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魔法国珍道中
第16話 抱える事情
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「……」ジーッ
「(……近くね?)」
それで見えているのかという超近距離で、ラビ太の体を視姦もとい視認(ガン見)をするクレア。
「表情筋がまるでない顔……バランスの悪い頭身……起毛のある肌……派手な体色……しかも人語まで話す……」
聞こえるか聞こえないかの声量でぼそぼそと呟くクレア。観察はそのままお構いなく続く。
自分の潔白をどうにか示すことが出来たと安堵したのも束の間、間髪入れずにこの状況になった倫太郎には当然困惑しかない。
下手に動くとまた警戒されてしまうかと思うと、身動きの取れないまま流れに身を任せる他ないのであった。
「なるほど……分かりました」
一人納得して一歩後ろに下がるクレア。倫太郎の緊張感も解ける。
「えっと、分かったって何が……?」
「あなたが見たこともない不可解な生き物だと分かりました」
「そ、そうですか」
「それと」
「それと?」
「あの至近距離で無防備な私に何かする気配が無かったので、一先ず敵意が無いことも確認しました」
「そんなこと確認してたんか……。俺に敵意とか悪意があったらそもそも救助してないでしょうに」
「それもそうですが、念には念をです」
クレアの朴訥と受け答えをするその姿には冗談も洒落っ気もない。彼女は至って本気の言動である。
まだ互いに様子見なところはあるものの、拳や刃ではなく言葉を交わせることは何よりも大きいことであった。
「ホントに何もする気はないから心配しないでほしい。というか、俺に何かしたら勝手に面倒ごとが起きるから穏便にいこう」
「こうして話が出来るのも驚きですが、まさか魔物から停戦の申し出をされるとはさらに驚きです」
「驚かれることなんだ……。そっかー。俺ってやっぱり魔物かー」
「それ以外には見えませんが?」
改めて突きつけられる現実に軽くショックを受ける倫太郎。
しかし。どうしようもない。どこからどう見ようとも人には決して見えない。見た目は100%人外なのである。
そもそもどこまで説明すべきか、どう説明するか測りかねる状況。
「自分は別世界から来た転移者で、魂の器として着ぐるみが肉体となり、女神様の恩恵で異常スキルを獲得し、化物怪物の巣窟でサバイバルをしてランクを爆上げして、そして今現在ここでトラブルを巻き起こしている」―――と正直に話したところで、そんな話を信じる酔狂な者はそう滅多にいない。
これからも付きまとうであろう『Who are you??」問題を考えると、倫太郎の心の中は虚しさでいっぱいになりそうであった。
「ん?」
肩を落とす倫太郎にトコトコと駆け寄って手を握る少女。上目遣いでニコッと微笑むその姿に不安や悩みなど一気に爆散する。
実に現金な男である。
「魔物を信頼するというのは土台難しい話ではあるのですが、なぜかソラが懐いているようなのでここはソラに免じてあなたを信じることにします」
「理由はなんであれ信じてもらえるなら何よりだよ。そっか。君はソラちゃんって言うのかぁ~。かわいいねぇ~。へへへ」
「……」カチャ
「え!?なんで武器構えるの!?」
「いえ。なにか不健全さを感じたので咄嗟に」
「いやいや!デレただけ!デレただけだから!」
ポーカーフェイスでありながらも蔑んだ眼でダガーを握るクレア。滲み出る変態性に危機察知が反応したのである。
刃越しのジト目はハッキリと怖い。
「以後、お気を付けください」
「……はい」
クレアの圧に屈服した倫太郎。ただの脅しとはいえ思わず正座である。
「さて。悠長にこんな事している場合ではないですね。そろそろ行かないと」
「え?いやまだ万全じゃないでしょ?ちゃんと体は休めんと」
「動けるようになってるだけで充分です。こんな所で長居はしてられません」
「何をそんなに急いでるの?」
「そこまでお話する義理はありません」
「いや、でもさ」
「自分たちの問題に他人―――他魔物を巻き込むつもりはありませんので」
「た、他魔物……」
聞き馴染みのないパワーワードに倫太郎は素でたじろぐ。
わざわざ言い直されたことで、自分がはっきり魔物として認知をされていることも思いの外メンタルに突き刺さる。
「本当に巻き込むつもりはないのです。ご容赦ください」
深々と一礼するクレア。あくまで独立独歩。頑なに「自分でどうにかする」という意思がひしひしと伝わって来る。
そこまでの確固たる意思を感じて、逆にクレアの事情が増々気になってくる倫太郎。
しかし。巧みな話術も狡猾な心理術も持ち合わせない倫太郎では、これ以上追及する術も度胸もない。
情けなくも手打ち止めである。
「ソラ。行きましょうか」
『……。……。』
クレアに手を引かれながら倫太郎の方をチラチラと振り返るソラ。その目はどこか不安げでもあり、悲しげでもあった。
本当に行ってしまった二人の方向を見ながら、倫太郎は一人その場に取り残される。
