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第7章 還らずの都と灰色の乙女

第152話:宴の支度~宴の始末

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「では、僭越せんえつながら乾杯の音頭を取らせていただきます」

 ツバサは鮮やかな色合いの果実酒を満たしたグラスを掲げ、みんなに注目される中、臆することなく高らかに叫んだ。

「──乾杯ッ!」

 カンパーイッ!! と全員も叫び声で返してくると近くにいる者たちでコップや杯を鳴らし合い、そのまま飲み干していく。

 宴会のパーティーは、ツバサたちの拠点で催された。

 いつもツバサたちが寛いでいる広い応接間を片付けると、車座くるまざに座って食べたり呑んだりできるようにした。立食パーティー風にしても良かったのだが、どうせなら寛げるようにと、こういう形式にした。

 花見でどんちゃん騒ぎするみたいな感じだ。

 料理や飲み物は山ほど用意してあるので、みんな自由に飲んだり喰ったりしてもらった。どちらも補充できるようにしてある。

 ツバサ、クロコ、ジン、の3人がかりで大量に作ったものだ。

 余らせたとしても保存が効くものが多い。

 そして、今日ばかりはクロコもメイド業務から解放した。

 代わりと言ってはなんだが、彼女のメイド人形マリオネットたちに給仕をさせている。ダインの協力により人工知能が改善されたので普通に有能だった。

「無駄口を叩かず、主人にセクハラもせず、下ネタやエロネタを連呼もせず、子供たちを“尊い……”と追い回すこともなく、ただ淡々と職務をこなすのみ……メイド長クロコもこうだったらいいのに」

 メイドとしては有能だが──残念な側面が多すぎる。

 ツバサは長いため息で残念がった。

 そんな主人あるじにメイド長は表情ひとつ変えずに言ってくる。

「ツバサ様、私の存在意義レーゾンデートルを全否定されましたね」
「その存在意義がマイナスにしかなってないんだよ」

 なにはともあれ──宴会は始まった。

 子供たちはパーティーと称しているが、大人勢は宴会と呼んでいる。

 ここら辺に明確なジェネレーションギャップがありそうだ。

 最初はみんな、好き勝手に飲み食いを始めている。

 子供たちはお寿司(さび抜き)やオードブルと言った、食べやすくて美味しい物を頬張りながら、この時とばかりにジュースをがぶ飲みしていた。

(※普段はオカンツバサがちゃんと制限させている)

 それより少し年上のミサキやハルカ、ダインやフミカぐらいになると、さすがにがっつきはしないものの、もう少し味の複雑なものを好んで食べていた。

 こちらは冷茶などを飲んでいる。アルコールはまだ早い。

 大人組は食い気よりも酒が進んでいる。

 好みの酒をグラスや杯に注ぎ、相性の良さそうなさかな酒杯しゅはいを重ねていた。

「いやー、こうやって大勢で呑む酒もまた格別だねぇ!」
「セイメイはいつも呑みっぱなしじゃないか」

 早々に一升いっしょう飲み干したセイメイに、その嫁であるジョカは呆れ気味に言った。ジョカもその本性が龍のためか、かなりの酒好きである。

 夫婦ともに水みたいな勢いでスルスル呑む。

 こいつら──ザル・・だ。

 呑んでも呑んでもザルの底から抜けるみたいに、いくらでも酒を煽りやがる。今日は大目に見るが、今後はちょっと節制させた方がいいかも知れない。

 そんなセイメイの前にチョコチョコと子供たちが集まっていく。
 
 マリナとカミュラとジャジャは棒読みで告げる。

「シゴトをせずに呑む酒は美味しいですか、穀潰しニートさん?」
穀潰しニートは働かないのに飲み食いするだけはイッチョマエじゃな」
「働かざる者食うべからず、でゴザル」

