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第5章 想世のケツァルコアトル

第105話:神々のありふれた日常 午後の部

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 この真なる世界ファンタジアに転移して──そろそろ五ヶ月。

 もうすぐ半年を迎えようとしており、来た当初は春めいた季節だったというのに慌ただしく過ごしている内に夏が通り過ぎていき、気付けば秋のような落ち着いた日々が訪れようとしていた。

 ツバサたちハトホルファミリーも異世界での生活にすっかり慣れ、家族として共に暮らすことにも違和感を抱かなくなっていた。

 一番の要因は──拠点という家があることだろう。

 ツバサがジンという工作の変態に頼んで建設してもらった一戸建ての拠点も、今ではダインという有能な長男の手によって、11人の大家族でも持て余す部屋数と広さを誇る大邸宅に改築されていた。

 ここまで来ると増築といった方がいいかも知れない。

 身長2m越えのドンカイやジョカのために部屋や扉の寸法も大きく仕立て直されており、場所によっては家族の要望に合わせて作り直されている。

 セイメイとジョカが暮らす離れなど、セイメイの希望で開放感のある和風の屋敷になっているのだが、その防音設備は本宅以上になっている。

 そこに関してはツバサの入れ知恵だった。

『あの新婚夫婦がどんな声を上げても・・・・・・・・・いいようにしておけ』

 幼い子供たちの耳に届かないように──。

 それが母親としての配慮だ。

『了解じゃ、アニキとミロちゃんの・・・・・・・・・・部屋くらいの・・・・・・防音環境にしとくぜよ』

 その一言は余計だ、とツバサはダインを小突いたものだ。

 そのダインだが──また拠点の改築をしていた。

 いいかげん我が家マイ・ホームとでも呼ぶべきなのだろう。

 しかし、アルマゲドン時代の名残でつい拠点と呼んでしまう。

 今日は休みだと言っているのに、ダインは黒のランニングシャツにニッカボッカのズボンにねじり鉢巻きという鳶職とびしょくスタイル。鼻歌交じりでトンカチやノコギリを操って、新しい離れの建設に勤しんでいる。

「……休みなのにどうして働いてるかな、おまえは」

 昼食を済ませた昼下がり、ツバサは「みんな何をしているのかな?」と見て回っていて、真っ先に出会でくわしたのがダインだった。

 柱をかんなで整えながらダインは返事をする。

「休みに何するんもわしの自由じゃろ? こいつは趣味の延長線みたいなもんぜよ、家族が増えた暁にゃここを使ってもらえばいいきに」

「また気の早いことを……」

 先のことを想像したツバサはちょっと頭痛がした。

 これ以上ファミリーが増えたら、それも娘が増えたら面倒見切れない。

 現時点で娘なら6人、ダインを息子と数えたら7人も子供がいるのだ。

 普通のお母さんだって育児放棄したくなるだろう。

「言うても、わしやフミは手間かからんじゃろ?」

 もう渡り廊下を完成させたダインは、基礎と骨組みを終えて離れの組み立てに取り掛かる。巻き尺で寸法を測り、壁や屋根の資材を用意した。

 そしてダインは──チラッとフミカを一瞥いちべつする。

 大人しくてわからないかも知れないが、フミカもさっきからいるのだ。

 ダインが建築中の離れの片隅で読書に耽っていた。

 いつもの“戦闘服”である踊り子衣装ではなく、白のブラウスに紺のロングスカートという大人しめなファッション。見るからに文学系美少女だ。

 読書すると見せかけて、チラチラとダインの動きを目で追っている。

 どうして告白しないかな? とツバサもれったい。

 フミカとしては「ダイちゃんから告白してくれないとイヤッス」と、プロポーズを熱望するのだが、どういうわけかダインは踏ん切りが悪い。

 ダインもフミカを意識しているのは間違いない。

 一人の女性と認めて、好意を寄せているのは明らかだ。

 そして――フミカを大切に想っている。

 なのに、フミカがどれほどアピールしても躱そうとする。草食系男子で奥手だからとか、精神年齢小学生だから女の子と仲良くできないとか、そんなちゃちな理由ではなさそうだ。
 
 優柔不断でもなさそうなのに……何故だろう? 

