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第6章 東の果てのイシュタル

第127話:万全アフターケア

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 臭いものにはふたをしろ──この精神だ。

 シャゴスの王とその眷族は絶滅させたし、大穴の内壁に張りついていた遺跡群とナアクの研究施設は戦闘により崩壊(残っていた研究資料などはクロコ、ジャジャ、フミカが回収)、奈落の底の石版も1枚残らず拾い集めた。

 もはや、この大穴を放置しておく意味はない。

 ならばいっそ、大穴を埋め立てて直径500mばかりの平地にした方が有効利用できないだろうか? と思い立った。

 幸い世界に働きかける過大能力オーバードゥーイングを持つ神族が3人もいる。

 3つの過大能力を連動させれば、この大穴を塞ぐなど造作もない。

 魔神の大穴と忌避されていたが、その原因と思しきシャゴスはツバサたちが討伐したし、ヴァナラたちもそれを目撃している。

 その上でツバサたち神々としての力で大穴を塞ぎ、「ここを聖地とする」と宣言すれば、ヴァナラたちも安心して暮らしてくれるだろう。

「……だからって、あの口上は必要だったのか?」

 アハウは真っ赤になった顔を、かぎ爪の目立つ掌で覆い隠していた。心なしか湯気みたいなものが立ち上っているから、よっぽど赤面しているのだろう。

 大穴を塞いだ後、ヴァナラたちに呼び掛けた言葉。

 あれが恥ずかしかったらしい。

 この人──常識人だ。

 ちょっとでも厨二病ちゅうにびょうわずらっていれば堪えないだろうが、一般的な感覚からすればあんな台詞を人々の前で高らかに唱えるのは恥ずかしい。

「アタシやツバサさんじゃお猿さんへの信頼が今ひとつだからねー。ここはジャングル大帝なアハウのオッチャンがやるっきゃないっしょ」

 口上の台詞を考えたミロが、アハウの背中を撫でて慰めていた。

 気分は大型の獣をなだめている感じである。

「ダイジョーブ! カッコよく決まってたからOKだよ!」

「そ、そうか? なら、いいんだが……うん」

 すぐに気を取り直したようだ。

 アハウさん、褒め殺しとかに弱そうだな。覚えておこう。

 しかし──やっぱり羞恥心しゅうちしんを誘うよな、あれ。

 ツバサも猫族やヒレ族、それにハルピュイア族の前で地母神としての体面を保つためにやる時があるのだが、夜中の寝る前に思い出したりすると、何度も寝返りを打って身悶みもだえる。心苦しいほどの恥ずかしさが時間差でぶり返してくるのだ。

 思い返すだけで居たたまれなくなってしまう。

「あれ、寝返る度におっぱいがすごいことになるんだよねー」
「そういう時に限ってミロおまえがいるんだよな……」

 それはともかく──あれは必要な演出だった。

 あの宣誓せんせいを聞いたヴァナラたちは大喜び。

 今では大穴を埋め立てた空き地の上で、喜びのダンスを踊りまくっている。どことなくインド様式なのは、やはり伝承に由来するのだろうか?

