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第7章 還らずの都と灰色の乙女
第153話:人の器 神の器
しおりを挟む夜を徹しての宴は自然と幕が引かれていく。
まず子供たちがダウンした。
マリナとカミュラはジャジャを抱き枕に、それこそ取り合うようにして眠り込んでいた。間に挟まれたジャジャは魘されている。
トモエは3人の近くで大の字を書いて寝ていた。相変わらず家にいる時は体操着にブルマだが、腹筋の目立つお腹を出したままグーグー寝ている。
はしゃぎ疲れて眠ってしまったのだ。
それより上の高校生勢はしばらく起きていたが、まずフミカがダインに寄り添うように寝落ちすると、ダインもそのまま眠り込んでしまった。
気付けばハルカも寝入っている。
彼女を胸に抱えたミサキも、いつしか静かな寝息を立てていた。
窒息しかねない勢いでミサキの乳房の谷間に顔を埋めているハルカだが、幸せそうな寝顔を見てしまったら何も言えない。
ジンもクロコによって亀甲縛りよりも複雑に、しかも両手両足を背中側へ折り畳むように縛り上げられて、天井から荒縄で宙に吊されていた。
やったのはクロコである。
ジンたっての願いで、SM的指導をしてあげたらしい。
「──こちらが駿河問いになります」
どうでもいい豆知識がクロコによってもたらされた。
ジンは吊されたまま、鼻提灯で眠り込んでいる。
この状態で熟睡できる神経も大したものだが、一定の速さで回転を続けているのはどういう原理だろう? 妙な遠心力でも働いているのか?
この時点で未成年組は全員脱落である。
大酒を飲み過ぎたセイメイも高いびきを上げている。その脇では兄の卵を抱いたまま幸せそうな寝顔のジョカが寄り添っていた。
レオに相手にされずつれなくされたアキとクロコは、レオ本人を前にして鬱憤を晴らすため、ヤケ酒を浴びるように飲みながら不満を喚いていた。
こういうことは現実でもあったらしく、レオはウイスキーをチビチビやりながら「はいはい」と聞き流している。それでも聞いてもらえるだけマシなのか、アキもクロコも思いの丈をぶちまけていた。
自分たちはこんなにもレオを慕っているのに──と。
これに対してレオは「おまえたちはただの世話の焼ける後輩だ」と冷淡に切り捨てた。現実でも同じような塩対応をされたらしく、ブーイングの嵐である。
「やっぱりあれッスか、ミサキ君みたいな子のが可愛いんスか? 美少年趣味ッスか? それとも今の女神スタイルに惚れ込んじゃったんスか?」
「まさかレオ様にお稚児の趣味があったとは……レオ×ミサキ、萌えますね」
面と向かって悪口を言われても、レオはどこ吹く風である。
「何とでも言え、おまえたちとは絶対に関係を持たん。無論、ミサキ君をそういう眼で見たこともない。お門違いもいいところだ」
俺の想い人は遠いところにいる──それだけを明かした。
言いたいことを吐き出し、吐くほど酒を呑んで、アキとクロコはとうとう酔い潰れてしまった。
互いに大きな爆乳が邪魔にならぬように工夫して、女性同士抱き合ったまま慰め合うように寝ている。時折、クロコが寝言で「百合ぃ……」と呻いているのは気のせいだろう。気のせいだと思いたい。
ドンカイもあぐらのまま腕を組み、コクリコクリと船を漕いでいる。
途中からセイメイに付き合って飲み比べめいたことをしていたので、強い酒が効いたのだろう。それでもうたた寝ぐらいの酩酊ぶりらしい。
結局──最期まで起きていたのは2人だけだ。
~~~~~~~~~~~~
ハトホル一家の我が家、応接間に面したウッドデッキ。
ウィスキーを半分ほど注いだグラスを手に、そこへと出たレオはデッキの柵に肘を預けて満点の夜空を見上げていた。
「不思議だよな──この世界の夜空、地球のものとよく似ている」
