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第8章 想世のタイザンフクン

第177話:カンナの心労とホクトの奉公

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 そのスマホに齧り付いている人がいた。

「どーいうことなの、しし君・・・ッ!?」

 女騎士カンナはテーブルの端に移動しており、ツバサが貸したスマホをテレビ電話にしてレオナルドと話していた。

 会話する声がみんなの邪魔になると判断したようだが……罵詈雑言に近い大声を上げているので、邪魔になっているし丸聞こえだ。

「なんで、どーして……クロコやアキが一緒にいるの!?」

 スマホの画面に映るのは、眉を八の字にして困り果てているレオナルドと、その顔を埋めるように山盛りおっぱいを当てている変態メイドと半裸ニート。

 御存知──クロコとアキの爆乳特戦隊である。

 カンナもこれに加わるのだが、本人はかたくなに認めていない。

 美女をはべらせているようにしか見えないのでけしからん限りなのだが、クロコとアキの正体を知っていると、レオナルドが哀れに思えてくる。

『だから……さっきから言ってるじゃないか』

 レオナルドは嘆息し、おっぱいでズラされた眼鏡の位置を正す。

『クロコはアルマゲドン時代からGMとしてツバサ君のサポートをしていた。アキは故あってミサキ君の世話になっていた。彼らが率いる陣営と合流した結果、俺もこいつらと合流した……ただそれだけだよ』

「だったら、そのおっぱいサンドは何!?」

 カンナの指摘はもっともだ。

 ただそれだけ・・・・・・、なんて説得力の欠片もない。

 レオナルドはますます眉尻を下げて言い訳に困っているが、押しつけられる乳房の感触はおっぱい星人として抗えないのか頬がゆるんでいる。

『いや、カンナから連絡が入ったと聞いたら、どこで聞きつけたのか俺のところにやってきて……こら! クロコ、アキ、いいかげんにしないか! 今、カンナからクロウさんの陣営についての情報を聞いて……むおっ!?』

 とうとう、2人の乳房の谷間にレオナルドの顔が飲み込まれた。

 男としては羨ましいが、あの2人にはやられたくない。

 乳で口を封じられたレオナルドに代わり、スマホ画面いっぱいにクロコとアキの顔が映される。クロコはいつもの無表情だが、アキは勝ち誇った笑顔だ。

『ご安心くださいカンナ様。レオ様は私とアキさんで毎日滞りなくお世話をさせていただいております。それはもう、日常生活から夜伽よとぎまできっちり……』

『ダイジョーブッスよ、カンナ先輩~♪ レオ先輩を中心にアタシら爆乳特戦隊でハーレム作るって約束はまだ活きてるッスからね~♪』

 クロコとアキの物言いに、カンナは歯噛みする。

 目の前にいたら、例の機銃付きの突撃槍ランスで暴れかねない勢いだ。

「ハーレムって……わたしはヤダって言っただろッ! いいから、わたしのしし君から離れろ! しし君にエッチなコトするなあ~~~ッ!!」

 カンナはスマホをブンブン振り回して泣き叫んでいる。

 感情が揺さぶられて巣が出てきたのか、子供っぽい喋り方にもなっていた。

 それと彼女の拙者せっしゃ口調──演技だったらしい。

 本来は自分のことを“わたし”と言い、幼馴染みであるレオナルドを“しし君”と呼んでいるようだ。2人の付き合いの長さがよくわかる。

 レオナルドの現実世界リアルでの本名は賢持けんもち獅子雄ししお

 下の名前である獅子雄を略して“しし君”なのだろう。わかりやすい。

 涙を流すカンナは、画面越しのレオナルドに恨み節を垂れる。

「もう、本当にしし君は昔っからそう……見た目は美人なのに中身は変な女の子にばっかり好かれて、わたしのことなんか知らんぷり……おまけに、親友だって自慢してたツバサさんも会ってみれば、しし君好みの黒髪ロングの爆乳美人になっているし、愛弟子って聞いていたミサキ君もおっぱい美少女になっているというし……なに? しし君はそういう星の下に生まれたの? 大きなおっぱいに囲まれてウハウハハーレムな人生を送る運命なの?」

