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第2章 荒廃した異世界
第46話:悪夢と淫夢と……正夢と?
しおりを挟む「改まってどうした、ミロ。相談したいことって?」
ある夜、ツバサは「ちょっと話したいことあるんだけど……」と部屋を訪ねてきたミロを招き入れた。勿論、天井裏からではなく扉からだ。
ミロはそっぽを向き、惚けた調子で切り出してくる。
「んー、ちょっとねー。自分でもどうしたらいいか、よくわかんなくってさ。こういうのはツバサさんのが先輩だから、わかってくれるかもと思って」
「俺が……先輩?」
ツバサが20歳でミロ16歳──。
彼女より4年は長く生きているが、だからと言ってわざわざ“先輩”と銘打つほどのことだろうか?
ミロの知らない意味深長なんて四字熟語を思い浮かべてしまう。
「俺で良ければ相談に乗るが……で、その話ってのは?」
ツバサは寝間着姿で自室のベッドに腰掛ける。
最近、夜はハルカ特製の浴衣で過ごしていた。
これ以外にも男物のパジャマはあるのだが……着られないのだ。
胸が大きすぎてシャツのボタンが留められなかったり、無理やり着ても胸どころかズボンもパツンパツンできつくて寝苦しい。
他にもハルカが「絶対似合います!」と作ってくれた、寝間着になりそうな衣服があるにはあるのだが……どれも女性物だった。
あんなエッチなデザインのネグリジェなんて着られるか!!
結局、これが一番楽なので愛用する羽目になっていた。
「ツバサさん、その寝間着……色っぽいよね」
「誰が色っぽいだ」
男への褒め言葉ではないが、この身体では説得力もない。
ミロはいつも通りのバカTシャツ。『今夜は決める!』とか書かれているが意味がわからない。しかし、下には珍しく短パンを履いていた。
「アタシのさ、【真なる世界に覇を唱える大君】ってあるじゃん?」
この世界にミロが号令を掛けることで、彼女の意のままに世界を改変してしまうという過大能力だ。その威力は異次元から攻めてきた蕃神のこじ開けた空間の裂け目を封じてしまうほどである。
あんな真似、ツバサたちでは逆立ちしてもできやしない。
もしかすると──究極の過大能力なのかも知れない。
万能に思える反面、制約されるところも多い。
最たるものは、自分よりも強い相手には通じない点。
ミロより能力やLVで上位にあるツバサは「もっと女の子らしくなれ」と命じられても抵抗できる。また、この世界も「滅びろ」と根底から存在を否定される命令をされたら「それ無理」と拒むらしい。
「だけどさ……自分に命じたらどうなるかと思ってね」
「自分に命令したら……自分自身に能力を使ってみるってことか?」
それは──自己暗示の超強力なものになるのか?
あるいは自分の思い通りになる自由度の高い強化になるのかも知れない。
覚醒する前に発揮していた【大君】は、これに当たるはずだ。あれはミロが自分で自分の力を底上げした結果なのだろう。
「試す価値がありそうだな。今度、使ってみるか?」
ツバサは賛同するが、ミロは答えない。
ミロは意味ありげに俯いて前髪で目線を隠し、うっすらと微笑んだ。その笑みが何かを企んでいるようで、ちょっと不気味に見える。
「使ってみるじゃなくて……もう使ってみたの」
ミロは短パンのヒモを解いた。
ダブダブの短パンは、支えを失ってするりと足下に落ちる。脱げた短パンを蹴り飛ばすミロは、いつも通りショーツ1枚になった。
ツバサはその股間に釘付けになったまま絶句した。
「おま、え……そ、それッ!?」
ミロの股間に──ありえないものがそそり立っていた。
それはショーツから完全にはみ出ており、硬さを維持したまま上に向かって突き上げている。大きさといい太さといい、立派なものだった。
ま、負けた……正直、現実のツバサより大きい。
それゆえ見間違えるはずもない。
現実ではツバサにも生えていたのだから! 女神の肉体となってからというもの失って久しい、男の象徴である肉体の一部なのだから!
