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第5章 想世のケツァルコアトル
第114話:殺戮の女神セクメトVS大地の獣王ククルカン
しおりを挟むその頃、ジャジャは自分が意識を失っていたことに気付いた。
気付いたというのは──目が覚めたからだ。
寝起きの微睡みにも似た感覚に悩まされるが、自分の置かれた環境が先ほどまでとは一変しているのを感じて、急速に意識が覚醒する。
起きるとすぐに臨戦体勢となって身構えた。
忍者系技能のおかげで、こういう切り替えの速さには自信がある。
「……ここは……何処でゴザルか……?」
──こんな時でも忍者口調は忘れない。
ハトホルファミリーは強烈な個性を持った人々ばかり。
元はモブキャラみたいな自分はキャラが薄い。そんなコンプレックスからキャラ作りのために口調をわざと変えてみたのだ。
しかし──誰にもツッコまれなかった。
多分、子供のお遊びだと思われているのだろう。
実際のところ、外見だけなら7歳の女の子なのだから当然か。
しかし、ジャジャには藤木鷹丸という少年として15年間生きてきた記憶があり、この幼女の肉体に齟齬を覚えることはしばしばある。
幼児扱いされるのも、女の子扱いされるのにも、まだまだ慣れなかった。
きっと──ツバサさんもそうなのだろう。
幼女になった自分という感傷に浸るものの、ジャジャの五感は油断なく周囲の状況を観察し、この環境がどのようなものかを把握していた。
そこは──殺風景な部屋だった。
6畳一間くらいのスペースだ。部屋の隅にフリーサイズのベッドが置かれており、ジャジャはその上に寝かされていた。
ベッドの枕元には引き出し付きの棚が置かれている。
棚の上には小さなライトも用意されていた。
部屋の反対側には小さなテーブルと椅子。
こちらには水差しとグラス、ペンやメモ帳などの小物が見て取れる。
部屋の片隅には内側に出っ張ったスペースがあり、そこには扉がついている。扉に「W・C」とあるからトイレだと思う。
その近くには洗面台が設置されている。
それとは別にもうひとつの扉──こちらは部屋の出入り口のようだ。
刑務所の独房? 病院の安い個室? 場末の宿屋の一室?
それぐらいのイメージしか思い浮かばない、味気ない小部屋だった。
「自分はどうして、こんなところに……?」
確か、ツバサたちと一緒にジャングルを訪れ、いきなり謎の獣に攻撃され、突如現れた少女にクリスタル状の箱に閉じ込められて……。
「自分は……そうだ、クロコさんと一緒に閉じ込められて……」
2人っきりなのをいいことに抱き締められたり頬ずりされたり愛撫されたり甘噛みされたり舐められたり……あらん限りのセクハラをされたのだ。
思い出しただけで妙な寒気が蘇ってきた。
これがもう少し成熟した少女の身体なら違うのかも知れないが、この幼女の身体はそこまで性的なものが芽生えていない。
セクハラされても、ひたすら気色悪いだけだった。
「そうしたら、急にクリスタルから別の場所へとテレポーテーションみたいにワープさせられて……それで…………それで?」
──そこで記憶が途切れている。
あのワープ直後、密林の中に転移させられて枝葉の中を落ちていた気がしたのだが……そこから先の記憶は思い出せなかった。
思い出そうとしても──暗闇に飲まれてしまう。
最期の記憶が確かならば、自分は今頃ジャングルの中を彷徨っていなければならないはずだ。なのに、この小部屋は一体どういうことなのか?
