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第7章 還らずの都と灰色の乙女

第169話:還らずの都を護る瀟洒なパーティー

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「じゃあ、カンナさんはレオナルドの幼馴染おさななじみなのか?」

 道すがら彼女の話題で盛り上がる。

 こちらの問いに女騎士はちょっと照れ臭そうに目を逸らした。

「幼馴染みと言いますか……家が近所で家族付き合いをしており、幼稚園に入る前からよく遊んだ仲と言いますか……」

「それを幼馴染みっていうんじゃないの?」

 アタシとツバサさんもそうだし、とミロは付け加えた。

 聞けばカンナの実家は母親が剣道場を開いており、父親は併設へいせつした道場で空手を教えていたという。根っからの武闘派な家系らしい。

「レオ殿も幼い頃は我が家に来て、拙者と共に稽古に明け暮れておりました」

「あいつ、現実リアルでもそれなりに素養があったのか……」

 てっきりVRヴァーチャル系の格闘ゲームだけで鍛えた口かと思えば、現実でも有段者の腕前だったそうだ。ツバサと似たようなものである。

 謎の多いレオナルドの生態がまた1つ明らかになった。

 あとでミサキ君に教えてあげよう。

 幼馴染みで惚れた男で現実世界では元上司ということもあってか、カンナによるレオナルド語りは留まることを知らなかった。

しし君・・・……あ、いや、レオ殿は昔からカッコ良くてスタイリッシュでクールで、何をやらせてもそつなくこなして……それはもう、ミーハーな婦女子どもがキャーキャー言いながら寄ってきて……拙者、心労が絶えませんでした」

 小中高大学と一緒だったカンナは、拳を握り締めて恨み節だ。

「拙者の気持ちなど何処どこ吹く風。真剣に告白してものらりくらりと逃げられて、後を追うようにジェネシスに入社すれば、今度はクロコにアキにナヤカと、ライバルが追加されていき……嗚呼ああ、拙者はいったいどうすれば……」

 涙ながらに語るカンナの傍で、ミロとトモエがボソボソ内緒話。

「幼馴染み……滑り台……負けヒロイン……ウッ、頭が」
「んな、ミロ、それ以上いけない」

洒落しゃれにならないからやめてください!?」

 カンナは半泣きで抗議する。

 他愛のない話をしながらもツバサたちは先を急ぐ。

 極都を離れた一行は、カンナの「我々のリーダーに会ってほしい」というお願いを聞き入れ、彼女たちが暮らす“還らずの都”を目指していた。

 空を行くのは目立つので、大地を駆けていく。

 無論、キョウコウの追っ手への警戒も忘れない。

 ツバサやドンカイ、それにカズトラの体育会系なメンツは肉体強化の技能スキルを使っての高速移動が可能だ。カンナのバイクにも難なく付いていける。

 女騎士のバイクは普通に地を走ることもできた。

 聞けば水上走行も可能とのことなので、陸海空を制覇できるバイクらしい。彼女の仲間にもメカニックに強いプレイヤーがいるそうだ。

 そのバイクに──ミロたちは便乗していた。

「ボーントゥビーワァ~~~イルド♪」
「ぼーんとぅびぃわぁ~~~いるどなぁ~♪」

「……2人とも、意味わかってないでしょ?」

 ミロはちゃっかりカンナの前に座り込み、彼女の操るハンドルに手を添えて自分も運転してるような真似をしていた。

 ドット絵みたいなデザインの、珍妙なサングラスをかけて粋がっている。

 ……あんなもん、どこで手に入れたんだ?

 トモエは身軽さを活かして、ツバサと同じくらいの体格はあるカンナの背中にしがみついている。こちらもドットサングラス装備。流行ってるのか?

