳房が大きくバウンドする。

「どったのツバサさん?」

 胸にしがみついていたミロが不思議そうな顔をする。

「いや、急に悪寒が……神族が風邪を引くわけもないし……」

 大体「いいことを思いついた」とか「私にいい考えがある」なんて台詞で、自信満々に明かされた計画はろくなことにならない。

 しかし、「私にいい考えがある」で有名な某総司令官の場合、この台詞から実行に移した作戦はほぼ成功を収めているという。

 最初だけ大失敗したため、そういうイメージが定着してしまったそうな。
(※しかも、その作戦を立案したのは彼ではなく部下)

 ハルカの宣う「いいこと」には、そこはかとない悪い予感を覚えた。

 そんなツバサの危惧を煽るかのように、ハルカは憧れのファッションデザイナーであるホクトと親交を深めるべく、ある提案を持ち掛ける。

「こんな時に不躾ぶしつけな申し出かも知れませんが……せっかく会えたんです! ホクトさん、あなたのデザイン技術を勉強させていただけませんか?」

「あら、勉強熱心なのはいいことですわよ」

 私でよろしければご教授いたしましょう、とホクトも快諾する。

 これにハルカは大喜びで食いついた。

 ……どういうわけだろう? 嫌な予感が加速する。

 危機管理能力が「今すぐ逃げろ」と警鐘けいしょう早鐘はやがねで鳴らしていた。

「ですがデザイン技術の勉強と一口に申しましても、どのような技をご所望しょもうでございますか? 内容によって変わってくると思いますが……」

 毎日荒縄を縛った大木に打ちつけて鍛えたような拳を、ホクトはそっと頬に当てて乙女チックに悩む。その頬まで硬そうだ。

 ハルカは教えてもらう内容を決めていたらしい。

 悩むホクトに話を振りつつ、ツバサに一度だけ振り向いた。

 その瞬間──また怖気おぞけが走る。

 ハルカはすぐにホクトへ向き直って話を続けた。

「私も服飾師ドレスメイカー技能スキルを極めた者のはしくれ、手取り足取り教えてもらうほど未熟者ではないという自負があります。ですから、ホクトさんの作業を間近で見学させてほしいんです。そこからホクトさんの手法を学ばせてください!」

「ふむ……“師の技を見て盗む”というやつですわね」

 どこぞの神拳伝承者みたいだが、ホクトが口にすると違和感がない。

 昔から徒弟とてい制度せいどいるような技術において、師からあれこれ指導されて技法を教わるのではなく、師の動きを盗み見することで、その技を真似ながら覚えていくという回りくどい方法が推奨されている。

 これは意地悪なわけでも教えるのが面倒なわけでもない。

 見て覚えて真似られる=それなりの素質がある。

 その素質があるか否かを推し量るため“試験”であり、そうまでして技術を習得したいという当人の“情熱”を確かめるものなのだ。

 その点、ホクトを師のように崇めるハルカは合格だろう。

「その意気や良し──ですわね」

 ハルカの情熱を受け取り、ホクトは男前な微笑みで迎える。

 屈強メイドは感慨深そうに呟いた。

「あなたのようにやる気のある若人わこうどに、こちらの世界で出会えたのは僥倖ぎょうこうかも知れません……人類のつちかってきたファッションという文化と技術、それを末永く後世に伝えられるのですから……」

「そうです! 私たちが積み上げてきた服飾やデザインを、地球が終わるからって途絶えさせたくないんです! もっとみんなに広めて……いえ!」

 真なる世界ファンタジアにハイセンスなファッションを広めたいんです!!

