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第一章 大樹の森
第三十一話 調査隊01 注文を承る
しおりを挟む「不足していた品はこれで補充できました」
「うむ……エヴァン、ワシは先に宿に戻る、ガードとの確認は頼んだぞ」
「はい、アイザック先生、ではレミは食料の手配を」
「はい、エヴァンさん、まずは10日ほどでよろしかったですよね」
大きな平たい帽子の2人、先生と呼ばれた灰色のあご髭をした老人、
その後に細身の男、小柄で大荷物を背負った男が続き店を出て行った。
「あ、ありがとうございました」
「さっきの人たちすごいお荷物だったね」
「うん、たくさんお買い上げいただいたよ、後で商品を届けなくちゃ、
お得意さんになってくれるといいなぁ…うふふ」
アンジェの言葉にレイチェルはとても嬉しそうな表情を浮かべて答える。
「へぇこの街の人なの?」
「ううん、今は中央の宿に泊まっているんだって、
しばらく大樹の森に滞在するみたいだから商品は多めに補充ないと」
狩りの誘いに来たのだけれど、レイチェルはしばらく店番で忙しそうだ。
「あ、私たちでお届け物のお手伝しようか?」
「そうだね、お店忙しそうだし」
「いいの?助かるよ、夕方さっきのお客様にお届けなんだけどお願いできる?」
「うん、まかせといて」 「わかった」
「予定通り出発は明日です、皆さんの準備はいかがですか?」
「あぁバッチリだと言いたいところだが、ひとり今この場にいなくてな……」
「いや、アイツはいつも準備なんてしないだろう」
「そうね ふふ……」
今日はアンジェと二人で森へ行くことに決めてお店を出ると、
先ほど見かけた細身の男がギルドから出て来た大男たちと話していた。
街の中央へと向かう彼らとすれ違う……
一人はグレーの混ざった黒髪の大男、デカくて頑強そうな男だ。
もう一人の男は濃い茶髪に無精ひげ、腰に差した長剣が目を引く。
最後は赤髪ロングの女性、長手袋とタイツ、艶っぽさを感じさせる服装、
身のこなしが軽やかで動きに無駄がない。
「ヌィ、さっきの人たち初めて見るハンターだよね」
「うん、なんか……きっと強いよあの人達」
「あらぁよくわかりましたねぇ、彼らはシルバーランクハンターです、
戦ってみたいでしょ?」
ユーリカが笑顔で話に割り込んで来た。
「ワイルドガーデンというパーティなんですけど、南では結構有名ですよ」
「うわぁ……シルバーランクかぁ……」
「何か忙しいみたいだったよ?残念残念……では狩りに行ってきます!」
アンジェは上級者のパーティに憧れの表情を見せているが、
俺はユーリカなら本当に模擬戦でも組みそうで気が気では無い、
さっさと森へ行こう……
▶▶|
「……なにか森の様子が変だよね?……いつもと違う」
アンジェも気づいたようだ、今日の森は静かすぎる……
「うん……獣たちがいない……」
そこは初心者向け狩場の少し先、俺たちがよく狩場にしている領域。
いつも鳥や小動物の鳴き声が聞えるのだが……今は静寂が森を包んでいる。
「……白い狼が出た後みたい……」
アンジェが俺の服の裾をぎゅっと掴む。
そうだ、動物たちは何かに怯えて隠れているんだ……
「どうする?危険かもしれない……引き返す?」
「……でも…このままじゃ……なにがあったのか…確かめて知らせないと…」
決心したアンジェの表情が変わる、俺は頷き……より深くへと足を進めた。
「魔獣……かな……」
そこで見つけたのは倒された木々、地面がむき出しになった地面、
圧倒的な暴力の痕だった。
そして更に森の奥へと続く抜け落ちた獣の体毛とまばらな血痕。
この先には危険が待っている……
だがここで引き返しては何の情報も得られない。
俺たちは慎重に警戒しつつ追跡を行うこととした。
「ねぇ、アンジェ……炎を吐く魔獣って存在するの?」
肉の焦げる匂いが漂う……この先には更なる惨劇が広がっているのだろう。
「サラマンダやキメラ……こんなところにドラゴンはないと思うけど……」
せめてドラゴンじゃありませんようにと祈りつつ追跡を続ける。
…見つけた…
大量に積まれた獣の奥から立ち上る煙、静かな森に咀嚼音が響く。
オレンジの体毛に黒い縞、太い尾を歓喜で揺らし、肉を貪る獣の後ろ姿。
…虎…
キメラや竜といった最悪の化物ではないものの、あれは炎を吐くのだろう。
ここは情報を持ち帰ることを優先して気づかれないうちに引き返すべきだ。
…だが、既に遅かった…
獣の金色の瞳が俺を睨み……足が竦む。
ヤバイ、ユーリカ並みの眼力だ……
次の瞬間、その金色の瞳は俺の目前で輝いた……
「あ…んぐっ…ぁああ…」
「お腹減ってるの? 遠慮しなくていいよ食べて食べて」
こんがり焼けた肉汁の滴る猪肉が俺の口に突っ込まれていた。
「あぁ獲物を独り占めしちゃったかぁ、ごめんね」
「獲物は速いもの勝ちだよ気にしないで」
「うん、他の獣も隠れてるだけで狩りつくされた訳じゃないし」
その獣……いや確かに彼女は虎だけど、魔獣ではなく人だった。
毛先の白いオレンジ色の髪に黒い縞、そこにやや丸みを帯びた獣の耳。
縞模様の太く長い尾、肘と膝から下は長毛で覆われ手袋とブーツのようだ。
小さな革製の下着のような上着にショートパンツ姿。
少し露出の多い恰好だが、それは健康的・野性的な美しさを魅せている。
「でもちょっと抱えきれないほど狩っちゃたからなぁ、
持ち帰れない分は仕方なくここでお腹に収めようと思ってたんだよ」
猪が4頭に鹿が3頭、それが既に調理されたモノを除いた獲物の数。
後どれだけ食べる気だったのだろう……
「あ、じゃぁ私たちも運ぶの手伝うよ、いいよねヌィ?」
「うん、お肉もご馳走になったし」
「いやぁ悪いなぁ助かるよ、えっとヌィに…」
「アンジェだよ」
「アンジェありがとう……わたしはティノ、ティノ・ビストート」
右手を差し出したティノと握手を交わし、ボードへ獲物を積み込んだ。
「これならここでティノに待っていて貰えば、もうひと往復でいいね」
「ん?」
首を傾げるティノは片手で猪2頭の脚を握って背負い、脇に鹿を抱えていた。
「アンジェ、往復の必要はないみたいだよ……」
「……う、うん」
「うわぁすごいよティノ、ねぇヌィ」
「素手かぁ」
「まぁ魔獣と比べたらこいつらなんてどうってことないからね」
アンジェを先頭に街への帰路を進む。
剣の傷も矢の痕も残っていない獲物はすべて素手で仕留めたモノらしい。
ティノは剣は使わずに、基本的に武器は自分の躰、拳と脚。
魔獣と戦うときでもバグナウという金属製の爪がついた格闘武器だそうだ。
「逆に皆が器用に長い棒を振り回せる方が不思議だよ」
「あ~それはちょっとわかるよ」
そう言われるとティノの戦闘スタイルは俺にも向いているかもしれない。
街に着いた頃にはティノとすっかり仲良くなっていた。
俺はティノに親近感が沸き、森育ちのアンジェも彼女と話があうようだ。
▶▶|
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