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第4章 起源を知る龍と終焉を望む龍

第93話:創世より始まる回想譚

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 起源龍オリジン──ジョカフギス。

 全体的なデザインは西洋の“ドラゴン”ではなく、東洋における“龍”に近い。蛇のように長い身体をくねらせ、身体を三等分する位置にかぎ爪を備えた手足がある。

 背中には羽毛の生えた一対の翼を有していた。この長い蛇体に必要なのか定かではないが、ほとんど飾りにしか見えないサイズだ。

 中国の黄龍おうりゅう中央メソアメリカのケツァルコアトル。

 長く伸びる蛇体じゃたいに翼を持つデザインは珍しくない。その系統けいとうのようだ。

 水晶の湖から出ているだけでも50mを超えており、全長は腕の位置や顔の大きさから推測するに3~400mはあるだろう。

 つまり身体のほとんどが、水晶の底に隠れている。

 アルマゲドンにボスエネミーとして登場した古代龍エンシェントが30m前後だから、ゲームに登場していたら規格外の大ボスになっていただろう。

 東洋風の龍と言い表したが、顔はあまり“龍”らしくない。

 東洋の龍といえばヒゲが生えていたり鼻が上を向いていたり、やや武骨さが目立つものだが、ジョカフギスの顔立ちは先鋭的なフォルムをしており、どちらかと言えば鳥類、それも猛禽類っぽいところがある。

 何より──その瞳の輝きの美しさ。

 人間の、それも少女のような愛らしい瞳。まるで森の木陰で蒼く輝く泉のように澄み渡っていた。大きさもあいまって吸い込まれそうになる。

 全身を覆う鱗は一部の隙もなく純白なので白龍と呼ぶべきなのだが、何故か頭から尾まで背を走るたてがみはうるしを塗ったように真っ黒だった。

 つまり、何を言いたいかと言えば──この龍は美しい。

 人知を超越した巨大生物に見下ろされる恐怖もなくはないが、神族化して別次元の怪物を退しりぞけてきたツバサたちには耐性がついていた。

 だからなのか──美々びびしい偉容いようさに見惚れてしまう。

「カッ……カッコいいーーーッ!」

 女の子なのに少年ハートを持つミロが食いついた。

「えっ、か、かっこいい……ぼ、僕が……?」

 ジョカフギスはたじろいでいた。

 そういう賞賛は受けたことがないのか戸惑っている。

「こんなにでっかくてキラキラした少女漫画みたいな眼してるのにシャキーンとしててカッコいい! それにキレイ! 頭に乗せてもらって飛んでほしい!」

 ねえトモちゃん! とミロは賛同を求めた。

 トモエもミロとよく似た精神構造をしている。

 やっぱり幼い瞳をきらめかせて、鼻息荒く頷いていた。

「うん、このドラゴン、キレイでカッコいい! トモエ、その真っ白な鱗ほしい! トモエ白好き! その鱗もらってお守りにしたい!」

 キャッキャッと騒ぐ少女2人、我が娘たちながら精神年齢の低いこと。

「どっちも高校生になる年齢のはずなんだがなぁ……」

 やっぱり教育は大切だ、とツバサは母心で痛感させられた。

 一方、ミロとトモエの賞賛を受けたジョカフギスは、用心棒でもあるセイメイの後ろから出ようとしなかったが、少女たちの賛辞が本物だとわかると、譲歩するように態度が変わり始めた。

「あの、そこの金髪の子……良ければ……乗ってみる?」
「いいの!? 乗る乗る、乗らせてー♪」

「そっちの桃色髪の子も一緒に……ああ、剥がれた鱗で良ければいる?」
「ホントか!? もらう、ください! ありがとう!」

 ジョカフギスはおっかなびっくり首を伸ばすと、ミロとトモエに頭へ乗るように促した。2人は喜々として飛び乗り、額の辺りに座り込む。

「外には出たくないから……これで我慢してね……」

 ジョカフギスは長い身体を伸ばして、洞窟内を軽く旋回する。

 大してスピードは出てないが娘2人は満足なのか、ジェットコースターを楽しむみたいにキャーキャーと歓声を上げていた。

 楽しそうなミロたちをさかなにセイメイは瓢箪の酒を舐める。

「さすが子供同士・・・・、仲良くなるのが早くていいね。これが大人だと礼儀だ気遣いだと腹の探り合いせにゃならんから、時間がかかってしょうがねぇ」

 この言葉には違和感を覚えた。

「おい、子供同士って……ミロたちが幼稚なのはわかるが、あの龍は世界の始まりから生きてる原初の龍だろ? それを子供扱いってのは……」

「話してみりゃわかるさ」

 あいつはガキだよ──お子様だ。

 冗談や悪ふざけが大好きな男だが、こんな嘘をつく男ではない。

 世界創世に関わった龍が子供? どういうことだ?