 デザイナー志望らしい野望を力強く公言するハルカに、ホクトは感動に打ち震えたのか小刻みに巨体を奮わせ、ハルカの手をがっしりと両手で掴んだ。

 小さく「痛ッ!?」とハルカが呻いたのを聞き逃さない。

 握力だけでも1トンくらいありそうだ。

「良き教え子に巡り会えたという天啓を得ました。かつてクロウ様に師事した私が、こうして生徒にしたいと願う若き才能に出会えるとは……」

 これも運命ですわね、とホクトは男泣きに涙ぐむ。

 ビール瓶に穴を開けられそうなくらい頑強な人差し指で目元を拭ったホクトは、メイド服のそでが弾け飛ぶ寸前まで力コブを作った。

「よろしゅうございます! 私の持てるデザイン力を遺憾なく発揮しましょう! ハルカさんはそれを目の当たりにすることで、直感的に学び取ってください!」

「はい! よろしくお願いしますホクトさ……先生!」

 ハルカはホクトの言葉に最敬礼で答える。

 ここに──奇妙な師弟関係が成立した。

 熱血状態から素に戻ったホクトはハルカの手を解放すると、室内をキョロキョロ見回した。

「では、実地で私のデザイン力を披露するとして……やはりモデルを決めて、その方に相応しい衣装を作って見せるのが一番でしょうね」

 どなたにいたしましょう? とホクトは餓えた虎のように眼光を輝かせる。

 モデルという名の獲物を探しているのだ。

「そのことなのですが──私は推薦すいせんします」

 ハルカも習うように野獣の輝きを宿した瞳を瞬かせるが、彼女は最初からターゲットを決めていたらしく、その揺るぎない視線を向けてきた。

 他でもない──ツバサに向けて。

 ようやく悪寒の正体に気付くことができた。

 なるほど……ホクトも目を据えてツバサを見つめる。

 その観察眼は鷹の眼とでも評すればいいのか、逃げ道を断たれた小動物の気持ちになるだけじゃなく、衣服を剥がれて丸裸にされた気分に陥る。

「女神としてゴージャスな肢体を誇りつつ、女体としてあれほどの凄まじい発育を遂げながらもまったく見苦しくなく、むしろ研ぎ澄まされた刀剣のような肉体美を兼ね備えた……モデルという意味では最高の逸材ですわね」

 どこから取り出したのか、ホクトの両手には様々な裁縫さいほう道具が指に挟まれる形で用意されていた。どうして“ジャキン!”なんて物々しい音がするんだ?

 採寸のための準備には見えない。まるで戦闘態勢を整えたかのようだ。

「ええ、おまけにツバサさんは中身が男性のまま……好青年の意識を残していますから、女神として着飾った時の反応は一見の価値ありですよ?」

 ハルカもホクト同様、裁断さいだんバサミなどを“ジャキン!”と構えた。

 やばい──ここにいたらモデルという名のオモチャにされる。

 危機感を抱いたツバサは彼女たちが動く前に反応した。

 武術家としてはツバサが何枚も上手うわて、先んじて手を打てば2人がかりだろうと出し抜くのは容易たやすい。それでも全力で逃げの一手を打った。

大鵬翼たいほうよく──羽嵐うらん!」

 ツバサは両腕を大きな鳥の翼と見間違えるほど高速で振り回すと、何十もの翼で応接室を掻き乱すように羽ばたき、室内にいる者の視覚を攪乱かくらんさせる。

 無数の羽根が飛び散っているように見えるはずだ。

「うわっ……ツバサさん、いきなり超必殺技ッ!?」
「これが、ツバサの姉御の……スゲェ! 超必カッコイイッ!」

 しかし、この大鵬翼の餌食になった者はいない。

 大鵬の翼は室内を覆うだけで、誰かを投げ飛ばしたり殴り飛ばしたり叩き伏せることはなく、バサバサとわざとらしい音を立てて羽ばたくばかりだ。

 数え切れないほど宙に舞う羽根は、この場にいる者たちの視界をさえぎった。

 やがて、大鵬翼たいほうよくは唐突に羽ばたくのを止める。

 何十もの翼が消えると同時に──ツバサの姿も消えていた。

 さっきまでツバサのおっぱいにすがりついていたミロたちは、気付けば空いた椅子にしがみついており、「あれれッ!?」と驚いている。

 何が起きたかを把握したハルカは、悔しそうに親指の爪を噛む。

「ちっ、逃げられたか……」

 必殺技を目眩ましにして逃げるとは予想外だったはずだ。

    ~~~~~~~~~~~~

「ったく、そう何度も着せ替え人形にされて堪るかっての」

 俺はリカちゃんでもバービー人形でもないぞ、とツバサは悪態をついてクロウの本拠地である洋館の廊下を忍び足で歩いていた。

 もう応接室には戻れそうにない。

 ミロやトモエ、ウノンにサノン、それにククリ……小さな子供たちを愛でたいという神々の乳母ハトホルの欲求はあるが、それよりもハルカとホクトの餌食になりたくないという男心がこの場では優先された。

