98 / 538
第4章 起源を知る龍と終焉を望む龍
第98話:用心棒は最期にやってくる
しおりを挟む「あいつの声なんざ二度と聞かねぇ……聞きたくとも聞けねぇんだ」
そう思っていた、とセイメイは酒を浴びるように飲む。
いや、完全に浴びている。顔を天井に向け、瓢箪の酒をダバダバと顔にぶっかけているのだ。神代の美酒を惜しみなく浴びている。
噎び泣きそうな声と涙を誤魔化すように――。
「でも、心のどこかで……ああ、もしまたあいつの声が聞けたらな……それが助けを求める声なら……約束は果たそうって、おれぁ誓ったんだ……」
顔から肩まで酒に濡らして、セイメイは自嘲の笑みを浮かべた。
「人間ってのは……どんなに賢い振りをしてても、悟った風に装っても、過去からは逃げらんねぇようにできてんだろうな……」
今、セイメイが取るべき最善の選択はひとつだ。
「ツバサちゃんたちに手を貸して、おまえの兄貴をぶった斬ることだ……この世界で生きていくおれらにゃ、それが最善の選択……たとえ、おまえにどんなに恨まれ憎まれようとも……それが人間として真っ当な選択だ」
なのに──おれにはそれが選べねぇ!
「あの時、あいつと……マトイと! “美影纏衣”と交わした約束が……おれの心を縛って放そうとしねぇんだ……ッ! あいつの声で“助けて”と言われたら、そいつが誰であれ、助けたくってしょうがねぇんだよッ!」
これが理由だ、とセイメイは口を噤む。
あれほど飲んでいた酒にも手をつけなくなると、右手で目元を覆い隠した。
顔を濡らしているのは酒だけではない。
消え入りそうな嗚咽が微かに漏れてくる。
フヒヒッ、と突然セイメイはおかしな笑い声を上げた。
本当に酔ったような笑い方だ。
「ジョカぁ……おまえがマトイの生まれ変わりとかだったらなぁ……おれぁおまえにどこまでもついていくぜ……ま、そうじゃなくとも、ここまで入れ込んじまったら同じだけどな……」
「悪いけど……それはないよ……」
地球と真なる世界の時間軸は同調している。
魂で行き来すれば時間的ロスはほとんどないが、肉体を持って行き来すると数年から数十年の時間差が発生するのは、ジョカフギスも聞き及ぶところだ。
「君の親友が死んだのは数年前だろう?」
「……ああ、忘れもしねぇ5年前。おれが高校卒業する頃だ」
だったら──不可能だ。
「僕が生まれたのは真なる世界が誕生する直前……地球の時間でも数十億年も昔……時間の流れとしてありえないよ」
わぁーってるよそんなこと、とセイメイはぶっきらぼうに返す。
「言ってみただけだ……ちったあ夢ぇ見させてくれよ……」
ジョカフギスが、その美影纏衣という少年のわけがない。
ただ、ジョカフギスは脳裏に過ぎるものがあった。
「…………龍の観る夢、か」
龍族の意識は、時として空間を越える。
意識して飛ばすこともできるが、無意識のうちに世界を越えて地球や他の空間を揺蕩うこともあった。それを“夢”と呼ぶ龍もいるくらいだ。
地球に意識が飛んで、1人の少年に宿ることも……。
「あぁん? なんか言ったかぁ?」
「いや、なんでもない……」
それを今のセイメイに説明しても、余計な混乱を招くから控えよう。ジョカフギスはそう判断すると、改めてセイメイに尋ねる。
「じゃあ、君は……僕がその友人と同じ声をしてて、その声で助けを求めたから、こうして僕のために色々してくれたんだね……?」
「そぉだよ! 何度も言わせんな、ったく恥ずかしいたらありゃしねぇ……」
大分お酒が回ったのか、さすがの酒豪も呂律が怪しくなってきた。
それも然り、量なら樽で2つ3つは飲んでいる。
「じゃ、じゃあ……もしもだよ? 僕が兄さんに協力すると言い出して、世界を滅ぼす側に加わったら……君もその……手伝ってくれるの?」
かなり酒が回っているのだろう。
セイメイは寝ぼけ眼でしばし呆然とすると、ジョカフギスの顔をマジマジと凝視してから、見透かしたような顔でニンマリと笑ったのだ。
「おまえにその気がありゃな──でも、おまえにそんな気はねぇ」
違うか? と首をぐんにゃり曲げて聞き返してきた。
言葉の意味を理解できず、ジョカフギスは質問に質問で返す。
「そんな気はないって……どういう……?」