 白いハンカチで涙を拭うカンナは人妻のようだった。女癖の悪い旦那に手を焼かされる奥さんの哀愁が漂っている。

 髪型は子供っぽい大振りなツインテールなのだが……。

『そのハーレム、誰にも手を出せなくて俺には丸損まるぞんなんだが……』

 レオナルドは心底残念そうに呻いた。

「なんだ、俺とミサキ君が女体化したのもレオのせいなのか?」

 聞き耳を立てていたツバサはスマホの画面を覗き込み、レオナルドをからかうつもりで話に加わってみた。これにレオナルドはますます困惑する。

『ミサキ君とツバサ君が女神化したのは、まったくの別問題だろ。その方式で俺のせいにされてたら、ポストが赤いのも電柱が高いのも、全部俺のせいになってしまうじゃないか……勘弁してくれ』

 クロコとアキのおっぱいに挟まれたまま、レオナルドは項垂うなだれた。

『とにかく……キョウコウさんの陣営との全面戦争になりそうな件と、クロウさんたちの陣営とは同盟を結べる件については了解した。こちらから援軍を出すことについては、数日中に連絡しよう』

 窓口はツバサ君で、とレオナルドはやんわりカンナを拒否した。

 情報を聞き出そうにもカンナは恨み辛みや「会いたい」ということしか言わないので、話にならないのだろう。今にも通話を切りたそうだ。

『そんなわけで健闘を祈る──それじゃ』

「あ、切るな! しし君! ししくぅーんッ!? この……ハーレム主人公ッ!! クロコやアキとエッチなことするつもりかこらーッ!?」

 悪口と邪推じゃすいを叩きつけるも、スマホから応答はない。

 もう一度電話を掛けてみても、着信拒否にされていた。あいつ、しばらく出ないつもりだ。頃合いを見計らい、明日にでもかけてくるつもりだろう。

 散々なくらい悪戦苦闘した挙げ句、どうやってもレオナルドに電話が繋がらないとわかったカンナは、ようやくあきらめてスマホを返してきた。

「……ツバサ殿、ありがとうございます」

 お見苦しいところをお見せしました、とカンナは頭を下げる。

「いや、お気になさらずに……なんかもう、よくわかりました」

 わかったのはカンナのポンコツっぷりだ。仕事を任せればちゃんとやるとはいえ、この性格では調教役が必要だろう。レオナルドの苦労も窺い知れる。

 ……これでよく上位のGMになれたものだと、変な心配をしてしまう。

 レオナルドが手伝ったのかなぁ、やっぱり。

 カンナからスマホを手渡される。

 そのスマホをククリが興味津々に見つめていた。

 先ほどからツバサの横につかず離れず、まるで母親の周囲をウロチョロする子供のようにくっついているのだ。どうやら懐かれてしまったらしい。

 ククリは恐る恐るスマホを指差して尋ねてくる。

「その……“すまほ”という小さな板があれば、今のように遠くの人と、いつでもどこでもお話しできるのですか?」

「うん、そうだよ。制限はあるけどね」

 ダインとジンの造った人工衛星の圏外に出れば電波は届かないので通話もメールもできないし、内蔵された小型龍宝石ドラゴンティアのバッテリーが切れても同じである。

 龍宝石バッテリーは神族や魔族が持っていれば、自然と身体から漏れる魔力を勝手に蓄電ちくでんしてくれるので、バッテリー切れはまずない。

 余力があれば、自分の魔力で急速充電すればいいだけのこと。

 今の通話で兆しの谷付近までなら電波が届くことも実証された。

 東の果てにあるイシュタルランドと繋がるならば、ほぼ真反対にある西の果てのハトホルの谷も余裕で届くだろう。

 これを聞いたククリの顔は期待に華やいだ。

「じゃ、じゃあ! その“すまほ”があれば母様……いえ、ツバサ様といつでもどこでもお喋りできるんですね! もちろん、父さ……ミロ様とも!」

 瞳をキラキラさせて、ククリは言い間違えた。

 どうあってもツバサとミロを両親に見立てたいらしい。

 彼女の心情は酌んでやりたいが、やはり母親扱いされるのはツバサとしては御免被りたい。ましてや、彼女の両親は神族や魔族。還らずの都に自らを封じ込めたというなら、まだ生きている可能性だってあるはずだ。