寝入った者たちに毛布を掛け終えたツバサも、グラスに軽めの果実酒を炭酸で割ったものを手にウッドデッキへと出てきた。
「……まだ、そんな格好をしているのか」
振り向いたレオは、ツバサの姿にわずかながら眉をひそめる。
ツバサはまだバニーガール衣装のままだった。
着替えるのも面倒なのと、酔って多少気が大きくなっているせいか、このままでも良くなっていた。あと、こういうレオの反応を見たかった。
ちょっとからかってやりたかったのだ。
「そんな顔するなよ、俺よりおっぱい星人のくせして」
ツバサはレオの横に並ぶと、彼と同じようにウッドデッキの柵へもたれかかる。柵の上にわざとらしく胸を置いて、その爆乳を強調した。
すると、レオはますます眉をしかめていく。
「それとこれとは話が別だ……俺が乳だけにしか興味のない男なら、とっくの昔にアキやクロコたちに堕ちているだろうが」
「据え膳食わぬは男の恥、とも言うけどな」
この諺に対して、レオは韻を踏んで返してくる。
「据え膳食わぬ男の意地、もあるだろう……君だってクロコの厄介さは身に染みてるんじゃないか? あれを妻として迎える覚悟があるか?」
「無理だな──ああいうのが好きな野郎もいるだろうけど、俺は無理だ」
即答するツバサに、レオも頷いてからグラスを傾ける。
「俺も無理だ──まだツバサの方がいい」
冗談めかしてレオが言うと、ツバサも苦笑して果実酒を舐めた。
「おまえみたいな堅物、心の底まで女になっても御免だ……それ以前に俺へ粉を掛けた瞬間、ミロに斬り殺されるぞ。膾斬りどころじゃない、微塵斬りだ」
「知っている、俺とてそんな顛末は御免だ」
ツバサとレオは似たような表情で静かに笑った。
ひとしきり笑い合った後、レオは微笑みながら安堵の吐息をついた。
「安心したよ……ツバサはウィングのままだ」
「なんだよ、そりゃ……」
妙な物言いに憮然とするツバサにレオは微笑んだ。
男臭いその笑みが、なんだか羨ましかった。
「ツバサがウィングだということは知っていたからね。ミサキ君たちと一緒にいる時は極力接触を避けていた……そのことはわかっているだろう?」
「ああ……それと安心がどう繋がるんだ?」
ウィスキーで喉を潤してから、レオは安心の理由を語る。
「ツバサ君のことはミサキ君やジン君、それにハルカ君からもそれとなく耳にしていた。皆、一様に君のことをこんな風に評価していたよ」
優しくも厳しい──お母さんみたいな人だと。
「誰がお母さんだ」
ツバサが決め台詞で返すと、レオは相好を崩した。
普段の堅苦しい表情からは想像もつかないほどの人懐っこい笑みだ。それは心を許した親友にしか見せない、親近感に溢れるものだった。
「そう、それだ。お母さん扱いされると決まって機嫌を悪くして、そのように返すと……年下の子たちをまとめあげて、本当のお母さんのように振る舞う人物像と、アシュラ時代、戦いに明け暮れた君がいまいち合致しなくてな」
ミロ君の世話を焼いているのは聞いていたが、とレオは付け加える。
「ミサキ君がツバサ=ウィングだと口にしていたけど、伝え聞く人物像がちょっと違うので、いまいち疑心暗鬼に囚われていたところがあった……しかし、こうして他愛もない話題で盛り上がっていると、かつてのウィングを思い出す」
ツバサはウィングのままだ、とレオはもう一度言った。
これにツバサは心外だと言いたげに答える。
「……なんだよ、なりすましだとでも思ってたのか」
そういうわけじゃないさ、とレオは断ってから話した。
「人は常に仮面を付け替える。家族、友人、知人、仲間、他人……それぞれに違う側面を見せるものだ。だから、ツバサが俺やセイメイといったアシュラ勢に見せる顔と、ミサキ君やミロ君に見せる顔は違うと思っていた」
ミサキやミロに見せるのは──厳格なれど慈愛に満ちた母親の顔。
