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第7章 還らずの都と灰色の乙女
第174話:真なる世界に残った理由
しおりを挟む「大変お見苦しいところをお見せました……グスッ」
ようやく泣き止んだククリは、眼を赤く腫らしたまま鼻を啜った。時折、潤んだ瞳で慕うような視線をこちらに送ってくる。
気まずいが、ツバサは尋ねずにはいられなかった。
「えーっと……そんなに似ているのか? 俺とククリさん、君の……」
「はい、母様そっくりの生き写しです!」
ツバサが言い淀んでいたら、すごい勢いでククリが食いついてきた。
よもや、この娘もマザコンではなかろうな……?
親を恋い慕う視線はツバサのみならず、ミロにも向けられている。彼女の弁が正しければ、ミロはククリの父親に似ているそうだ。
すかさずミロが割って入ってきた。
「ねえねえ、じゃさ! アタシはククリちゃんの……」
「そうです、父様に瓜二つなんです!」
こちらもミロが言い切る前に答えてきた。
もう少し大きかったですけど……ククリは残念そうに付け加えるが、彼女の父親はミロのような美少年っぽい顔をしていたらしい。
これを聞いたミロは得意気に微笑んだ。
テーブルに両手で頬杖をつき、鬱陶しくツバサに迫ってくる。
「へぇ~そっか~、ククリちゃんのお母さんはツバサさんそっくりで、お父さんはアタシに激似なんだ~。ツバサさんがお母さんで~、アタシが……ぷぎゅる!」
「やかましい、念入りに繰り返さなくていいわ」
ツバサにすり寄りながらネチネチと言い募るミロ。手の届く距離まで顔を近付けたところで、両頬を潰すように人差し指と親指でつまんでやった。
タコチューみたいな顔のまま唇をモゾモゾさせているの見ると、まだ口の中で繰り返し唱えているらしい。
『ツバサさんがお母さんで~、アタシがお父さんなんだ~』と──。
……そんなこと、疾うの昔にわかっている。
ツバサとミロの過大能力によって復活したジャジャ・マルは、外見だけなら2人の遺伝子のいいとこ取りな幼女として転生した。
しかも遺伝子を解析したら、ツバサが母親でミロが父親だという。
もう自分は母親なんだ──あの時、思い知らされた。
なのに、現実だった頃の「俺は男だ」という気持ちが忘れられない。
女顔がコンプレックスだったせいか、男心が拭いきれないのだ。
神々の乳母として肉体を色々な意味で開発され、精神的にも母性本能に蝕まれているのに、面と向かって“母親”と言われると拒否反応を示してしまう。
時折、ツバサは自分がわからなくなる時がある。
このまま、魂の奥底まで──神々の乳母になるべきなのか?
それとも、なけなしの男心に従って──羽鳥翼に戻りたいのか?
いつまでも決断が下せない。
ツバサはどっちつかずの中途半端だった。
そうした優柔不断の表れが、『誰がお母さんだ』という決め台詞に現れている気がしてならない。いつかどこかで矯正せねばと常々思っている。
あんまり治す気もないのだが……。
いかんいかん、雑念が多い。
ツバサはミロの両頬を摘まんだまま軽く頭を振って、気持ちを切り替えた。
ここはクロウたちの拠点──洋館内に設けられた応接室だ。
大きな部屋は長いテーブルで仕切られている。
その上座──俗に言うお誕生日席にククリが座っていた。
ヤーマとダルマのキサラギ族親子は、警護のSPよろしくククリの後ろに直立不動で控えている。神族の会談に着座するのは憚られるらしい。
テーブルの左右には、それぞれツバサたちとクロウ陣営。
ツバサとクロウが向かい合う形でククリの上座近くに座り、後は順番に並んで座っていた。ミロは真っ先にツバサの隣に陣取ったのは言うまでもない。
ただ1人、ホクトだけが席に着かずにいた。
この陣営におけるメイド的な立ち位置にいるのか、ホクトがテキパキとお茶の用意をして、ツバサたちに振る舞ってくれた。
……どう見ても男性武道家がメイド服を着ているようにしか見えない。
