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第7章 還らずの都と灰色の乙女
第162話:その温泉はミルク色に染まる
しおりを挟む満天の星空の下──野営ですき焼きを囲む。
ミロ、トモエ、カズトラの欠食児童トリオは、肉とマツタケに夢中で食らいついているが、ツバサたちは真面目な話を進めていた。
勿論ちゃんと食事は摂っているが、食卓を囲みながらの簡単な作戦会議だ。
「では──連中は大した連絡手段を持ってないと?」
大きな杯で大吟醸を煽ってから、ドンカイは意外そうに言った。
ツバサは吸い上げた情報から思い出す。
「ええ、何人かは伝達系の魔法や技能を習得していましたが、距離が離れすぎると圏外で使えなかったり、それこそ伝書鳩みたいに使い魔などに手紙を託すくらいが精々で……どれも使い勝手の悪いものばかりでしたね」
「私たちみたいにスマホなんかは持ってなかったんですか?」
ハルカはカーディガンからそれを取り出す。
ツバサたちも持っている小型通信機器だ。
見た目といい操作方法といい、完全にスマホである。
カメラやスピーカーにマイクと一通りの機能を備えており、通話だけではなく各種アプリも搭載し、SNSアプリで簡易チャットも可能だ。
作ったのはハトホル一家の長男──ダイン・ダイダボット。
ジンも頑張って作ろうとしていたのだが、彼は電子機器などはイマイチ不得手で製作は難航していたらしい。
ようやく人工衛星を打ち上げ、試作機を作って研究を重ねていた頃。その人工衛星がダインの人工衛星に見つかり、お互いの居場所が判明したわけだ。
あの後──ダインとジンは工作者仲間となって意気投合。
ダインはジンにスマホの作り方を技能面で伝授し、ジンはそれをすぐに物にしたので、今ではイシュタル陣営のみんなもスマホを携帯している。
(※後日、アハウたちククルカン陣営にも渡している)
ちなみにイシュタル陣営の話だが──。
このスマホが完成するまでは、ハルカの過大能力が携帯電話の代わりを務めていたそうだ。本当に応用力に優れた能力である。
先日ハルカが披露してくれたが──愛らしくも恐ろしいものだ。
「便利ですよね、これ。こんなに遠く離れても、ミサキ君に電話やメールをすればちゃんと届くんですから……現実のスマホとほぼ変わらないです」
アプリが少ないくらい? とハルカは些細な不満を上げる。
「アプリが少ないのは勘弁してやってくれ。ダインもジンも、アプリを作るようなソフトウェア面ではそんなに強くないんだから……SE経験者か、プログラマーでもいれば話は別だけどな」
残念ながらダインもジンもプラグラミング系は畑違いだ。
ハードウェアは作れるが、ソフトウェアを組むのは不得手だった。
ダインは少し作れるが、主に大型マシン(飛行船艦や巨大ロボ)の機能をサポートするためのシステムのみ。それだってフミカに手伝ってもらっている。
最近、フミカとアキの情報処理系姉妹が挑戦中だ。
フミカは前述の経緯があり、ダインのため勉強を続けていた。
アキは電脳関係の卓越した知識があり、引き籠もりニート中に「暇潰しの独学」で一流ハッカーになった経緯がある。才能もあるらしい。
近い将来、このスマホもアプリで満載されるかも知れない。
この件にダインとジンは「不甲斐ない……」と打ちひしがれていた。
それでもあの2人は、もう一機の人工衛星を協力して造り上げて、それを宇宙に打ち上げたのだ。都合3基の衛星を取り回しているからこそ、この超巨大大陸でも圏外になる心配がない。彼らの努力の賜物である。
「なんにせよ、この伝達速度の速さはワシらの有利となろう」
ドンカイの言う通りだ。
通信ではこちらにアドバンテージがある。
「ええ、いざという時はミサキ君やアハウさんに電話一本で情報を伝えられますし、もしもの時は俺の召喚魔法と連携させることもできますからね」
これから始まる戦いに備えて、万全の態勢を整えておきたい。
なにせ、今まで以上に厄介な敵だからだ。
キョウコウ・エンテイと──彼が率いるプレイヤーの軍勢。
彼らは別次元からやってくる脅威ではない。
ツバサたちと同じ、地球から飛ばされてきた同じ人間である。