 とにもかくにも、遅々として進展しないカップルである。

 そんな2人を見守りながら、ツバサはダインに返事をした。

「そりゃおまえたちは半分大人みたいなものだしな。その年齢としで手が掛かるのなんざミロだけで十分だよ……まあ、違う意味・・・・では世話が焼けるが」

「あぁん、なんぞ言うたかアニキ?」

 何にも言ってないよ、とツバサはそっぽを向いて舌を出した。

 離れを作るダインを眺めながら、ツバサはふと思いついた。

 そのことを思わせ振りにダインへ言ってやる。

 と見せかけて──フミカの背中を押すような一言なのだが。

「しかし、これだけ立派な離れを本宅とは別に作ると二世帯住宅……いや、セイメイところがあるから三世帯住宅だな。いっそこっちで誰か暮らせばいいんだよ。半分大人な2人組・・・・・・・・が独り立ちを想定してとかな」

 トンテンカンと調子よく釘を打っていたダイン。

 その音階があからさまに乱れた。どうやら指を打ったらしい。

 すかさずフミカの計算高い瞳が眼鏡の奥でキラーン! と輝いたかと思えば、分厚い本を音を立てて閉じ、ダインに齧り付く勢いで訴える。

「そ、そうッスよダイちゃん! ここはバサ兄の子供の中でも年長組なウチたちが、い、い、いずれ2人で独立することとか何とかを考えて、そのための下準備とか訓練のために、こっちの離れで暮らすとか……アリだと思うッス!」

「と、突然どがいしたじゃフミィ!?」

 怒濤の勢いで迫るフミカの剣幕に、さしものダインも恐れ戦く。

 食いつくとは思ったが──予想以上の入れ食いである。

 あれだけの威勢があれば自分から告白すればいいものを文学系のこだわりなのか、男からのプロポーズを求めているのだ。

 ダインとフミカは激しく言い争う。

「いいじゃないスか! セイメイさんとジョカちゃんみたいにウチたちもこっちで2人暮らしするッス! 年長組の独立準備みたいなものッスよ!」

「ありゃ新婚夫婦だからこその新居じゃろうが! わしとフミが……ふ、2人で一つ屋根の下なんて……そりゃ、おまえ、あかんじゃろう!?」

「今だって一つ屋根の下で暮らしてるじゃないスか!」

「それとこれとは話が違うきに!? 落ち着かんかフミィ!」

「もうなんなんスか! ダイちゃんはウチと2人っきりがそんなにイヤっていうんスか!? 姉妹やシスターがたくさんいる本宅のがいいんスか!?」

「だっ……誰もそがいこと言うちょらんきに!」

 わしゃフミとならどこまでも一緒に……ッ!! 

 そこでダインは口を噤んだ。自分の手で無理やり押さえ込んだのだ。

 大事な台詞を聞き逃した、とばかりに惚けるフミカ。

「…………え……?」

 それでもしっかり耳に届いていたのだろう。フミカは瞬間湯沸かし器にみたいに顔を真っ赤にして、ダインを見つめたまま硬直してしまった。

 ダインもダインで柄にもなく頬を赤らめると、フミカから恥ずかしそうに顔を背けてこちらも動かなくなった。サングラスの奥の瞳は窺い知れない。

 そして──2人の世界は完全に停止してしまった。

 ああもうっ焦れったい! それがツバサの本音だった。

 こうなったら母親の権限を振り翳して、「ダインはフミカに素直な気持ちを告白しなさい! そしたらお母さん、すぐ結婚式の用意するから!」とかお節介な仲人を買って出たいのだが、そこまで強引なのも気が引ける。