それも伝説の真拳を受け継ぐに相応しい好漢だ。
だが、彼女は紛う事なき女性である。しかも20代と若々しい。
どうしてそんなに屈強なのか──怖くて尋ねられない。
ククリとの面会を経てお互いの胸襟を開くことができたツバサたちとクロウ陣営は、双方の持っている情報のすり合わせをすることにした。
その結果──ほぼ一致していることがわかった。
ただし、それぞれの情報に偏りも認められる。
ツバサたちは巨大企業ジェネシスに幹部クラスとして務めていたGMから、その内部情報を入手している。つまり、レオナルド経由の重要案件(プレイヤーの神族化や魔族化、現実世界からの人類の転移など)を詳細に把握していた。
その背後に灰色の御子が蠢いていることも──。
クロウの側にもレオナルドの部下であるカンナがいたはずだが、そこまで細かいことは伝えられてなかったらしい。
「というか、拙者には難しい話が多かったから、その……」
「……ああ、覚えきれなかったんですね」
女騎士──カンナ・ブラダマンテ。
彼女は武闘派で、肉体派で、体育会系で、猪突猛進がモットーで、後先考えずに動き出す……そういう意味での問題児だとレオナルドから聞いている。
『だからなのか、ちょっと頭がな……よろしくない』
レオナルドは額の生え際を気にしながら、苦悩を滲ませていた。
『いや、決して馬鹿ではないんだ。学生時代の成績は上位に食い込んでいたし、ジェネシスの社員として働いていた時も有能だった。ただ……』
猪武者みたいに短絡的なのだという。
考える前に動こうとする癖があり、それで何度もやらかしている。
反省はする――だが学習はしなかった。
『我が幼馴染みながら、そこはまるで成長しないんだ。俺がなんでも手伝ってしまったのも悪いんだろうが……手を焼かされた年月だけを考えるなら、あいつは問題児娘の中でも最長……いや、仕事はできるんだ、あいつも……』
『なるほど、アタシと同じアホの子なんだね』
ミロのストレートな指摘にレオナルドは苦笑いを浮かべていた。
クロウがカンナから聞いたジェネシスの思惑については、カンナがレオナルドから教えられたものだが、ほとんどうろ覚えだった。
当然、内容もあやふやな点が多い。
このため、クロウたちは漠然と理解していたそうだ。
『ジェネシスが何らかの特殊な方法を用いて、プレイヤーの魂を真なる世界に送り込んだ。異世界に転移させられた際、アバターの能力を与えられた』
そのぐらいの認識だったらしい。
むしろ、ツバサたちからもたらされた情報の中で、クロウ陣営にもっとも衝撃を与えた内容は以下の2つである。
「地球に……小惑星が激突するですと!?」
「人類滅亡どころか、地球が破壊されてしまうだなんて……ッ!」
「ちょ……僕たち聞いてませんよ!?」
「サノンサノン、どうしよどうしよ! パパとママとグランマがーッ!」
「落ち着くのです、ウノン……いずれ来る、とツバサさんは仰いました」
地球に小惑星が激突して大惨事になること──。
取り残された人類は数年後にこちらへ転移してくること──。
ツバサはクロコから(レオナルド経由)聞いていたが、カンナはこの辺りの事情もろくに理解していなかったらしい。
レオナルドから聞いたはずなのにも関わらずだ。
まあ、ミサキのところにいるアキも似たり寄ったりだったが……。
カンナ君! カンナさん! カンナ姉ちゃん! と矢継ぎ早に糾弾めいた口調で名前を呼ばれて、カンナはあたふたと狼狽えていた。
「いや、あの、だって……しし君が……違う、レオ殿が秘密の密会をしては、上層部のみに伝えられる事情を教えてくれたのですが……拙者、お酒が入るとその時の記憶はボヤーッとしてしまって……ご、ごめんなさぁーいッ!」
カンナさん──おまえもか。
アキもレオナルドからの情報を全く知らない理由は飲酒による記憶喪失だったが、カンナも同じように酒を飲むと次の日には忘れるらしい。
……これ、レオナルドが悪いんじゃね?