正直、人類同士で争うのは気乗りしないのだが、相手が横暴な真似をしてくるのであれば黙ってやられるつもりはない。
たとえ凄惨な結末になろうとも──最期まで戦うつもりだ。
「あーッ、食った食った! ごちそうさまーッ!」
「んな、ツバサお母さん、ごちそうさまでした!」
「ゴチになりました、ツバサの兄貴!」
ツバサが物思いに耽っていたら、我を取り戻させるように“ごちそうさま”の声が輪唱みたいに聞こえてきた。
欠食児童トリオもようやく満腹になったらしい。
「うむ、美味かったわい。馳走になった」
「ごちそうさまでした。やっぱりツバサさんの料理は最高です」
ちょうどツバサたちも食事を終えたので、ドンカイとハルカもご馳走様の挨拶をしていた。感謝の言葉は料理をしたツバサに向けられる。
「はい、お粗末様……こらトモエ、誰がお母さんだ」
こんな時でもツバサは聞き逃さない。
「んな、バレちった」
決め台詞で返すと、トモエはペロッと舌を出して戯けた。
「でもお母さんのことお母さんって呼ばないと、いつもの台詞聞けない……だからトモエ、思い出した時にお母さんのことお母さんって呼ぶ」
「やめろ、ツバサをお母さんで固定するな」
ツバサとトモエのやり取りを聞いて、ハルカがクスッと微笑んだ。
「大変そうですね──お母さん」
「ハルカ……今、変なニュアンスを混ぜて俺を呼んだだろ?」
みんなして、ツバサのことを母親呼ばわりする。
もう大地母神の肉体になって半年以上が経過し、女神の肉体にも慣れてきたつもりだが……やはりツバサの芯はまだ男の子なのだ。
お母さん──そう呼ばれると、どうしても拒否反応を示してしまう。
それが「誰がお母さんだ」という返事になるのだ。
「ったく、二十歳の男を捕まえて……俺のどこが母親なんだよ」
ツバサはブツブツ言いながらも、空になったすき焼き鍋を片付けると、みんなの食器を手際よく回収し、自然を操る過大能力で温水を用意する。
その温水を用いてテキパキ洗っていき、乾いた布巾で吹き上げる(これはハルカが手伝ってくれた)。それを道具箱に仕舞っていく。
入れ替えるように、ダインが作ってくれた簡易式バンガローを取り出す。
数枚のプレートを組み合わせるだけで、保温断熱に優れたバンガローを建てられる優れものだ。オプションで空調機能もついている(これの組み立てはドンカイが手伝ってくれた)。
男組と女組の2つを設置して、それぞれに布団を用意する。
「明日は日の出とともに発つから、今日は10時には消灯するぞ。それまでは自由にしていい。あと、寝る前にトイレと歯磨きを忘れないように」
ここまでのツバサの流れるような無駄のない洗練された作業。
それを見守っていたミロたちは揃って声を上げた。
「「「やっぱりお母さんじゃん!」」」
「誰がお母さんだ! 人生を真面目に生きてるだけだぞ俺は!?」
たとえ旅先であろうと、食事、睡眠、寝床、生活習慣……そういったものを年下のミロたちが疎かにしないように、最善を尽くしているだけだ。
「……それを人は“お母さん”と言うのでは?」
ハルカのツッコミがグサリ! とツバサの胸に突き刺さった。
「ツバサさん、現実にいた頃からオカン系男子だもんねー」
「んな、トモエ、オカンなツバサ兄さんしか知らない。正直、もう兄さん呼びやめてツバサママって呼びたい。兄さん、違和感ありまくり」
グザグサ! とミロとトモエから言葉まで突き刺さる。
「まー……確かに、オレっちも本音のところ、ツバサさんを兄貴って呼ぶのはどうかなーって思わなくもないっす。こんな綺麗なお母さんみたいな人を……」
人差し指で頬をかきながら、カズトラの何気ない一言。
これもグサリ! と心臓を抉るように刺さった。
これでもしも、ドンカイが余計な一言を口にしようものなら、それはツバサの男としてのプライドに精神的な致死ダメージを与えただろう。
しかし、そこは角界の頂点まで登り詰めた男。
「……ノーコメントじゃ」
ツバサの男心を察してくれたのか、何も言わずにいてくれた。
ツバサは巨大すぎる乳房の上から心臓を押さえて、荒い呼吸を繰り返しながら、大ダメージを負った男心を立て直そうとする。
「…………本気で男に戻る方法でも探そうかな」
「「「それはダメェェェーッ!?」」」
苦悩するツバサの一言に、過剰反応する3人の女子。
