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1章
5話
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家の散策も終わり、キッチンに戻った私は冷蔵庫の中を確認する。どうやらこの家にはファンタジー小説で欠かせない魔法を使う媒体として有名な"魔石"が多用されているらしい。そのお蔭で前の世界と変わらない、いや…それ以上に便利かつエコな生活が送れる。
とんでもない家を渡されたモンだと呆れたが、これが異世界転移モノあるあるの特典なんだなと無理やり納得しておく。そうでもしてないとやっていける気がしないので。
「食材は…向こう1週間は買い物の必要がなさそうだわコレ」
気前のいい神様夫婦が食材を揃えておいてくれたお陰で夕飯を作るのに困らな……。前言撤回、メニュー絞るのにめっちゃ困る。
食材を色々物色したけど身体が思いの外疲れているようなので簡単なパスタにした。ペペロンチーノ美味し。
《葛様、入浴の準備が整いました》
「おぉ、ありがとう」
地味に面倒な風呂の準備をしてくれたエトーレに感謝し、私は着替えを片手に早速風呂へと向かう。
と言うのも、この家の風呂が私の願望を見事に叶えた素晴らしいものなのだ。
脱衣場で服を全て脱いで扉を開ければ、そこに広がるのは湯煙の楽園ーー日本人なら馴染みのある温泉だ。
ババ臭いなどと言われようが構わない。私は温泉が大好きなんだよ!しかも露天風呂を独り占め!長風呂の見知らぬお姉様方に遠慮する必要もない、私の為の温泉!散策で見た時は柄にもなく興奮したものだ。
勿論普通の屋内風呂もあるし、なんならプールもある。プールだけでも屋外と屋内両方あるから1年中入れる。こんな贅沢生まれて初めてだ。
「はああぁ~…生きてて良かった……」
一時はどうなることかと不安に思ったが、こんな生活が送れるとは夢にも思わなかった。真面目とまではいかなくとも、人として当たり前の道をコツコツ生きてきたお陰かもしれない。過去の自分に賞賛を送ろう。
乳白色の露天風呂に浸かりながら空を見れば、綺麗な紅葉と満天の星空、そして燐光のように光る黄緑色の大きな満月。
改めて自分は異世界に来たんだなと理解する。
「…これからどうしようか」
金銭面の心配はしていない。自室の奥にあった巨大金庫にどこの国立銀行だよって言いたくなるレベルの金銀財宝が置いてあったのだから。
アレはビビるって、絶対…。自分で開けるのも怖いから必要になったらエトーレに出してもらおう。その方が安全だ、主に私の精神が。
エトーレ曰わく、この家から山の向こうまでが私の所有地となっているらしい。明日にでも確認がてら散歩しよう。
そう言えば遠出するにはどうすればいいんだ?車はありえないだろうし、代わりになる何かがあるならそれも確認しないとな。
「ふぅー…、いい湯だった」
シンプルなパジャマに着替えて寝室に向かうと、空中にヘアブラシやドライヤー、更にはヘアオイルに化粧水と乳液がフワフワと浮かんでいる。控えめに言ってホラーだ。
「あー…、エトーレ?」
《はい、葛様が美容にあまり興味がないことは存じ上げております》
「じゃあどうした?」
《単純に私がしたいだけです》
単純なのに理解出来ない…。
あれよあれよと言う間にアンティーク調の綺麗なドレッサーの前に座らされ、浮かんでいた道具で丁寧なケアをされていく。切るのも面倒で適当に伸ばしていた髪がCMでよく見る女優ばりの光沢を放ち、肌の透明感が増していくのは感動通り越して最早恐怖だよ。
解放される頃には鏡の向こう側に知らない女が死んだ魚の目で私を見ている。
《やはり葛様はダイヤの原石、これから毎日磨かせて頂きますね》
「お前…この短時間で遠慮しなくなったな」
《葛様には多少強引なくらいが丁度良いかと》
「あーもー、はいはい折れますよ。寝る」
《はい、おやすみなさいませ葛様》