 そして、ハルカだけが「付き合いきれない」と愛想笑いを浮かべたまま、バイクの後部座席にちょこんと腰掛けていた。

 自力ではツバサたちに追いつきにくいのでバイクに乗せてもらったハルカはともかく、ミロとトモエは完全に便乗だ。

 控え目に同乗するハルカと違い、我が物顔で楽しんでいる。

 ノリノリなミロとトモエにカンナも楽しげに微笑んでいるが、ツバサは『迷惑を掛けているんじゃないか?』と気が気ではない。

「すみません、カンナさん。ウチのアホ娘たちが……」

 母親代わりのツバサは、申し訳なさそうに詫びるしかなかった。

「お気になさらないでくださいツバサ殿。子供は元気が一番です」

 拙者、子供は好きです──とカンナはミロの頭を撫でる。

 ミロはもう17歳になるというのに、精神年齢が低いのでカンナからすれば子供に見えるのだろう。もっと中身も成長してほしいものだ。

「それに、我がパーティーにも幼い者がいて……いや、多いので、子供たちの面倒を見るのは慣れているつもりです」

「子供って……ああ、未成年組が多いんですか?」

 アルマゲドンは年齢制限があり、13歳以上でないとプレイできない。

 ……というのは建前で、年齢入力さえ誤魔化してしまえば、12歳以下でも平気でログインできてしまうのだ。これがネットを介して小学校などで知れ渡り、多くの幼年プレイヤーを誕生させてしまった。

 ツバサのところにいるマリナ、ミサキが面倒を見ているカミュラ、アハウが養っているミコ、などは典型的な幼年プレイヤーである。

 この話題にカンナはやや顔を曇らせた。

「…………はい、双子の少女がおります。他にも、まだ15歳にしかならない少年が……成人しているのはクロウ殿と私、それともう1人の女戦士のみです」

 ──ウノン・アポロス。
 ──サノン・アルミス。
 魔法使いを職能ロールとする双子の幼女。

 ──ヨイチ・クロケット。
 遠距離攻撃を得意とした弓手アーチャー職能ロールに秀でた少年。

 ──ホクト・ゴックイーン。
 殴られ役タンクとして肉弾戦が得意な前衛一筋の女戦士。

 これに女騎士カンナと、みんなのリーダー役を務める内在異性具現化者のクロウ・タイザンという人物で構成されたパーティーだという。

「あと……キサラギ族・・・・・という現地種族たちと一緒に暮らしています」

「キサラギ族?」

 日本語っぽい名前だが、聞いたことのない種族だ。

 ケット・シーのネコ族や、セルキーのヒレ族、もしくはハルピュイア族のようにわかりやすい名前ではない。少なくとも、名前を聞いただけでは、どのような姿をしているかさえ想像もつかなかった。

「カンナちゃん、キサラギ族ってどんなん?」

 不躾なミロの質問に、カンナは生真面目に答えてくれた。

「そうですね。一見するとオーガというか鬼というか……強靱な体力に高潔な精神を備え、体格の良い人間のような姿をしています」

 そして、頭には必ず1~5本の角が生えている。

「んな、オヤカタのお仲間?」

 トモエがドンカイに尋ねるように振り向く。

「かも知れんのぉ。わしもオーガから神族に成り上がった口じゃし……それに、鬼という種族もアルマゲドンにはいたはずじゃ」

 アルマゲドンは妖怪系の種族も豊富だった。

 天狗、河童、鬼、雪女……果ては座敷童子ざしきわらしなんて「これ選んだら行動範囲がえらく限定されない?」なんて種族までいた。実際には座敷童子を選択すると屋敷と認められた領域ではズバ抜けて強くなり、そのまま神族・家神に昇格できる。

