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序章
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「……ハァー、凄い…」
目の前に広がる見事な青色の水面、青森県にある白神山地の青池だ。どういった原理でこんな美しい色を生み出したのか、それは未だに分からないと聞いているが…正直分からないままでいいと思う。この美しさは自然が気まぐれに作った奇跡だと、そう考えた方が神秘的で一層美しく思えるから。理由なんて人間の勝手な考えは不要だと、そう言われている気さえしてくる。
千歳葛、今年で29歳だが結婚とか考えられない程自分という女に魅力を感じない。化粧も大学の頃の講習で教わった最低限のレベルだし、ファッションはボーイッシュと言うか、華美なものが苦手だからシンプルなパンツスタイルだし。仕事も効率よく金が稼げるものってだけで楽しいかと聞かれたら首を横に振るだろう。
そんな私の人生において唯一楽しめるものが趣味だ。今回わざわざ青森まで足を運んだのも趣味の1つ、パワースポット巡りである。
「多趣味、の域は軽く超えてるか…」
昔から、興味のあることに手を付ける癖があった。金の掛かる趣味は流石に出来なかったが、周りに比べれば好きなことやモノが多かった。話のタネには困らないし、自分の出来ることが増えるのは普通に楽しかったから止めなかった。そうやって増えていった結果、"趣味とは何なのか"なんて考える始末。ここまでくると病気なんじゃないか?
なんて、馬鹿なことを考えながら池の写真を撮る。これも趣味で、写真やバードウォッチングなんかもしている。家の壁には撮った写真が所狭しと飾ってある。そろそろ新しい写真に入れ替えようかな。
足元に注意しながら写真を撮っていた私の周りには人が少ない。集中して写真を撮りたかったから頑張って有給をもぎ取って平日の昼間に来たお陰だ。いやー、仕事押し付けてきやがった部長から有給を勝ち取った時のあの顔…傑作。
様々な角度から写真を撮り、満足した私は先へ進もうと片足を前に出した。しかし、次に続く筈の足が動かない。それどころか何かに引っ張られている感覚までしている。柵にでもズボンの裾が引っかかったのかと思い、振り返る。するとそこには、空中に浮かぶ白い子どもの手が私のズボンを掴んでいた。
は、何これ。え、怪奇現象?ホラーはそこまで好きじゃないんだが?
頭の中が一瞬で真っ白になった私の耳に、場違いな子ども特有の甲高い声が聞こえた。
『おねーちゃ、あそぼ!』
その言葉の意味を理解するよりも先に、私は強い力で引かれて柵を乗り越え、視界を透明な青一色に塗りつぶされてから意識を手放した。
久しぶりに取った有給は最高のようで最悪だった。
目の前に広がる見事な青色の水面、青森県にある白神山地の青池だ。どういった原理でこんな美しい色を生み出したのか、それは未だに分からないと聞いているが…正直分からないままでいいと思う。この美しさは自然が気まぐれに作った奇跡だと、そう考えた方が神秘的で一層美しく思えるから。理由なんて人間の勝手な考えは不要だと、そう言われている気さえしてくる。
千歳葛、今年で29歳だが結婚とか考えられない程自分という女に魅力を感じない。化粧も大学の頃の講習で教わった最低限のレベルだし、ファッションはボーイッシュと言うか、華美なものが苦手だからシンプルなパンツスタイルだし。仕事も効率よく金が稼げるものってだけで楽しいかと聞かれたら首を横に振るだろう。
そんな私の人生において唯一楽しめるものが趣味だ。今回わざわざ青森まで足を運んだのも趣味の1つ、パワースポット巡りである。
「多趣味、の域は軽く超えてるか…」
昔から、興味のあることに手を付ける癖があった。金の掛かる趣味は流石に出来なかったが、周りに比べれば好きなことやモノが多かった。話のタネには困らないし、自分の出来ることが増えるのは普通に楽しかったから止めなかった。そうやって増えていった結果、"趣味とは何なのか"なんて考える始末。ここまでくると病気なんじゃないか?
なんて、馬鹿なことを考えながら池の写真を撮る。これも趣味で、写真やバードウォッチングなんかもしている。家の壁には撮った写真が所狭しと飾ってある。そろそろ新しい写真に入れ替えようかな。
足元に注意しながら写真を撮っていた私の周りには人が少ない。集中して写真を撮りたかったから頑張って有給をもぎ取って平日の昼間に来たお陰だ。いやー、仕事押し付けてきやがった部長から有給を勝ち取った時のあの顔…傑作。
様々な角度から写真を撮り、満足した私は先へ進もうと片足を前に出した。しかし、次に続く筈の足が動かない。それどころか何かに引っ張られている感覚までしている。柵にでもズボンの裾が引っかかったのかと思い、振り返る。するとそこには、空中に浮かぶ白い子どもの手が私のズボンを掴んでいた。
は、何これ。え、怪奇現象?ホラーはそこまで好きじゃないんだが?
頭の中が一瞬で真っ白になった私の耳に、場違いな子ども特有の甲高い声が聞こえた。
『おねーちゃ、あそぼ!』
その言葉の意味を理解するよりも先に、私は強い力で引かれて柵を乗り越え、視界を透明な青一色に塗りつぶされてから意識を手放した。
久しぶりに取った有給は最高のようで最悪だった。
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