「……おいおい、チルドレンズ。今日はいつにも増して辛辣しんらつだな」

 さすがのセイメイも杯を煽る手が止まる。

 子供の悪口など戯れ言と聞き流すタイプなので大人げなく怒鳴ることはない。それでも気になるのか、冷や汗を流して愛想笑いで誤魔化していた。

 実際、ハトホル一家ファミリーにおけるセイメイの貢献率は最下位。

 幼さゆえに大した仕事ができない、マリナやジャジャに匹敵するほど働いてないのだ。武士は食わねど高楊枝たかようじとでも言いたいのか。

「なんでぃ、長屋暮らしの浪人よろしく傘張りでもしろってか?」

 セイメイは遠慮なく酒を飲み干してから愚痴ぐちった。

 自嘲じちょう混じりの冗談半分だ。

「今時の子にそのシーンはわかんねえよ」

 ツバサがツッコむまでもなく、子供たちは小首を傾げていた。

 その昔――時代劇が華やかだった時代。

 職を持たず市井しせいに紛れて暮らすしかない武士は浪人と呼ばれ、狭い長屋(今でいう安アパート)に住み、様々な仕事や内職で食いつないでいた。

 時代劇でよく描かれたのは、和傘わがさに紙を貼る内職。

 これをセイメイは「傘張り」と言ったのだ。

 ツバサは師匠であるインチキ仙人の影響で、セイメイも師匠である祖父と一緒によく時代劇を見ていたため、なんとなく覚えてしまったネタである。

「おれだって最近は働いてるだろー? そんなこと言うなよー」

 セイメイは唇を尖らせ、子供たちにおどけた。

「でも、まだ全然だってセンセイが言ってたです」
「オッチャンに悪口言えば、お駄賃くれるってマリちゃんのお母さんが……」
「ぶっちゃけ、母上のご指示でゴザル」

「ガキども使って何してんのツバサちゃん!?」

 辛辣な子供たち、その裏側を知ったセイメイは大声でツッコミを入れてきた。

 ツバサは果実酒をチビチビ舐めながらニヤリと笑った。

「純真無垢な子供たちの罵声はおまえにも効くだろう」
「ツバサちゃん、そういうのやめよ? おれだって人並みに凹むんだよ?」

 嘘だぁ、とツバサとジョカは一緒になって笑った。

「セイメイが凹むとこなんて見たことないよ」
「おいジョカ、そういうフラグめいたこと言うんじゃねえよ」

 本当に凹むかもしんねえだろ、とセイメイは大杯おおさかずき大吟醸だいぎんじょうあおる。

 一方、レオはドンカイと話し込んでいた。

 座っても山のようにでかい着物姿の横綱ドンカイと、ナチスの将校みたいなレオがあぐらで向かい合っていると、なんともミスマッチだ。

 ドンカイも朱塗りの大杯で大吟醸をグビグビと煽る。

 レオは服装で選んだのか、グラスに注いだウィスキーを呑んでいた。

「しかし、獅子翁ししおう……いや、今はレオナルド君じゃったか。君もアルマゲドンをやっているのではと思っとったが、まさかGMゲームマスターだったとはのう」

「その節はご迷惑をおかけしました」

 レオはグラスを置くと、床に手をついて深々と頭を下げた。

「ドンカイさんやツバサ君が、様々なツテを伝って捜していることは、俺の耳にも届いていました。ですがこの通り……ジェネシスの機密を守るため、不用意な発言を極力避けるため、仕方なかったんです」

 申し訳ありません、とレオは横綱の手を煩わせたことを詫びる。

 良い良い、とドンカイは大らかに許した。

「ワシやツバサ君が無駄骨を折らされたのは些細なことじゃて。君とて悩んだ末の決断じゃろうからな……あれほど可愛がっておった愛弟子と、離れ離れになったんじゃ。その心痛は察して余りある」