「ツバサさん、あたしの赤ちゃん産んでくれるって約束してくれたでしょ!? それに、どんなに頑張ったって戻れないって結論出たじゃん!」
ミロは当然のように引き留めてくる。
ツバサの胸に抱きつき、半泣きでギャンギャン喚いていた。
「んなーっ! ツバサ兄さんのおっぱいとお尻、トモエ大好き! それを捨てるなんてとんでもない! トモエ反対! 断固抗議!」
トモエもツバサの尻にしがみつき、尻の谷間に顔を埋めていた。
最後に──この娘が制止してくるとは思わなかった。
「ツバサさんはそのままでいてください! こんなグラマラスボディの美人モデル、千年に一度巡り会えるかどうか……もっとツバサさん専用のエロティックでダイナミックなコスチュームを作らせてください!」
ハルカまで腰に抱きつき、女性のツバサを求めてきた。
それもファッションモデルとしてだ。
この娘もなかなかどうして、自分の欲望に素直なところがある。
「俺がオカン……じゃない、俺に女のままでいてほしい理由が、おまえら自分本位過ぎるだろ! 俺の気持ちもちょっとは考えろよ!?」
本来、ツバサは二十歳の男子である。
極端に女性的な顔だという以外は、身長も高く身体も鍛えていたので、そこそこ男らしかったはずなのだが……。
真なる世界に来たら──この豊満な女神の肉体だ。
アルマゲドン時代に何度か男に戻る機会もなくはなかったのだが、ミロやマリナに甘えられてお母さんを演じてきた結果がこれである。
ミロたちを振りほどくと、ツバサは両手で恥ずかしそうに胸を隠そうとするが、大きすぎて覆いきれずはみ出すくらいだ。
こういう些細なことで尚更──自分の身体が“女”だと自覚する。
「……ハァ、もういい。この話はやめだやめ」
ツバサは長いため息をつくと、眼を閉じてそっぽを向いた。
こういった話をすればするだけ、ツバサは思い知らされてしまう。
もう自分がどうしょうもないくらい、女性で、女神で、地母神で、そして母親になってきているという事実を──。
だから直視したくない──少しでも眼を逸らしておきたいのだ。
無意識に男心の防衛反応が働いた結果なのだろう。
「明日も早いんだ、遊んでないでさっさと寝ろよ」
そう子供たちに言い付け、ツバサは簡易式バンガローへ足を向けた。
以前ならここで男性用のバンガローに入っていたところだが、さすがに何回も繰り返せば覚える。嫌々ながらも女性用に入っていく。
男性陣のバンガローには──ドンカイとカズトラ。
女性陣のバンガローには──ツバサ、ミロ、トモエ、ハルカ。
部屋分けはこんな感じである。
久々に女性化した身体をネタにされたので気分が悪い。今日はすぐに寝よう。
寝て起きれば別の日だ、とツバサはふて寝するつもりだった。
「あ、待ってくださいツバサさん」
バンガローに入る寸前、ふとハルカに呼び止められる。
「寝る前に……汗を流しませんか?」
~~~~~~~~~~~~
ハトホルの谷を出て──まだ1日目。
ドンジューロウの一団より速い移動系技能を使っているので、キョウコウの根城がある大陸中央には明日の昼頃には到着予定である。
ハトホルフリート? あんなデカい船で偵察はできない。
いくら威力偵察を前提としているとはいえ、最初から飛行戦艦で乗り付けるなんて悪手もいいところだ。前提はあくまでも様子見である。
なので、技能を用いて駆け足でここまで来た。
夜は野営するということで身を隠せそうな森を探し、その中にバンガローの設営地を設けて一晩の借宿とするつもりだったが……。
「えっと、確か、この茂みの奥に……ほら、ありました」
野営に選んだ森の奥、道を塞ぐ木陰をハルカがかき分けていく。
その向こうに現れたのは──濛々と湯気を上げる泉だった。
岩の裂け目から源泉が湧いており、周囲も手頃な石で組まれている。
水質も澄んでおり、丸石が敷かれたような底までしっかり見えていた。それほど深くもなく、ちょうど湯船にぴったりの浅さだ。
「キノコや山菜を採っている時、偶然見付けたんです」
「温泉か……うん、ちゃんとした鉱泉だ」
ツバサは手を差し込んで、自然を司る過大能力を発動させる。これにより温泉の成分や効能、源泉の深さなどをチェックした。
「少々ぬるいが、温泉の成分は申し分ないな……よし」
