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序章
3話
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こうして見事に異世界へ転移することが決まった私だが、ぶっちゃけこういう展開に夢を描いていないのでどうなることやらと不安が拭えない。2人には私の中にある常識がそれなりに通じる+食事に困らないよう食材が豊富な世界にしてくれと頼んだ。
私の要望にも喜々として答えた神様夫婦は謎の巨大な水晶を前にして子供みたいに興奮しながら話を進めている。私は子ども…リュクを胡坐を掻いて出来た足の隙間の上に座らせてその様子を観察している。こう、収まりがいいんだよ。
泣き腫らした目も治ったリュクと軽く手遊びをしつつ、盛り上がっている2人の会話を聞いてみる。どうやら転移する世界は既に決まっているらしい。
『そうだな、まず安全な場所に家を建てよう。魔獣や賊なんかが居ない穏やかな土地があった筈だ。そこなら葛さんも穏やかに過ごせるだろう』
あぁ、穏やかなのは正直嬉しい。その世界じゃどう考えても異端とされる私が突然都会のど真ん中になんて連れてこられても怪しまれるだけ。それなら人知れずひっそりと暮らすのもアリだ。
あー、だけど…。
『あなた、葛さんにいきなり自給自足の生活を強いるおつもり?静かな土地が良いのは分かりますが、全く人が居ない場所では何かと不便になってしまいますわ。それに他の方と交流するのも心の栄養ですのよ』
『おぉ、そうだね』
奥さんグッジョブ。静かなのは好きだが人間不信って訳じゃないので多少の交流は必要だ。それに折角異世界に行くんだから新しい文化とか見てみたい。こんな歳だけど好奇心は廃れちゃいませんので。
『家はこの世界の文化水準から離れないようにしなければ…。それでいて葛さんが何不自由なく暮らせるようにしてっと』
そうだな、悪目立ちは妙な連中を呼んでしまうから無しで。
『家具などの調度品はシンプルにしましょう。後から葛さんが好きにカスタマイズ出来るように』
うわー、超助かる…。気分や季節に合わせて模様替えするのも楽しいから好きだし。
『葛さんは多趣味な方だから、色々出来る部屋も用意しようか』
『葛さんは日本人ですからお風呂は欠かせませんわ!折角ですから立派なお風呂をご用意しましょう!』
『それならこっちはこうして…』
集中してきたのか段々声が小さくなっていくので話の内容は分からない。リュクも私の適当すぎる手遊びに飽きたのか膝をバシバシ叩いてきたので話を聞くのは諦めた。地味に痛かったのでくすぐりで反撃してやったのはここだけの話。
『『出来ました(わ)!!』』
「うぉ!?あー、ビビった…。え、出来たんですか?」
リュクがアルプス一万尺を気に入ったお蔭で延々やっていたらいつの間にか私の新しい家が完成した。2人のやりきった満足顔が絵になる。
水晶玉を覗こうかと思ったが既になく、奥さん曰く着いてからのお楽しみらしい。いや、それだと怖いんだけど。やらかしてないよな?頼むぞマジで。
『何不自由なく生活出来るようにしました。安心して転移してください!』
「はぁ…」
まぁ、深く考えすぎても始まらないか。多少のことがあっても自分で何とかすればいいだけの話だ。
『さぁリュク、葛さんとバイバイして?』
『ん…。おねーちゃ、バイバイ』
「はい、バイバイ。もう誰かを引っ張ったりするなよ?」
『あぃ…』
怒られた内容を思い出したのか涙目で返事をするリュクの頭を撫でると、下の大理石から光る扉が出現した。何だかんだで異世界に行くとなると不安と期待が高まる。
勝手に開いた扉の向こうは光なのか白一色で何も見えないが、不思議と不安だった心が軽くなる。
『良い人生を』