 でもな──ドンカイはミサキを横目に見遣る。

 ミサキはハルカやジンと一緒に、ダインやフミカと話し込んでいた。

 彼らは全員、現実リアルでは高校生。年が近いので話も合うらしい。

「君のことを心配して、夜も眠れぬほどだったミサキ君の気持ちも酌んでやってほしい……こちらでは精々可愛がってやることじゃな」

 ドンカイに諭されたレオは、その眼を潤ませると再び頭を下げる。

「はい──お心遣い痛み入ります、大海洋だいかいよう親方おやかた

「うむ、君ならわかってくれると信じておる」

 それにしても……ドンカイは一転、ジト眼でレオを見据えた。

 今のレオの有り様に一言物申したいのだろう。

「まさか君が、若い娘さんをはべらすのが趣味だったとは……」
「ち、違うんです親方! こいつらは……ッ!」

 ドンカイの前に座っているレオ。

 レオの右側にはクロコが座っており、メイドの爆乳をこれ見よがしに押しつけている。反対の左側からはアキがしなだれかかっており、大きさだけならツバサの次に大きいという爆乳で、レオの左腕を逃がさぬよう挟み込んでいた。

 見ようによっては──両手に花である。

「さあさあ、レオ様、じゃんじゃんお飲みくださいましね」

 クロコはレオのグラスにウイスキーをゆっくり注ぐ……フリをして、ピンク色の媚薬にしか見えない錠剤を放り込む。

「そっすよ、レオ先輩。現実リアルでもウチらを色んなお店に連れてってくれたじゃないッスか。知ってますかドンカイさん、レオ先輩って酒豪なんスよ~♪」

 アキもクロコ同様、グラスにウイスキーを注ぐ……フリをして、白い錠剤を何錠も入れている。恐らく睡眠薬だ。

「おまえら……高性能なアホなのか?」

 レオは無表情のまま青筋を立て、グラスを握り割りそうだった。

 レオのグラスは、クロコとアキによって際限なく放り込まれた錠剤でいっぱいになっていた。ウィスキーの方が少ないくらいだ。

 これでドンカイも、レオと彼女たちの関係性を窺い知れたらしい。

 今度は打って変わって同情の眼差しを向けている。

「……苦労しとるようじゃの」
「……ええ、こいつらにミサキ君の爪の垢をせんじて飲ませたいです」

 レオはまだ錠剤を放り込んでいるクロコとアキを無視して、銀縁眼鏡を持ち上げると目元を抑えて震えていた。泣いているのか? 

 そんなレオを見て、我が家のニート浪人が笑っていた。

「だっはっはっ! 似合ってんじゃねえか獅子の! おめぇ、そのなりで色っぽい姉ちゃんたちを侍らせてると、ナチス映画に出てきそうな絵面になるぜ!」

 嘲笑するセイメイに、レオも睨んで冷笑を返す。

「……そういう君も人のことを言えないだろう、天魔の。そんな風体でジョカ殿のような和装の美女を横に置けば、まるで遊郭で日がな一日遊んでいる、旗本の三男坊じゃないか。聞けばこちらでも穀潰しニートだと言うし……」