 妖怪系はエスカレーター式に特定の神族へ成り上がれる種が多かった。

 妖怪と聞いて、ミロがニヤニヤしながら少し前のことを蒸し返す。

「マニアックなのだと“チーノウヤ”なんて妖怪もいたしねー」
「おまえが俺に『これに種族変更して!』と推してきたやつか……」

 ツバサは苦い顔で思い出してしまった。

 チーノウヤ――漢字だと“乳の親チーノウヤ”と書く。

 沖縄の民間伝承に伝わる妖怪。洗いざらしの長い黒髪を流した女性の姿をしており、その乳房はとてつもなく大きい。

 幼くして亡くなった幼児の霊を守り、その大きさ乳房で養うという地母神的な側面もあれば、幼い子供を攫うという鬼女的な側面もある。

 アルマゲドンでは妖怪神、下位の地母神という位置付けだった。

 この名前を見つけたミロとマリナが大はしゃぎしたのは言うまでもない。

 当然「誰が乳の親チーノウヤだ!?」とツバサがキレて終わったのだが……。

 嫌なことは忘れて、咳払いで話を戻す。

「キサラギ族という名前からして、鬼と縁がある種族なのかも……」
「その可能性はあると思われます」

 カンナはドンカイの容姿を見つめて答えた。

「キサラギ族は実に多種多様で、成人しても小柄な“小鬼”とも言うべきタイプや、ドンカイ殿のようにまさに“鬼”と言うべき大柄なタイプ、はたまた普通の人間と大差ないタイプ……と個体差が大きいのです」

 唯一の共通点は角が生え、牙や爪などが目立つということぐらい。

 また生命力が強く、体格のタイプによって怪力や瞬足に優れるという。

「オーガは一様いちように大柄な種族ですから、そのことを鑑みるに多彩なキサラギ族は“鬼”と呼ぶべき種族なのかも知れませんね」

「そのキサラギ族が──“還らずの都”を護っている、と」

 ツバサは復唱するように呟くと、カンナは意味深に頷いた。

 ──もう四ヶ月以上前になるという。

 カンナはクロウと彼が世話を焼いていた2人の幼女と共に、この真なる世界ファンタジアへと転移されてきた。それはツバサたちと同じ半年以上前のことだ。

 その後、二ヶ月ほど放浪──途中でヨイチとホクトが合流した。
  
 ホクトやヨイチは元々、クロウたちと行動を共にするパーティーの一員だったらしいが、異世界転移の拍子で離ればなれになっていたという。

 再会できたのは僥倖ぎょうこうだ、とクロウは大変喜んだらしい。
 
 6人パーティーになったカンナたちは、偶然“還らずの都”が隠された地に迷い込んでしまい、そこでキサラギ族と出会ったそうだ。

「彼らは遙か昔より“還らずの都”を護るべく、太古の神族から使命を授かったことを矜恃きょうじとする一族でした……」

 この“還らずの都”は襲撃を受けやすい地なのだという。

「襲撃? モンスターでもやってくるのか?」

 それとも別次元の侵略者──蕃神ばんしんか?

 ツバサの問いに、カンナはやや困惑の表情で頷いた。

特定の・・・モンスターたちが3日に1度はやってくると言った感じなのです……キサラギ族たちは強いですが、疲弊しておりました……」

 その窮地を目の当たりにしたクロウは同情したそうだ。

 涙の流せない身体・・・・・・・・になってしまったが、全身を奮わせて涙腺があったのなら号泣しそうな勢いで、キサラギ族たちの在り方に共感したという。

『どうせ私たちに行く宛はなく、この過大能力オーバードゥーイングという神様のような力を持て余している……それなら、ここに留まって彼らに力を貸してやりたい』

 クロウの提案に、カンナたちは二つ返事で賛成したという。

 義を見てせざるは勇無きなり、そんな義侠心ぎきょうしんにあふれた仲間たちらしい。

 以来カンナたちはキサラギ族の里に住み着き、彼らと共に“還らずの都”にやってくるモンスターを撃退しているとのこと。

 そこは奇しくも──キョウコウが探し求めていた地。

「……先日、モンスターではないやからがやってきました」

 思い出すのも忌々しいのか、語るカンナの表情が険しくなる。

 キョウコウの使いを名乗るプレイヤーの一団が現れたかと思えば、キサラギ族の里で乱暴狼藉の限りを尽くし、“還らずの都”へ案内しろと騒ぎ立てた。

 激怒したクロウたちは、彼らを返り討ちにしたという。

 反抗する気力がなくなるまで叩きのめして締め上げたところ、キョウコウたちとその根城である極都について吐いたそうだ。

(※現在、クロウの特殊な結界に閉じ込めているらしい)