 そんなヴァナラたちを見守りつつ、ツバサたちは話し込んでいた。

 ちなみに──何人かは先に帰している。

 ダイン、フミカ、ジョカ、セイメイ。

 4人はハトホルフリートに搭乗し、一足先に帰路に着いていた。フミカにはマリナとジャジャを預け、幼女2人も先に帰らせておいた。

 ジャングルに残ったのはアハウと話があるツバサと、ツバサにくっついて離れないオナモミみたいなミロ、それと本人たっての希望でクロコだ。

 クロコはマヤムに話があるらしい。

 そのマヤムもクロコをチラチラと気にしている。お互いGMゲームマスター同士、聞けば顔見知りだそうな。きっと積もる話があるのだろう。

 一方、ミロも気になる子がいるそうだ。

 アハウの仲間の1人、ミコという名の幼い少女である。

「ミコちゃんだっけ? ちょっとこっちにカムヒアー♪」

「え? あの……なんですか?」
「なんだ? ミロさんだっけ、ウチのミコに何か用か?」

 マリナと変わらない年頃の巫女装束な女の子だ。

 どうしてミロに呼ばれたかわからないが、恩人ということもあって素直に従う。

 それでも恐る恐るといった足取りで近付いてきた。

 カズトラという少年が、兄代わりの保護者として付き添っている。

 ミロは目の前に来たミコにニッコリ笑いかける。

 そして、彼女の頭を優しく撫でながら過大能力を発動させた。

「──この真なる世界ファンタジアを統べる大君が命じる」

「ミ、ミロ君!? ミコちゃんに何を……ッ!」
「大丈夫ですよ、アハウさん」

 見ててください、とツバサは慌てふためくアハウを制した。

「この子の中にある怪しいモンは全部出なさい!」
「う、くっ……こほっ、けほっ!」

 ミロが過大能力オーバードゥーイングを以て命じると、ミコは嘔吐えずいてから咳き込んだ。

 その口から、名状しがたい色のたんを吐き出す。

 ドス黒く変色した痰は、外気に触れるとすぐに消えた。

 ミロは過大能力を発動させたまま続ける。

「ついでに──この子への悪影響は認めません! 後遺症もナッシング! あんな毒液が身体の中にあったのもキャンセル! 健康第一です!」

 これで良し、とミロは朗らかに笑った。

「バッシーンのズェッキ、だっけ? なんかそんな毒を盛られてたー、ってウチのジャジャちゃんが騒いでたからさ……これでもう大丈夫だよ」

 蕃神ばんしん髄液ずいえきな、とツバサは訂正しておいた。

「え、あ……もしかして、取ってくれたんですか!?」

「うん、デトックスしといたよ。一滴残らず吐き出させたし、体内洗浄したから、もう心配いらないはず。どこも変なとこはないしね」

 これを聞いたミコは、不安から解放された顔を輝かせた。

 隣にいたカズトラと顔を見合わせ、2人揃ってミロに礼を述べる。

「ありがとうございます、ミロさん!」
「すまねえ、ミロさん。ホント、アンタたちには世話になりっぱなしで……」

 一生恩に着る! とカズトラも我がことのように感謝した。

「いーっていーって♪ アタシらみんなと仲良く遊んでくれりゃそれでいいから……カズトラってのはいいの? 右腕はそのまんまにしとく?」

 ミロはカズトラの金属質な右腕を指差した。

 ジャジャやクロコが目撃した話によれば、ナアクの実験で機械や宝石に変えられた仲間の残骸から生じた、不思議な義手だという。

 カズトラの意志で変形できるらしく、出会った時は不釣り合いなくらい大きなガントレットに見えたが、今では左腕の釣り合うサイズになっていた。

「ああ、オレっちはこのままでいいよ」

 ロボットみたいな右手を、カズトラはジッと見つめる。

「これはガンズさんとマレイさんの置き土産だ……アンタの過大能力に頼りゃ治してもらえっかも知れねえけど、オレっちは兄貴分と姉貴分だったあの2人を忘れたくねえ……だから、この腕はこのままでいい」