 飲み過ぎて顔を真っ赤にしたセイメイは、正座をするジョカの膝枕で横になりながら、たこわさをつまみにまだ呑もうとしていた。

 確かに──時代劇のワンシーンに出てきそうな2人である。

「へっ、相変わらず口の減らねえ野郎だ、獅子翁」

「君も変わりなくて何よりだよ、天魔ノ王てんまのおう──改めてセイメイ君」

 ドンカイだけではない。

 セイメイもまたアシュラ時代からレオと顔見知りだ。

 悪口の応酬にしか聞こえないが、この2人はこう見えて仲が良い。罵り合いもスキンシップみたいなものである。

 悪友──そんな言葉が似合いそうだ。

 いつの間にかレオ、ドンカイ、セイメイの3人が輪になり、そこにジョカ、アキ、クロコの3人が混じって、大人組でワイワイと盛り上がっていた。

 その対となるように──子供組も大騒ぎである。

 ミサキやジン、ダインにフミカもいるので、子供組というには発育がいい者も多いが、どいつもこいつもまだ未成年なので子供には違いない。

 ツバサは大人組の方が話題が通じやすいのだが、ミロが子供組に混ざっていたので自然とこちらに混ざっていた。

 あと、神々の乳母ハトホルの本能が子供たちを求めるからだ。

 保母さん気分で子供たちの面倒を見ている。

「誰が保母さんだ!」

「「「何も言ってないですよ!?」」」

 つい自分の心の声にツッコんで、子供たちに驚かれてしまった。

 その子供たちだが、現実の頃から友人であるというマリナとカミュラは、ずっと一緒に話し込んでいた。こちらに来てからの、お互いの家族のことを報告し合っているようだ。

 その過程でマリナは──最愛の妹を紹介していた。

 これにカミュラが食いついたらしい。

「いいなー、マリちゃんいいなー!」

 こんなカワイイ妹ができてー! とカミュラはマリナを羨ましがった。

「えへへー、いいでしょう? すっごくカワイイんですよ」

 ジャジャちゃん♪ とマリナはジャジャを背中から抱き締める。

 マリナのジャジャの可愛がり方は執拗しつようと言ってもいい。

 彼女は母親が恋しかったのだろうが、それと同じくらいに妹も欲しかったのかも知れない。ジャジャを片時も離そうとしないのだ。

「もう好きにして……でゴザル」

 そして、ジャジャはすっかり諦めの境地にあった。

 マリナやカミュラによって愛らしいドレスや子供服を着せられまくり、着せ替え人形よろしく弄ばれているジャジャはお疲れ気味だった。

 マリナとお揃いのドレスを着せられ、“妹”を強調させられている。

「んな、マリナにはお姉ちゃんもいる──トモエがそれ」

 ジャジャを人形のように抱き上げるマリナごと背中から抱き締めたのは、トモエだった。14歳、10歳、7歳、いい感じで年齢差がある。

 あぐらをかいたトモエの膝の上、ジャジャを抱き締めたマリナが乗る。

 本当、仲の良い姉妹といった感じだ。

 しかし──統一性はない。

 腹筋系おバカ美少女、ゴスロリ美幼女、ニンジャ美幼女。

 我が娘たちながら、実に個性的なラインナップである。

 どの娘も愛して已まない、神々の乳母ハトホルたるツバサの愛しい娘たちだ。

 仲良くするマリナたち姉妹を見て、カミュラは表情をしかめる。

 カミュラの表情に見え隠れするのは、羨ましいと悔しい。その2つが入り交じった感情だ。子供なので隠そうともしない。

 カミュラはハルカに縋りついて揺すり始めた。

「いいなー、姉妹きょうだいとか、妹とかいいなー……ハル姉! わらわ姉妹きょうだいが欲しい! 妹が欲しいのじゃ! ミサ兄の子供とか産んでくれ!」

「いもうこどぶぅふぉっ!?」

 カミュラの発言にミサキは飲んでいたドリンクを吹き出す。

「ミサキちゃんの噴射物ご褒美ですッ! ありがとうございますッ!」

 隣にいたジンがそれをまともに浴びたが、何故か歓喜の礼を述べていた。

 ハルカは大したもので動じることなく、むしろ寛容に「あらあら」と照れ臭そうに微笑んでいた。この娘も精神的にタフになったものだ。

 心の枷が取れ、本来の彼女らしさを取り戻した感じがする。

