想世のハトホル~オカン系男子は異世界でオカン系女神になりました~

曽我部浩人

文字の大きさ
上 下
137 / 540
第6章 東の果てのイシュタル

第137話:イシュタルとの再会 ☆

しおりを挟む



 そこから電光石火で話が進んだ。

 翌日、ツバサたちはダインに飛行母艦ハトホルフリートを準備してもらい、それに飛び乗ると東の果てを目指して旅立った。

 メンバーはツバサを含む初期メンバー5人(ツバサ、ミロ、マリナ、ダイン、フミカ)と、「是非とも同行させてください!」と土下座どころか五体投地ごたいとうちしてまで参加を請うたクロコの6人である。

 ハトホルフリートの外観に変更点は見当たらない。

 ダインが言うには、日々改良と改造を重ねているそうだ。

 個人的に目を引かれるところがひとつ。

 ツバサをモデルにした船首の女神像のバストサイズが、ツバサの胸の発育に合わせて大きくされたような……きっと気のせいだ。

 推進力を司るメインエンジンや火器管制は刷新されており、艦橋もリニューアルされていた。特にツバサの座る艦長席は原形を留めていない。

「なあ……これ艦長席っていうより寝椅子カウチじゃないか?」

 ふかふかのソファになった艦長席に深く腰掛けたツバサは、組んだ足を少し揺らしながら誰に問うでもなく訊いてみた。

「寝椅子ってよりソファだよね。アタシらが座っても余裕だし」

 艦長席の右横に座ったミロは、ツバサの胸を枕にするみたいにしなだれかかってきた。もはやツバサも慣れっこである。

「ワタシの特別席もなくなってるので、定位置はここになりました」

 左横にはマリナが座っている。

 彼女は上半身をツバサの太股の上に預けており、子猫が飼い主に甘えるみたいなポーズで寝転がっていた。

 艦長席は──横に広がったソファになっていた。

 中央にツバサが座り、両脇にミロやマリナが座っても余裕がある。

 横になればベッドにもなるサイズだ。

「ミロ嬢ちゃんやマリナ嬢ちゃんに限らず、じゃりん子たちはみんなアニキの隣に座りたがるからのぅ。じゃったら、最初からこうするべきぜよ」

 モデルチェンジした張本人、ダインはそう言った。

「ハトホルフリートの原動力であるバサ兄、艦の防衛機構を司るマリナちゃん……2人の余剰よじょうエネルギーを艦へと供給するシステムは、艦内のどこかにいれば自然と供給できるように改良してあるから無問題モーマンタイッスよ」

 操舵輪を握るダインの傍ら、艦内システムを一括管理するデスクについたフミカも改良した箇所について教えてくれた。

 フミカはエジプシャンな踊り子衣装、ダインはバンカラサイボーグ。

 どちらもアルマゲドン時代の戦闘用コスチュームだ。

 2人に限った話ではない。

 ツバサやミロにマリナもハルカ・・・が仕立ててくれたものを、ジン・・がアダマント繊維で強化加工してくれたジャケットやドレスを着ていた。

 外見や着心地は衣服のままだが、性能はその比ではない。

 伝説の鎧レベルの防御力を誇っている。各種耐性もバッチリだ。

 余所行よそゆきというわけではなく戦闘があるとは思えないが、まあこれが正装みたいなものなので、みんなちゃんと着飾ってきた。

 ツバサとミロとマリナは──もうひとつ理由・・・・・・・があるのだが。

「でもまあ、本当にダインおまえもジンも物作りのたくみだな」

 ツバサは有能な長男と、何かと世話になった青年を素直に褒めた。

 ツバサはメインモニターを見遣みやる。

 艦橋の正面に掲げられたモニターには、真なる世界ファンタジアの大体の地形を把握した地図が映し出されていた。

 これが──ダインとジンの功績である。

 ダインの人工衛星を介して、ジンの人工衛星と通信できた結果、ミサキやジン、それにレオナルドやアキ、他にも数人のプレイヤーが共に暮らしており、現地種族に文化技術を教えながら村を作っているという。