「せいぜい頑張るわ」
笑って見送ってくれる3人に軽く手を振り、光の中へと歩いていく。扉が閉まるよりも前に私の意識は眠りに落ちる時の感覚で落ちた。
さぁ、新しい世界だ。
私の要望にも喜々として答えた神様夫婦は謎の巨大な水晶を前にして子供みたいに興奮しながら話を進めている。私は子ども…リュクを胡坐を掻いて出来た足の隙間の上に座らせてその様子を観察している。こう、収まりがいいんだよ。
泣き腫らした目も治ったリュクと軽く手遊びをしつつ、盛り上がっている2人の会話を聞いてみる。どうやら転移する世界は既に決まっているらしい。
『そうだな、まず安全な場所に家を建てよう。魔獣や賊なんかが居ない穏やかな土地があった筈だ。そこなら葛さんも穏やかに過ごせるだろう』
あぁ、穏やかなのは正直嬉しい。その世界じゃどう考えても異端とされる私が突然都会のど真ん中になんて連れてこられても怪しまれるだけ。それなら人知れずひっそりと暮らすのもアリだ。
あー、だけど…。
『あなた、葛さんにいきなり自給自足の生活を強いるおつもり?静かな土地が良いのは分かりますが、全く人が居ない場所では何かと不便になってしまいますわ。それに他の方と交流するのも心の栄養ですのよ』
『おぉ、そうだね』
奥さんグッジョブ。静かなのは好きだが人間不信って訳じゃないので多少の交流は必要だ。それに折角異世界に行くんだから新しい文化とか見てみたい。こんな歳だけど好奇心は廃れちゃいませんので。
『家はこの世界の文化水準から離れないようにしなければ…。それでいて葛さんが何不自由なく暮らせるようにしてっと』
そうだな、悪目立ちは妙な連中を呼んでしまうから無しで。
『家具などの調度品はシンプルにしましょう。後から葛さんが好きにカスタマイズ出来るように』
うわー、超助かる…。気分や季節に合わせて模様替えするのも楽しいから好きだし。
『葛さんは多趣味な方だから、色々出来る部屋も用意しようか』
『葛さんは日本人ですからお風呂は欠かせませんわ!折角ですから立派なお風呂をご用意しましょう!』
『それならこっちはこうして…』
集中してきたのか段々声が小さくなっていくので話の内容は分からない。リュクも私の適当すぎる手遊びに飽きたのか膝をバシバシ叩いてきたので話を聞くのは諦めた。地味に痛かったのでくすぐりで反撃してやったのはここだけの話。
『『出来ました(わ)!!』』
「うぉ!?あー、ビビった…。え、出来たんですか?」
リュクがアルプス一万尺を気に入ったお蔭で延々やっていたらいつの間にか私の新しい家が完成した。2人のやりきった満足顔が絵になる。
水晶玉を覗こうかと思ったが既になく、奥さん曰く着いてからのお楽しみらしい。いや、それだと怖いんだけど。やらかしてないよな?頼むぞマジで。
『何不自由なく生活出来るようにしました。安心して転移してください!』
「はぁ…」
まぁ、深く考えすぎても始まらないか。多少のことがあっても自分で何とかすればいいだけの話だ。
『さぁリュク、葛さんとバイバイして?』
『ん…。おねーちゃ、バイバイ』
「はい、バイバイ。もう誰かを引っ張ったりするなよ?」
『あぃ…』
怒られた内容を思い出したのか涙目で返事をするリュクの頭を撫でると、下の大理石から光る扉が出現した。何だかんだで異世界に行くとなると不安と期待が高まる。
勝手に開いた扉の向こうは光なのか白一色で何も見えないが、不思議と不安だった心が軽くなる。
『良い人生を』
「せいぜい頑張るわ」
笑って見送ってくれる3人に軽く手を振り、光の中へと歩いていく。扉が閉まるよりも前に私の意識は眠りに落ちる時の感覚で落ちた。
さぁ、新しい世界だ。
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