脳細胞に働きかけるも答えが出ない。
とりあえず、此処がどんな場所かを調べようとジャジャはベッドから物音ひとつさせずに降りた。忍者ですから。
その時──扉の向こうから何者かの気配が近付いてきた。
忍者系技能で気配を探ると、体格からして成人男性らしき人物が近付いてくる。
足音や足取りから感じるのは落ち着いた雰囲気だ。
その人物は扉の前に立ち、部屋の中を気遣うようにノックする。
「失礼──起きていらっしゃいますか?」
ジャジャは逡巡したが扉越しの相手が丁寧な物腰だったので、こちらもひとまずは大人しく応じることにした。いきなり荒事に訴えるのはお門違いだ。
こちらを害する気なら、とっくにやっている。
それをせずにこうして部屋へ寝かせて、紳士的な態度で接するところを見るに、話の通じるだけの相手ではあるようだ。まずは会ってみよう。
「…………どうぞ」
「良かった、目覚められたのですね。では、入らせていただきますよ」
ジャジャが返事をすると喜色を帯びた男の声がする。
そして、ゆっくり扉が開いた。
現れたのは──物腰穏やかで紳士的な青年だった。
~~~~~~~~~~~~
獣の王──アハウ・ククルカン。
その体躯は既に4mを超えており、筋骨ともに未だ増量中だった。尻尾の長さもえらいことになっており、それを振るって攻撃してくる。
──ひゅぅるぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ……ッ!!
慟哭の咆哮が轟くと、大地が一斉に牙を剥いた。
地面を裂いていくつもの岩石が隆起し、先端が錐状になって突き上げてきた。その隙間を縫うように植物の根や枝が鋭く尖って伸びる。大地に属するものすべてが獰猛な野獣となり、こちらに牙を剥いているような感覚に陥りそうだ。
大地の獣が群れを成してツバサに殺到する。
さながら、怪獣の顎に捕らわれたかのようだ。
ツバサは真っ赤な長髪を振り乱して稲妻を解き放ち、岩石だろうが一撃で粉砕する衝撃とともに周囲一帯を焼き払う。
のみならず、アハウにも大量に浴びせて怯ませる。
ズドドドン! 腹の底を叩き潰すような落雷の爆音が絶え間なく轟かせた。
稲妻の閃光を目眩ましにもして、獣の王がわずかに瞬きをした短時間を利用して瞬速で間合いを詰め、さっきまでと同様に怒りに任せて殴りかかった。
殺戮の女神が放つ、怒りの鉄拳。
山をも砕くはずのメガトン級パンチを、アハウは翼の掌で受け止めた。
こいつ──体力も筋力も上がっている。
そのままインファイトにもつれ込み、零距離で殴る蹴るの喧嘩上等な戦いになっていくが、先ほどまでのようにツバサが圧倒できない。
ほぼ互角──膂力だけならアハウが上回っていた。
ツバサとアハウは対等に殴り合う。
端から見れば5m級の怪物になろうとしているアハウと張り合っているツバサの方が異常なのだが、こちらも殺戮の女神と名乗るだけの力を有している。
互いに山をも崩す腕力での激突。
殴られても受け止めても当人たちにはそれなりのダメージしか通らないが、周囲に波及する戦いの余波は尋常ならざるものだった。
拳が放たれる度──地面が沸く。
各々の激突するパワーの行き場がなく、本人たちに大して影響がなくとも足場にしている地面が衝撃波で吹き飛んでいるのだ。
土が沸き上がり、泥状の熱砂となって泡立つほどだった。
ツバサもアハウも人間では目で追うこともできない神速で殴り合っていると、地面が溶岩のように煮えたぎっていく。
破壊の衝撃波は徐々に広がり、ジャングルの木々まで焼け始めた。
これを脇目にしたアハウが「むう……ッ!」と唸る。
大地の王と名乗るだけあって、この地に被害が出るのは避けたいようだ。
普段なら気遣うツバサだが──殺戮の女神は気にも留めない。
眼前の敵を殴り殺す、それしか頭になかった。最愛の娘たちを奪われたことで母性本能から込み上げる狂気的な怒りに突き動かされているのだ。
アハウが余所見した瞬間、拳打の圧力を上げる。
丘を形作っていた固い土塊は崩され、衝撃波で篩いかけられたように砂と化していた。2人の戦場は焼けて泡立つ熱砂の渦になりつつある。
──ひゅぅるぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ……ッ!!