 もっと通信で話したかったが、電波が遠すぎて通信が途切れがちになることがあったため、ツバサが「直に会いに行く」と提案したのだ。

「ぶっちゃけ、ミサキちゃんに会いたいだけでしょ~?」

 ミロが半眼でニヤニヤ笑っている。

「い、いや、別に、俺はそんなつもりは…………」

 ある──愛弟子に一刻も早く会いたい。

 あれからもっと強くなっているに違いない。ミサキの上達振りをこの身で味わいたいと、武道家としての本能が疼いて仕方なかった。

 そんなわけで通信もそこそこに、ミサキに会いに行くことを決めた。

 そこから──ダインとジンの動きは迅速だった。

 それぞれの人工衛星の機能を連携させると、お互いの住んでいる地域のみならず、真なる世界ファンタジアの地形をおおよそ調べ上げたのだ。

 これにより真なる世界ファンタジアの地図データ(仮)が組み上げられた。

 ハトホル一家の住んでいる場所と、イシュタル一家の暮らしている場所。それも判明したので、こうして迷わず一直線に向かうことができるのだ。

「それにしても……でっかい大陸がドーン! とあるだけなんスね」

 地図を見ながらフミカがしみじみ呟く。

 まだ朧気おぼろげながらも、この世界の地理がなんとなく見えてきた。

 フミカの言う通り──そこには超巨大な大陸が広がっていた。

 全体的には上下を膨らんだ楕円形をしている。

 天を衝くほどの山脈がそびえていたり、現実の地球にある河川の何十倍もある大河が流れていたり、琵琶湖が池に思える大きさの湖もあった。

 だが、ダインとジンの人工衛星2つだけでは、この大陸の全容を解明しきれておらず、部分的に“UNKNOWN”わからないとなっていた。

 特に北と南に広がる大陸はほぼ不明なままである。

 しかし、判明した地形もまた多い。

 インド大陸のように大きく突き出た土地や、アラビア半島のように入り組んだ湾に囲まれた場所もあり、海と見紛う巨大な湖に群島が浮かぶ地域もあった。ひとつの大陸と言えど、その規模や複雑さは地球の比ではない。
 
 自然環境は多様性に優れているらしい。

現実リアルで6つの大陸に別れた世界地図を見てたわしらにゃ、こがいにどでかい大陸が1個だけドォーン! とあるんは違和感あるぜよ」

 操舵輪を揺らすダインは、真なる世界ファンタジアの地図に独りごちた。

 ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸。その6つに別れていた現実世界の地図。

 世界地図にしろ地球儀にしろ、誰しも一度はお目に掛かっているはずだ。

 しかし、地球の大陸も最初からあのような配置だったわけではない。

「そうは言うがなダイン、大昔の地球だってこの真なる世界ファンタジアみたいにひとつに繋がっていた時期があったんだぞ。3億年前から2億年前だったか……」

「そうなんか? そりゃ知らんかったぜよ」

 物知りなフミカはすぐにピンと来たらしい。

「ウチ知ってるッスよ。超大陸パンゲアのことっすね」

「そう、それだ。三日月を太らせて曲げたような感じのな」

 この大陸の岩盤も周期的に動くのであれば、プレートテクニクス理論が通じるかも知れない。いずれ過大能力オーバードゥーイングで地盤を探ってみよう。

 龍脈を操れるのだから、大陸プレートも動かせるはずだ。

 とんでもない力を使い、ものすごく疲れそうだが……できると思う。

 ツバサの膝の上にいたマリナが腕を持ち上げる。

「ワタシたちがいるのは、あの西の端っこですよね」

 ツバサの膝の上にいるマリナが、大陸の最西端を指差した。

 巨大な大陸の最西端にツバサたちの暮らすハトホルの谷がある。

「そんで、ミサキちゃんたちがいるのは東の端っこと……」

 釣られるようにミロが大陸の最東端を指した。

 大陸の最西端と最東端──これでは会うのも一苦労だ。

「ちくっと前、わしとフミでハトホルフリートを東へ飛ばして、あれこれ調べたが……あれでこん大陸の半分ぐらい横断しとったんじゃな」

「東へ東へ3万㎞強、もうちょいで会えたかも知れなかったんスね」

 この2人は以前、調査に出掛けたことがある。

 あの時に粘っていれば、ミサキたちと遭遇していた可能性もあったわけだ。

「なんにせよ、こうして互いの居場所が知れたんだ」

 会いに行けばいい、とツバサは頬杖を突いた。

 双胴飛行母艦ハトホルフリートは現在、飛行船にあるまじき速度で東に向けて直進していた。宇宙戦艦もかくやという外観は伊達ではない。ダイン曰く、成層圏を音速で飛ぶこともできるとか何とか……もう飛行船じゃない。

