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第1章 VRMMORPG アルマゲドン

第14話:ここより先は激戦区!! ☆

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 アルマゲドンでは死亡すると、デスペナルティを受けてから拠点で復活する仕様になっている。拠点は非戦闘区画のみ設定でき、最低でもアバターの眠るベッドが必要になる(最悪の場合、宿泊所のベッドでも構わない)。

 ツバサたちもアルマゲドン内に拠点を持っていた。

 アルマゲドンのワールドは広い。

 実際の北海道に匹敵する広さだと言われている。

 このため拠点選びは慎重に行わないと、「函館に拠点を置いておいて稚内まで行ったらそこでデスペナルティを受けた」なんて状態にもなりかねない。

 元の場所に戻るまで一苦労だ。

 とある工作の変態に依頼して、中庸ちゅうようの街マイスレトンの住宅区画に建ててもらった一戸建てだ。ツバサ、ミロ、マリナ、3人分の寝室がある。

 アルマゲドンのワールド内を西へ東へと旅しても、ツバサが転移魔法を習得しているので、いつでもどこでも終了時には拠点に帰ってこれるのだ。

 今日も待ち合わせ時間にログインして、ゲームを始めていく。

   ~~~~~~~~~~~~







「「いただきまーす!」」
「はい、お上がんなさい」

 エプロン姿のツバサは、最後にできた料理をテーブルに並べる。

 拠点のダイニングテーブルに所狭しと並べられた料理に、ミロとマリナは我先にと手を伸ばす。取り合わなくても量はたっぷりあるというのに──。

 ツバサたちは『パラメーターをMAXにまで上げてからLV上げ』を続けているため、莫大なSPを必要としている。

 そのSPを稼ぐため、未だにゲーム内では最弱の人間種のままでいた。

 人間種最大の弱点──それは飲食と睡眠が欠かせないこと。

 これを怠ると餓えや渇きや睡眠不足に見舞われ、見る見るうちにステータス異常に陥るのだ。そのためにもログイン時の食事は欠かせなかった。

 食べ合わせ次第では心身に強化バフも掛かるので尚更だ。

「それにしたって今日は豪勢じゃない? ワイバーンの唐揚げにハクタクミルクのクリームシチュー、ヒポグリフの羽先にマンドラゴラの根菜サラダ……」

「前から食べたかった仙桃のコンポートもあります」

 全部、ミロとマリナが希望していた料理だ。リストアップしておいたのを、今日は大放出してみた。ツバサなりの大盤振る舞いである。

「今日はちょっと大変なところに行くからな。アバターに精をつけておかないと身が保たないかも知れない……しっかり食べて強化バフをつけておけよ」

「はーい、ツバサお母さーん♪」
「誰がお母さんだ」

 いつものやり取りに、マリナがクスッと笑う。

「でも、センセイ……そうしてると本当にお母さんみたいです」

「しょうがないだろ。料理の時はエプロンを装備すると効率上がるんだから」

 ツバサはいつもの衣装の上に、ピンクのエプロンを付けていた。

 それでも巨大すぎる乳房は隠しようがなく、執拗なまでに胸元を盛り上げて存在感を主張する。お母さんみたいと言われても言い返しにくい。

 ツバサは爆乳を持ち上げ、谷間を見下ろしながらボソッと呟いた。

「……もう楽に9000万SP溜まるんだし、男に性転換してもよくないか?」

「「──それはダメーッ!?」」

 愚痴のつもりだった一言に、ミロとマリナは大反対する。

「ツバサさんのおっぱいとお尻にメロメロの登録者がどれだけいると思ってんの!? アルマゲドンはネカマできない(正確にはしづらい)から、みんなツバサさんのこと『ダンディでクールなオカン系お姉さま』って信じてんのに!!」

 ミロの言い分にマリナが便乗する。

「セ、センセイはそのままでいてください! ホントは男の人だって教えてもらいましたけど、ワタシにとってのセンセイはお母さ……いえ、センセイはセンセイなんです! 美人で優しくておっぱいの大きいセンセイのままでいてください!」

 どうもマリナは母性に餓えているらしい。

「……わかったよ、わかりましたよーだ」

 どうせオカン系男子ですよー、とツバサはふて腐れながら席に着いた。

「あ、ツバサさんが拗ねた」
「センセイ、可愛い……」

 好き放題に言ってくれるミロとマリナ。

 ツバサとしても、ワガママな娘を2人も育ててる気分になる。

 いけない、この心境は──オカンその物じゃないか。

「いいから食べちゃえよ。食べないと強化バフが付かないぞ」

 前述ぜんじゅつの通り、食事は食べ合わせによって強化が発生する。

 希少レアな素材ほどその効果は高い傾向にあり、調理方法によっては更なる効能を現すものも多い。本日のメニューには全能力をマシマシにするものばかりだ。

「大変なところって……センセイ、どこに行くんですか?」
 
「行けばわかるよ。有名なとこだからな」

 ヒポグリフの羽先を囓るツバサは明言を避けた。

   ~~~~~~~~~~~~

