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第6章 東の果てのイシュタル
第147話:さあ、戦ろうか!!
しおりを挟む「おおっ! ミサキ君ではないか! 久しいのぉ!」
ミサキたち一行を我が家の居間へ案内すると、そこにはちょうどいいことに留守を任せていた家族が揃っていた。
ドンカイはトモエやジャジャにジョカといった子供たちの遊び相手(ダインの作ったゲームソフトで4人対戦をやっていた)をしてくれていたようだ。
ジョカに連れてこられたのか、穀潰しのセイメイまでいる。
普段、セイメイは離れの縁側で寝てばかりだ。
今日は居間のソファで着流し姿のまま寝そべっているのだが、テーブルに酒と肴が並んでいるのをツバサは見逃さない。
勝手に呑んでやがる──明日の晩酌はなしだ。
ミサキたちの来訪を知り、そのミサキ当人を見つけたドンカイは鬼神のような顔を綻ばせると、身の丈3m近い巨体を立たせてこちらにやってくる。
「ドンカイさん! お久し振りです!」
ミサキも感極まった声を上げ、再会を喜んでいる。
アシュラやアルマゲドンで世話になったというし、ドンカイは頼り甲斐ある大人なのでミサキも親近感が強いのだろう。
大きく両手を広げるドンカイの胸へ、ミサキは少女のように(見た目は本当に美少女だから困る)飛び込んで抱きついていった。
元横綱だから許される──逞しい漢の包容力の成せる技だ。
ドンカイに下心はないだろうが、ツバサに勝るとも劣らないミサキの豊乳を押し当てられて、役得とは思っているだろう。
「いやぁ無事で何より! 元気で何よりじゃ!」
ドンカイはミサキを抱き留め、その轟腕で持ち上げた。
大人が小さな子を“高い高い”とあやすようにだ。普通なら恥ずかしがるところだが、ミサキは再会の嬉しさゆえかされるがままである。
くるりと一回転するドンカイ、ミサキも子供みたいにはしゃぐ。
「ドンカイさんも元気そうで安心しました。昨日の通信で、ツバサさんたちと一緒にいるのは聞いてましたけど……不思議な縁ですね」
「そうじゃのぅ。アシュラの頃からと考えると腐れ縁とも言えるし、合縁奇縁とも言えるかも知れん。まこと、人の縁はわからぬものじゃわい」
ドンカイにそっと床へ下ろされるミサキ。
そこに、もう1人のアシュラ八部衆が懐かしげに声をかける。
「よぉ、ミサキちゃんじゃねえか」
ソファに寝そべりながら酒をチビチビやっていたセイメイが、のそりと起き上がってミサキに手を振った。そういえば、こいつとも腐れ縁である。
「相変わらずキレイな女の子のアバター使って……いや、アルマゲドンだと事情が違って、ツバサちゃんと同じ内在異性具現化者なんだっけか」
しかしまあ──たわわに育って♪
セイメイは両手で何かを揉むような手付きをする。
酒が入ってるのも手伝っているが、まるっきりセクハラ親父だ。
当然、ミサキは引いている。
「あっ……セ、セイメイさんもいたんですよね」
お久し振りです、とミサキは微笑むもその表情は硬い。
自然な素振りで両手を胸の前に持ってくると、芸術品みたいな美乳を庇うような体勢を取る。というか、身の危険を感じた女の子の防御姿勢だ。
まさかの反応に、さすがの酔っ払いもバツが悪いらしい。
「おろろ? おれ、なんか警戒されてね? ちょっと距離置かれてね?」
「自分の発言から察しろ、完全にエロ親父じゃねえか」
ツバサのツッコミにミサキも引きつった笑みを浮かべる。
「アハハ……今のもドン引きですけど、ほら、セイメイさんにはアシュラ時代、オレのアバターのおっぱいのせいで、ランキングから落としちゃったことがあったから、なんとなく気が退けちゃって…………」
アシュラ時代──セイメイは99日間首位に君臨したことがある。
あと1日で100日の大台達成。
それを目前に控えた時、些細なトラブルからミサキのアバター(♀)の胸がはだけたのを見て、それに気を取られたセイメイはボロ負けしたのだ。
ミサキはそれを「自分のせいだ」と引け目に感じていたらしい。
「あー、んなことあったな。すっかり忘れてたわ」