 確かに臆病というよりも精神年齢がやや低いように感じるが……。

 セイメイは自分から話す気がないのか、ジョカから貰ったという瓢箪の酒を飲むばかり。あの瓢箪、どれほど酒が入っているんだ?

 さっきからハイペースで飲んでいるのに、一向に尽きる気配がない。

 起源龍オリジンからの贈り物──特別なアイテムなのか?

 あれこれ興味は尽きないが、ジョカフギスの話を聞いてからだ。

 龍に乗って空を飛ぶアトラクションを楽しむミロたちを適当なところで切り上げさせると、2人は手にした白い鱗をツバサに見せてきた。

「ツバサさーん、これ貰っちゃったー、キレイな鱗ーッ♪」
「んな、トモエも貰ったー! あとでダインにお守りにしてもらう!」

 他人様から物を貰ったら、ちゃんとお母さんに報告する。

「良かったな、ちゃんとお礼を言うんだぞ」

 純白の鱗を手に駆け寄る娘たちの頭を撫でながら言い付けると、ミロもトモエもジョカフギスを振り仰いで礼を述べた。

「「──ありがとう、ジョカフギスちゃん!!」」

 いつの間にかちゃん付けだ、仲良くなるの早すぎだろ。

 2人を下がらせると、ツバサは改めてジョカフギスと対面した。

 ミロたちとはそこそこ仲良くなったが、ツバサはまだ敬遠されている。

 セイメイを間に置くのが、その証拠と言えた。

 この飲んだくれが何をしたのか知る由もないが、用心棒として絶大な信頼を寄せているようだ。でなければ、ここまで依存する素振りは見せまい。

「さて、ジョカフギス……くんでもいいのかな? 俺たちは君に興味があって、色々と話を聞きたいからここまで来たんだが……」

 その前に──とツバサはジョカフギスに近付いた。

 ゆっくりと慎重に近付いたつもりだが、ツバサが一歩進んだだけでジョカフギスはビクリと振るえて首を引いてしまう。それをセイメイがたしなめた。

「ビクビクすんなジョカ。大丈夫、こいつほど優しい男はいねぇよ」
「え……この人、女神なんじゃ……?」

 更に困惑するジョカフギスにツバサは苦笑した。

「そこを説明するとややこしくなるからな……今は省かせてくれ」

 ツバサは宙に浮いてジョカフギスに詰め寄る。

 脅える龍の鼻先に手を添えた。

「君、ひどい怪我を負っているじゃないか」

 ほぼ治癒しているものの、傷跡は生々しく残っているし、角なども欠けたり折れたりしたままだ。見ているこちらがつらくなる。

 ツバサは過大能力【偉大なるグランド・大自然ネイチャの太母ー・マザー】で活力を生み出すと、ジョカフギスに付与する。ついでに回復&修復の技能で治してあげた。

 見る間に怪我が癒えていき、ジョカフギスは眼を剥いて驚いた。

「この力……君は、地母神なのか? しかし、これほどの力を持った地母神なんて……僕の記憶にはないよ……凄い女神だね、君は……」

「お褒めの言葉、と受け取っておこう」

 褒められるのは悪い気はしない──たとえ女神の力だろうと。

 しかし不思議だ、とジョカフギスは独りごちる。

「君は地母神、ありあまる母性も感じるのに……魂の中に男性がいる。男女両方の魂を併せ持つ女神……かつてもいないことはないが……」

「俺が男だとわかるのか……?」

 男だと認められた嬉しさ半分、興味深いことを呟いた。

 男女両方の魂を持つ女神──ツバサおれが?

