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第4章 起源を知る龍と終焉を望む龍
第92話:原初の龍は引きこもり?
しおりを挟むVR格闘ゲームの最高峰──アシュラ・ストリート。
そのアシュラ・ストリートにおいて、サービス終了まで不動のベスト8を貫いた8人のプレイヤー。それがアシュラ八部衆である。
天魔ノ王、ウィング、D・T・G、オヤカタ──。
獅子翁、姫若子ミサキ、ガンゴッド、炎☆焔──。
実はこの8人の中にもヒエラルキーがあった。
天魔ノ王、ウィング、オヤカタ、獅子翁──この4人がトップ4としてめまぐるしく順位を変えながらも切磋琢磨し、ガンゴッド、姫若子ミサキ、D・T・G、炎☆焔で5~8位の座を奪い合っていた。
無論、勝負は時の運ということもある。
下位4名が上位4名に下克上をすることもあったし、現実の仕事が忙しいあまりログインできずランキングを落とす者もいた(特にオヤカタとガンゴッド)。
「……その強さゆえ、おれたち4人は四皇と呼ばれた」
「呼ばれてねーよ、パクリで捏造すんな」
思わせ振りに呟くセイメイに、ツバサはジト眼でツッコんだ。
「おれがシャン○スで、ツバサちゃんがシャ○ロット・リ○リンな」
「誰がビッグ○ムだ!?」
「あれ? 王下七武海だっけ?」
「だからパクんな。しかもそれだと一人足らんだろ」
このワン○ース大好きオジサンが、とツバサは吐き捨てる。
「おれが鷹の目のミ○ークで、ツバサちゃんがボア・ハ○コックな」
「誰が海賊女帝だ!?」
そろそろ怒られそうだからやめろ! とセイメイを説教する。
重苦しい殺気も失せ、セイメイの正体を知ったミロとトモエはそろそろと水晶の湖を歩いてくるが、近付くのは気が引けるようだ。
ツバサの背中より数歩離れ、そこからセイメイを窺っていた。
少女2人の様子に、セイメイは失敗したと苦笑する。
「あちゃー……ちょっと脅かすつもりが、ビビらせすぎたかな? カワイコちゃんが近寄ってくれないよ。なあなあ、アメちゃん食べない?」
セイメイは袖の下から飴を出すが、ミロもトモエも寄りつかない。
むしろ、さらにドン引きしたのか後退っていた。
「え、知らないオジサンから物をもらっちゃいけない的なアレ?」
「あんな気迫を叩きつけられりゃ当然だ」
慣れているツバサでも気が滅入る──覇者の闘気。
ミロやトモエくらい修羅場を潜り抜けてきた戦士ならば、勝ち目のない強者からの殺気と受け取り、本能が警戒して近寄ることさえ拒むだろう。
常人が浴びれば卒倒する。
現実でも眼光のみで相手を射竦めるくらい、当たり前にやる男だ。
「おまえはいつもやり過ぎなんだよ」
この男の所業はアシュラ・ストリートにおいても伝説となっていた。
狂気の沙汰、と酷評しても過言ではない。
第一の事件──敗北ペナルティの復活に要する10分以内にすべてのプレイヤーを撃破することで、サーバーに自分1人しかログインしていない状況を作り出した。
その間、アシュラ運営は混乱に陥った。
なにせ最低でも常時数万人はいるはずのサーバー内に、セイメイたった1人しかいないのだ。明らかに異常事態である。
敗北ペナルティゆえのログイン不可通知も尋常ではなく、「サーバーエラー……いや、まさか物理的にブッ壊れた!?」と公式も大わらわ。WebサイトやSNSにて緊急告知したほどだ。
その後、セイメイの大立ち回りが原因だと判明。
セイメイは厳重注意を言い渡され、この件は公表を控えられた。たった一人でアシュラ・ストリートを壊滅させられたなど前代未聞の不祥事だからだ。
プレイヤーにも絶大なショックを与えるに違いない。
もっとも、当人があっちこっちで自慢話として吹聴したのだが……。
第二の事件──後1時間で100日間ランキング1位を達成できたものを、姫若子ミサキのおっぱいに目がくらんでボロ負けした。
結果、姫若子ミサキはたった3日だがトップで喜んでいた。
そして、セイメイは嘲笑の的である。
だというのに、この男は意に介さず「いやー、おっぱいおっぱい♪ いや失敗失敗♪」と自らの敗北をネタに笑いを取り、大物振りを見せつけた。