「……んで、カンナちゃんは極都にリベンジマッチを仕掛けたわけだ」
「ええ、さっきの戦闘がそれですね」

 クロウ殿には止められたのですが……カンナはバツが悪そうだ。

 レオナルドから「カンナは頭に血が上ると、突っ走る傾向がある猪武者みたいな女だ」と聞いていたが……まんま過ぎる。

 やられたらやり返す、という気持ちはわからないでもないが、考えもなしに復讐戦を挑むのは愚策もいいところだ。

 下手をすれば──逆手に取られて勘繰かんぐられかねない。

 さすがにキョウコウの前で“還らずの都”云々は口にしていなかったが……あの男の洞察力は侮れない。油断は禁物である。

「キサラギ族の里に帰ったら、まずはクロウ殿に謝罪せねば……勿論、ツバサ殿たちのこともご紹介させていただきます」

 見えてきました、とカンナは行く手を指差した。

 まだ距離があって全景は把握できないが、カンナの指差す先の大地は緩やかに下ってきており、盆地のような地形になってきていた。

 広大な盆地だ。四方は数百㎞にも及ぶだろう。

 その盆地には縦横無尽に亀裂のようなクレバスが走り、踏み入ることを躊躇ためらう複雑怪奇な谷を作り上げていた。

「あの谷の底にキサラギ族の里が……」

「──待って!」

 突然、ミロが鋭い声を上げた。

 ドットサングラスを上げて真剣な眼差しを谷へ向けると、目を細めることで凝らして遠くを一心に見つめている。

 次の瞬間、ミロはカンナのバイクから飛び立った。

 そして、バイクを上回る高速で飛翔して谷へ向かっていく。

「待てミロ! いきなりどうした!」

 超スピードで飛ぶミロにすぐさま追いつき、ツバサは問い質す。

 ミロは振り返らず、わずかな焦りを滲ませて答える。

「誰かがモンスターと戦ってる! しかも……押されてるみたいッ!」

   ~~~~~~~~~~~~

 そこは──きざしの谷と呼ばれていた。

 大陸ほぼ中央に位置した盆地に、ひび割れの如く刻まれた谷間。

 この谷底にキサラギ族の里があり、そのまた下に“還らずの都”が埋葬されるかの如く埋まっているという。

 その兆しの谷の上空に──飛竜ワイバーンの群れが飛び交っていた。

 しかし、ただの飛竜ではない。皆、死んでいる。

 死して後に不死者として甦った、アンデッドワイバーンの群れだ。

 死んだ飛竜たちは潰れた喉で耳障りな奇声を上げ、兆しの谷の中でも自分たちが翼を広げたまま下降できる場所を探している。

 彼らは“還らずの都”を探しているのだ。

 キサラギ族が言うには、アンデッドと化したモンスター(時に現地種族ですら)は例外なく“還らずの都”を探し求めるようになるという。

 この死んだ飛竜の群れもまた同様だった。

 ようやく幅広の谷を見付け、そこから谷底へと降りていこうとするのだが、飛竜たちの行く手を阻む2つの小さな影が立ちはだかっていた。

「──準備はいい、サノン?」
「……OKよ、ウノン」

 それは──メイド服を身にまとった、年端もいかない2人の幼女。

 瓜二つな顔立ちから双子の姉妹だと思われる。

 ウノンと呼ばれた少女は活発そうな雰囲気があり、赤茶けた髪にほんのりウェーブが掛かっている。勝ち気でアクティブそうな笑顔が印象的だ。

 サノンと呼ばれた少女は落ち着いた風情があり、色素の薄い髪は癖のないストレートヘアだった。クールで冷静、大人びた感のある子だ。

 顔はそっくり。違うのは表情と髪質ぐらいのもの。

 年の頃ならどちらも10~12歳くらい、メイド服を着ているとコスプレかおままごとで遊んでいるようにしか見えない、可愛い盛りである。

