想世のハトホル~オカン系男子は異世界でオカン系女神になりました~

曽我部浩人

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第1章 VRMMORPG アルマゲドン

第8話:ミロの腕試しとツバサの憂さ晴らし ☆

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 ──プレイヤーバーサスプレイヤー

 対人戦がメインとなるオンラインゲームではプレイヤー同士が競い合うなんて当然であって珍しくもないが、オープンワールドで多人数のプレイヤーが活動するMMORPGでは罰則ペナルティがあることが多い。

 下手に認めると、他のプレイヤーに嫌がらせをするバカが増えるからだ。

 しかし人工知能が相手を務める対戦とは異なり、同じ人間同士だからこそ駆け引きや真剣勝負が楽しめる。それがPVPの醍醐味というもの。

 そのためゲームによっては、わざわざ対人戦区画を設けたりもする。

 だが──アルマゲドンにはその制限がない。

 始まりの砦を初めとする村、町、都市、城砦じょうさい……などの非戦闘区画を除くすべてのフィールドにおいてPVPが容認されていた。

 アルマゲドンのコンセプトのひとつに『競争することで自己を高める』というものがあるので、それを如実に現しているとも言えるだろう。

 このため、他のゲームでは罰則の多いPVPが推奨されているほどだ。

 そうなると人間の集団心理として起こるのは──。

   ~~~~~~~~~~~~

 中庸ちゅうようの街──マイスレトン。

 様々な種族が集う大きな市街で、周囲をぐるりと背の高い外壁に囲まれているのが特徴だ。設定上はどこにも属さない経済自治都市だという。

 都市を囲う外壁の近くに──人々の大きな輪ができていた。

 これこそが即席闘技場である。

 PVPを純粋に楽しむため、モンスターと遭遇しにくい市街の近くにプレイヤーが自主的に集まり、人の輪で闘技場を作っているのだ。

 ぶっちゃけ──ファイト○ラブである。

 少し曲がった輪の広さはサッカーコートほど。

 戦いたいプレイヤーは闘技場に出て戦うだけ。タイマン、タッグマッチ、チーム戦、バトルロイヤル、その場のノリで何でもアリだ。

 ただし、卑怯な真似をすればブーイングの嵐は免れないし、反感を買う振る舞いをすればどんなに強くても人気は得られない。

「ノワッハッハッハッハッ! 挑戦者はいないであるか!?」

 輪の中心、全身鎧フルプレートアーマーを来た大男が気を吐いている。







 頭から爪先まで鈍色にびいろの鎧で覆い、身の丈を超える大剣を肩に担ぎ、自分を取り巻くプレイヤーたちをしきりに挑発していた。

「このLVレベル56! まだアルマゲドンが発売してからたった1ヶ月! なのにもうLV56! の聖騎士ヴァルハイム・ギラディーンに挑む猛者はおらんのかあっ!? ノワッハッハッハッ、この軟弱者めらがぁ!!」

 自分と似たような鎧を着せた取り巻きプレイヤーを引き連れたヴァルハイムという大男は、自分の強さをLVで喧伝していた。

 人の輪から覗いていたミロは、彼を指差してツバサに訊いてくる。

「ツバサさん、あれなんかお手頃じゃない?」
「いや、ちょっと弱すぎるな。でもまあ……肩慣らしなら安パイか」

 やってみるか? とツバサを促してみた。

 ミロは一も二もなく手を上げると自分がやると主張した。

「はいはーい! アタシが挑戦しまーす♪」

 手を上げたままミロが人混みをかき分けて闘技場へと出て行き、ツバサがその後ろにサポーターよろしくぴったりと続く。

 2人が前に出ると、プレイヤーの輪から歓声が上がった。

「かわいいじゃん……まさに美少女ッ! って感じ」

 ブロンドヘアを綺麗なシニヨンにまとめ上げた美少女が名乗りを上げれば、注目が集まるのは当然だ。それほどミロの顔立ちは人目を引きつける。

 女子高生の制服に鎧パーツを付けたような服、ミニスカートとニーソックスの間の絶対領域がまぶしい。その上に群青色のロングカーディガンを羽織っており、自分の背丈ぐらいある長剣を肩に担いでる。

 恐らく、ヴァルハイムのポーズを対抗しているのだろう。

 一方──ツバサも野郎どもの視線を集めていた。

「すっげぇ美人、それに……なに、あの自己主張しすぎのおっぱい」

 そんな囁き声が聞こえると腹が立つ。

「なんか、あの娘の保護者……いや、お母さんっぽいな」

 その推測は当たらずも遠からずだが認めたくない。

「──誰がお母さんだ」

 ミロが新調したように、ツバサもまたコスチュームを替えていた。

 足のラインがくっきり出るタイトな黒いパンツに、胸の谷間をこれでもかと見せつける同色のビスチェ、皮製のジャケットだけが火のような赤だ。

 ツバサとしては露出を控えたいのだが、ミロに「実況動画ということを意識して! もっとセックスアピール!」と、この服にされてしまった。

 ──恥ずかしい! もう嫌だ! お家帰る!!

 脳内では羞恥心から生じる子供みたいわめきを繰り返している。

 それでも我慢して、ツバサはクールな美女を演じていた。

 ミロとツバサが前に出ると、ヴァルハイムから下卑げび嘲笑ちょうしょうが聞こえてくる。現れた挑戦者が女の子なので侮っているのだろう。

「ほほう、これはこれは……可愛らしいチャレンジャーであるな」

 ヴァルハイムの嘲りを一笑に付したミロは、片手で長剣を振り回す。

 その切っ先をヴァルハイムに突きつけた。

「ミロ・カエサルトゥス──アンタに一騎打ちを申し込む!」

 ヴァルハイムはミロの挑発を受けて高笑いをするものの、その笑声しょうせいには怒気どきを孕んでいた。彼の安っぽい自尊心を傷つけたのだろう。