「だってよ、おまえが兄貴の尻を追うだけの弱虫な弟なら、ここで100年間も結界を張って、聞く耳を持たねぇ兄貴を説得なんかしねぇだろ? 兄貴が寝返った時点で尻尾を振って兄貴についていくはずじゃねえか」
だけど──ジョカフギスはしなかった。
「おまえはこの世界を守るため……兄貴を抑え込んだ。兄貴から世界を守ろうとしたんだよ、おまえは……それをおまえに選ばせたものはなんだ?」
「僕が……世界を守ることを選んだ……理由?」
セイメイに問い詰められ、ジョカフギスは回想する。
どうして自分は大好きな兄に逆らい、兄の言うことを聞かずに、その兄の暴挙を止めるために行動したのか? その理由を遙か過去に思い返す。
「…………兄さんだ」
ムイスラーショカの言葉が、ジョカフギスの心の礎にあったからだ。
太古の時代──真なる世界に神と魔と民が繁栄していく時代。
それを優しい眼差しで見守る兄が言っていた。
『弟よ、俺は──この世界が愛おしい』
『この世界に生きる者たちが笑い、泣き、喜び、苦しみ……それでも懸命に生きていこうとする。そのすべてを愛おしく感じるんだ』
『その愛おしさが……時折、恐ろしくなる……』
『この世界を愛するあまり……それが裏返って、愛ゆえにこの世界を滅ぼす時が来るのではないかと……永い眠りの中、悪夢に魘されることがある』
『万が一、俺が愛ゆえにこの世界を滅ぼそうとしたら……弟よ、その時はどうか俺を止めてくれないか? おまえにならできるはずだ』
『おまえは俺以上にこの世界を愛し、慈しみ……また、感情に飲まれやすい俺よりも聡明だ……おまえならきっと、大丈夫だろう』
『いいか、弟よ……もしも俺がこの愛する世界を壊そうとしたら……』
おまえが俺を止めるんだ──殺してでもな。
「永い時を眠るように生きてきて……忘れかけていた……」
兄ムイスラーショカは弟ジョカフギスに託していた。
この真なる世界を守護する最期の砦として、自らが怒りと憎しみに飲まれて世界を滅ぼそうとした時、世界を守るように言い付けていたのだ。
「兄さんは予感していたのかも知れない……こんな日が来ることを……あの日、僕は一笑に伏したけど……兄さんはこれを予見していたんだ……」
愛情が強すぎるゆえに──裏返ることもある。
「あの日の兄さんの言葉を、僕は無意識に覚えていた……いいや、違うな。僕自身が兄さんの言う通り、この世界が大好きだから……」
「──兄貴を止めた、だろ?」
顔の酒を拭ったセイメイが、ジョカフギスを見上げてニヤリと笑う。
前言撤回だ、と剣豪は二本差しを手に立ち上がる。
「過去に囚われてるのは人間だけじゃねぇ。龍もまた同じ……心のある者はみんなそうなのかもな。過去なくして現在はない、ってな」
「そしてまた、未来もない……か」
腹ぁ括ったか? とセイメイは腰に2振りの刀を差し込む。
景気づけにと瓢箪の酒を煽って歩き出した。
「ああ……僕は決めたよ、セイメイ」
ジョカフギスは水晶の湖から這い上がる。
その長い巨体をくねらせて宙に舞い上がると、ツバサたちの後を追うように洞窟の出口へと向かう。セイメイはその頭部に飛び乗った。
「向こうに着くまでに酔いを覚ましたいんでな。悪いが乗せてくれ」
「いいよ、それくらい……僕は君の相棒だからね」
「ハハハ、言うようになったじゃねえか」
その声で言われると悪くねぇ、とセイメイは上機嫌だった。
引き籠もりはもうやめだ──ジョカフギスは空に浮く山を飛び出した。
「それじゃあ行こうぜ──相棒!」
~~~~~~~~~~~~
第一次防衛ライン──森と荒野、その境界線。
ツバサたちの手により自然が回復してきた森林を背にすると、まだまばらにしか緑が回復していない荒野を見渡せた。
足下は大地を覆うように下草が生えて苔生しており、蔦や葛が生い茂りつつある。緑化活動が進んでいた。
大地母神としてツバサが拡大させている龍脈が息づいている証拠だ。
それでもまだ見渡す限りの荒野が広がっていた。
――地平線まで見通せる荒野の果て。
そこから不気味な暗雲が押し寄せてくる。
空も大地も埋め尽くすほどのティンドラスの群れだ。しかもエベレスト級の空を飛ぶ山が浮遊要塞となって迫ってくるのだ。
あれが敵の本陣と見ていいだろう。
ティンドラスのヘルメット型の頭が赤く光っている。
怒りなどの興奮状態により変色するのだろう。
いわゆる攻撃色と考えるべきか?