レオやセイメイに見せるのは──好敵手であり友達の顔。
「俺にはミサキ君たちのように母親の側面で接しようとせず、アシュラの頃のように接してくれたところを見ると……あの頃と変わらず、俺を友人として認めてくれたのだと思ってな。ちょっと感慨に耽っていたところだ」
「その分析家めいた喋り方も相変わらずだな……」
おまえらしい、とツバサは鼻で笑った。
果実酒を多めに飲んでアルコールで気持ちを盛り上げてから、ツバサはレオにある提案を持ち掛けてみた。
多分、勘違いすると思うが──。
「その親友からの相談だ。レオ、ミサキ君を……」
「ミサキ君ならやらんぞ、俺の弟子だ。絶対に君の弟子にはさせない」
それでも彼を奪うというなら……レオは開いた手から気の杭を何本も突出させた。本当、こいつは愛弟子のことになると人が変わる。
弟子への独占欲が強すぎるのだ。
ツバサがミロを愛して已まないように、レオもミサキを(弟子として)愛して已まないのは重々承知だ。話を振っただけで逆らうと思っていた。
「誰も奪りゃしないよ……まあ、俺も弟子にしたくはあるが……」
「──よし、戦ろうか」
レオは銀縁眼鏡の奥にある眼を血走らせた。
殺気立つレオの気迫に当てられ、「お、戦るかこの野郎?」と血が騒いだツバサの脳内に、スタン・ハ○センの入場曲“サン○イズ”が鳴り響いた。
突発的な乱闘には、不思議とこのBGMがしっくりくる。
だが、さすがに拠点で限界バトルをするのはヤバい。
さっきミロに怒られたばかりなのだから自重せねば……。
「だから話を聞け! 本当、ミサキ君のことになると眼の色変わるな!」
ちょっとツバサが口を滑らせただけでこれである。
ツバサがミサキを弟子に取ろうと冗談めかしただけで、殺し合いに発展しかねない勢いだ。今でさえ気の杭を構えて臨戦態勢である。
「おまえがミサキ君の師匠で、俺は合気系の流儀を教えた先生だ! おまえの師匠っていうお株を奪うつもりはない! ただな──」
俺にもミサキ君を鍛えさせろ、とツバサは申し出た。
師匠という立場が守られた、とわかったのでレオも矛を収めてくれたが、ツバサの提案を鵜呑みにできないというか、意図がわからないようだった。
「……君もまたミサキ君の才能に惚れ込み、彼の才能を磨きたいという話は聞いていたが、そうまでしてミサキ君に入れ込む理由はなんだね?」
「根底にある理由はおまえと大差ないと思うぞ」
ツバサもまた、ミサキの類い希なる才能に惚れ込んだだけだ。
ゆえに──捨て置けない事実に気付かされた。
「俺もミサキ君の才能がどこまで伸びていくのかを見てみたい……だからこそ、彼が抱えることになるであろう不安の種を見過ごせない」
「不安の種、だと……?」
ミサキに問題があると聞いて、レオの表情も険しくなる。
今日の仕合でそれが判明した。
ミサキをあのままにしたら──彼は壊れかねない。
ツバサは果実酒を飲み干した。
グラスを柵の上に置いて、レオへと真顔で向き直る。
「レオ、おまえも薄々は気付いているんだろう? あの子は持って生まれた才能が大きすぎる……それがあの3つの過大能力という形で現れた」
ミサキという器に、あの力はまだ大きすぎるのだ。
「これは俺の師匠の台詞だがな……」
──人には“器”というものがある。
~~~~~~~~~~~~
いつの頃だったか、ツバサ自身もうろ覚えだ。
家族が存命だからツバサが11~13歳くらいだろう。
どことも知れない山奥に「キャンプだ」と連れ出され、そこで極限0円サバイバル生活を強いられつつ、師匠に稽古をつけられたことがある。人里離れた深山幽谷で山籠もりの修行をさせられたようなものだ。
夜は炭焼き小屋みたいな場所で暖を取り、自給自足で食事をした。