当の本人であるセイメイは根に持つどころか忘れていた。
この男──そういう承認欲求は皆無である。
毎日酒を飲めて時たま強敵と戦えれば、それで満足する男なのだ。
「そんなことより、アバターとはいえミサキちゃんのおっぱい見られたことのが嬉しかったし、まだ瞼の裏に焼き付いてるわ。ダッハッハッハッハ!」
「……すいません、更にドン引きです」
ミサキはおっぱいを守ったまま後退りしていく。
「えええっ!? おれなりに『気にすんな!』って気を使ったのに!?」
「言い方が悪いんだよ、セイメイは」
心外! と言いたげなセイメイの頭をツバサは小突いた。
「ホント、セイメイもそうだけど、人間の……まあ神族や魔族もそうだけど、男の人っておっぱい大好きだよね。大昔からそうだけど……」
なんでだろうね? とジョカは不思議そうに首を傾げた。
ジャジャやトモエと遊んでいた彼女だが、ミサキたちの訪れを知って興味が湧いたらしい。フワフワと宙に浮かんでセイメイに抱きつく。
起源龍の化身──ジョカフギス。
2m10㎝のモデル顔負けな長身、そして美少女。
いつの間にかツバサの末娘になっていた創世神の一柱である。
身体が大きいのもあるが、そのツバサくらいある爆乳をユッサユッサと揺らしつつ、宙に浮いたままセイメイの頭に抱きついた。
こんな時、セイメイの頭は彼女のおっぱい置き場になっている。
「まあ、もうミサキちゃんにセクハラすることはないから安心してくれ。結婚して嫁を貰った以上、浮気は許されねえからな」
「そんなわけで──僕がセイメイの嫁です」
軽い自己紹介を交わした後、ジョカが『真なる世界の創世に関わった龍神』だと知ってミサキは態度を改め、セイメイへの見方も変わる。
「創世神のハートなんて……どうやって射止めたんですか?」
「んー? ふふふ、そこはそれ、男としてちゃんと誠意を示したからな」
肴のゲソをくわえて威張るセイメイ、説得力はないに等しい。
ジョカの素性が知れると、今度はレオナルドが前に出た。
ドンカイやセイメイ、かつての好敵手とも言うべきアシュラ八部衆の前でも別人を演じきり、レオナルドとしてジョカに接したいようだ。
レオナルドは胸に手を当て、紳士的に挨拶をする。
「お初にお目に掛かります、この世界を創られた龍神殿。私はレオナルド・ワイズマン。ジェネシスの……いえ、この世界から来られたと思しき“灰色の御子”たちに仕えていた者です。どうぞお見知りおきを……」
レオナルドの態度からジョカは何らかの機微を察したのか、いつもの天真爛漫さを表に出さず、創世神らしい立ち居振る舞いになった。
「色々と聞きたいことがあるみたいだね……真なる世界や神族や魔族、それに地球へ渡った灰色の御子のこととか……」
いいよ、とジョカは悟った微笑みで受け入れた。
「僕の知る範囲で良ければ、いつでも話してあげるよ」
「感謝いたします……龍神殿」
畏まるレオナルドに、ジョカはいつもの調子に戻って言う。
「そんなに固くならなくていいよ。今の僕はもう創世の龍でも何でもない、ツバサさんの娘のひとりで、セイメイの嫁だからね……」
ジョカでいいよ、とフランクに言った。
年上組が親睦を深めている頃──。
「あああーーーッ! マスクの変態の人! 久し振りだッ!」
相変わらずブルマを普段着にしたトモエが、アメコミヒーローみたいなジンを指差して喜びに満ちた大声を上げるや否や、(>▽<)みたいに記号で表現できそうな笑顔で突っ込んでいった。
それも頭から──全力投球でだ。
「おっ、野生児ガール!? 久し……俺ちゃん鳩尾痛打ッ!?」
その結果、トモエはジンの下腹部に全力で頭突きを敢行したに等しく、マスクの変態は哀れにもその場で悶絶する羽目になった。
余程いいところに入ったのか、ビクンビクンと痙攣するほどだ。
「マスクの変態の人! あの時はパズルアーム作ってくれてありがと! トモエ、ずっとちゃんとお礼言いたかった! おかげで目標達成できた!」
倒れそうなジンに縋りついて、トモエは感謝を言い続ける。
ジンも悪い気はしないのだろうが、鳩尾が痛すぎて返事どころか笑いを取るためのリアクションすらままならないらしい。