 内在異性具現化者アニマ・アニムスと関係あるのだろうか?

 次にジョカフギスは、白い鱗に見とれているミロを見つめる。

「君と強い魂の結びつきを感じる、あの……ミロちゃんは女神なのに、英雄の魂を……雄々しくも若々しい少年の魂を感じる……実に不思議だ」

 君たちの魂は──陰と陽が激しく入り交じっている。

「まるで太古の混沌のようだ、原初の世界を思い出すよ……」

 だが君たちは新しき神だ、とジョカフギスは断言する。

「君たちも、このセイメイも……地球テラという別天地より、“灰色の御子”に導かれて真なる世界ファンタジアにやってきた神々……そうだろ?」

 地球どころか灰色の御子も知っている。

 思い掛けない情報を聞けそうだ、とツバサは収穫に期待する。

「俺たちを一目見ただけで、そこまでわかるのか……原初の龍、いや起源龍という触れ込みに嘘偽りはないみたいだな」

 だからこそ──その見識から様々な話を伺いたい。

 そう求めるのだが、ジョカフギスは尻込みするみたいに首を引いてしまう。セイメイの背に隠れたいようだが、その大きさではどんなに頑張っても無理だ。

 あまつさえ水晶の湖へ潜って逃げようとする始末。

「話を聞きたい、と言われても……僕は大したことを話せないよ? 世界の始まりから生きていたというのも買いかぶりだ……」

 僕はそんなに大層なものじゃない、と小さく頭を振った。

 小心者なのか臆病なのか心を痛めているのか。

 なんにせよ話を聞き出すのは難しいかも知れない。だがツバサは諦めずに誠意を持って問い掛ける。心細い者には丁寧かつ繊細に接するしかないのだ。

「それでも……君の話を聞きたい」

 他にも理由はある、とツバサは探りを入れる。

「君と争っていたというドラゴンの群れについても知りたいんだ」

 ジョカフギスの瞳に動揺が走った。

「それはもしかして、この世界のドラゴンじゃないのではないかな? 目も鼻も角もない、長い舌を伸ばして、背中に触手の羽を生やした……」

「ど、どうしてそれを……ッ!?」 

 やはりジョカフギスを襲ったのはティンドラスだ。

 大雑把なセイメイの説明では要領を得なかったが、奴らも外観だけならドラゴン風だった。この世界の龍にも襲いかかるだろう。

 予感的中──ティンドラスの発生源はこの近くにあるらしい。

「話してくれ、君の知っていることを──」

 君の知り得ることを、とツバサは真摯に頼み込んだ。

   ~~~~~~~~~~~~

 あらゆる神話の始まりの時、そこに差違は少ない。

 まだ世界に何もない状態。ただただ闇が広がっていたり、混沌が蠢いていたり、天と地も分かたれていないな、開闢かいびゃくの時を待つ未熟な空間。

「この真なる世界ファンタジアも同様……すべての根源とも言うべき、万物になり得る可能性を持つものの、まったく形をそうとしない混沌が渦巻いていた」

 その混沌の中、起ち上がる者たちがいたという。

「それは原初の巨人であったり、最初の神であったり……そして、僕たちのような始まりの龍だった……だから、僕たちは“起源龍”オリジンと呼ばれたんだ」

 こういった存在は後世、創世神と敬われたらしい。

 創世の神々は混沌の中を動き回った。

「今にして思えば……そこに明確な意志などはなく、生まれたばかりの赤子が無意識のままに手足を動かすような行為でしかなかったんだよ」

 これが──天地創造の原動力となった。

 巨人が泥を積み上げれば大地となり、神が手を振り上げれば天となり、龍が混沌を泳げばそこに世界を流転させる力の流れが生じた。

 やがて、その力のうねり・・・から様々な生命が誕生することになる。

 こうして世界は始まりの時を迎えたという。

「僕たち原初の存在は、世界ができあがるとその役目を果たしたらしい。ある巨人は死を迎えて、自らが新しい大地となり、ある神は子供たちに後のことを任せて、自らは世界の一部となるべく消えていった……」

 起源龍たちは遠い地の果てで、深い眠りについたという。

「それから僕たちは、ほとんどの時代を眠って過ごしてきた……ちゃんと数えたわけじゃないけれど、きっと何十億年も眠っていたと思う」