 終焉ついえる戦地──メギド大平原。

 神と魔の最終戦争アルマゲドンを具現化したような超激戦エリアだ。

 見渡しきれないほど広大な平原には、常にLV80以上の天使型、悪魔型、魔神型、神霊型、ドラゴン型、巨人型……とにかく、最上級のモンスターやNPCが際限なく出現するよう設定されている。

 そいつらが、決して終わらない戦いを繰り広げているのだ。

 また、この大平原には様々なプレイヤーがひしめいていた。

 高レベルなエネミーを倒してSPを稼ぎたいプレイヤー、戦闘のドサクサに紛れてプレイヤー狩りでSPを稼ぎたいプレイヤー、漁夫の利を狙って弱っているエネミーやプレイヤーにトドメを刺そうと小狡こずるい奴ら……。

 そんな連中が入り乱れ、いつも大乱戦状態にあった。

 ここではひたすら戦闘を続けるしかない。油断1秒で即死する激戦区だ。生き残りたければ、目の前の敵を倒すしかなかった。

「──そんなわけで今日から・・ここでSP稼ぎをする」

 小高い崖から大平原を見下ろすミロとマリナは──絶句だった。

 ツバサ・ハトホル──LV79
 ミロ・カエサルトゥス──LV76
 マリナ・マルガリーテ──LV59

 いくらパラメーターMAX上げで基本能力が底上げされていると言っても、このLV80越えの怪物が血で血を洗う激戦区には固唾を呑んでいる。

「あのー、ツバサさん……ここはまだ、アタシたちには早いような……」

 いつもイケイケなミロでさえドン引きだった。

「そ、そうですよ……ワタシ、まだLV60にもなってないです」

 臆病なマリナは及び腰どころか逃げ腰だった。

「そうは言ってもな」

 ツバサは今にも逃げ出しそうな2人の襟首を掴んだ。

「え、待って! アタシら猫ちゃうよ!? この持ち方はいくない!」
「セ、センセイ? もしかしなくても、まさか……ッ!?」

 猫みたいに摘み上げた2人を持ったまま、ツバサは崖を進んでいく。崖っぷちで立ち止まると、少女と幼女を宙ぶらりんにする。

「もう対人戦や高LVエネミーでSP稼ぎしても埒が明かない。なら、いっそ本物の修羅場に飛び込んだ方が手っ取り早いと思うんだよ」

 実戦に勝る経験なし、というのがツバサの持論だ。

 正確には武術のイロハを叩き込んでくれた師匠、インチキ仙人の教えである。

『殴られて蹴られてどつかれて……痛い思いしたら嫌で覚えるだろ?』

 したり顔で笑っているイケメンじじいの顔を思い出してしまう。

 実戦での実践あるのみ、これを徹底された。

 ミロやマリナにこの仕打ちは荒療治。場合によっては劇薬かも知れないが、これで生き残れないようでは最強など夢のまた夢である。

「だから、死んだつもりになって頑張ってこい」

「修羅場じゃないよこれ!? 地獄絵図っていうんだよ!?」
「無理ですムリムリ無理!! ワタシたちじゃすぐ死んじゃいますよ!?」

 2人はジタバタと藻掻もがくが、逃がしはしない。

 ツバサはちょっと意地悪に鬼母きぼの笑顔で言い渡す。

「獅子は我が子を想い、千尋の谷に突き落とすという。俺もお前たちのお母さん・・・・として、愛しい娘たちを想って突き落とすんだ……わかるな?」

 長い付き合いからミロがすぐに察する。

「やばい! ツバサさんがお母さんネタを振ってくる時は本気マジだ!!」
「獅子っていうより牝ライオンの顔してますよね!?」

「誰が牝ライオンだ」

 こんな時でも、いつもの合いの手は忘れない。

「安心しろ──骨は拾ってやる」

 そうしてツバサは、無慈悲にも2人から手を離した。

「あああああーっ!? 真っ逆さまに落ちてぇぇぇぇぇーっ!?」
「いやああああっ!? デスペナルティはイヤですーっ!?」

 喚きながら落ちていくミロとマリナ。

 それに戦場上空を飛んでいたワイバーンの群れがいち早く反応し、自由落下を続けるミロとマリナに牙を剥く。

 次の瞬間──ミロの瞳が生存本能でギラついた。

「──どっせいっ!!」

 ミロはワイバーンの鼻面を蹴飛ばして怯ませると、キックの反動を利用して空中で体勢を立て直し、背負っていた長剣を抜き払った。

「こうなりゃやるだけやってやんよ!」

 一振りでワイバーンの首を斬り落とし、まだ泣き喚いているマリナを小脇に抱え、ワイバーンの残骸を足場にして落下速度を調整する。

「マリナちゃん、次の足場!」
「え、あ、そっか! は、はいです!」

 マリナは魔法で盾型防壁を空中に並べていく。

 ちょうど階段になるように──。

 ミロとマリナはそれを駆け下り、そのまま戦場に突入していった。

咄嗟とっさの判断能力、危機的状況での応用力……くらいは身についてきたか」

 ツバサは崖の上から感心する。