「……おやすみ」
ゆっくりと消えていく部屋の照明と眠気を誘うオルゴールの音色、そしてベッドから香る不思議な甘い匂いが私の意識を落としていく。
明日は何が起きるのやら…。
とんでもない家を渡されたモンだと呆れたが、これが異世界転移モノあるあるの特典なんだなと無理やり納得しておく。そうでもしてないとやっていける気がしないので。
「食材は…向こう1週間は買い物の必要がなさそうだわコレ」
気前のいい神様夫婦が食材を揃えておいてくれたお陰で夕飯を作るのに困らな……。前言撤回、メニュー絞るのにめっちゃ困る。
食材を色々物色したけど身体が思いの外疲れているようなので簡単なパスタにした。ペペロンチーノ美味し。
《葛様、入浴の準備が整いました》
「おぉ、ありがとう」
地味に面倒な風呂の準備をしてくれたエトーレに感謝し、私は着替えを片手に早速風呂へと向かう。
と言うのも、この家の風呂が私の願望を見事に叶えた素晴らしいものなのだ。
脱衣場で服を全て脱いで扉を開ければ、そこに広がるのは湯煙の楽園ーー日本人なら馴染みのある温泉だ。
ババ臭いなどと言われようが構わない。私は温泉が大好きなんだよ!しかも露天風呂を独り占め!長風呂の見知らぬお姉様方に遠慮する必要もない、私の為の温泉!散策で見た時は柄にもなく興奮したものだ。
勿論普通の屋内風呂もあるし、なんならプールもある。プールだけでも屋外と屋内両方あるから1年中入れる。こんな贅沢生まれて初めてだ。
「はああぁ~…生きてて良かった……」
一時はどうなることかと不安に思ったが、こんな生活が送れるとは夢にも思わなかった。真面目とまではいかなくとも、人として当たり前の道をコツコツ生きてきたお陰かもしれない。過去の自分に賞賛を送ろう。
乳白色の露天風呂に浸かりながら空を見れば、綺麗な紅葉と満天の星空、そして燐光のように光る黄緑色の大きな満月。
改めて自分は異世界に来たんだなと理解する。
「…これからどうしようか」
金銭面の心配はしていない。自室の奥にあった巨大金庫にどこの国立銀行だよって言いたくなるレベルの金銀財宝が置いてあったのだから。
アレはビビるって、絶対…。自分で開けるのも怖いから必要になったらエトーレに出してもらおう。その方が安全だ、主に私の精神が。
エトーレ曰わく、この家から山の向こうまでが私の所有地となっているらしい。明日にでも確認がてら散歩しよう。
そう言えば遠出するにはどうすればいいんだ?車はありえないだろうし、代わりになる何かがあるならそれも確認しないとな。
「ふぅー…、いい湯だった」
シンプルなパジャマに着替えて寝室に向かうと、空中にヘアブラシやドライヤー、更にはヘアオイルに化粧水と乳液がフワフワと浮かんでいる。控えめに言ってホラーだ。
「あー…、エトーレ?」
《はい、葛様が美容にあまり興味がないことは存じ上げております》
「じゃあどうした?」
《単純に私がしたいだけです》
単純なのに理解出来ない…。
あれよあれよと言う間にアンティーク調の綺麗なドレッサーの前に座らされ、浮かんでいた道具で丁寧なケアをされていく。切るのも面倒で適当に伸ばしていた髪がCMでよく見る女優ばりの光沢を放ち、肌の透明感が増していくのは感動通り越して最早恐怖だよ。
解放される頃には鏡の向こう側に知らない女が死んだ魚の目で私を見ている。
《やはり葛様はダイヤの原石、これから毎日磨かせて頂きますね》
「お前…この短時間で遠慮しなくなったな」
《葛様には多少強引なくらいが丁度良いかと》
「あーもー、はいはい折れますよ。寝る」
《はい、おやすみなさいませ葛様》
「……おやすみ」
ゆっくりと消えていく部屋の照明と眠気を誘うオルゴールの音色、そしてベッドから香る不思議な甘い匂いが私の意識を落としていく。
明日は何が起きるのやら…。
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