これ以上はいけない! とアハウが打って出た。
右腕に倍以上の筋肉を増やすと、それをツバサに叩き込んでくる。
一撃必殺を狙った全力のパンチだ。
その大振りな攻撃を眼にして殺戮の女神はほくそ笑む。
「やっぱり……おまえは素人だ!」
アハウは戦闘経験こそ積んでいるようだが、武術の嗜みはない。いっぱしの武道家なら、どんなに焦ろうとも致命的な大振りはしないものだ。
武道家の視点から言わせてもらえば、アハウはでかいだけのバケモノ。
馬鹿力をいいことに腕を振り回す巨体なんぞ隙だらけ。
その手を取ってあっさり投げ飛ばすが、今度は地面に叩きつけない。
彼自身の怪力を逆手に取って、自分の怪力で翻弄するように空中へと投げ飛ばす。しかも地面スレスレだから翼による空中での姿勢制御もしにくい。
投げ飛ばされたアハウは翼の腕を地面に伸ばす。
かぎ爪でブレーキを掛けているが、その隙をいただいた。
ツバサは大きく口を開くと──怪獣王の熱線を吐く。
セクメト・モードのためか、従来の熱線の何十倍にも膨張している。神々の乳母の時でも波動砲みたいだが、もはやその範疇に収まらない。
地を抉って空を焼き、ツバサの目前にある万物を焼き滅ぼす。
アハウはその都市破壊級の攻撃力に戦慄すると──。
──ひゅぅるぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ……ッ!!
またしても慟哭の咆哮を迸らせる。
すると、ツバサの吐いた熱線を防ぎ止めんと大地が壁のように隆起する。ただの壁では防げないと判断してか、地盤を持ち上げたかのように硬く分厚い壁だ。
瞬時に完成する大地で造り上げられた強固な城壁。
──それは熱線に触れることなく崩壊した。
まさか!? と眼を剥くアハウの耳にツバサの怒声が届く。
「おまえにできることなら──俺にもできる!」
ツバサが熱線を放ちながら過大能力【偉大なる大自然の太母】を使い、アハウが造った大地の城壁を壊したのだ。正しくは地面を元に戻しただけ。
アハウは反射的に翼を広げて空へ逃げようとする。
しかし──大量の植物が繁茂し、彼の脚や尻尾を絡め取っていた。
無論、これもツバサの仕業である。
風や炎や雷をわざとらしく大々的に使って、「ははーん、こいつが得意なのはこういう攻撃なのか」とアハウに思い込ませていた。
その気になれば、アハウのように大地や植物を従えるのも容易い。
大自然を司る女神ハトホルなら朝飯前だ。
これによりアハウはまともに熱線を浴びる。
──ひゅぅるぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ……ッ!!
かと思いきや──アハウもその口から青白い光線を吐いた。
そういえば初っ端に仕掛けてきた時、特大の音波攻撃をお見舞いされた。あれよりも格段に威力を上げて、ツバサの熱線と張り合うつもりだ。
『おまえにできることなら──俺にもできる』
アハウの眼光はそう言いたげにギラリと輝いていた。
ツバサの熱線とアハウの光線がぶつかり合う。
互いの破壊エネルギーが激突して空間を揺るがす大爆発を引き起こすが、ツバサへの爆風はそれほど強くない。アハウは爆発に巻き込まれ気味だった。
相殺こそしたものの、ツバサの熱線が押し勝ったのだ。
ツバサと渡り合う実力はある──それは認めよう。
だが、アハウはツバサに勝てない。
明確な実力の差をツバサは完全に見抜いていた。これまでの戦闘でアハウが使っていた能力、その過大能力についても洞察が終わっている。
過大能力──こいつもまた神族と化したプレイヤーだ。
見た目こそバケモノだが、紛れもなく神族。確か獣神とか動物神という動物を神格化したカテゴライズの神族がいたはずなので、その系統に属するのだろう。
戦って拳を交わしている間、何度も分析したので間違いない。
怒り狂っている割に、ツバサは腹の底では冷静に動いていた。
そう考えると、以前よりもセクメト・モードを使いこなせているのか?