 ミロのワイバーンへの対応の早さもなかなかだが、そのミロに「足場」と言われただけで、一番得意な盾型防壁を利用するマリナの判断も悪くない。

 どちらも着実に成長してる──それが自分のことのように嬉しい。

獅子翁アイツもそんなこと言ってたっけ……」

 ツバサには獅子翁ししおうというハンドルネームのネット友達がいる。

 ある日、彼が「ネット限定だけど弟子ができた」と言い出したのだ。

『へえ、女の子か? 可愛いのか? 美人なんだろ?』
『美人だし、可愛いし、綺麗だよ……だが、男だ』

 美少女と見紛うほどの美少年──つまり、男の娘だとのこと。

『だが……眼に入れても痛くないほど可愛い! 弟子のためなら死ねる! あの子がどんどん強くなるのがステキだ! あの子の成長をずっと見守りたい!』

『ダメだ、コイツ──病気だ』

 当時はバカにしたものだが、今ならアイツの気持ちがわかる。

「……弟子ってのは可愛いものだな」

 強者で溢れる戦場を駆け抜け、必死に生き抜こうと足掻あがいて藻掻いて、死なないための努力を続ける弟子2人からツバサは目を離さない。

「だぁりゃぁーっ! どけどけーっ! ミロ様のお通りだーっ!」
「ミロさん待ってーっ! 置いてっちゃヤだーッ!?」

 ミロの剣は一度として止まらず、流れるように動き続ける。

 行く手を阻む者の目、喉、手首のけん……弱点になりそうなところを切っ先で確実に捕らえ、怯んだところに致命傷の一撃を加える。

 マリナも襲ってくる者を盾型防壁で抑え込みつつ、攻撃してくる者を転がすように盾型防壁を発動させていた。その隙を狙ってミロが斬りかかる。

 ミロが倒しやすいように、わざと敵の邪魔をしているのだ。

 マリナは盾型防壁を駆使することで、相手に触れることなく投げる技法を体得しつつあった。魔術による合気投げ、という変わり種である。

「即興のコンビネーション。まだ付き合いも浅いのに……」

 姉妹みたいに仲が良いからなのか、息が合うのも早い。

 ミロとマリナのコンビはやや危ない場面はあったものの、およそ15分ほどは奮闘していた。敵の撃破数も2人で200は数えただろう。

 だが、やはりまだ未熟な彼女たちにこの戦場は厳しすぎたらしい。

 あっという間に高LVプレイヤーに囲まれてしまい、SP稼ぎのためのカモにされようとしていた。逃げ場はなく、完全に包囲されていた。

「もういいか……」

 弟子の骨を拾いたくはないので、そろそろ助けに行こう。

 ツバサはヒョイッと崖から飛び降り、風を操る魔術を使って宙を舞う。

 そして、ミロたちが囲まれている現場に舞い降りる。

 タイミング的に、ミロたち目掛けてプレイヤーたちが一斉に襲いかかったところだった。これは好都合、とばかりにツバサはそいつらを迎え撃つ。

 連中にしてみれば、手足を引っ掛けられた程度にしか感じないだろう。

 だが、ツバサにはそれで十分だ。後はそいつら自身の飛び掛かってきた運動エネルギーを利用して、あらぬ方向へと投げ飛ばしてやる。

 ミロたちを襲った連中は、大挙して宙に舞い上がった。

「まだまだ──ここからが本番!」

 ツバサは自分を飛ばしてきた風魔術を駆使すると、一瞬で竜巻を巻き起こし、宙に浮くプレイヤーを1人も残さず巻き上げる。その竜巻を手足のように操り、プレイヤー同士を超高速でぶつけ合わせて自滅させていく。

 これもまた合気と魔術の応用だ。

「竜巻の中に稲妻を流しても効果的だな……また使おう」

 いきなり空から舞い降りたかと思えば、一瞬で大勢のプレイヤーを倒したツバサに、ミロもマリナも、周囲のプレイヤーたちさえ唖然としている。

「ツバサさん、もしかして……楽しんでない?」

 恐る恐る尋ねてくるミロに、ツバサは歯を剥いて微笑んだ。

「ああ、ちょっとだけ……こういう荒っぽいのは久し振りだから、ついな」

 アシュラ・ストリート・・・・・・・・・・を思い出す、とツバサは呟いた。

 その名を聞いた複数のプレイヤーが反応した。どいつもこいつも畏敬の念を込めてツバサを遠巻きに眺めており、その中の1人が震える声で訊いてくる。

「ア、アンタ……ランキング、どのくらいにいた?」

 その質問にツバサは楽しげに唇を曲げた。

「トップ8にいたぜ──ずっとな」

 それを知った何人かのプレイヤーは、驚愕とともに戦意を喪失したような悲鳴を上げた。いや、これはもう絶叫と言っていいかも知れない。

 誰かがツバサを指差して魔王に遭遇したみたいな大声を張り上げる。



「こ、こいつ…………アシュラ八部衆はちぶしゅうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッッッ!!」


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