 カズトラが右腕の義手をいたわるように撫でると、ミロも微笑んで賛同する。

「うん、わかった……カッコイイもんね、それ」

 褒められたカズトラは、意気揚々と輝く義手を掲げる。

 誇示するように、見せびらかすようにだ。

「だろぉ? 2人の意匠を引き継いだデザインだから、オレっちも気入ってんだ! 2人にあやかってガンマレイ・アームって名付けよう!」

 ガンズとマレイを合わせてガンマレイ、というネーミングらしい。

 ガンマ線のことか──はたまた有名な海外のバンドか。

 本人が気に入っているなら何も言うまい。

 子供たちの交流を横目に、ツバサとアハウは立ったまま話し込む。双方が把握していることを説明して、簡単な情報共有をしておくつもりだった。

 双方、GMの女性を秘書のように付き従えてだ。

「……ちょっと待ってくれ。情報量が多すぎないか?」

 ツバサの話にアハウは困惑しきりだった。

 皺の寄った眉間を抑えて、翼の生えた腕で「待った」をかけてくる。

 ナアクの一件も片付いたし、アハウもマヤムも信頼の置ける人物と見込んだので、ツバサは知り得る情報を開示したのだ。

 この異世界の名は──真なる世界ファンタジア

 幻想とされてきた神と魔が息づいていた世界であり、アルマゲドンはこの世界を元に作られたVRMMORPGだったこと──。

 それは人間をこの世界の新たな住人とするための計画だったこと──。

 地球は巨大隕石で崩壊したので人類の移住計画も兼ねていること──。

 この世界は別次元からの侵略によって滅びかけたこと──。

 その侵攻は今も継続中であること──。

 プレイヤーは侵略者に立ち向かう戦力と目されていること──。

「ナアクの件が片付いたと思ったら……ここが本当の異世界で、更に別次元から侵略を受けていて、それと戦うためにおれたちが喚ばれたと……?」

「ちゃんと理解できてるじゃないですか」

 掻い摘まんで説明したのに、そこまで理解してくれれば十分だ。

「ついでに言うと、アルマゲドンに触ってない人間も10年後ぐらいにはこっちに転送されてきます。この真なる世界への移住という名目で──」

「まだあるのか!? そろそろ頭がパンクするぞ!?」

 こういった一連の問題について相談したかったのだ。

「掻い摘んだだけでも、これだけの情報量がありますからね……微に入り細に入り詳細を語った上で、今後についての相談なんて始めようものなら夜明かししてでも足りないでしょう」

 だが──避けて通れない道でもある。

「特に、俺たちみたいな“誰かを見捨てられない”気質の人間にしてみれば、これらの出来事は大問題でしょう……違いますか?」

「むっ……まあ、そうだな……捨て置くわけにもいかんな」

 ツバサもアハウもよく似ている。

 端的に言えば──気が優しくてお人好しだった。

 ついでに、家族や仲間思いだ。

「もし宜しければ、力を貸してほしいんです」

 ツバサは真摯に協力を申し出た。

 この真なる世界ファンタジアに暮らす現地種族たちを助けて文明を発達させ、いずれ来るであろう人類と共に生きていけるだけの文化的基盤を形成させる。

 そして──別次元の侵略者を撃退する。

「俺たちだけでもやるつもりでいましたけど……この世界は広すぎる。同じ志を持てる仲間がいれば心強いです。どうですか、アハウさん?」

 悪逆非道に対して真剣に怒り、共に暮らす仲間を家族として愛する。

 そんなアハウだからこそ持ち掛けるのだ。

「ツバサ君、君は……律儀というか生真面目だな」

 似た台詞を誰かに言われた気がする。あれは誰だったろう?

「おれたちは君たちによって救われた。生涯を懸けてもあがなえないほどの恩義おんぎがある。それに漬け込んでもいいのに……いや、そんな協力態勢ではこういうことは上手く運ばないだろうな……」

 だからこそか──アハウは掌を差し出してきた。

「願ったり叶ったりだ。こちらこそ、宜しく願いたい」
「アハウさん……ありがとうございます」

 ツバサとアハウは固い握手を交わした。

 握手した手を揺らしながら、アハウは本心を打ち明ける。

「俺たちも現実に残してきた家族の心配はいつもしていたし、ヴァナラたちのような種族が他にもいれば、もっと面倒を見てやりたいと話し合っていた……せっかくの神の力だ、こういう風に使わなければ罰が当たる」

「俺たちはもう、罰を当てる側になりつつありますけどね」

 ツバサの冗談にアハウは「確かに」と苦笑する。

 2人とも優しすぎて、ろくに罰など与えられそうにないが──。

 ひとまず、ハトホルとケツァルコアトルの同盟は成立した。

 しかし、同盟の内容を詰めるのは先になりそうだ。

「こんな大騒動の後です。アハウさんたちも落ち着かないでしょうし、隠れ里の引っ越しやら、この聖地をどうするやらでヴァナラたちも大変でしょうから……日を改めてゆっくり話し合いましょう」