大切かつ重大な話をするならお酒を遠ざけておくものだ。
ノンアルコール飲料を飲ませておけばいいものを、とか思ってしまう。
ツバサが説明している間、カンナはクロウの隣に座っているが、なんとも肩身が狭そうだった。自分が至らないという自覚はあるようだ。
アホの子を治す意志があるかどうかは知らないが──。
ツバサがレオナルドやクロコから聞いた話をわかりやすく話すと、クロウは得心がいったのか腕を組んで興味深そうに頷いた。
「なるほど、地球に渡った灰色の御子たちが巨大企業を築き上げ、アルマゲドンを初めとしたVRMMORPGを装いながらも、人間の魂を肉体から切り離すことで真なる世界に送り込むシステムを開発していたと……」
「そうみたいですね。人間の魂を壊さぬように肉体から取り出したり、真なる世界へ送り込む方法を確立させたり、その前段階として神族や魔族に匹敵するまで鍛え上げる施設としても完成させたりと……時間がかかったようです」
起源龍であるジョカフギス。
彼女は地球に渡った灰色の御子からの連絡を聞いていた。
『何もかもが足りない──時間がかかりそうだ』
灰色の御子たちが地球に渡ったのが、おおよそ500年前。
いつまた別次元からの侵略者が襲ってくるかもわからない状況で、この500年という時間はやきもきさせられたことだろう。
この世界に残された者たちは勿論、灰色の御子もだ。
その灰色の御子が──クロウの陣営にいる。
蕃神たちとの大戦争を乗り越え、自らの文明を保持してきたキサラギ族も多くのことを知っているだろうが、灰色の御子の一員であるククリからも直接聞いているので、それらに関する情報はクロウたちの方が多かった。
「皆さんもご存知の通り、灰色の御子とは混血種……もしくは交雑種。主に神族と魔族の間に産まれた者たちのことです」
ククリは自らの出自を交えて、その点を詳らかにする。
「私の母は生命を司る女神でした。そして、父は死を支配する魔王……2人の間に産まれた私は、生と死を循環する能力を受け継いで産まれたのです」
他の灰色の御子も神族と魔族の間に産まれれば、両親の能力をちょうどいい案配で受け継いでいたそうだ。
しかし、人間でも“父親似”とか“母親似”と言われるように、片親の性質を色濃く受け継ぐ例もあったらしい。
「特に多種族を片親に持ち、片親が神族や魔族だった場合、多種族に似た容姿を持ちながら、神族や魔族の能力を受け継ぐ形で産まれることが多かったようです……そういった子たちも、灰色の御子と呼ばれていました」
片親が神族か魔族、即ちこの世界における最上位種であること。
同種族間ではなく他種族間の交配による誕生すること。
これが灰色の御子の定義らしい。
「かつて次元からの侵略者……蕃神たちとの大戦争がありました」
その第何次戦争かが終わり、真なる世界が少しだけ落ち着いた頃。
まるで時勢を見計らっていたかのように、灰色の御子たちは次々に産まれてきたという。俗な言い方をすればベビーラッシュを迎えたそうだ。
「私の父や母がそうであったように、戦争の最中で恋に落ちる神族や魔族、それに多種族が多かったそうですが……戦争が一段落つくのを待っていたかのように、私たち灰色の御子がたくさん産まれてきたそうです」
「あー知ってる、吊り橋効果ってやつだね」
「アホ、それは違……いや、だいたい合ってるのか?」
ミロにツッコミを入れるつもりが、ツバサは躊躇してしまった。
自身の命どころか、自分たちの種族、共に生きる生物……果てはこの世界までもが滅亡の危機に瀕していたのだ。産めよ増やせよで子孫を増やさなければ、蕃神たちの侵略に立ち向かうことさえままならなかっただろう。
そうした生存本能が神族や魔族、多種族までも昂ぶらせた。
やがて種の垣根を越えた恋愛にまで発展し、神族でも魔族でも多種族でもない、渾然一体となった新しい“次代”を生み出すことになる。
それが──灰色の御子。
ククリはホクトの煎れてくれた紅茶で喉を潤し、灰色の御子たちがどのような活動をしてきたのかを教えてくれた。
「私たち灰色の御子は神族と魔族、それに多種族の能力を併せ持った次代として尊ばれ、来たるべき“外来者たち”との決戦に向けて、新しい戦力として期待されていましたし……それに応えるべく精進を重ねてきました」
「“外来者たち”……別次元からの侵略者のことかな?」