ミロは「よく見て」と言わんばかりに近寄ってきた。
「うん、どうにかしてツバサさんと『もっと深く愛し合えないかな~?』ってアホなりに考えながら過大能力を使ってみたら……生えてきちゃった♪」
「『自分を男にしろ』と命じたのか……ッ!」
いや、生えているのは男性器だけだった。胸にしろ尻にしろ、体型は元の女性的なミロのままだ。つまり、俗に言うふたなり状態らしい。
だとしても──身の危険を感じざるを得ない。
思わずツバサは重すぎる巨尻を揺らして尻込みしていた。
今現在、犯す側はミロであり、犯される側はツバサなのだ。こちらに抱かれるつもりはないし、あれを受け入れる心の準備もない。
しかし、あのガチガチ状態から察するにミロはやる気十分だ。
固唾を飲んだツバサは、我知らず更に後ろへと後退っていた。
「ツバサさん……逃げられると思ってるの?」
ニタリと笑うミロ、その眼は男の性欲に漲っていた。
後退るのでは間に合わない。飛び退こうとしたツバサだが、どういうわけか足腰に力が入らない。それに身体がやたらと重かった。
特に乳房と尻の重量感が凄まじく、体勢を崩してしまう。
爆乳と巨尻の揺れをいつも以上に意識させられる。
「ツバサさんはオンナノコなんだから、もう乱暴なことはできないよ」
「だ、誰がオンナノコ……だ……と!?」
気付いた時には──ツバサの部屋は一変していた。
壁面のすべてはおろか天井まで鏡張り、ベッドも円形の回転するものに変わっており、ツバサはその中心で女の子座りになっていた。
照明もけばけばしく、まるで安っぽいラブホテルのようだ。
「な、んだ……これ……じょ、冗談だろ……ッ?」
鏡に映るツバサはいつの間にかレッドピンクの扇情的なネグリジェ(ハルカ渾身の逸品)を着せられており、ショーツまで際どい勝負下着に替わっていた。
しっかり化粧までさせられて、口紅まで差している。
いつの間に!? 戸惑いと混乱で冷静な判断はできないし、身体を動かそうにも胸やお尻が重くて、いつものような軽々とした身のこなしができない。
ただの無力な女の子にされたみたいに──。
考えられるのは──【真なる世界に覇を唱える大君】の効果。
世界改変能力を使って、部屋どころかツバサまで弱体化させたのか!?
「わおっ! よく似合ってるよ、ツ・バ・サ・ちゃん♪」
「だ、誰がツバサちゃんだ!?」
ミロによって完全に女の子扱いされている。
そのことが悔しくて惨めで恥ずかしいのに──奇妙な興奮も感じた。
娼婦みたいな格好を恥じたツバサは、両手で自らを守るように庇う。ミロは顎に手を添えて、こちらを鑑定するように見つめていた。
「う~ん……ちょーっと直球すぎるかなー? もっとこう、違う方面のエロスを模索して、ツバサさんに『わたしはオンナノコ』って意識してもらわないと」
「誰がオンナノコ……だっ!?」
怒鳴るよりも早く、また衣装を替えられていた。
これは着た覚えがある。秘湯アスクレペイ湯に入る時、半ば無理やり着せられた真っ赤なビキニだ。しかし、あの時より布面積が小さい。
ちょっと動いただけで大事な部分がはみ出そうだ。
「ちょ、タ、タンマ! これキツいって!?」
ツバサは目を点にして赤面すると、片手で両胸を隠しつつ、もう片方の手は股間を覆うことで精いっぱいだった。ミロはそれをニヤニヤ見守っている。
「ツバサさんってばめっちゃおっぱい大きいから、“そこ”の輪っかもエロティックに大きいよね~♪ 500円玉でも隠せないんじゃない?」
「そ、そんな大きくないもんッ!」
女の子みたいな口調で否定してみたが、正直あんまり自信がない。
いわゆる乳輪が男時代と比べて、怖いくらい肥大化したのは事実だから……。
この布面積では本当にはみ出しそうなので泣きたい。
「じゃ、もう少し被覆率上げよっか!」