 そんな双子の幼女に腐りかけた飛竜が迫る。

「まずはあたしの番! あまーいお砂糖、召し上がれ!」

 過大能力──『軽くも重くもアップ・ダウン・気分次第の粉砂糖』シュガー・パウダー

 ウノンが両手を広げて頭上に掲げ、一気に振り下ろす。

 すると、彼女の両手からキラキラと輝く白い結晶の粒が大量に振りまかれた。

 それはウノンが言う通り、お砂糖にしか見えない。

 振りまかれたお砂糖は霧のように宙を舞い、迫り来るアンデッドワイバーンたちに降りかかる。この程度、何でもないように思われるが……。

 砂糖を浴びた飛竜たちは──動きが鈍くなった。

 まるで何トンもの加重をかけられたかのように、身体が重くなって上手に飛べなくなった感じだ。必至で翼を羽ばたかせて、落下しないよう踏ん張っている。

 上手く飛べなくなったアンデッドワイバーンたち。

 そこへ、今度はサノンが動き出す。

「……甘いのの後は辛いのはいかが? とっておきのスパイスです……」

 過大能力──『弾けて痺れるベリベリ・ショッ刺激的な香辛料』キング・スパイス

 彼女はウノンと同じモーションで、赤黒い粉末を撒き散らした。

 コショウやトウガラシの粉を思わせる粉末を、またしても浴びることになる飛竜の群れ。これもやはり、攻撃には見えないのだが……。

 スパイスの霧の中で飛竜が羽ばたくと──衝撃が走った。

 スパイスの微粒子が当たると、それが弾けて衝撃を起こすのだ。

 微粒子ひとつひとつの衝撃は大したことないが、彼らはその弾けるスパイスの真っ直中にいる。全身に浴びればダメージもバカにならない。

 アンデッドに痛覚はない。しかし、重力をかけられれば重いし、衝撃を浴びれば腐った身体にも響く。必然的に動きも鈍ってきた。

「ヨイチーッ! 足止め成功したよー!」
「……やっちまってください」

 ウノンが大声で呼び掛け、サノンが立てた親指を地面に下げる。

 谷間の陰──手頃な足場に射手が潜んでいた。

「オーライ、ここから先は僕の領分だ」

 幼女2人にヨイチと呼ばれたのは──紅顔の美少年である。

 少女と見紛うばかりの美貌だが紳士的に髪型を整えおり、その顔には男気あふれた微笑みを称えていた。左目に片眼鏡モノクルを付けている。

 燕尾服らしき衣装を着ているが、一見すると軍服と見間違うような改造を施されており、あちこちに収納ポケットがついている。

 ヨイチは身の丈を超える大弓を構えており、そこに大振りの矢を5本もつがえるとギリギリと引き絞り、足止めされている飛竜に向けて放った。

 それは──五つの流星となって空を駆ける。

 人間では成し得ない、神族ならではの強弓ごうきゅうから放たれた矢はレーザー光線みたいな閃光を引いて飛び、飛竜の群れを薙ぎ払っていく。

 腐肉の身体を貫く矢は、1本で何十匹もの飛竜を撃墜していった。

 しかし、アンデッドワイバーンの数はまだまだ多い。

 ウノンとサノンの足止め効果を受けなかった後方の飛竜たちが前に出てくると、双子の幼女へ悪臭漂う牙を剥いてくる。

 その時──颯爽さっそうと立ちはだかる壁の如き影。

 幼女たちの倍以上はある、2m越えの巨体は複数のアンデッドワイバーンの攻撃を一身に引き受けると、全身の筋肉を風船のように膨張させた。

 まるで飛竜たちの攻撃を飲み込み、溜め込んだかのように──。

受けた分・・・・……お返しいたしますわ」

 過大能力──『報復を旨とアグレッシブする攻撃・リベンジ的反撃』・カウンター