 予定通りならば、もうじき目的地のはずだ。

 日が昇る前にハトホルの谷を出て、そろそろお昼過ぎになる。

 このペースなら午後にはミサキたちと再会できるだろう。

 ミサキに会える、そう思うと柄にもなく気持ちが逸る。

 ドレスの件でハルカに懐いていたマリナも待ち遠しそうだが、ミロまで鼻唄を奏でながら期待している素振りを見せるのには違和感があった。

 ツバサは前もって注意しておくことにした。

「ミロ、わかってると思うが……」
「わーかってるよ、ミサキちゃんにイジワルしないってばさ」

 以前ミサキたちと一緒にいた時──ミロは終始不機嫌だった。

 表面上はいつものミロなのだが、ツバサがミサキに武術の指導をしていると奇声を上げて割り込んできたり、過剰なくらいスキンシップを求めてきた。

 今にしても思えば、弟妹の生まれた子供が『お母さんの愛情を横取りされる!』と思い込んで癇癪かんしゃくを起こすのに似た行為だったのだろう。

 こう見えてミロは独占欲が強い。

 ミロは鼻唄を鳴らしたままツバサの胸に抱きついてきた。

「もうミサキちゃんにヤキモチ焼いたりしないモン♪」

 ドンカイのオッチャンにも言われたからね、とミロは得意げに語る。

「ツバサさんが相撲部屋の親方なら、アタシは女将おかみさんで、ミサキちゃんは期待の新弟子なんだよね? つまり、ミサキちゃんはツバサさんとアタシの娘も同然ってわけだから、新しい娘が増えるようなモンだしね!」

「なんだ、その解釈の仕方は……」

 大体合っているので訂正しにくいし、ミロの機嫌も上々なので良しとしよう。ドンカイには後でお礼を言っておかなくては──。

 さすが家族ファミリーの最年長、年の功で言いくるめてくれたらしい。

 自分がツバサの嫁(本人は旦那のつもり)! というツバサに対する心理的有利を自覚できたため、ヤキモチを焼くことない心の余裕ができたのだ。

「……ったく、いつまで経っても子供だな」

 そんなミロが愛おしい──掛け値無しの一番でだ。

 ツバサは苦笑すると自らミロを抱き寄せる。勿論、マリナも分け隔てなく愛情を込めて抱き上げる。ある意味、これがツバサにとってのハーレムなのだ。

 ハーレムの相手は全員──愛娘になるわけだが。

「アニキー、そろそろミサキくんいうんの住んでるところぜよ」
「そうか、もう着くんだな」

 ダインの言葉で我に返ったツバサは、娘たちから手を離して立ち上がる。

 メインモニターが上へとスライドして天井に格納され、艦橋正面の窓に広がるのは真なる世界ファンタジア東部の風景だ。

 この辺りもハトホルの谷がある地域に負けず劣らず、自然の豊かな風景が広がっていた。ミサキやジンが過大能力オーバードゥーイングなどで回復させたのか?

 それとも──東部には手つかずの自然が残されていたのかも知れない。

 ミサキたちと再会できたら、別次元の侵略者の有無なども話さなくてはならないだろう。喜んでばかりはいられない。

 風景を眺めながら、ツバサは周囲を注意深く見渡す。

「近くまで来たら合図を送る、とミサキ君は言っていたが……」

 フミカも索敵系技能で調べ始めてくれる。

「ハトホルフリートはこの図体ですし、フォルムに関する情報もあっちに送付済みッスからね。ここまで近付けばわかると思うんスけど……」

 その時──前方に巨大な光の柱が立ち上った。

 いきなり空中に閃光が瞬いたと思えば、その光の中から空に向かって光の帯が立ち上り、それは大きな龍を形作っていった。

 ただし、その龍はたてがみを蓄えた獅子の顔をしている。

 獅子龍ししりゅうとでも呼ぶべきその龍は気の力でかたどられたものだが、どうやら龍脈を具現化したものらしい。もしかしたらミサキの能力だろうか?