「ノワッハッハッハッ……なんとも威勢のいいお嬢さんであるな。親の顔が見て見たいものである。そんなにデスペナルティを体験したいのであれば……」
 
 ヴァルハイムは大剣を構え、すぐさま振りかぶる。

「いますぐ味わわせてなにゅっのおっ!?」

 ヴァルハイムは素っ頓狂すっとんきょうな声を上げるも、ミロが放った瞬速の打ち込みを、振り上げる途中だった大剣の柄でどうにか受け止めていた。

「遅いなぁ、聖騎士さん──全然遅い!」

 そこからミロは、連続で長剣を打ち込んでいく。

 彼女の細腕は大振りの長剣を巧みに切り回しており、信じられない速さでヴァルハイムに斬撃を浴びせていく。

 全身のバネを意識して、特に腰の回転速度を重視しつつ、爪先の踏み込む力を剣の切っ先まで届かせるように振り回す。剣の遠心力も利用するのも忘れず、一撃の重みと速度を高めているのだ。

 ツバサの教えをようやく体得してくれたらしい。

 硬く鋭い刃が屑鉄くずてつを削るような音がする。

 ヴァルハイムは大剣の腹で防いでるが完全には防ぎきれず、自慢の全身鎧がミロの長剣によって無惨にも傷だらけになっていく。

「お、おのれぇっ! 小娘が調子に乗りおってぇ!」

 鎧の防御力を頼みにミロの攻撃を無視すると、ヴァルハイムはようやく大剣を振り下ろした。だが、その大振りな挙動はバレバレだ。

 直撃すれば一刀両断だろうが、ミロはひらりと躱していた。

「小娘ぇ! 貴様、LVいくつだっ!?」
「18だよ、それがどしたの?」

 かぶとの奥から愕然とするも怒りを帯びた声が漏れてくる。

「じゅっ……うはちだとぉ!? そんな低LVで吾輩わがはいに挑むかぁ!!」

 しかしヴァルハイムの攻撃はかすりもせず、ミロの鋭い斬撃は全ヒット。

 プレイヤーとしての優劣は火を見るより明らかだった。

「ぬぅぅぅりゃああああああああああ──のぐっ!?」

 ヴァルハイムが渾身の一撃で大剣を振り下ろすが、またしてもあっさりミロに避けられる。素通りしていく一撃にミロは自分の長剣を重ね、力を上乗せしてヴァルハイムの大剣を加速させ、地面に深々とめり込ませた。

 これで生半には抜けない──ヴァルハイムは隙だらけだ。

「デスペナルティ──味わってみる?」

 ミロは返す刀で長剣を振るうと、ヴァルハイムの首を薙いだ。

「ノォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオー…………ッ!?」

 首を断たれたヴァルハイムは、光の泡となって消えていく。

 アルマゲドンではアバターが死亡すると、デスペナルティ処理を受けてから拠点に復活する。ちなみに、ペナルティは保有SPと所持品とコインの全損失だ。

 尚、損失したものを回収するすべはない。

 特にSPは完全に消えるので不可能だ。所持品とコインは倒した相手が盗賊系技能スキルを習得していれば、奪い取って有効活用できるかも知れない。

 なかなか救いのないシステムである。

「アタシの完全勝利ーッ!!」

 ミロが長剣を掲げて勝利宣言すると喝采かっさいが沸き立った。

 高LVを笠に着て偉ぶっていた鎧バカを、いきなり現れた美少女が完封してしまったのだ。ギャラリーが喜ぶ演出となったのだろう。

 しかし、ごく一部の者たちが異を唱える。

「おのれ、小娘! よくもヴァルハイム様を!」
「今度は我らヴァルハイム聖騎士団がお相手仕る!!」

 まだ残っていたヴァルハイムの仲間らしき騎士6人が、歓声に手を振っているミロに襲いかかろうと走り出した。

 腰の剣を抜き放った連中の前に、ツバサが立ち塞がる。

「待て──おまえたちの相手は俺がしてやる」

 騎士たちはビタリ、とその場に立ち止まった。

 何故か抜き放った剣を収め、ツバサを取り囲もうとする。

「貴様……あの娘の保護者だな?」
「よろしい、ではあちらの小娘に代わって、我らの相手をしてもらおう!」
「だが、我らは誇り高き騎士……素手の相手に抜く剣は持ち合わせぬ!」
「我らも素手でお相手いたそう!」

 口々に勝手なことを言う騎士たちを、ツバサは半眼で見据える。

「口上は立派だが……その手の動きをやめろ」

 騎士たちは確かに素手だが、その手はワキワキと指を動かしており、女体を(特におっぱい)まさぐらんとイメージトレーニングしていた。

 ツバサにエロいことをする気を隠さない。

「ま、なんだ。おまえらの気持ちはわからんでもない」

 同じ男同士──自身もおっぱい星人のツバサは共感さえ持てる。

「だからこそ……おぞましい・・・・・んだよ!」

 ミロにならいくらでも揉ませてやるが、同じ男に揉ませることなど想像しただけ怖気おぞけが走る。そんな奴が目の前にいたら完膚無きまでに殺す。

 この女体化したアバターのせいで溜まりに溜まった鬱憤うっぷんを、ツバサは今がその時だと言わんばかりに解放した。

 普通の動体視力では追いつけない反射速度で動き出す。

 人間の眼では追えないつむじ風の如く身体をたなびかせると、騎士たちの懐にするりと潜り込み、連中の剣を奪い取って持ち主の喉や心臓に突き刺す。

 そして、何事もなかったかのように元の位置へ戻る。

 この間、わずか75分の1秒以下──刹那さえ要していない。

 文字通りの、目にも止まらぬ早業である。

「御主人サマが待ってるぜ、さっさと追いかけな」

 更に駄目押し、ツバサの掲げた右手に稲光が宿る。

 ズドン!! と腹の底が抜けるような激震を響かせて、何条もの雷光がツバサの手から放たれ、瀕死の騎士6人に必殺の稲妻をお見舞いする。

 完全に殺りすぎオーバーキル──八つ当たりだ。

 だが、このド派手なパフォーマンスも大いに受けた。

 ドヤ顔で威張っていた感じの悪いヴァルハイムを瞬殺したミロと、そのお供でいやらしそうな騎士6人を葬ったツバサ。

 2人の活躍が讃えられるのは当然の流れと言えよう。

   ~~~~~~~~~~~~