地母神の力でちょっと手を加える。
湯温を適温に上げつつ、入浴で得られる強化を追加する。
「これで良し、寝る前にみんな一風呂浴びておいた方が良さそうだな」
「やったー! 露天風呂の温泉だー!」
「んなーッ! トモエ一番乗りー! 早く入る! 早く入る!」
「待て! 今すぐ脱ごうとするな!」
ツバサは服を半分脱いでいるアホ娘とバカ娘を押さえつけた。
風呂を入る順番を決めようとした矢先、ドンカイがその豪腕を伸ばしてカズトラを襟首を掴む。持ち上げられたカズトラは「へ?」と驚いていた。
「あ、あの、親方さん? これはなんなんすか!?」
「こういうのはレディファーストが世の習わしじゃ。ワシら男組は後でいいから、女性陣でゆっくり浸かってきなさい」
そういってカズトラを持ったまま、ドンカイは温泉から離れていく。
「御主は腹ごなしの運動に付き合え。昼間、野牛を仕留めるところを見ていたが、どうにも動きに無駄がある。ちょいと手解きしてやろう」
「け、稽古つけてくれるんすか! ありがとうございます!」
ドンカイ親方の申し出にカズトラは喜んだ。
カズトラは日頃から「強くなりたい!」とアハウに漏らしており、そのために自己流のトレーニングなども欠かしていないそうだ。
ナアクとの一件──それが堪えているのだろう。
何もできなかった自分を恥じて、強くなるために自分を鍛え直そうとしているのだ。この偵察に加わったのも経験を積みたいからだという。
そんな最中、大横綱から稽古の誘いだ。
これを断れば男が廃る、カズトラは嬉々としてついていく。
「……いや、あれは持ち運ばれてるな」
ドンカイはカズトラを猫みたいに掴んだまま連れて行った。
さて、残された女性陣はといえば──。
「ひゃっほーい! 温泉だー! しかもこの広さなら泳げるーぅ!」
「んなー! トモエ一番乗りーッ!!」
あっという間にスッポンポンになったミロとトモエが、水泳みたいな勢いで温泉に飛び込んだ。ドポーン! という音とともに湯柱が上がる。
同時にゴチーン! と石に頭をぶつける音がした。
そして、ぷかぁ……と浮かび上がるミロとトモエ。
2人の頭には特大のたんこぶができていた。
「おまえらアホでバカか! プールじゃないんだから底が浅いに決まってんだろ! そんなところに飛び込んだりしたら……ッ!」
「そりゃまあ、こうなりますよね」
ハルカも呆れ顔で苦笑するよりなかった。
しかし、そこは神族。不死身のタフネスで復活する。
「ダイジョーブ! 神族は身体が資本! さあ、泳ぐぞーッ!」
「待ってミロ、トモエも泳ぐ! 犬かきー!」
アホ娘とバカ娘は、温泉とプールの区別がつかないらしい。
それとも温水プールのつもりだろうか?
広い露天風呂の奥まで泳いでゆくと、互いにお湯を掛け合ったり、素潜りをしたりと遊び放題だった。まあ、他に誰もいないので大目に見よう。
「それじゃあツバサさん、私たちも……」
ハルカはカーディガンに手を掛け、自分も湯船に浸かるため服を脱いでいく。アホのミロたちとは違い、脱いだものをちゃんと畳んでいる。
キチッとしているな、とツバサは感心した。
その反面、ブラウスまで脱ごうとしたところではたと気付く。
「いや、待て待て! 俺の前で脱ぐなよ!? 俺は…………」
男だぞ!? とツバサは言いかけて言葉を飲んだ。
このやり取りは何度も経験済みである。
ツバサはまだ自分が男だという強烈な意識があるのだが、このダイナマイトボディな女体では説得力がない。
『ツバサさんならOK! むしろドスケベボディを見せて!』
逆にせがんでくる女性の方が多いのだ。
「大丈夫です、私なら気にしませんよ。ミサキ君ともよく一緒にお風呂へ入ってますからね……ツバサさんなら別に構いませんよ」
ハルカは艶やかに微笑むと、何故か舌なめずりをした。
「いえ、むしろ……こちらが、ツバサさんの裸体を隅々まで拝ませていただきたいくらいです……ええ、今後のコスチューム作りの後学のためにも!」
ハルカ──おまえもか。
ただし、他の連中が桃色の好奇心に駆られるのとは違い、ハルカの場合は極上の素材を前にした芸術家みたいな審美眼を働かせている雰囲気があった。
もっとも、その根底にあるのはやっぱりエロスへの好奇心なのだが……。