「あのライオンみたいな龍さん……お辞儀してませんか?」

 マリナの感想が正解だった。

「てか、素敵な笑顔で手をブンブン振ってない?」

 ミロの感想がこれまた正解だった。

 獅子龍はハトホルフリートを全力で歓迎していた。

「──あれが合図だ」

   ~~~~~~~~~~~~

 クロコに艦橋で留守番をさせて、ツバサたちは甲板へと出た。

 そう──あの駄メイドも一緒に来ているのだ。

 しかし、今日は大人しい。

 だかといって清楚ではなく、黙ってツバサの後ろに控えているかと思えば、可聴領域ギリギリの囁き声で延々と「レオ様レオ様レオ様レオ様レオ様レオ様……」と繰り返していた。

 百合でレズ寄りのバイセクシャル──それがクロコという女。

 そんな彼女のハートを射止めたのは、一体どんな男なのやら……。

 彼女はさておき、ツバサたちは甲板で彼らが来るのを待っている。

「…………来たッ!」

 眼のいいミロが真っ先に気付いた。

 飛行系技能で空を飛んでやって来たのは──ミサキである。

 やはりツバサ同様、アルマゲドン時代のアバターの姿をしており、本当は17歳の少年だというのにグラマラスな美少女のままだった。



 前に見た時も露出度高めのボディスーツだったが、より洗練されたデザインのものになっており、その瑞々しい媚態を惜しげもなく晒していた。

 長い紫色の髪をなびかせて、優雅に甲板へ舞い降りる。

 少女の姿をしているのに、少年の精悍さを感じさせる佇まい。

 物腰もさることながら気力も充実しているのがわかる。ちゃんと怠らずに鍛錬を続けてきたらしい。これは武道家として期待できそうだ。

 ツバサの胸の奥から期待が込み上げてくる。

 何より──彼の無事な姿を見られただけでも嬉しかった。

「ツバサさん、ミロちゃん、それにマリナちゃんも……」

 お久し振りです、とミサキは相変わらず律儀に挨拶から初めてきた。

「ああ、久し振りだなミサキ君。それに……」

 そんなミサキに──寄り添う小柄な人影が1つ。

 彼女にもツバサたちは見覚えがあったし、大層世話になったものだ。

「──ツバサさん! みんな!」

 感極まった彼女は、ツバサの名を呼んで駆け込んでくる。

 若草色の髪を2つに結って胸へと流して、桜色のロングカーディガンを羽織った華奢な少女。その笑顔は春に咲き誇る花々のように華やいでいる。



 ハルカ・ハルニルバル──ツバサたちの衣装を作ってくれた少女だ。

 人工衛星の通信で「ツバサたちと一緒にいる」ということは聞かされていたが、こうして面と向かって再会すれば感動も倍加させられる。

「ハルカ、君も元気そうで何よりだ」

 駆け寄ってくるハルカを、ツバサは両腕を広げて抱き留める。

 そのままおもいっきり抱き締めると、ハルカは潤ませた瞳をギュと閉じて涙の粒をこぼしていた。ツバサはより一層の愛しさを込めていく。

 そこへミサキも歩み寄ってくる。

 ツバサは片手を広げて「ん!」と顎を手前にしゃくった。

 ──まだツバサの胸には余裕があるからミサキも来い。

 言葉ではなく態度で示したのだが、元少年であるミサキは照れ臭いのか頬を赤らめてたじろいでいた。それをツバサは母の眼差しで見据える。

「す、すいません、じゃあ、失礼します……」

 根負けしたミサキは、ツバサの胸にゆっくり入ってくる。

 それを全力で抱き締めると、ハルカと一緒に抱擁してやった。ミサキとハルカ、両方の頭をグシャグシャと掻き混ぜるように撫でてやった。

 嬉しさのあまり、ツバサもはっちゃけ気味である。

「あの、ツバサさん……ちょっと変わりました? 前よりもお母さん度がパワーアップしてるような気がするんですけど?」

「誰がお母さんだ」

 恥ずかしがるミサキ相手に、久々の決め台詞を言えた。

「お母さん度も増してるけど……ツバサさん、バスト大きくなってますよね? ウエストは据え置きだけどヒップも……そのせいじゃないかしら?」

「おまえはよくわかるな、ハルカ」

 さすが服飾師ドレスメーカー技能スキルをMAXまで極めた仕立屋娘だ。

「このスーツもまた仕立て直さなくちゃいけませんね」