 アルマゲドン発売から1ヵ月──2人は強くなっていた。

 各LVでの全パラメーター上昇値を極めてから次のLVへと上がる、というSPの消費量が途方もない方法ながらも着実に進めていったのだ。

 ツバサ・ハトホルがLV26
 ミロ・カエサルトゥスがLV18。

 LVはそれほど高くないが、LVしか上げていない・・・・・・・・・・短絡バカを圧倒する戦闘能力を身に付けることができた。

 ミロは戦闘系技能でも剣技を中心に技能を習得しており、剣士をメインに成長している。遠からずバトル漫画の剣士みたいに斬撃を飛ばしたり、城でも山でも真っ二つにできるようになるだろう。

 ツバサは初期技能から持っていた武術家としての才能を伸ばしつつ、攻撃や回復を問わず魔法系技能の習得にも励んでいた。

 それもこれも、戦闘特化のミロを陰に日向にサポートするためだ。

 おかげで魔法剣士ならぬ魔法『拳』士になりつつあった。

「さあ、今度はアタシが挑戦者を受け付けるよー!」

 ミロは長剣をブンブン振り回してチャレンジャーを求める。挑戦者が来るなら高LVか、上位種族のプレイヤーに来てほしいところだ。

「……じゃないと、検証にならないからな」

 ツバサはあることを検証したいがために、定期的にPVPが自主的に行われているこの即席闘技場に参加したのだ。



 PVPで得られるSP──その可能性を。



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