「私が産んだらカミュラちゃんからすれば、妹っていうより姪っ子になると思うんだけど……それでいいなら、産んであげてもいいわよ?」

「マジか!? ハル姉、太っ腹じゃな!」

 諸手を挙げて喜ぶカミュラに、ハルカは淫靡いんびな笑みで吹き込んでいく。

「でも、私だけじゃ赤ちゃんって産めないからね……ミサキ君にもおねだりしなきゃダメよ? そうすればミサキ君が頑張ってくれるから」

「ちょ、ハ、ハルカさん!?」

 まさかのハルカによるカミュラへの唆しに、ミサキは動揺する。

 そして、カミュラはまんまとそれに乗せられた。

「そっか、わかったのじゃ! ミサ兄ミサ兄! ハル姉と頑張って、妾に妹を作ってくれ! ジャジャちゃんみたいにカワイイのがいい!」

 お願いしてくるカミュラにミサキは大わらわだ。

「ま、待てカミュラッ! そういうのは時期とかタイミングとかが大切でだな……ハ、ハルカ! おまえ、こいつになんて入れ知恵してんだ!?」

「私としては、もうひとつ上のステージに行きたいのよね……」

 あかしが欲しいの──ミサキ君との愛の証・・・が。

 そういってハルカは小悪魔のように微笑んだ。

 この女の幸せを求めるハルカの意見に同調する女がいた。

「あぁ……いいッスねぇ、愛しい殿方との愛の結晶、ウチも欲しいなぁ……」

 ねえダイちゃん? とフミカはダインへもたれかかる。

 ヤンデレ気味に微笑む彼女フミカ。ダインは何度も咳払いをして誤魔化そうとするが、フミカはその度に「ねえ?」と繰り返してくる。

 そして、このアホも──調子に乗ること請け合いだ。

「あー、赤ちゃんねー、欲しいよねー……大好きな人・・・・・とのさ」

 ミロはツバサの背中に覆い被さってくると、おんぶをせがむように抱きついてきながら、ツバサの顔に頬ずりしつつ、明け透けなく願望を打ち明ける。

「アタシとツバサさんには、もうジャジャちゃんっていう可愛いマイドーターがいるわけだけど……もっと赤ちゃん欲しいよね、可愛い赤ちゃんが」

 ツバサさんの産んだ・・・・──赤ちゃんが。

 耳元へそっと息を吹きかけつつ甘く囁いてくるミロに、ツバサは背筋がゾクゾクすると共に身体の奥が熱くなるのを感じてしまう。

 心の奥底に埋もれかけている男の部分は『違う!』と叫ぶのだが、既にツバサの大部分を占めている神々の乳母ハトホルが『是非!』と歓迎しているのだ。

 そんなツバサの心中を弄ぶようにミロはほくそ笑む。

 この場では人の目があるから、そういう行為に及ぶことはないが……誰もいなければツバサはあっさりミロの掌中に墜ちていたことだろう。

 もっとも、ふたりきりになれば同じなのだが──。

 耳まで赤くしたツバサはこの場でミロの手に墜ちてしまいそうな心持ちになるも、思わぬ救いの手が差し伸べられる。

「お、なんだなんだ? ガキ共が明るい家族計画か?」
「いかんのぅ、大人が監修してやらねばなぁ」
「……ミサキ君、ハルカ君、お世継ぎに関しては慎重であるべきだ」

 すっかり出来上がったオッサン3人組が話に混ざってきた。

「いいねー、みんなが新しい神々を生んでくれれば、真なる世界ファンタジアも安泰だよ。きっと兄さんも喜んで……あ、せっかくだから宴会に連れてこよう!」

 パン! と手を叩いてジョカは離れへ飛んでいく。

 起源龍オリジンである彼女の兄、ムイスラ-ショカは思い詰めた末に蕃神ばんしんたちにくみして、結果的にツバサとミロの手によって倒された。

 それを卵という形で転生させたのもツバサとミロだが──。

 その兄が生まれてくるであろう卵はジョカが預かっており、孵化する日に向けて大切に温めているのだ。卵の兄も参加させるつもりらしい。

「いいですね、愛の営みから生まれてくる愛の結晶……ところで、その子供が生まれてくる確率が高い日を、どうして“危険日”と言うのでしょうね?」

 日本語は不思議です、とクロコは頬に手を当てていた。

「そんなことよりクロコっち、アタシらもレオ先輩との間に愛の結晶を作っとかないと! このままじゃ、ウチのフミカが先にダインっちと子供作っちゃいそうな勢いッス……そうなったらウチ、伯母オバさんになっちゃうッス!」