辛うじて、右手でグッドサインを送ると──。
「い、いいってことよ、野生児ガール……お、俺ちゃんのお仕事が、役に立てたなら、職人として、それだけで幸せ…………ガクッ」
「変態? どうした? おい……死ぬなー! 変態ーッ!?」
とうとう倒れ込んでしまったジンの首元を引っ掴んで、トモエはガクンガクンと揺らしている。本当に致命傷レベルの頭突きだったらしい。
そこへ──ジャジャが近付いてくる。
「ああ、トモエさんなんてことを……自分もジン殿にはご挨拶したかったのに……というか、説明からしなくちゃいけないから大変なのに……」
ジャジャ・マルは幼女化する前──というか、アルマゲドン時代にツバサたちとしばらく一緒にいた時があり、ジンとも面識があるのだ。
ジャジャ愛用のツバサとミロの2人の女神姿を彫り込んだ籠手は、ジンが丹誠込めて作った特製である。幼女化した今でも装備しているが、あれはダインが作り直してくれたものだ。
戸惑っているジャジャをミロが後ろから抱き上げる。
「そうそう! ミサキちゃん、ハルカちゃん、見て見てーッ♪ この子がアタシとツバサさんの子供だよ、ジャジャちゃんっていうの!」
そういってミロは子供服を着たジャジャを、2人へ差し出すように見せびらかしていた。血も魂も分け与えた実の娘なので自慢したいのだ。
「あ、どうも、初めまして……自分、ジャジャ・マルといいます」
ジャジャは少しはにかんだ様子で、いつも通り合掌して挨拶する。
ニンジャなら当然の作法らしい。
ミサキとハルカは、そんなジャジャを食い入るように見つめていた。
別次元の侵略者──蕃神。
その眷属に襲われて命を落としたプレイヤーの例として、そして過大能力により復活した例として、ジャジャのことはミサキたちに説明してある。
だから、ジャジャがどのようにして命を落とし、年頃の少年から幼女へと転生したかについては、ミサキたちも伝聞情報としては知っている。
それを目の当たりにして驚いているようだ。
「これが……ツバサさんとミロちゃんの娘さん、かぁ……本当に2人のいいところを受け継いだようにそっくりだし、発する気も似ている……」
ミサキはまじまじとジャジャを観察する。
気功系技能が得意な彼は、ジャジャの気がツバサとミロに似通っているのを感知しているらしく、間違いなく両者の子だと認めているようだ。
「かっ……可愛いいいいーッ!」
一方、ハルカは両手を頬に添えて歓喜の大声を上げていた。
「ツバサさんとミロちゃんの素材を十二分どころか、足して掛け算して、引いても割ってもいないなんて! まだ小っちゃいのに、将来美人になるのを確約されたような逸材……ミロちゃん、ジャジャちゃんの服いっぱい作ってもいい?」
ハルカ・ハルニルバル──彼女は服作りを趣味としている。
そのため、自分のデザインした服を着るに相応しいモデルに出会すと、このように創作意欲が刺激されてしまうのだ。
瞳をキラキラさせて願い出るハルカに、ミロは喜々としてジャジャを抱き上げてグルグル振り回しながらOKを出していた。
「いいよいいよー♪ ジャジャちゃんにプリチィなお洋服をジャンジャン作ってあげて! ついでにツバサさんにもエロティックな勝負下着とかいやらしいコスプレ衣装とかもどんどん作ってあげて!」
ミロからの要望に、ハルカは二の腕をはたいて応える。
「オッケー任せて、帰ったら徹夜で取り掛かるわ!」
これにツバサとジャジャは母娘で涙目になって叫ぶ。
「「お願いだからマジやめて!? せめて手加減して!!」」
もうこれ以上、乙女チックな衣装を着せられるのは懲り懲りだ! と抗議するのだが、ノリノリのミロとハルカは聞く耳を持ってくれなかった。
~~~~~~~~~~~~
ツバサたちのハトホルファミリーは、総勢11人。
ミサキたちのイシュタルパーティーは、合計6人。
17人は知り合い同士で話し込んだり、初対面の仲間を紹介し合って親睦を深めたりと、しばらくは挨拶回りみたいな懇談会が続いた。
その間、ツバサはそれとなくレオナルドに提言しておく。
「おい、イシュタルランドを留守にして大丈夫か?」
現在、ミサキの仲間は全員ハトホルの谷に来ている。
