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綱砥 鈴

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アスリート科

君にはバレないように

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   部活の外周を終え、蘇芳すおうは校庭へと戻ってくる。梅雨が明け、段々と高くなる気温と湿度を疎ましく思いながら頭から水を浴びた。汗を流してくれる流水はとても気持ちいい。

   はあぁと大きく息を吐いて片手で髪を掻き上げながらフィールドの方へ視線を流す。
   ちょうど走り高跳びを練習しているところだった。数人の男女が跳んではコーチから指導を受けている。


...次は利陸りひとか。


   そういえば、と蘇芳は記憶を思い起こす。利陸が競技しているのを初めて見たのは彼が中学生の時だったが、その時はハードルだった。高跳びの方が得意だと前に彼は笑っていたが、普段校外を走っている蘇芳にとって、この競技を見るのは初めてだった。

   タオルを首にかけながら利陸をじっと見つめる。

「あ」

   助走が始まる。足に羽根でもついているのではと思うくらい軽い。そのまま飛んでいってしまうのでは、と心配になるほど。地から足が離れ、上体が空中で捻られて、利陸は身長よりも高いバーを軽々飛び越えた。

   美しい。

   そう純粋に感じた。

   背中にも羽根が生えているようにも見えて、日で茶色く焼けた髪が光に当てられキラキラ輝いて、跳べたことが嬉しいのかガッツポーズをしてふわりと微笑む笑顔が眩しくて。

   息をするのも忘れるくらい。

   蘇芳が見蕩れているとコーチから指導を受け終えた彼とバチリと目が合う。そのまま『すごいな』と口を動かすと、嬉しいような照れたような笑みでピースして来た。

   どきりと心臓が動く。ばくばくと胸が痛くなる程。顔に熱が集まる。もう呼吸は落ち着いたというのに。
   いや、この心拍の速さの理由など蘇芳は分かっていた。分からないフリをしていただけなのだ。

   利陸は既に高飛びを待つ列に戻っており、蘇芳は再び深くため息を吐いた。
   こんなにも彼に気持ちを寄せている顔なんて、格好悪くて見せられたものではない。利陸の前では格好良くいたい。
   蘇芳はその顔を隠すようにもう一度頭から水を浴びて、もう一度走ろうと裏門に踵を返した。
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