 三十六計逃げるに如かずというやつだ。

 成り行きに任せていれば、とんでもない目に遭わせられるに違いない。

 普通に女物の衣類をデザインされて着せられるだけでも御免なのに、きっとまたブラジャーからショーツ、ガーターベルトやストッキングまで一からツバサ専用にデザインされて、あの場で着せられるに違いない。

 経験済み・・・・だからこの先の流れを読めてしまった。

「いつぞやハルカに付き合って、ミサキ君と一緒に一晩中着せ替えられたが……俺もミサキ君も終いにはマジ泣きしたからな」

 女装でノリノリになれるほど、ツバサやミサキは女性になりきれていない。

 アハウの女房となったマヤムなら別だろうが……。

「とにもかくにも、応接室には戻れそうにないし、かといって洋館内をウロウロしていればホクトさんが追いついてきて、連れ戻されそうだし……」

 どうしたものかと思った時──笑い声が聞こえた。

 声のする方を辿り、階段を上がって二階へ向かう。

 笑い声の出所は洋館の二階にある大きなテラスだ。ツバサは忍び足のまま近付いていくと、テラスの様子を覗いてみた。

 そこでは──クロウとドンカイが酒を酌み交わしていた。

 テラスには何畳ものたたみが敷き詰められており、ドンカイとクロウは大きな座布団に座って差し向かい、大きな杯で酒を煽っている。

 野外のためか大きな番傘まで用意されており、クロウに至ってはいつの間に着替えたのか、紳士然としたスーツではなく着物姿になっていた。

 古式ゆかしいというか、懐かしき日本の風景というか……洋館の中で、ここだけが和の様式に設えられていた。

 大人の“漢”おとこの語らい──かつてツバサも憧れたものだ。

 映画やドラマやアニメで目にする度、「いつか自分も誰かとああして酒を酌み交わしたいな。師匠や父さん、友人と……」と夢想したものだ。

 そう──“漢”おとこ同士、水入らずで。

 だが、ツバサは自分の身体を見下ろしてしまう。

 足下も窺えないほど豊満に張り出した乳房、鍛えても折れそうなくらい細くしなやかな柳腰やなぎごし、超安産型と笑われる臀部でんぶは重々しい。

 万人が女神的肢体と認める豊麗な女性の肉体だ。

 ツバサ自身が「俺は男だ!」と力説しても虚しいばかりである。

 今の自分はもう、かつての羽鳥はとりつばさという青年を思い出せなくなりそうなほど女性化しており、母性本能に突き動かされる母親になりかけているのだ。

 男同士の語らいに加わるのは、なんとなく気後れしてしまう。

 クロウもドンカイも、そんなこと気にするような大人ではないとわかっているのだが、ツバサが勝手に気が引けているだけなのだ。男同士の水入らずの語らいに、ここまで女に変わり果てた自分が加わっていいものかと──。