「ま、また…………今度はバニーガールッ!?」
肩丸出しのボディースーツに網タイツ、兎耳のヘアバンドに蝶ネクタイにカフスとフル装備させられる。しかし、このスーツはギチギチだった。
どう見てもツバサの体型に合ってない。
「あ、ごめんツバサさん、それワンサイズ小さかったわー」
「棒読みで……わざとだろ! わざとだよな!?」
ワンサイズ小さいせいで、ツバサの乳房はボディースーツのカップからこぼれ落ちそうだし、お尻は布地が食い込みすぎて酷いことになっていた。
「あんまり直球ストレートなのもよろしくないかなー?」
んじゃ変化球で、とミロは楽しげに指を鳴らす。
またしてもツバサはコスチューム変更を余儀なくされた。抵抗は無意味だ。
「変化球って……これもドストレートじゃないか!?」
白地に店名のロゴをあしらったピチピチと肌に張りつくタンクトップと、丈が短くてパツパツのオレンジ色のホットパンツ。
こんな扇情的な格好のウエイトレスで有名な海外のレストランがある。
「おまえ……なんでフー○ーズなんか知ってんだ!?」
「ネットで見ました! 現実にいた頃、一度行ってみたいと思ってたんだー♪」
女の子の発想じゃない……育て方を間違ったかも知れない。
「○ーターズの制服ってエロカッコいいもんね! だから、身長高くて極上ボディのツバサさんなら似合うと思って……うん、バッチリ!」
「に、似合ってなんかない! こ、これもやっぱり小さいし……」
これもワンサイズ小さいのをわざと着せているのか、胸元はきつくて今にもタンクトップを破きそうなほどだ。ギチギチと生地が悲鳴を上げている。
下に履いているホットパンツも然り。
はみ出てこぼれ落ちそうな胸と、ピチピチすぎて股間のラインを浮き上がらせそうなホットパンツを両手で隠すのが精一杯だった。
半泣きになりながら荒い呼吸を繰り返す。
それを面白そうに見守るミロは、悪びれもせず口だけで謝ってきた。
「ごめんごめん、すぐもっと可愛いコスに変えてあげるね♪」
「や、やめ……もうやめてぇぇぇーっ!?」
ツバサは女の子みたいな悲鳴を上げてしまった。
女教師風スーツ、昼下がりの団地妻風、どこかの女子校の制服(夏服&冬服)、SMの女王様、幼稚園のスモック、競泳水着、ビキニアーマー……。
ツバサはよく知らないが、アニメやゲームのコスプレもさせられた。
「これ……本当に公共の電波に乗せられたのか!? BPOに苦情ありまくりだろ!? 通報されまくりじゃないのか!?」
(※BPO=放送倫理・番組向上機構の略)
「大丈夫じょぶ♪ 深夜だったけど一応放送してたし」
「マジか!? 昨今の倫理規制、厳しいのかユルユルなのかわかんないな……」
ほとんど紐みたいな衣装とか、シースルーの透過率が90%越えてんじゃないかとか、風が吹いたら布がめくれておっぱいもあそこも丸見えだろ……とか。
とにかくドスケベ衣装ばっかりだった。
そんな恥辱的な格好を何回、着替えさせられただろうか?
「も、もういっそ……ひっく、ぐす、殺して……俺、もう耐えられないぃ……もうやだぁ……俺、男じゃなくなちゃうよぉ……こんなの、男じゃ……ううっ」
ツバサはガチ泣きで(精神的に)死にかけていた。
「う~ん、やりすぎも良くないか……ま、ツバサさんの男心も良い感じでほぐれてきたみたいだし、そろそろ初心に返ってみますか」
気付けば最初のネグリジェ姿に戻されていた。
もう間違いない──ミロはこの空間を完全に支配している。
これも【真なる世界に覇を唱える大君】の力によるものか、空間を支配するのみに留まらず、ツバサの過大能力どころか技能まで封じているのだ。
おかげでツバサはされるがままだった。
少しでも力が使えたら、ミロを相手に大喧嘩を仕掛けている頃だ。
それさえできないとは──屈辱にも程があるッ!
