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第3章 彼方に消えしは幽冥街

第66話:ゼガイ・インコグニートの野望

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 それは果たして──人間なのだろうか?

 捕獲して庭に転がしておいたニンゲンモドキ。

 ツバサたちは縁側からそれを見下ろす。

 顔は人間っぽいが、皺だらけで硬質化している。

 首は蛇のように長く伸び、顎は肉食獣を思わせる頑丈なものになっている。手足は辛うじて人間の四肢に近いが、腕は退化して前脚に変わりつつ、後ろ脚に関してはもはや四足獣と大差ない。

 頭髪は抜け落ちているが体毛が生え揃い、体毛の下には皮膚の部分と鱗の部分がまだらに入り交じっている。

 伸びた首の長さ、変形して伸長した尾骶骨びていこつから生えた尻尾。

 図体も肥大化しているため、全長は4m近くまで大きくなっている。

 どう見ても人間ではない──怪物だ。

 なのに、分析系技能アナライズで調べると人間という答えが出る。

 遺伝子や血液型……フミカならもっと詳しく走査スキャンできるのだが、ツバサが調べられるだけでも人間という分析結果が出るのだ。

「たとえば……ホモ・サピエンスに眠る潜在的な因子ファクターがあるとして、それを無理やり覚醒させたら、こうなることもあるのか……?」

 ツバサが疑問を口にすると、ミロとトモエは腕を組んで悩む。

「ツバサさん、ホモ・サピエンスってなーに?」
「トモエ、ホモなら知ってるぞ。男が好きな男だ」

「……おまえらに科学的な意見を求めた俺が愚かだったよ」

 これはフミカに振るべき台詞だった。

 人間の遺伝子は解析されているが、役割が判明しているのはほんの数%。

 残りはゲノム的に何の役割を果たしているのかわからない、つまり役に立っていないのでジャンクDNAという酷い名前を付けられている。

(※実際には人間がまだ調べ切れていないだけで、潜伏的に機能している可能性も捨てきれない。これは進化の過程で積み重ねてきた記録という説もあり、種として正しく成長するための因子であるとの説、進化の途中で不要と切り捨ててきた遺伝子の断片説、細胞に取り込むも機能しなくなったウィルスの残滓ざんし説……など、まだまだ研究過程にあるため、正体についての仮説は枚挙まいきょいとまがない)

 もしも――そのジャンクDNAが無理やり呼び起こされたら?

 人間が進化の営みで捨ててきた、牙、爪、翼、尾、鱗、獣毛、甲殻、視力、暗視、嗅覚、聴覚、変温、肉体の巨大化、毒腺どくせんなどの分泌ぶんぴつ器官きかん篩板しばん絹糸腺けんしせん(蜘蛛や昆虫が糸を出す器官)、反響定位エコロケーション感覚、ピット器官(赤外線感知)……。

 ジャンクDNAから、これらの野性的な能力を先祖返りさせたらならば?

 このような変化を起こすことがあるのかも知れない。

 実際、ジャンクDNAが影響した可能性のケースはいくつかある。生まれ付き指が多い多指症たししょうは医療の現場では珍しくないし、胎盤たいばんからのようになって卵から生まれたと錯覚する誕生をした新生児の話などもある。

 多毛症たもうしょうならば体毛が濃い類人猿の名残だし、人間でも尾骶骨びていこつが伸びて尻尾となる場合もあり、動物の副乳ふくにゅうみたいに乳首や乳房が複数できることもある。