第三の事件──くだらない口論から、炎☆焔、ガンゴッド、D・T・G、の3人を敵に回した挙げ句、1対3の不利な状況でも返り討ちにした。
アシュラ八部衆の激闘とあってエリア内は騒然となり、巻き添え被害も多発。
またしても敗北ペナルティの嵐が吹き荒れたという。
口論の理由は定かではないが、“きのこたけのこ戦争”と呼ばれていた。
「その噂だけ間違ってるぜ」
無精髭を掻くセイメイは間違いを訂正しながら当時を振り返る。
「正しくは“ビック○マンVS神羅○象戦争”だったんだ」
「大して変わらねぇじゃねーか」
「おれがビック○マン派で、あの3人が神羅○象派だったのよ」
「どっちのオマケがいいかで口論になったのか?」
「いや、口論の原因は“どっちのチョコが美味いか”だったのさ」
「…………まあ、口論にもなるかも知れないな」
マニア以外、どうでもいい内容だった。
しかし、これにより恐ろしい事実が判明してしまう。
今まで天魔ノ王が──まったく本気ではなかったという事実がだ。
本気さえ出せば、八部衆全員を倒せるかも知れない実力。
ツバサは忌々しげにセイメイを親指で差した。
「正直、こいつの実力は俺にも計り知れない……だが、悪い奴じゃないからそんな怖がってやるな。こう見えてこいつ、結構ナイーブなんだよ」
「そそそ、オジサン寂しがり屋なのよ」
こっちおいで、とセイメイはミロたちを招き寄せる。
ツバサの説明もあってか、ようやくミロとトモエは恐る恐る近寄ってきた。それでもツバサの背中に隠れて、人見知りの猫みたいにセイメイの様子を窺っている。
ただ、ミロの警戒心は薄らいでいた。
「……どっかで見たなーと思ったら、アルマゲドンでも何回か会ってるし、現実でもツバサさん家に来てた、あの酒臭いオッサンか」
「なんだよミロちゃん、うろ覚えかおれのこと」
寂しいなぁー、とセイメイはまた手酌で酒を飲んでいた。
セイメイ・テンマとは現実でも知り合いだった。
本名は久世慎之介という武道家──いや、剣術家である。先祖代々、剣術道場を営んでいるというから由緒正しきサムライとも言える。
インチキ仙人(ツバサの師匠)のツテで知り合ったのだ。
「おまえもこっちの世界に飛ばされてたのか」
アルマゲドン時代でも何回か出会しているので、ログインのタイミングが合えばもしかしたら……と思ったら案の定である。
するとセイメイは「何言ってんの」と鼻で笑った。
八部衆はみんな──幻想世界に来てるぜ。
「オヤカタの旦那、D・T・Gの変態親父、ガンゴッドのお調子者、獅子翁のカッコつけ、炎☆焔のチビッコ、姫若子ミサキのカワイコちゃん……そんでもってデカパイのツバサちゃんに、飲んだくれのおれ、と」
ほら8人揃ってる、とセイメイは楽しそうに指を折った。
オヤカタ=ドンカイ・ソウカイ。
姫若子ミサキ=ミサキ・イシュタル。
そして──天魔ノ王=セイメイ・テンマ。
これにツバサを含めて八部衆の内、4人がアルマゲドンをしていたことは把握していたが、他の4人もアルマゲドンにいたとは初耳だった。
あまつさえ、全員この世界に来ているとは──。
「誰がデカパイだ……って、全員に会ったのか?」
うんにゃ、とセイメイはぞんざいに首を振る。
「直接会ったのはガンゴッドとD・T・Gくらいかな……他のは気配を感じたりしただけ。でもまあおれの勘に狂いはねぇよ。みんないるぜ」
しかしまぁ、とセイメイは両眼をいやらしく曲げた。
「アルマゲドンの頃も眼福だったが、こっちの世界に来てますます美人になっちゃってまあ……やっぱりあれか、本物の女神様になっちゃったわけ?」
「……………ああ、不本意ながらな」
否定しても始まらないので、ツバサは渋々と認めた。
そっか、とセイメイは両手をワキワキさせる。
「じゃあ男同士のよしみだ……女神になったおっぱい揉ませてくんね?」
「お断りだ馬鹿野郎」
ツバサは真顔でその横っ面を踏みつけた。
グリグリ踏みつけてやるとセイメイは変な声で笑う。
「ぬほほほほ♪ 冗談よ冗談……そんじゃあ真面目な話をしよう」
ツバサが足を退かすと、セイメイは居住まいを正してキリッ! と音までしそうな真剣な表情に変わる。雰囲気も一変させる紳士的な態度になった。
そして、まっすぐな言葉で告白してくる。
「ツバサちゃん──おれと結婚しない?」
