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37話 捕食対象
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僕が何をしても対処する自信があるのだろう。彼は楽しそうに嗤っている。
僕は悔しげに眉を寄せて彼を睨んだ。そう、そのまま、僕の顔を見て喜んでいて。
彼に壊されたのは、教職員用に配布されたスマホ。
僕個人のスマホは無事だ。
左手、後ろ手だけで操作して、令一に繋ぐ。
とんとんとん、こつこつこつ、とんとんとん。
指先で、モールスのSOSサインを繰り返した。令一、どうか気づいて。
僕では、この化け物に勝てそうにない。
ころろん。ころん。
幻想的な鈴の音が、スマホから微かに聞こえた。
旅行先で買った鈴。令一の合図だ!
僕は画面を見ずに、なんとかスピーカーホン状態にした。そのままズボンの後ろポケットに押し込む。
「ここが人の来ない映写室だからって、何をしてもバレないと思ってるんですか」
「ん? 別にバレたっていいぜ?
コトさえ終わればとっととずらかりまーす。
ケーサツさんはさ、現行犯じゃなきゃ、吸血されて死んだなんて思わないのね。
現代科学、アリガトウだよ」
僕たちの存在は世に知られていない。
だから、死因がはっきりしていても犯人を特定できない。
だから彼は、何をしても捕まらないんだ。
今まできっと、彼は何人も。
吸血されて死ぬ。
そういうことか。意味が理解できた。
彼に吸血されれば、僕はたぶん死ぬだろう。
場所は令一に伝えた。お願い、警察に連絡して。ひとりでこっちに向かおうなんて思わないでね。
僕は、少し時間を稼ぐだけで精一杯だと思うから。
「活きのいい獲物追い詰めんの好きだけどさあ。
やっぱ男だと、チ○コ萎えるわー。
つーことで」
彼はすう、と大きく息を吸った。そして。
ぎいん……--------
「あぐっ、あああぁっ!!」
耳を殴られたようなショック。僕は両耳を押さえて膝をついた。
なんて音だ!
この超音波は僕が発するものと違う。波長が違う。音域が違う。
校内を探っていたとき聞こえた音とは桁が違う。
「いい反応だね、センセー。
あー、広域拡散せず、センセーだけ狙ってるから。ご心配なくね?
他の奴が反応するとウザいじゃん」
超音波は『声』だ。超音波を発しながら同時に言葉を話すなんて、僕はできやしない。
しかし、彼はそれをやってのけている。
なんで彼は、身体能力といい、何もかもがこんなに僕を超越しているんだ?
「出来損ないちゃんは、俺みたいな純血のために生きてるんだからさ。
おとなしく食われちまえ。な?」
出来損ない。また言われた。
僕が出来損ないで、彼は純血。 ……純血とは?
「お?
すげ、この音で立つ? 動いちゃう?
んじゃ、もうちょい音量あげるか」
よろめきながら立ち上がった僕に、『音』が数割増しで叩きつけられた。
一瞬意識を失ったのかも知れない。耳を塞いでいた両手ががくんと下りて、僕は体ごと強く壁にぶつかった。
その痛みで、どうにか我に返った。
両拳を握りしめ、爪を食い込ませて耐える。
「おお、すげー!! あんたすげえよ!
これで立ってるとか!! 感激しちゃうね俺!!」
彼が嬉しそうに拍手する。
かろうじて立っているだけで、僕はそれ以上、動けそうになかった。
自らが捕食されかけているとわかっていても。
彼が僕に近づいてくる。
僕の左肩を掴み、もう片手で後頭部をわし掴む。
目前で、男の口から、するすると犬歯が伸びるのが見えた。
男の瞳は血のように赤かった。
僕もこんなふうなんだろうな。
令一は、僕のこと、怖くなかったのかな。
「俺、男から吸うの初めてだわ。
いただきま~す。でもってサヨウナラ。
コミヤマ先生」
つづく
僕は悔しげに眉を寄せて彼を睨んだ。そう、そのまま、僕の顔を見て喜んでいて。
彼に壊されたのは、教職員用に配布されたスマホ。
僕個人のスマホは無事だ。
左手、後ろ手だけで操作して、令一に繋ぐ。
とんとんとん、こつこつこつ、とんとんとん。
指先で、モールスのSOSサインを繰り返した。令一、どうか気づいて。
僕では、この化け物に勝てそうにない。
ころろん。ころん。
幻想的な鈴の音が、スマホから微かに聞こえた。
旅行先で買った鈴。令一の合図だ!
僕は画面を見ずに、なんとかスピーカーホン状態にした。そのままズボンの後ろポケットに押し込む。
「ここが人の来ない映写室だからって、何をしてもバレないと思ってるんですか」
「ん? 別にバレたっていいぜ?
コトさえ終わればとっととずらかりまーす。
ケーサツさんはさ、現行犯じゃなきゃ、吸血されて死んだなんて思わないのね。
現代科学、アリガトウだよ」
僕たちの存在は世に知られていない。
だから、死因がはっきりしていても犯人を特定できない。
だから彼は、何をしても捕まらないんだ。
今まできっと、彼は何人も。
吸血されて死ぬ。
そういうことか。意味が理解できた。
彼に吸血されれば、僕はたぶん死ぬだろう。
場所は令一に伝えた。お願い、警察に連絡して。ひとりでこっちに向かおうなんて思わないでね。
僕は、少し時間を稼ぐだけで精一杯だと思うから。
「活きのいい獲物追い詰めんの好きだけどさあ。
やっぱ男だと、チ○コ萎えるわー。
つーことで」
彼はすう、と大きく息を吸った。そして。
ぎいん……--------
「あぐっ、あああぁっ!!」
耳を殴られたようなショック。僕は両耳を押さえて膝をついた。
なんて音だ!
この超音波は僕が発するものと違う。波長が違う。音域が違う。
校内を探っていたとき聞こえた音とは桁が違う。
「いい反応だね、センセー。
あー、広域拡散せず、センセーだけ狙ってるから。ご心配なくね?
他の奴が反応するとウザいじゃん」
超音波は『声』だ。超音波を発しながら同時に言葉を話すなんて、僕はできやしない。
しかし、彼はそれをやってのけている。
なんで彼は、身体能力といい、何もかもがこんなに僕を超越しているんだ?
「出来損ないちゃんは、俺みたいな純血のために生きてるんだからさ。
おとなしく食われちまえ。な?」
出来損ない。また言われた。
僕が出来損ないで、彼は純血。 ……純血とは?
「お?
すげ、この音で立つ? 動いちゃう?
んじゃ、もうちょい音量あげるか」
よろめきながら立ち上がった僕に、『音』が数割増しで叩きつけられた。
一瞬意識を失ったのかも知れない。耳を塞いでいた両手ががくんと下りて、僕は体ごと強く壁にぶつかった。
その痛みで、どうにか我に返った。
両拳を握りしめ、爪を食い込ませて耐える。
「おお、すげー!! あんたすげえよ!
これで立ってるとか!! 感激しちゃうね俺!!」
彼が嬉しそうに拍手する。
かろうじて立っているだけで、僕はそれ以上、動けそうになかった。
自らが捕食されかけているとわかっていても。
彼が僕に近づいてくる。
僕の左肩を掴み、もう片手で後頭部をわし掴む。
目前で、男の口から、するすると犬歯が伸びるのが見えた。
男の瞳は血のように赤かった。
僕もこんなふうなんだろうな。
令一は、僕のこと、怖くなかったのかな。
「俺、男から吸うの初めてだわ。
いただきま~す。でもってサヨウナラ。
コミヤマ先生」
つづく
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