暗雲の中に蠢く無数の赤い輝きが、吐き気を催すほどの不吉を誘う。
ツバサの後ろにいたドンカイがぼんやり呟いた。
「なんじゃのう……また懐かしの大作アニメで見たような風景じゃな」
「わかります──王蟲の大行進でしょう?」
ツバサが真っ先に連想したのもそれだ。
全てを蹂躙する抗いようのない天災の如き地津波。しかもそれを起こしているのが巨大生物の群れだから圧倒的なインパクトを放っていた。
ティンドラスは王蟲より小振りだが、数だけなら上回っている。
この世界に来てから、あのアニメ映画関連の風景が目白押しだ。
ミロは腕を組んでウンウンと知ったかぶりで頷いた。
「やっぱり偉大だったんだね~、宮○駿監督」
「そりゃあ一時代を築き上げた伝説のアニメ監督だからな」
ドンカイの肩に乗ったトモエは、額に手を当てて遠くを見遣る。そして、ティンドラスの群れを指差しながらツバサに声をかける。
「んな! ツバサ兄さん、王蟲の群れが来るなら巨神兵連れてくる!」
「それ死亡フラグならぬ失敗フラグだろ」
連れてくるならナウシカだ、とツバサは呆れ気味に笑った。
「トモエ嬢ちゃーんッ、巨神兵ならわしが持ってきたぜよ!」
その時、森を越えて巨大な3つの影が飛来する。
既に砲撃用の追加武装を装備したダイダラスと合体したダイン。同じく遠距離用の装備を満載させたテンリュウオーとチリュウオーを連れている。
ダインが【不滅要塞】から発進させたものだ。
合体はさせていない。こちらも“人手”という数が欲しいからだ。
トモエは両手を振って、巨神と2機の龍王を迎えている。
「んなーッ! 来たなー失敗フラグーっ!」
「誰が失敗フラグじゃこらぁ!?」
思ったままを口にするトモエと直情型のダインが怒鳴り合う。トモエを「どうどう」と宥めて、ダインには「妹の冗談を真に受けるな」と諭す。
兄妹の機嫌を取り持つのも母親の仕事だ。
ダインの追加武装が来たことで、こちらの準備も整った。
「では──そろそろ開戦と行こうか」
先陣はツバサが切り、次いでミロがさっきの“仕返し”をするという。
ツバサはこの防衛ラインに来る前から、過大能力【偉大なる大自然の太母】を発動させており、この地域一帯の気象を調整しておいた。
初手から全力──それこそ初手で奴らを全滅させるために。
ティンドラスとは違う、本当の暗雲が空に立ち込める。
それはツバサが天候を操作することで作り出した特大の雷雲群であり、こちらに押し寄せてくるティンドラスの大軍の直上にわだかまった。
「──落ちよ雷霆ッ! 神鳴る力ッ!」
万雷が荒野に降り注ぎ、ティンドラスの大軍を灰になるまで焼き焦がす。
落雷の雨は止むことを知らず、空に渦巻く雷雲群がある限り、まだ息のあるティンドラス目掛けて落ちていった。
ツバサがそういう風に操っているのだから当然だ。
空を飛んでいる者を優先して撃ち落とす。
「すかさず追い打ちッ!」
ツバサは口を開くと、怪獣王の熱線を吐き出した。
熱線の放出を続けながら首を左から右へと動かして、地上を進んでくるティンドラスどもを薙ぎ払う。それこそ巨神兵のようにだ。
ツバサの初手で、先陣を走っていた竜犬たちをかなり排除できた。
「ここで真打ち、アタシの出番ッ!」
ミロは両手に持った神剣と聖剣、それぞれに力を漲らせると頭上で腕を交差させて振りかぶり、振り下ろすとともに斬撃をクロスさせて放った。
「ダブルセイバーッ! オーバーロードーーーッ!」
以前、合体させた神剣と聖剣。その力をミロは制御できなかった。
そこで新たに編み出したのが──この新必殺技。
神剣ミロスセイバーと聖剣ウィングセイバー、2つの力を一瞬だけ交わらせることにより爆発的な力を発揮する方法だ。
世界を変えるミロの過大能力【真なる世界に覇を唱える大君】の威力も向上することは勿論、こうして破壊兵器として利用すれば──。