ツバサがブチ切れるまでもない。
娘2人が狂戦士化して、一瞬で血祭りに上げてくれた。
眼を血走らせたミロとトモエによって、セイメイは全殺しの一歩手前状態にされていた。水晶の湖に這いつくばって白目を剥いている。
素手で懲らしめたのは、せめてもの情けか。
「アタシの女に色目を使うだけでも万死に値するというのに……夫であるアタシの前で寝取ろうなんざいい度胸だな、ああん?」
「ツバサ兄さんはトモエたちのお母さん! おまえなんかにやらん!」
先ほどまでの恐れはどこへやら、ミロとトモエは倒れ伏したセイメイをゲシゲシと足蹴にしていた。恐怖より怒りが勝ったのだろう。
ボコボコにされたセイメイは──やっぱり変な声で笑っていた。
「ひょほほほ、冗談だってばジョーダン♪ ミロちゃんがツバサちゃんとラブラブなんは承知の上だし、女の子同士になっても百合百合してんだろうなーとは思ってたから、オジサンちょっとからかっただけだよー♪」
「ならばいい……次はないと思えよ」
過大能力【大君】も発動したのか、ミロはいつもより尊大だ。
「へいへい、ごめんなさいね……いやー、ミロちゃんもちょっと会わない間に強くなったもんだなー。あれか、男子3日会わざれば刮目せよ、だっけ?」
「ミロは女の子だぞ」
一応、ツバサは正しておいた。
いや……最近、ミロの男勝りが凄すぎて、「あれ? ツバサって本当はおっぱいでかいだけが取り柄の女の子で、ミロが本物の男の子なんじゃね?」と思う機会が多々あるのだが……主にベッドの上で思い知らされる。
「おまえも懲りないなぁ……まだ嫁さんを探してるのか?」
この男、こう見えて結婚願望が強いのだ。
「嫁さんなんて見つかるまで探すもんだろ。ツバサちゃんなら俺の好みの3大条件の2つまで当てはまるから、妥協してもいいかなぁと……ぶべらっ!?」
「アタシの奥さんを妥協だと貴様ぁーッ!」
ミロ渾身の左ストレートが、セイメイの顔面ド真ん中に炸裂した。
本当、懲りない男である。
ミロとトモエの2人がかりでボコボコにされたのに、まったくダメージを感じさせないセイメイは、起き上がってぐい呑みの茶碗に酒を注ぐと、それをツバサに差し出そうと手を伸ばしてきた。
「まぁなんだ、再会を祝して一献どうだい?」
言うが早いか──なみなみと酒を注いだ茶碗を投げてきた。
そして、伸ばしてきた右手で仕掛けてくる。
殴る拳、投げの手、体勢を崩す突き……刹那の間に10を下らない手業を飛ばしてきて、それを隠れ蓑に数十の攻撃も練り込んでいる。
そういう趣向か──ツバサはセイメイの意図を読んだ。
ツバサは座ったままのセイメイが繰り出してきた50近い攻撃を、こちらも刹那の時間で防ぎ、やり返すように100を越える手業で反撃する。
これをセイメイも受けて立ち、瞬時の応酬となる。
その間、酒を満たした茶碗は宙に浮かんだままだった。
こぼしたら負け、という暗黙のルールが2人の間にはできており、攻撃の合間にも地面に落ちないよう一瞬だけ手で支えたり、相手に投げて、受け止められ、投げ返され、また受け止められ……をひたすら繰り返す。
傍観者のミロとトモエには、空中に茶碗が静止しているように見えるだろう。2人とも度肝を抜かれた表情で呆然としていた。
両者の攻防は動体視力も追いつかぬ超高速で繰り広げられており、それほどの速さともなれば余波でもただでは済まない。
空気をビリビリさせる振動波が発生し、ツバサとセイメイを中心に突風が巻き起こると、水晶の湖にも波紋ような輪が広がっていく。
「こ、こんなにある水晶まで振るわせてんの!?」
「んなっ! ミロ怖い! ツバサ兄さんもお侍さんも普通じゃない!?」
天変地異めいた事態に、少女たちは抱き合って脅える。
ツバサとセイメイは鬼気迫る形相で笑う。
争いながらもセイメイはゆっくり立ち上がり、酒を満たした茶碗を挟んでツバサの前に立った。座ったままでよく張り合えたものだ。
不意に──セイメイの攻撃に揺らぎが生じた。
ただ張り合うのにも飽きてきたのか、攻撃の合間に手を伸ばすとツバサの胸を揉もうとしてくるのだ。こいつもまた、おっぱい星人である。
当然だが、一度たりとも触らせてやりはしない。
──その増上慢が命取りだ!