侘しさと無力感がじんわりと感情に染み入ろうとする中、倫太郎は腕を組んで考え込む仕草を取る。
その体勢で数十秒。倫太郎は一つ気持ちを抽出する。
「……うん。やっぱ放ってはおけんな」
お節介だと分かった上で探索者を発動する倫太郎。位置を捉えるともうすでに200メートル以上先に進んでいる。
スピードで考えても歩行ではなく走行しているのは明らかで、万全じゃない体に鞭を入れているクレアの姿が容易に目に浮かぶ。
巻き込むつもりが無いと何も語らなかったが、さすがの倫太郎でも二人が何かから逃げている事は想像できてしまう。
そもそも。二人の関係性もよく分からないところで、姉妹にも親子にも見えない年齢差である。シスターと少女という組み合わせで考えると孤児院のような所で繋がりがあるようにも考えられるが、あれだけ戦闘に長けたシスターは普通とは言えず少女には生活感がないくらい身なりがボロボロでもあった。
倫太郎が首を突っ込む理由にも、そうしたものが気になってしまっていたからというものがある。
「これは安全確認のため……これは安全確認のため……。決してストーキングではない」
うかうかしているとどんどんと引き離されそうになるので、追跡を開始した倫太郎は誰への言い訳かも分からないことを呟きながら林の中を移動して行く。
しかし。探索者で位置は見失うことはないものの、一向にスピードを緩めないクレアに追い付けない。
ランクがSSSとは言え、元々基礎のステータスが差ほどでもない倫太郎に化け物じみた運動能力があるわけではない。
もちろん上がったランクとレベル分の底上げはされているが、それでもいいとこ"着ぐるみの割には機動性が高い奴"レベルなのである。
差が開くまま、気付けばクレアらはもうすでに林を抜け出そうとしていた。
「全然追い付けないんだけど……ん?」
探索者に二人とは違う反応を感知した倫太郎。
その反応は全部で2つ。しかもそれは何の前触れもなく突如として現れた。
出現したポイントは丁度クレアとソラがいるその場所。嫌な予感しかしない。
そしてその予感はすぐ実感に変わる。
「なんだあれ!?」
上空を見上げる倫太郎の目に映るのは、直径20mはあろうかという巨大な氷塊。それがなぜか空中に浮かんでいる。
そして。嫌な予感と共に出現したその氷塊は、重力落下ではないスピードで真下に落下して轟音を響かせる。
その衝撃の余波はまだ離れた所にいる倫太郎の下へも丸々届く。
落下したそこは間違いなくクレラ達がいるポイント。
十割十分の厄介事がそこにはあることを確信しつつ、倫太郎は走るその足に力を込めて二人の下へ急ぐのだった。
「(……近くね?)」
それで見えているのかという超近距離で、ラビ太の体を視姦もとい視認(ガン見)をするクレア。
「表情筋がまるでない顔……バランスの悪い頭身……起毛のある肌……派手な体色……しかも人語まで話す……」
聞こえるか聞こえないかの声量でぼそぼそと呟くクレア。観察はそのままお構いなく続く。
自分の潔白をどうにか示すことが出来たと安堵したのも束の間、間髪入れずにこの状況になった倫太郎には当然困惑しかない。
下手に動くとまた警戒されてしまうかと思うと、身動きの取れないまま流れに身を任せる他ないのであった。
「なるほど……分かりました」
一人納得して一歩後ろに下がるクレア。倫太郎の緊張感も解ける。
「えっと、分かったって何が……?」
「あなたが見たこともない不可解な生き物だと分かりました」
「そ、そうですか」
「それと」
「それと?」
「あの至近距離で無防備な私に何かする気配が無かったので、一先ず敵意が無いことも確認しました」
「そんなこと確認してたんか……。俺に敵意とか悪意があったらそもそも救助してないでしょうに」
「それもそうですが、念には念をです」
クレアの朴訥と受け答えをするその姿には冗談も洒落っ気もない。彼女は至って本気の言動である。
まだ互いに様子見なところはあるものの、拳や刃ではなく言葉を交わせることは何よりも大きいことであった。
「ホントに何もする気はないから心配しないでほしい。というか、俺に何かしたら勝手に面倒ごとが起きるから穏便にいこう」
「こうして話が出来るのも驚きですが、まさか魔物から停戦の申し出をされるとはさらに驚きです」
「驚かれることなんだ……。そっかー。俺ってやっぱり魔物かー」
「それ以外には見えませんが?」
改めて突きつけられる現実に軽くショックを受ける倫太郎。
しかし。どうしようもない。どこからどう見ようとも人には決して見えない。見た目は100%人外なのである。
そもそもどこまで説明すべきか、どう説明するか測りかねる状況。
「自分は別世界から来た転移者で、魂の器として着ぐるみが肉体となり、女神様の恩恵で異常スキルを獲得し、化物怪物の巣窟でサバイバルをしてランクを爆上げして、そして今現在ここでトラブルを巻き起こしている」―――と正直に話したところで、そんな話を信じる酔狂な者はそう滅多にいない。
これからも付きまとうであろう『Who are you??」問題を考えると、倫太郎の心の中は虚しさでいっぱいになりそうであった。
「ん?」
肩を落とす倫太郎にトコトコと駆け寄って手を握る少女。上目遣いでニコッと微笑むその姿に不安や悩みなど一気に爆散する。
実に現金な男である。
「魔物を信頼するというのは土台難しい話ではあるのですが、なぜかソラが懐いているようなのでここはソラに免じてあなたを信じることにします」
「理由はなんであれ信じてもらえるなら何よりだよ。そっか。君はソラちゃんって言うのかぁ~。かわいいねぇ~。へへへ」
「……」カチャ
「え!?なんで武器構えるの!?」
「いえ。なにか不健全さを感じたので咄嗟に」
「いやいや!デレただけ!デレただけだから!」
ポーカーフェイスでありながらも蔑んだ眼でダガーを握るクレア。滲み出る変態性に危機察知が反応したのである。
刃越しのジト目はハッキリと怖い。
「以後、お気を付けください」
「……はい」
クレアの圧に屈服した倫太郎。ただの脅しとはいえ思わず正座である。
「さて。悠長にこんな事している場合ではないですね。そろそろ行かないと」
「え?いやまだ万全じゃないでしょ?ちゃんと体は休めんと」
「動けるようになってるだけで充分です。こんな所で長居はしてられません」
「何をそんなに急いでるの?」
「そこまでお話する義理はありません」
「いや、でもさ」
「自分たちの問題に他人―――他魔物を巻き込むつもりはありませんので」
「た、他魔物……」
聞き馴染みのないパワーワードに倫太郎は素でたじろぐ。
わざわざ言い直されたことで、自分がはっきり魔物として認知をされていることも思いの外メンタルに突き刺さる。
「本当に巻き込むつもりはないのです。ご容赦ください」
深々と一礼するクレア。あくまで独立独歩。頑なに「自分でどうにかする」という意思がひしひしと伝わって来る。
そこまでの確固たる意思を感じて、逆にクレアの事情が増々気になってくる倫太郎。
しかし。巧みな話術も狡猾な心理術も持ち合わせない倫太郎では、これ以上追及する術も度胸もない。
情けなくも手打ち止めである。
「ソラ。行きましょうか」
『……。……。』
クレアに手を引かれながら倫太郎の方をチラチラと振り返るソラ。その目はどこか不安げでもあり、悲しげでもあった。
本当に行ってしまった二人の方向を見ながら、倫太郎は一人その場に取り残される。
侘しさと無力感がじんわりと感情に染み入ろうとする中、倫太郎は腕を組んで考え込む仕草を取る。
その体勢で数十秒。倫太郎は一つ気持ちを抽出する。
「……うん。やっぱ放ってはおけんな」
お節介だと分かった上で探索者を発動する倫太郎。位置を捉えるともうすでに200メートル以上先に進んでいる。
スピードで考えても歩行ではなく走行しているのは明らかで、万全じゃない体に鞭を入れているクレアの姿が容易に目に浮かぶ。
巻き込むつもりが無いと何も語らなかったが、さすがの倫太郎でも二人が何かから逃げている事は想像できてしまう。
そもそも。二人の関係性もよく分からないところで、姉妹にも親子にも見えない年齢差である。シスターと少女という組み合わせで考えると孤児院のような所で繋がりがあるようにも考えられるが、あれだけ戦闘に長けたシスターは普通とは言えず少女には生活感がないくらい身なりがボロボロでもあった。
倫太郎が首を突っ込む理由にも、そうしたものが気になってしまっていたからというものがある。
「これは安全確認のため……これは安全確認のため……。決してストーキングではない」
うかうかしているとどんどんと引き離されそうになるので、追跡を開始した倫太郎は誰への言い訳かも分からないことを呟きながら林の中を移動して行く。
しかし。探索者で位置は見失うことはないものの、一向にスピードを緩めないクレアに追い付けない。
ランクがSSSとは言え、元々基礎のステータスが差ほどでもない倫太郎に化け物じみた運動能力があるわけではない。
もちろん上がったランクとレベル分の底上げはされているが、それでもいいとこ"着ぐるみの割には機動性が高い奴"レベルなのである。
差が開くまま、気付けばクレアらはもうすでに林を抜け出そうとしていた。
「全然追い付けないんだけど……ん?」
探索者に二人とは違う反応を感知した倫太郎。
その反応は全部で2つ。しかもそれは何の前触れもなく突如として現れた。
出現したポイントは丁度クレアとソラがいるその場所。嫌な予感しかしない。
そしてその予感はすぐ実感に変わる。
「なんだあれ!?」
上空を見上げる倫太郎の目に映るのは、直径20mはあろうかという巨大な氷塊。それがなぜか空中に浮かんでいる。
そして。嫌な予感と共に出現したその氷塊は、重力落下ではないスピードで真下に落下して轟音を響かせる。
その衝撃の余波はまだ離れた所にいる倫太郎の下へも丸々届く。
落下したそこは間違いなくクレラ達がいるポイント。
十割十分の厄介事がそこにはあることを確信しつつ、倫太郎は走るその足に力を込めて二人の下へ急ぐのだった。
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