「あ、そう……いや、そうじゃない……気がするんだけどなぁ……?」
いくら女神になったとはいえ、仮にも男だったツバサの前で女の子が裸をさらすのはいかがなものだろう? と訴えているのだ。
今更だ──という気持ちはツバサにもある。
なにせツバサも我が家ではミロやマリナにジャジャやトモエはともかく、ジョカやクロコやフミカとまで混浴を済ませているのだ。
ジョカはギリギリ許容範囲として、クロコやフミカはあちらが拒むものだと思っていたが、あいつらは積極的に混浴を求めてきたのだ。
『ツバサ様の柔肌、柔乳、柔尻……うっ、想像しただけで鼻血が!』
『バサ兄のおっぱいが、どのくらい湯に浮かぶのか見てみたいッスねー♪』
あの女郎どもめ……覚えてろよ。
そして、ハルカもまた彼女たちと同じ眼をしていた。
着ている物はすべて脱ぎ捨て、ハルカは裸体を晒している。
いかにも未発達の少女らしい肢体。ツバサのように成熟した女の色香とは対照的な、若々しくも瑞々しい乙女の魅力にあふれていた。
実際、ミロなどは発育がいい方だ。
ハルカのボディラインはトモエに近いが、あそこまで筋肉質ではない。
純然なる乙女の裸体──しかも、見慣れた家族のではない。
愛弟子が恋人として愛する美少女の裸だ。
なんというか……ミサキに申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになるし、男としての罪悪感も半端ではない。胃がキリキリ痛んできた。
「ささ、私もこうして生まれたままの姿になったわけですし……ツバサさんも遠慮なさらずに脱いで脱いで……ほらほらほら~♪」
いくらかは恥じらいがあるのか、裸を晒したハルカは温泉に浸かる前からほんのり頬を桜色に染めると、まごついているツバサを脱がせに掛かった。
「いや、ちょ、待て……どうしてこんな手慣れてるんだ!?」
「フフフ、ミサキ君に新作を着せたり脱がせたりしていますからね。そりゃあ手練手管も身につきますよ……さあ、後は下着だけですよ~♪」
「変な技能身に付けてない!?」
脱衣(他者に限る)とか、そんな技能あるのだろうか?
ミロやトモエなら殴って終わりだが、余所の子はそうもいかない。
ハルカに手を上げるわけにもいかず、ろくに抵抗もできないツバサは、気付けばブラジャーもショーツも剥ぎ取られて丸裸にされていた。
その裸体を見つめて、ハルカが「はぅ……」と吐息を漏らす。
「素晴らしい……ッ! エクセレント……ッ!」
歓喜の笑みで両手を頬に添えると、至福の声でツバサの肉体美を賞賛する。
「身の丈、バスト、ヒップ……あらゆる面でミサキ君より一回り大きいのに、全然見苦しくなくて、圧倒的なボリュームにもかかわらず、均整の取れた媚態 を保っているなんて……ッ! 素敵です、ツバサさん! さすツバです!」
「ちょっと待て! そのセリフ、どこで覚えた!?」
クロコが教えたのか!? とツバサは裸のままで怒鳴る。
「あ、でも……そことそこは、やっぱりミサキ君と比べると面積やサイズが大きいし、色もちょっとだけ……うん、お母さんっぽいですよね」
「率直に乳首と乳輪って言えよ! 気にしてんだから察するわ!」
半べそをかいて両胸の頂点で両手で覆う。
ツバサはハルカのマジマジと見つめる視線から手ブラで胸を隠し、太股を擦り合わせて前屈みになって股間も隠した。
今でこそ女性同士だが、やっぱり裸を凝視されるのは恥ずかしい。
いや、元男だからそう感じるだけなのか?
「ウフフ……ミサキ君もそうでしたけど、やっぱりツバサさんの反応も初々しくていいですね。まるで、羞恥心を覚えたばかりの女の子みたいで……そんな誰よりも女性らしい体付きをしているのに……とっても新鮮です」
そんなツバサの痴態を眺めて、ハルカはほくそ笑んでいた。
これ以上、彼女のオモチャにされるつもりはない。
ハルカはある意味──ミロよりタチが悪い。
「……もうっ、俺で遊ぶのはやめてくれ……ほら、風呂入るぞ風呂!」
ツバサは声を荒らげると、急いで湯船に身を沈めた。
お湯でハルカの嘗め回すような視線を和らげられれば……と考えたのだが、彼女は遠慮なくツバサの前に陣取った。
お湯越しだろうとお構いなしに、ツバサの裸を見つめている。
これは……観察していると言うべきか?