「何十……億年もか?」

 地球と幻想世界の時間がリンクしているなら──。

 原始地球が誕生した頃に幻想世界ファンタジアも誕生して、それと同時に起源龍も生まれ、それから今日まで眠りっぱなしだったことになるのか?

「ほとんど? 時たまは起きてたりしたの?」

 ジョカフギスの話し振りから、ミロが曖昧な点を突いた。

 ミロには友達っぽく答えるジョカフギス。

「うん、君たちが言うところのうたた寝に近いかな。そうなる時がたまにあって、そんな時にこの世界に生きる神々や種族の声が聞こえて、ちょっとだけ話をすることもあったよ……でも、またすぐ眠くなるんだ」

 よく眠る、と聞いてミロが同情するように言う。

「ジョカちゃんはお寝坊さんなんだねー」

「どっかの誰かも引きこもりの寝ぼすけだし、おまえら気が合いそうだな」

 忘れがちだが、ミロも引きこもりニートだった過去がある。

 放っておけばいくらでも寝ていたから、共感を覚えるものがあるのだろう。

「セイメイが僕のことを子供っぽいというけど、ずっと眠っていたせいかもしれないね……精神的な成長は、あまりしていない気もする……」

 セイメイの言い分がここで理解できた。

 喋り方からして幼いのは、覚醒していた時間の短さゆえか──。

 それでも世界を創り出した始まりの龍。

 創世を成し遂げた力に引き寄せられる者はいたそうだ。

「色んな神や魔王や種族がいた……僕たちを頼ってきたり、仲間に加えようと脅してきたり、君たちみたいに創世の話を知りたがったり……たくさんの者たちと出会ってきた……それが僕たちは…………」

 嬉しかったんだ、とジョカフギスははにかんだ。

「僕たちの創った世界で、生きている者たちの鼓動が……この世界で生きていこうと励む者たちの営みが……とても愛おしく感じたんだ……」

 起源龍たちは──何者の味方にもならなかった。

 神族と魔族が幾度となく大戦争を起こそうとも、その度に両陣営から協力を求められても、決して動くことはなかった。

 戦争の度に多くの命が失われることを悲しむ気持ちはあったが、それもまた世界の定めと受け入れ、見届けるだけに留めた。

 世界を創造した者として、傍観者の立場を貫いたそうだ。

「んな? ジョカちゃん今、“たち”って言った。他にも起源龍オリジンいるの?」
「あー、トモエちゃん。そこはまだツッコまんであげて」

 セイメイがトモエをやんわり注意する。

 問われたジョカフギスも、長い顔を伏せ目がちにした。

 他にも起源龍はいるようだが──何かあったらしい。

「そう、僕たちは徹底して傍観者で在り続けた……神族も魔族も、僕らから見れば等しく同じ者……共に世界を創造した者たちの末裔なんだ。子孫たちの兄弟喧嘩に口出しはおろか、どちらかに加勢するなんてできないよ……」

 この世界に生きる全てを家族と認識する。

 起源龍のスケールが違う包容力にツバサは静かに唸った。

「だけど、そうも言ってられない異変が起きた……」

 別次元からの侵略者──その侵攻が始まった。

「この真なる世界ファンタジア存亡の危機に、今まで対立していた神族と魔族は手を結び、生きとし生けるもの全てが起ち上がった……この時ばかりは、僕らも加勢しないわけにはいかなかった……だって、そうじゃないか……ッ!」

 侵略者を放っておけば、この世界は滅んでしまう。

 起源龍たちが創り出した、愛おしい者たちの住む世界がなくなってしまう。

 傍観ぼうかんを貫いてきた起源龍も侵略者に立ち向かった。

「奴らは口にするのも憚られるような異形ばかりだが、その本質は大差ない……満たされることを知らない餓えた獣だ」

 世界のすべてを食い尽くし、世界が無になると次の世界へ渡る。

 そうやっていくつもの世界を食い潰してきた。

 長きに渡る戦いで、そこまでは判明したらしい。

「奴らがこの世界へ侵攻してきたのが、1万年くらい前……何とか追い払えたのが、大体4千年前かな……その頃には、この真なる世界も侵略戦争のために、すっかり荒れ果ててしまった……神族も、魔族も、多くの種族が……」

 死に絶えたよ……ジョカフギスは悲しげに言った。