 せめて妹より先に産まないと姉の威厳がーッ! とボサボサ頭をかきむしって騒ぐアキに、妹のフミカはダインと腕を組んで勝ち誇っていた。

「フフン♪ アキ姉より一足先にウチがゴールインするッス♪」
「ムキーッ! 姉より優れた妹なぞ存在しねえッス!」

 この情報処理系姉妹。仲が良いのか悪いのか、いまいちわからない。

 意地の張り合いこそしているが、本気で憎み合っている様子はない。喧嘩するほど仲が良いといった感じだ。兄弟姉妹とはそんなものだろう。

 大人組と子供組が合流して、全員で賑やかに飲み食いする。

 こうしていると話だけで場を盛り上げるのも難しくなってくるので、座を華やかにするための芸人でも呼びたいところだが……。

「姐さん姐さん──俺ちゃんのことお忘れですか?」
「心の声にツッコむなよ、気味が悪い」

 場の盛り上げを考えていたツバサに、ジンが自分をアピールしてきた。そういえばコイツ、アメコミのマスクマンな装いで忘れがちだが芸人志望のはずだ。

「おまえ、一発芸でもあるのか?」

 ジンの芸風はどちらかといえば、話の流れを引っかき回ししてツッコミ待ちをした挙げ句、面白おかしくぶちのめされて笑いを誘うタイプだ。

 あとは、突拍子もない話題で場をさらったりもする。

 こういう宴席の場を賑わせるのは不向きだと思うが……?

「ノンノン、俺ちゃんの芸風がこのような場に不向きなのは、先刻承知でございますれば……ここはツバサお姉様に一肌脱いでいただきたくおもいます」

「なんだよ、ストリップショーでも披露しろっていうのか?」

 ツバサも今日は少なくない量の酒を呑んでいる。

 なので、珍しくジンに冗談めいて返すと、ジンは「ノンノン♪」と人差し指を左右に振りながら、もう片方の手は道具箱インベントリ内へと差し込んでいた。

「さすがにジャリん子たちもおりますれば、それは御法度ごはっとかと存じます」
「チビたちはお風呂で見慣れているけどな」

 子供たちとは一緒に風呂へ入ってるから、ツバサの裸など気にするまい。

 どちらかといえば問題は──野郎どもの視線だ。

「いえいえ、ストリップショーだと年齢制限がかかってしまい、老若男女が楽しめません。真のエンターティナ-は子供から大人まで楽しませるもの……」

 そこで! とジンが道具箱内から取り出した物は──。

「ツバサお姉様がこの魅惑のバニーガール衣装を着て、そこの特設スタジオでポールダンスを披露すれば大人も子供もバカ受け間違いな……ひでぶっ!?」

「却下だ、バカ野郎!!」

 以前、ミロに着せられたものよりも際どくないが、それでもお色気満点のバニーガール衣装を差し出してきたジンに、ツバサはかかと落としをお見舞いする。

「なにが老若男女に受け入れられるだ! 大体、特設スタジオなんて……」

「兄貴、もう作ってあるぜよ」
「おまえたちは仕事の早さに定評がありすぎるんだってば!?」

 ジンがバニーガール衣装を用意している間に、ダインが応接間の一角を改築してダンスステージを作っていた。

 もうヤダ、こいつら……ちょっと口を滑らせると秒で増築するんだから。

「いやいや、ツバサさん──ここはバニーで踊っておくべきじゃね?」

 そこにミロまで賛同してくる。

 当然、ツバサは肩を怒らせて反論した。

「おまえは俺のバニーガールを見たいだけだろ!?」

「まあ、本音を言っちゃえばそれまでだけどさ。これはツバサさんへの罰ゲームっていうか、ペナルティみたいなもんだよ。みんなへの詫びも込めて」

「は? 罰ゲームのペナルティって……何のだよ?」

 心当たりがないツバサに、ミロは目を据わらせると親指を立てて海がある方角へ突き立てた。これだけでツバサは『みんなへの詫び』について察する。

 同時に──ミロの言葉に分があることを思い出した。

 ツバサは青ざめた顔で冷や汗を流す。

 そこに追い打ちとばかりにミロが囁いてきた。

「ミサキちゃんの強さを味わいたい、というツバサさんの身勝手な欲望から勝負を吹っ掛けて辺り一面を焦土にして、アタシらにも被害が及びそうな喧嘩をして、次元の壁まで溶かして蕃神ばんしんを誘い込んで……」

