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第一章 大樹の森

第二十七話 特別な魔法

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「じゃぁもうちょっと飛ばすよ?しっかりつかまっててねっ」 
 今日の狩場は森ではなく、南東の草原エリアとその南の湿地エリアを目指す。

「わぁぁ」 「ひゃっ」
 大きい荷運びボードに乗せたアンジェとレイチェルを引き、俺は草原を走る。


「見て、あれがグラスランド?バイソンかな」
「うーん…まだ良く見えないけどたぶんそうだよ」
 獲物は牛、目的はレイチェルの革細工の腕をあげる為、
 そして牛革製のブーツを作ってもらう為だ。



『『Osedaniye /沈下/ケイブイン』』

 Moooooooowww…
 アンジェとレイチェルの同時に放った魔法によって轟く大きな地響き。
 地面が崩れて突然バイソンの姿が消えた。

 二人が魔法を発動するのに合わせて走り出していた俺はスピードを緩め、
 陥没した地面を覗き込むとバイソンは既に仕留められていた……魔法すげぇ。



「スワンプ?バッファローもさっきみたいに一発かな?」
 俺は獲物と2人を乗せたボードを引き、現在地から南の沼地を目指す。

「次は沼地だからさっきの魔法を使ったら沈んじゃうよ?」
「ふふ……そうだね」
 残念ながら次は同じ手は使えないらしい、
 道中作戦を練りながら進むとやがて湿地エリアの沼が見えてきた。
 街道を外れている為に足元が段々悪くなってきる。

 ボードを残し、俺たちは湿った地面に足を取られながら先へと進む。
 群れを何度か見送り、ようやくはぐれた一頭のバッファローを見つけた。



「じゃぁ……始めるね」
 レイチェルが弓を構える。
「「うん」」
 まずはレイチェルが矢を射って少しでも足場の良いこの場所へおびき出し、
 アンジェの魔法で突進の勢いを削いで俺が攻撃するという作戦。

 Moooooooowwwwww!!!
 レイチェルの放った矢が獲物の首筋に突き刺さる、
 その攻撃でこちらに気が付いたバッファローが声をあげて向かってきた。


「きゃっ……」
 すぐ後退するはずのレイチェルから小さいな悲鳴が声があがる、
 振り返ると沼に足を取られてバランスを崩し動けない彼女の姿があった。

「レッ… 『Osedaniye/沈下/ケイブイン』」
 更に気を取られたアンジェの魔法が遅れる…
…バッファローの突進する勢いは止まらない。

 俺がやるしかない、止められるか……いやなんとしても止めなくては……


「あぁぁぁぁぁぁああああっ!!!」
 躰を低く構え突進してくるバッファローの角を躱す……

「ぐはっっ……」

 だが角を躱しても突進の威力は途轍もない、
 肩が…首が…全身が痺れる様な衝撃を受ける。

「くっ……止まれぇ」
 バッファローの首にナイフを突き刺して吹き飛ばされのを防ぐが、
 沼地で足が滑り踏ん張りが効かない……

「うっううっ……」
 バッファローの勢いは衰えず、背後でもがくレイチェルの声が近づく……

「止まってぇっ!」
『Vody Strelyat'/水撃/ウォーターショット』
 アンジェの水撃がバッファローの顔面に直撃して大きな水飛沫をあげる。

 だがそれでも突進は止まらない。


「レイチェルッ手を握ってっ!」
「うぅっ……ごめん…なさい……逃げて」
 背後の二人の声が近づく……力を込めて踏ん張り全身が痺れる。


『くっ、止まれ、止まれ、止まれぇぇええええ!!』


…躰を伝う汗が冷たい…
…このまま全てを失うのではないかという恐怖に背筋が凍り付く…

…ピキピキとガラスの砕けるような高くて小さな音が連続し……耳に届いた…


 BM…moooo

 ┃┃

…まるで時間が停止したように感じた……

 吐いた息が白い。

 バッファローの首筋から流れる血液とアンジェの水撃で濡れた体表が…
…凍り付いていた。

  ▶

「よしっ、今だぁぁぁっ!!」
 渾身の力を籠め、勢いの弱まったバッファローの躰を浴びせ倒す。

 oooooowwwwww……
 湿った地面に倒れ込むバッファローの前脚の腱を素早く斬りつけ、

 Buuu…MMmmmoooooooowwwwww……
 その首筋に留めを刺した。


 少し間が開いてパシャンと水音が鳴る。
 それは安堵して膝をついた俺と泥沼から抜け出したレイチェルが立てた音。



「うぅ、ありがと…ごめんなさぃ…うっ」
「ううん、大丈夫だよレイチェル、皆無事だよ」
「皆無事で良かった……作戦がまずかったんだよ怖い思いさせてごめん」
 号泣するレイチェル、涙が頬を伝うアンジェ、
 二人の顔はぐちゃぐちゃに濡れているが俺はその無事な顔を見て安心した。

 ほっとして吐く息が白く変わる。


「アンジェの魔法だよね、助かったよ……」
 俺はバッファローの凍り付く体表をナイフでつつきながら言った。

「わたしじゃないよ、そんな魔法知らない」
 アンジェも傍に近づき、目をぱちくりとさせながら眺め始めた。
「レイチェル?」
 そう尋ねるもぶんぶん首を振るばかりのレイチェル。

 凍り付いた首と腱の傷口を見てアンジェは言った。
「氷の魔法なんて知らない……けど、これはヌィの力だと思う」


 ▶▶|

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