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第一章 大樹の森

第二十話 部屋探し

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「さぁ、ヌィ出かけよう」
 私は元気良く声を掛ける、今日から私たちのハンター生活が始まります。


「まずは……フレアから聞いた情報だ」
 ヌィと並んで街を歩く、着いたのは大きな4階建ての立派な石造りの建物。
 そう、今日の私たちの目的はこの街で暮らす新しいお部屋を探すこと。


「いらっしゃいませ、こちらにお掛けになってお待ちください」
 建物に入ると黒いスーツの人に案内されてふかふかのソファーに座らされた。

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「アンジェとヌィですっ」
「…畏まりました少々お待ちくださいませ」
 どんなお部屋かな、これからの暮らしを想像すると待っている時間も楽しい。

「申し訳ございません、お伺いしたお名前ではご予約されていないようですが……」
 ご予約ってなんのことだろう、私たちはお部屋を探しに来たのに。


「あ…すみません、予約はしていないんです、フレア…友人から話を聞いて、
 ちょっと見て…いや、一度拝見させていただきたくて………あの…」
 ヌィがなにか焦てた様子で黒いスーツの人とお話をする、大丈夫かな?

「フレア様というとロッシ様の甥子様でしょうか、
 なるほどこちらも早とちりをいたしまして大変申し訳ございませんでした、
 ごゆっくりと御覧くださいませ」
「あ、ありがとうございます」
 ヌィがお辞儀したので私も続けてお辞儀をする。
 まだ、ヌィはきょろきょろとして落ち着かないみたい……大丈夫かな。



「はぁぁぁ……緊張した……」
「ヌィどうしたの?」
 宿から外に出るとヌィは大きく息をついてふにゃぁっとなった。

「えっと……ここはなんか落ち着かなくて……違う宿を探さない?」
「あーすごく広かったもんねぇ、いいよ他のところにしよ」
 ヌィは広いお部屋は苦手なのかなぁ、覚えておこう。


「じゃぁ、レイチェルが教えてくれた宿に行ってみようか」
 今度はギルドから北の方向、牧場の近く、木造の2階建ての建物に着いた。

「と ら の ね ど こ……ここだっ」
 ヌィは簡単な字はもう読めるようになってきた。
 訓練だけでも大変だったのに頑張り屋さんだなと思う。


「おやぁ、いらっしゃいかわいいお客さんだねぇ」
「「こんにちは」」
 小さなお婆さんに挨拶をする、日向ぼっこを邪魔しちゃったかな。

 宿の1階は食事をする場所、このくらいの広さならヌィも平気みたい。

「えっと宿を取りたいんですけど……値段を教えて欲しいのと、
 出来ればお部屋を見せてもらうことって出来ますか?」
「はい、ちょっと持っとくれ……おやぁありがとうね」
 ヌィが伝えるとイスから立ち上がろうとするお婆さん。
 転ばないように手をにぎるとにっこり笑顔でお礼を言われた。


「大部屋はちょいと広すぎかね……」
 初めに見たのは1階のお部屋、大きなベッドが6つもある。
 
「うーん広すぎてこれだとヌィが落ち着けないかな」
 それにこんなに広いお部屋だとお掃除も大変かもしれない。
「貴方達なら二人で一人部屋でも良さそうね、
 2階の一番奥の部屋を見ておいで、ほらこれが鍵だよ」
 お婆さんは階段は少し大変なのでヌィと2人で2階へ上がった。


「かわいい部屋だね、ここなら落ち着く?」
 部屋には大きいベッドが1つ、それと小さなテーブルとイス。
 窓から外を覗くと遠くにのんびりくつろぐ牛と緑の風景が見える。
 ちょっと気に入ったかも。

「うん、でも同じ部屋は…まぁいいとしても……ベッドが一つかぁ…」
 迷ってるみたいだけど、ヌィは寝相も悪くないし大きさは十分だと思う。

「こんなに大きいから2人でも平気だよ、ここに決めちゃお」
 何か少し考えた後、ヌィも納得したみたい。

「えっと2階の部屋が良さそうなんですけどいくらですか?」
「おやそれはよかった、食事は別で1泊15、5泊で70マナでどうだい?」

「泊まります、とりあえず5泊かなヌィいいよね?」
 ヌィはこくりと頷く、ここ[虎の寝床]が私たちの新しいお家になった。


 ▶▶|


「アンジェ…もう少し東へ行くと…茂みに数羽の鳥、兎の巣も近くにある」
「うん…じゃぁまずは鳥からだね」
 森に着くとヌィはすぐに獲物を見つけた。
 狙うのは鳥、宿のお婆さんに晩御飯で使いたいからと頼まれたから。

 kyuhhh……  Kyeehhh!! Kyeehhh!!

「やったっアンジェ、これで依頼は達成だよ」
 ヌィは嬉しそうに獲物を掴んで戻って来た。
「うん、うまくいったねっ」
 2人きりの狩りで少し緊張したけれど、ヌィはすぐに獲物を見つけてくれた。
 森の獲物もそうだし、私が気づかないことをヌィは見つけて教えてくれる。
 2人一緒ならこれからハンターとしてうまくやっていけそう。

 ▶▶|


「今日は宿を探すのでお休みするものだと思っていたのですが…
 もぉヌィ君ったらしょうがないですねぇ特別ですよ、ふふふ…」

 あのあと狩った兎と薬草を買い取って貰う為にギルドに寄ったら、
 ヌィはユーリカにつかまっちゃった。

「ごめんねアンジェ……先に戻って鳥をお婆さんに渡してもらえるかな……」
「ヌィ……無理しないでね…」
 ちょっと心配だけど、ヌィならきっと大丈夫、昨日までも平気だったもの。


 ▶▶|


「アンジェ…ただいまぁ」
 ノックのあと、お部屋の扉を開けたのはへとへとのヌィ。
「あ、おかえりヌィ、遅かったね大丈夫?ごはん食べられる?」
 ちょっと遅かったので心配だった、それに一人でいると寂しくなる。
 でもヌィが帰って来てくれた途端、そんな気持ちはすぐに吹き飛んじゃった。


「立派な鳥を2羽も仕入れられて助かったよ、はいこれはサービス」
 宿屋の女将さんが黒パンとシチューの夕食にミルクを付けてくれた。
 ヌィはご飯をおいしそうに食べている、この宿にして正解だったみたい。



「アンジェ、ここはどう?何か不都合は無い?」
「ごはんは美味しいし、お婆さんも女将さんもいい人で私は気に入ったよ」
 ベッドに横になってヌィとおしゃべり、ぇへへ……私は一人じゃない。

「そう…なら……よかっ…た……」
 ヌィはすぐに寝ちゃった、やっぱり疲れてたみたい。
 もっとお話しはしたかったけど、こうして隣で寝息が聞えると寂しくない。
 こんな暮らしがこれからも続いたら、私はきっと幸せです。


 ▶▶|

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