どうでもいいか、と殺戮の女神は大雑把に流した。
アハウは異様なくらいタフだ。
多少の深手では止まるまい。全殺しの一歩手前くらいにまで追い込まねば、鎮静化させるのは不可能だろう。仕留めるつもりでやってやる。
そうしてから──ミロたちの居場所を吐かす。
アハウは爆発を浴びて、後方へと吹き飛ばされていく。
絶好のチャンス! とツバサはまだ収まってない爆発に突っ込んでいき、そこから飛び出してアハウに奇襲を仕掛けることにした。
ツバサは爆発の中心を突っ切ってアハウを強襲する。
吹き飛ばされつつも薄目を開けたアハウは、眼前にツバサが迫っているのを確認するなり、いつものように慟哭のような咆哮を上げた。
──ひゅぅるぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ……ッ!!
また大地や植物を操って盾にするつもりか?
そう高を括ったツバサの周りに奇妙な存在感が生じる。
気付いた時には既に、実体化していた。
それらは顎──鋭くも太い牙が並んだ獣の大きな顎だ。
獅子や虎の倍はある怪物の顎、しかし顎だけで本体はない。テラテラと粘る唾液を糸のように伸ばしたり、牙をカチカチを打ち合わせて鳴らしている。
合計で8つの大顎は、一斉にツバサへ齧り付いた。
頭、左首、右肩、左胸、右腰、右の太もも、尻、左足首──。
噛みつかれたツバサの動きは止まり、その表情には苦悶が現れる。アハウの口元に「してやったり」との笑みが浮かぶ。
「詰めが甘かったなぁ……不埒者の魔女がぁ…………ッ!」
アハウは勝ち誇るように吐き捨てる。
ツバサは苦悶の表情で唇を噛み──その目元が弓なりに曲がった。
ドゴン! と重苦しい破砕音が響く。
ツバサは8つの大顎をものともせず、そいつらごと弾き飛ばすように拳を振り下ろして、目の前にあったアハウの横っ面を殴り飛ばした。
骨が砕けて肉が潰れる手応えに握った拳が引き締まる。
大顎たちは牙を砕かれて地面に転がった。
過大能力【万能にして全能なる玉体】を持つツバサに噛みついたのだ。
その報いだと思い知ればいい。
噛みつかれたツバサの肌には噛み跡どことか傷ひとつない。愛用のジャケットがまた破れてしまったので、繕うのが面倒なだけだ。
渾身の鉄拳で殴られたアハウは左の頬骨が砕け、顔の四分の一が吹き飛ぶほどの大怪我を負っていた。これはすぐに再生できまい。
「な……ば、ばふぁな……ッ!?」
まともに動かぬ口で「馬鹿な!?」と呟くアハウ。
「確かに……詰めが甘かったな」
そんなアハウを蔑むように殺戮の女神はあざ笑う。
「おまえを詰めるにこれぐらいやらんと駄目みたいだ……なあッ!」
ツバサが天に腕を掲げると、大気が渦巻いて巨大な暗雲がとぐろを巻く。
そこから堕ちてくるのは、天と地を支える光の柱。
──と見紛うほどの轟雷だった。もはや超極太のレーザービーム、あるいは大陸をも貫く荷電粒子砲クラスのエネルギー波だ。
それが連続でアハウに落とされる。
「はぁっはっはーッ! そぉら、もたもたしてると心臓まで焼け落ちるぞ!」
「ぐぅぅ……るぅぉあ…………ッ!?」
羽毛も獣毛も焼け、肉も炭となり、骨の髄まで焼け焦げる。例の慟哭を吠える暇など与えない。轟雷は神の鉄槌よろしくアハウに叩きつけられた。
普段のツバサならここまでのオーバーキルはしない。