「それに……侵略者たちを倒したわけじゃない」

 追い返したに過ぎないのだ。

 ──別次元に通じる“門”ゲート

 空間にできた裂け目のほとんどは神族や魔族が命懸けで封じたものの、いくつかは開いたままだ。

 侵略者たちの傷が癒えたら、また侵攻してくるだろう。

「わずかに生き残った神族や魔族……その間に生まれた灰色の御子たちは対策を講じようとしたが……とにかく、戦力が足りない……みんな、侵略者たちとの戦いで死に……神も魔も、全ての種族が減りすぎたんだ……」

「だから──地球の人間おれたちをこの幻想世界ファンタジアに連れてきたと?」

 まだ状況証拠だが、ツバサは質問をぶつけてみた。

 ジョカフギスは若干ためらったが、一度瞳を閉じてからゆっくり開いた。
 そして、重い口でポツリポツリと真実を語り出す。

「僕も詳しくは知らないが、地球テラの人間という種族は……神族と魔族が、自分たちの因子から創り出した新しい種族らしい……君たちも聞いてないか?」

 神々が人間を創った──と。

 ツバサは異を唱えず、驚くにも値しなかった。

 無神論者とは言わないが、熱心に信仰する宗教もない。

 大抵の日本人はそうだろう。

 人間が神や魔王に創られたと言われても今更だ。そういう神話なら現実にいくらでも転がっているし、原因がはっきりしただけのこと。

「……あ、あれ、あんまり驚かないね?」

 冷静なツバサたちの反応が、ジョカフギスには意外だったらしい。

「まあね。人間からいきなり神様にされた時ほどじゃないな」
「そっちの方がビックリだよね、アタシら的には」

 ツバサの背中に覆い被さったミロが、ウンウンと頷いていた。

 それに──猫族の天井画やクロコの話もある。

 フミカの分析により、「あの天井画に記されている神や悪魔は現実世界の伝承と合致するものが多い」と解説されているし、クロコがGM権限でアルマゲドン運営から聞いた「幻想世界ファンタジアは神話の元ネタ」という話も知っている。

「神話の元型アーキタイプがこの幻想世界ファンタジアにあり、現実世界とリンクしているならば、かつての神族や魔族が地球に手を加えていたのは明白だ」

 人間を創ったと言われても疑う余地はない。

 自分たちも神族化した今、「それくらいできそう」という実感もあった。

「だから、それほどショッキングではないな」

「そ、そう……セイメイもそうだけど、君たちは精神的に逞しいんだね……まあ、そんなわけで、灰色の御子たちは地球に向かったんだ……」

 新しい神や魔となる者──この世界を守るための戦力を募るため。

「君たちを迎えに行くために……それが500年くらい前で、侵略戦争が落ち着いて大分経った頃さ……だが、この500年が問題だった……」

 何十億年も生きた起源龍にしてみれば、瞬くような時間でしかない。

 しかし、それは永い眠りについていたおかげでもある。

「1万年前、別次元の侵略者がこの世界を襲うようになってから、僕たちは眠らなくなった……みんなと一緒に戦うため、ずっと起きていた……」

 だから──起源龍たちは知らなかったのだ。

「ただ、待つのが……こんなにも長く感じるなんて……たった500年が、こんなにも耐え難いほど長いなんて……思いも寄らなかったんだ」

 漫然まんぜんと過ごすだけなら意にも介さなかっただろう。

 だが、起源龍たちは初めて“待たされる”ということを経験したためか、その時間が正気を失いそうなほど長かったらしい。

「いつまた、侵略者たちの本格的な侵攻が始まるかわからない……そうでなくとも残った次元の裂け目から小さな魔物たちが這い出て、この世界を荒らしている……猶予は一刻もない……だけど、戦える者はもうほとんどいない……」

 真なる世界ファンタジアに取り残された者たちは待った。

 灰色の御子たちが新しい神族や魔族を連れてくるのを──。

 それまでの辛抱だ、と起源龍たちも待ち続けた。



「だけど……兄さん・・・は待ちきれなかったんだ」


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