 ツバサやミロを両親代わりにする必要はない。

 ……しかし、ツバサを母親と重ねて憧憬どうけいの眼差しを送ってくる姿は、あまりにも幼くて、神々の乳母ハトホルとしての母性本能が騒ぎ出す。

 無下に扱うこともできず、ツバサは娘を想うつもりで接していた。

「そうだよ。このスマホがあれば、いつでもどこでもみんなと話すことができるんだ。伝達系の魔法や技能スキルよりも繋がりやすいんじゃないかな」

 ダインとジン──天才工作者クラフターたちの変態技術の賜物たまものである。

 今後も更なる機能的な進化を期待しているところだ。

「ククリちゃんの分も作ってもらうように彼らへ頼んでおこう。クロウさんにも了解は取ってあげるから、ウノンちゃんやサノンちゃん、ヨイチ君の分もね」

「ホント! ツバサお姉さん太っ腹ーっ! ウェスト細いのに!」
「その分……バストやヒップが特盛りです……」

 これを聞いた幼女メイド姉妹はミロの両脇で大喜びだ。

「「ありがとう、ツバサお姉さん!」」

 姉妹は声を揃えて感謝を述べてきた──とても愛らしい。

「本当ですか!? や、やった……カズトラ君、これでいつでも決闘デュエルできるね! ありがとうございます、ツバサさん!」

「よっしゃ、フミカの姉御に頼んで決闘用アプリ作ってもらおうぜ!」

 決闘に夢中だったヨイチも喜んでいる。

 その上、カズトラといつでも決闘で遊べるアプリを作ってもらおうという算段のようだ。フミカやアキに頼めば、いずれ作ってくれるだろう。

 なにもスマホは子供たちの分だけではない。

 ホクトやカンナ、それにリーダーであるクロウの分もだ。

 情報伝達の速さはあらゆる局面で優位に立てる。

 キョウコウ一派との全面戦争を控えた今、同盟を結んで共闘することになるであろうクロウ陣営の面々にも、連絡手段としてスマホを渡しておいた方がいい。

 ククリはそんなこと眼中にないが……。

 案の定、ククリは瞳を潤ませて抱きついてきた。

「あ……ありがとうございますッ! ツバサお母様!!」
「とうとう混ざって進化したか……」

 “ツバサさん”と“母様”が混ざり、変な呼び方をされてしまった。

 恐らく、これは矯正きょうせいしても治るまい。

 ククリの両親に対する思慕の念は強いのだ。

 よく似ているというツバサやミロを両親として慕うほどに──。

 本当の両親と会えるまで、このままでもいいか……ツバサは諦観ていかんを決め込むことにした。どうせ母親呼ばわりはマリナやジャジャにもされている。

 ククリはツバサの胸に顔を埋めて、感動に涙していた。

「これでツバサお母様やミロお父様と、いつでもどこでも好きな時にお話しできるなんて……嬉しいです! 後は毎日会えるようになれば……」

「あー……それも近い内に叶いそうだな」
「それも叶うんですか!?」

 キョウコウとの件が落ち着き、クロウ陣営との同盟がしっかりまとまれば、例のどこでもドアもどきな転移装置をこの地に建てることになる。

 あれがあれば、ドアを開けるだけでハトホルの谷で暮らすツバサやミロに会いに来られる。そのことを知ったククリは大はしゃぎだった。

「じゃ、じゃあ、毎日ツバサお母様やミロお父様のところへ行くこともできるというわけですね……ああっ! 夢みたいです最高ですどうしましょう!」

 ククリは奇声を上げそうになるほど喜んでいた。

 ジョカもそうだったが、本来ツバサより遙かに年上のはずの起源龍オリジンや灰色の御子まで、ツバサを母親と慕ってくるのだからおかしい。

 そういえば女神になった時、習得させられた技能スキルの中に、母親の愛に餓える子供を魅了するものがあったような……あれのせいか?