「ああ、お手柔らかに頼む……」

 露出は控え目にしてね、とツバサは小声で頼んでおいた。

「ツバサさん、1人だけズルーい! アタシもアタシも!」
「センセイ、ワタシたちも忘れちゃイヤです!」

 ミサキとハルカは、ミロとマリナにも抱きつかれて揉みくちゃにされた。

 再会を祝してのことだが、どちらも苦笑している。

 特にミロからの風当たりがきついとの自覚があったミサキは、ミロの親密さが良くなっていることにちょっと困惑気味だ。

「でも良かった、ツバサさんたちも無事で……」

 ホッとしました、とハルカは顔を上げて目元の涙を拭う。

「それは俺の台詞だよ。まあ、ミサキ君やジンはタフだから無事だと信じていたが、ハルカ、君はあまり戦闘系じゃなかったから……」

 まさかミサキ君と一緒にいるとは──安心することこの上ない。

 それについてハルカは少し触れる。

「ええ、こっちの世界に飛ばされた時、運良く近くにミサキ君たちがいてくれたんです。おかげで助かりました……色々と危機一髪でしたからね」

「ついでに言うとオレとハルカ──現実リアルでも知り合いでした」

「「そーなの!?」」

 ミサキの補足に、ミロとマリナが驚きの声を上げる。

 聞けば2人は(ジンも含む)同じ高校の、それも同じクラスの同級生だとのことだ。そして、ハルカにいたっては学級委員長だったという。

「でも、ウチの学校は進学校でしたから……その、学級委員長がゲームで遊んでいるのは体裁が悪いと思ったもので、だから、つい……」

「あ、それが挙動不審だった理由だな?」

 ツバサはハルカの辿々しい言動から全てを察した。

 アルマゲドン時代のハルカは、人見知りというか現実での知り合いと出会うことを極端に恐れていた節がある。つまり、身バレを恐れていたのだ。

 学級委員長という立場ゆえ──だったのだろう。

「まあ、もう全部ミサキ君たちにバレちゃいましたから今更ですけどね」

 そう言ってハルカは屈託なく笑い、ミサキの横に並んだ。
 ミサキも似たような笑顔で頷いている。

 おや、もしかして──この2人は?

「ところで……あの愛すべき馬鹿・・・・・・は来てないの?」

 ミロは額に手を当て、わざとらしくキョロキョロと見回した。

「愛すべき馬鹿? ああ、ウチの変態なら……」

 ミサキが説明するよりも早く、遙か上空でキラーン! と何かが光る。



「お姉ぇぇぇええええええぇぇぇさまぁぁぁああああああぁぁぁーーーッ!」



 絶叫と共に急降下してきたのは──赤いマスクの変態だった。

 アメコミヒーローを意識したマスクをかぶり、機械系エンジニアを意識した格好に工具を詰め込んだカバンやベルトを帯びた長身の青年。

 ミサキと同い年のはずだが、背が高いため少年らしくない。



 そんな感じのデカいマスクマンが降ってくる。

「ツバサお姉さまミロちゃんマリナちゃんお久しぶりぶりーッ! さあ、空から急転直下してくる俺ちゃんを抱き留めて抱き締めてホールドミィーッ!!」

 空から落ちてくるマスクの変態を──ツバサたちは避けた。

「華麗にスルーどべぎゃらぐわぽじひでぶあべしげべれれれれッ!?」

 よりにもよって顔面から着地し、落下してきた勢いのまま甲板を摩擦で火が起きそうな勢いで滑っていくと、50mぐらい後方でようやく止まった。

 尻を突き上げたへなちょこなポーズで、身動みじろぎひとつしない。

 しばらく死ぬ寸前のゴキブリみたいにピクピクしていたが、やがて生まれたての子鹿バンビよりも頼りない腰つきで立ち上がり、こちらに振り向いた。

 よろけながらも片手、片足、膝を甲板についた“三点着地”のポーズを決めて、マスク越しでもわかるほどの作り笑いを浮かべる。

「お、俺ちゃん……スーパーヒーロー着地でステキに参上……ッ!!」
「それ、膝悪くするってデッ○プールが言ってたよ」

 ミロにツッコまれた瞬間、限界が来たのか崩れ落ちた。



 物作りの変態──ジン・グランドラック。



 こちらの世界に来ても平常運転なので、とりあえず安心した。


しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...