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第一章 大樹の森
第十七話 蛇を画きて足を添う
しおりを挟む「狩りの最中だから追跡しなかったけど、大蛇が這ったみたいな跡があってね」
それは、昼食を摂りながらのパーティメンバーと何気ない会話。
「でも足跡があったからきっと大きなトカ」「フォレストリザーードッ!!」
フォークを握ったまま立ち上がり大きな声をあげたのはレイチェル。
普段は聞いたことのないその大声に皆は背筋がビクリとさせて驚いた。
「ご、ごめんなさい……ぇっと…」
数秒の沈黙が流れ、レイチェルが冷静さを取り戻す。
これほど興奮させ大声を出させるフォレストリザードとは何なのだろう…
「性格はやや獰猛ですけど、その肉は鳥肉みたいで買取も同じくらいです、
革は防具に使われるほど頑丈ではありませんがベルトやバッグに向いていて」
おぉ今日のレイチェルはよくしゃべる。
「えっと…あまり市場に出回っていなくて…でも…初級の革細工に丁度良くて」
だが急にもじもじして下を向く。
「レイチェルはその蜥蜴の革がほしいの?」
アンジェが助け舟の言葉を掛ける。
「は、はいっ、でも皆は必要ないでしょうし、もっといい獲物もいるし…」
なるほど、その革が欲しいけれど皆に遠慮して頼めないという訳か。
「なら明日の狩りで狙おう、爬虫類型との戦闘経験が積めるいい機会だ」
「だね、おれも楽しみだな、きっと見つけるよ」
「あ、ありがとう、みんなっ、こ、この御恩は必ず……」
レイチェルが大げさな言葉でお礼を告げ、明日の狩りの予定が決まった。
▶▶|
「見つけた……相手は1匹、あの倒木の洞に潜んでいるんだけど」
「出て来るかな?ちょっと戦い辛そうな場所だね」
痕跡を追うと獲物はあっさりと見つけたのだが、
その場所は狩りに向いているとは言い難く、アンジェも困惑を浮かべる。
剣を振るうには倒木が邪魔をし、暗く視界も悪く、そのうえ足場も悪い。
「燻りだすか……」
少しでも有利な場所へ獲物をおびき出す、フレアの提案で作戦が決まった。
枯草やヨモギのような植物を集め、燃焼が広がらないよう周囲の草木を刈る。
足場の確保に余分な草木を退かし、日を遮る枝葉も落とす。
その準備は狩りというには地味な作業だったが、なんとか準備は整った。
「じゃぁ、はじめるね…」
『Ogon'/火/ファイア』 『Veter/風/ウインド』
アンジェの魔法で枯草に火が付き、煙が洞へと流れ込む。
Grrrrrrrrrrrrrr…
低い唸り声をあげ、重そうな瞼でこちらを睨みつけながら獲物は現れた。
ワニ位を想像していたが二回りは大きい。姿はコモドオオトカゲに近いだろう。
体表は苔や植物で覆われていて背景の森に溶け込み、目視で見つけるのは困難。
市場に出回らず希少なのはその所為もあるのだろう。
Grrrrrrrrrrrrrr…
唸る蜥蜴に俺とフレアは木剣を振るう、それは出来るだけ革を傷つけない為。
狙うポイントも躰を避けて足元を狙う、普段の狩りとは戦い方が大分異なる。
一言で言うと地味な戦いだ。
そんなちまちまと攻撃をする俺たちにイラついたのか、
蜥蜴は尻尾を地面に打ち付けて大きな口を開き牙を剝き出しにした。
Gyyyyyyr!
「いまっ!」
レイチェルの放ったのはちょっと不格好な太い軸の矢。
それがが蜥蜴の咥内に的中し、蜥蜴はたまらずのたうち回る。
「いいぞレイチェル、フレア、アンジェお願い!」
「ああ」 「うん」
『Vody/水/ウォータ』 『Vody/水/ウォータ』
俺の合図で2人の魔法が同時に発動、トカゲの周りに水球が生じる。
『『Vody Tyur'ma/水獄/ウォータープリズン』』
「うはぁ……魔法ってすごいな……」
その圧倒的な威力を目の当たりにして思わず声が零れた。
二人の放った水球が混ざり大きく膨らみ蜥蜴の巨体を飲み込む。
慣れない水中で蜥蜴はもがき、矢の所為で閉じられない口に水が流れ込む。
既に蜥蜴には水の牢獄から逃れる術はなかった。
▶▶|
今回の獲物は丸ごとレイチェルへのプレゼントとした。
レイチェルは遠慮しながらもその喜びは隠せていない。
「遠慮しないでよ、私レイチェルがどんな物作るのか楽しみなんだから」
「あっ、じゃぁ……いらないかもだけど……練習で作った物を貰ってください」
「それならおれは腰につける小さなバッグを頼んでもいい?」
「バッグですね、たぶん作れ…作りますっ!どれくらいのですか?」
「小さな薬瓶を入れておけるくらい、ベルトに付けられるのがいいかな」
それは毒蛇の件より、用心のため毒消を常備したいと考えての要望。
皆もそれが気に入ったようで揃って同じモノを頼んだ。
一緒に講習を受けた記念として、御揃いの装備もちょっといいかもしれない。
「お礼を貰いすぎかなぁ、また蜥蜴を見つけたらレイチェルに優先して譲るよ」
「嬉しい!少し時間は掛かると思うけど……カッコイイの作ります!」
レイチェルは腕が上がったら手作り商品を店先に並べるのが夢だという。
それを手助けするくらい、きっと俺たちにもできる。
そんな明日を思い浮かべると、なんだかほっこり温かい気分になった。
▶▶|
「明日でいよいよ講習も最後かぁ…」
「うん、もう一息だよっ、がんばろうね」
俺の呟きにアンジェが小さな握りこぶしを振って答える。
一緒に摂る夕食は今日で最後、そんな思いに皆が今後のことを語りだした。
「戻ったらまた一人で鍛錬の日々、ここでの皆と過ごす時間は楽しかったな」
フレアはなんとかいう南にある街へと帰るという。
最初は異世界の貴族という先入観からうまく付き合えるか不安だったが、
蓋を開けてみればいい奴だった、別れるのは少し寂しく感じる。
「私はお店番をしながら、時々は森へ狩りに出るようになると思います」
レイチェルは道具屋へ顔を出せばすぐに会えるだろう。
都合が合えば時々一緒に狩りに出るのもいいかもしれない。
「私はフリーなんだけどなぁ、しばらく無茶は出来ないんだよねぇ」
背中の柔らかい感触と共に伝えて来たのは背後から覗き込むオフィーリアだ。
すっかり元気な彼女だが、過敏に心配する家族の声という後遺症が残った。
「私は資格を取っても自由気ままな暮らしという訳にはいかないわね」
「俺ももっと力も付けたいが、やはり鍛冶の修行が優先だな……」
皆やりたいことはそれぞれだが、進む道に多少の不安があるのは同じようだ。
「ガレットは衛兵になるんだったな?」
フレアがしんみりとした雰囲気で尋ねる。
「ああ、俺、この講習が終わったら……」
「ガ、ガレット危ないっ!!」
「「なんだヌィ急に!?」」
会話を中断されて驚く二人、いや余計な一言を言いそうだったから。
「ふぅ……おれが停めなかったら命が危ないところだったよ」
「「なんでだよ!?」」
その後も何度か俺は活躍し、状況の理解できない二人は困惑顔を浮かべた。
▶▶|
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