些末さまつなことにこだわるんじゃねえよ』

 ふと、師匠の声が耳朶じだを打った気がした。

『男とか女とか、ガキとかジジイとか、住んでる世界が違うとか……どうでもいいじゃねえか。呑んで食って、話したいこと話せばいいんだよ』

 いつか、そんなことを言われたような覚えがあるのだが……。

「ん? おお、そこにいるのはツバサ君じゃろう?」

 気配でバレたのか、ドンカイに呼び掛けられた。

 次いでクロウの声も飛んでくる。

「おや、どうしました? そんなところにいないで、こちらに来てはどうですか? 一緒に呑み……ドンカイさん、彼女……いえ、彼は成人ですよね?」

二十歳はたちというとったから余裕でセーフじゃろ」

 酔って上機嫌な2人はツバサを宴席に招いてくれた。

 お許しが出ると参加しやすくて助かる。ツバサは照れながらも覗いていたテラスへの扉を開けると、控えめな態度で出て行った。

「いやぁ、子供たちの馬鹿騒ぎについていけなくなって……大人の男同士の語らいに水を差すのも悪いとは思ったんですが……」

「気にすることはありません、君だって一端いっぱしの大人ではないですか」
「そうじゃそうじゃ、下手すりゃワシよりしっかりしとる」

 さあさあ、とクロウもドンカイも手招いてくれた。

「ふぅむ、ツバサ君には悪いが、やっぱり飲みの席に見目麗しい子・・・・・・がいてくれると、それだけで場が華やぐからのぉ……あ、気を悪くせんでくれよ?」

「わかってますよ、俺の見た目はこう・・ですからね」

 ツバサは揺れる乳房を押さえるように胸元へ手を添える。

 それから皮肉っぽい微笑みで答えた。

「外見はいい女・・・かも知れませんが、中身は悪ガキのまんまですよ。それでもよろしければ、おしょくもしますし一献いっこんのお相手も務めましょう」

「ほう、ツバサ君もイケる口ですか?」
「呑むだけならばそこそこですね」

 対面する形で座敷に座るクロウとドンカイ。

 その間に入るように、ツバサは正座で座敷に座ろうとすると、クロウがすかさず座布団を用意してくれた。気が利く大人である。

 大人たちの気遣いに、ツバサも洒落っ気で答えることにした。

 道具箱インベントリに仕舞っておいた衣装を早着替えで身につける。
 
 それは遊郭ゆうかく花魁おいらんが着るような艶やかな着物で、わざと肩をはだけて胸の上半分が見えるような着こなしてみた。ちょっとしたサービスだ。

 おおっ! と野郎共から歓声が上がれば、苦笑するしかない。

 女性扱いや母親呼ばわりは、未だに好きじゃない。

 でも、こういう場で空気を読んで遊びに付き合うぐらいの余裕はあった。大学生の頃、よく飲み会で女装させられたのを思い出す。

「なんじゃ、女役は嫌じゃなかったんかい」

 ドンカイに冷やかされたが、ツバサは強気に微笑み返した。

「これぐらいの余興はできますよ。俺もいい大人ですからね」

 さて、とツバサは座敷の 酒瓶さかびんを手に取った。ドンカイとクロウが手にする、お面の代わりができそうな大杯に女らしい仕種しぐさしゃくをしてやる。

 気付けば自分の杯も用意されていた。

 それにも並々と酒を注ぐと、3人で乾杯を交わして一気に煽る。

 そのまま──大人だけの酒宴に突入していった。

   ~~~~~~~~~~~~

 よいせきならば、多少の無礼講ぶれいこうも許されるだろう。

 ツバサは女体化した自分の苦労を、クロウは骨しかないスケルトンと化した苦労について、それぞれの身の上話をさかなさかずきを重ねていった。

「じゃあ──骨しかない身体でも味や食感はわかるんですか?」

 クロウの現状を知り、ツバサは少し驚かされた。

「最初はわかりませんでしたけどね。上位アンデッドにLVアップしながら、様々な技能スキルで補うことで、飲んだり食べたりできるようになりましたし、味覚や食感も人間の時となんら遜色そんしょくないところにまで戻せましたよ」

 クロウは着物の腹を叩くが、カシャカシャと骨が鳴るのみ。

「まあ御覧の通り、五臓六腑ごぞうろっぷがありませんので腹には何も溜まりませんが、味がわかるのがせめてもの救いですね。今では酒も食事も嗜好品しこうひんですよ」

 ちゃんと酔えますしね、とクロウは酒杯を美味そうに煽る。

 飲み食いしたものは何処に消えているのだろう?

 それはわからない、とクロウに笑われた。

「私は元々、こういった骨だけのキャラが好きでしてね」

 確かに、クロウのキャラ造形はそういった骨だけのキャラクターを連想させる。そういう骨キャラは得てして強く、主役のこともあった。

「他のVRゲームでもよくスケルトンやリッチとか、アンデッド系のキャラで遊んでいましたから……アルマゲドンを始めた時は、自分と似たキャラが自動で作られると聞いていたのに、いきなり骨でしたからね。面食らいましたが……」