 これらはすべて、人間の持つ多様な遺伝子が発現したに過ぎない。

 自然界でもよくある現象である。

「だが、これ・・は先祖返りでもなければ進化でもない」

 たった一世代の生物に起きた、尋常ならざる悪夢的な突然変異だ。

 ツバサがひとり思案に明け暮れていると、トモエが大槍を手に庭へと降りた。

「シズカちゃんが言ってた。こうなった人間は他の人間を食べるようになる。何をやっても戻せない。だから……殺してあげるしかないって!」

 パズルアーム──砕き殴るものハンマー

 トモエの声が起動スイッチなのか、掲げた大槍が分解する。それは無数のパズルの欠片ピースとなり、トモエの望む形に変形していく。

 今度は人間くらいなら軽々と叩き潰せそうな大槌だ。

 振り下ろそうとするトモエの顔は、泣きたくなるほど悲痛だった。

 決して好きで殺しているのではないのだから──。

「こうするしか…………ないのッ!」

「だから待て、と言っただろう」

 ツバサはトモエの手を掴み、ハンマーをゆっくり下ろさせる。

 その上でニンゲンモドキから引き離した。

「殺すだけなら簡単だ。それしか手段がないというなら仕方ない……俺たちも手を汚してやる。おまえだけが辛い思いをすることはないんだ」

 1人で背負うことはない、とツバサは諭す。

「ツバサお姉さん……ぅっ!」

 トモエは泣き顔をグシャグシャにして縋りついてくる。

 ツバサは何も言わずに抱き締めてやった。

 こういう時、女神の乳房は想いを受け止めるのに適していた。

「その前にひとつ──試させてくれ」

 トモエを慰めつつ、ツバサがミロに窺う。

「ミロ、おまえの過大能力オーバードゥーイングでどうにかならないか?」

「そっか、【大君】オーバーロードの世界を変える力だね……わかった、やってみる」

 人間を救う、となればミロも本気を出す。

 ジャジャ・マルの件は未だに根深い。ミロの心に、後悔という名のトゲを刺したままになっている。真剣に取り組んでくれるだろう。

 神剣の切っ先を天に突き上げ、ミロは声高らかに口上を告げる。

「この真なる世界を統べる大君が…………ッ!?」

 しかし、ミロは驚愕の表情とともに口上を止めてしまった。神剣を掲げる腕も無力感に打ちのめされるように、力なく降りてくる。

「……おまえの過大能力でも無理か?」

 察したツバサが問い掛けると、ミロはただ首を横に振った。

 そして、ミロらしくない戸惑った様子で答える。

「この人……別のもの・・・・になってる、駄目だよ……もう人間に戻せない」

 別のもの? とツバサが眉をしかめた。

 ミロは乏しい語彙ごいで、どうにか説明しようと努力する。

「身体はすっかり変わっちゃってるのは見ての通りだけど、中身も……魂もまったく別物になっちゃってる。多分、この世界でも現実でもない、もっと遠くの、異次元のものに……強いて言うなら、アブホスとかアトラクアに近い」

 魂の領域──そこは神族になったツバサたちでも手が出せない。

 現にジャジャ・マルはアブホスたちに魂のエネルギーまで奪われたため、ツバサやミロでも甦らせてやることはできなかった。

「また魂か……それも連中に近いだと?」

 それを聞いたツバサは、直感的に閃くものがあった。

 アブホスの王は空間の裂け目に居座り、瘴気しょうきを撒き散らしていた。あれは触手からではなく、別次元の空気によって汚染されていたのではないか?