ツバサは必殺技でもある大鵬翼に匹敵する勢いで手数を増やし、セイメイの動きを封じた上で茶碗を手に取り、中身の酒をぶっかけてやった。
「……鈍ったんじゃないか、セイメイ?」
ツバサは空の茶碗を人差し指の先でクルクルと回し、最強の剣豪であるセイメイをやり込めたことに満足感を覚えていた。
「いやー、ツバサちゃんも強くなってんなー。こりゃ1本取られたね」
セイメイは脳天気な声で、顔を濡らす酒を舐めている。
「本当ならこれをパクった上で茶碗も取り返して、グビッと煽って勝利の美酒に酔いたかったんだが……こっちに気を取られすぎたかなー?」
セイメイは左手で見覚えのある布きれを振る。
ワイヤーで組まれた大きな2つのカップが特徴的な、独特の形状をした衣類。
特大のカップ2つは西瓜やメロンでも収まりそうな──。
「お、俺のブラ……だとッ!?」
ツバサが茶碗に気を取られている隙を突いて、スリも真っ青の早業でツバサが身につけていた下着を抜き取っていたのだ。
神業を越えた芸当──本当、この男は油断ならない。
セイメイに殺意があったなら、ツバサの隙を突いて手刀で心臓を貫くことも容易かったはずだ。この男の腕ならばできる。
アシュラ時代から競い合ってきた仲だが、未だに実力の全貌を露わにしない不気味さがある。友人ながら底が知れない男だった。
まるでこの水晶の湖の底のように──深淵を覗く心持ちだ。
だからこそ、燃える情熱がある。
越えるべき対象がいる──倒すべき強敵がいる。
それがツバサの向上心という名のやる気を焚きつけるのだ。
「……得物と趣味を取り上げといて正解だったな」
ツバサはため息をつくと、今度こそ勝ち誇った笑みを浮かべた。
そして、親指でミロとトモエを示す。
「はん? 得物と趣味って……おれの刀と酒ぇぇぇっ!?」
セイメイが自分の傍らに置いていた愛刀二振りと瓢箪。
それぞれミロとトモエが持っていた。
鼻の下を伸ばしてツバサのブラを盗もうと躍起になっていたセイメイ。こちらもその隙を突いて愛用品を奪い取り、娘たちに投げ渡しておいたのだ。
ミロとトモエは悪ガキの顔で「ニマ~ッ」と笑う。
「ウフフー、この刀で水晶とか試し斬りしてみよっかなー♪」
「ん、水筒は欲しい、けどお酒入らない……ミロ、どうしよっか?」
「んーっ……捨てちゃえ♪」
「んなぁ~♪ よーし、どんどん捨てちゃおー♪」
それを聞いてセイメイが過剰な悲鳴を上げる。
「やめてぇーッ!? おれの愛刀『来業伝』と『来武伝』をいじめないでーッ! あと、そのお酒もらったばっかりなんだから捨てちゃヤダーッ!!」
セイメイはツバサにブラを投げ返すと、少女たちに土下座した。
こうなると恥も外聞もないのだ、この男は──。
「謝る、謝りますから! この勝負はツバサちゃんの勝ちだし、もうセクハラはしないと誓います! だから……刀とお酒返してぇ~~~ッ!!」
大の男が必死に許しを請う──その滑稽なこと。
演技過剰なところもあるから、セイメイもミロやトモエと仲良くしたいがためにやっているのだろうが……それにしたって情けない
「……ったく、強いんだか情けないんだか面白いんだか」
ツバサは疲れた顔で力なく微笑んだ。
やっぱり底が知れない男である──色んな意味で。
~~~~~~~~~~~~
ミロとトモエに布を広げさせてカーテン代わりになってもらい、ツバサはジャケットを脱いでブラをつけ直した。
首を伸ばして、それを覗こうとするセイメイ。
そんなオッサンを睨んで、大好きなお母さんの裸体を見せまいと一生懸命カーテンの役目を果たしてくれるミロとトモエ。