 すぐ馴れましたよ、と顎の骨をカラカラ鳴らしてクロウは笑う。

 アハウも内在異性具現化者アニマ・アニムスだったため、始めた時から獣みたいな姿だったというが、「獣人キャラはよく使っていた」とすぐ馴れたらしい。

 そういう意味では、クロウとアハウは似た者同士だ。

「そういえば……ミサキ君も女性キャラばかり使っているせいか、最初から女体のアバターでも抵抗なかったと言っていたし……俺だけかなぁ」

 抵抗があったのは、とツバサは重すぎる乳房を持ち上げてみた。

 ユサァ……と重々しく揺れる乳肉は鬱陶うっとうしい。

「ですがツバサ君、君はその……アバターで通してきたんですよね?」

 クロウの質問にツバサは嘆息たんそく混じりに返した。

「ええ、ミロやマリナ……俺の娘だって自称している女の子たちに“お母さんでいて!”って泣いて頼まれましてね……しょうがなくですよ」

「そうでしたか……大変ですね、君も」

 青年男子と母性本能の狭間に──迷い込んでいるようだ。

 ツバサが陥っている二律背反にりつはいはんな気持ちを、クロウは的確に言い表した。

 釣られるように、ツバサは抱えていた悩みを吐露とろする。

「そう、ですね……正直、今の俺はどっちつかずというか、その時のバイオリズムみたいなものに、右へ左へと引っ張られている気がします」

 男らしくありたい、もしくは男に戻りたいと願う一方で、彼女たちの本当の母親になりたいという母性本能に突き動かされる。

「女神だ地母神だと褒めそやされて、忌々しいと思う時もあれば、心のどこかで喜んでいる自分もいる……本当の俺はどこにいるのか……」

 わからなくなる時がある──それがツバサの本音だった。

 ツバサの弱音にクロウは黙って耳を傾けていた。

 聞き上手なクロウはツバサの話が途切れると大杯の酒を煽り、静かに吐息を漏らしてから、相談に乗るように答えてくれた。

「私もそうですが……現実世界と差がありすぎるアバターのまま、こちらの世界に転生した者は少なくないでしょう。戸惑いはありますし、元に戻りたいと思う時も一度や二度ではないはずです……ですが、後戻りはできないのです」

 今の自分を──受け入れるしかない。

「あるがままに……受け入れるしかありません」

 嫌い、憎み、拒みたくとも──これ・・が自分だと認めるしかない。

「認めることはできるはずです……今の自分をね」

 クロウはあばら骨しかない自分の胸を、骨だけの指でなぞっていた。

「認める……ですか……」

 アハウにも同じようなことを言われた覚えがある。

 ツバサはクロウを習い、女らしくたおやかになった指で自分の胸をなぞってみるが、敏感になった肌をなぞるとゾクゾクした感触しか伝わってこない。

 これは紛れもなく女性ならではの性感だろう。

 認めるのは、まだ難しそうだ。

「しかし、娘たちですか……ツバサ君のところにもミロ君やトモエ君だけではなく、他にも未成年の女の子が多いようですね?」

 未成年、という言葉の語気にクロウは独特のいんを踏んでいた。

 その点に関して物申したいことがあるらしい。

「未成年と言いますか、ウノンちゃんやサノンちゃんみたいな中学生にもなってない子がいますよ。ミサキ君のところや、アハウさんのところにも……」

 そこです、とクロウは骨張った指を差してきた。

「そこって……どこですか?」
「ううむ、どこじゃろうな?」

 ツバサとドンカイは揃って後ろに振り返る。

 酔いが回ってきたのか、2人してくだらないボケをかましてしまった。

「いえ、無理にボケなくてもよろしいですから……そこですよそこ、年端としはもいかない女の子が多すぎるのです、アルマゲドンには」

 これは由々しき問題でした、とクロウは過去形ながらも力説する。

 ツバサにも思い当たる節があった。

 俗に“幼年組”と呼ばれるような、12歳以下の年齢詐称プレイヤーが多いとは聞いていたが、会うのは女の子ばかり。

 普通、この手のVRMMORPGならば男の子が多いはずだ。

 すると、ドンカイも太い顎に太い指を当てて思案顔だった。

「ふぅむ、それはワシも心当たりがあるのぉ……新時代のeプレイヤーを育成するべく、アルマゲドンで若手プレイヤーを訪ね歩いてみたが、アルマゲドンは他のゲームに比べて女性の比率が多かったように感じたからのぉ」

「そうなんです。女の子が多すぎるのも問題ですが、まだまだ精神的に未熟な子たちが……幼い子が多すぎるんですよ」

 私はそれを何とかしたかった……クロウは悔しげに呟いた。

「クロウさん……なにか知っているんですか?」

 その辺りの事情を訊くと、クロウは申し訳なさそうに断ってきた。



「ロートルな元教師の愚痴ぐちになりますが……聞いてくれますか?」


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