 この幽冥街にはアトラクアが巣食っている。

 だとすれば、奴らが通う空間の裂け目が近くにあるはずだ。

「トモエ、シズカちゃんのメールにあったよな。『風がふく、おかしくなる』って……それは恐らく『人がおかしくなる』って意味だよな?」

「うん。そうして、おかしくなった人が……」

 これ・・──庭に転がるニンゲンモドキを見遣みやる。

 別次元から吹く瘴気を孕んだ風。

 この世界の住人であるケット・シーたちに異変は起きておらず、大抵のものに強い耐性を持つ神族化したツバサたちにも影響は見当たらない。

 しかし、無力な人間があれを浴びたら──。

 その時、空に抜けるような美しい遠吠えが轟いた。

「なっ……なんだ、獣の声!?」
 
 ツバサでも意表を突かれてビクリとした。

 それほど美しくも物悲しく、世界を揺るがすような声だった。

「ツバサさん! あれ見てあれ、巨人だよ!」

 ミロが指差す先──なるほど、あれは巨人だ。

 2階建ての住宅どころか、そこそこの高層ビルを追い抜くほどの背丈から察するに全長20m。ダインの巨神王ダイダラスといい勝負だろう。

 全身が薄茶色の長い体毛で覆われ、犬科の動物を思わせる相貌にライオンに負けずとも劣らないたてがみを振り乱している。

 その目元には両方の目尻に2つずつ、ほくろのような点があった。

 犬面の巨人を目にした途端、トモエが凄まじい気迫を発する。

 パズルアームの鎖を引き千切るように鳴らし、やり切れない想いをたわませているかのようだった。殺意で尖らせた視線は巨人から逸れることがない。

「…………シズカちゃん」

 あれがトモエの幼馴染み──その変わり果てた姿らしい。

   ~~~~~~~~~~~~

「姉さんの話をしてあげようか」

 幽冥街中央高層ビル──アトラクアの巣窟。

 その中心部、祭壇の機械の前でゼガイの話は続いていた。

「姉さんはね、ぼくとは年が離れているけど……とても優しく美しく、聡明な女性なんだ……ぼくより一足先にジェネシスへ入社していた」

 優秀な科学者だった、とゼガイは言う。

「姉さんは次元を超える研究……異世界へと転移するための装置の研究に従事していたそうだ。当時は機密扱いだったのでぼくも教えてもらえなかったけど、人類が移住できる世界を探すため、というのがお題目だいもくだったらしい」

「そういや……ワシらはアルマゲドン経由で魂を神様にされてこっちに来たみたいだが……生身の人間はどうするんじゃ? そっちのが肝要かんようじゃろうに」

「そのための研究ですよ、関取」

 ドンカイの素朴な疑問をゼガイは邪険にしなかった。

 むしろ聞いてほしいのか、丁寧に答えてくれる。

「姉さんの研究は人間、動植物、物質……そういった現実世界の実体あるものを、別の世界へと転送させるものだったんです」

 だからこそ──彼女は気付いてしまった。

「様々な異世界へ転移するための装置。その研究をしていたはずなのに……この装置は……これは…………幻想世界ファンタジアへの道しか開かない!」

 しかし、何もかもが遅かった。

 その事実に気付いたのは、彼女が幻想世界に来てからだ。

「そもそもがおかしかったんだ! 姉さんたちが異世界への転移装置の研究に取り組んだのが13年前! なのに2年間、異世界への扉が開くことはなかったというのに……10年前を皮切りにすべてが動き出した!」

 ゼガイは祭壇の機械を腹立たしげに睨む。

「10年前、ジェネシスの最高幹部が持ち込んだというこの装置が……これが運用されたと同時に幻想世界が発見されたんだ!」

 便宜上──幻想世界への行き方が判明したのは10年前。

 しかし、実際には糸口らしきものが11年前には発見されており、それが確立されたのが10年前なので、ジェネシス社内ではこちらを採用している。

「幻想世界が発見された途端、まるで全ての歯車が噛み合ったように事がスムーズに動き始めた! 姉さんの研究も大いにはかどった! そして……」

 ──あの事故が起こった。

「転移装置の暴走、ですね?」

「! クロコ……貴様も知っていたのか……」

 噂だけですが、とクロコは澄ました顔で言う。