そうこうしている内にミロがベッドへ上ってきて狼狽えるツバサを押し倒すと、あっという間に組み伏せられてしまった。
抵抗できない。腕力までもがミロ以下のようだ。
「まっ、待ってミロ! 待て! こんなのおかし……いいっ!?」
全身をまさぐられる。いいや、愛撫されている。
ミロはこちらの弱い箇所をまるで把握しているかのように、とてもソフトな指使いで責め立ててくる。その度にツバサはビクビクと震えてしまい、抵抗するどころか声を出すことさえままならなかった。
「や、やめ……ミロ、お願い……あっ、やめ……んんっ……きゃ!」
「フフッ、いつもの強気なツバサさんもかっこいいけど──」
──気弱なツバサさん超カワイイ♪
息を吹きかけるように耳元で囁かれてゾクゾクする。
それは本来、こちらが言うべき台詞であって、それを耳元で囁かれたくらいで男であるツバサの胸が高鳴るはずがない。
なのに──どうして──。
──心臓が破裂しそうなほどドキドキするんだ!?
ツバサがろくに抵抗できないのをいいことに、ミロはこちらを押し倒してM字になるように脚を広げさせると、おもむろにショーツを脱がした。
これまでの愛撫により、ツバサの女性的なそこは濡れそぼっている。
男としてこんな屈辱的な体勢で、もっとも恥ずかしい部分を愛するミロにまじまじと凝視されるのは……恥ずかしさと情けなさと怒りのあまり、悶絶死してしまいそうだった。
だが、ここまでされても抗えない自分を思い知らされる。
これからミロに何をされるのか?
大人の男として見当がつかないわけがないし、女神の肉体になった今となっては、ミロの股間に生えたものを受け入れる状態も整っている。
むしろ──待ち望んでいるかのように胎内の底が蠢いていた。
そして、ミロの新しい器官が動き出す。
ツバサのまだ不慣れな女の部分へと押し当てられる。
「さ、ツバサさん……これで晴れて、本当の女の子になれるよ」
良かったね♪ とミロは心から褒めそやしてきた。
「や、やだ……ミロ、待って……俺、やだ、こんなの、違……ひっ……」
だが、ミロは待ってくれない。
ゆっくり、少しずつ、着実に──挿し入れてくる。
それが恐ろして、痛くて、泣きたいほど悲しいのに、ツバサの心の奥底では歓喜とともにこれを入れていることに気付いてしまう。
「ツバサさん……アタシたちの赤ちゃん、いっぱい産んでね♪」
ミロの囁きを聞いて、歓喜の意味を理解する。
ツバサの気持ちとは裏腹に──この肉体は母になることを望んでいた。
~~~~~~~~~~~~
「うわあああああああああああああああああああああああああああああーっ!?」
ツバサは絶叫を上げながら飛び起きた。
時刻は日も昇りきらぬ明け方。カーテンから差し込む朝日はまだ弱々しくて部屋は暗いが、ツバサの自室は鏡張りになってなっていない。
着ている寝間着もハルカ製の浴衣だ。大いに乱れているが──。
「ゆ、夢……か? だとしたら……」
とんでもない悪夢もあったものだ。
全身が寝汗でえらいことになっている。もう一度眠れそうにもないので、このまま起きてしまおうとかけていたシーツを捲った。
「!? またいるし、こいつら……」
ミロとマリナが、ツバサの胸にしっかりしがみついていた。
よくマリナが夜中に「怖い夢を見た」とやって来るので施錠してないのだが、それをいいことに毎晩のようにツバサのベッドへ潜り込んでくるのだ。
ミロまで一緒になって──。
「まったく、乳離れできない娘たちだこと……」
嘆息しながらツバサは起き上がると、まだ眠っている娘たちを起こさずに自室を出ようとする。このまま朝の日課を済ませてしまうつもりだ。
その前に──シーツをめくってミロの股間を改める。
「良かった、ちゃんと女の子だ……」
ついでに自分のも確かめてみるが、そういう行為をした様子はない。ただ、下着が酷い有り様になったのは顔から火が出るほど恥ずかしかった。
「男だったら夢精でもしてたってことか……はぁ」
小学生の頃、そうなった朝を思い出して恥ずかしさが募る。
それでも「あれは夢だ」と再確認できたので、ホッと一安心してから、ミロとマリナにシーツをしっかりかけ直しておく。
「食料庫に鍵を付けてもらったのは英断だったな」
ダインのDIY力に感謝である。
今日は食料庫で朝の日課をしよう。そうと決めたツバサは張り詰めた胸を押さえ、音を立てずに部屋から出ていった。
──その直後。
ミロが寝ぼけ眼で片目を開くと、残念そうに舌打ちする。
「チッ、もう一息だったのに…………」
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