「──いっけええええええぇぇぇーーーッ!」
クロスされた十字型の斬撃は見る間に肥大化し、金色の波動となって突き進むとティンドラスの群れを突き破り、浮遊要塞の中腹に直撃した。
巻き起こる大爆発に、ミロは会心のガッツポーズを取った。
「よしっ! これでさっきの借りは返したぞ!」
アタシはやられたら倍返しでやり返す女! とミロは威張っている。
「ガッハッハッ、やりおるのぉミロちゃん!」
わしも負けていられんぜよ! とダイダロスが背負った遠距離武器の照準合わせを始める。左右に控える2体の機械龍もそれにならった。
「ダイダラス、テンリュウオー、チリュウオー……一斉掃射ッ!」
ダインの掛け声で3機から砲撃が吹き荒れる。
かつてアブホスを率いた触手の王すら怯ませた時以上の火力が解き放たれ、これもティンドラスの群れを突き破り。浮遊要塞まで届いた。
「まだまだじゃあ! どんどん行くぜよ、オラオラオラァッ!」
ミロの波動砲レベルの斬撃、それにダインの全砲門一斉射撃。
どちらも迫り来るティンドラスの群れを迎撃しつつ、敵陣の中枢である浮遊要塞を破壊するほどの被害を与えていた。
それでも尚──ティンドラスは迫ってくる。
ツバサ、ミロ、ダインの大規模攻撃を潜り抜け、先に死んでいった者たちの死骸を盾にして、竜犬の軍勢は数を減らしながらも進撃をやめない。なんなら死骸を貪り食うことでエネルギー補給をしていた。仲間の死を無駄にしないようだ。
進軍は止められないが勢いは削がれ、群れも散開しつつある。
「それを食い止めるんが、ワシの仕事じゃな」
ドンカイは腰を落とすと左手を開いて前へかざし、右腕を引いて腰に溜め込んでいく。正拳突きの構えにも似ているが──。
「飛び道具を持っとるんは、ツバサ君たちだけではないぞ」
フンッ! と気合い1発、右腕が音速を突き破る速さで突き出される。
ただし、その手は握った拳ではなく張り手。
突き出された張り手には気功系技能の力が宿っており、巨大な掌の形をした気功波が、こちらに迫っていたティンドラスの一団を討ち滅ぼした。
しかもこれ──1度きりではない。
ツッパリの稽古でもするかのように、両手を交互に残像の出そうな勢いで繰り出すと、気功波でできた無数の張り手が連発される。
張り手の嵐が、竜犬の進軍を押し止める。
「スッゲー、ドンカイのオッちゃん! 百烈張り手のパワーアップ版じゃん!」
「親方、そんなこともできたんですね」
ツバサとミロが驚きを交えて賞賛すると、元横綱でもあるドンカイは誇らしげに牙を剥いて笑った。野太くも男らしい笑みだ。
「そりゃあアルマゲドンでは、相撲どころか組み手も通じないモンスターもおったからのぅ。ワシだって飛び道具は必要じゃ」
これなら取りこぼしは更に減らせそうだった。
だが、やはり完全に迎撃しきるのは難しい数だ。
これだけの猛攻撃を喰らっても、ティンドラスは1匹や2匹は抜けてくる。
見つけ次第、ツバサたちも速攻で潰してはいるのだが、大規模攻撃を仕掛けながらの細かい作業はきついものがある。
そこで──誰よりもすばしっこい彼女の出番だ。
「んんなああああああーッ! 最期のゴミ処理はトモエに任せろーっ!」
大槍にしたパズルアームを担いで、トモエが飛び出した。
目にも止まらぬ速さで荒野を駆け抜け、ツバサたちに襲いかかろうとするティンドラスを始末してくれる。1匹に対して時間をかけないが必ず一撃で仕留めるように心懸ける手際の良さだ。
──間違っても群れの中には突っ込むな。
ツバサの言いつけも遵守しており、トモエは群れに突撃することはなく、反撃を抜けてきたティンドラスの駆除だけに徹底していた。
やがてそれは、一撃必殺のヒット&ウェイ戦法として確立される。
トモエのおかげで取りこぼしもせずに済んでいた。
この感じ……いけるか?