「実体物を異世界へと転移させる装置が暴走して、大変な事態に陥ったことがあるらしい……そうレオ様からぼやかして聞かされました」

「ふん、門前の小僧なんとやらだな……」

 その通りだ、とゼガイは肯定する。

「その大変な事態こそ、由明区ゆうめいく幻想世界ファンタジアへ転移したことだ」

 由明区は土地ごと建物や人間までもが転移してしまい、それらは物質的にも精神的にも現実世界から“存在した”という事象を断たれてしまった。

「姉さんは『現実との縁が切れた』と表現していたよ」

 だから──由明区は消えてしまったのだ。

 それでもわずかに人々の中に記憶は残り、そうした人々が「由明区には知り合いがいたはずだ」と声を上げるようになった。

「これが都市伝説──幽冥街ゆうめいがいの真相だ」

 幻想世界に飛ばされたゼガイの姉は、独自に装置を調査したり、研究資料を洗い直して、この世界に転移された理由を探したという。

 その研究の果てに、現実世界に戻る方法を見出そうとしたそうだ。

「だが……すべて徒労に終わったそうですよ」

 そして、彼女は真実に至る。

「幻想世界に転移させられた姉さんは独自に研究を重ね、ようやくわかったそうです……この異世界への転移装置の正体がね!」

 ジェネシス幹部でもある研究者が基礎理論を組み、ゼガイの姉たちが設計したものだが、これには最初から幻想世界への転移機能が組み込まれていたという。

「逆に言えば……それしか・・・・組み込まれていなかったんだッ!」

 幻想世界に渡ること──その一点にのみ集約された機能。

「全人類の存続など真っ赤な嘘だ! 奴らは……ジェネシスは、幻想世界へ転移する方法を模索していただけだったんだよ!」

 太陽系の惑星を地球化改造することも、銀河系を飛び出す宇宙移民船も、スペースコロニー建造も、他の異世界へ転移する装置も……全部ブラフハッタリ

 幻想世界へ渡ること──それがジェネシスの真の目的。

 なので、地球に帰る方法など見つかるはずもない。

 装置の機能も“幻想世界へ行くだけ”の片道切符だったという。

 ゼガイはうなだれると、肩を揺らしてクツクツと喉を鳴らす。

「装置を調べ上げて、この事実に至った時の姉さんの絶望と言ったら……そりゃあ凄まじかったそうです。ええ……ジェネシスどころか、現実世界も幻想世界も全てぶち壊してやりたくなったと言ってましたからねぇ」

 ウフフ、とゼガイは卑屈な笑みをこぼす。

 そんな彼に臆することなく、クロコは平然と尋ねる。

「ゼガイ──あなた、この世界に転移させられたお姉さまと連絡を取り合っていたのですか? でなければ……あなたの言動や行動はおかしいです」

 ゼガイの笑みが消え、憎たらしそうに舌打ちする。

「チッ、これだからレオナルドの腰巾着は……飼い主同様、目端めはしが利くことこの上ないな。そうだよ、ぼくと姉さんの絆は永遠だからね!」

 この返事を受けたクロコは瞳を細める。

「幽冥街の都市伝説……消えた知人からの連絡……」

 クロコの一言を聞いて、ますますゼガイが苛立った。

「おまえ、本当にムカつく女だなぁ……ぼくがちょっと話しただけなのに、そこまで推理するのか? ああ、そうさ、見立て通りだよ!」

 開き直ったゼガイは祭壇の機械に手を振るう。

「お察しの通りさ。幽冥街にいればこの壊れかけた装置を介して、極希ごくまれに現実世界と繋がることがある……と言っても、その繋がりは微弱なもの。数十秒だけ電波が現実世界に飛ばせる程度のものだがね」

 幽冥街の知人から連絡が届く、とは本当だったらしい。

「この街に取り残された連中も利用していたみたいだが、姉さんはこの装置を調べていたからね。それを確実に捉えることができたんだ」

 彼女は逐一ちくいちゼガイに情報をくれたという。

 クロコは探偵のような観察眼でゼガイを見据える。

「……では、ジェネシスに入社してアルマゲドンのGMになったのも?」

「そうさ、姉さんの指示だ。レオナルドさえいなければ、今頃ぼくが一桁へ食い込んでいたのに……あいつも! おまえも! 鬱陶しいな本当にぃ!」

 ゼガイは癇癪かんしゃくを起こした。秀才らしいが、すぐキレるし煽り耐性も低い。

 あまり辛抱強くない性格なのだろう。

「……レオナルドさんがいなくても無理だったでしょうね」