 そこへ──もっとお節介な奴がやってきた。

「おー、盛り上がってるねー♪ 最高潮クライマックスなんじゃない?」

 ツバサの背中からヒョコッと顔を出したのはミロだった。

 白のチューブトップに青のハーフパンツ。

 露出しすぎのラフな格好をしたミロは、ツバサのお尻に手を添えてこちらの身体を物陰にして、ダインとフミカのラブラブな展開を覗き込んでいた。

「ここまで来たらゴールイン直前なんじゃない?」

 上目遣いに窺うミロに、ツバサは「どうかな」と首を傾げる。

「相思相愛なのはお互いにわかっていたことだろうが、どうにもダインが一歩前に出ようとしないからな……またここで止まるんじゃないか?」

「うーん、焦れったいなぁ……」

 ツバサ以上にせっかちなミロだ。焦れったさも一入ひとしおだろう。

「ちょっとだけプッシュしてあげよっかなー♪」

 ミロはイタズラを思いついた笑みを浮かべ、そろりそろりと建築中の離れへ忍び寄っていく。ダインとフミカは、ちょうど離れの真ん中にいる。

 神剣は持たないが、ミロは人差し指を立てていた。

 その指先に黄金色の光が灯り、いつもの口上を並べ立てる。

「──この真なる世界を統べる大君が申し渡す」

 そこから先、世界をどのように改変するかについての口上は小声すぎて聞き取れなかったが、いつもより具体的で長かった気がする。

「後はこうしてこうして、と……これで良し!」

 過大能力を使ったミロは、建築中の離れの傍らに置かれていた資材から棒と板を取り上げ、板に何かをサラサラと書いて簡単な看板を作った。

 それをダインやフミカが気付くような位置に立てる。

 何を書いたんだ? とツバサは近寄って看板を覗き込もうとしたが、それよりも先に離れの周囲に強力な結界が張られていることに気付いた。

 恐らく──ミロの過大能力オーバードゥーイングで張られたものだ。

 そして、看板にはこう書かれていた。

『この結界は中に閉じ込められた男が、愛する女に向けて「好きだー! 結婚してくれー!」と情熱的に真心を込めてプロポーズするまで解除されません』

 ええぇ……ツバサは反応に困ってしまった。

 ミロに振り返ればドヤ顔で「やりました!」と腕を組んでいる。

 どちらかと言えば「やらかしました」だと思うのだが──。

 ドヤ顔のままミロは人差し指でツバサを手招きする。

 顔を寄せると、耳元でこう囁いてきた。

「どのくらいで結界ここから出てくるか──賭けない?」

「賭けにならんだろ、これ……」

 夕飯になったら結界から出してやろう。

 ツバサは心のメモに書き込んで、その場を後にした。

   ~~~~~~~~~~~~

 ミロは川辺へ遊びに行く、と言って途中で別れた。

 ドンカイがヒレ族の様子を見に行きながら川釣りに行くといっていたので、その釣果ちょうかが気になるらしい。ついでにヒレ族と川遊びでもしてくるのだろう。

 もう将棋はいいのか? とツバサはドンカイをからかってみた。

 ドンカイは申し訳なさそうに苦笑して──。

セイメイあいつと遊んどるとこっちまで低俗になりそうじゃからな』

 清流で心を洗ってくる、とドンカイは釣りに向かったのだ。

 セイメイはジョカと一緒に離れで寛いでいた。

 ──通りがかった離れの縁側。

 ジョカの膝枕でゴロゴロと昼寝を楽しむセイメイを見掛けた。

 遊郭で昼間っから飲んだくれている傾き者かぶきものみたいだ。

 ダインとフミカは先の通り──おまえら結婚しろ。

「さて、残るはマリナとジャジャとトモエか……ん?」

 残る3人の娘はどこで何をしているのやらと散歩がてら探していれば、我が家の前の広場に3人とも揃っていた。

 どうやら広場前で模擬戦闘──訓練をしているらしい。

 トモエやジャジャは様々な武器で戦うスタイルだが、訓練なのでどちらも素手だ。

 マリナはツバサが直々に鍛えたので徒手空拳が流儀である。

 三者三様、隙あらば誰かに向かっていく乱取り稽古だ。

「んんなあああああああーっ!」

 猪突猛進なトモエが真正面からマリナに殴りかかっていくが、合気を心得ている彼女はその拳をスルリと避けて、伸びきった腕に手を添えて投げ飛ばす。

 ちゃんとトモエの突っ込んできた勢いも利用した投げだ。投げられたトモエは突進時の倍以上の速さで投げ飛ばされていく。

 しかし、トモエも然る者──空中で何回転もすると投げの勢いを殺した。

「んなっ、マリナ! 妖術使うの禁止!」
「妖術じゃありません、センセイ直伝の合気道です!」

 マリナの背後からジャジャが忍び寄る。

 これを察知したマリナが振り向かずに身体だけ屈めると、頭を狙っていたジャジャの攻撃を空振りさせ、その手を取って背負い投げで地面に叩きつける。

 だが──それはジャジャではなく等身大の丸太だった。

「ジャジャちゃんこそ忍術使うの禁止です!」

「自分、最弱なんだからこれくらいハンデでゴザル! マリナ殿とトモエ殿はお姉ちゃんなんだから、妹な自分のズルぐらい見逃すでゴザル!」

 本体は土遁どとんで隠れていたのか、ジャジャは地中からモコッと現れる。