あれから──ミロとトモエは、セイメイと打ち解けた。
情けなさを前面に押し出した土下座が効いたのだろう。2人ともセイメイのことを「オッサン」呼ばわりして、気のいい変人と認めていた。
……年齢的にはツバサと2つ、3つしか違わないんだけどな。
その反面、侮ろうともしない。
ツバサとタメを張るセイメイの強さを目の当たりにして、アホとバカなりに用心しているのだ。動物的な防衛本能ゆえだろう。
このオッサンは敵に回すとヤバい──そう察したらしい。
「……で、おまえは此処で何やってんだよ?」
カーテン越しのツバサの質問にセイメイはカッコつけて答える。
「んー? 愛と正義の慈善活動……かな」
白い歯を輝かせてイケメンの演技をする。似合ってない。
あからさまにはぐらかした返事である。
「誤魔化すな、わかるように言え」
ブラをつけてジャケットを羽織り直したツバサは、カーテン役の2人の頭を撫でながらセイメイに詰め寄った。
「俺たちはここに“原初の龍”がいると聞いて訪ねてきたんだ。できれば会いたいと思ってる……おまえ、何か知ってるんじゃないのか?」
「知ってるも何も──俺の雇い主だ」
一瞬だが、その言葉の意味を計りかねた。
こちらが聞き返す前に、セイメイはツラツラと語り出す。
「こっちの世界に来てウロウロしてたら、この近くまで来てな。そしたらドンパチやり合っている気配がしたんで、この空飛ぶ山に駆けつけたのよ」
そこでは──原初の龍とドラゴンの群れが戦り合っていた。
原初の龍は力こそ強大だが、たった1匹。
対するドラゴンの群れは、大小様々に多種多様で有象無象。
多勢に無勢とはまさにこのこと、だったらしい。
「どう見てもこっちの……原初の龍だっけ? そいつが劣勢だったんでな。負け戦のが面白そうだったから加勢したら、ドラゴンの群れが逃げちまってよ。その龍は傷だらけだし……ま、放っとけなくてな」
しばらく付き添い、傷の手当てなどをしてやったそうだ。
「そしたら『助けてくれないか?』とか言ってきたんで、『ただ働きは御免だぜ』って答えたら……」
三食の世話と酒飲み放題を条件に、用心棒として雇われたそうだ。
あの瓢箪は報酬だったらしい。
「ただなぁ……ドラゴンの群れにこっぴどくやられたのが堪えてるのか、こないだっから引きこもっちまってて……出てきやしねぇんだ」
そういってセイメイは床の水晶をノックするみたいに叩いた。
「おーい、ジョカー。おまえさんにカワイイお客だぞー」
面ぁ見せなー、とセイメイは呼びかけた。
すると、水晶の湖の底から大きな影が持ち上がってくる。
その影はツバサたちの足下に広がったと思えば、セイメイの後ろへ滑るように移動していき、音もなく水晶の湖から浮かび上がってきた。
如何なる魔法か、水晶の中を苦もなく動き回れるようだ。
水晶を透過して現れたのは──巨大な龍の頭。
西洋のドラゴンというより東洋の龍に近いフォルムなのか、長い首をスルスルと伸ばして、蛇のように鎌首を持ち上げてこちらを見下ろす。
その大きな瞳は乙女のように澄み渡り、叡智の輝きを宿していた。
「お、お……お初にお目に掛かります。ぼ、僕が……その、原初の龍、です」
──まるで中学生の自己紹介だ。
巨体に見合わず、その龍は可愛い声でしどろもどろに名乗る。
「僕の名はジョカフギス……起源龍、とも呼ばれています……」
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