ツバサは自分で狩ってきたクマやイノシシの肉を焚き火でしっかり焼いて頬張りながら、師匠はそれを肴に瓢箪の酒を舐めていた。
「──人には器ってもんがある」
どういう経緯でそのような話になったかはよく覚えていない。
だが、ここから先の話は鮮明に記憶している。
「おまえらみてぇな現代っ子なら許容量って言った方が通じやすいか? 要はものを入れる器ってことだな。人もまた器なんだよ」
「うん、なんとなくわかる。国語で習った気がする」
ツバサは持ち込んだ焼き肉のたれを熊肉に漬けて食べる。野生の獣は旨味も強いのだが、筋肉質で歯応えがありすぎて食うのに難儀したものだ。
よく噛んで食べながら、自分の知ってることを話してみた。
「よく漫画やラノベで“おまえの器じゃない”とか“あいつは王の器じゃない”なんて台詞を読んだこともある」
「そうだな。まあ、物の例え、そういう言い回しってだけだ」
だがな──人の器は大切なものなんだよ。
そう師匠は前置きすると、とっくりツバサに言い聞かせてきた。
「人間、強くなるのは大して苦じゃねえ。鍛えよ、ただ鍛えよ、ひたすら鍛えよ、これだけでいい。そして、やがて壁にぶつかる。そっから強くなれねえ」
人間はな──自分の器を超えて強くはなれねえんだ。
「……それで師匠は許容量って言ったのか?」
オフコース、と仙人の風貌に似合わない英語で師匠は答える。
「おまえなんかは器がでけえから、俺が教えたことをスルスル飲み込んでいく。そういうのはいいんだ、教え甲斐がある。ただな、まれに厄介な奴もいる」
元からある才能と──器の大きさが釣り合わない者。
「器が大きすぎて才能が小さすぎるなら全然いい。その才能を育ててやればいいんだからな。だが、この逆だと大変だ。どうなるかわからん」
「その逆……器よりも才能がでかい、ってことか?」
そうだ、と師匠は枡に注いだ酒を煽り、酒臭い息で語り出す。
「才能が大きすぎて、器からはみ出そうになってる奴がいる。器が小さいのは幼すぎるとか、まだ未熟とか、他にも色々と理由はあるだろうが……そういう奴は大抵、でかすぎる才能に合わせて器が歪んでいっちまうんだよ」
一度でも歪んだ人の器は──修復不可能となる。
その人間は類い希な才能を持ちながら、自ら抱えた才能に自分の器を崩れるように歪まされ、どうしようもない人間に成り果ててしまうというのだ。
「そうやって器を歪めていく者や、器を歪めたゆえに才能まで潰しちまった奴を俺ぁ何人も見てきた……だからツバサよ、おまえにゃしっかり躾けとく」
これから先、おまえも才能を持て余す者と出会うこともあるだろう。
「そういう奴を──おまえは導いてやれ」
いつでもぶっきらぼうな喋り方をする師匠。
その師匠がいつになく、思いやりを込めた言葉で告げたのだ。
少々面食らうツバサに師匠は情感を込めたまま言う。
「おまえにゃ誰かを教え導く才覚がある。もうちっと腕を上げたら、そっち方面も鍛えてやる。そして、おまえが“これは!”と思える才能に出会えたなら……そいつを助けてやりな、強くなったおまえがよ」
優しいおまえなら適うはずだ、と師匠は結んだ。
~~~~~~~~~~~~
ツバサの話にレオはショックを隠し切れていなかった。
彼もまたミサキの才能に魅入られているからこそ、彼の持ち得る才能が大きすぎることに不安を感じていたに違いない。
それをツバサが明確にしたため、愕然としているのだ。
「……これはミサキ君のせいでも、おまえのせいでもない」
ツバサはフォロー気味に言葉を付け加えた。
「ミサキ君の器は大きい。現実世界でも一廉の成功を成し得たし、武道などに打ち込んでいたら、その道で大成しただろう。だからVRゲーマーとしても、あれだけ名を馳せることができたんだ」
「元より内在異性具現化者は魂の力が強い……それが真なる世界に来て、より顕著に、確かなものとして顕在化してしまったわけだな」