しかし、殺戮の女神と化して狂乱に酔っていれば話は別だ。
娘たちを奪われた神々の乳母としての恨みも手伝い、本気で殺すつもりで轟雷を叩き落としていた。手加減なんて一切しない。
どうせまだ──あの銀髪少女がいるはずだ。
アハウを殺せば出てくるだろうから、あの娘を締め上げればいい。
殺戮の女神はそれを残酷とも非道とも思わなかった。
セクメト・モードでも冷静でいられるようになったが、代わりに冷酷さが増した気がする。生命を奪うことになんら感慨を抱けない。
むしろ──殺したくて仕方ない。
こんなにも殺戮に酔い痴れる自分がいたことに驚いた。
アハウはまだくたばらない。
これほど轟雷を叩き落としても肉体は原型を留めており、凄まじい速度で体組織を修復して、体毛までも生え揃わせようとしていた。
ツバサは──アハウにトドメを刺すことにした。
暗雲の中で轟雷を幾重にも束ねると、超特大のプラズマ球を創り出す。
これを浴びれば、獣の王といえど塵も残るまい。
「──くたばれ毛玉野郎ッ!」
頭上に掲げた手を振り下ろす、その刹那──。
「ツバサさん、ダメーーーッ! ストップ! それやったらアウトーッ!」
この世で最も愛しい者の声で制止がかけられた。
ガクン! とツバサは動きを止める。
すぐさま声のする方へ振り向けば、ジャングルの上空からミロとマリナがこちらに向けて飛んできていた。その背後には例の銀髪の少女もいる。
「その人、重要人物っぽいから殺っちゃダメだよーッ!」
説得のつもりか大声を張り上げ、こちらへ猛スピードで飛んでくるミロ。
その姿を目にした途端──ツバサから憑き物が落ちた。
上空の暗雲どころかプラズマ球さえも嘘のように消え、ツバサの髪は血のような赤から従来の黒髪へと戻り、隈取りも消えて赤い瞳も元に戻る。
唇をわななかせるツバサは言葉にならない声を出す。
「あ、あああ……うああぁ……うわぁああああああああああああああん!!」
そして、泣き叫びながら飛び上がった。
ミロとマリナを迎えに行くように飛んでいき、2人をしっかとその胸に抱き留め、2度と離さないと誓うように抱き締めた。
「ちょ……ツバサさん!? 痛い、マジで痛いってば! 嬉しいのはわかったから、もっと手心を……せ、背骨折れるってこれ!?」
「せ、センセェ……く、苦しぃ……おっぱいに潰され……るぅッ!?」
ミロとマリナの苦情も聞こえないほど、ツバサは歓喜の声で泣き叫びながら滝のような涙を流して、2人を力いっぱい抱き締めた。
「良かったぁ……おまえたちが無事で……本当に良かったぁ!!」
娘たちが無事ならそれでいい、ツバサはただただ歓喜した。
ミロたちと再会できた喜びに豊満な胸がいっぱいになるほど嬉しいツバサだったが、その胸の片隅では後悔の念がわだかまっていた。
俺は──躊躇なく人間を殺そうとした。
相手が同じ現実世界から来たプレイヤーだと知りながら殺すつもりだった。
怒りに駆られてたとはいえ、憎しみに溺れていたとはいえ、殺戮の女神になっていたとはいえ、喜々として誰かを殺そうとしたのだ。
自分の内に眠る無慈悲で残酷な一面──それを思い知らされる。
慈愛の化身たる神々の乳母と、狂奔の化身たる殺戮の女神。
──本当のツバサはどちらなのだろうか?
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