「んもうっ! 可愛がると嫌がるのに、都合のいい時だけ妹なんだから!」
「んな! ジャジャ、本当はトモエと同い年のくせに!」
「そっちこそ、こんな時だけ中身のことを追求するのは反則でゴザル!」

 乱取り稽古のはずが、いつの間にか幼女たちの口喧嘩になっていた。

 見ていられなくなったツバサが仲裁ちゅうさいに入る。

「こらこら──稽古するならちゃんと集中しなさい」

「あ、お母さ……稽古中だからセンセイ!」

 マリナは呼び方を使い分けた。ツバサとしてもその方がありがたい。
 こういう時はセンセイの方がしっくり来る。

 ツバサに気付いたマリナが笑顔で駆け寄ってくると、トモエとジャジャも「ツバサ兄さん」「母上」とに呼びながら、こちらに近寄ってくる。

 ツバサは笑顔で娘たちを受け入れたいのだが──どうしても引きつる。

 笑顔が歪む理由は、彼女たちの着ている服に合った。

「食後の運動がてらに稽古というのは、ファミリーのリーダーとしてもお母さんとしても武道の師匠としても褒めてやりたいところなんだが……」

 その格好は何? とツバサはマリナたちを指差した。

 3人が着ている服──それは運動着と紺色のブルマだった。

 彼女たちは稽古のために動きやすい服装に着替えたつもりなのだろうが、ブルマなんてどこから持ってきた? 少なくとも、ツバサは作っていない。

 すると、娘たちは顔を見合わせて口々に言う。

「んな、運動するって言ったらクロコが……ダメなのか?」
「クロコさんに『是非!』と勧められたんですけど……いけませんか?」

 あの駄メイド……ッ! とツバサは心の中で怒りをたぎらせた。

「いや、ダメでもいけなくもないが……」

 この2人──ブルマがどういうものかわかってない。

 考えてみれば数十年も前に、様々な理由から絶滅した衣類だ。

 今では男性向けのフェティシズム漂うフィクション作品ぐらいでしかお目に掛からないから、幼い彼女たちは見たことも聞いたこともないだろう。

 無知シチュのつもりか、駄メイドあいつは!?

「んな、よくわかんないけど……これ、動きやすくていい!」

「そうですよね。このブルマっていうのよく伸びて伸縮性抜群で……ほら、こんな伸び伸びするから履き心地もいいんです」

 見てください、とマリナは細い指でブルマを摘まんで伸ばす。

 トモエまで見せびらかすように真似をする。

 この仕種だけで、その筋の変態紳士たちには堪らないものだろう。

 ツバサはツバサで「俺の娘たち超カワイイ!」と鼻血の出そうな鼻ごと口元を抑えて感涙にむせび泣きそうだった。

 一方、ジャジャは恥ずかしそうに運動着の裾を掴んで下に引き延ばし、その紺色のブルマを隠そうとしていた。こちらの仕種もまた愛くるしい。
 
 羞恥心に頬を染める幼い顔立ちなど、頬ずりしたくなる愛らしさだ。

「あの……母上、自分はこれがどういうものか・・・・・・・知ってるので……」

「わかってる、皆まで言うな……」

 さすが元男の子、どこかでお目に掛かったらしい。

 ブルマは現実的には絶滅したといっても過言ではないが、フィクションの世界ではフェティシズムを誘うファッションとして生き残ったのは事実である。

 しかしこれは──後でクロコを叱るべきか? それとも「グッジョブ!」と賞賛するべきか? ツバサとしては思い悩むところだった。

 取り敢えず、お仕置きとしての折檻は確定である。

 母心としては娘たちにあられもない格好をさせたことを怒るべきなのだが、男心は良いものを見せてもらったと褒めるべきだと言っている。それに母心も「娘たちのブルマ姿もカワイイ!」と喜んでいるのは明らかだった。

 事実、ツバサは娘たちに悩殺される寸前だった。

 ここにミロが真っ赤なブルマで加わろうものなら、その愛くるしい姿に心肺停止に追い込まれるのは必定。あいつ、川に行ってて本当に良かった。 

「……ま、まあ、その格好は古くから伝わる運動着の一種だしな。別におかしくもなんともないから……うん、そのまま着ていなさい」

 母心と男心が珍しく手を組み、「このままでいい」と妥協した。

「ところで……稽古をしていたなら俺が手解きしてやろうか?」

「いいんですか、センセイ!?」

 アルマゲドン時代、つきっきりで鍛えたマリナが手を合わせて喜んだ。

 真なる世界に来てからはご無沙汰ぶさただからだろう。

 トモエもジャジャも諸手を挙げて喜んだ。

「んなっ! ツバサ兄さんの技教えて! トモエ、もっと強くなる!」
「母上の指導なら大歓迎です、是非ともよろしくお願いします!」

 うんうん、とツバサも嬉しそうに頷いてから──。

「じゃあ、俺も動きやすい服に着替えて……」

「あ、センセイ用のも・・・・・・・ありますよ──クロコさんから預かってます」

 マリナが取り出したのは運動着と真っ赤なブルマ。

 それは言うまでもなく──ツバサのサイズに合わせられていた。

「クロコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーッッッ!!」

   ~~~~~~~~~~~~