「わかったよ! これ着て踊ればいいんだろ!」

 謝罪の意味も込めて! とツバサは半泣きで怒鳴り返した。

 ツバサは半泣きで顔面が*のように凹んで“前が見えねえ”状態のジンからバニーガール衣装をひったくると、別の部屋へ着替えに向かった。

 着替えるのに3分、この格好をお披露目する葛藤かっとうに10分。

 頭から湯気が立ち上るほど恥ずかしがりながらも、ツバサはみんなの前にバニーガール姿で現れた。

 大人たちからは「ほぉ~」と感嘆の声が上がり、子供たちからは「カワイイ!」「エロ格好いい!」「センセイ最高!」と黄色い声援が飛び交う。

 正直、いつぞやミロに着せられたバニーガールよりマシだ。

 あれはデザインが際どすぎて、乳輪やら大事な部分が見え隠れするほどギリギリのラインを攻めていたが、これはあれよりも被覆率が高い。

 おまけに、ツバサの人並み外れた乳房をしっかり補正している。これならダンスなどの激しい動きにも耐えられるだろう。

 ジンにしてはデザインも凝った造りだが……?

「ちなみに製作担当したのは私です」
「おまえも一枚噛んでいたのか、ハルカ……」

 だろうと思ったよ。

 ハルカはツバサにエロ衣装を着せたがる。最近ではミサキが被害に遭っているようだが、再会したことでツバサにも累が及んだらしい。

「あ、安心してくださいツバサさん! オレも着せられましたから!」
「ごめん、ミサキ君、それ安心材料にならない……」

 むしろ、被害者の会でも設立したくなる勢いだ。

「そういえばあれ、なんでミサキ君にバニガ衣装着せたんだっけ?」

 ハルカの問い掛けにジンが顔を戻しながら答える。

「えっと、確か……何かのお祝いだったんじゃないかしらん? 詳しくは単行本の・・・・おまけイラスト・・・・・・・を参照? みたいな感じ?」

「ジン、おまえが何を言ってんのか全然わかんねえよ……」

 その時のことを思い出したのか、ミサキは赤面して俯いてしまった。

「あーもういい! 何でも踊ってやるからミュージックスタートさせろ! なんかMMDでダンスモーション配布されてそうな奴!」

 完璧に踊りきってやる! とツバサは意地になってダンスステージに向かう。

 その後ろ姿を見て、ハルカがミロに囁いた。

「ツバサさん、ちょっと酔ってない?」

「うん、思い切りが良いから多分酔ってる……ツバサさん、酔っ払うと結構勢いで何でもやっちゃうタイプだから、女装とか特に」

 この酔いやすい性質を利用され、大学のコンパでよく女装をさせられたものだと思い返すのだが、酔ったツバサは自分をあまり制御できなかった。

 ツバサのダンスを皮切りに──パーティーは大いに盛り上がる。

 子供たちもうさ耳をつけてダンスに加わったり、ミロとハルカがコンビで踊ったり、ドンカイが黒田節を披露したり、アキとフミカがデュエットしたり……。

 そして、ジンとミサキが「水曜○うでしょうの前枠と後枠を完全再現する」という前代未聞の芸を披露して、水曜ど○でしょうファンのミロ、ダイン、セイメイ、トモエ、ドンカイ、クロコ、アキ、が大笑いしていた。

 よく知らないマリナたちも笑ってたので、ウケは良かったようだ。



 楽しい宴は──いつ果てることなく続けられた。


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