ツバサたちならば、これだけの軍勢が押し寄せても迎え撃つことができる。
逆に押し返すことさえ可能かも知れない。
事実、ティンドラスの大軍を半分以下にまで減らしていた。
後は敵の本陣──あの浮遊要塞にツバサとミロで特攻を仕掛け、終焉龍と化したムイスラーショカを仕留めればいいのだが……。
~~~~~~~~~~~~
「……侮ったか、さすがは始まりにして終わりの龍」
あれから4時間は経過していた。
一時はティンドラスをほぼ壊滅にまで追い込んだツバサたちだったが、浮遊要塞からは際限なくティンドラスが湧き出してくるのだ。
こちらが数を減らせば「おかわりだ」と言わんばかりに追加してくる。
しかも以前の倍を用意してくるから始末が悪い。
ティンドラスの軍勢は徐々に密度を増して、天にも地にも満ちており、高い壁が押し寄せてくるような有り様だ。
浮遊要塞も移動速度を速め、間近に迫っていた。
「これじゃあアタシとツバサさんで突っ込む暇がないよーッ!?」
泣き言を喚きながらもミロはオーバーロードを連発してティンドラスの群れを薙ぎ払うが、ここまで来ると焼け石に水でしかない。
人海戦術とはまさにこのことだ。
想像を絶する数によって押し潰されそうになっている。
タワーディフェンス──難易度HELLが冗談ではなくなってきた。
「こっちも無理をするしかないか……」
その無理がツケとなって回ってくるのをツバサは好まないが、ここで全滅ENDを迎えるよりは遙かにマシだ。やるしかない。
「せめて、あの自由人を味方にしておくべきだったか……」
ミロではないが、乳でも揉ませれば本当に寝返ったかも知れない。
後悔先に立たず、である。
あまりやりたくないのだが、ツバサはまだ試行中の“セクメト・モード”を発動させようと準備をしたところで──。
ティンドラスの大軍が──しっちゃかめっちゃかになった。
一瞬、ツバサたちも何が起きたのはわからず、大きく眼を見開いて事態を確認することに追われたが、わかったのは大混乱が起きたことだけだった。
眼を凝らすことで何が起きたかを突き止める。
斬られたのだ──1匹残らず、大軍のティンドラスすべてが。
それも一瞬で……。
「そこの爆乳美人なおねーさん」
聞き慣れた覚えのある酔いどれの声に振り返ると、ツバサたちの背後に広がる森の上に、巨大な白い龍が長い身体をくねらせて浮かんでいた。
その額の上──手にした剛刀を肩に乗せた剣豪が立っていた。
黒衣の剣豪は懐から出した手を顎に当てて、粋な男を気取っている。片目だけを開けてツバサを見据えると、ニヤリと笑って取引を持ち掛けてきた。
「用心棒を雇わないかい──今ならお安くしとくぜ?」
2
お気に入りに追加
588
あなたにおすすめの小説
異世界悪霊譚 ~無能な兄に殺され悪霊になってしまったけど、『吸収』で魔力とスキルを集めていたら世界が畏怖しているようです~
テツみン
ファンタジー
『鑑定——』
エリオット・ラングレー
種族 悪霊
HP 測定不能
MP 測定不能
スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数
アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数
次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた!
だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを!
彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ!
これは、無念の死を遂げたエリオット少年が悪霊となり、復讐を果たす――つもりが、なぜか王国の大惨事に巻き込まれ、救国の英雄となる話………悪霊なんだけどね。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。
初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。
今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。
誤字脱字等あれば連絡をお願いします。
感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。
おもしろかっただけでも励みになります。
2021/6/27 無事に完結しました。
2021/9/10 後日談の追加開始
2022/2/18 後日談完結
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜
KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。
主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。
ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。
果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる