泡沫の同盟

夏野菜

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1話

同盟

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 痛いほど焼きつく様な容赦のない7月の炎天下。
私、立花香織は高校生活で2度目の夏休みを迎えようとしていた。
今日は夏休み前の大掃除と終業式の為だけに登校しただけで、
解放感とエネルギーを持て余した生徒たちは掃除どころではなさそうだった。
私のクラスが担当するのは水泳部しか
使わないプールと更衣室で、それぞれ離れたところにあり、すぐに目が届かない為、
担任である中村先生は「絶対に遊ぶなよ」と念押しをしてそれぞれの生徒を
2か所に割り当て、私はプール掃除組となった。
しかし向かったのは掃除場所である
プールではなく、プールサイドを囲う柵の裏側のほとんど人が通らない通路にある
塗装が剥げ落ち、黒く変色し、今はもう使われていないであろう用具入れの裏だった。
「やっぱりここに居た。大野先生。」
丸まった背中がビクッと揺れた。
ゆっくりと振り返った副担任の大野先生が左手に持っていたのは、
学校という場所には似つかわしくない
煙草で、ため息とともに吹き出した煙は
真っ直ぐに立ち上り一筋の糸の様に流れた。
「見つかっちゃったか」と言いながら
へにゃっと柔らかく笑った大野先生は、
学校行事をサボり喫煙していた所を生徒に見られたにも関わらずを慌てた
素振りを見せることなく私に問いかけた。

「立花さんもサボり?だったらさ同盟組もう。サボり同盟。今見たことは見逃してくれない?中村先生にも秘密で。」
「なに言ってるんですか。その中村先生が怒ってます。
先生に探して来てって頼まれたんですよ。多分ここに居るって言われて。」
「え~バレてる。俺の秘密のアジトが。」
「アジトって、よくこんな所で休憩できますね、虫とかすごそう。」

大野先生は、まあねと言って煙草の煙を
吹き、口をすぼめる。
吸い殻となったそれを地面に押し付け、
火を消すと足元に置いてあったコーヒー缶の中に捨てた。
さてと、と言って猫の伸びをする様に
ゆっくりと立ち上がると、
「俺は今から立花さんを買収します。」と
唐突に宣言した。
私は狐につままれたような気になってしまい、
思わず先生に対しては?と言って目を丸くした。
「冷房ガンガン効いてる、めっちや涼しいところに連れて行ってあげよう。」と
言う大野先生は隠しようもないドヤ顔ではあったが、
炎天下の中、それは思わぬ魅力的な提案だった。
「・・・仕方ないですね。
組んであげます、同盟。」


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