 ツバサは膝の上で懐いてくるククリを、慰めるように撫でてやった。

「んな! じゃあククリちゃん、スマホの使い方練習する!」

 ミロと一緒にウノンやサノンにスマホを貸してあげていたトモエが、自分のスマホを手にツバサの膝の上にいるククリのところへやって来た。

 そして、ククリに自分のスマホを貸してやる。

「あ、ありがとうございます、トモエ様……」

 ククリはおずおずとトモエからスマホを借り受ける。

 それをウノンやサノン、それにさっきまでスマホと格闘していたカンナの所作しょさを真似るように、画面に指先を怖々とタッチさせる。

「ここの、マークを触ればいいんですか……?」
「んな、そうそう。指のお腹で優しくタッチする。加減を覚えればすぐ」

 トモエは片言ながら、丁寧にスマホの使い方を指導していく。

 なかなかの教え上手だ。ミロよりマシである。

「言うてもアタシ、スマホいじるようになったの真なる世界こっち来てからだしね」
現実リアルだと引き籠もりニートで必要なかったからな」

 中学生の頃はミロも一端いっぱしに持っていたのだが、引き籠もると同時に解約して使わなくなったのだ。大学などで表に出ていたツバサとの連絡は、主にPCを介して行われていた。幸いなことに、その手のアプリには事欠かない。

 ちなみに──ソシャゲ系はタブレットでやっていたらしい。

「引き籠もりの頃は徹底してたよな、おまえ……」

 ウノンとサノンを連れてツバサの近くに戻ってきたミロは、ククリと一緒になってツバサの胸に甘えていた。鼻を鳴らしながら答えてくる。

「ふふ~ん♪ 何をヤル・・にもミロさんは全力全開なのだ~♪」
「そろそろ加減を覚えろよ、アホガール」



「あああああああああああああああああッ! や、やっぱりーーーッ!」



 ツバサがミロを毒突いた直後──唐突にハルカが大声を上げた。

 彼女もテーブルの隅に移り、屈強メイドことホクトと何やら話し込んでいた様子だったが、ハルカは両手で口を押さえて驚愕している。

「やっぱりッッッ! ホクトさんって……あの・・ホクトさんですよね!?」
「ええ、当人でございます。隠すことでもありませんが……」

 どうやら、ハルカは現実でのホクトを知っているらしい。

 ハルカの口振りからすると、なかなかの有名人みたいだが……?

「ハルカ、ホクトさんと知り合いだったのか?」

 興味本位で訊いてみると、ハルカは驚いた顔のままこちらに振り向く。

 それは有名人に会えて興奮する学生そのものだった。

「知り合いも何も……ホクトさんって、あの“エレガンス北斗”さんだったんですよ!? ツバサさんも聞いたことあるでしょ、“エレガンス北斗”の名を!」

「エレガンス……ホクト……? えーっと……?」

 聞いたことあるような気がするのだが、ツバサはすぐに思い出せない。

 ところが珍しくウチのアホ娘が覚えていた。

「あ、アタシ知ってる。ちまたで噂のファッションデザイナーでしょ?」

 その通りです! とハルカは歓喜に打ち震えていた。

 エレガンス北斗──本名、北斗ほくと常子つねこ

 学生時代から一目置かれ、卒業と同時に服飾デザイン会社に鳴り物入りで就職。

 そこから辣腕らつわんを奮い、ファッション業界に旋風を巻き起こした。

『生きとし生けるものは──お洒落をする権利がある』

 これを訓辞くんじとして、モデルだけではなく老若男女あらゆる世代に似合う衣装のデザインを手掛け、どんな人でも着こなせるウェアを開発する。

「それがエレガンス北斗……いえ、こちらにいるホクトさんなんです!」

 まるで自分のことのようにハルカは自慢する。

「……面と向かって賞賛されますと、面映おもはゆいものですね」

 いつでもいわおのように雄々しい表情を崩さないホクトも、この時ばかりは少しだけ頬を染めて、引き締まった口元を緩めていた。

 ハルカのホクトを見つめる尊敬の眼差しは、何かあると勘繰っていたのだが……こういうことだったらしい。『ホクト=エレガンス北斗』という確証が持てるまで、ツバサたちにも打ち明けなかったのだろう。

 いつしかククリ、ミロ、ウノン、サノンまでツバサにしがみついて「おっぱいすげえ」とか「お尻もスゴイです……」と甘えてくる子供たち。

 それを適当にあしらいながら、ツバサはホクトに尋ねてみた。

「やっぱり、服飾関係の人でアルマゲドンをやっている方は多いんですか?」

 以前、そんな話を聞いたことがある。

 他ならぬハルカからもたらされた情報なのだが──。

「私もその1人でございますが、意外と多いようですわね。なにせアルマゲドンはLVを上げて生産系を極めさえすれば、作れないものはないという触れ込みでございましたから……特にファッション関係は凝ってましたし」