 後日、ツバサたちから迎え(ハトホルフリート)を出す。

 それでツバサたちが拠点を構えている谷に招待すると約束した。ヴァナラたちも連れてきて、ネコ族たちとも引き合わせてみたいからだ。

「なるべく早い方がいいかな……1ヵ月後でどうだろう?」

 そのくらいにはアハウたちもヴァナラたちも、隠れ里からこの聖地への引っ越しも落ち着くだろうと予想しての見積もりらしい。

「1ヵ月後ですね。わかりました。では、そうしましょう」

 ツバサとしても初めての客人、ちゃんと迎えたい。

 こちらの準備なども見越したら、妥当な日数だと思えた。

「ツバサ様、アハウ様──少しお時間をよろしいでしょうか?」

 主人ならぬ主神たちの話し合いが一段落した頃を見計らい、クロコが「確認したいことがある」と隠さない表情で割り込んできた。

「私、こちらのマヤム・トルティカナ君とお話があるのですが──」

 ツバサもアハウも、この2人はGMだと承知しているので、それ絡みの話だろうと踏んでいたら、些か風向きがおかしいようだ。

「申し訳ありませんが、アハウ様には席を外していただきたく願います」

「おれがいない方が都合いいのか?」

「ですが、ツバサ様とミロ様にはご同席をお願いしたいのです」

「え? アハウさんは駄目なのに俺はいいのか?」
「アタシもOKってどゆこと? 女の子ばっかりになっちゃうじゃん」

 誰が女の子だ、とツバサはミロにツッコんだ。

 そのミロはまたヴァナラからバナナをもらったらしく、二刀流で交互にハグハグと食べていた。どうして、こんなにバナナが似合うんだろう……?

 ツバサやミロは元より、アハウも戸惑っている。

 だが、渦中の人物らしきマヤムは眉尻を下げたままクロコやツバサたちに愛想笑いを振りまくと、アハウに近付いて囁くように告げた。

「アハウさん、心配しないで……クロコ先輩の言いたいことは、多分、あのこと・・・・についてだと思うから……僕も覚悟はしてきたし……」

 これを受けてアハウは白眼が目立つほどまぶたを剥いた。

「あ、あのこと・・・・か! そうだな、君は常々心配していたものな……同職のGMに見つかったら、絶対に小言をもらうと……」

 わかった、とアハウは眼を閉じてやや物憂げに頷いた。

 こうして──クロコの人払いは認められた。

 アハウは我が子のように接しているカズトラとミコの兄妹、それとヴァナラたちを引き連れて、先に隠れ里へ戻っていった。

 できたばかりの聖地という名のだだっ広い空き地。

 そこに残されたのはツバサ、ミロ、クロコ──そして、マヤム。

 端から見れば女ばかりが4人。
 クロコがどんな話を切り出すかと思えば──。

「さて、まずは確認をば……えい」

「ちょ、クロコ先輩待っ……あっ、きゃっ! あぁ……んっ」

 クロコはおもむろに手を伸ばし──マヤムのおっぱいを揉んだ。

 元より厚着な彼女。身体のラインはわかりにくい。

 それでも服越しに揉みしだけば、クロコの細い指に少し余るくらいの大きさはあるようだ。やはり、ツバサの見立てた通りCカップぐらいはあると見た。

「ジーッ……うん、あのサイズはCカップ!」

 ミロの鑑定眼もそう判定したから、間違いなくCカップだ。

 クロコはマヤムのおっぱいを丹念に揉みほぐす。

 女子校の更衣室などでよく見る光景だとフィクションでは描かれているが、これはそういう風に見て取るべき風景なのか?