 むぅん! と巨体の影が唸った瞬間、膨張した筋肉から放たれる劇的なパワーがアンデッドワイバーンたちに叩きつけられる。

 ただただ純粋な物理的パワーを浴びせられて、腐りかけていた飛竜たちの身体は粉々に吹っ飛ばされた。

 のみならず、その吹っ飛んだ残骸を残りの飛竜たちに叩きつける。

 先ほどの強弓と合わせて、これでようやく飛竜は半分くらいになった。

 さて、双子の幼女を救った巨体の主は──。

「ホクトお姉ちゃん、ナイス!」
「……さすがですホクトお姉さん、ゴッツい・・・・クイーンは伊達じゃありません」

 助けに現れた仲間に、幼女たちはグッドサインを送る。

 それは──山のように大きな乙女・・だった。

 身長は確実に2mを超えており、丸太のように太い腕、鉄筋のように頑丈な脚、凜々しくも雄々しい男前な面構え……巨漢のマッチョマンにしか見えない。

 しかし、その声はうら若く美々びびしい乙女のもの。

 身につける衣装もウノン&サノン姉妹と同じオーソドックスなメイド服。メイドカチューシャを飾るヘアスタイルは、きっちりした姫カットだ。

 しかし──ゴツくてデカい。

 同じ2m越えの美少女がツバサの家族にいるが、彼女のような可愛らしさはどこにもなく、むしろ筋肉的な造形美が際立っていた……ナイスバルク。

「ホクトさん、ごめん! 尻ぬぐいさせちゃって……」

 ヨイチはホクトへ感謝する。

「謝ることなどありませんわ、私たちはパーティーですもの」

 仲間の穴を埋めるのは当然のこと、とホクトは巨体に見合わぬ愛らしい声で瀟洒しょうしゃに返した。筋骨隆々だというのに振る舞いには気品がある。

「そんなことより……本命が来ますわよ」

 ホクトは注意を促すと、前衛の殴られ役として身構える。

 数を減らしたアンデッドワイバーンが左右に別れるように散っていくと、その奥から彼らより大きい翼を羽ばたかせる者が現れた。

 出現した新手に、ウノンとサノンは慌てふためく。

「そんな、あれって……エルダードラゴン!?」
「……のアンデッドですね。あんな大きなのは初めてです」

 ドラゴンとは長く生きれば生きるほど、その身体を巨大化させていき、ドラゴンを越えた存在へと成長していく。それがエルダードラゴンだ。

 飛来するエルダードラゴンは既に死んだアンデッド。

 これ以上成長することはないが、その全長は優に30mを越えている。

 エンシェントドラゴンほどの脅威ではないが、あれだけの大物が倒しにくいアンデッドになっているという事実は無視できない。

 しかも──3匹いる。

 1匹ぐらいならホクトたちでも対処できるが、あのレベルのエルダードラゴンを3匹というのはキツいかも知れない。

「参ったな……矢とか弾が足りるかな」

 ヨイチは苦笑いを浮かべ、身につけている装備を確認していた。

「正直、私たちには荷が重いですわね……」

 この中で一番の年長者であり、それなりに戦闘経験を積んできた感のあるホクトも顔色を曇らせる。彼我ひがの戦力差を冷静に分析したからだ。

 クロウ様・・・・にご出陣願いましょう──。

 ホクトは脳内でそう判断を下し、伝令のお使いとして(あと前線から退避させるため)ウノン&サノンをキサラギ族の里へ向かわせようとした。

 まさにその時である。

「……ッハハハハハハハハ! フハハハハハハハハハハハハハハッ!」



 ホクトの声を遮るように──笑い声が響いてきた。


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