ツバサたちはクトゥルー神話に重ね合わせて“蕃神”と名付けていたが、ククリたち灰色の御子は“外来者たち”と呼んでいたそうだ。
「ええ、彼らは私たちの暮らす“次元の外”からやって来ましたから……誰が呼ぶとでもなく、忌ま忌ましさを込めて、そう呼んでおりました」
でも、とククリは言い直す。
「“蕃神”という言葉を私にもわかりますし、こちらの方が通りが良いかも……私もこれからは“蕃神”と呼ぶことにしますね」
その蕃神との再戦に向けて、着々と力をつけていった灰色の御子たち。
だが──やがて彼らは悟ることになる。
「私たちが戦力に数えられるくらいに成長した頃、蕃神は再びやって来ました……それが600年ほど前……私の知る限り、最後の大戦争だったはずです」
ここ数ヶ月、ツバサたちは何体かの蕃神を撃退してきた。
ああいった小規模な戦いは、真なる世界では頻繁に起きているらしい。
あれは小競り合い、大戦と比べるべくもない。
「大戦争ともなれば、蕃神は真なる世界の至るところに次元の裂け目や大きな門を開いて、こちらに雪崩れ込んできます……まるで彼らの色に染め上げられるように、世界が蕃神たちによって蝕まれていくのです……」
ツバサは一番最初に戦った蕃神を思い出す。
アブホスと名付けた触手の塊みたいな蕃神は、自分とよく似ていながらもダウンサイズさせた眷属を何千何万とこちらに送り込んできたのだ。
「あれを全世界で一斉にやられたら──太刀打ちできるか怪しい」
ツバサが憎々しげに呟くと、ククリはわずかに頷いた。
「そうです……彼らは大攻勢を仕掛けてくると、本当に真なる世界のあらゆるところから攻め入ってきます……蕃神の王たち、その強さもさることながら、彼らの率いる眷属の数は桁違いです……千、万、億、兆、京……」
そんな数には収まらない。
無量大数──滅多に聞かない単位でやってくるという。
「私はそれほど戦うことに長けていませんが……戦闘能力に優れた灰色の御子ならば、3人ぐらいいれば蕃神の王とも渡り合うことができます。しかし、津波のように押し寄せる蕃神の眷属に足下を掬われて……といったことが多々ありました」
ククリが覚えている限り──最後の大戦争。
その戦いは灰色の御子たちの尽力により、辛勝ながらも真なる世界が勝ちを収めたそうだが、受けた被害は甚大だったという。
神族、魔族、多種族──それに灰色の御子たち。
彼らが力を合わせれば、蕃神に立ち向かうことができる。
「ですが……圧倒的に数が足りない」
度重なる蕃神との大戦により真なる世界は疲弊し、そこに暮らす種族たちも戦争で数を減らす一方だった。戦力差だけならば絶望的に負けていたのだ。
「それで、地球の人類を新たな戦力に加えようとしたのか……」
地球の人類は神族と魔族が“新たなる可能性”を模索するために、それぞれの因子を種のようにばらまいた結果、進化の果てに産まれた種族だ。
ある意味──灰色の御子のお仲間とも言える。
肉体という殻に封じられた人類の魂(アストラル体)は、成長を促せば神族や魔族に匹敵、あるいはそれを越える存在になれるらしい。
ククリはまた目を伏せ、詫びるように言ってきた。
「……あなたたち人類の都合を考えず、断りも無しにこちらの世界へ招き寄せ、共に戦うことを強制することに反対する者も大勢いたのですが……」
真なる世界には──もう後がなかったのです。
今度、蕃神たちが再び総攻撃を仕掛けてくれば、真なる世界は反撃準備もろくにできないまま、数の暴力によって押し潰されるのは目に見えていた。
数には数……それも、1人1人が強力な神族や魔族となれる者。
ツバサやミサキ、アハウやクロウといった内在異性具現化者ならば、たった1人で蕃神の王どころか億の眷属をも一掃できる“力”を持っている。
「人類の力を借りなければ、この世界は滅んでしまう……だから、憎まれようとも嫌われようとも……私たちは……あなたたちを呼び寄せるしか……」
申し訳ありません……と、ククリは消え入りそうな声で言った。
「いーっていーって──気にすることないよ」
泣きかけたククリに、ミロは脳天気な声で慰めた。
「異世界転移なんてフィクションじゃよくある話じゃない。アタシらこっちの世界に来て、神様や悪魔になってスーパーパワーも身につけられたんだから、それなりにエンジョイできてるし、誰もそんなに文句は言わないと思うよ?」