 クロコの指は技術者のように緻密な動作で動きつつ、エロスの伝道師もかくやという艶めかしい指使いで運ばれていく。

 それは着実にマヤムの性感帯を蝕んでおり──。

「ク、クロコ先輩、やめ……こうしたのは謝りますからぁ! 人前でこんなの、恥ずかし……あぁん♪ ダメ、ですって、その先端は……はひぃ!?」

「ふむ、感度は良好ですね。これならアハウ様もお喜びでしょう。大きさは我々に比べたら見劣りしますが、まあちょうどいいサイズとも言えますしね」

 では──クロコの右手がマヤムの腹部を撫でる。

 それは腹部から下腹部へ滑り落ち、股間を上から下へと撫で下ろす。

「ひっ、そこは絶対……いやぁ、やめ……ひぃん!?」

「ふむふむ、やはり、こちらも完璧に──」

 顔見知りなので、実はこのような関係なのかとも思い、おっぱいの揉むくらいまでは大目に見てやっていたが、さすがにこれは眼に余る。

「おいこら、度が過ぎるぞ駄メイド」

 ツバサはマヤムの股間に顔を埋めようとしたクロコの後頭部に、自然石も割れるくらいのチョップを落とした。それでもめげない諦めない。

他人様ひとさまのウチのお姉さんに失礼な真似をするんじゃない」

 たとえ後輩だとしてもだ、とツバサは叱りつける。

「いえいえ、それは誤解というものです──ツバサ様」

 ツバサに殴られた部分から煙を上げつつ、クロコはマヤムの股間(厚着だから大丈夫だとは思うが……)から顔を離して、こちらに振り向いた。

「私めは、可愛い後輩であるマヤム君の身体しんたいチェックを……」
「鼻血と涎たらしまくりじゃ説得力ねえよ」

 これは失礼、とクロコは慌ててハンカチで顔を瀟洒しょうしゃぬぐう。

 ……そもそも瀟洒なメイドは鼻血や涎で顔を汚さないけどな。

 一方、マヤムは──絶頂寸前だった。

 耳まで真っ赤にした顔は弛緩しかんしきっており、ドロドロにとろけそうなくらい快楽に酔い痴れていた。実際、イク・・寸前だったのだろう。

 胸と股間を押さえて、気を鎮めるのがやっとらしい。

 クロコの性的なテクニックは凄絶だった。

 時折、ツバサを雌堕ちでもさせるつもりなのか、命懸けでセクハラをしかけてくることがあるのだが、そういう時は男心が砕かれそうになる。

 それくらい──快感の渦に落とし込まれるのだ。

「本気を出せば男女問わず、×歳から××歳まで昇天させてみせましょう」
「そのおぞましい指使いはやめろ」

 クロコの掲げた右手は五指それぞれが別の生き物のように、というか別次元の異形を想起させるような蠕動ぜんどうをしていた。

 一瞬、指が何十本ものうごめく触手に見えたのは気のせいだと思いたい。

 マヤムの背中をツバサは落ち着かせるために撫でてやる。

 などとやってたら、マヤムはビクビクと震えながら「あっ、んっ……」と小さく鳴いていた。クロコのせいで全身の感度が急上昇中らしい。

 介抱もできない……ツバサは仏頂面になる。

 そんな中、ミロは2人の関係に興味を持ったようだ。

「クロコさんとマヤちゃんって知り合いだよね? マヤちゃんはクロコさんを先輩って呼んでるし、クロコさんもずっとマヤちゃんのこと見てたし……」

 百合友達? レズ友達? とミロは直球で尋ねた。

「どちらも違いますね」

 意外なことにクロコは否定した。

 では、今のあられもない痴態ちたいは一体……?

「かつてのマヤム君と私ではオネショタがいいところ……いえ、年が近いですから無理がありますね。やはり、普通の恋愛関係になりましょう」

「……うん? どゆこと?」

 勿体振ったクロコの言い回しに、ミロは眉を捻って首を傾げた。

「マヤム君は今でこそ“彼女・・”ですか──以前は“”でしたから」

 その一言で、その手の話に敏感なツバサはピンと来た。

「まさか、マヤムさんも……内在異性具現化者アニマ・アニムス……ッ!?」

「いいえ、違います。以前の彼は女装子や男の娘、あるいはメス男子といった素質を過分に秘めた逸材でしたが、紛れもなく男性でした」

 本名は取手とりてまなぶ──24歳の男性だ。

「じゃあ、なんで、こんな風に…………ッ!」

 そこでツバサは不意打ちのように思い出した。

 マヤムが何かの拍子に呟いた一言たちが連鎖反応を起こす。

『まあ、本当にちょっといじっているんですが……』
『その……表面上ではわかりにくい、見えないところをちょこっと……』
『じゃ、じゃあ……あの、その特盛りおっぱいなんだけどさ……SPどれくらい使ったの? やっぱり数百万単位はかかる?』
『じ、自前でそのメガサイズなの!? いいなぁ……僕も内在異性具現化者だったら……ああ、せめてアルマゲドン時代にもっと盛っておけば……』

「マヤムさん、アバターをいじったってもしかして……!?」

 もう隠し通せない、とマヤムも諦めたのだろう。

 ようやく性的興奮の熱も薄れてきたが、それでもまだ熱そうな頬で申し訳なさそうな笑みを浮かべたまま、マヤムは謝罪するように告白する。



「うん、僕はアルマゲドン時代に…………性転換・・・しちゃったんだ」



 GMにも運営にも内緒で――と懺悔ざんげを添えて。


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