いくら空間転移装置が完成したとはいえ、あちらを守護する神族が1人もいないのは不用心が過ぎると思った。
しかし、レオナルドは頼もしくも不敵に微笑むだけだ。
「なに、抜かりはないさ──そうだろう、アキ?」
「はいはーい、ここは有能な後輩のアキさんにお任せするッス~♪」
この時とばかりにレオナルドの右腕に抱きつき、今度こそ成功させたアキ。それに便乗してクロコまで彼の左腕と組んでいる。
一気に“両手に花”状態になったレオナルドは、眉を八の字にさせて嫌がるものの、仕事をした後輩へのご褒美として堪えているようだ。
あるいは上司らしい気苦労が窺えた。
それを知ってか知らずか、アキは自らの有能ぶりを自慢する。
「ウチの過大能力は【真実を暴露する者】っていって、情報処理やら情報操作なら何でもござれの能力なんスよ。それを使ってるから大丈夫ッス」
空間転移装置の建屋を中継基地代わりにして、常にイシュタルランドの状態をモニタリングしており、異変があれば即座に察知できるという。
「そしたらバックホームすりゃいいだけッス、ねえレオ先輩~♪」
「……ああ、そうだな」
眉を下げたまま、困惑した表情でレオナルドは同意する。
そこへクロコも腕を組んだまますり寄ってきて、そのHカップだという乳房の谷間にレオナルドの腕を挟み込んだり、巧みながらも妖しい指使いで、彼の胸板を求めるようにまさぐっていた。
誰がどう見ても──露骨なくらい誘っている。
「では是非とも今宵はこちらに泊まっていってくださいませ。不肖このクロコとアキさんで、レオ様の疲れを癒すべくあんなことやこんなことを……」
「その場合、俺は一足先に帰らせてもらう」
レオナルドはアキとクロコを振り解こうとする。
しかし、一度食らいついたら離さないスッポンよろしく、怠けの女神と駄メイドはレオナルドの腕にガッチリしがみついていた。
そのまま、レオナルドは巨乳美女2人をジャイアントスイングでもするかのように振り回していく。全力でやっているのか、強風が起こっていた。
居間が広いから問題ないが、傍迷惑な先輩と後輩である。
どれくらい過ごした頃か──やおらジンが声を上げた。
「そうだ! せっかくこうして大勢集まったんですから、今夜は宴会パーティーでもしちゃったりしない? 俺ちゃん、腕を振るいますよーん♪」
ジンは物作りの達人──料理の腕前もツバサが唸るほどだ。
その点、ダインは料理関係は今一つで、代わりに過大能力の【要塞】内で缶詰めやジュースが製造できる。同じ生産系でも得意分野があるらしい。
ツバサはジンの意見に賛成するも、ちょっとセーブを掛けた。
「せっかくだから一緒に夕飯を食べよう、ってのは賛成だ」
豪勢なパーティーはまたの機会にしたい。
「さっき話した、アハウさんたちのパーティーがいるだろう? どうせなら彼らを迎えて3つの陣営の同盟がちゃんと決まった時、それを記念して大宴会を執り行いたいんだが……どうかな、ミサキ君?」
イシュタル陣営の代表でもあるミサキに了解を取る。
「ええ、勿論です。ツバサさんたちが気遣うぐらいの人たちですから、きっとオレたちも仲良くなれますよ。楽しむなら大勢の方がいいに決まってますし」
ミサキは当然のように快諾してくれた。
「よし、決まりだな──じゃあ、今日は前祝い的な軽い宴会に留めておくか、俺も作るけど……ジン、クロコ、おまえたちも手伝ってくれるか?」
「はい喜んでー♪ お姉さまのご随意のままにー♪」
「キッチンメイドも仕事のひとつですので、ツバサ様の仰せのままに──」
料理ができる面子に声を掛けたので、17人分(大食らい多数に大酒呑み複数)の食事を用意するのは造作もないだろう。特にジンがいれば、10分前に準備を始めても大量の料理が用意できるはずだ。
ジン・グランドラックの過大能力──【神の手を持つ工作者】。
道具箱内もしくは自分の手の届く範囲に必要素材が揃っており、作るべき対象の製造工程(あるいは設計図)を正確に脳内で構築できれば、瞬時に完成品を用意できるという、生産系に特化した過大能力である。
正直──生産系はコイツ一人でも良いんじゃないかな?
