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第一章 大樹の森

第二十四話 トリプル

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「ふわぁ……お…はよぅユーリカ」
 空が薄っすらと明るみ始めた頃、俺は欠伸をしながらテントから這い出た。

「まだ寝ていても平気ですよ?」
「枕が違うから早く目が覚めちゃって」
 俺はそんないい訳をして見張りを交代し、焚火で湯を沸かしお茶を入れる。


「ヌィ……ん……居た……」
 アンジェが目をこすり足元が少しおぼつかない感じながらも起き出し、
 俺に軽くもたれかかる様にして隣に腰をおろす。

「まだ寝ていても平気だよ?」
 俺はユーリカと同じような台詞を言う。
「ぅん」
 アンジェは小さくと呟き、俺の肩で寝息を立て始めた。





「……アンジェ」
「……ん……」
「ごめん、ユーリカを呼んで来れるかな……」
 まだ薄暗い影は残るが鳥が囀り始めたころ、周囲に嫌な気配が漂い始めた。

 それは俺の知っている気配、だが2……いや3羽……数が多い。
 ナイフを鞘から抜き、焚火に薪をくべてから立ち上がる。


「アンジェさんに2人も起こす様に頼みましたが、気配は1つじゃないですね」
「うん、近くにいるのは3羽だよ」

「ん、私が攻めても残りにここが狙われる可能性があります……」
 ユーリカには珍しく顔を顰めて悩んでいる。
「それに藪の中、私が踏み込んで戦うにはちょっと窮屈な地形です」


「じゃぁ、おれが攻める、ユーリカがここを守って」
 俺がユーリカを見つめると
「……でわお願いします……皆が起きて集まったら」
 彼女は頷いてくれた。


 動きが緩慢ながらも武器を手にした皆が集まる、
 ユーリカは皆を背後に庇うように立つと長剣、短剣の2本を同時に構えた。

「お願いします」
 俺はユーリカの言葉に頷くと藪の中へ。

『必要なのは素早さ……速く…速く…速くっ!』
 脚にビリビリと電流が走る。

「先手必勝っ頭を潰すっ!」
 一番強い気配を目掛けて一気に跳んだ、低く構えた姿勢で牙を掻い潜り、
 垂直に構えたナイフが喉笛に突き刺さる。

 Kyeeeaaaahhh!

 左後方から急激に迫る気配に俺は躰を大きく捻り、
 ナイフに刺さったままの躰を盾代わりにぶつける。

『速くっ!』
 ナイフを持った右手がビリビリと痺れ、新たな獲物へと突き動かされる。
 それは獲物の右後ろ脚の腱を裂き、引き戻す動きで背後から胸を貫いた。

 Gyyyeeerrrrrr!

 叫ぶような鳴き声、残った1羽が俺から離れ、残る皆を標的に定め跳んだ。
 逃がすかっ、俺も続いて藪を飛び出し最後の獲物の姿を捉えた。


 だがソイツは既に切歯が折られ、首と胴とが分断されていた。


「はぁ……次の講習までに新しい野営地を探さなくていけませんねぇ……」
 ユーリカは剣を収めて肩を落とす。
 ここから少し離れているが、先ほど襲ってきた魔獣と似た気配をまだ感じる、
 どうやらこの泉周辺にはボーパルバニーが繁殖してしまったようだった。


「ヌィ、平気?怪我しなかった?」
 アンジェは心配そうな顔で俺に怪我がないかを確認し、

「むぅ……3羽もいたなら私にも戦わせてくれてもよかったのに」
 ブレンダは自分も戦いたかったと残念そうにし、

「あっという間に2羽も仕留めちゃうなんてすごいよっ」
 オフィーリアは純粋に俺が兎を狩ったことを褒めて喜んでくれた。

 三者三様それぞれ異なる反応だ。
 あれ?三者?


「…………すぅ……すぅ……」
 ハンナは大木槌に寄り掛かり寝息を立てていた。
 この神経、きっと彼女は大物になるに違いない。


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