言う奴がいたら──そいつの了見が狭いだけ。
「もしくは愚痴っぽいのかもね」
ニシシ、とミロは歯の隙間から空気を抜くような笑う。
その笑い声にククリが潤んだ瞳を持ち上げると、ミロは続けた。
「それに灰色の御子さんが気ぃ利かしてくれなきゃ、地球に残ってる人たちも隕石でみーんな死んじゃってたかも知れないからね。そうやって取りこぼさずにしてくれただけでも、人類にしてみれば御の字じゃない?」
確かに──ジェネシスは人類へのフォローを忘れていない。
もしも純粋に戦力として人類の魂が欲しいならば、有無を言わさぬ手段を用いて全人類の魂を抜きだし、無理やりにでも神族や魔族に変えることで、真なる世界へ連れてくれば良いだけだ。
もしも実力行使に出ていたなら、戦力数は膨大になったはずだ。
協力的かはさておいて――。
しかし、彼らは人類に選択権を与えた。
『神族や魔族となって、蕃神と戦うことも厭わない』
そういう戦うことに前向きな人種を“アルマゲドン”などのVRMMORPGを用いて、密かに選抜していた気がする。
つまり、やる気のある人材をピックアップしていた節があった。
蕃神と戦うための戦力が欲しいのなら、プレイヤーを連れてくるだけで事足りる。冷たいことを言うなら、残りの人類は無視しても構わないのだ。
「だが──ジェネシスは全人類の移民も計画のひとつにいれていた」
ツバサはミロの言葉を引き継ぎ、ククリに話し掛ける。
「共に戦う者を募るだけなら、こんな手の掛かることをしてまで戦力外の人々を助けようとはしないはずだ……灰色の御子たちにも何らかの思惑があるのかも知れないが、慈悲や仏心を持つ者が少なからずいるようだね」
ククリのように──ツバサは結ぶ。
「そそ、だからさ、ククリちゃんが気にすることはないって」
「そうだな、君が謝ることはないし……気に病むこともない」
「……ッ! 父さ……母……いえ、ミロ様、ツバサ様……」
ありがとうございます、とククリはボロボロと大粒の涙をこぼしながら、深々と頭を下げてきた。また、ツバサたちに両親を重ねて見ていたらしい。
負い目というか責任感というか──ククリはそれが強い。
だから殊更、地球から来たプレイヤーに罪悪感を抱くのだろう。
「私も同じ気持ちですよ、ククリさん」
ツバサとミロの話が終わったのを見計らい、クロウも言葉を投げ掛ける。
その胸に手を当て、紳士らしい振る舞いで打ち明けた。
「真なる世界と地球の関係性を鑑みれば、この世界が終焉を迎えれば地球の未来もないと容易に想像できます……子供らの未来を守ることができるというなら、この老い先短い命、皆さんのために使うことを約束しましょう」
もう骨しか残ってませんけどね、とクロウは自虐ネタで締めた。
さすがにこのジョークで笑う者はおらず、クロウの気持ちを伝えられたククリはただでさえ泣きそうなところに、追い打ちをかけられたも同然である。
「み、んな、さん……あ、ありがとう……ござい……うっ、ぅぅぅぅ……」
そしてククリは、大声を上げて泣き出した。
釣られて、彼女の家臣でもあるヤーマやダルマまで貰い泣きだ。
ダルマは滝のような涙を流して大泣きしており、ヤーマはやっぱり無表情のままだが滾々と流れる涙が頬を濡らしている。
ややしばらく──ククリは泣き続けた。
落ち着いたところで、ツバサはある質問をぶつけてみる。
「ところでククリさん、君のように真なる世界に残った灰色の御子は他にもいるのかな? 残っていた理由もあれば、聞かせてほしいんだが……」
「グスッ……は、はい、灰色の御子は,そのほとんどが地球へ旅立っていきました……あなたたちのような、優れたアストラル体を持つ者を探すために……」
だが、ククリのように何人かは真なる世界に留まっている。
それには理由があり──役目があったからだ。
「この世界に残った灰色の御子は、あちこちに点在する重要な施設。いずれ起きる大戦争に必要なものを守る……謂わば、守り役なのです」
ククリは細い手を持ち上げると、自分の小さな胸に押し当てた。
その懐には、大切な何かが収められているらしい。
「私は“還らずの都”の守り役として……鍵を預かっています」
固く閉ざされた都の門──そこを開くための鍵を。
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