レオは気を確かにすると、ツバサの話を理解してくれた。
「ああ、その通りだ……現実でなら、ミサキ君の人としての器は申し分なかった。だが、真なる世界に来て神族になったことで、その有り余る才能が過大能力という形で現れ、俺たちとはスケールの違う才能を発揮してしまったんだ」
次元から世界の成り立ちを創り直す能力──天の才覚。
世界の構成を育むも滅ぼすも自在の能力──地の才覚。
人として完成された心技体を備える能力──人の才覚。
「彼の巨大すぎる才能に、まだ器が追いついていない……このままだとミサキ君は遠からず歪んでしまう。それほど強大なものを持っているんだ」
人間のままならば目覚めることのなかった神の才能。
恐るべき神の才能に、人としてのミサキの器が追いついていないのだ。
天の理、地の理、人の理──3つの理を統べる窮極の真理。
「……ツバサはミロがいれば、2人でその真理に辿り着けると思っていた。いや、1人では辿り着けないと思い込んでいた。だが、彼は違う」
単身で、そこに到達できる可能性を秘めているのだ。
ツバサはレオの眼を覗き込んで言った。
「おまえはミサキ君やミロを“俺たちの切り札”だと言ったな? それも間違いじゃないが……どちらも、この世界を導く指導者になる器でもあるんだ」
ミロは主神の王権という力を授かっている。
それをツバサが地母神という后の力で支えればいい(不本意ながら)。
「ミサキ君は俺やおまえの支えがなくとも、ひとりで神々の王になれる可能性を秘めている……おまえも彼には、そうなって欲しいんだろう?」
レオがミサキの部下になったのはそのためだ。
イシュタルランドに辿り着くまでの短い時間に、ハルカやジンからもそれとなく聞き出している。レオがミサキをどうしたいかについてもだ。
「ああ……俺はミサキ君がこの世界を導く者だと確信している」
そうなるように彼を導きたい、とレオは夢を語った。
自分にこの世界を統べる資格などありはしない。だが自らが見出した弟子にその才覚を認め、それを教え導きたい。
レオナルドの抱く願望はそこにあるのだろう。
そして、そこにツバサは少なからず共感することができた。
「弟子ってのは……可愛いもんだよな」
神々の乳母となり母性本能が刺激されまくりのツバサにすれば、ミロやマリナやジャジャにトモエにフミカやダインにジョカだけではない。
イシュタル陣営の子供たちまで可愛いのだ。
ミサキやジン、それにハルカとは短いながらもパーティーを組んで世話を焼いた過去もあるので、我が子の一員のように感じてしまうこともままあった。
手塩に掛けて育てているミサキなら尚のことである。
「……恐らく、ミサキ君は無意識の内に、自身の過大能力へセーブを掛けているのだと思う。彼の過大能力は本来、俺やミロの能力に匹敵したはずだ」
だが蓋を開けてみれば、すべてがツバサたちの劣化版。
これは恐らく、3つの過大能力をフルパワーで発揮するとミサキが『自分という器が壊される』と無意識に察し、自ら出力調整しているのだ。
「まだ間に合う──ミサキ君の器は歪んでいない」
ツバサは意を決した表情で告げる。
レオへ協力を求めるように、ツバサ自身から願い出るように──。
「ひとまずの目標は、ミサキ君を鍛え、その器が大きくなるよう指導に努める。彼が俺たちの上に立てるほどの人間……いや、神に育て上げることだ」
ミサキの器を育んでいく──これをツバサとレオナルドでやるのだ。
「……それに、ツバサも協力してくれるのか?」
恐る恐る尋ねてくるレオに、ツバサは快く笑顔で応じた。
「当たり前だろ──俺にとってもミサキ君は可愛い“生徒”なんだから」
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