「この特大バストになら……生地をこうやって、いや、フリルを付けてもいいかも……ああ、ブラはシームレスをベースにレースをふんだんに使って、補正力と見栄えとデザインを兼ね備えた……ああっ、創作意欲が止まりません!」
「お、落ち着けハルカ、なんか怖いぞ!?」
ハルカは興奮しているのか、両手をワキワキさせながら、今にもツバサの身体へ直に手を触れてきそうだ。触診しながら服の採寸でもするつもりだろうか?
「もう我慢できない……ミロちゃん、交渉OK!?」
ハルカはやおら振り返り、トモエと遊んでいるミロに持ち掛ける。
ミロはグッドサインで即答してきた。
「OK! お題はなーに?」
「ツバサさんの神秘的な柔肌をこれでもかってほど触らせて! おっぱいとかお尻とか特に! ついでに採寸して専用コスを山ほど作るから!」
ハルカの提案に、ミロは目を細めて渇いた笑みを浮かべる。
それは商談に臨む悪代官のような笑顔だった。
「……して、見返りにアタシが貰えるものは?」
「ツバサさん専用のエッチな下着やドスケベな衣装を30点!」
「……そこは50点でしょうよ」
「よーし、なら100点作ってあげるわ!」
「OK! 商談成立だね!」
「競り合いになってないし、対価が増えまくってるじゃねーか!?」
ツッコミ役として指摘せずにはいられなかった。
などとツッコミをしている暇はない。
ミロからお許しが出たハルカは美少女はしてはいけない、エロ親父みたいな笑顔を浮かべて十本の指を蠢かした。
「フフフ……これでツバサさんの肉体は、一時的に私の管理下に置かれることになりました……さあ、隅々まで調べ尽くさせてくださいね……♪」
ハルカの眼が怖い──気迫まで達人のようだ。
気圧されたツバサは、我知らずのうちに後退っていた。
「お、おい、待てハルカ……こんなの駄目、間違って……」
だがしかし、背中には露天風呂の岩が当たるばかり──逃げ場はない。
「まずは、その母なる大地の如きバストですよね……ああ、ミサキ君のおっぱいでも私の手に余るのに……ウフフ、片方でも両手使わなきゃね~♪」
えいっ! とハルカは躊躇せず、ツバサの乳房を揉みしだいた。
この時──悪条件がいくつか重なった。
忙しすぎて“搾っている”暇がなかったのと、ここまでの道中で1人になる機会がなかったので処理していなかったので“溜まっていた”のだ。
おまけに──温泉で温められた乳腺。
ハルカに揉みしだかれた乳房は、溜まりに溜まったハトホルミルクを一気に放出してしまい、彼女はそれを真正面から浴びた。
白濁液まみれのハルカはキョトンとした顔で一言──。
「えっ…………本当に、お母さん?」
お母さんと呼ばれたツバサは──真っ赤だった。
顔、頬、耳、首どころではない。肩まで赤く染まっていたのは、決して湯あたりしてのぼせたためではない。死ぬほど恥ずかしいからだ。
「だっ、だ、だ……誰がお母さんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」
ガン泣きから迸ったツバサの慟哭が、満天の星空に空しく響いた。
~~~~~~~~~~~~
女性陣が風呂から上がり、交代で男性陣の番となる。
「ねえドンカイ親方、この温泉……こんな真っ白でしたっけ?」
カズトラの疑問にドンカイも同調する。
「うーむ、さっきチラッと見た時は澄んだ湯だと思ったが……乳白色に染まっておるのう。はて、見間違えたのじゃろうか……?」
「白い入浴剤でも混ぜたんすかね?」
そりゃなかろう、とドンカイはカズトラの思い付きを笑った。
「温泉そのものに立派な効能があるんじゃ。わざわざ入浴剤を入れることもあるまいて……ほれ、入ってるだけで色々と強化がつくしのぅ」
「そうなんすよね……この温泉、メチャクチャ強化がつくんすよね」
「ま、現実でもこういう天然温泉はいくらでもあったわい」
気にすることもあるまい、とドンカイは湯船に巨体を沈めた。
「はぁ……でもこのお湯。なんか、スゲーいい香りがするんすけど……」
まあいいか、とカズトラも肩までしっかり浸かる。
女神ハトホルの湯──乳白色に染まった温泉と強力な強化効果。
その真相を、男たちは知る由もない……。
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特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
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