 拠点がある広場から1000m離れた森の中──。

 木々の中に潜んだクロコは超望遠レンズを仕込んだカメラをバズーカ砲のように構えて、広場で娘たちに稽古をつけるツバサを激写していた。

「あぁ、美しいですわ、ツバサ様……」

 結局、ツバサは娘たちのお願いに押し切られた。

 彼女たちと同じようにブルマ姿となって稽古をつけてあげている。

「ツバサ様ほどの“お姉様”と慕うべき極上のボディを持つ豊満かつな長身な美女が、少女が身にまとうべき衣類を着込む、このアンバランスさ……ッ!」

 まさにギャップ萌え! とクロコの吐息は荒々しい。

 真っ白い体操着は特大の乳房に持ち上げられて生地が浮いており、ブルマの中に押し込むこともできないためおへそが丸見えである。

 ブルマもその巨尻に見合ったサイズだが、太ももやお尻が今にも破けそうなくらいピッチピチだ。ブルマ特有の伸縮性、その限界を試されている。

 唯一、ウェストだけが揺るい。さすがツバサ様、さすツバ!

 豊満で背の高い美女のブルマ姿──まるでイメクラだ。

 格好もさることながら、そんなあられもない姿のまま娘たちと戯れなければならないという使命感を背負って恥辱ちじょくにツバサは顔を染める。

「そこが……その恥じらう様こそが最高にそそる・・・のです!」

 シャッターボタンを切る指にも熱が籠もる、というものだ。

「──首尾はどーお?」 

 そこへ気の抜けた声でミロがやってくる。

 クロコは振り返らず会釈もしないが、言葉で敬意を表した。

「上々です、ミロ様……あの玉体を運動着というブルマに詰め込み、恥じらいつつも奮闘するツバサ様を収めた写真……今2000枚を越えましたわ」

「OK、録画もバッチリだよね?」

 当然でございます、とクロコはグッドサインで返した。

 森のそこかしこにクロコのメイド人形が潜んでいて、あらゆるアングルから写真と動画を同時かつ大量に撮影しているのだ。

「んっふっふっぅ……では、そろそろ真打ち登場と行こうかな」

「ミロ様? 真打ちとは……そ、それはッ!?」

 ファインダーから目を離してクロコが振り返ると、そこにいたのはツバサと同じ真っ赤なブルマをはいた運動着姿のミロだった。

「アタシもブルマであそこに混ざってくるのだ! それでツバサさんがどんなリアクションを取るか……楽しみーーーッ♪」

 ちゃんと撮っといてね! とクロコに頼んで、ミロは森の木々を猿よりも素早く渡っていき、ツバサたちのいる広場に飛び込んでいく。



 ブルマ姿のミロを目撃した瞬間──ツバサは心臓を押さえて卒倒した。


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