 ハルカもそうだが──ファッションにこだわるプレイヤーは多い。

 アルマゲドンは生産系に独特のこだわりがあり、武器や防具、衣類などのデザインは微に入り細に入り、プレイヤーの思うがままに作れた。

 ……今にしてみれば、真なる世界ファンタジアに転移させられて、本当に一からそういったアイテムを作らされていたのだから、それは細かい設定もできるだろう。

「そのためでしょうか。デザインの勉強を兼ねて、という名目でアルマゲドンをプレイしている私のようなデザイナーもかなりいたそうです」

「私も! 私もその口です!」

 ホクトさんと同じです! とハルカは猛アピールする。

「あの、私、ずっとホクトさんに憧れてて……それで、高校卒業したらデザイン系の学科に入って、ホクトさんの会社を目指そうと……あのつまり、ですね、ずっと前からファンでした! サインくださいお願いします!」

 ハルカは道具箱インベントリからいつの間に用意したのか色紙とサインペンを取り出し、ホクトにサインを強請ねだった。なかなか準備がいい。

 本当に尊敬する存在であり──憧れの人だったらしい。

「あら、なんだか照れてしまいますわね。私にファンがいるだなんて……」

 そう言いながらもホクトは色紙を受け取る。

 そして、手慣れた様子でサラサラとサインを書いてあげていた。

 ここでツバサはひとつの疑問を投げ掛ける。

「ホクトさんが新進気鋭のファッションデザイナーで、アルマゲドンは服飾関係の人が多いのはわかりましたが……そのあなたが、メイドを演じているのは?」

 何故だろう──疑問を抱かずにはいられない。

 ホクトは書き終えたサインをハルカに返して、ちょっとだけ微笑むように口の端を上げた。ハルカは貰ったサインを宝物のように抱き締めている。

「端的に申せば……恩返し、ですわね」
「恩返し? それはやっぱり……クロウさんに?」

 ええ、とホクトは雄々しい顔で乙女チックに微笑んだ。

大山たいざん先生せんせいは……いえ、クロウ様は私の高校時代の恩師なのです。私がファッションデザイナーの道を諦めずに済んだのは、クロウ様のおかげでした……」

 ホクトの過ごした高校は厳しい進学校だったらしい。

 有名大学に進学しなければ不良扱いされ、進学に関係ない学科を目指せばクズと見なされる。美術やデザイン、そういった道を選べば職員室から無視された。

 当然、有名大学以外の道を選べば酷い目に遭わされる。

 最悪の場合、進学に際して学校証明書を出してくれなかったという。

「でも……クロウ様は別でした」

 普通に進学するのではなく、ホクトのように様々な学科を選択した生徒のために、校長と大喧嘩をしてまで学校証明書を手に入れてくれたそうだ。

 それが許される信頼と実績がクロウにはあったという。

「以来、私たちのような卒業生は、クロウ様を“神のような恩師”と崇めております……そのクロウ様とアルマゲドンで再会できるとは思いも寄りませんでした」

 クロウは英国紳士ならぬ骸骨紳士となってプレイを楽しんでいた。

 ホクトは恩師のプレイスタイルに合わせる形で、自らの恩を返すために彼の従者として、メイドキャラを演じるようになったそうだ。

 これにウノンとサノンが加わり、「「わたしらもメイドやるー♪」」ということでメイド服を用意してやり、最期に加わったヨイチも「それっぽいので」というから執事服をあつらえてやったそうだ。

「そうしてできたのが──この瀟洒しょうしゃなパーティーってわけだね」

 ミロは幼女メイドや少年執事を横目に見遣みやる。

「そうなりますわね。成り行きとは、こういうものでございましょう」
「道理で統一性があるわけだ」

 これでカンナもメイド服を着ていたり、燕尾服を着て女執事でもやっていれば更に完璧だったろうが、彼女は女騎士というスタンスを貫いたらしい。

 ……クロコのせいでメイド服には抵抗があるようだ。



 クロウ陣営の成り立ち──カンナやホクトの人物像。

 夜更けまで語らいながら、彼女たちのことを少しずつ知ることができた。


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