 マリナはそんな感想を漏らした。

 なるほど、とマリナの横ではフミカが感心している。

「……これで都市伝説・幽冥街の謎がほぼほぼあばけたッスね」

「いえ、まだわからないことがひとつあります」

 マリナは物陰から恐る恐る首を伸ばして辺りを探る。

「あのゼガイさんのお姉さんは──何処にいるんですか・・・・・・・・・?」

 その謎に切り込んだのはドンカイだった。

 語りが一区切りしたところで、ドンカイが質問を投げ掛ける。

「ゼガイ君とやら、君の話はわかった。じゃが……肝心のお姉さんはどうしたんじゃ? 君とお姉さんの望みはなんじゃ?」

 話を聞く限りではご健在なのだろう? とドンカイは太い首を捻る。

 ゼガイの顔から笑みが消えて真顔になる。

 クロコに匹敵する無表情さで、ゼガイは淡々と話した。

「最初はね、何としてでも幻想世界に渡り、姉さんを救おうと……それだけを考えてたんですよ……ぼくにはもう、姉さんしか家族がいないからね……姉さんを救い出して、これまでの情報をジェネシスに叩きつけて、莫大な賠償でも求めようかとも思ってましたよ……でもね……」

 もう──そんなことはどうでもいい。

 少しずつうなだれていくゼガイ。長い髪が顔へと掛かる。

 そして、微かな地鳴りが響いてきた。

「こちらの世界に来て、姉さんと再会したら……姉さんはちょっと変わってしまっていたんです……ええ、ほんのちょっとなんですけどね」

 完全に俯いたゼガイ。その肩がプルプルと揺れている。

 地鳴りは次第に大きくなり、蜘蛛の糸を張り巡らせた高層ビルの壁面をブルブルと震わせていた。やがて地鳴りは地震規模の震動となる。

「街の連中が変わり果てた姿……見ましたよね?」

「まさか……おまえさんの姉上も!?」
「変わってしまったのですか、お姉さんもニンゲンモドキに?」

 ドンカイとクロコの言葉に、ゼガイは俯いたまま首を左右に振った。

 ギクシャクとした人間らしくない動きだ。

「あんな下等な変化はしませんよ……言いましたよね? ぼくの姉さんは、優しく美しく聡明で……偉大なる女王・・・・・・になったんですから!」

 彼女の姉は転移した際──同じ座標軸にいた存在・・と融合した。

 幸か不幸か、それは彼女自身にもわからない。

 だが、彼女は転移先に存在したものと身も心も一心同体となってしまい、ゼガイの姉でありながら、まったく違うものになってしまったという。

 ゼガイは両手を広げ、アトラクアたちを招き寄せる。



「姉さんはね……この子たちの女王と融合してしまったんですよ!」



 地震を伴って地の底より現れたのは──巨大な手。

 アトラクアのように何十もの関節を持った指だが、そこはかとなく人間の形を残している。キチン質の甲殻を思わせるのに肌色なのが生々しい。

 細長い指で床を掴み、長く太い腕で本体を地上へと這い上がらせる。

 出現したのは──蜘蛛の女王。

 悪夢の奥底で人間と蜘蛛を気まぐれに混ぜ合わせたような、人間の怖気おぞけ喚起かんきさせるフォルムだ。なまじ人間に酷似する部分が多いため、尚更に嫌悪感を催させるのかも知れない。

 甲殻でよろわれた巨大な乳房を女王は揺らす。

 やや前のめりになると、装置前にいるゼガイをそっと手で覆う。

 複眼と化した両眼を曲げ、蜘蛛の顎と変わった口で微笑む。

 紫色の眼光を放つ女王は──弟を愛おしげに慈しんだ。

「ほら、ぼくの自慢の姉さんです……とても美しいでしょう? 昔となんら変わっていない……あの時のまま、ぼくを待っていてくれたんですよ……」

 ゼガイは顔を上げて、女王の巨体をうっとり見上げる。

 その右目は──紫色に輝く複眼に変わっていた。

 揺れる両肩からはローブを突き破り、アトラクアの脚が3本ずつ生えてくる。それをゼガイが気にすることはなかった。

 蜘蛛の女王の庇護の元、ゼガイは真意を打ち明ける。

「姉さんはね……欲しがってるんですよ、欲しいっていうんですよ」



 幻想世界ファンタジアを──この世界の全てを!



「だから、ぼくは……この世界を奪い尽くすつもりです!」


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