そんな風に思ってしまいそうになる能力だ。
ダインの【幾度でも再起せよ不滅要塞】も生産系特化なので、すべて彼に任せたくなるが……どうも生産系特化型の過大能力には個人差が表れるらしい。
なんとなく各々の個性が顕著になっている気がする。
同じ工作者でも得手不得手があるように、過大能力にもそれが反映されていた。現にジンとダインの得意分野は重なっていない。それが同じ生産系なのにまるで異なる過大能力として表現されているのだ。
いいや、これは過大能力全般に言えることなのだろう。
似た能力はあっても――同じ能力はない。
個性が具現化したもの、それが過大能力の本質なのかも知れない。
「しかし……宴を始めるには、まだ日も高いな」
時刻は午後3時を回ったくらい。日も傾き掛けたばかりだ。
宴会を始めるとしても午後6時くらいがベストだろう。今回はジンがいるので、5時から調理を始めても余裕で間に合う。
つまり、2時間弱の空きができる。
この間に出来そうなこと──そこでツバサは妙案を閃いた。
「ミサキ君……少し、手合わせしないか?」
物覚えの良い優秀な生徒が、この半年あまりでどれほど鍛練を積み、どのくらい強くなったのかを試してみたい。それには仕合が手っ取り早い。
ツバサの中にある、“弟子を育成したい”という欲求が頭をもたげていた。
師匠としての欲求──あるいは育成厨か?
才能という名の原石を、最高に輝くところまで磨き上げたいのだ。
「えっ……いいんですか!?」
そんなツバサの誘いに、可愛い生徒は喜色満面で応えた。
背筋を正して気をつけすると、ちゃんと頭を下げてお願いしてくる。
こういう礼儀正しいところも彼の魅力のひとつだ。
「是非お願いします! またツバサさんと仕合ができるなんて……夢みたいです! あの時みたいに、全力全開で戦ってくださいッ! 今度こそ耐えて抗って、ツバサさんに勝つつもりで挑みますから!」
意気を上げるミサキから圧倒的な気迫の高まりを感じる。
呼応するようにツバサの闘気も漲り、溢れた力は稲妻や風となってツバサの全身から発散されていた。その余波を浴びてジンが感電している。
「ああ、そのつもりだ……負けるかも知れない、なんて弱腰なのは御免だぞ。俺を叩きのめすつもりで掛かってきてくれないと張り合いがない」
闘志を昂ぶらせ──戦うことを決めた2人。
マリナとミロとジンは過去のバトルを目の当たりにしているので、もう黄色いヘルメットを被って防災準備を整えていた。
「センセイとミサキさんのバトル……あの時でも天変地異レベルだったのに、神族になった今ならどうなっちゃうんでしょうね?」
「さぁて、どーなんだろうねー? 大陸が吹っ飛ぶくらいで済めば御の字じゃないかなぁ? 最悪の場合は……世界とか次元がぶっ壊れる?」
「壊れた大陸なら埋め立てで直せるかも知れないけど、世界とか次元が壊れちゃったら、いくら俺ちゃんの生産系スキルでも直せないかもー?」
そんな外野の意見は、ツバサとミサキの耳には届いていない。
さあ、戦ろうか! 1分1秒でも早く!
ミサキは美少女の姿のまま、その可愛らしい顔に猛々しい少年の笑みを浮かべて、待ちきれないとばかりに大量の気を全身から噴き上げていた。
ツバサも母親らしからぬ狂戦士の微笑みで向かい合っているが、ふと思い立って誰にも気付かれぬように、そっと横へ眼を逸らした。
視線の先にいる獅子翁は──複雑な表情で眉を寄せている。
自分が本当の師匠なのに名乗り出られないもどかしさ、ツバサに愛弟子のミサキを寝取られたような感情、更に強くなったミサキがツバサを相手にどれくらいまで通用するのかを見てみたいという願望…………。
いくつもの想いが錯綜して収拾が付かないようだ。
レオナルドには悪いが、しばらくはツバサの好きにさせてもらう。
何故なら──ツバサにとってもミサキは愛して已まない“生徒”なのだから。
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